俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 対ヒルダ


第46話 二人の願いは成就された

 青白い雷光が周囲を明るく照らしヒルダの全体像を浮かび上がらせた。

 ゴシック&ロリータの服は秘部以外全て破れてしまっている。それにより見えた魔臓の模様にあるはず弾痕が───治っていた。

 

「気分はいかが? 四世。ああ、イイわよその表情・・・・・! さぞ無念でしょうねぇ。忘れちゃったのかしら──私が影に自分を溶け込ませる事が出来るってのを。例えそれが地面であれ、散弾銃の弾であれ同じことよ。でもさっきの背後からの襲撃は見事だったわ。そこは褒めてあげる」

 

 手の甲を口元に寄せて笑う仕草を見せると、答え合わせとでも言うように話し始めた。

 しかも・・・・・ショットガンの弾子に体を溶け込ませただって? だったら───充電してから今まで電気を使った攻撃をしてこなかったのは、こういった不測の事態の時に避けるためか・・・・・!

 

「私はね、生まれつき見え難い場所に魔臓があるわけではなかったの。その上忌々しい目玉模様を付けられて邪魔だったのよ。だから、お父様にも秘密にしてたケド───外科手術で変えちゃったの魔臓の位置を」

 

 超音波じみた高笑いが冷ややかに浸透していく。

 確かに、超能力で凍らせたがそれは何も無い場所だったのかもしれない。人間など臓器の位置がほぼ決まっているものなら、そこに到達する時間を予想して凍らせればいい。ヒルダの場合も同様、目玉模様の下を満遍なく凍らせた。

 けど・・・・・意味なかったな。最初からその位置に魔臓は無いんだから。

 

「私は自分の魔臓の位置を知らないわ。だって、知ってたら心を読まれたりとかしちゃうかもしれないでしょ? 手術痕はすぐ消えたし、手術させた闇医者の口は封じちゃったから。だぁれも私の魔臓の位置を知らないわよ」

 

 だったら、今の今まで、魔臓の模様を攻撃されないように立ち回っていたのはこのためのフェイク。

 より絶望を与えるために、わざと倒されたフリもしたってわけか。

 冷徹な笑みを浮かべる様はまさに神話に出てくる悪魔の姿。長い巻き髪の金髪が強風に暴れ血走った目が舐め回すように俺たちを見据える。

 

「お父様はパトラに呪われてしまって、この第三態(テルツア)になる前の第二態(セコンディ)でお前達に討たれた。体が醜く膨れる第二態(セコンディ)は嫌いだから───神と同等の力を持つここまで飛ばせてもらったわ」

 

「何が、神だ。さっきとあまりに変わってねえだろ」

 

 体にムチを打って立ち上がり、盾を構えてヒルダを睨む。対してヒルダは、やれやれとため息をついて三叉槍を横に一閃。

 青白い光が瞬く間に壁へと伸びて──石材で造られたそれをいともたやすく破壊した。巨大なクレーターが作られ、クモの巣状に大きなヒビが広がっていく。

 

「今の私は耐電能力と無限回復力を以て為すドラキュラ一族の奇跡。そう、稲妻は私が受電しやすい電圧の自然現象なの。これは、この現象を作った神が私を神の近親として造り上げた証拠よ! 」

 

 俺たちに見せつけるためか電力はさらに激しさを増す。それは夜を象徴する、月そのものの光にも見えた。

 

「人間のちっぽけな電気なんかいらないの! おーほほほほっ! ほら、ご覧なさい。私を見て恐怖して、涙を流しながら命乞いをするのよ! さぁ早く! 」

 

 三叉槍をデタラメな速度で回転させ続け、館内部を次々と青白い一閃が飛び交っていく。もう屋敷は限界に近い。倒壊寸前だろうな。

 横では理子がキンジの耳元に顔を近づけてゴニョゴニョと何かを伝えている。もう手足にあまりに力が入らないのか、座ったまま上半身をあげるだけで精一杯らしい。

 

「───じゃあよろしく頼むねキー君。計算は合ってると思うから」

 

「ここに一回来た時、お前はプロでも驚くほどこの館を調べ尽くしてただろ? なら計算の狂いなんてあるはずがない。それに、俺はこういうのは得意なんだ」

 

 キンジが俺たちの前に歩み出て、拳サイズの香水瓶──理子が持っていた隠し武器──を手に振りかぶると、勢いよく天井の大穴に向かって投げた。

 あれは酸素に触れると爆発を起こす気化爆弾だ。落ちた時の衝撃で万が一にでも割れたら、俺たちごと吹っ飛ぶぞ!

 

「おいキンジ! どういうつもりで──」

 

「朝陽、自分のパートナーを信じろ」

 

 一言だけ告げると、その場に直立不動の体勢でヒルダへと向き直った。

 

「あら、何を投げたのかは知らないけど、またくだらないものなのね。きっと」

 

「いいや、くだらなくないよ。ところでヒルダ、お前は今でも太陽が嫌い? 」

 

 理子は肩を大きく揺らし呼吸もままならない状態でなおヒルダに問いかける。勝てるという確信をもった笑顔を顔に張り付かせて。

 

「嫌いよ。大嫌い。そんなことも分からないのかしら。それとも毒のせいで頭もオカシクなっちゃった? 」

 

「いいや、オカシクなってないよ。でも、安心した。良かったよ、まだ太陽のことを嫌いでいてくれて。今日からもっと嫌いになるんだから」

 

 口角と共に右腕も上げた。握られているのは、HK45。俺の拳銃だ。でも銃声から考えるに残弾数は残り一発。

 

「この銃に装填されてる弾はたったの一発。だけどこの一発で仕留めてみせる。───お前をな」

 

「・・・・・ほほっ、おーほほほほっ! 笑わせてくれるじゃない理子! たかだか一発だけで何をしようと言うの? 私の魔臓の位置も分からない。ましてや弾は車みたいに曲がるものじゃないのよ」

 

「されど一発だ。この銃弾には色々な想いが詰まってる。しかも今のお前は慢心しきってる。だから絶対に外さないよ。お前は再び下劣な吸血鬼に成り下がるんだ」

 

「ほざいてなさい雑種め。私は高貴な吸血鬼、四世ごときに後れを取るはずがないわ。私は貴様らを始末したあと、下等な人間どもを何匹か連れてペットにするの。そして毎日そいつらの嬌声(ひめい)を聞いて過ごす───楽しみだわ」

 

 トリガーにゆっくりと指をかけた理子は、徐々に宙へと舞い上がっていくヒルダに不敵な笑みを絶やしていない。震えて止まない両手でしっかりと拳銃を構える。瞳に映るのは生への執念と目の前の敵だけ。

 そして────

 

「・・・・・地獄で楽しみな。ヒルダ」

 

 ガウン! と一発の銃弾が飛び出していく。銃弾はヒルダの体を掠めることもなく、はるか後方へ。

 背後に設置された細かくヒビが入っている・・・・・一面窓。そのさらに奥。そこには、先ほどキンジが天井の大穴に投げた香水瓶が重力に従って下に落ち、姿を現していた。

 

(───ッ!? 理子、お前は天才だ! )

 

 無意識下で、時間超過・遅延(タイムバースト・ディレイ)を発動。

 超低速世界で見えたのは、弾丸が香水瓶を粉々に破壊し、中から溢れた光が今にも飛び出そうともがいている爆炎。咄嗟に盾を構え、アリアと理子にガラスの破片が当たらないように。迫り来る衝撃に備え───瞬間。

 

 能力解除と共に、大気を揺るがす轟音が鳴り響く。戦車の主砲どころではない音で創り出されたのは、圧倒的な熱量と輝きだ。第二の太陽とも言えるそれは、割れた無数のガラス片を撒き散らしながら爆風に流れに乗っていて・・・・・

 

「うぁ!? 」

 

「きゃあああああ!? 」

 

 悲鳴と共に俺たちは、館の外へと放り投げれた。

 宙を舞うように、ではない。床の上を滑って行くように吹き飛び、外の泥を被りながらもなお転がり続け──玄関から約七メートル程度の場所で、仰向けになって止まった。

 

 冷たく降りしきる雨が、熱せられた体をやや過剰に冷やす。館内に入る前よりかは雨は弱くなってる。それでも徐々に体力を奪っていくのは自明の理。早く雨宿りでもしたいが、体がもう思うように動かない。視界も半分暗闇に閉ざされてる。

 

「皆・・・・・無事か? 」

 

 俺の周りにいるかわからないが声をかける。

 すると、何とか無事、という声が直後に三つ聞こえ、内心ホッとした。

 俺は自分の体にガラス片が刺さっていないか感覚で探る。痛みなどあったものではないが、それでも体に異物が入っていたら何となく分かるからな。幸いその感覚は無く、ガラス片は全て盾で受け止めてくれたらしい。

 

「ごほっ! あぁ・・・・・理子、天才的な考えだが周りの命を巻き込むようなことは先に言ってくれ」

 

「そうよ! アンタ、朝陽の盾と防弾・防刃の制服がガラスの破片から守ってくれなかったら今頃死んでたわよ! 」

 

 くふふっ、と理子は力なく笑った。

 爆発の威力は凄まじいもので、爆心地より下にいたにも関わらずここまで吹き飛ばされたんだ。バチバチと炎に焼かれる館の悲鳴も、辺りを明るく照らしている。警察と救急車が来るのにそう時間はかからないだろう。

 

「ショットガンの弾を避けられた時点で、理子がいなかったらどうなってたか分からないのに。キョー君もキー君もアリアも、まさかショットガンの弾に自分を溶け込ませて避けるなんて考えもしなかったでしょ」

 

「まあそうだな。さすがは理子、探偵科随一の頭脳を持つだけある」

 

くふっ、と自慢げに鼻を鳴らした。

 

「地面を行き来できるから、もしかしてと思ってね。最後の最後まで取っておいたんだ。あの爆弾」

 

「───ガラスは爆発でショットガンのように無数の破片となる。気づいてたら避けられたかもしれないけど、爆発が広がるのが尋常じゃない速さだったからな・・・・・時間を遅らせなかったらヤバかった。それに、そんな狂った作戦、俺じゃ考えつかなかったよ」

 

「キョー君、臨機応変にって言葉があるの知ってる? まあいっか・・・・・もう眠たくなってきちゃった」

 

 もうそろそろ限界の10分。いつ倒れてもおかしくなかったのに、理子は自分の体を最大限駆使して戦ってくれた。疲労もピークに達している頃だ。

 俺は地面に仰向けで理子の声のする方へズリズリと這いずり寄る。デコボコした地面と気持ちの悪い泥の感触が、血の足りない体を余計に酷使させる。

 

「キョー君、こっちだよ」

 

 ズズッ、と向こうからも泥の上を這いずる音がした。

 同じ場所から吹き飛ばされたことでさほど離れておらず、すぐに理子の真横へと着く。互いに向き合って目を合わせ、にっこりと笑顔を見せた。

 

「またキョー君に助けてもらっちゃった」

 

「俺の方こそ、理子に助けてもらった」

 

 俺と理子との顔の距離は互いの肩幅程度。右手同士をその間で絡ませ合う。

 キンジとアリアはそんな俺たちのことをただ見守っていた。

 

「終わりほど呆気ないものだったな」

 

「うん───でもね、理子の十六年間の想いは果たせたよ。なんせ二回もヒルダを騙せたんだから、峰・理子・リュパン四世としても、理子としても嬉しい」

 

「泥棒としての自分と、理子としての自分さえも否定されたもんな。それを今夜だけで名誉を取り返せたんだ。理子はもう誰からも落ちこぼれ扱いされないさ」

 

 満足そうな笑みは、清々しいほど綺麗で華怜だ。

 理子にはもう自分を責めて塞ぎ込んでしまう悲しみを背負って欲しくない。いつまでもその笑顔を絶やさずに過ごす・・・・・それが理子に合ってる生き方だ。

 ───そう考えはできるが口に出すことは困難になってきた。そろそろ意識が持たない。

 

「ありがとね・・・・・こんなに傷だらけになってまで理子を救ってくれて。説得してくれた時の言葉、あれ本気にしちゃうよ? 」

 

 でも、せめて理子が先に気を失うまでは何をしてでも気を保とう。もしもの時、最期を看取るのがキンジやアリアなのでは気が済まない。

 

「本気で言ったんだ。本気で受け取ってくれて構わないよ」

 

 ぼんやりとしてきて、どういう言葉をかけたのかすら思い出せなくなってきた。面と向かって何かを話してたが──だめだ。血が足りない。でもまぁ、理子を説得できた事には変わりない。こうしてまた戻ってきてくれたんだ。この手の温もりも、愛くるしい表情も、全て全て全て全て。もう絶対に離さ───

 

()()()()()に聞きたいことがあるんだけど、さっき何て言いかけたの? 」

 

「さっき? 」

 

「また『ニセモノ』の──って」

 

 ニセモノ、か。何を言いかけたのは思い出せないけど、俺のことだから多分。あの事を言いかけたんだろうな。今も理子に想っていること。一旦別れてしまった俺たちが、もう一度取り戻したいこと。

 

()()()()()じゃダメか? 」

 

「言って。じゃなきゃ目覚めないかもよ? 」

 

「死なれちゃ困るな・・・・・分かった、分かったよ」

 

 軋む全身を使って深呼吸し、一語一句間違えないように、そして噛まないように落ち着かせる。

 本当のソレじゃないのにな・・・・・こういうことは初めてだし相手も美少女だ。世のカップルは誰しもこの体験をしてきたかと思うと頭が上がらないな。それをさっき言おうとしてたのか──極限状態だったから、せめてもと伝えたかったのか俺は。

 

「あー、言うぞ」

 

「はーやーくー」

 

 

 

 

「──俺と、また『()()()()』の関係になってくれませんか? 」

 

 トクン、と小さな手から一際大きな鼓動が伝わってきた気がした。

 握られた手はほんのり暖かくなり、返り血で濡れた頬に別の紅色が浮かび上がる。口の端が緩まりそうなのを必死に堪えて、そんな姿も可愛い。

 そして理子は考える仕草など不要と言わんばかりに、即答してきた。

 

 

 

「───いいよ。なろ、また『ニセモノ』の関係にね。浮気したら許さないからね・・・・・ダーリン」

 

 ははっ、浮気か・・・・・現在進行形で他の女とも呼べるかどうか分からない神様が取り憑いてるわけだけど、ノーカウントで済ましてくれそうだ。

 もっとも、瑠瑠神なんかに心を許すつもりはないけど。

 

「はぁーあ。聞きたいこと聞いてスッキリした。キョー君、先に寝るね。次会うときは・・・・・病院のベッドの上で」

 

 理子の瞼は次第に閉じていく。暖かな手には力など殆どかかっておらず、重ね合って温もりを共有しているだけ。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもんなんだな。もうちょっと理子と話したかったのに。

 

「ああ、そうだな。文化祭のセリフ、起きたらしっかり覚えとけよ」

 

「うん。おやすみなさい、キョーく・・・・・」

 

 言い終わる前に寝たか。理子らしくて何というか、久しぶりだ。

 今まで黙っていたキンジとアリアの二人は、何も言わずに佇んでいる。チームメンバーの二人が脱落するとでも思ってるのだろうか。口では諦めるなとか言ってたくせに。

 

「武偵憲章十条、諦めるな。武偵は決して諦めるなだろ。言いたいことは分かってるさ。戻ってくるよ、いつもの事だ」

 

「・・・・・その言葉、忘れないぞ」

 

「ああ。アリア、キンジが諦めかけたら励ましてくれ。報酬は桃まんだ」

 

「絶対よ・・・・・絶対に帰ってきなさいよ! アンタも理子も、アタシのチームに必要なんだから! 」

 

 分かってるよ。そんな大声出さなくてもいいだろ──って声もでなくなっちまったか。そろそろ俺も寝るするか。今度の『死』は今までで一番際どいかもしれないな。

 じゃあ、おやすみ。

 

 そう閉じかけた目で伝えて、俺はゆっくりと意識を暗闇に───いや、鮮緑の光の束に身を託した。

 

『待ってる』

 

 優しげな目つきの女性の声に導かれ。

 幾万の矢のように降り注いでいた雨はいつの間にか止んでいた。

 

 

 

 

 

 何もない、白とも言えず黒とも言えない空間。

 暑くもなく、寒くもない。頬をなぞる風や生き物達の声すら聞こえない。ただ『空間』と呼べる場所に、俺一人だけ立っている。

 

「やっと来てくれたのね。私の愛しい人」

 

 ・・・・・訂正。

 目の前には、泣きボクロが特徴の、優しい目つきとお淑やかな雰囲気を身に宿し、まっすぐ俺を見つめている──鮮緑の瞳には俺以外何も映ってない──瑠瑠神も、静かに佇んでいた。

 

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