修学旅行当日、いつもと変わらぬ制服を着て新幹線に乗る。高校生だし、沖縄とかグアムとかに行きたかったが行先は京都と奈良だ。前世の中学の修学旅行が京都と奈良だったから意外と退屈だったりする。
でもこの世界、銃やら刀が手に入りやすいから金閣寺とか防弾仕様なのだろうか・・・・・ちょっと面白いな。
「なにニヤニヤしてるのキョー君。新幹線でちゃうよ」
「まだ間に合うだろ。てかお前がお菓子ばかり買うからだ。太るぞ」
「一言余計だよっ! 」
結局乗車したのが発車ギリギリの時間。指定された席に向かうと、三列ある席の一番奥に一人座っていた。俺と理子は通路側から一列目と二列目。通路を挟んで反対側の席にテンション低めのアリアが座るから、三列目に違う人が座っているのは当然のことだが・・・・・知り合いがいいな。
席につくと、俺たちが座る席に沢山の金属部品がわがまま顔で鎮座していた。
「隣、失礼します」
「あ、ごめんなさいなのだ」
奥の席に座っていた少女は、愛くるしい顔を申し訳なさそうにして俺と目を合わせた。
「すぐどけるの──朝陽君!? 」
「え・・・・・文!? 」
そこには、小さい頭に不相応なデカいヘッドホンをつけ、時計のようなものを作っている文がいた。
文はその部品をカバンにしまうとキラキラした目で俺を見上げてきた。
「横に座るのだ? 」
「まあ・・・・・席はここだし」
文は窓側の方を向き小さくガッツポーズをした。
普通に見えてるんだけど・・・・・そんなに知り合いが横で嬉しいのか?
とりあえず俺と頬をぷくっと膨らませている理子はそれぞれ自分の席に座る。背中の
「やっぱり盾二つ持ってくことにしたんだ」
「まあ二つの方が色々と便利だし、身体への被弾率が格段に下がるからな」
「そうなのだ。朝陽君のわがままで右手につける盾のフラッシュ機構を外して銃弾を受ける時に握る取っ手も折りたたみ式にしたのだ。ついでに制服のダガー全てを取り外したのだ」
ジャンヌとの作戦会議を終えたその翌日、文に頼んで盾と制服を改造してもらったのだ。右手の盾のフラッシュ機構を外すことによって若干の軽量化、取っ手を折りたたみ式にする事で制服内の秘匿性の上昇、さらに制服内のダガーを取り外したことで盾を装備した時とダガーを装備した時の重量はほぼ変わらない。うん、良い
「これを使う場面が修学旅行中になければいいけど」
「キョー君それ何ていうか知ってる? フラグっていうんだよ? 」
「フラグはへし折るためにあるのだ。回収するものではない」
そこで窓の外の景色がゆっくりと流れ始めた。東京から京都への旅の始まりであり──理子とのデートの始まりでもある。今は隣に文、通路挟んでアリアがいるけど。
「アリア、お菓子食うか? 」
「・・・・・いらない。あたし寝るから、話しかけないで」
ため息混じりに言うと、肘掛けに腕を乗せ頬杖をついて目を閉じてしまった。
まだキンジと喧嘩中ってことだな。理子がいうには、アリアはもう立ち直ったらしいけど全然そうに見えない。一度に
「朝陽君、あややも寝るから腕かしてなのだ」
「ああ、抱き枕がないと寝れないのか。別にいいけど」
「ありがとなのだ」
文は俺の右腕を引っ張ると、胸に挟み込むようにして抱いた。もっとも、挟む胸は文にはないのだが。
「・・・・・朝陽君、今胸がないなって思ったのだ? 」
「いやいや! そんなこと思ってないから! 」
もしかしたらこの世界の住人は基本スペックが高いのでは? 心読んでくるし。
「別にいいのだ・・・・・育たないことはわかってるのだ」
落ち込んでる!? ここは作り笑顔でもいいから、とにかく励まさなければ!
「そ、そんなことはないぞ! 貧乳はステータス! 希少価値だっていわれてるほどだぞ! もっと自分に自信を──」
文はハイライトの消えた目で見つめてくると、氷のように冷たい声で一言。
「朝陽君は自分の
「本当に申し訳ございませんでした」
文は再び目に光を戻すと、俺の脇腹を一回つねってから目を閉じた。起きたらちゃんと謝らないとな・・・・・
文が起きた時に何て謝ろうかと考えていると、突然左腕がマシュマロのような柔らかいものにつつまれた。
「えと、理子? 」
ジト目で睨んでくる理子は子犬のような唸り声を出していた。まるで飼い主をとられた犬みたいだ。それを言うとマジで殺されるからやめておくが。
唸り声をあげるのをやめると、理子は俺の耳元まで顔を近づけた。その際に理子のバニラのような、バーモントのような甘ったるい匂いがふわっと俺を包み込んだ。
「他の女子にそうやってボディタッチ許しちゃってさ。理子もヤキモチ妬いちゃうよ? 」
うっ・・・・・コイツ、マジで可愛いな。
「それはニセモノの恋人としてか? それとも一人の女子としてか? 」
俺も理子の耳に顔を近づけ小声で言うと、かあっ、と赤面し始めた。耳まで赤くなって本当に可愛い。
「それは・・・・・ニセモノの恋人として、だけど」
「まあそうだろうな。俺も寝るから起こさないでくれよ」
俺は膝の上に乗っている盾の位置を床に落ちないように調整し、座席を少しだけ後ろに倒して目を閉じた。
一秒、一分と経っていくうちに眠気が波のように襲ってくるのがわかる。その波に身を委ねようとしたところで理子が小さく呟いたのが分かった。
「──ばか」
何でそんなに切なそうな声を出すんだ?
その疑問は意識と共に暗闇へ落ちていった。
「──キョー君、起きて。起きてってば! 」
「ん・・・・・ああ。ごめん。今どこだ? 」
「京都駅の一つ手前。今から起きてた方が頭冴えるでしょ? 」
「そうだな。ありがと」
右手で目を擦ろうとしたが──気持ちよさそうに寝ている文に掴まれてて動けない。かといって左手も理子に掴まれてるし・・・・・目に溜まった涙が拭けないじゃないか。何で泣いてるのかわかんないけど。あ、今一滴頬を伝っていった。
「何で泣いてるの? 」
「分からん。目にゴミでもはいったかも」
「なら大丈夫だね。心配かけさせないでよ」
理子はどこからか取り出したハンカチで涙の跡を拭いてくてた。
な、なんか理子がいつもと違う気がするが・・・・・気のせいか? 優しくなったりちょっと怒ってたり、感情表現が豊かなのはいつものことだが、言葉では表すことが出来ない何かが理子の中で起こっているのは間違いない。
「いつもと違って優しいな。何か嬉しいことでもあったのか」
「別にそんなんじゃない。あといつもと違うとか、ひどい事言わないでよ・・・・・」
「え? ・・・・・あ、ごめん。いつも通り可愛いよ」
「そう? くふっ、ありがと」
はにかんだような笑みをこぼし俺の左腕を抱く力が強くなったのがわかる。左腕に理子のたわわな柔らかいアレがより一層押しつけられて──煩悩が働き始めた。
(落ち着け俺。文に襲われた時のように流されるな)
素数を数えながら深呼吸を繰り返す。柔らかいのはスポンジだ。スポンジだと思え!
「京都行ったらどうするの? 」
「そ、そうだな。とりあえずアリアの母親のかなえさんの裁判関係の資料を集めた後に、気分転換を兼ねて四人で観光しようか。課題もあるしな」
「課題って・・・・・観光名所三ヶ所まわって感想書けってやつでしょ。教務科も適当だよね」
観光名所を巡りながらデートもできる。一石二鳥だ。アリアがいるから二人きりってことにはならないけど。
でもアリアも気分転換でもしないと今後の武偵活動に支障がでる。それにキンジとアリアは傍から見ても最高のパートナー同士だと思うから、早急に仲直りしてもらわないといけないな。
「あ、そろそろ京都駅だよ。降りる用意をしないと」
「それもそうだな。文を引き剥がさないと」
理子は不満そうにしながらも俺の左腕を解放してくれた。その左腕で文の頬を軽くつねる。
モチモチしていて良い触り心地だが、理子が殺気を向けてきたのですぐに起こす。
「文〜そろそろ起きないと乗り過ごすよ」
「んにゃってなのだぁ」
謎の言語を発したぞ今。
文はまだ右腕にしがみついて離してくれない。それどころかしがみつく力が強くなっているような・・・・・
「俺死んじゃうよ。文の前からいなくなっちゃうよ〜」
「ダメなのだ! 」
突然目を見開くと俺の右腕を今まで以上に強く抱きしめてきた。そこまで抱きしめられると文の平たい──だがほんの少しだけある胸の感触がッ!
「どこにも行っちゃダメなのだ! 」
「どこにも行かないからさ荷物まとめて。もうすぐ京都駅だよ」
「本当なのだ? だったらいいのだ」
文は折りたたみ式のテーブルの上に置いてあったお菓子をカバンの中に放り込むと小さいお膝にちょこんとのせた。本当に中学生くらいにしか見えん。同じくらいの身長のアリアは黙っていれば高校生に見えなくもないんだが・・・・・文は愛くるしく幼げな顔つきだからしょうがないかな。
「そろそろ行こっか」
「キョー君忘れ物ない? 」
「子ども扱いするな」
理子の額に威力が高い中指でのデコピンを食らわす。俺の口座から金を黙って引き落としていた罰も兼ねてだ。アリアのヤケ食いで貯金残高が一桁減ったんだからな。
理子は軽く仰け反ると、右手に拳をつくり震わせていたが・・・・・その拳は俺を襲うことは無く、ただ睨んできただけだった。
いつもなら顎にアッパーからのロリ神のお世話になるっていうパターンなのだが、今日は運がいいな。
だがそんなことを考えている暇もなくなってきた。駅に着いたからだ。
「よし、京都駅到着! 」
「キョー君お金全部出してねー」
「・・・・・わかったよ」
新幹線から降りて改札を出る。今から・・・・・修学旅行本番である。気を引き締めていかないとな。
「朝陽、理子。あたし一人でママの裁判の書類とか受け取ってくるから。あんた達は二人で楽しんできなさい。これは命令よ」
「え、でもそれじゃ───」
「あんた達にこれ以上迷惑はかけられない。あの事はあたしとキンジ、あとレキの問題。そうね・・・・・金閣寺とかいいんじゃない? あたしの分まで課題やってきて。しっかりやらないと風穴開けるから」
アリアはカバンから課題用紙を取り出すと俺に押し付け、そのまま武藤達との合流地点まで文を引き連れて行ってしまった。
「どうしよ。マジで二人だけになっちまったよ」
「キョー君・・・・・ダーリンは理子と二人でいるのは嫌? 」
急に言い換えたな。
───あ、近くに東京武偵校の生徒がいるからか。気づかなかったな。
「嫌なわけないだろうハニー。さ、行こっか」
「うん! 」
理子は俺の右腕に自分の左腕を組ませた。周りのヤツらは、『ラブラブだね〜あの二人』だの『控えめに言って地獄の業火に焼かれてしまえ』など反応は様々だ。正直理子のような美少女と腕を組んでデートなど人生で初めての経験。緊張するな・・・・・
「最初はどこ行くの? 」
「金閣寺でいいんじゃないかな」
「うっわ、ベタだね」
「ベタだけに『
「そのくらい高二だから知ってるよ! というかそのセンスの欠片も感じられないギャグは寒いから! 」
ちっ、うまいと思うんだけどな・・・・・
「もう、早くしないとバス来ちゃうよ」
「おっそうだな」
京都駅前のバスターミナルに急いで行き、なんとかバスに間に合った。
それからバスに揺られ四十分ほど、金閣寺道に無事着いた。乗車賃を払いバスの外に出る。
「早く行こ。理子初めて来るんだから」
「そうなのか。なら楽しみだな」
前世で金閣寺は行ったことがあるから、どちらかと言うと退屈だなって思ってたんだが──理子のはじけるような笑顔があれば、それはそれで楽しそうだな。ニセモノとはいえ恋人。恋人と来るか友人と来るかで楽しさも変わるものか。
理子とまた腕を組んで歩き、金閣寺を見る事ができるコースにたどり着いた。老若男女問わず多くの人が金閣寺に魅入っている。俺たちは先に行く人の邪魔にならないように端の方に寄ってゆっくりとまわっていくことにした。
「すごい・・・・・本当に金色なんだ」
「金色じゃなかったら金閣寺なんていわれないだろう。それより、やっぱり防弾なのか気になる」
「物騒なこと考えるね・・・・・」
理子は通行人の邪魔にならない位置で、ピンク色のカメラで金閣寺の写真を何枚も撮っている。
俺もつられて金閣寺を見た。太陽に照らされ金色の輝きを放ち、位置的に背景となっている木々の緑は美しい絵を縁取る枠線のようになっている。水面に映る逆向きの金閣寺もきれいだな。
「でも金色は落ち着かないな。俺は銀閣寺の方が好きだ」
「そう? 理子はこっちの方が好きだけど。まあ人それぞれ好みが違うしね。てことで次行こう! 」
「はやっ⁉︎ もういいのか? 」
「せっかくの京都だよ? アリアのためにも、行ける所は全部行かなくちゃ。それに・・・・・デートだから、いっぱい色んな所行きたいよ」
照れながらも俺の胸に手を置いて上目遣いをしてきた。
誰もが振り向く美貌と色気を兼ね備えている理子にそんなことをされ──心臓の鼓動が徐々に速くなっていくのを感じる。顔も熱い。鏡を見なくてもわかる。今の俺の顔は真っ赤だ。
良からぬ思考が頭をよぎったが、理子の後ろから歩いてくる男──そいつの手つきが妙に怪しいのが見え、その思考は脳内ゴミ箱へ捨てた。わざわざ片方の袖の中に手を引っ込ませて何かを操作しているのだ。しかも今チラッと見えたがあれは多分・・・・・カメラだ。
「理子、行こうか」
「うん」
俺は向かってくるその男が理子のスカートの中に手を伸ばそうとした瞬間に間へ割って入る。そして理子に聞こえないようにそいつの耳元に顔を近づけた。
「やることわかってんぞ」
するとその男は顔を青くしてその場を走り去ってしまった。理子もスカートだから気をつけてくれと言いたいけど・・・・・今はデート中だし、帰ってからでもいいか。
俺はまた他の誰かに盗撮されないように、理子を通行人が少ない方に位置を変える。
「──ダーリン」
「なんだ? 」
「くふっ・・・・・なんでもないよ」
少し顔を赤くした理子は俺の腕を引っ張って出口へ急ぐように歩き始めた。そんな急がなくてもいいと思うが、これも俺との思い出作りのためなんだよな。あとアリアのため。こういう理子の優しい一面も見れて嬉しい限りだ。
「次はどこにする? 」
「次は北野天満宮。どうだ? 」
「イイね! 行こう! 」
金閣寺からさほど遠くないので歩いて行く。もちろん腕を組んでだ。理子は俺を見てはニヤけ、その度に鼻歌を歌いスキップしている。知らない奴が見たら奇行以外のなにものでもない。街行く人に見られ、微笑ましい顔を何回もされ続け、今すぐにやめてほしいが・・・・・それは北野天満宮の入口に着くまで理子はやめなかった。
北野天満宮は確か学問の神様がいることで有名だ。高校受験の時にお世話になる学生も多いと思う。最近俺も勉強がちょっと不安になりつつあるから、今のうちに買っておいて損はないはずだ。
北野天満宮の中は昼ごろでも沢山の人で賑わっている。俺は理子に案内されるがままにお守り売り場へ連れて行くと、お守りの一覧を見て悩み始めた。
「理子は何を買うんだ? 」
「えっとね、『紫祝』ってお守り。身体安全とか延命長寿とか。ダーリンは? 」
「俺は学業成就かな。そろそろ勉強しないといけないし」
俺は財布から二千円を出し理子の買う予定のお守りと一緒に購入する。二つのお守りを手に入れ次の目的地に移動しようと振り返ると、理子が驚きと喜びが混ざったような変な顔をしていた。
なんだ、俺がお前の分まで払ったのが意外だったか? ジャンヌからのご指導で俺が元々払う予定だったし、新幹線の中でも俺が全部出してって言ってたのに何を驚いているのか。
「お腹すいたしご飯でも食べに行こうか」
「……え、ああうん! ありがとね、お金出してくれて。でもお守り買うだけ? 」
「色んなところ周りたいって言ったのはお前だろ」
「───そうだね。美味しいもの食べたい! 」
美味しいものか・・・・・お店までは考えてなかったな。
そしてなぜお守りを俺がまとめて買ったくらいでお礼をするのかわからないが、まあ理子のことだ。これからもお金出してくれるよねってことで言ってるのかもしれないし、気にするだけ無駄か。
そういえばジャンヌが、女の荷物は持つべきだとかなんとか言ってたな。持ってやるか。
「理子、その小さいバッグかして」
「ど、どうしたの? 」
「女の荷物を持つのは男にとって名誉であり義務だ、ってジャン──とある友人が言っててな」
「・・・・・なんか今日は優しいね。嬉しいよ」
俺も嬉しいよ。いつもみたいに暴力ふるって俺を殺さないからさ。
俺と理子は、頭を撫でると学力が上がると言われている牛の像のようなものを撫でてから、食事処を探しに北野天満宮を後にした。
────普通に楽しいな。デートって。
それから美味しいイタリアン──なんで京都に来てまでイタリアンなのかは不明だが──を食べた。その後に清水寺に行き、京都の景色を一望できる『舞台』から落ち、今は夕暮れ時の地主神社にいる。
まったく、ふざけるなと言いたい。どこから連鎖が始まったか知らないが、どこかの人がコケて他の人に当たる。その他の人が押されて別の人に当たり──巡り巡って舞台の手すりのそばにいた俺が押され、そのまま落ちた。下に木があったからそれに掴まって死なずに済んだが、警察だの救急車だの来て事情聴取。
解放されたのがそれから三時間後だ。俺を押してきた人は泣きながら謝ってきたが、別にその人に対してふざけるなと思っているわけではない。自分の運の悪さ……その元凶である瑠瑠神に対してだ。
そして怒ってらっしゃる人がもう一人俺のそばにいる。
「それでも本当にSランクなの? Sランクなら落ちてないよね? 」
「俺も不思議に思った。てか、そろそろ機嫌なおして」
「ダーリンのせいで三時間も潰れちゃったんだから」
「ごめんなさい」
反抗したい気持ちをグッと抑える。旅先で死にたくないし、せっかくの楽しいデートが台無しになるからな。機嫌直しも兼ねて地主神社で某通販サイトで買ったプレゼントを渡そう。
「地主神社といえば恋占いの石だよな。あれやろう」
「十メートル離れて立って、目を瞑ってその石に辿り着けたら恋が叶うって石? いいよやろ! 」
早速地主神社の階段を上り鳥居をくぐると、恋占いの石が少し離れた場所にあった。恋占いの石の道の脇には恋に関するお守りなどが売られている。恋占いの石は膝の高さほどで、すぐ近くの地面に印のようなものがあった。
そこから目を瞑ってここまで来るのか・・・・・楽勝じゃないか。観光客が今は俺たち以外誰ひとりとしていないからな。多分清水寺から人が落ちたという事を聞きつけて現場に行っているのだろう。残念ながら落ちたのは俺でピンピンしてるがな!
いるのはお守りを売っている可愛い女の子だけだ。
「手、つないで行こ」
「わかった」
印の上に立って目を瞑る。声をかけたわけでもないのに、理子と一緒に踏み出した。一歩ずつゆっくりと歩いていく。不思議と言葉は無かった。目を閉じた真っ暗な中、感じられるのは理子の暖かい手だけ。耳に入ってくるのは木々のざわめきと二人ぶんの足音。それと自らの心臓の鼓動する音だけ。一歩進むたびに緊張と期待が混ざり合い様々な思い出が湧き上がってくる。
そして──
靴の先が固いものに当たる感触が足の先から体を駆け巡った。理子のハッと息を飲む音が聞こえ、それと同時に俺の中から喜びの感情がとめどなく溢れてきた。
「キョー君……固いのが当たってる……よね」
「誤解を生む発言だが、確かに固いのが当たってるな」
そっと目を開けると理子と俺の足先には、ここがゴールだ、おめでとう。と言わんばかりに恋占いの石が鎮座していた。つまり……成功したのだ。目を閉じたまま十メートル歩いてここまで辿り着く事が。楽勝だと思っていても達成感がある。恋人同士、だからか?
「やった! やったよキョー君! 」
「そうだな! ふははは、無事辿り着いたぞ! 」
お店の可愛いお姉さんが子どもみたいにはしゃいでいる俺たちを見て苦笑いしているのが横目で見えたが、この際どうでも良い。恋人と来るのがこんなに楽しいものなのか。
俺はその石の前で理子の方に向く。連られて理子も俺と向き合った。
「大事な話がある」
「・・・・・何そんなに改まって」
「実は渡したいものがあってな」
俺はカバンからオシャレな小さい箱を取り出し──箱の裏の値札シールをとっていないことに気づき、右の掌で箱の底面を隠すように持った。
「今日のこの日までデート連れて行けなかったな。ごめん」
「う、うん」
「だからその代わりと言ってはなんだが・・・・・」
箱ごと渡すのはマズい。だから右の掌で箱の底面を隠しつつ、左手で箱の片面だけを開ける。中からは赤と白が交互に編まれたミサンガが顔を覗かせた。
結婚指輪の渡し方みたいで恥ずかしいなこれ・・・・・お店の可愛い女の子も顔を真っ赤にして俺たちのこと見てるし。
「これって──ミサンガ? それもこの色、意味わかってる? 」
「ああ。もちろんだ」
某通販サイトで適当に決めたなんて口が裂けても言えない。
理子はみるみるうちに顔を真っ赤にさせ挙動不審な動きをし始めた。
「あ、えと。その・・・・・」
「なんだ、つけて欲しいのか」
俺はカバンの中に箱だけを戻しミサンガを手に取る。
(付けるなら利き手の方がいいか)
俺は理子の右手首を掴み上げる。それから自分の指にミサンガを通し、理子の右手を覆うように手首まで持っていき優しく通した。理子は自分の顔を隠すように左手を当てているが、指と指の間からしっかりミサンガをはめている場面を見ている。別に見たいならしっかり見ればいいのに。
「ほれ、つけてやったぞ」
「あああ、あの。付けた位置の意味も分かって──」
「分かってるって」
ごめん。本当は分からん。てかつけるならどこでも一緒な気がするが。
理子は一歩後ずさると、ジーッとミサンガを見ては顔を伏せ、また見ては顔を伏せるという謎の行動をし始めてしまった。耳まで赤くなってるから──相当恥ずかしいんだろう。人前でこんなのつけられて。でも今日渡さないとジャンヌに何言われるか分からないしな。
「キョ、キョー君」
「ん、気に入らなかったか? 」
「ううん、すごく気に入った。嬉しいよ」
理子はその場で恥ずかしそうに下を向いていたが、不意に顔を上げ、俺の目を見つめてきた。
そよ風が吹き理子の綺麗な金髪が揺られ、夕陽がそれを縁取るかのように照らし出す。理子の穏やかで大きい二重の目、白くてふわふわした頰、色気のある唇、理子の全てが美しく輝いていた。
「──キョー君、ありがとう! 」
理子は満面の笑みを浮かべた。
まるで──この世に舞い降りた天使のように。
デートってどうやって書けばいいんだよ! (血涙)
次回戦闘シーンはいりまっす。
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