俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 2人の教師の尋問を終え。


第56話 私の決意

 ──種目を終え。無事生還・・・・・まあ死なずに最後まで競技を終えれたってことの無事って意味が強いけど。

 にしても暴力沙汰にはならない競技だったんだんだが、俺にばかり攻撃を仕掛けてくるやつもいたな。返り討ちできるのが大半だったが、三年の先輩方を撃退できるはずもなく。大人しく逃げ回るので精一杯だ。

 

 外見だけは美人な綴と蘭豹がハニトラもどきを仕掛けてるから監視の目が緩んでいることをいいことに好き放題しやがって。無理したせいで頭痛と熱、絶対悪化したぞ。とりあえず救護テントまで向かってる最中だ。

 踏み出す一歩がやたら重くむき出しの首元をじりじりと焼く感覚がまた恨めしい。病人に太陽は天敵なんだ。熱出すなんて、小さい頃に伊・ウーに居た以来で完全に油断してたぞ。免疫能力こんなに低かったか? そも風邪をひいた理由すら分からん。

 

 そうして何とか救護テントに着き中に入ると、ベンチをただ並べただけの避暑所と化していた。骨組みには気休め程度の小型扇風機が四つ角にそれぞれ一台ずつ取り付けられ、寂しく役目を果たしている真っ最中。太陽からは逃げられたが、火照った体を冷やすにはまだ扇風機が足らん。外よりマシといったレベルだ。

 だが幸いなことに救護テントには誰一人としておらず、入り口から一番遠い奥のベンチに腰掛け、

 

「ハァ・・・・・」

 

 とため息をついた。

 ──疲れた。どいつもこいつも、理子様を返せだ夜な夜な出入りをしてるの知ってんだぞとかで襲ってくるなって話だ。そりゃ今は同棲状態だが、原因は俺を追い出したキンジの妹を名乗るかなめとか言う女子に言ってくれ。()()()()()()をしてると疑われもしてるが、払拭はほぼ不可能だろう。まあ理子が嫌でなければ構わないんだけど・・・・・多分嫌だろうなぁ。

 

「あ、京条先輩・・・・・ごめんなさい。ちょっと席外してて見てませんでしたッ」

 

 物思いしつつ目を瞑って休んでいると、入口から保健委員と思わしき女子生徒が慌てて入ってきた。俺のこと知ってるようだけど俺は見たことないし、1年生かな。

 

「ああ俺の方こそ勝手に入ってすまん。熱中症じゃないけど、ちょっと体だるくて」

 

「わかりました! でも暑いと思うのでとりあえず水用意しますっ」

 

 これまた急いだ様子で、テントの奥の方に置いてあったクーラーボックスの中からキンキンに冷えた水をくれた。味は無いものの冷たくてのどごしも最高。熱い体に染み渡って・・・・・いい気持ちだ。ああでも、これだけ冷たいとアイス一気食いした時と同じ、頭が圧迫される感覚がくるぞ。

 

「ど、どうですか? 」

 

「ありがと。ちょっと休ませてもらうけど、居ないものだと思ってくれればいいよ」

 

「──本当だったんだんだ」

 

 ん? なぜ凝視する? 俺なんか変なこと言ったか?

 

「京条先輩が変わったって」

 

「か、変わった? 」

 

 目の前の後輩は俺を知ってるのか、まるで別人を見てるように目を見開いている。

 

「あの、入学当時は強襲科と諜報科の先輩方から忠告されてたことがありまして・・・・・」

 

「忠告? 」

 

「京条朝陽という男は誰にでも手を出す変態だから声かけられたら逃げろって」

 

「四月の俺でもそこまでひどくなかったけど!? 」

 

 四月ってアリアが来て間もない頃か? にしても俺はそんな誰にでも手を出すってわけじゃない。ちゃんと好みの女子を紳士的に誘ったりしてただけで・・・・・。まあ誤解されることは多々あったかもしれないけど、故意にやったのは仲のいいやつにしかしてないし。アリアとか。

 

「とっ、とにかく。俺はそういうのしないから」

 

「そうなんですね。・・・・・ふふっ、京条先輩を見て、やっぱり人って変われるんだなって思いました」

 

「変われる? 」

 

「はい。先輩は峰先輩と付き合ってから、別の人にちょっかいかけなくなったって聞きますし。顔が良いってだけで付き合ってるんじゃないかって悪評も立ちましたが、おふたりの楽しそうに談話する姿でその噂もすぐに消えましたし」

 

 そりゃ他の女子と仲良くしてたら理子の蹴りが飛んできてからしょうがなかったんだけど。不知火の言う通り、外から見た俺はそんなに変わってたのか。実感が持てんなあ。

 

「あ、スミマセン! 話しかけたせいで休めませんでしたよね! 私は他の仕事があるので、気分悪くなったら部屋の角の無線で呼んでください。すぐ駆けつけますので」

 

 ぺこりと慌てた様子で頭を下げて救護テントから出ていく───

 

「──あ、あと一つだけ。傷跡が残るような怪我だけはしないでください。峰先輩、きっと悲しんでしまうので。Sランクでの活躍は耳にしてますし、おだいじに! 」

 

 前に、理子に傷付けられた左目の目尻から側頭部へ延びた傷跡を指す仕草と共に言い残して、今度こそ走り去っていく音が聞こえた。

 

(怪我するな、ねぇ・・・・・)

 

 頭痛の中でボンヤリと考える。

 そりゃ俺がプロ武偵なら最小限の怪我でなく今まで引き受けた依頼の数々をこなしていたはずだ。肌にも一般人に見られて困るような傷跡を残してない。一応Sランク武偵だが、そんなもの、理子を護れなかった瞬間から無意味で無価値なものに変わる。盾になるしか能のない俺にどうしろって・・・・・。

 

「きょーっお君」

 

 入口から誰かが俺を呼ぶ声がする。それが他の人なら頭がボーッとしてるからわかんなかったけど、この鼻にかけたような甘い声はずっと聞き覚えがあった。だからすぐに浮かんできた。

 

「・・・・・りこか」

 

 目をやると、入り口から見慣れた顔がひょっこり覗かせていた。ちょっと可愛らしい。思えば、最近あまり会ってなかかったっけ。こころなしか頬を膨らませてるような気がしなくもないが。

 何やってんだと問いかける前に、ぴょこんと純白のナース姿を見せてきて、

 

(──まじか)

 

 不覚にも魅入ってしまった。ここ最近会ってなかったから余計に。一体どれほど神様は理子を精巧に創り上げたら気が済むのかと問い質したくなるほどに。一瞬とはいえ頭痛すら忘れるほど目を奪われかねない魅惑に。愛らしくて愛らしくて愛らしくて──。そんなカノジョが、声をかけてくれた。

 

「なんでここに。その姿は? 」

 

「あれ。言ってなかった? 理子はさっき任命された緊急救護係なんだよ。だからナース姿に変身するのは当たり前なのでーす。そんなことより」

 

 理子はトコトコと歩いてきて俺の横に座ると、

 

「今話してた子、知り合い? 」

 

 ジィっと俺の目を見て問いかけてきた。

 

「初対面だけど──それがどうかしたのか? 」

 

「べーつにー。ただたまたま通りかかった時にキョーくんと女子が話してるのが聞こえただけ」

 

 うーん。理子の言う通りだとしたら、なぜジト目になるのか。見知らぬ後輩女子と一緒に居ただけなのんだけど。──まあいいか。いつもの事だ。追求するだけ事態が面倒なことになるのは目に見えてる。

 

「ねえねえ。面倒なことって後に回すと後悔するんだよ? 」

 

「そっか。俺はその後悔よりも平然と人の心をよむお前が怖えわ」

 

「なんとなーくだけどね。でもぜんぶ、理子の気持ちに気づいて見て見ぬフリするキョーくんが悪いんだから」

 

 見て見ぬフリは・・・・・してないつもりだ。この前、文と出かける前に話してた、独占欲だったか? 理子がそれを本気で言ってんのかどうか怪しいんだよ。あの発言は自分で言っといてなんだが、準黒歴史に相当するレベルで恥ずかしいからあまり口に出したくないし。

 

「まーいっか。それで、ここに来たってことは、気持ち悪くなっちゃった? 」

 

 心配そうに横から見上げてくる。それと同時にあることが思い浮かんできた。

 

 ──隠さなきゃ。

 

 具合悪いし気にかけられるほどの余裕はないが、それを理子に伝えたら心配させるかもしれない。それではダメだ。笑顔でいさせたいのに心配させては。

 頭痛で鈍い頭を必死に働かせ、

 

「高天原先生に用があって来ただけで、俺はいつも通りだ。なんともないぞ」

 

 適当にごまかしておく。悟られないよう平静を保って。

 

「用って? 」

 

「精密検査の日程だよ。命を何回も落としかけてるから、それで体のどこかに支障をきたしてないかだとか」

 

 我ながら完璧な言い訳の完成だ。そうして出来る限りの笑顔で、バレないようにして答えると、

 

「そっか。ここに来るくらいだから怪我でもしたのって思って。怪我なくて良かった」

 

「転んだくらいでここに来ないよ」

 

 教務科はお偉いさんの接待や各種目の審判で忙しいから抜け出すことは容易だ。早退して部屋に帰って寝るという選択肢もあるが、理子に見つかった今叶わぬものとなってしまったがな。

 

「──ねぇ、ちょっといいかな」

 

「いいよ」

 

 何を、と考える前には自然と口から答えが出てしまっていた。もう条件反射というレベルで。

 

(今さら確認するのも不自然だし、理子のすることに身を任せよう)

 

 力を抜いたところで、頭に優しく手が添えられた。その手はゆっくりと俺の頭を理子へと倒し──つられて体も傾いていく。そうして頭痛でヤバい頭は硬いベンチではなくムチムチしてる太ももへ無事に着地した。

 つまるところ、膝枕されてる。しかも生太ももだ。

 

「理子さん? 」

 

「こっ、こっち見ないでっ。女の子を見上げちゃダメなのです! 」

 

 見上げようとしたが、細い指で頬をつつかれ、仕方なく視線を元に戻した。前はベンチの背もたれなので目を瞑る。

 

「最近忙しくて部屋に戻れない日もあったでしょ? 会ってもちょーっとだけしか話せなかったり。今日はそのイチャイチャ成分取り戻そって」

 

「付き合ってまだ1ヶ月くらいのカップルみたいなこと言うな」

 

「いいじゃーん。初々しくて、けどちょっと大胆で。理子はそういうの好きだよ」

 

 くふっ、と笑うと、モジモジと膝を動かして俺の頭の位置を変え始めた。やっぱり膝枕って重たいか。

 

「俺重いだろ。すぐどくよ」

 

「ううんだいじょうぶ。ちょっと痒かっただけだから。キョーくんだってやめて欲しくないでしょ? 」

 

「・・・・・そうだな。もう少しこのままいさせてくれ」

 

 頭に添えられた手が、後頭部をゆっくり滑るように撫でていく。何回も、何回も。

 ──これだ。太陽の暖かさとは違う温かさが心を満たすこの感覚がたまらなく好きだ。目を瞑ってるから余計にそう思う。アリアや白雪にされてもきっと同じ感情は生まれない。理子だけが安心させてくれる。理子だけがこの感情を抱かせてくれる。

 

 よく自分も分かってないんだけど、たぶん嬉しい。自分のためだけに尽くしてくれて。こうやって特別扱いしてくれて。ホント────だな。にしても心が落ち着いたからかちょっとだけ眠くなってきた。このまま寝落ちしても、誰か来たらきっと起こしてくれる・・・・・よな。

 

「あっ、キョーくんのおでこ熱くない? いつもより体温高い気がするんだけど。もしかして風邪ひいた!? 」

 

 ・・・・・なッ!?

 額をぺたぺた触れながら慌てたように聞いてきたのを寝落ち寸前に拾い、重かったまぶたが一気に持ち上がった。

 

「ひいてないよ」

 

「こんな熱いのに? 」

 

 理子は自分のおでこと俺のを交互に触って確かめている。バレるのだけは避けねばッ。良い言い訳はなにか──そうだ!

 

「さ、さっきまで競技で走ってたから。まさか俺ばかり追い回される羽目になるなんて思ってなくて」

 

「あ、そいえば種目やり終わったあとか。なら仕方ないね。不運で定評のキョーくんだし」

 

 理子はよかったと言わんばかりのため息をついた。が、俺の方はよくない。何より今判明した重要なことがある。ぼんやりしてて気づかなかったけど、密室に病人といたら風邪うつるってことを! 眠くてそこまで思考がまわらんかったか・・・・・!

 すぐにここから出てってくれ、と口にしかけ、今からでは遅いなとすんでで引っ込めた。不審がられてバレるまでの(ルート)がハッキリ見える。これもダメ。

 

「今日は帰ってこれるか? 」

 

「もちろんだよ! また一緒に寝れるね」

 

 よし。なら今夜、理子の好きなジュースに風邪薬を入れれば解決だ。ジュースに入れて効き目が出るのか怪しいが・・・・・まあ良い。今日も帰ってこなければ、素直に打ち明けて今すぐ出てってもらうしか方法なかった。

 

「なあに? そんなに理子といたかったんだ」

 

「そりゃもう。今日じゃないとダメなんだ」

 

「うっ・・・・・またそんなこと。夏休みまではそんなこと全然言わなかったのに。だいぶ変わったよね」

 

「そうか? 」

 

 文化祭の前。理子が()()()()()()()()()()()()、つまり俺を騙してた時期であれば、粉薬をジュースに仕込むなんて到底できたもんじゃない。俺を利用するために監視していたんだから、逆に俺が飲まされる。

 しかし、ヒルダに囚われの身であった理子を助け、もう自分を偽らないと約束してくれた。信用を勝ち取った今だから容易にできることであって。変わったのは俺ではなく理子の方だと思う。今のほうが断然輝いてみえるし。

 

「うんうん。やっぱり変態さんでも変わるんだねえ」

 

「誰が変態さんじゃ」

 

「あっ。変わったといえばかなめちゃんもだよぉ! 無事仲直りできたの。元から可愛い子だったんだけど、デレたらもっと可愛くなって。うー、理子の妹にしたいくらいだよ! 」

 

「露骨に逸らしやがって。・・・・・仲直り、ねえ。お兄ちゃん大好きヤンデレっ娘にどう立ち向かったんだよ」

 

「そりゃもちろん、ランバージャック」

 

「ランバージャック⁉ なんて物騒なことを・・・・・いつやったんだ? 」

 

 ランバージャックとは、防弾装備を着た武偵が点々と円を描くように立ってできたリングの中で行う決闘だ。リングの外に出ることを禁止してるので、リング役が決闘者を押し戻す際に銃弾を用いても良いという、とち狂ったルールがある。まあそれはリング役が決闘者のどちらかの味方についた場合の話なんだが、かなめとバスカービルなら当てはまってしまう。つまり人望がなければ()()()でさえ敵となるのだ。

 

「キョーくんの携帯に電話かけたけど出なかったから。多分寝てたんじゃない? 」

 

 おっふ。大事な時に寝てたんかい。そりゃ知らないわけだ。チームの今後を左右するかもしれなかったのに、我ながら呑気なことだ。

 

「まあ闘ったのはゆっきーで、ひとり許されてるアシストにジャンヌ。あの二人凄くてね、武装破壊して終わらせたの。怪我もさせてないし、平和的に解決できたよ。キーくんが大好きすぎるのは治ってないけど」

 

 好きな人に近づく女絶対殺すガールを改心させるとは。ああいう気質の子って、いくら説得しても聞く耳持たなそうなんだけど。まだ根本から狂ってはないらしい。だが、

 

「あいつがジーサードの部下──妹? ってこと忘れんなよ。いつ寝首をかかれるかもしれん」

 

「警戒はしてるよ。でもね、あの子が自分から理子たちを襲うことはないと思う。キョーくんはどう思う? 」

 

「俺は・・・・・」

 

 脳裏にジーサードがチラつき、返事をためらってしまった。俺に向ける憎悪の炎と、人殺しという言葉。明確な殺意をもって俺を殺さんと刃を振るった、その妹だ。疑わない方がおかしい。考えすぎかもしれないが、俺を殺すために仲間に近づいた可能性だってある。信じたいのは山々なんだけど──。

 

「疑ってる顔してるね。まあいいんじゃない? キョー君は信じたい人を信じれば。瑠瑠色金のこともあるし、ああいうタイプの子苦手でしょ」

 

「そうだけど。って、誰かが聞いてるかもしれないのに色金を口に出すなって」

 

「バスカービル結成直前のキョー君にそのまま返したいよ。とにかく、一人で抱え込まないで。ジーサードのことも、かなめちゃんのことも。今度は理子が助ける番なんだからね」

 

 えいえいおー! と、元気で謎の地震に満ちたかけ声がテントに響いた。

 ──いつまでたっても本当、理子には励まされるよ。底なしに明るいこいつのおかげで今まで闘ってこれた。救われてるのは俺の方だ。だからどんな敵にも立ち向かっていける。全ては理子のおかげなんだ。

 

「ありがと。俺も迷惑かけないよう頑張るわ」

 

「恋人なんだから、迷惑はかけるもの! キョー君自分で言ってたじゃん! 」

 

「あ、そうだっけ? すまん」

 

 迷惑はかけるものなんて、考えれば俺も理子に無責任なことを言ってたな。立場が逆転したからこそ、その言葉の重みが分かってしまう。全てがヒトの身である理子が神へ立ち向かうなんて、自殺行為に等しい。

 だからこそ、一人で。この戦いに理子を巻き込むわけにはいかない。熱と頭痛を隠し通せたんだ。"大丈夫"と伝えさえすれば、理子が笑ってくれさえすれば、何もかもうまくいく。ひとまず、

 

「──情けないけど、これからも頼む」

 

「うん! 」

 

 騙すのは本当に心が痛む。

 けど、全ては理子のため。自分を押し殺そう。これから激化する闘いで、こうやって甘える機会なんて数少ないだろう。ロリ神(ゼウス)に忠告された通り、ひとりで闘わなきゃいけないんだ。そのために傷を負うのはしょうがない。後輩の助言を無下にするのは気が引けるが、全ては理子のため。

 大丈夫。そう──大丈夫だから。

 

 

 ・・・・・いつの間にか、頭痛と熱だけは治っていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 他人の恋話(こいばな)や次に行くデートはどこにしようか、と第二部の始まる直前まで話し込んでしまっていた。風邪と頭痛はいつの間にか治ってたし、楽しかったから仕方ない。理子と一旦分かれて、白チームのもとに戻った。

 ──五時からスタートした第二部。男子の実弾サバゲーは、学校内ならば屋外も可なので、そこかしこで銃声と断末魔がこだまする地獄の種目。赤組白組での乱戦状態が常であるのが醍醐味であり、俺も始まって数分くらいは後輩や同級生を投げ飛ばしていたわけだが・・・・・

 

「まさか俺に来たヤツら全員RFC(理子様ファンクラブ)の団員だったとは」

 

「やっと来たようだな。ついてこい」

 

「あっ、はい」

 

 名前は知らないけど、喋り方に癖のあるRFC(理子様ファンクラブ)団長の三年生率いる誘導隊の罠にまんまとハマってしまっていたらしい。同じチームに援軍を求めたいのだが、スタート直後にRFCどもに囲まれ、各個撃破に努めてるうちに、といわけだ。

 

 場所は競技エリアの端っこにそびえ立つビル。倒壊寸前の中で二人きりだ。障害物は一切ないから得意の一撃離脱戦法は繰り返せない。

 アハハハッ・・・・・一騎打ちなら負けるぞ。特に実弾サバゲーでは超能力の使用が禁じられてるんだ。マトモに闘って勝てる気がこれっぽっちもしねえ。今なら不意打ち狙えるし、ダウンさせて逃げようか。

 

「おい。このまま屋上まで行く。呼び出した故、こうして背中を見せておるが──一度(ひとたび)斬りかかってみせよ。返り討ちにしてくれよう」

 

 ・・・・・心でも見透かされてるのか。振り向いたその目が殺人犯のソレだ。いま不意をうてば必ず殺されるぞ。

 決闘だって、新調した盾と上下二連散弾銃の、銃身とストックを切り詰めたソードオフカスタム。あとは御守りの雪月花(カタナ)のみ。対して先輩は拳銃と長い太刀。装備的には有利かもだが単純な戦闘力でいえばあちらに()がある。近接勝負なら防戦一方は避けられない。ショットガンは平賀さん特製の非殺傷弾を使うけどリロードの時間もくれなさそうだしな・・・・・。

 

 と、対策を練るうちに、夕焼けに照らされた屋上についてしまった。辺りを見回すと、飛び降り防止の安全柵は外されていた。つまり足を踏み外せば死ぬ。風は先輩の前髪を少し揺らす程度だが、度外視はできない。室外機(しょうがいぶつ)は取り除かれ身を隠す場所はなし。()()()が広いことが唯一の救いだ。

 

「京条──」

 

 ドスの効いた、腹に響くような声と共に、長い太刀の切先を俺に向け。鋭く睨む目をカッと開き、

 

「貴様と話がしたい」

 

 ・・・・・殺意満々の瞳で、そう言ってきた。

 一騎打ちじゃない? 珍しい、この人はことある事に俺に襲いかかってきたのに。話し合いなんて明日は天変地異でも起こるかも。って、油断してる場合じゃない。奇襲されたらどうするんだ。

 軸足を下げて腰をおとし、後ろ手で盾を構える。臨戦態勢を崩さず、

 

「なっ。なにをですか」

 

 問いかける。すると、即答する勢いで、

 

「無論、我らが崇める天使。全てを兼ね備えた美。想い人をつくらず、平等に分け続けた魔性の愛。峰理子様のことだ」

 

 ・・・・・と。前言撤回。いや思っただけだけど、前言撤回だ。この人、クソ真面目な顔して何言ってんだか。また面倒くさそうなことを。

 

「なんですかいきなり。まさか──奪いに来たんですか? 」

 

「違う。なに、我からお前に伝えたいことがあってだな」

 

 奪いに来たわけでもないと。だったらなんだ、と思っていると、先輩はフッ、と口の端を歪ませ、殺気と共に太刀も鞘へと収めてくれた。油断させて奇襲を仕掛ける風には思えんが、一応臨戦態勢は維持する。

 

「あのお方は入学当時から、地上に舞い降りし天使と謳われ、一時(ひととき)も笑顔を絶やすことはなかった。天使を守ろう、そんな想いを胸に"我ら"が結成されたのはそう時間はかからなかった」

 

 懐かしい思い出話を語る先輩は、武偵ではなく一人の男として話している雰囲気だ。

 

「誰もが救われた。あの微笑みに誰もが励まされた。誰とも交際しなかったからこそ、誰しもが淡い期待を抱いていた。例外にもれず俺もだ。──だが。ある日、突如として平穏の中にいた我らは地獄の底へと叩き落とされた。抵抗する隙さえも与えられず、我らが望んだ席はたった一通の報せ紙(メール)によって奪われた。一流の武偵ならば許そう。理子様が望まれた相手ならば許そう」

 

 だが違った、と先輩は拳を握った。

 

「相手は貴様だった。女子からの評判は最悪。あまつさえ武偵局にも変態と二つ名されるほどのだ。貴様のような男を理子様は好きになるはずない。案の定、貴様と共にいた理子様の笑顔は変わっていた。不自然過ぎるのは我ら同胞全て認識できるほどだ」

 

「ひっどい言われようですねやっぱ・・・・・」

 

「当然だ。何かの策略か、弱みに付け込んだか。どちらにせよ、我らは貴様への復讐を計画した」

 

 マジだ。この人の復讐ってのは仲間内の冗談で使うもんじゃない。至って大真面目だ。苦笑いもひきつるレベルだぞ。

 たぶん訓練を装って重傷を負わせ、武偵を辞めさせるだとか、その辺だろう。

 

「だが満を持しての計画実行の直前。記念すべき第一回目の襲撃から少し時が経った頃だ。理子様の笑顔は戻った。不敬に値すること承知の上だが、()()()()()()()()()。貴様と付き合う、我らが惚れたあの笑顔に。不自然さなど我らの幻覚だったのではないかと錯覚させるほどに」

 

「一回目の襲撃・・・・・ライトマシンガン持ってきたアホがいた時のあと、ですか」

 

「そうだ。我らが同胞の大半は諦めた。あの男のことが本当に好きになってしまったのだと。──くだらん。諦めてたまるものか。そう決心した少数の同胞たちは立ち上がった。何より我には違和感があったのだ。以前から見続けた理子様とは根本的な部分で何かが違うと直感した。だから我らは今一度立ち上がった」

 

「だから毎日のように襲撃してきたんですか・・・・・! 」

 

「当たり前だ。そして我らは大規模な奪還作戦を計画した。貴様が万全の状態の時に討つ、そう決めていたのだがな。無理であった。なにしろ貴様は日常的に緊急任務に入院と、決着つけられぬ場所に居た故に。入院中に襲うなどという意見もあったが、我らは武偵であって外道ではない。正々堂々と、貴様がハンデを負っていない時期を見計らっていた」

 

 正々堂々って、ひとり対何十人のどこがだよ。

 ──巨悪に立ち向かう正義の組織ってか? 手に取るようにわかってしまうのが悔しいんだが。

 

「しかし時間が無かった。特に文化祭の直前、優秀な部下が理子様にお伺いした時に見たというのだ。貴様に憂いのない真の表情を向けていたと。あの時の貴様は負傷していたそうだが、断腸の思いで計画を無理やりあの日に実行した。せねばならなかった」

 

「関係ない騎士役の1年生怯えてたんですけど」

 

「仕方の無い犠牲だ。そして迎えた文化祭の演劇の最終局面。多少の妨害はあったものの、貴様との一騎打ちまで持っていけたのは僥倖であった。平たくいえばこれ以上ない好機。もし(のが)せば次はない絶好の状況。・・・・・しかし我は負けた」

 

「あの攻撃を避けたらマズイって勘が囁きまして」

 

 文化祭の演劇での一幕。先輩が鞘を牽制として振って、避けた隙を本命の刀で倒す。そのプランを、わざと一撃目を食らうことにより覆した。そのおかげで勝てたんだが、牽制とはいえモロに顎に当たったし。脳震盪でバルコニーと同じ高さのハシゴから転落したんだ。理子が居たから助かったものを、下手すれば頭蓋骨骨折で死亡案件だった。

 

「バカ言うな。貴様のあの一連の動きは、我の攻撃の真意を尋常ならざる思考速度で予測し行ったものだ。でなければ貴様は当たった直後にあのような動きはできぬだろうよ。勘という曖昧なもので避けるのはこの学校なら神崎アリアか蘭豹の二人しかおらん」

 

「で、でも。そうだとしても、先輩は俺があの鞘に当たりに行くことも頭に入れてたんじゃないですか? 」

 

「考えておったに決まっておる。しかしあまり気にしては無かった。頭の片隅にでも置いておけば良いと」

 

「い、いちおう俺ロミオ役だったんですけど・・・・・。ストーリー的にも立ち向かわなければならないんですし」

 

「無論、それも踏まえてのこと。鞘を振るう寸前までは避けなかった時の立ち回りも念頭に入れていた。超能力で1度は避けることも予想しての演技だ。──結果は思い通りではなかったがな」

 

 がらにもなく恥ずかしそうに頭の後ろをかいて、決まり悪そうに告げた。

 

「理子様の前で格好よく魅せたかったのだ。華麗に倒す姿を。騎士の矜持を。その煩悩が仇となった。貴様を仕留める時、一瞬だけ視野が狭まったというか、可能性の低い、貴様が回避しない選択肢を完全に度外視してしまった。土壇場でミス、根拠の無い確信とは。我もまだまだ未熟者よ」

 

「好きな人の前で張り切るのは当たり前じゃないですか? 先輩も堅苦しい人のくせに、意外とそういうとこあるんですね」

 

「きっ、貴様も同じであろう。好きな人の前では失敗したくないと判断能力にも影響を与える。それ故に緊張も体さえこわばってしまう。貴様もあるだろう、こういうことが」

 

「お、俺は・・・・・」

 

 気にしてなかった。護るのが当たり前だと自分で納得してたし、何より事件がある度にギリギリの戦いだったから余裕もなかった。先輩は格上な分いろいろと考えてしまうんだろうか。理子はリュパン家の子孫だし逃げ足は驚くほど速いんだが、肉盾(おれ)が無くなれば殺される可能性も高くなる。そういう意味での緊張はあるのだけど・・・・・。

 

「動けなくなれば、俺は理子を護るという使命を果たせなくなります。いくら緊張しようとも、たぶん無意識の内に動いてると思います。なんせ理子が殺されるくなら五体満足すべてを捧げたのち肉片となって無様に死にゆく方がマシですから」

 

 と、本音を言ったつもりだが、先輩は俺を睨みつけた。その目はまさしく獲物を睨む鋭い輝きで。

 

「貴様、それは冗談か? 軽々しく命を捧げるなど覚悟のない者が言うでは──」

 

「先輩、(おれ)は本気ですよ」

 

 強風が辺りの木々を激しく騒ぎ立てる音を乗せ、傍を駆け抜けた。同時に先輩の口が開く。しかし長い前髪に遮られ目はおろか口元さえ部分的に隠れてしまい、何を言ったのか聞き取ることはできなかった。それほど小声だったのだろう。読唇も無理だ。

 風が収まり、充分にお互いの目と目が見えるようになり・・・・・どこか、先輩の様子がどこかおかしく感じる。

 

「せんぱい? どうされましたか」

 

「貴様、そんな髪が長かった、か? 」

 

「──へ? 俺は短髪ですけど。流石に疲れすぎじゃないですか? 病院行った方がいいんじゃ」

 

 こんなくだらない嘘をつくような先輩じゃないから、その驚愕に満ちた瞳がたまらなく変に思った。短髪を長髪に間違えるなんて、疲れが溜まり過ぎて幻覚でも見始めたのか。

 

「あ、いや。何でもない。気にするな。疲れで幻覚でも見たらしい。なに、貴様に心配されるほど我も落ちぶれちゃいないぞ。たった4日寝てないだけだ。今のは忘れてくれ」

 

 本当に見間違いだろうかと考える仕草をすると、まあいいと早々に切り上げて、

 

「くだらん我のことよりも、今新たに伝えたいことが出来た」

 

 先輩は正面からゆっくり俺に近づくと、拳をつくった右手を俺の胸に押し当てた。

 なにを、と聞く前に重圧が伝わるような声音で、

 

()()、貴様の覚悟は充分に伝わった。であれば最期まで理子様を守り抜け。ここで貴様自信が証明したことを果たせ。血の一滴まで理子様に捧げろ。それを放棄し怠惰に過ごすのならば、我が貴様の首を狩りに行く」

 

 ──らしい。あまりにも衝撃的過ぎて瞬時に言葉が出なかった。あの理子親衛隊隊長が、理子を護るという使命を他人に任せるなんて、ホントに天変地異が起きてもおかしくない。いわばこの脅迫は信頼の証。──信念を捻じ曲げ託した男の約束を破る者がどこにいようか。

 

「なら卒業式まで先輩の顔はあまり見なくなりますね。というか、プロになるんですから仕事してくださいよ。海外行ってる人も多いのに」

 

「我は既にとある企業へ内定をもらっておる。普段の襲撃は訓練前の肩慣らし、準備運動といったところよ。さて、長話もここまで。そろそろ(みな)のもとへ帰るとしよう。サボリと勘違いされて反省文書かされるのはゴメンだ」

 

「ですね。戻りましょう。あ、戻って集団リンチとかは無しですよ? 」

 

「貴様次第だな」

 

 微笑を浮かべた先輩は再び俺に背を向け階段を下っていく。とりあえず命は助かった、と安堵のため息をはいて、続いて俺も白組のもとへ戻った。

 

 

 

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