俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 緊急事態


第52話 再悪の再開

 ジオ品川。立ち並ぶビルやネオンサインが、すべて広大な縁を描くような配置されている。古代ローマの闘技場を巨大化させ、そのまま地下に埋めたような場所だ。

 

 そこでおかっぱ頭の茶髪少女と、四人のチームメンバーが向かい合っていた。

 

「──さて。お兄ちゃんをたぶらかす女は、ピンク、黒、あと黄緑。金髪はいいや、近づくなって警告すれば近づかないだろうし、そもそも違う男がいるしね。相手をするのは非合理的だから」

 

「お兄ちゃん・・・・・? アンタいきなり何言ってんのよ。あと不用心に殺気は人に向けるものじゃないわ。今すぐ引っ込めなさい」

 

「うん。でも、お兄ちゃんにもう二度と近づかないって約束したらね」

 

 少女──おそらく中学三年生か高校一年の年齢だ。遠目だがかなりの可愛い容姿をしてるな。目には半透明の紅いヴァイザーがかかって鮮明には見えないが、不思議なことに雰囲気が誰かと似てる。根拠は無いが、そのお兄ちゃんとやらと俺は多分見知った関係だ。

 だけど。これ以上分析してる暇はない。あどけない笑顔とは裏腹に、殺気が離れている場所でも感知できるほど充満してるのだ。いつアイツらに襲いかかってもおかしくない。

 

「おいおい、物騒な話はやめてくれ」

 

 物陰から出て少女の気をそらす。突然の来客の俺に少女は一瞬だけキツい視線を浴びせたが──ハッと、何かに気づいたように口元に手を当てた。

 

「京条朝陽──さん、ですか? 」

 

「ん、俺のこと知ってるのか? 」

 

「・・・・・そうですか」

 

 少女はひどく困惑してるようだ。もちろん俺と目の前の少女は初対面のはず。少なくとも俺は会ったことも見た事すらない。敵として認識されるのが当たり前だと思ったが、自分の思惑とは反対のことを口にした。

 

「今すぐここから離脱することを薦めます」

 

「───なぜだ」

 

「サードが来たら貴女は殺される。あたしの目的は、お兄ちゃんに近づくゴミを掃除すること。あまり騒ぎは起こさずに仕留めたかったけど、貴女が来ればサードはこのジオ品川全域を火の海に変えてでも貴女を殺す」

 

 サード・・・・・数字か? しかし恨みを買った理由がわからない。

 

「俺はそのサードとやらに何もしてない。恨みなんてお門違いじゃないか」

 

「そうだね・・・・・アナタは何もしてないかもしれない。だけど貴女は殺した。あの人を──」

 

「フォース。もうやめろ」

 

 奇怪な電子音と共に、少女──フォースの隣に俺と同じくらいの身長の男がいきなり現れた。気配すら全く感じさせない男の零下の如き声は、その場にいた全員を一瞬だけ委縮させるほど。

 そいつはピエロのような恰好と、どこかの戦闘民族の戦化粧を顔に施している。いかにも怪しいプロテクターに全身を纏わせながら。

 

「フォース。なぜソイツを逃がそうとした」

 

「そ、それは・・・・・」

 

「まあいい。お前のことだ、余計な被害が出て俺たちの存在がバレたらどうしようって思ってたんだろ。──くだらねェ」

 

 男は腰に差していた深紅の鞘から一振りの刀を抜いて、

 

「確認する。お前が京条朝陽か? 」

 

 妖しく光る切先を俺に向けられ。ただ名乗るだけなのに、最初の一文字すら口にできない。

 唯一できる行動は、俺も雪月花(かたな)に手を伸ばすのみ。

 

「だったらどうする。違うかもしれないし、そうかもしれない」

 

「・・・・・ハハッ。クハハハハハハッッ! お前の情報が政府の最重要秘匿ファイルの中で捜すのに手間取ったんだ。宣戦会議(バンディーレ)の時は運良く会えたもんだが・・・・・そこでの顔が()()()の下衆な笑顔と違いすぎて他人の空似って思ってたんだ。気づけなかった俺にも腹立つが──やっと会えたな。この外道がッ! 」

 

 サードは叫びに反射的に雪月花を抜いた。

 俺への復讐で凍えるような殺気が周囲に満ちるのは分かる──が、驚愕すべきは他にある。

 別人のような雰囲気へと一瞬にしてすり替わったのだ。先程までの暗殺者のような内に秘めたる殺気を宿すサードではなく、獣のように殺気むき出しで獲物に襲い掛かるサードへ。そして似ている。一瞬とはいかないが、戦闘時に似たように雰囲気が鋭くなるアイツと!

 

「まさか、ヒステリアモードかッ・・・・・! 」

 

 圧倒的な速度で駆け出すサードに、雪月花で対応する。白色と深紅の刃が交錯しネオン光が広がるこの場に火花を散らす。刃と刃が擦れ合って──

 

「なん、だこれ・・・・・っ」

 

 金属の擦れ合う音は変わらない。慣れてる。だがこの雪月花とサードの刀の喚き散らす音は、まるで耳を劈くような騒音だ。

 

「気持ち悪ィだろ。この音はよ! 」

 

 次いで二撃、三撃。雑音が直接脳内に入り込んできて搔き乱されそうだ。

 

「オラァ! 」

 

 音に気を取られ空いた脇腹にサードの蹴りが炸裂する。胃からこみ上げる不快感に気づいた時、既にコンクリ造りの壁に叩きつけられていて。

 体全体を襲う倦怠感に抗い必死に空気を取り込むも、

 

「その程度かお前は!」

 

 追撃に深紅の刃が突き出された。紙一重でそれを避けるも、片手で胸倉を掴まれ宙に引っ張り上げられる。

 雪月花で抵抗する事を読まれていたのか、ソレを持つ手首をしっかりホールドされていて。

 振りほどこうとするも鋼のような筋肉に為す術もなかった。

 

「お前はそんな弱いのかッ! 違うだろッ。あの時みたいに笑ってみせろ! 」

 

「なんの、ことだ・・・・・」

 

 ホルスターのHK45(拳銃)での迎撃を敢行するその前に、サードの片腕が俺を()()()スイングするように投げ飛ばした。固い地面に激突し何回転かして──止まった。口の中に鉄の味が広がる。

 

 たった数秒でここまで傷つけられたか。

 しかし理子は無様な姿を曝している俺に手を差し伸べてくれた。ここから反撃だよ、と励ましてくれながら。

 手放してしまった雪月花を再び鞘に収め、サードを睨む。

 

「ああ。フォースも殺り始めたか。金髪は対象に入れてねェようだが・・・・・俺が始末していいってことだな」

 

 俺の視線に睨み返しながら、首を鳴らして体勢を低くいつでも急襲できるような姿勢に構えた。

 今戦っても相手の情報が少なすぎる。だけど、聞き捨てならない言葉を聞いてしまったからには、逃げることはできない。

 ──理子を、始末するのは許さない。

 

「金髪って理子しかいないよねー」

 

 理子は獣の如きサードに臆せずおちゃらけた雰囲気で俺の前に出た。危ないと分かっていても、敢えて出たのは理子に何らかの意図があったのだろう。

 でも、と理子は付け加えて、

 

「キョー君は人殺しなんてしない。人違いだ、さっさと消えろ」

 

 声のトーンを下げて二丁の拳銃をサードに構えた。その据わった感じは四月のハイジャック機の時の様子と同じだ。

 

「ハッ! 違うな。そいつは確かに人を殺した。俺の目の前でなァ! 」

 

 しかし、お構いなしと咆哮にも似たソレと共に再びサードは俺に迫る。理子は横に逸れるが、狙いは俺らしい。高い敏捷性だが今回は避けられる。先程の目で追えぬような速度ではない。

 

 再び互いの殺傷範囲に踏み入れる。初手はサードだ。

 首を切断しようとする剣筋から間合いを一歩だけ引き、通過後に隙となった右脇腹へ滑り込む。しかしサードから動揺は見受けられない。

 

「シャァ! 」

 

 柄から離したサードの返し手は俺の首に直撃するコースで吸い込まれていく。

 当たれば即死だ。首の骨が折れるから。でも、

 

「させるか! 」

 

 乾いた音が立て続けに二回。理子のワルサーP99から放たれた弾丸は、サードの腕を覆うプロテクターに着弾し見事に軌道を逸らした。頭頂部スレスレで鳴った風切り音に冷や汗をたらしつつも、

 

「悪いな。こっちは二人一組だ」

 

 今度こそ隙となった脇腹へボディーブローをかます。が、服の下にもプロテクターが仕込まれてるせいで簡単に弾かれてしまった。

 ここで動きを止めれば無防備な背骨を折られる。

 俺はそのまま脇を通り抜け、振り向きざまにHK45を抜き、全弾サードの背中に集中砲火したが、

 

「てめえはそんなオモチャが俺に効くと思ってンのか」

 

 プロテクターに全て弾かれ、代わりに瞬間移動するような瞬発力の追撃。

 詰められちゃいけない間合い、確実に防がねばならない打撃。どれも取り出した両腕盾を使ってギリギリで捌くが、

 

「っ・・・・・」

 

 その一撃の一つ一つが異常に重い。銃弾なんて非じゃなく、むしろ1発1発が砲弾のようだ──!

 

「どうしたその程度なわけねェだろうが」

 

 防戦一方にならざるを得ないほど凄まじい連撃。

 反撃しようにもこの体勢を崩した途端、体中に風穴が開く!

 

「そらよォ! 」

 

 喉元への一撃を体を逸らすことで回避したが、サードの円を描くような足払いに対応が遅れた。

 このまま倒れて頑丈そうなブーツで頭蓋骨を粉砕されるまで予想がつく。

 

「ほら、理子のことも忘れんな!」

 

 だが俺とサードの極僅かな間合いの中に理子は滑り込んできた。メデューサのように髪を自在に動かして、両手には二丁拳銃を持って。

 プロテクターに覆われていない顔めがけて抉り上げるように撃つが、サードは銃弾を体を後ろに大きく反らして躱し、その勢いを利用してバク転で理子と距離をとる。

 

「邪魔だ金髪!」

 

 サードの拳銃が唸り二発の弾丸が理子を襲うが、

 

「ふふん。邪魔するのは理子の特技だもんね」

 

 銃口の向きからある程度予測していたのか、二発とも理子は難なく避け後ろの看板に直撃した。

 

「そのプロテクター。今の理子たちの攻撃が一切効かなそうだね。あとキョー君だけにしか効果が出ない深紅の刀とか・・・・・新しい技術でも使ってるのかな? 例えば──そう、先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)

 

 にやりと理子は笑い、サードはピタリと動きを止めた。

 先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)。まだ開発段階の新素材や新技術。テスト段階以前のものを金を積んで手に入れたり盗んで奪うので信頼性は低いが、この状況みたいに本領を発揮する場合もある。

 

「──そっくりだ。ああ、夢で見たあの表情と」

 

 落ちていた深紅の刀がカタカタと震え不気味な音を鳴らす。

 

「クハッ。ハハハハ! そうだよなァ忘れてたぜ。お前にも女がいたんだよな。そいつを殺っちまえば、俺の気持ちが分かるってことだァ! 」

 

 サードの飛び出しと同時に、深紅の刀はプロテクターに包まれた手元に吸い寄せられた。刃は目の前の敵を貪らんと迫る。

 これは・・・・・! 能力を使わないと理子は躱せない!

 

時間超過(タイムバースト)──」

 

 盾であれは止められない、刀で受け止めるしか、方法がない・・・・・!

 

「──遅延(ディレイ)!ッ! 」

 

 発動と同時に風景が一瞬だけ歪む。

 ネオン光に照らされた夜景の中に、自分以外の全てのモノが止まっているように見える。この中で無類の素早さを持つサードも。深紅の刀も例外ではない。

 体感にして一秒──理子を守れる位置まで移動できた。サードを切り伏せられるまでは至れない。この能力を使うのは緊急時、それもごく限られた短時間でのみ。使い過ぎれば()()()()()()()()()()()

 

「解除! 」

 

 解除と同時に理子を隣を通り過ぎ、脳天へ振り下ろされる刃を、振り上げるように雪月花の峰で──受ける!

 

「ぐっ・・・・・! 」

 

 一点に集中された力は、雪月花を通り足のつま先まで伝わる。直接殴られたわけではないが、強化されていない左手は金属バットで殴られたような鈍い痛みが駆け抜けて。

 左腕もそうだ。電流が駆け抜けて一気に力が抜けていく感覚に襲われる。何より互いが鳴らす不快な金属音だ。頭痛がさらにひどく酷く、耳鳴りまで・・・・・いや。違う。これは、

 

「共鳴、でもしてるのか!? 」

 

「ご名答だ京条朝陽(人殺し)

 

 黒板を爪で引っ掻く音と似て、神経を逆撫でする音が鳴り響き続ける。雪月花やサードの刀が単体で鳴る訳じゃない。互いがぶつかり合った時だけ、まるで二つで一つの楽器だと言わんばかりだ。

 もはや音響兵器と言っても過言ではない。サードが刃をわざと擦らせるたびに頭痛はひどく、共鳴はさらに不協和音と化していく。

 

「能力使ってようやく本性を現したなァ。右の瞳が鮮緑に輝いてるぜ。時間を操作できるみてェだが、その様子じゃ長くは持たねえだろ」

 

「っ、どうだかな! 」

 

 刀を無理やり押し退けて間合いをとる。

 だが今の相手はやり手だ。劣勢の敵に策もなしに追い討ちをかけない愚かな奴ではなかった。

 間髪入れず振るわれる深紅の刀──その一つ一つを選定していく。無数に広がる剣戟を感覚で見分け、致命傷となりえる斬撃だけを弾いて、或いは躱す。

 両腕盾は使えず、断続的に響く不快音に目眩すら覚え。それでも心臓は異常なほど熱く滾る。

 

「地獄に堕ちろッ! 」

 

 乱暴な言葉使いとは反対に、精密な動きで(おれ)の防ぐ太刀筋を避け、深紅の切先が喉元に突き出された。

 ───まだ、こんなところで終われない。

 ()()を再使用する。たった数瞬程度の時間だけの発動だが、切先が直撃しない程度には逸れることは出来た。

 能力の解除と共に刃は俺の首の皮をナメるように通り過ぎていく。

 

「ちっ」

 

「まだ終われないんだ」

 

 プロテクターで全身を覆うサードだが顔は無防備。

 懐に潜り込み、雪月花を手放した手で顎に掌底をヒットさせるが、ダメだ。当てた直前に顎を引いて衝撃が逃がされた。

 ならば──!

 

 掌底で上がった腕をそのまま抱きつくように首の後ろまで抱え、サードの筋肉質の左腕を掴む。

 素早く腰を落として密着し、

 

「うおおおォォォッッ! 」

 

 思い切り投げて床へと叩きつける。柔道で言う首投げという技だ。

 綺麗に決まったと喜んでる暇はない。すぐさま追い打ちをかけようとするが、

 

「考えが甘えんだよ! 」

 

 その場で起用に回転し、稲妻のようなハイキックが(おれ)の頭へと打ち込まれる。

 直前で左腕をクッションに入れ、何とか直撃だけは防いだが、防弾制服越しでも直撃は腕の骨がイカれそうなになる。

 バックステップでさらに加わる追撃を躱し、落とした雪月花を手に取って、理子の横へと立ち並ぶ。

 

「ごめん。今の理子じゃあまり役に立たないかも」

 

「並みの弾丸はアイツに効かないんだ。それに理子は充分いい仕事してくれてるよ」

 

 事実助けられた。今も接近戦だったから逆に援護射撃は危険だ。仲間に当たる可能性だってある。

 

「もう一回、援護射撃で隙をつくれるかどうか。アイツの意識はもう完全にキョー君に向いてるけど、理子が外すかもしれない」

 

「弱気なんて、お前らしくないな」

 

 笑って理子の拳銃を持つ手を握る。

 やっぱり暖かくて、自然と守りたいって思う。だからこそここで立ち止まっちゃいけないんだ。

 

「いくぞ」

 

 うんと頷いた理子と離れ、再びサードに肉薄する。

 サードと戦闘を始めてまだそれほど時間は経ってない。なのにもう体は疲労困憊だ。何秒、何十秒かの鍔迫り合いが永遠のように永く感じる。

 だがそれはコイツも多分同じ。(おれ)もサードも致命的な傷を与えるまでには遠く、かすり傷を量産していくばかり。これまでの防戦一方とは変わり一進一退の攻防にサードの剣筋にさらなる苛立ちが見える。

 

 確かにコイツは一撃は人の力を軽く凌駕するほど重く、猛獣よりも高い俊敏性を持ってる。けど、持久力はほぼ(おれ)と同じなんだ。じゃなきゃ(おれ)はとっくに殺られてる。

 

「キョー君そのままっ! 」

 

 右の肩口に迫る深紅の刀に火花が走り、僅かに軌道がずれる。直後に響く一発の銃声───理子による援護射撃だ。ナイスカバー、サンキューだ理子!

 

「悪いが少し止まってろよサード」

 

 飛び退こうとするサードのプロテクターで覆われた両足を超能力(ステルス)で凍らせ地面と貼り付けに。どれだけあがこうが無駄だ。

 今日は璃璃粒子が濃くて使っても余計に体力を消耗するだけで発動はしないつもりだったが、千載一遇のチャンスを逃せない。

 

「これで、どうだッ! 」

 

 狙うは目全体を隠すヘッドマウントディスプレイ。それが(おれ)の筋肉の動きや予備動作をサードに視覚情報として映していたならば、破壊すれば形勢逆転できる可能性だってある!

 そして──横一閃。一瞬の抵抗が柄に伝わるが、あっけなくソレは切り裂かれ、破片を辺りにまき散らして虚しく地面に落ちた。

 

「──ッ! 」

 

 サードはUSPを抜いて足にまとわりつく氷を破壊し、今度こそ大きく飛び退いた。

 へっ。一矢報いたと思うべきか、やっとまともな一撃を与えられたって思うべきか・・・・・。それでも勝機は少しずつだが見えてきたぞ。

 

「おい、なんでお前はこうも抵抗するんだ。ここでくたばっても誰も悲しまねえだろうが」

 

 破壊され露わになった素顔を片手で隠しながら、それでも殺意が宿った瞳を向けて口を開いた。

 

「そうだな。死んで困るのは(おれ)自身だけだ。でも、命に代えてでも守らなきゃいけない人がいるんだ」

 

「・・・・・誰かを守る、だと? 」

 

「迷惑かもしれない。余計なお世話だと影で疎まれてるかもだ。けど、この命が無くなる寸前まで(おれ)は──」

 

 その時、サードの異変に気付いた。片手で髪を乱雑に掻きむしり、ぶつぶつと小声で何か言っているように見える。

 そして、

 

「誰かを守るなどと、お前はいうのか。それがただの自己満足の押し付けだと知らず、その使命に就くことだけでしか自分の存在意義を見いだせない。その行為をしてる自らに酔いしれて周りの異変には気付かず、最期には守ろうとした人さえ自らの手から零れ落ちることも──てめえは知らねえのか。自分の無力さを痛感するだけの行為に何の意味がある! 」

 

 ・・・・・なんだ、サードの殺意が・・・・・っ!

 

「てめえを見てると虫唾が走るんだ。できもしない事を平然とほざいて偽善を振りかざす──俺がこの世で一番嫌いな奴になってくれてありがとよ。元から心置きなく殺すだったが、今ので全部吹っ切れた」

 

 体を横向きにし、腰と頭を落として右足を後ろに引く。右拳を大きく振り上げて──

 

 

 

「そこまでですジーサード。まったく、貴方は暴れすぎだ」

 

 音もなく気配もなく、サードに声をかけた人物は俺たちのすぐ側まで来ていた。サードも突然のことに構えを解いて、すぐさまソイツの方に警戒を寄せる。

 190を超えているであろう高身長、燕尾服にシルクハット。半月型の目と耳のあたりまで裂けている口の仮面をつけた男。

 いきなり現れたそいつに銃を向け、問う。

 

「いつからそこにいた・・・・・! 」

 

 サードですら驚きのあまり体勢を解いて仮面の男を警戒している。殺気や敵意は感じられないが、それでも隠しきれない刃物のような鋭い雰囲気を醸し出している。

 ───強い。おそらくサードの何倍も強い男だ。

 

「京条朝陽くん。まだ生き残ってくれててありがとう。ホントに助かったよ。ん、その表情は私が誰だか思い出せないようだね。私と君は一度会ってるよ。ココ四姉妹──あの娘たちがジャックした新幹線の中でね」

 

 っ、あいつか。未来を見せただの変な助言だのと胡散臭いやつだ。名前は確か()()()()。情報科に頼んで調べさせたが、こいつの行方はあの事件の後、眩んだままだった。胡散臭い格好からして引っかかると思ったが、一件もこいつに関しての情報がヒットしない。

 

「ふむふむ。憑依はまだ半分くらいだね。予想通りだ。どうだい? 瑠瑠神に憑依されてる気持ちは」

 

 自分を抱く仕草と、推理の答え合わせをしてるような陽気な声。その態度は、仮面の男の異質さを物語っているようにも見える。

 

「───最悪だよ」

 

 圧倒されつつも一言だけ答えると、結構! と男は大きく拍手した。

 

「うん。次会う時の予想だけ外れてしまった。何しろジーサードくんが監視の目を盗んで出ていってしまったからね。仕方なく私が連れ帰ることになったんだ。まぁそのことはいい。君、瑠瑠神がどんなモノか、分かったかい? 」

 

 ずかずかと(おれ)に近寄って、両肩を勢いよく掴まれてしまった。興奮気味なのか前に会った時よりもハイテンション。サードのこいつに向ける殺気など歯牙にもかけてない。

 

「気持ち悪い。ただ壊れたように愛してると伝えてくる異常者だ」

 

 背後で銃を向ける理子を制しながら答える。すると、やれやれというポーズをとって男は離れた。

 まるでハズレの回答を聞いた時の仕草じゃないか。(おれ)は間違ってない。今すぐにでも殺したい相手だ。

 

「片方は正解だ。だけどもう片方は全然違う。アドバイスが役に立ってないじゃないか」

 

「なっ。間違っちゃいない! (おれ)はこの目で、この体で! ちゃんと瑠瑠神がどんなやつか知ったんだ! 」

 

「・・・・・もう少し様子見かな。君は見当違いの回答をしている。全然違う証明を書いて、これが答えだと自信満々で答える愚か者じゃないか。それでは面白くない。もう一度、同じ事を言うよ。

 ()()()()()()()()()()()()()。これが私が君に出来る今一番のアドバイスだ。そしてアドバイスに繋がるヒントを残そう。()()()()()()()()()()()()()? 」

 

 男はそう言い残すと、サードの元へと歩いた。いきなり現れて戦いを中断させた男に怒っているのか、一方的にサードが捲し立てている。サードと男は協力関係にあるようだ。

 

「なぜ止める! アイツは今ぶっ殺さねえと気がすまねェ! 」

 

「まだ時期じゃない。つべこべ言わず私と一緒に来てください」

 

「アイツの仇をとる為に俺はここにいる! それを帰還しろだと? ふざけんじゃねえ! 俺は今この場でアイツを───」

 

「ジーサード。まだ時期じゃない」

 

 その声に、自分の首が刈り取られたような気がした。

 一瞬で幻覚だとわかったが、サードに向けたそれは先ほどの優しい話し方ではない。恐ろしくドスの効いた声だ。たった二言で、関係ない俺たちを震え上がらせるほど。標的であるサードは、両の拳を血が出るほど握りしめ、舌打ちをすると、

 

「──次会う時がお前の最期だ」

 

 仮面の男から手渡されたレインコートのようなものを着て静かに姿を消した。(おれ)を殺すと誓って。

 

「私も帰るとするよ。さて、次会う時が楽しみだ。今度こそ──藍幇で会おう」

 

 仮面の男も同じように消え、残された(おれ)と理子は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 これからが本当の戦いだと、深く胸に刻みながら。

 




※ジーサードはある理由で本気を出せてません

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