俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 文(あや)の告白


第68話 ミライの話

「ずっと前から朝陽くんのことが好きですのだ。あややと一緒に、逃げようなのだ」

 

 俺に手を差し伸べた(あや)から告げられた言葉がズンと重くのしかかる。ただの冗談なんかじゃない。本気で俺と逃げようと提案してくれてる。俺の嘘──無意識に自傷行為をするという症状を治すためじゃない。文は多分、説明できない漠然とした勘のようなものが働いているんだ。じゃなきゃ逃げようなんて言ってこない。それに──

 

「好きってのは・・・・・っと、つまり、俺のことを一人の男として、かな。友達としてってことかな」

 

「一人の女の子して、あややは朝陽くんが好きなのだ」

 

 一点の曇りもない瞳に見つめられ思わずたじろぎそうになるが、すんでのところでグッと堪える。文は元々うそはつかない──というか、ついても下手だからすぐわかる。それにかけて俺も無言で見つめ返すが・・・・・本当っぽいな。

 

「えっ・・・・・とぉ、ほ、ほんとかな」

 

「ホントなのだ。ひとめぼれなのだ。1年生の頃から朝陽くんのことが、す・・・・・すっ、すき・・・・・なの、だ」

 

 途中から我に返ったようで、カァァと頬を赤く染めて、けれどジッと俺を見つめている。差し出された手は小さくて、腕も簡単に折れてしまうような細さ。女子の中でも小さい部類で、同じくらいのアリアみたく雰囲気を鋭くさせようとしたら反対に可愛くなってしまうような、逆に守ってあげたい存在だ。

 

「同じこと言うけどさ、その好きな人が自傷行為してて。止めようとしたら多分、文を殺しちゃうかもしれないんだ。俺、その間の記憶ないから制御のしようがないよ」

 

 そんな人を、武偵としての生命線である武具をいつも整備してくれてた人を巻き込む訳にはいかない。たとえ心苦しいと感じたとしても強めに突き放さなきゃ、きっとこの子は何としても俺と逃げようと誘ってくる。

 

「あややは信じてるのだ。あややに今まで見たことなかった世界を見せてくれた朝陽くんを幸せにできるって、信じてるのだ。

 朝陽くんがもしあややを傷つけようとしても・・・・・ううん、傷つけたとしても、あややは朝陽くんを嫌いにならないのだ! 」

 

「ビンタとかつくったご飯を投げつけるとかそんなんじゃないんだよ? 刃物を持って文に襲いかかるってこと。あと言い忘れてたんだけど、朝陽(おれ)の記憶が無くなってる間この体を操ってるのは女性なんだ。わりと嫉妬深いね。そうそう、これは理子にも言ってないんだけど、愛の囁きだかを口元ニタニタさせながら俺の腰あたりに書いてるんだ。しかもキレイな字で。器用なやつだよ」

 

 蛮勇の決意をここで砕く。嘘じゃないってのは俺の怪我を見ればなんとなく察するはずだ。そして予想通り。数秒あやは硬直して、みるみるうちに血の気が引いていくのがみてとれる。自傷行為をして嫉妬深い、なんて危険な部類なのにそこに自分が入ったらなんて想像したのだろう。たぶん文が思ってる修羅場の100倍くらいは残酷なことをアレ(瑠瑠神)はする。幼い子が蝶の羽を平気でもぐように、あいつは笑いながら文をオモチャにする。

 

「俺と文、体格差は歴然だ。絶対に逃げられないよ。助けをよんでも二人きりなら誰も来ない。絶対に死ぬ。・・・・・俺は反対だよ。文を危険な目にあわせたくない。──もし一緒に暮らしたとしても、殺した時の責任とれないよ」

 

 さらに冷たく言い放つ。これも優しさだ・・・・・そう思い込もう。これは俺のためでも文のためでもある。余計な犠牲を出すために話し合ってるわけじゃないんだ。

 

「じゃ、じゃあなんで理子ちゃんやとーやまくんと一緒にいるのだ!? 」

 

「良く言えば監視役。悪くいえば俺のワガママだよ。アイツらなら俺が暴走したとしても止められる。理子も戦闘メインではないにしろ、今の俺くらいなら倒せるよ」

 

 けど、と続ける。ゆくゆくはキンジたちからも離れるために、これはその第一歩として。

 

「俺といたら不幸になる。これからの文の明るい未来に、俺は必要ない。もっと自分を大切にしてくれ」

 

 俺はよく知らない。4月までは遊び──と言っては失礼になるけど、色々な女子に声をかけていた。遊びと言っても一線は越えず、ただ遊園地だとか有名所の喫茶店にグループで行って楽しみたいという今思えばかわいいもの。そこに恋愛感情なんてなかった。それが教務科のイタズラで理子とニセモノの恋愛をするようになって、少しずつ自分の中で理子に対する気持ちが変わっていった。この気持ちを表現するなら、多分あの言葉が当てはまるのだろう。そして文の俺に対する気持ちがそれと同じなら、きっと伝えるのには勇気がいるはずだ。断られたらすぐには立ち直れない。しかも今言った言葉は、文の今までを否定するようなこと。最低なのは自分でもよく知ってる。絶交されても文句は言えない。むしろ絶交された方がいい──だなんて考えるあたり、本物のクズに成り下がったな。俺は。

 

「──朝陽くんは優しいのだ。そうやって突き放して、あややを傷つけないよう嘘までついて守ってくれようとしてるのだ」

 

 思わず目を背けたくなるほどまっすぐで、少し潤いを含んだ目が俺を見つめる。自分の思いを否定されてなお、こんな自分を正当化するような言葉をかけるなんて──かえって自分が小さく思える。俺はそんなんじゃないと声高に言いたくとも、その瞳が口をつぐませる。

 

「もちろんあややは悲しいのだ。でも嬉しくもあるのだ。本気であややのことを思って秘密を教えてくれたり、なるべく傷つけないように言葉を選んで言ってくれてたりするのだ」

 

 少しずつ──ほんの少しずつ、文の口角が上がっていく。

 

「あややは朝陽くんがどんな辛いことを経験してるか分からないのだ。全身の傷以上に朝陽くんの心が痛いって叫んで、それを必死に押し殺して、何も知らない・・・・・何も知ってあげれなかったあややに優しくしてくれて、あややは嬉しいのだ」

 

「・・・・・俺は、ただ──」

 

「さっき朝陽くんは操られてる時の記憶はないって言ったのだ。でも、朝陽くんはこうも言ったのだ。『愛の囁きだかを口元ニタニタさせながら俺の腰あたりに書いてるんだ。しかもキレイな字で』って。普段の朝陽くんなら初心者みたいなミスはしないのだ」

 

 ・・・・・ペラペラ喋るとボロがでる。これは覚えておこう。隠し事が苦手というより、実体験と何かが混同してそれを自分の記憶として喋るから支離滅裂なことを話すのかもな。実際のとこ傷痕は乱雑につけられたとは到底思えないほど整っている。まるで本当に自分で刃物で傷つけたように。

 

「一緒にいたら危ないのは分かるのだ。朝陽くんが警告してくれたのはきっと本当のことで、あややは朝陽くんじゃない誰かに怪我させられちゃうかもなのだ。それでもあややは、できる限り朝陽くんのそばにいたいのだ」

 

「分かってるんならどうして・・・・・! っ、どうして文は俺を忘れようとしないんだ」

 

 思わず感情的になるのを抑え、絞り出すように問いかける。

 文も初めて見たであろう俺の取り乱した姿に驚きを隠せていないが、それも一瞬のことで、すぐに微笑み返してきた。

 

「だって、朝陽くんのことが好きだからなのだ」

 

 そう、偽りひとつない、俺にはもったいない感情で。

 

「あややは絶対に朝陽くんのことを──朝陽くんに恋をしたことを忘れたくないのだ。だって、一目惚れで好きになった人を忘れるなんて、それ以上残酷なことはないってあややは思うのだ。もし朝陽くんがその別の人になって自分が分からなくなった時は、あややが教えてあげるのだ。朝陽くんはちょっとエッチだけど、朝陽くん自身が傷ついても一人の女の子を守れるかっこよさと優しさがある人なのだって」

 

「っ、俺は、何度も言うがそんな──」

 

「好き、なのだ。理子ちゃんに負けないくらい、あややは朝陽くんのことが好きですのだ」

 

 ニコッ、と俺の手を優しく包む。

 もはや否定なんてできない。こんなまっすぐで純粋な気持ちをぶつけられて、否定する言葉が見つからない。となればこの純粋な気持ちに答えを出さなければならない。さっきのような脅し文句ではなくて、イエスかノーのどちらか。俺は──

 

「あっ! 待つのだ! 」

 

 小さなおててが素早く胸元あたりに移動し、クイクイっと頭を下げるよう催促してくる。身長差も高校生と小学生くらいだからかなり腰をさげて目線を同じくらいにする。

 

「ヤバいのだ。破壊力ヤバいのだ。朝陽くんの顔面近いのだ! うぅ・・・・・」

 

「えぇ・・・・・顔面て・・・・・」

 

 まあ言われてみれば確かに近い気もするな、と足を下げようとすると、

 

 

 ──コツッ。

 文の(ひたい)が、自分の額と軽く触れ合う。ただ触れ合っているというよりむしろ、カップルが抱き合う時に感じる安心感と似た意識が文から額を通って感じ取れる。文は目を閉じてるが俺も閉じた方がいいんだろうか。──いや、このままジッと見つめるのは無粋だな。ジロジロと至近距離で見られるのも視線感じるだろうし。

 そう思い俺も目をつむる。文の体温は高めなのか──俺が低いだけなのか、少しずつ熱が伝わってくる。とても心地よくて、幸せに満たされてて、自然と触れ合う時間も延びて、もっともっともっと─────()()()()()()

 

「そ、そんな顔しないでなのだ。 ホンキにしちゃう、のだ」

 

 ん、と顔をあげると、ぷしゅー、と本気で湯気でもあげそうな赤面具合。毎度キンジのヒステリアモードに口説かれてるアリアのソレもかくやという程だ。

 

「おでこくっつけてどうしたんだ? 」

 

「これは元気になるおまじないなのだ。決してやましいことじゃないのだ」

 

「ほんとに? 」

 

「知らなくていいのだ! 朝陽くんは純情のままでいてなのだ! 」

 

 ──おでこくっつけることのどこにやましいことがあるんだろう。本気で知らない。文が深読みし過ぎなだけかな。まあいいや。

 と、おでこを離したと同時に視界の端で理子の姿がうつった。理子も視線に敏感なのか俺の方をチラりとみた。ヤバいか? ──と思ったが、なんともないようにキッチンに戻った。気にしてない──いや、気にしてないように見せてるだけか。

 

「これは精一杯(せいいっぱい)のワガママなのだ。朝陽くん、本当にありがとうなのだ」

 

「──っ、あや、その・・・・・さっきの答えは──」

 

「分かってるのだ。朝陽くんの言いたいこと。でも、あややにも、あと少しだけ夢を見させて欲しいのだ。それがあややの願いなのだ」

 

 聖人。文には聖人という言葉以外当てはまらない。どこまで良い子なんだ。その俺に見せてる笑顔の裏に何が隠れてるか、鈍感な俺でもわかる。

 それでも、その感情を押し殺してまで──。

 

「さ、戻るのだ。あんまり外にいると風邪引いちゃうのだ」

 

「文」

 

 背中越しに声をかける。これは俺のワガママだ。この時期に色々とたてこんでて、心の整理もつかなかった。それを文が告白してくれたことで戸惑った部分もあったけど、自分を見つめ直すいい機会にもなった。こんな時本当はどんな言葉をかけるのか、俺にはわからない。模範解答をすぐに引き出せるほど人生経験豊富じゃないが、拙いなりにこれだけは伝えたい。これだけは嘘偽りない言葉だから。

 

「ありがとう。聞いてくれて」

 

 文は振り返って、ちょっと驚いたような素振りを見せたが、すぐに今日一番の満開笑顔を見せてくれた。今度こそ、裏表ない羨ましいほどの笑顔で。

 

「どういたしましてなのだ! 」

 

 




今回は短めで鍋パはカットしました。次回から大詰め、修学旅行編になる予定です。
心が痛いです。

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