俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 理子を説得


第44話 誓いは想いに届く

 目の前のトラウマに宣戦布告。理子にとって夢にも思わなかったことだろう。それはヒルダも同じ。まさか自分のオモチャになるはずの理子が楯突くなんて絶対にあってはならないこと。

 

「貴様ら・・・・・! 」

 

 槍を握る力は強く、冷たく輝く爪同士が───まるで金属を擦り合っているような不協和音を奏でた。

 爪とは本来ケラチンというタンパク質が変化したもの。決して冷たい独特の音色を奏でることは無い。

 ・・・・・あの爪にも注意を向けないとな。

 

「最初から最後まで、私のオモチャになっていればいいものを───無駄死にだわね」

 

「はっ! 死なせねえよ。生きてまたデートする、それが俺と理子の願いだ。お前なんかに邪魔されてたまるものか」

 

「くだらないわ。やっぱりニンゲンなんて、醜くてオモチャにしかならない下等生物なのね」

 

「ああ。醜くてすぐ壊れるのがニンゲンかもしれない。吸血鬼ごときも同じだと思うがな」

 

 キィィ・・・・・と、金属が擦れる音。

 これがヒルダの赤黒く染まった牙が歯軋りした音と気づいたのは、目の前で死の匂いを漂わせた槍が目前に迫っていてた時で───

 

「そうだな。醜い、なんて言葉はニンゲンのためにあるのかもしれない」

 

 ───時間超過・遅延(タイムバースト・ディレイ)

 発動するのは槍を躱すほんの一瞬だけ。神速の域に達した穂先は見る影もなく、懐に潜り込むことを許してしまった。そして、()()()()を解除する。

 

「醜くてバカで弱くて、どうしようもないヤツらだ」

 

 雪月花を深紅の槍に火花を散らしながらヒルダの腕へと奔らせていく。

 半端な後退では腹を裂かれて絶命。ただ無計画に飛び込んでも、圧倒的な筋力から繰り出される柄による殴打の餌食となる。ならば、その前に槍を持った右腕ごと切り取ってしまえば良いのだ。

 

「だがそんな愚か者たちに、命を懸けてまで守りたい人ができたとする」

 

 ヒルダにとってもこの速度は絶対に見切れないと踏んだ上での刺突だ。いくら身体能力が格段に跳ね上がろうと、その速度で切り返し避けることは不可能。なおかつ溜めていた力を解放するために、ヒルダは体を捻らせて右腕一本に全力を注いでいた。確実にその右腕、盗らせてもらおう。

 

「愛し愛され、相手を失いたくない気持ちが際限無く湧き出てくるだろう」

 

 雪月花はヒルダの雪のように白い皮膚を掻き分け、紅色の花を散らしていく。

 抵抗は一瞬。肉を裂き、骨を断つ感覚は瞬く間に過ぎていき───雪月花は紅色に濡れた刀身となって再び現れる。

 

「ぐぅ! 」

 

 痛みに歪んだ声はすぐ側を通り抜け壁に背をぶつけた。

 度重なるダメージと四肢の一つを失ったことに苛立ちを隠せていないのか、残った左手の指力だけで壁の一部を剥がしている。

 俺は左手に持ち替えた雪月花に付着した血を払いながら切先をヒルダに向ける。改めてこれが、弱き者の宣戦布告だと。

 

「その時ニンゲンは、初めて強くなれる」

 

「何を・・・・・そんな紛い物、私には通用しない! 」

 

 逆再生のように回復していく右腕を天に向かって上げると───稲妻が走ったと錯覚するほど素早く、ヒルダの手元に泥と血で汚れたハルバードが舞い戻ってきた。

 先刻まで地面を抉り、大気を切り裂き、館の壁を破壊し尽くしてきたそれは、乱雑に扱われていたにも関わらず刃こぼれ一つしていない。

 手元で軽々と回転させ、コツコツとパンプスの心地よい音を鳴らしながらゆっくりと歩み寄ってくる。

 

「お前ほど憎い存在だと思ったことはないわ」

 

「そうか。俺がお前の初めての男だってわけか」

 

 軽口を聞き流すほど今のヒルダは冷静ではない。

 殺気だった猛毒の心が万物を裂断する刃となり斬り込まれる───その瞬間。

 

「朝陽! 」

 

 張り詰めた声の主が自分の名前と共に何かを投げたのが感覚的にわかった。吸い寄せられるまま右腕を背後にのばすと───衝撃緩衝材のトンネルを腕が通り抜けていく感触。自分の腕のサイズにピッタリ合い、尚且つこの取り回しの良い重量感。

 

「サンキュー、キンジ」

 

 ただの横薙ぎ、されど残像を生むほどの速さで振るわれた一撃。普通であれば人間の筋力で防げるはずもなく盾ごと真っ二つになるが───瑠瑠色金で筋力がブーストされた右腕が俺にはある。

 雪月花を左手から右手へ、迫り来るハルバードを叩き割る勢いで振り下ろした。

 思わず耳を塞ぎたくなる高音。右腕から体全体が麻痺する感覚が遅れてやってくる。常人が受ければ右腕はあまりの威力に消失していただろう。しかし、雪月花はハルバードの刃先に深々とめり込んでいた。

 

「このっ! 」

 

 火花を散らすことをやめ、ヒルダは次の攻撃をすべくハルバードを自身の頭上へと持っていく。

 だが自分の隙をわざわざ晒したことを見逃す()()()()()ではない。

 

「隙だらけだコウモリ女」

 

 レッグホルスターからHK45を盗み取りながら脇を走り抜ける。そのままヒルダの懐へ潜り込むと、胸の下と右太ももの魔臓を撃ち抜いた。無駄のない洗練された動きだ。

 

「四世のくせに! 」

 

 振り下ろされたハルバードは一直線に理子の頭へ。

 だが理子は構わず次の攻撃への体勢づくりをしている。避ける気がない、傍から見ればそう思うだろう。

 

「キョー君」

 

「言われなくても」

 

 実際そうだ。避ける気がない。

 俺が盾で防いでくれることを分かっているからだ。

 横薙ぎの時とは違い、威力がまだ充分に乗っていない速度。しかも身の丈を遥かに超えるハルバードは狭い室内で思い切り振れるものじゃない。

 これならば盾で受け止められる・・・・・!

 

 ガギィ! と激しく火花を散らしながら盾内部へと刃が侵入する。その威力と刃に腕がもぎ取られそうになるが、紙一重の所で衝撃まで完全に殺してくれた。

 

 ヒルダはハルバードを再び持ち上げて斬る時間はないと判断。即座に前蹴りを放つが、理子はそれが来ることが分かっていたかのように受け流し、いつの間にか拾っていた隠しナイフで左太ももの魔臓を突き刺した。

 

「おのれ! 」

 

 ヒルダはコウモリ型の翼をはためかせ、宙へと舞う。

 HK45から放たれた.45ACP弾は四つ目の魔臓であるへその下から僅かに外れ着弾。

 ヒルダは空きっぱなしの窓から、雷が鳴り響き今も豪雨が吹き荒れる外へと逃れた。このままだと不利だと、あの小さな頭でも身に染みてわかったらしい。

 

「アンタたち、大丈夫──って朝陽! ボロボロじゃない! 」

 

 戦闘時は却って邪魔だと察知してくれて入口に控えてくれてたキンジと、アリア。

 二人の防弾制服は所々焦げている。素肌が制服の至る所から姿を現していた。コンビネーションバッチリの二人でも肩で息をするほどの激戦だったらしいな。

 俺と理子は共に足並みを揃えて歩み寄る。

 

「まあ、な。背中と脇腹に刺し傷、重症といえばこのくらいだ。アリア、そっちの装備はどうだ」

 

「弾は二発だけ。小刀は一本へし折られたわ」

 

「キンジは? 」

 

「あとマガジン二つ。刀剣類はナイフと剣だけだ」

 

 最悪な状況・・・・・だな。

 理子の体に毒が回りきるまであと八分ってところだが、ヒルダの魔臓を全て撃ち抜くにはギリギリだ。

 体力的にもはやくヤらないとこっちが死んじまう。

 

「朝陽、お前の盾少しだけ使わせてもらったぞ」

 

 と、キンジは俺の右腕に装着されている盾を一瞥した。言われてみれば記憶にない傷が深々と切り刻まれている。

 

「おい、弁償代はキッチリ払ってもらうぞ」

 

「最近金欠なんだ。()()()()()()()

 

 ・・・・・割り勘か。

 奢るのではなく、この先ヒルダを倒して助かるってのを前提に考えてくれてる。頼もしいというか何というか──キンジが仲間で良かったよ。

 

「───ん、なんだ? 」

 

 館全体に灯っていた明かりが、ポツポツと消えていく。停電というわけではない。一階から徐々に、規則性を以て消えていく。こういう場合、俺たちが立っている場所から徐々に明かりが灯っていくはずだが・・・・・ヒルダらしいな。

 私は一階にいるから来い───ってか。

 

「この先だな」

 

「そうだな。アリア、マガジン一つ分やる」

 

「あら、ありがと」

 

 アリアに残り一つのマガジンを投げる。アリアの使うガバメントとHK45の使用弾薬は、同じ.45ACP弾。仲間と同じ拳銃弾を使用すれば、こういった弾切れの時も役に立つな。

 

「───行くぞ」

 

 倒さねばならぬ敵がいる一階へと走り出す。

 重たい足を無理やり動かし、痛みに飛びそうな意識にすがりついて何とか持ち堪える。これが終われば理子は自由になれる───そう心に深く刻み込んで。

 

 時間もあまりない。こんなとこでモタモタと時間を食ってちゃ()()()()になる。

 理子も死なせたくない。その一心で足を運ぶが、キンジとアリアの背中が少しずつだが遠ざかっていく。二人が速く走っているわけではない。ただ俺が──遅くなっていくだけで・・・・・

 

「キョー君、大丈夫? 」

 

 一旦止まろう、と腕を引っ張られ目眩に倒れそうな体を支えてくれた。

 

「ありがとな・・・・・大丈夫かって聞かれたらその反対だ。だけど、負けるわけにはいかない」

 

「理子も、絶対に勝つ。これとココに貰ったアレがあるからね」

 

 理子は懐から、ウィンチェスター・M1887──ショットガンと、拳サイズの香水瓶を取り出した。

 ショットガンの方は銃身を短く切り詰めて隠密性を高くしている。香水瓶の用途はともかく、

 

「どこにそんなの隠してたんだ? 」

 

「くふっ、理子も遊んでるだけじゃないんだよ? あとこの香水瓶の中身、酸素に触れると爆発する気体爆弾だからね。しかも超強力だから。もし死ぬとしても理子はアイツに一矢報いたい」

 

「───万が一、死ぬことがあれば一緒に死のう。だがその万が一は今じゃないぞ」

 

「もちろんだよ」

 

 長く暗い廊下、暗闇に溶けていく二人の背中。

 再び走り出し、何度もコケそうになりながらも、粉々にされた玄関扉が見える踊り場に出た。キンジとアリアは、外を一望できるデカい一面窓を背に。踊り場から一直線上にある玄関をジット睨み続けていた。

 

「これで役者(オモチャ)が揃ったわね」

 

 声のする方向───踊り場と玄関のちょうど間ほどに、ヒルダは静かに佇んでいた。距離にして約15メートル。瑠瑠神の能力を使わなければすぐには詰められない。

 

「オモチャって言うのはな。遊ぶためにあるものだ。遊ばれるためにあるんじゃないぞヒルダ」

 

「使う場所がいけなかったの。凧揚げするのに狭い場所じゃ出来ないでしょう? 」

 

「凧揚げも電線に引っかかれば遊べなくなるがな」

 

 理子の部屋とは広さも天井の高さも段違い。外ほどではないがここならヒルダの強化された身体能力は随分と発揮される。

 それに加え、目を凝らさなければ見えない暗闇。ヒルダからすれば昼間と変わらず動けるが、俺たち人間はそうもいかない。キンジとアリアが加勢しても不利なことは変わりないな。

 

「そういうことよ。アリアと遠山のせいで、充電で得られた電気は微々たるものだけど。貴様らを殺すのには充分だわ。一人はもうすぐ死にそうだし」

 

 と、三叉槍──ではなく、無駄に凝ったデザインなど不必要と言わんばかりの直線的なフォルムの槍を向けてきた。三叉槍やハルバードと同じく、鮮血より濃い深紅で彩られている。

 

「そうだな。このままじゃ確実に死ぬ」

 

 薄ら笑いを浮かべたヒルダとは正反対に、俺はボタボタと流れ続ける血液と異常な寒さに焦りを覚えた。

 ───ヒルダとの決着の前に出血死になる。

 確かに止血方法はある。だが荒々しい止血方法が全身に回った毒の想像を絶する痛みに拍車をかけることになるが・・・・・やるしかない。

 左腕の袖を噛み、右の手のひらを脇腹の傷口に当てる。これから訪れる痛みに冷や汗が一滴零れ落ちた。

 

「───氷傷(フリーズ)

 

 絶え間なく血液を外に流し続ける傷口に超能力(ステルス)を流し、一気に抉られている部分を凍らせていく。

 

「ぐううぅぅぅぅ・・・・・! 」

 

 添えている右手は小刻みに震え、力なくダランと垂れる。だけど痛みの代わりに()()()出血は止まった。まだもう一箇所───背中の刺し傷が残ってる。そこも止血しないとマズイ。

 

「もう一回だあぁ! 」

 

 右手を抉れた背中の刺し傷へと移動させ瞬時に凍らせる。頭を鈍器で叩かれる衝撃とよく似た痛み。思考が塗り潰される感覚───生きてるって実感できるが、刺激が強すぎるんだよ、クソッ!

 

氷系超能力(アイスステルス)・・・・・応用も効くのね」

 

「基本中の基本だ。クソ痛いから今の今までやらなかったが、出血死とかシャレにならない位ドバドバ出たからな」

 

 乱れた呼吸を整えて、ヒルダの槍に見つめ返す。先刻まで使ってた三叉槍との他に違いを挙げるとすれば・・・・・今ヒルダが手にしている槍は穂先が一つ。三叉槍より扱い易さで言えば一般的な槍の方に軍杯が上がるし重量バランスも良い。

 

 もう一つは、殺傷範囲の違いだ。三つの穂先からなる直線で敵を捉える三叉槍と、一つの穂先で敵を捉える槍。穂先が複数あれば敵を捉えやすくなり───それ故の慢心が生まれてしまう。

 

 ヒルダが槍を変えたのは、今後一切、慢心などせずただ目の前にいる敵を屠るとの意思も含んでいるはずだ。

 俺たちを小馬鹿にする眼差しの奥に宿った明確な殺意がその考えに拍車をかける。

 

「私を侮辱し、お父様を汚い牢屋へ送った貴様ら。本来は最初から遊ぶつもりなど毛頭ない。そう思って八割程度の実力で相手してたケド、もう貴様ら相手に力を加減する必要は無くなったわ」

 

「あれで八割かよ・・・・・キツイな」

 

「そう。だから───」

 

 左半身を俺たちに向け、右手は槍の中間辺り。左手は槍に添えるだけ。穂先は地上に穿つかの如く下がり、深紅と鮮緑の双眸が不気味なほど輝く。

 一分(いちぶ)の驕りもないその構えは、今までの俺たちをナメる態度ではない。一瞬でも隙を見せれば命を貫かれる・・・・・!

 

「───今度は本気でイかせてもらうわ」

 

 




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