俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 理子といい感じの雰囲気になったらレキがいました。綺麗な湖で璃璃神がレキに憑依しました。


第25話 レキに襲われました

 ​

  レキは蒼い光を灯している瞳をこちらに向け、殺し合いをしようと言ってきた。しかも・・・・・璃璃神とか言ったか?

 

「あの、レキさん? どういうことで・・・・・」

 

「今の私はレキではありません。璃璃神です」

 

 レキ──璃璃神は強く言い放つと、肩に下げているドラグノフに銃剣を着装させ始めた。

 ・・・・・いや待て。殺し合いはしたくないしやりたくもない。第一、神様が銃を扱えるなんて聞いたことないぞ。

 

「こう見えて私は銃の扱いに長けているんですよ? さて、始めましょうか」

 

「待て待て待て! なんで殺し合いなんてしなくちゃいけないんだ⁉︎ 」

 

「それは貴方達の実力があのバカ妹──瑠瑠神と対等に渡り合えるかどうか確かめるためです。貴方達がここに来る途中で吹雪に見舞われたのも、私が仕組んだことです」

 

 この世界の神様はなんで俺にばっか冷たいんだ。気候的な意味でも、態度的な意味でもだ!

 

「瑠瑠神でも神様だろ? お前は俺が神に勝てるとでも思ってるのか? 」

 

「いえ、まったく」

 

 即答かよ。いくら何でも酷い。でも、璃璃神が言ってることが矛盾しているような・・・・・瑠瑠神に勝てるかどうか確かめるためにこの理不尽な殺し合いをさせられそうになってるのに、俺が瑠瑠神に勝てる見込みは無いと言っている。頭でもおかしくなったんじゃないのか?

 

「貴方、心の中で思ってることが自分の死期を早めていることに気づかないのですか? 」

 

「お前も心よめるの⁉︎ なら俺の言いたい事、分かるだろ? あと銃口は俺じゃなくて理子にでも向けてくれ」

 

 理子はドスの利いた声で「おい」と言うと、脇腹を捻り上げるようにつねってきた。痛いです。

 

「ここで貴方が私に認めさせることができるならば、私は貴方に力を貸すわ。憑依という形でね」

 

「憑依って・・・・・瑠瑠神に勝てるほどの力はあるのか? 」

 

「今はないけど、あのバカが貴方を自分の世界に取り込むくらいの力を取り戻す辺り──二月頃には完全回復してるわ」

 

「ギリギリじゃねえか」

 

 もうあんな世界に取り込まれたくない。あの時受けた痛みも、血が抜けて死が迫ってくる恐怖も、まだ鮮明に覚えている。取り込まれる前に予兆みたいなものはないのか?

 

「予兆ねぇ・・・・・あるにはあるけど、それは私に勝つことができたら教えてあげます」

 

「どうしても・・・・・殺し合いは避けられないってわけか? 」

 

「そういう事になるわ。ルールは・・・・・そうね。これから貴方を合計五回襲う。もし貴方が一度でも私の攻撃を完全に無効化し、なおかつ反撃して私に負けを認めさせたら、貴方の勝ちということにしましょう」

 

「なんで五回なんだ? 」

 

「その時が来れば分かります。あと、理子さんは手助けしても構いませんよ。殺しもしません」

 

 璃璃神の言葉を聞いて少し安心した。ここでもし死ぬとしたら理子まで巻き込みたくないからな。

 

「あと一つ、超能力の使用は禁止です」

 

「はっ!? なんで? 」

 

「そんなものに頼っていたら瑠瑠神を倒すことなんて不可能。さあ、始めますよ」

 

 レキ(璃璃神)はそう言うと、新雪が降り積もっている地面にドラグノフを置き、ごそごそと腰の辺りに手を回して何かを探し始めた。何をやってるのか皆目見当がつかない。

 

「──ッ⁉︎ キョー君避けて! 」

 

 静かに璃璃神の話を聞いていた理子が突然大声をだした。俺はその声に反応し、咄嗟にからレキ(璃璃神)遠ざかるようバックステップをする──前に、レキ(璃璃神)は腰から何かを俺と理子の前に軽く投げてきた。

 

(──XM84(スタングレネード)!? まずいッ! )

 

 俺は今度こそバックステップをしながら、左腕で両目を庇い、右腕は腰に下げている雪月花の柄に手を伸ばす。理子はちゃっかり俺の後ろに素早く回り込んだ。

 

「一回目成功」

 

 璃璃神はそう呟くと、憑依元であるレキからは想像もつかない速さで俺に近寄り、いつの間にか手にしていたドラグノフを軽々と横に薙ぐ。だが俺のバックステップが功を奏したのか、ドラグノフに着装されている銃剣は右腕のカフスボタンを二つ破壊するだけだった。

 そして肝心のXM84(スタングレネード)は、眩い光と耳をつんざく爆音を放出することなく静かに地面の新雪に落下する。

 

「まさか・・・・・不発か? 」

 

()()()()()()()()()。中には何も入っていませんから」

 

 やられた。中身だけ抜いていたのか! 俺がそれに引っかかる事を予測して。わざと理子に気づかせることでさらに騙しやすくしたってことだな。

 俺を盾にしていた理子は、大きく舌打ちをすると俺の耳に顔を寄せてきた。

 

「理子が時間を稼ぐから、キョー君はその間に逃げて」

 

「はい? お前を置いて逃げるなんて出来るわけないだろ。アイツが殺さないって言ったのも嘘かもしれん」

 

「大丈夫。もしここで理子を殺したら憑依元のレキュが武偵三倍刑で死刑になる。璃璃神だってレキュほどの天才を失いたくはないでしょ。それに──キョー君の役に立てる絶好のシチュエーションだからね」

 

「なるほど・・・・・任せたぞ」

 

「うー! ラジャー! 」

 

 理子は俺の前に回り込むと、腰のホルスターから二丁のワルサーP99を取り出し、両腕を突き出すようにして構えた。その背中からは自らの使命を果たすという覚悟が滲み出ている。

 

「キョー君、今! 」

 

「おうよ! 」

 

 俺は理子に背中を預け、新雪に足をとられながらも木々の間を縫うようにして駆け出す。それと同時に理子のワルサーP99の銃声が鳴り渡り始めた。なんか・・・・・普通は逆じゃないか? こういうの。

 

『私の絶対半径(キリングレンジ)は2201。いくら逃げても無駄だと思うけど』

 

 突如、璃璃神の声が脳内に直接入ってきた。無視・・・・・出来ない事言ってたよな⁉︎ 2201ってレキの絶対半径(キリングレンジ)──確実に獲物を仕留められる距離​──が2051だろ・・・・・なんで150も上がってるんですかかね? もうドラグノフで狙うべき距離ではないと思うんですが!

 それにしても、なんでアイツの声が脳内に入ってきたんだ? ​──まさか、神弾から語りかけてるのか! 確か色金は、『一にして全、全にして一』だからな。

 

「なんでそんな余裕なんだよっ」

 

『もう理子さんは倒してしまったし、あとは貴方を四回襲うだけ』

 

「秒殺か・・・・・殺してないよな? 」

 

『気絶させただけよ。それより、自分の心配をしたほうがいいんじゃないかしら』

 

 理子がそんなにも早くやられた事に驚愕しつつも、病みあがりの体に鞭を打って走り続ける。強襲科の座学で習った対狙撃戦術(アンチスナイプ・タクティクス)通りに木々をうまく利用しながら不規則な動きをすれば​──

 

「私から逃げ切れる、なんて思っているのかしら」

 

 木にぶら下がるようにして俺の目の前にいきなり現れたレキ(璃璃神)はドラグノフに着装している銃剣を突きつけてきた。

 理子を気絶させてから俺の進行方向に待ち伏せとか、早すぎるだろ! 全然気配も感じなかった!

 

「甘いわね。その程度かしら? 」

 

 いつも無表情を貫き、ロボットレキとあだ名されているコイツが今は挑戦的な笑みを浮かべている。

 

「どうだろうね! 」

 

 俺は両袖のダガーを展開させ銃剣を横に弾く。ドラグノフの銃口が俺から外れ、その隙に内側へ飛び込む。こうすれば銃剣も使えない!

 だが璃璃神はドラグノフを空中に置くように捨てると、左手の袖から仕込みナイフを素早く取り出した。蒼く光るソレを逆手に持ち、俺の目を抉りとろうと迫ってくる。

 

「うぐっ!? 」

 

 目に刺さる直前で何とか璃璃神の腕を抑えた。レキの細腕からありえないほどの力が俺の腕に伝わってくる。

 石のように重く、璃璃神から発せられる殺気は普段のレキからは想像がつかないほどだ。

 

「二回目成功」

 

 璃璃はボソッと呟くと、木に体を固定している両足を外し、そのまま体操選手のようにキレイな着地を決めた。

 俺は片手でナイフを叩き落とし、そのまま寝技に持ち込むために璃璃神の手を引く。押し倒して手足を拘束すればなにも出来ないはずだ。

 

「思っていることが私に筒抜けという事をお忘れなく」

 

 璃璃神は地面に敷き詰められている新雪を片足で蹴るようにすくい上げる。そして一瞬だけ視界が塞がれ​​──

 

「カハッ!? 」

 

 ​──脇腹に鋭い衝撃が走った。これはアリアに蹴られた時よりも数倍痛い。憑依元が非力でもこんなに力がだせるのか!?

 璃璃神は俺の胸元に飛び込むと、俺の左足を絡めとり押し倒そうと体重をかけてくる。踏ん張ろうとするも新雪の下に埋まっていた凍っている雪に右足を滑らせてしまい・・・・・そのまま冷たい雪の上に俺が倒されてしまった。璃璃神は俺が起き上がれないように腰に座り込み、ナイフを突きつけてくる。

 

「なんで攻撃してこないのですか? 」

 

「攻撃したらお前の​─​─レキの親友のアリアに殺されるからな」

 

「アリア・・・・・もしかして、神崎・H・アリアのことですか? 」

 

「・・・・・なんで知ってるんだ」

 

「直接本人から聞いてください」

 

 璃璃神はそう言い放つと防弾制服の胸の第二ボタンを留め金ごと引きちぎるようにして盗った。ボタン一つでも結構高いんだぞ・・・・・

 璃璃神はその場で立ち上がると、異様に軽い動きで太い木に飛び移った。

 

「さあ、あと二回しか猶予がありませんよ」

 

「くそッ! 」

 

 俺は再び木々の間を縫うように逃げる。接近戦では勝てない​──璃璃神の足運びと地形を利用した戦法からそれが思い知らされた。強襲科が接近戦で狙撃科に負けるなんて最大の屈辱だな。

 

『さて、次はどこに行くのですか? 』

 

 追い討ちをかけるように脳内に声が響く。ハンターに狙われている獲物の気持ちがよく分かる。どこから襲ってくるか分からないからただ逃げるしかないからな。

 ​──あと二回、その意味を必死に考える。そもそも、あと二回しか猶予がないってことは三回目の襲撃で俺は殺されるってことだ。

 

『では、そろそろ動き出しますね』

 

 璃璃神が小さく笑った。

 追いつかれる前に早く考えろ! 足と脳を働かせろ! 久しぶりの運動で喉の奥が痺れるように痛いが、それでも考えて答えを見つけなきゃ死ぬ!

 

『うーん、やはりこの体は不自由ですね。もっと筋力があれば楽に撃ち抜けるのですが・・・・・』

 

 撃ち抜く? どこを? あと二回撃ち抜いても俺が生きている場所は・・・・・どこだ。ボタンも三つ盗られて​──ボタンか!? いや、ボタンだったら三回撃ち抜く必要があるはず。残りのボタンは胸の第一ボタンと左腕の二つのカフスボタンの三つだけだ。

 

『では、いきます』

 

 璃璃神の声と共に一発の銃声が鳴り響き・・・・・左腕が痺れるような衝撃が襲った。顔をしかめつつ、被弾した所を確認する。

 

(装甲貫通弾(アーマーピアス)だと!? )

 

 左腕につけてあったカフスボタンが二つとも破壊されていた。その部分の防弾制服も表面が薄く切り裂かれ、中の素材が見えてしまっている。いくら防弾制服とはいえ、装甲貫通弾を防ぐことは絶対に無理だ。

 それに、アイツは不規則なリズムで逃げている俺の、しかも揺れている防弾制服の二つのカフスボタンが重なる瞬間を狙って撃った。そうでなきゃ一発で二つのカフスボタンを破壊するなんて無理だ。

 

『あと一回しか猶予がありませんね』

 

「チートすぎるだろ! 」

 

『元々のスペックが違うんです。それに、これぐらいでチートなんて言わないでください』

 

 あと胸の第一ボタンだけだ。どこに逃げる? どこならアイツの攻撃を無効化出来る? 俺の位置と考えは神弾を通じて筒抜けだ。超能力は使用出来ず、馴れない雪の上での戦闘で近接戦闘も負ける。やはりM93Rを使うしかないのか?

 ・・・・・いや、撃つ場所を知られたら当たらないだろう。

 

『では、最後のボタンをもらいます』

 

 どこか遠くからドラグノフの銃声が二回聞こえた。

 命を狙う死神となって放たれた二発の弾丸は​───胸の第一ボタンを抉りとることは無く、視界いっぱいに広がっている木々のどれかに着弾した音が響いた。

 着弾する前に何本かの木を掠めたのか、所々抉れている箇所が見られる。

 

(絶対半径(キリングレンジ)が2201っていうのも俺を動揺させるための嘘​か? )

 

 抉れている場所を追っていけば着弾地点が分かるが今はそんな暇はない。これなら好都合だ。

 俺はさらにスピードをあげ、璃璃神がいる場所に背を向けるように逃げる。背を向ければ第一ボタンなんて撃ち抜けないだろ!

 

『現実というものを見せてあげます』

 

 璃璃神は小さく笑う。そして再びドラグノフの銃声が響いた。今度は一発だけだ。当たるはずが・・・・・

 

 ​『四回目成功』

 

 その時、金属と金属がぶつかりあった音が二回鳴った。直後、バットで殴られたような痛みが胸と腹の中間辺りに走り抜ける。

 

(なに・・・・・が・・・・・ッ)

 

 とっさにそこを押さえ痛みをこらえていると──妙な違和感を感じた。そしてその違和感の正体はすぐに分かった。

 

(第一ボタンがない!? )

 

 痛みを堪えながら第一ボタンを探すと、俺から少し離れた場所に転がっていた。目を凝らすと歪な形になっているのが分かる。そして​──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『二重跳弾射撃です。先ほど撃ち込んだ弾に跳弾させました。今もその弾は木の表面にめり込んでいるはずです』

 

 二重跳弾・・・・・だと!? そんな超高等技術も出来るのか⁉︎

 

『そんなに驚くほどでもないかと』

 

 木の中に弾が入ってしまったら跳弾させることは不可能だ。だから・・・・・わざと他の木を掠めるようにして撃ったのか! 弾がちょうど目的の木の表面で止まることを計算して。

 

「化け物かよ! くそ! 」

 

『乙女に対して失礼ですよ』

 

「悪魔的な計算で二重跳弾射撃をする乙女がいるわけないだろ」

 

『それよりもいいんですか? そこで立ち止まっていたら脳漿をぶち撒ける事になりますよ』

 

「──いいわけない! 」

 

 俺は再び走り出す。もうここがどこなのかすら分からない。だが死ぬわけにはいかない。こんな所で死んだら今までの苦労が報われないだろ!

 足腰が震えてきた。多分、寒さと疲れだ。それでも走り続ける。

 

『諦める覚悟はできましたか? 』

 

「この世でまだやり残したことがいっぱいあるからまだ死なねえよ! 」

 

 吐き捨てるように言い放つ。正直勝てる算段などない。これが実戦なら既に四回殺されている事になる。それでも俺は諦めたくない。

 

(武偵憲章十条、諦めるな。武偵は決して諦めるな、だ! )

 

 必死に走り続けていると、いつの間にか視界が開けた場所──理子と別れた場所に戻っていた。9ミリ弾の薬莢があちこちに落ちている。理子が俺のために戦ってくれた証だ。肝心の理子は少し離れた場所で寝かされていた。

 

「理子! 」

 

 気絶させただけというがそれでも心配だ。俺は理子の元に駆け寄り目立った外傷が無いか確認する。どうやって気絶させたのか分からないが、特に問題はなかった。一安心だな。

 

『戻ってきましたね』

 

 振り向くとドラグノフを構えた璃璃神がすぐ近くに立っていた。首元に銃剣を突きつけられ身動き一つ取れない状況だ。

 

「はぁ。憑依元が非力なのに、なんでそんな力が出せる? それにあの装甲貫通弾に跳弾させたのも、弾の変形も計算に入れてたのか? 」

 

「非力なのは私の力を流し込めば解決できますし、あの装甲貫通弾には私自身──璃璃色金を被せてあります。あんな脆い木を何本も貫通させたところで変形なんてしません」

 

「・・・・・どこまでもチートだな」

 

 俺は最後の悪あがきと言わんばかりに雪月花に手を伸ばす。銃剣の切先が少し押し込まれ、首から自分の温かい血が落ちていくのが感じ取れた。これ以上動くなって事だろう。

 

「残念です。結局そこの理子さんは一瞬で終わってしまいましたし、貴方も少しはやるかと思いましたが」

 

「しょうがないだろ。神様相手に生身の人間が勝てるわけない。ましてやレキに憑依してるんだ。仲間を傷つけることは絶対にできない」

 

「そうですか。では、ここでお別れですね」

 

 璃璃神はトリガーガードにかけていた指をトリガーにゆっくりとかけた。このまま撃たれたら顔面どころか頭が持っていかれそうだ。

 

「次の転生先はもっと平和な所を選んでください」

 

「転生ねえ。出来ればもう二度としたくない」

 

「最後に言い残すことはありますか? 」

 

「そうだな・・・・・」

 

 俺はすばやく雪月花の柄を握る。そのまま抜刀しながら、最後の言葉を言い放った。

 

「愛してるぜ! ハニー! 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も愛してるよ! ダーリン! 」

 

 直後、俺と璃璃神の間にXM84がどこからか投げ込まれた。

 

「なっ⁉︎ 」

 

「行って! キョー君! 」

 

 璃璃神は反射的に左手で両目を覆う。

 気絶していたはずの理子の声は俺の背中を押すのには十分すぎるほどだ。そして理子の言葉から、それが璃璃神が最初に攻撃してきた時にフェイクで使ったXM84だと瞬時に把握できた。

 

「ウルぁ! 」

 

 雪月花を納刀し、右の手のひらでドラグノフの銃口を叩くように逸らす。フェイクだと気づいた璃璃神は意識外からの攻撃に焦りの表情を浮かべドラグノフのトリガーを引いた。だが放たれた弾丸は当たることはなかった。

 俺は両袖のダガーを再展開しながら璃璃神に肉薄するが、隠し持っていたであろう予備の銃剣を器用に左袖から出すと無造作に横に薙いでくる。俺はそれを右手のダガーで止めようとするが、圧倒的なまでの力の差で大きく俺の右腕が外側に弾かれてしまった。

 

「まずい! 」

 

「これで、終わり! 」

 

 俺は左手のダガーで、振り下ろされてくる銃剣の軌道を逸らそうとしたが、璃璃神はドラグノフのグリップから既に離していた右手で手首を掴まれた。足のダガーも・・・・・いや、間に合わない!

 本日二度目の本当の死を覚悟したが、その銃剣は鈍い音を立てながら璃璃神の手元から遥か後方へと弾き飛ばされてしまっていた。なぜそうなったかは、俺の背後から聞こえてきたワルサーP99の発砲音が教えてくれる。

 

「くッ⁉︎ 」

 

「終わりだァ! 」

 

 俺は璃璃神に思いっきり飛びかかった。さっきは不覚にも押し倒されたが、今度は逆に押し倒させてもらうぞ!

 ドサッとふかふかな新雪の上に倒れこみ、右手のダガーを璃璃神の首にピタリと当てる。これでもう反撃できないだろ。

 

「俺の・・・・・俺たちの勝ちでいいか? 」

 

 妖しく蒼色に光っている瞳をジッと見据える。これで最初に璃璃神が提示した俺の勝利条件を満たしたはずだ。それでも、まだ反撃とかされたら今度こそ避けられないぞ。

 俺は額に冷や汗を浮かべるが、璃璃神はため息をつき、そんな俺の心配は杞憂だと言わんばかりの口調で話し始めた。

 

「負けましたよ。そんな心配しなくても大丈夫です」

 

「本当か⁉︎ よし! 生きてた・・・・・よかった」

 

「それはおめでたいんですが、後ろの理子の頭にツノが生えているような気がします」

 

 そんなバカなと思いつつ振り返ると──拳を胸の位置で握りしめ、目尻を吊り上げている鬼がいた。・・・・・なんで怒っていらっしゃるのか。

 

「キョー君! 」

 

「はい! 」

 

「いつまでレキュを押し倒しているの⁉︎ 」

 

「い、今すぐどきます! 」

 

 なんだ。そんな事だったか。なぜそんなに怒る必要があるのか小一時間問いただしたいが、その前に小一時間くらい殴る蹴るの暴行を加えられそうだからやめておこう。俺は璃璃神から少し離れるように距離を置いた。璃璃神も背中についた雪を払いながら立つ。

 

「さて璃璃神。約束通り危なくなったら力をかしてくれよ? 」

 

「分かってる。あと貴方が疑問に思っていた『予兆』のこと。瑠瑠神が貴方を自分の世界に取り込もうとする時は、暗闇に引きずり込まれるような眠気が襲うわ。憑依しようとする時も同じ」

 

 引きずり込まれる眠気・・・・・それって俺が紅鳴館で盗みをする任務をしている時に襲ってきた眠気だ。理子から道具をもらった帰りに男達に誘拐された原因がここで分かるとは・・・・・

 

「少しは耐えれると思うけど、それでも限界はくる。耐え切れなくなりその眠気に身を委ねてしまえば、貴方に憑依もしくは引き込まれる」

 

「対処法は? 」

 

「無い」

 

「無い!? 」

 

 おいおい、憑依されるまで力を回復したら俺に打つ手なしってか? それは困るぞ。あの世界に取り込まれたら何をされるか分からん。

 

「貴方がもう少し強ければいいんですけどね」

 

「弱くて悪かったな」

 

「では、私に用がある時は呼びかけてください。貴方の汚い心を四六時中よまなくても済みますので」

 

「失礼だな! 」

 

 璃璃神はそう言い残すと、静かに目を閉じた。一瞬だけレキの体が蒼く輝き──次に目を開けた時には元の目の色に戻っていた。璃璃神からレキに戻った証拠だろう。

 

「レキュ! 戻った⁉︎ 」

 

「はい。戻りました」

 

「よかったー! 」

 

 理子はレキに飛びつくと頬擦りをし始めた。理子は満面の笑みだがレキは無表情を貫いている。シュールすぎて笑えてくるぞ。

 

「まったく、ダーリンてば理子がいなかったら今頃死んでたんだよ? しかも二回も女である私に助けられちゃって。男として恥ずかしくないの? 」

 

 理子は片手で口を覆うような動作で煽ってきた。こうなったら俺も言い返してやる。

 

「あれれ? 璃璃神に秒殺されたのは誰でしたっけ? ちょっとヤられるの早くないですかね? 」

 

「あ? 殺すぞ童貞」

 

「童貞は死なねえんだよ」

 

 そのまま理子と睨み合っていると、レキが両手で抱きついている理子を押し返した。

 

「早く帰りましょう」

 

 と言い、ここに来た時に通った道を歩き始めた。ここに来るときより歩く速度が若干速い気がする。

 

「な、なんでそんな急ぐんだ? 」

 

「『風』が私にある事を伝えてきました。それを果たすには準備も必要なので」

 

「レキュ、ある事ってなに? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──キンジさんにプロポーズする事です」

 

「「……ふぁ⁉︎ 」」

 

 こ、これは・・・・・アリアと銃弾が飛び交う修羅場になるぞ・・・・・

 俺は、これからまた面倒な事が増える事に絶望しながら大きくため息をついた。

 

 

 

「朝陽さんどうしましたか? アホな上官の命令で地雷源に突っ込む二等兵のような顔をして。行きますよ」

 

「例えが的確すぎるのと憑依されてから少しキャラ変わってんぞ」

 




活動報告にて大事なアンケートがあります。
次回は少し短めかもしれません。

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