俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 ココの襲撃


第33話 武器商人と──。

 盾を装備している両腕はまだ痺れている。だがこの盾は7.62mm弾をモロに食らっても貫通しなかった。この場で一番強力な弾薬を使用するのは、ココ二号が構えているM700。それをこの盾で守りきった。故に・・・・・今この場で脅威となるのはココ一号の攻撃だけ。その事実が俺に勇気を与えてくれる。突っ込んでも死なないという勇気──蛮勇だ。

 

「ココ。銃刀法違反とその他諸々で逮捕する」

 

「きひっ! 逮捕出来るはずないアル! 」

 

「さっさと殺して『武器商人』の元に首を持っていくアルよ! もっとも、(われ)が眉間を撃ち抜いたら持っていく部分が少なくなるけどネ」

 

 ココ二号はボルトを後退させ空薬莢を排出すると新たな弾薬を装填する。その間にココ一号は俺から一旦距離を取ると、腰の当たりから短機関銃(UZI)を見せつけるように抜いた。

 

「だけどお前にチャンスをやるネ」

 

「チャンスだと? 」

 

「お前の力は侮れないアル。さっきも何か分からない力で私達の攻撃を回避したネ。その時に光った目も気になるアルヨ」

 

「・・・・・それで、何が言いたい」

 

 ココ一号の口元が大きく緩み、両腕を左右にそれぞれ大きく開いた。

 

「藍幇に忠誠を誓うネ。お前はどうせ女好き、だからお前が望む女をいくらでも与えるアル。美人から美少女、胸の小さいから大きいまで全部ネ。それ以外にも欲しい物は全てやるアル。どうだ、来る気になったカ? 」

 

 確かに、魅力的な条件だな。忠誠を誓う──つまり、武偵を敵にまわせということだ。でも、

 

「浮気したら金髪ギャル(理子)が殺しにくるんでな。無理だ。それにお前ら、何もしなくても理子が死ぬと言ったな? それはどういうことだ」

 

「きひっ! 理子が座っている椅子にはトラップを仕掛けてあるネ。もし理子が立ち上がればこの新幹線は木っ端微塵に吹き飛ぶアル」

 

「その爆弾はどこにある」

 

「この列車の複数あるトイレの中ネ。でも無駄アル。酸素に触れれば即爆発する気体爆弾ネ。無理に解除しようとトイレに入った瞬間に・・・・・ドッカーンアル! 」

 

 爆弾を解除せずこのままこの新幹線が東京駅に着けば辺りが火の海。解除しようとしても・・・・・死か。

 

 だとすればコイツらはどうなる? 俺たちと一緒に心中するつもりなら乗っていてもおかしくないが、さっきこいつは俺を藍幇にスカウトしてきた。それはつまり助かる宛があるってことだ。考えられるのはココ四姉妹の誰か、もしくは藍幇内の協力者。ココは二人いるから、あとの二人だ。──いや、車内アナウンスから聞こえた声はアリアと戦った時の中二病ココ。だとすればこの新幹線内にココ一号と二号、あと中二病ココの三人が乗っている。

 

「お前らあと一人はどうした」

 

「・・・・・アア、そこまで頭がまわったのカ。残念ながら全員この列車に乗ってるアル」

 

「サポート役がいると聞いたことがあるぞ。お前らと中二病、残り一人がサポート役じゃないのか? 」

 

「違うネ。本来なら私達がサポート役アル。でもどこかの誰かさんが酷い事をしてくれたおかげで強くなったアル」

 

 なんというバタフライエフェクトだよッ! 俺がいなければココ一号と二号はこの新幹線内どころか戦闘にすら参加していなかった可能性があるぞ。一人は元々狙撃手だったかもしれないが。

 

「そうか。ならばお前ら二人をはやく捕まえて、キンジの援護にでも行かなきゃな」

 

 ココ一号が長話をしてくれたおかげでかなり頭を冷やすことが出来た。意味不明の憤怒はもう心の中にはない。

 

「交渉決裂だネ。変態、お前がこれから向かうところは東京駅ではなく地獄アル」

 

「その前に戦闘不能にしてやるよ。幼女ども」

 

 その言葉を合図にココ一号はUZIの弾を俺の全身にばら撒き始めた。7.62mm弾よりは軽いがその分絶え間なく衝撃が伝わってくる。防御範囲外である足に何発か被弾し床に足をつけそうになるが、凄まじい銃声と衝撃は鳴りやみ、代わりにココ一号が突進してきた。

 

「ヤヤッ! 」

 

 その勢いに乗って小太刀を右足から左肩にかけ大きく振るった。金属を引っ掻きながら切先は体の外側へと抜けていく。ココ一号は舌打ちをすると、小太刀を持っている反対の袖からM686を抜いた。

 

「・・・・・っ」

 

 .357マグナム弾という威力の高い弾を撃てるリボルバーだ。こんな至近距離で食らったりしたら内臓破裂は確実。

 

「きひっ! 」

 

 確実に当てるためか胸に押し付け──トリガーを引かれる瞬間にココ一号の手を上に弾く。発砲された弾丸はかろうじて防弾制服の肩の表面だけを抉りとって後ろの壁へ激突した。

 不機嫌そうな顔を浮かばせたココ一号はさらに面積の大きい胴体を積極的に狙い、小太刀は銃に気を取られ無防備になった部位を着実に刺してくる。

 

「さっさと殺されろアル! 」

 

「幼女に殺されたら笑われるから意地でも死なねえよ! 」

 

 リボルバーの最後の一発が左腕の盾の端に当たり、マグナム弾の威力につられて腕が払われる。

 

「懐がガラ空きネ! 」

 

「くっ! 」

 

 飛び込んできたココ一号は用済みのリボルバーを俺の顔に投げ視界を一時的に塞いできた。それが無くなり、ココ一号の手に握られていたのは小さなナイフ。それを逆手に持ち脇腹に突き立てようとしてくるが、右手でかろうじてナイフを持つ手を押さえる。

 

「離せロリコン! 」

 

「ロリコンじゃ、ねぇ! 」

 

 手首の関節を曲げナイフを落とさせると、列車の後方へココ一号を背負い投げもどきでぶん投げた。本当の背負い投げは床に落とすものだが・・・・・そうしたら背中が無防備になる。

 すぐさまココ二号と相見える。予想通りトリガーにかかる指に力が入っており───全力で横に回避した瞬間、大気を切り裂きながら元いた場所を7.62mm弾が通過した。もう少し遅かったら死んでたぞ。

 

「ちっ」

 

「あっぶね」

 

 ここでひと休みしている場合ではない。今度は背後から弾丸のように飛んできたココ一号を両盾で受け止めた。

 盾と盾の間に小太刀を刺しこまれるがその場で屈むことで避け、そのままココ一号に足払いを仕掛ける。体格に比例して軽いその体はいとも簡単に床に落ち、小太刀を手放してしまっていた。隙を見せたココ一号にのしかかるが、視線の先にいるココ二号が不敵な笑みをこぼし───ガァン!! と右腕の盾が轟音を鳴り響かせ、

 

「ガッ!? 」

 

 腹部に何かが突き刺さるような痛みが全身に向けて波紋のように広がる。反射的に体を丸めて頭を両腕の盾で隠すように手を床につく。ココ一号はそんな俺をのしかかられた状態で見るとニヤリと笑みを零した。

 

「まさに顔面蒼白アルネ! やっぱりその盾も貫けるアル」

 

「うるせえ・・・・・防弾制服で止まってるからいいんだよ。それに、生意気なお前に一つ教えてやる。狙撃手にとって嫌なことをな! 」

 

 ココ一号の両手の親指同士を素早く縛り、腹部の痛みに顔を歪ませながらも立ち上がりココ一号の脇を両手で抱え上げる。

 

「な、何をするアルか!? 」

 

 小さい足で脛を何回も蹴ってくるが、距離が足りないためあまり痛くない。

 俺はスタートダッシュの姿勢をとり、

 

「こうするんだよ! 」

 

 通路の奥にバイポットを立てM700を構えているココ二号に向かって全力で走り出す。

 狙撃手にとって嫌なこと・・・・・それは仲間を盾にされることだ。迂闊に撃てばココ一号に被弾する可能性がある。さらにコイツらは姉妹だ。愛する姉妹を傷つけずに唯一露出している足だけを狙い撃つことは不可能ではないと思うが、それでも、『当たってしまったら』と迷いが生じるはず。その迷いのうちに近づいてしまえば!

 

「な!? 来るなアル! 」

 

 ココ二号は声を張り上げながらACOGサイトから目をずらした。この距離なら見なくても当たると判断したのだろう。だがもし、万が一にでもココ一号に当たって死んでしまったら盾にしていた俺が殺したことになって死刑となる。武偵三倍刑でだ。そして俺はその万が一を一発で引き当てる男。ココ二号がトリガーを引いた瞬間に俺の実質死刑は確定する。だから──その前に捕らえる!

 

「死ネッ! 」

 

 ココ二号がトリガーに指をかけたのを確認。即座に座席の肘掛けをジャンプ台にして、伏せているココ二号の射程圏外へと逃れる。すぐさまココ二号は膝立ちになったが・・・・・もう遅い。

 

「はっ! 」

 

 銃口を蹴り飛ばし体勢が崩れたココ二号を下敷きにし、そのまま新幹線の冷たい床に三人もろとも突っ伏した。きゅっ! とココ二号が可愛らしい悲鳴をあげM700を手放し、持ち主のいないそれは寂しく床に叩きつけられた。

 

「ココ・・・・・本名分かんないから一号と二号。逮捕だ」

 

 元々親指同士を縛っておいた一号は手首にも結束バンドを、二号は一つだけ所持していた手錠をかける。

 

「我らは一号二号じゃないアル! 我らは曹操孟徳の子孫ネ! 」

 

「・・・・・は? まじで? 」

 

「私たちを侮辱すると痛い目見るネ! 」

 

 ココ一号が鋭い犬歯をむき出しにしながら、がうっ! と噛み付く仕草をしてきた。

 曹操孟徳って確か結構有名な偉人だよな。

 

「この世界どうなってんだ・・・・・遠山金四郎に卑弥呼、ホームズにリュパン、ジャンヌ・ダルクに平賀源内、今度は曹操孟徳ときたか。これだけ有名人の子孫が集まってるなら───そのうちナポレオンの子孫とか現れそうだな」

 

「ナポレオンとか今は関係ないアル! はやく解放するアル! 」

 

 ココたちはセミみたいに喚き始めた。流石にうるさいな。キンジと喧嘩してる時のアリア並だぞ。

 

「おとなしくしたらどうだ。小遣いもらえなくて残念なのは分からなくもないが」

 

「小遣い貰えないから装備が買えないヨ! 金よこセ! 」

 

「刑期を終えたら小遣いくらいくれてやる」

 

 ため息をついたところで肩に誰かの手が置かれ───

 

 

「───ッ!? 」

 

 反射的に肩に置かれた手を振りほどき、振り向きながらすぐさま拳銃(HK45)を抜く。

 190を超えているであろう高身長。燕尾服にシルクハット、半月型の目と耳のあたりまで裂けている口の仮面をつけた男が目の前に立っていた。

 いつ攻撃されても対応できるようにトリガーに指をかけ、

 

「あんた、誰だ。気配を完全に消していたあたり、少なくとも民間人じゃないよな」

 

「そうとも。私は・・・・・まあ『武器商人』とでも呼んでくれ。そこの二人が私をそう呼んでいるのでね」

 

「いつからここにいた? 目的はなんだ」

 

 額から頬にかけて冷や汗が一滴流れ落ちる。

 この武器商人とかいう仮面男は殺気どころか敵意すら俺に向けていない。今なら取り押さえられるが、それは抵抗されなかった場合。

 ・・・・・勝てない。少しでも抵抗されたら勝てる未来が見えてこない。

 

「目的はこの娘たちを本来の持ち場につかせることだね。いつから居たという質問には、君が私という存在に気づく少し前だよ。なに、インチキなどはしていない。ただそこのドアを静かに開けて静かに君の後ろまで歩き、優しく手を置いただけだよ」

 

 男は身振り手振りを交え、話しながらゆっくり俺の横を通り過ぎ 、ココたちを守るように立ち塞がった。

 

「──静かに優しくねぇ。武器商人なんてやめて武偵局の、過去の経歴を問わない部署にでも行ったらどうだ? 諜報部とか似合いそうだ。それはそうと、こいつらは引き渡さないぞ。死ぬ気で捕まえたんだからな」

 

「そうかい。ならば───取引をしないか? 」

 

 そう言うや否や、俺の肩に再び手を乗せココたちに聞こえないように囁いてきた。

 

「今ここでこの娘たちを解放してくれるならば・・・・・代わりに情報をあげよう。神を封印する方法のね」

 

 神を封印する方法──だと?

 その言葉は耳から全身へ電流のように流れ出た。

 瑠瑠神をそれで封印すれば、俺はこの忌まわしき人生から逃れられる。喉から手が出るほど欲しい情報だ。

 

「分かっているよ。聞きたい、けど自分は武偵だ。とでも思っているのだろう。でも今この話は私と君以外聞こえていないよ。君は武器商人なる者が現れて、健闘したが逃げられてしまったと報告すればいいさ」

 

 今すぐ教えて欲しいが、条件はココたちを解放すること。

 犯罪者を逃がすというのは武偵として、人の安全を守る者としてやってはいけないことだ。

 

「君は諜報科にも所属しているだろう。嘘は得意なはずだ。誰にも明かさなければ私たちの秘密は永久に守られる」

 

 誰も分からない。誰にも知られない。

 

「それに、今私たちを逃がしてもあの娘たちはまだ新幹線ジャックをやめないと思うよ。君に負けたからすぐリベンジしたいだろうね。だからその時にまた捕まえればいいんじゃないかな」

 

 ────また、リベンジに来たらそこで倒せばいい、か。

 

「私に課された命令は『この娘たちの姉妹の誰かが捕まったとしたら、一回だけ助けること』だよ。その命令に従い一回だけこの娘たちを逃がす。この娘たちは君にリベンジしたいだろうから、君の前に再び顔を覗かせる可能性が高い。さて、君はどうする? この娘たちを解放して神を封印する方法を得るか、解放せず無意味に私と闘い、負けて()()を失うか」

 

「答えは・・・・・聞くまでもないだろ」

 

「さあ、どっちだい? 」

 

 

 

「俺は武偵だ。たとえ一回でも私情で犯人を逃したりしないぞ」

 

「・・・・・そうかい。とても、残念だ」

 

 武器商人は深くため息をつくと、指を大きく鳴らし───

 

 

 

 ────首を触られた気がした。それからおかしい事に、視界が男の上から下へと流れていく。男に浮遊できる超能力があるのかと警戒した瞬間、顔が何かに当たった。いや、叩きつけられた感触だ。視界が男の足下、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「君がもしその選択をした場合・・・・・」

 

 ドタッ、と誰かが俺のすぐ横に誰かが倒れ込んだ。ソレは首元から綺麗に上を切断されている、いわば死体だった。

 

「こうなる未来になると、過去の君は思い出す」

 

 両腕に装着されている盾、右手に握られたHK45、純白の鞘に収められている雪月花。その死体には見覚えがある。

 

「君にとっては未来のことだが、私にとっては現在のことだ」

 

 だってその首元から上を失い、断面から絶え間なく血を吐き出している肉塊は・・・・・首を斬られた俺なのだから。

 意識が真っ黒に染まっていく中、男は俺に向け大きく指を鳴らし────

 

 

 

 

 ────気がつくと、俺は自らの足で立ち、男と目を合わせていた。睨み合っているこの状況は俺が首を斬られる前だ。床の冷たい感触も、自分の体から溢れ出る血も広がっていない。

 

「・・・・・っ、何をした!? 」

 

 首が繋がっていることを確認しながら問う。

 

「君に未来を見せてあげた、ただそれだけのことだよ。君が断った選択肢を選んだそのあとのことだ」

 

「未来を、見せる? 」

 

 またデタラメな能力出してきやがって。さっきも何をされて首を落とされたかわからない。これじゃ──俺が出す答えは『Yes』しかなくなる。

 

「お前は・・・・・なんなんだ? 」

 

「なんだと言われても困るね。もう一度君に問うよ、私の要求に応じるかい? 」

 

「俺は────」

 

 くそっ! こうなったら変な意地はってないで逃がすか?

 ココたちはまた戻ってくるだろうし・・・・・いや、確証がない。今は残りの姉妹たちと撤退して装備を整えてから奇襲を仕掛けてくるかもしれない。どうするッ!

 

「ふぅ。時間切れだね」

 

 男が俺の背後のドアを指差すと、それに呼応して勢いよく開けられる音がした。

 

「京条君! 大丈夫かい? 」

 

「不知火か!? 犯人の共犯者らしき人物と交戦中だ! 」

 

 端的に伝えると不知火はすぐ反応してくれたようで、男の右肩に薄い赤色の点が現れた。

 

「ふむ、LAM付きのSOCOM Mk23か。良い銃だね」

 

 |赤色のレーザーが仮面男に動くなと訴えているが、男はそんなことは構いもせず燕尾服の前ポケットから小さなスイッチを取り出し、そのスイッチを俺たちに見せつけながら押した。

 

「動くな! 」

 

「私はSOCOM如きでは傷つかないよ。そして・・・・・京条朝陽君。神に愛された者よ、その力は正しく使うことだ。この世のどんな超能力よりも優れた能力をそれらは持っている。あと一つ色金を体内に取り込んでしまえば、君はこの世界においてかなり上位の強さになるだろう。だが、君が最初に取り込んだ──埋め込まれたとでも言うべきか。それは使う度に体を蝕んでいく。理由は君がよく知っていることだろう」

 

 男は意味不明な事を言いつつココ二人を両脇にそれぞれ挟み新幹線の横壁に寄りかかった。同時にそこから金属が灼ける音が鳴り出し始め、

 

「君は常に監視されている。そしてこれから地獄のような日々が続くだろう。それら全てを乗り越えて君が全ての真実を知った時、神を封印する方法を教えてあげよう」

 

 こいつは・・・・・本当に何者なんだ。どこから知っていて、どこまで知っている?

 何をすれば俺は助かる、その言葉は外に出ることはなかった。鎖で縛られて出すことが出来ない、とでも表せる。とにかく、なぜか言葉が出ない。

 

「さらばだ。次会うときは君たちが香港に来た時かな。その時の君が私に聞きたいことは予測がつくから、早めに言っておこう。

 ───()()()()()()()()()()()()()

 さて、監視もされているので私の仕事はこれまでです。狙姉(ジュジュ)機嬢(ジーニャン)、暴れると落ちてしまうからしっかり捕まっていていなさい」

 

「おい変態! 我がお前の頭を撃ち抜くアル! あとで覚えておけアル! 」

 

「お姉のパンツは渡しても私のパンツは絶対に渡さないヨ! 二回戦目が楽しみネ! 」

 

 狙姉(ジュジュ)機嬢(ジーニャン)のどちらかが言い終わると、仮面の男の後ろの壁が轟音をあげながら吹き飛び、そのまま外の暗闇の中に身を落とした。不知火は爆破された壁に駆け寄り、上半身を半分ほどだして外を覗くが、何もアクションを起こさないあたり見つけられなかったのだろう。

 

「だめだ、消えてしまったよ。あの人とは知り合いなのかい? 」

 

「あんな仮面をした男と会っていたら忘れたくても忘れねえよ」

 

「そっか。それより京条君、左目の横の傷の手当てをしよう。かなり血が流れてるみたいだし」

 

「これくらい大丈夫だ。悪いな心配かけて。正直、お前が来なかったら俺は首チョンパだったよ」

 

 不知火の前で首を斬られる仕草をすると、苦笑いで返されてしまった。

 本当のことなんだけどな。

 

「あの仮面の男の話ってどういうことだい? それにパンツって────」

 

「その話はやめよう。好奇心はネコをも殺す、特にパンツの件は恥ずかしすぎて俺が殺しに行くレベルだ」

 

「・・・・・分かったよ。京条君にも色々あるんだね」

 

 ちくしょう! イケメン不知火のことだからこれ以上の事は聞かれないだろうけど完全に引かれたぞ! なんであの場で過去の因縁(パンツ)を持ち出してくるんだよ!

 

「そうだ。こうのんびりしている暇はないんだ。京条君、今新幹線の屋根の上で遠山君と犯人たちが戦っている。京条君も参加して遠山君たちの援護を頼みたい」

 

「屋根の上か。分かった、案内してくれ」

 

 不知火のあとを走ってついていく。

 その間にあの仮面の男───武器商人の言葉が頭に浮かんできた。

 

『目の前にあるもの全てを疑え』

 

 この言葉が何を意味しているのか分からない。しかもあの男、俺が監視されているから迂闊に変なことは言えないらしい。監視されているといえば瑠瑠神しかいない。だとしたら・・・・・自分も殺される危険性がある。あの男も恐れる瑠瑠神に───俺は勝てるのか?

 

「着いたよ。この天井のフタを開けて外に出るんだ。靴の鈎爪(スパイク)は壊れていないかい? 」

 

 考え事はここで中断、ここからはまた戦闘だ。もしかしたら第二ラウンド、あいつらのどっちかとやり合うかもしれん。

 

「ありがとう。装備は揃ってるから大丈夫だ。怪我はしてるけどな」

 

「───本当は、もっとはやく援護に行きたかったんだ。だけど銃声と共に乗客が一気に僕たちのところに押し寄せて来てね。行くのに少し手間取ってしまったんだ。本当にすまない」

 

「あー・・・・・その乗客避難させたの俺だから、不知火に非はないよ。じゃ、行ってくる」

 

 靴の鈎爪(スパイク)をだしハシゴを登る。途中、地震並の揺れが車内を揺さぶり落ちそうになりながらも少し固めのフタの取っ手を回し、満天の夜空に上体を出した。

 

「・・・・・! 」

 

 その瞬間、今までに経験したことがない強さの風圧に吹き飛ばされそうになる。今この新幹線の速さは250を超えている──その屋上を流れる気流はジェットコースターとは比べ物にならない。

 

(こんな中キンジは戦っているのか!? )

 

 飛ばされないようにしっかり鈎爪(スパイク)を食い込ませて立つ。新幹線の上には、頭に包帯を巻いているレキ───その視線の先にキンジと二人のココがいた。ココ二人はこの風圧をもろともしない素早い動きでキンジを翻弄している。

 飛ばされないようにしっかり鈎爪(スパイク)を食い込ませて立つ。新幹線の上には、頭に包帯を巻いているレキ───その視線の先にキンジが二人のココがいた。ココ二人はこの風圧をものともしない素早い動きでキンジを翻弄している。

 

源義経(ゲンギスケン)・・・・・八艘飛(はっそうと)び・・・・・! 」

 

 レキの澄んだ声が耳に届く。何をするのか分からないが、とりあえず近寄ると───俺の存在に気づいていないのか、後ろ手で何かを放ると全力疾走でキンジのいる車両へ走り出してしまった。危険だと伝えるため口を開くと、

 

「んがっ!? 」

 

 口の中に固い何かが入り、歯にあたって高い音を奏でた。

 取り出して見てみると月光に照らされたそれは、一発だけで数百万円単位の武偵弾。しかも・・・・・この着色は、大爆発を巻き起こす超小型の液体気化爆弾である────

 

(炸裂弾・・・・・だとッ!? )

 

 全身から冷や汗が噴き出し、自らの本能が最大限の警告を鳴らしている。冷えた両手で心臓を鷲掴みされる悪寒に襲われ、異様に冴えた頭が俺自身に命令してきた。逃げろ。さもなければ死ぬぞ、と。

 振りかぶって投げている時間はない。そんな暇があるなら走れ、走れ、走れ!

 

「うぉぉぉぉ! 」

 

 武偵弾を空中に置き、人生で最も速いスタートダッシュを決める。こんなところで死ぬわけにはいかない!

 だが、少し離れた程度で無情にもその弾は爆発し──俺の背中で小さな太陽が後ろから抱きしめてくる。全てのことがスローモーションに見え、これが走馬灯なのだと実感した。もうすぐ俺はこの爆発に巻き込まれて、死ぬかもしれない。

 

 そしてその走馬灯すら焼き焦がす爆発と爆風に巻き込まれる寸前、ほとんど無意識のうちに、両腕に装着されている盾を胸の前へと持ってきていた。そして体を丸めながら爆発が起きた場所に振り向き─────

 

 

 飛んでいる、圧倒的強さの爆風に吹き飛ばされているという方が正しいかもしれない。綺麗な夜空とどこかのテレビ局のヘリ郡が視界いっぱいに広がっていた。それらは俺に、生きている実感と勇気、そして着地はどうするのだという不安を与えてくれている。強制的な押し付けかもしれない。

 放物線をえがいて新幹線の屋上に背中から叩きつけられ肺の空気が一瞬だけなくなる。ごろごろと転がり落ちそうになるが、雪月花を壁に突き立て絶えることのない風圧に必死に耐える。

 

「くっ! ・・・・・ファイトおおおお! 」

 

 足と腕を使ってなんとか這い上がると傍にキンジとアリア、そしてレキが俺を見て一歩後ずさった。なんか・・・・・引かれてるみたいだな。

 

「どうした。せっかく来てやったのに」

 

「あんた、死んだと思ったわよ」

 

「はっは、まさか炸裂弾が飛んでくるとは思わなかったよ・・・・・文の盾が無かったら全身焼かれて、あと金属片に顔を切り裂かれて死んでた。どこかしら火傷してると思うが、今は多分アドレナリン出て痛みがないってパターンだな。あとで痛い思いをするタイプだ」

 

「朝陽さん、すみません。危うく死なせてしまうところでした」

 

 レキは俺と目を合わせペコッと頭を下げた。

 

「気にすんな! 俺が声かけなかったからいけないわけだし、普通に今は生きてるから大丈夫だ。それより、頭の包帯はどうした」

 

「昨日ココに狙撃された時の傷です。こちらに乗り移る時に仕返しにと足のアキレス腱を狙ったのですが・・・・・他のヘリに邪魔されて撃てませんでした」

 

 表情には出さないが結構怒ってる感じだぞ。レキの狙撃を邪魔したヘリは───多分、藍幇のヘリだ。

 

「どこ見てるアル。相手はこっちネ」

 

 声のした方向を見ると、眼帯をつけた中二病ココと眼鏡をかけたココ二人がそれぞれ青竜刀を俺たちに向けていた。

 

「なに、これで四対二になったわけだけど。おとなしく投降しなさいよ」

 

「きひひっ! 違うネ、四対四アル! 」

 

 ココの言葉に違和感を覚え再び空を見渡すと、明らかにテレビ局のものではないヘリが車両後方からココ二人から少し離れた上空まで嘗めるように飛んできた。

 そのまま新幹線の速度に合わせると、そのヘリのハッチが勢いよく開かれた。中から出てきたのは・・・・・数十分前まで戦っていたココ──狙姉(ジュジュ)機嬢(ジーニャン)だ。

 

「四人もいるのか!? 」

 

「どいつもこいつも似てるのね。さすが姉妹だわ」

 

「気をつけろよ。降りてきた二人、強いぞ」

 

 狙姉と機嬢は中二病ココと眼鏡ココの横に並んだ。俺もキンジの隣に並び、四人で向き合う形となる。それぞれが直線上に位置する敵は、運がいいのか悪いのか、自らが得意とする戦闘スタイルが同じ組み合わせになっていた。

 狙撃手(狙姉)狙撃手(レキ)拳銃手(眼鏡ココとジーニャン)拳銃手(アリアとキンジ)、そして・・・・・俺と中二病ココだ。

 

「ちょっと、あたしと朝陽変わってよ」

 

「あとでいじめさせてやるから、目の前の敵とやれ」

 

「ふーん、約束よ」

 

 おい貴族様、そんなんでいいのか。

 

「これで揃ったアル。朝陽、今宵見る月が最後の月となるネ。しっかり見ておくアル」

 

「・・・・・おう」

 

「生を受けてはや十四年。封印し続けてきた我が紅龍ノ血眼(ブラッドアイ)怒り喰らう左腕(イビルバイター)の力、今解放するネ! 」

 

 左腕に巻かれている包帯を少しずつ取っていく。

 

「我の真名を名乗らせてもらうアル。我の真名は炮娘(パオニャン)! この腐った世界と腐った住民全ての絶望を我が生贄とし、絶望と爆炎で世界を覆い尽くす者! 」

 

 包帯を取り終えた左腕には二対の龍が螺旋状に絡みついている。そしてその左手を使い、右眼につけている眼帯を強引に引きちぎった。眼帯に隠されていた眼は、紅龍に相応しく真っ赤であった。

 

「我の前に立ち塞がりし愚かなる者に、我の力全てを以て等しく滅びを与えるネ! さあ、朝陽! 我が紅龍の最初の生贄となるのだアル! 」

 

 

 

「───お前のその右目、カラーコンタクトだろ。あと左腕の龍はステッカーだな」

 

「ち、ちがうアル! 」

 


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