俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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炮娘は、ぱおにゃんと読みます。

前回 狙姉と機嬢との戦闘、武器商人との出会い。そして第二試合開幕


第34話 其の熱線は好敵手の証

 既に新幹線は時速250kmを上回っている。一度足を踏み外せば死は確実。敵は手練れだが中二病。ふざけていると思える相手だが──あれでもキンジと戦っていて傷一つ負っていない。それどころか、これからが本番だと言わんばかりの表情だ。

 

「我たちの決闘に邪魔は許さないアル。我の愛する姉妹たちよ、別の場所で闘うネ」

 

 中二病ココ──炮娘(ぱおにゃん)が他の姉妹に睨みを効かせながら伝えると優雅に歩いて俺の元まで歩いてきた。何かしてくるのかと警戒したが、防弾制服の袖をちょこんと掴むと列車の後ろの方へ俺を引っ張っていく。

 

「な、何するんだ」

 

「別の場所で闘うって言ったアル。決闘ネ。やるカ? 」

 

「あ、ああ」

 

「だったらおとなしくついてくるネ」

 

 炮娘(ぱおにゃん)に促されるまま車両の後方へ歩く。俺が場を離れると、背後で銃声とアリアの気合の入った声が響き始めた。そっちはもう戦闘開始なんだな。死ぬなよ。

 

「なぁ炮娘(ぱおにゃん)

 

「何アルか」

 

「なんで俺と闘いたいんだ? アリアと決着はつけたくはないのか? 」

 

 一番の疑問だ。アリアと炮娘(ぱおにゃん)は『水投げ』の日に引き分けている。アリアと勝負するならその日の決着をつけたいという理由があるから納得できるが、なぜ俺なんだ。

 

「我は貴様に受けた恥辱を晴らしたいネ。そのためには、誰にも邪魔されない決闘が一番アル」

 

 ああ・・・・・そういえばそうだった。

 

「恥辱ね・・・・・幼女がよくそんな言葉知ってるな」

 

「よ、幼女言うなアル! これでも我は十四歳ネ! 我を侮辱することは我が紅龍を侮辱するのと同じことアル! 万死に値するヨ! 」

 

 両手を振り上げ顔真っ赤にして怒ってきた。敵でなければ年相応の反応で可愛いんだがなあ。いやそのままでも可愛いけど。

 

「そうか。まあいいや。逮捕ね」

 

 腰から結束バンドを取り出し俺の左手首と炮娘(ぱおにゃん)の右手首に巻き付ける。炮娘(ぱおにゃん)は最初何が起きたか分からない顔をして───絶叫した。

 

「ええええええ!? 何アルかこれ! 」

 

「何って、結束バン───」

 

「そうじゃないアル! なんで結束バンドで我が右手とお前の左手を繋いでるアルか!? これから決闘するって言ったの聞こえなかったネ!? 」

 

「ああん? 俺が決闘なんてわざわざやるわけないだろ。キンジとかアリアじゃないんだし。捕まりに来てくれてありがとな」

 

「ひ、卑怯者アル! 」

 

「まさか俺が諜報科のSランクってこと忘れてるんじゃないよな? なにが好きで死ぬかもしれない決闘なんてやらなきゃいけないんだ。しかも、諜報科にとって卑怯者は誉め言葉だ」

 

 炮娘(ぱおにゃん)に抵抗される前に左腕を捻りあげたが、その場で小さくジャンプすると両足をそろえ、

 

「おりゃぁ!」

 

「ぐぉ⁉」

 

 腹にドロップキックをかましてきた。幸い距離が近すぎたからそれほど威力は出ていなかったはずだが、結構痛かったぞ!

 ぱおにゃんはぐぬぬ、と俺を睨むと左腕の袖から小型のナイフを抜き首元を抉り取ろうと飛びついてきた。間一髪でそれを避け炮娘の腕を背中にまわしナイフを取り上げる。

 

「どこまでも汚い男アルね! 」

 

「くっ・・・・・どうもありがと! 」

 

 炮娘は頭を大きく後ろに反らすとその勢いにのって、

 

「うらァ!」

 

 女の子が出してはいけない部類の声と共に高速で頭突きが迫ってきた。離れようにも結束バンドが邪魔して離れることは出来ない。だから俺も炮娘に合わせるようにして頭突きを繰り出す。

 ぶつかった瞬間、固い物がぶつかる鈍い音を生み出し、俺も炮娘も反動でのけぞりあった。互いの手首を結束バンドで巻き付けているため、いったん体勢を立て直すこともできない。

 

「いってえな。お前どんだけ石頭なんだよ!」

 

「ふん、貴様らみたいな平和ボケしてる日本人とは違うアルよ。それに決闘をつぶされて腹が立ったケド、気が変わったアル。今から『チェーン・デスマッチ』もどきをやるアルネ」

 

「よりによってチェーン・デスマッチか。互いの腕を繋いだ状態で武器もしくは素手で戦うやつだろ? それは野蛮すぎだ」

 

 チェーン・デスマッチ。古代ローマの闘技場で発祥した伝統的な決闘方法。特性は二つ、対等な条件で行われることが分かりやすい事。そして、絶対に逃げられないことだ。今は結束バンドだから刃物を使えば簡単に抜けられる。決闘なんてやりたくないと、雪月花を抜刀しようととしたが、

 

「野蛮じゃないネ! それに貴様は一つミスしたアル。それは我が怒り喰らう左腕(イビルバイター)を拘束しなかったことネ! 」

 

 炮娘が右手を引き、連られて俺も引っ張られ雪月花を出すことは叶わなかった。その代わり炮娘の拳が顔面に迫るが首を横に反らすことでギリギリ回避。その間に懐に入ろうとするが素早く距離を取られ、代わりに下から顎を蹴りあげるサマーソルトキックを放ってきた。

 ほとんど反射的に顎を引いたが、つま先が少しかすめてしまい視界が少し揺れた。

 

「近接戦闘苦手アルか? 」

 

 意地悪そうな笑みを浮かべ挑発してくる。

 

「はっ、苦手なものをわざわざやると思うか? 」

 

「それもそうアルね」

 

 今度は左腕の袖から拳銃───92式手槍(拳銃)を持ち突きつけてきた。

 

「貴様、我が妹の勧誘を断ったネ? それは運命に背くことアルよ」

 

「知るか。運命なんて信じてないんでね」

 

「もう一度、貴様に問うヨ。藍帮(らんぱん)に来ないアルか? 」

 

「──何度も言うが、そんな変人だらけのとこ誰が行くか! 」

 

 撃たれないために銃口を叩いて向きを変えさせ──頬をなぞるように銃弾が抜けていった。

 あとほんの少しでも遅れていたらあの世行きだったな。

 

「ちっ」

 

 炮娘はあからさまに不機嫌な顔をすると再び俺に92式手槍を向ける。今ここで俺のHK45を抜こうとすれば、その間に頭に風穴を開けられて終了。どうしても拳銃での応戦はできない。咄嗟に右の手の平を内側に向け盾を俺と炮娘との間に持っていき──

 

「ハハハハッッ! ならば死ネ! 死ねアル! 」

 

 鳴り止まぬ銃声と至近距離から浴びせられる9mm弾の雨が右腕の盾を通じて重く伝わってくる。一つ一つの威力力は防げるんだが・・・・・何十発ともなると話は変わるんだ。しかも炮娘の援護射撃──7.62mm弾を受け続けたせいで盾がボロボロの状態。いつ9mm弾が貫通してきてもおかしくない。

 

「守ってばかりじゃ殺られるだけアルよ! 」

 

「言われなくても分かってるよ! 」

 

 陶器が割れるような心地よい音とマズルフラッシュが互いの間で衝突し合う。

 

「チッ、これだけじゃ壊れないアルか」

 

「そんな舌打ちばかりしてると折角可愛いのに男に逃げられちまうぞ! 」

 

 ガチッ! と金属が噛み合う音で弾切れを確認し、その瞬間に炮娘の手から拳銃を離させるため炮娘の右手を押さえる。抵抗されると思ったが……簡単に捕まえられた。してやったり、と炮娘の顔をドヤ顔で見つめると、

 

「・・・・・な、何を言うアルか・・・・・」

 

「──は? 」

 

 アリアが恥ずかしいときに見せる真っ赤な顔と同じ顔をしていた。横に本物がいたら見間違えてしまうほど。

 

「我は可愛くないアル! 精神攻撃ネ!? 」

 

「精神攻撃なんかしてないぞ? お前が勝手にそう感じてるだけだ」

 

「そ、そうアルか。流石、我がライバルネ」

 

 よし、これで変な誤解を──ちょっと待て。

 

「ライバルってなんだ!? 」

 

「貴様のその目、鮮緑に光ったらしいアルね。そして何らかの力を出したと我が妹から聞いていたアル」

 

 だめだ。長年の勘が、これに付き合っていたらろくなことにならないと告げている。

 

「我が深紅の瞳と貴様の鮮緑の瞳、対を成す者同士アルよ」

 

「俺の瞳は黒だ! てか赤の反対って青だろ!? 」

 

「青──紺碧の瞳を持つ者もいつか現れるネ。というか我も力を出していないときは黒アル! 」

 

 よし、また変なことを言い出す前に逮捕してしまおう。

 俺は掴んでいる手を捻り戦闘不能にしようとしたが、

 

「朝陽! 貴様は我の本当の力を見ていないアル。今から我が全力を以て貴様を・・・・・我がライバルを撃ち滅ぼすネ! 」

 

 あっさり手から抜けられてしまい、ついでに俺の左手首と炮娘の右手首を繋いでいた結束バンドも袖から抜いた小型ナイフで斬られてしまった。

 

「チェーン・デスマッチはどうした!? 」

 

「つまらないからやめたアル! 」

 

 炮娘は俺から十メートルほど離れ、ナイフを夜空に投げ捨てると、

 

緋滅裂槍(ひめつれっそう)ッ! 」

 

 袖から赤く短い棒を何本も取り出しそれらを連結させ、一本の真っ赤な槍が完成させている。槍の先端は真ん中が横に膨らんでいる一般的な槍だが、炮娘はさらにもう一つ赤色の刃を取り出し、それを持ち手の下──槍の先端のもう片方に刃を装着させた。槍の両端に刃がある、ロマン武器だと思っていたが、つけた刃は二股に分かれていて殺傷能力が高そうだから・・・・・侮れないな。

 

「それはあれか。双頭槍か」

 

「そうアル。よくわかったネ」

 

 双頭槍は槍の両端に刃があり、普通の槍のメリットであるリーチが生かせない。だが炮娘ほどの身軽さならば、一本の刃で突きをするより二本の刃で踊るように相手に畳み掛けた方が強い。

 

「ヤヤッ! 」

 

 炮娘は左手でその槍を持ち大きく振りかぶると───右の真っ赤な眼を見開いた。その眼はまさに獲物を狙うハンターであり、今は俺が獲物だ。二股に分かれた真っ赤な矛先が月光に照らされ妖しい輝きをその場に残すと、

 

「エイヤッ! 」

 

 豪風を切り裂き、目を疑う速さで迫ってきたそれを、

 

「───ッ!? 」

 

 刺さる前にかろうじて両盾で防ぐことに成功したが、それもあと少し二股の刃が長ければ死んでいた。

 両盾を貫通して眼球に刺さる直前で止まっているからだ。

 そのことに戦々恐々としていると不意に盾を引っ張られる感覚と共に槍が抜かれ、すぐ傍まで来ていた炮娘の手の中に戻っていき、

 

「アイヤッ! 」

 

 槍を一回転グルッと回し俺の右肩に振り下ろしてきた。俺は雪月花に手を伸ばし肩と槍との間に滑り込ませると火花を散らしながら槍は外れた 。

 すぐさま槍を切断しようと雪月花で二股刃の元を斬り上げたが、金属特有の甲高い音が鳴り弾かれてしまった。

 

「くそっ、強いな」

 

「今更アル」

 

 今度は普通の刃の方で、的確に急所を突いてくる。この暗い中、僅かな光を頼りに切先だけを見切るのは難しいができないことはない。

 突きの連撃を雪月花で受け流し、あるいは避けていく。風を切る音が耳元で何度も何度も鳴り、時折首の皮膚を削り取っていく。

 

「セイっ! 」

 

 最後の突きをかわすと、炮娘はその場で一回転し、二股の槍を振るう。即座に雪月花で応戦し、眩しいほどの火花が炮娘の顔をよく照らした。

 

「なに、笑ってんだ!? 」

 

「楽しいからに決まってるネ! 」

 

 炮娘少し後退すると、再び槍を投擲。溜めがなく速度もさっきよりは遅く、今度はしっかり盾でガードしきれた。地面に落ちたそれを新幹線の上から蹴り落としたが、吸い付くように炮娘の手に戻っていく。

 

「なんだ、極細ワイヤーでもついてるのかそれ」

 

「我が槍は世界に一つだけネ。とっても神聖なものアル」

 

 走り出そうとしたが、列車が加速したのか前のめりに倒れそうになる。炮娘はそれを察知していたのか、小さな体格を活かして距離を一気に縮めてくる。

 

「ヤッ! 」

 

 突き出された一つの鋼の刃。それは確実に目を潰しにきている。避けられないことは無い。だが、このままジリ貧になって戦い続けていれば・・・・・おそらく負ける。こっちはもう両腕が数々の重い攻撃に屈服して痺れてるからな。多少の怪我をしてでも流れを掴まないと死ぬ。

 

 感覚に身を任せ、少しだけ体の重心をずらす。刃先は眼球ではなく、狙姉の銃撃で負わせられた目の横の傷をさらに抉り後ろへ抜けていく。傷口に針を何本も刺される痛みに呼吸が一瞬止まるが、それでも前に進む。炮娘が目を開き、驚いているのが痛みで鈍った思考の中でも分かり、思わずニヤけてしまう。

 

「炮娘! 歯ぁ食いしばれぇ! 」

 

 懐に潜り、今までに溜まったストレスやら全てを込めて炮娘の腹に一撃。自分が出せる全力の蹴りをいれ、

 

「ごほっ!? 」

 

 小柄な体は人形のように遥か後方へと飛び──綺麗に着地した。追撃を加えようと思ったが、足を止めざるを得ない。なぜなら、

 

「きひっ、きひひひひっ! やっぱり強いネ」

 

「今出せる全力の蹴りが当たった瞬間に衝撃を吸収したお前の方が強いと思うが」

 

「ますます気に入ったアル。どうアルか、朝陽。我の・・・・・そ、その・・・・・む、婿にならないアルか? 」

 

「───いや、意味わかんねえよ」

 

 いきなり婿に迎えるとか、顔を真っ赤にして言われても困るんだが。

 

「我達は我達と同等、またはそれ以上の強さを持つ男と結婚しろと言われてるアル。我は貴様とけ、けけ結婚しろと言われているアル。朝陽、貴様ならか、顔もまあまあ良いし、料理も出来ると聞いてるネ。我の婿になって毎日鍛錬し続ければいつかは最強になれるアル。我から願い下げなのだが、どうアルか? 」

 

「断る。おはようからおやすみまで死ぬ思いをしたくないからな。それに───お前とはそういう関係になるんだったら、一生のライバルという立場の方がずっと気が楽だ」

 

「・・・・・きひっ、きひひひっ! 我もそっちの方が良いアル! それならば、我が一生のライバルになった証にとっておきを見せてやるネ。我が必殺の奥義を! 」

 

 槍を右手に持ち替え、左腕を天高く突き出した。

 月明かりが、それを照らし出す。

 静寂がこの場を支配している中、炮娘が口を開く。

 

「最高最強にして最大。唱えられし詠唱は天地に響き渡り、紅き黒炎はその身を焦がす。万象等しく灰塵に還す! 」

 

 突き上げられた左腕に描かれている二対の紅龍が紅色の光を持ち、炮娘の右眼の前にスコープのようにして魔法陣が現れ・・・・・え?

 

「喜びの咆哮は世界に轟き、絶望の歌がこの世を支配する! 」

 

 怒り喰らう左腕(イビルバイター)とやらを俺に向け──それを何かが覆っていくのが見えた。手のひらに紅色の光が集まり、今にも手のひらから零れ落ちそうになっている。

 あれは・・・・・何とかしないとやばい! いや、何とか出来ないから避けないと! キンジ達も巻き添えを喰らう!

 

「この世に顕現せし我が力を、しかとその眼に焼きつけたまえ。そして美しい月を見る度に思い出せ! これが我が必殺の奥義!

これが、我が怒り喰らう左腕(イビルバイター)紅龍ノ血眼(ブラッドアイ)の力!

 穿て──真紅龍ノ咆哮(ブラッディ・ロア)! 」

 

 俺はHK45を抜いて、炮娘の詠唱中にキンジの足元に三発撃った。キンジ達とココ姉妹は炮娘を見ると、離れた場所にいる俺にも分かるほど青い顔をして、横に飛んだ。

 俺もキンジ達と同じように新幹線の横に張り付くため横に飛び────

 

 

 

 閃光。俺達がいる場所だけが昼、いや、それ以上の明るさを持った筒状の閃光が駆け抜けていく。

 閃光と共に来たのは圧倒的熱量。この世の全てを灰にすることが出来る熱量だ。射線上にあった山は、通り過ぎてもう遠くにあるが、ここからでも分かる。破壊の限りを尽くされ、もう山の原型を留めていない。木々は灰となり、不毛の地に肥料として眠り始めた。

 俺が数秒前まで立っていた場所も熱により白煙をあげている。

 

「お・・・・・おい。なんだあれは」

 

「ふぅ・・・・・ふぅ・・・・・我が最終奥義アル、よ」

 

 肩を大きく揺らし息遣いも荒い。

 振り向けば、キンジ達は全員無事だが──目を丸くしてこっちを見ている。

 

「お前ら姉妹に当たったらどうするんだ。結果は誰にも当たってないけど」

 

「きひっ、当たるはずないアル。あの子達は我の奥義を、知っているからネ」

 

 それより、と続けて炮娘が列車の上に座り込んだ。

 その際に、ガシャン、と炮娘の背中から何か金属のような物が線路へと落ちていった。

 

「支えて、くれないアルか? このままだと滑り落ちて死ぬ、アルよ」

 

「それってどういう・・・・・」

 

 力を全て出し切った感じの炮娘は列車の上をズルズルと滑っていく。

 列車の上から滑り落ちる寸前に手を掴み引き寄せると、炮娘は一つため息をついた。

 

「あれを使うと動けなくなるアル。助けてくれてありがとネ」

 

「あれって・・・・・線路に落ちたやつか。なんなんだあれは」

 

「武器商人から貰った、我が究極たる力の補助装置アル。あれが無ければ世界が焼き尽くされてしまうネ」

 

 炮娘はこう言うが・・・・・絶対あれがないと撃てないだろ。あんなアニメでしか見たことないような熱線は。どんな材料を使ったらあれが撃てるのか知りたいものだ。

 

「てか、お前はマヌケか。動けなくなったら逮捕されるだろ」

 

「別にいいネ。今回は引き分け、あれ以上戦っても我が勝ってたアル。捕まってもどうせ引き渡されて釈放されるヨ。それに──貴様は傷を負っている状態で我と戦っていた。フェアじゃないアル」

 

「・・・・・ああそうかい。そりゃどうも」

 

「それより自分達の心配をした方がいいアル。この新幹線はあと少しで東京駅着くネ。このまま行けばドッカーンアルよ」

 

 背後で再び始まっていた銃撃戦が鳴り止んでいた。決着がついたんだろう。

 腕の中にいる炮娘はニヤリと笑っている。

 

「最悪な修学旅行だな。なんで修学旅行で四回も死にかけなきゃいけないのか、本当に運がない」

 

「神を恨むアルね」

 

「はっ、神なんざ豚にでも食わせておけばいい。ろくなのがいないし、助けてもくれないからな。身を以て知ったよ」

 

「相当嫌っているアルね」

 

「まあな。でも、武偵校の仲間なら信じてる。『仲間を信じ、仲間を助けよ』って校訓にもあるから。助けてくれるさ」

 

 この列車の警笛ではない別の警笛が、背後から鳴り響く。

 

「今回の件で身を以て知ったよ」

 

「・・・・・確かに、今回は我個人としては引き分けネ。だけど、これはしてやられたアル」

 

「だろ? 持つべきものは友だ」

 

 ジリジリと迫ってくるもう一台の新幹線を見て、炮娘はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 ココ姉妹を見事制圧したキンジ達と合流し、新幹線の中に戻る。炮娘以外のココ姉妹は一人だけ足りなかった。三人のはずだが、一人消えて二人だけになっている。

 

「あと一人どこいった? 」

 

「パラシュートでどこかに逃げたよ。確か名前は・・・・・狙姉(じゅじゅ)だ」

 

「あいつか。特に驚きはしないな」

 

「なあ朝陽。一つ・・・・・いや、二つ聞くが、あの光線はなんだ? あとなんでお前らそんなに仲良くなってるんだ? 」

 

 キンジは俺にお姫様抱っこされている炮娘と俺を指さして少し引いている。

 

「武偵とは、なんの略称だ? 」

 

「なにって、武装探偵だが」

 

「そう。探偵ならば自分で推理するんだな。しかもお前は探偵科だろ? 」

 

「───分かったよ。だけど後で答え教えろよ」

 

「はいはい」

 

 キンジが考え始めた時、真横で並走している救援新幹線の扉が開けられ、チューブを通ってこっちに乗り移ってきたちびっ子が一人。尻もちをついて痛がっている無邪気なその子は───

 

「文、久しぶり」

 

「久しぶりなのだ! 」

 

 でかい工具箱と、チューブから用途不明の機材を引き込みながらキンジにもウインクをしている。

 そのウインクが両目を閉じる不器用なもの。それはそれで可愛いんだが、

 

「平賀さん、できそうか? 」

 

「Nothing is impossible! 」

 

 不可能はない、か。いい言葉だな。

 

「じゃああとは頼んだよ。文」

 

「ま、任せてなのだ! 朝陽君が死んじゃったら、あややも困るのだ! 」

 

「あ、あやや! 漏れちゃう! 早くしてぇ! 」

 

 座席の方から理子の泣きそうな声が聞こえた。炮娘を抱えたまま理子の元まで行くと、股を押さえてうー、と唸っている。

 

「ろ、漏電しちゃう! はやくはやく! 」

 

 座席の横には大量のいちご牛乳。そりゃトイレにも行きたくなるわ。

 

「自業自得だな。それに漏電ってちょっとひわ──」

 

「殺すぞ」

 

「うぃっす」

 

 一気に冷たい眼差しを向け殺意もむき出しにしてきた。

 

「あと何、その腕の中にいるココ。炮娘か? 」

 

「その声は理子アルね。力を使い切って動けないから抱いてもらってるアル」

 

「ダーリン? 浮気は、ね? 」

 

「浮気じゃないから! ロリコンじゃないから! 」

 

「我はロリじゃないアル! 」

 

 いつもの理子との口喧嘩。時間はあまり経っていないはずなのに、心が安らぐのを感じる。

 元いた場所に帰ってきたと心が暖かくなるな。

 

「よし、ブレーキだ武藤! 」

 

「・・・・・え」

 

 キンジの絶叫が合図となり───車輪が一瞬だけ空転する音。それに続いて耳を劈くブレーキ音が列車内を暴れ回った。吹き飛ばされるように理子の横の座席に背中を付け、炮娘を落とさないようしっかり抱いて、減速のGに耐える。洗面室の窓が全て破壊され、ボンベらしきものが壁際まで転がっていく。

 車両の下からはオレンジ色の光が弾けている。このまま止まらないかと冷や汗を流したが───駅のホームに入り、ゆっくりと停車した。

 

 窓の外には『東京』の文字。

 

「ほら、世界一運が悪い男がここにいても列車は止まったぞ」

 

「そうみたいアルね。でもこれは運じゃなくて運転手の力アル」

 

「ダーリンのせいで死んでたらあの世でずっといじめられたのに、残念。それよりトイレ! 」

 

「お前ら少しは俺の心配をしてくれよ」

 

 理子はドタドタと列車の中を駆けていく。

 炮娘を抱えたまま外に出ると、土嚢やら列車が集中して置かれている。もしもの場合、というやつだな。

 こんなことしても意味無いと思うのだが・・・・・

 

「あんた達、お姉ちゃんに投降を促すなら電話貸すわよ」

 

 バツ印に重ねられたココ姉妹の内二人の上に座って腕組みし、お澄まし顔で勝ち誇っていた。

 

「こいつらのヘリは捕まえられなかったらしい。なんでも、途中で突然姿が見えなくなったとか言ってな。撒かれた言い訳にしか聞こえないけどな」

 

「武藤、ありがとな。お疲れ様だ」

 

 キンジが武藤の肩を叩くと、武藤は恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

「武偵憲章一条に仲間をなんとかって言ってるだろ? それより駅弁──龍陽軒のジェット焼売食いたいんだが」

 

「武藤君! こっちから出られるのだ! 」

 

「キンジ、朝陽。後は任せたぜ! 尋問科にでも引き渡してこってり搾ってもらえ」

 

 ボンベを抱えて目をキラキラさせている文と駅弁が食いたいらしい武藤はホームから小走りに出ていった。

 キンジはココ姉妹の持ち物を漁り始めると、袖から色々な小道具が出てきていた。

 

「疑問なんだが、お前らってどれだけ隠し武器あるんだ? 」

 

「それこそ、武装探偵なら自分で調べろアル」

 

「今ここでお前のパンツをまた銃弾で切ってもいいんだぞ? 直接は普通に犯罪になるからやらないけど」

 

「そんなこともあろうかと、今日はパンツ二枚履いてるアル」

 

パンツ二枚重ね(パンツダブルフェイント)・・・・・だと!? 」

 

 炮娘は、はぁ、ため息をつき俺を睨んだ。

 変態は死ねって目つきだ。今の成長した俺なら分かる。

 

「あと一つ貴様に教えてやるアル」

 

「な、なんだ」

 

「我はもう動けないネ。だけどほかの姉妹はまだ動けるアル。そしてここにいない者が一人。これが何を意味するか分かるネ? 」

 

「───まさか」

 

 急いでホームを見回す。土嚢の影、文が出ていった出入口。どこにも狙姉の姿は見当たらない。だが、

 

「妹たち、撤退ヨ。一旦、香港に戻るネ! 」

 

 ホームの端に足を引きずりながらM700を構える狙姉(じゅじゅ)の姿があった。

 

「第三試合、開幕アルね」

 

 腕の中の炮娘がそっと呟いた。その声は楽しそうであり、俺の不安を煽るものだった。

 

 

 




次話は短くするので早めに投稿出来そうです。

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