俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 パーリィ作戦中、ココら武装集団に襲撃されつつも何とか逃げ延びた朝陽と謎のおじいさん。しかし、おじいさんは変装した武器商人であった。


第71話 怠惰粛清と縦ロールツインテール

「月が二度空に登るまで、私と話し合おう」

 

 耳まで裂けた口の仮面がよりいっそう不気味さを際立たせる。

 ショットガンをぶっ放したのは、ある種の確信があったからだ。もしいきなり現れれば、俺は絶対に発砲すると奴は分かっていた。万が一にでも通行人や住人に弾丸が当たりでもすれば俺は即刑務所行きだ。武器商人(こいつ)は俺と話し合いがしたいといっていたし、人払いは済ませてあるはず。所々灯ってる明かりはダミーだな。用意周到な奴め。

 

「──なんのつもりだ。わざと口調を変えたり、味方であるココを挑発したり・・・・・。しかも観光客を装ってたくせにやけに道に詳しいし、ここに着いた時もそうだ。お前は死角になっていた建物に俺をつれてこうとした。どう考えてもこれから話し合いをしようって過程じゃなかったが? 」

 

「ココ達には私が作戦に同行するとは一言も口にしてなかったからね。良い余興になったろう? この逃走劇もなまった体に中々良い準備運動になったよね。君も、復帰早々にしてココとは君もやりたくはないはずだよ」

 

「余計なお世話。茶番じみた面倒なことせず直接呼びつけろよ」

 

 息が切れるのはまだ俺が生きていたころの名残か。俺はとうに死んでいるというのに、皮肉にも瑠瑠神という存在のおかげで辛うじて体を動かせている。ゾンビ状態ってやつだ。だが、どうも胸のあたりが苦しい。心臓が止まってんのに負担をかけたからだ。確実に体力は落ちたし、素の戦闘力もココと新幹線の上でやりあった時より落ちてるかもな。

 

「んで要件はなんだよ。ランパンに協力して、ジーサードにも協力して、次は俺たちに協力を申し込もうって算段か? 」

 

「いーや? それだと面白くない。あ、協力しないって言ってるわけじゃないんだ。君の頑張り次第かな。私は死人になった君が──これは誤解を生む表現だね。瑠瑠神になった君が、君の仲間にどう対応するのか見たかっただけだよ」

 

「・・・・・それだけか? 」

 

 ばかばかしいほどどうでもいい答えだ。しかし真の目的を探ろうにも、仮面をつけてるから読み取れん。しかも、藍幇からの要請なら俺をこんな場所まで連れてきたりしない。ようは──

 

「私利私欲ってのはマジらしいな。ヒトの体に愛の言葉を彫る瑠瑠神(どっかの誰か)と同じくらい気持ち悪い趣味だ」

 

「褒めないでくれたまえ。私とて照れる」

 

「うるせぇ! やかましいわ! 」

 

 どうしてだか武器商人と言葉を交わしていると、少しずつだが怒りを感じる。いや──その存在を嫌悪している、といった方が正しいか。

 だが警戒心むきだしの俺に構わぬと、武器商人は「特に! 」と声を荒げ、続けた。

 

「理子君に見せる喜怒哀楽の感情が私にとって大好物なんだ。レポートしてるくらいにね。そこで一つ教えてあげよう。彼女は君と他の女が絡んでもあまり嫉妬心を表に出さないタイプだ。残念なことにね。彼女の性格も関係してくるから仕方の無いことだけど、レポートは仕方の無いで済ましちゃいけない。様々な角度から総合的に見なければね。だからちょっと細工をした」

 

「・・・・・理子に? 」

 

「そうとも。嫉妬心を増幅させるよう感情をイジってみた。でももう細工が切れてる頃だし、今ごろ後悔してるんじゃないかな。素っ気ない態度とってしまって」

 

「おい」

 

 仲間を、大切なな人を(けな)し、脅す。小悪党がやるやっすい挑発だ。ムキになって怒ることじゃない。機にした方が負けってわかってる。ただ、今は・・・・・

 

「細工? 細工だって? 」

 

「そうとも。とある方法でね。だからいつもと違う反応をしたと思う。まあ私が手を加えなくとも、今回彼女が抱いた嫉妬心は今までのどんな時よりも大きく、とても少女らしいと思った。それに青春みたいじゃないか! 恋に悩む二人。話しかけたくとも嫉妬を生み出した光景が脳裏をよぎり、ついそっけない態度をとってしまう。その駆け引きはとても興味深い。私としても見守りたいが、いかんせん時間が無くてね」

 

「──邪魔をするな。(おれ)と理子の関係を。私は、あの子を──」

 

 ドス黒い感情が瞬く間に湧き上がり、噛み締めた唇からドロドロとした血が数滴流れる。ほんの一瞬だけだ。ただの一瞬、その時間さえあればと、いつの間にか自分ではない何かが、俺の心を支配せんと牙を向いていた。

 

 ──落ち着け。

 

 深呼吸を繰り返し、湧き上がる感情に蓋をする。

 武器商人はその様子をあごに手を当てただ傍観していた。さっきまでの饒舌さとは打って変わった様子だ。ただ警戒は常に切らさぬよう気をつける。こいつには超能力か知らんが、この先相手におこる未来を体験させることが出来る。修学旅行の帰りの新幹線、ココを捕らえた時にアイツが俺の首を切断する未来を俺は身を(もっ)て体験した。今回も無茶な難題を押しつけて俺に「No」と言わせないつもりかもしれん。

 

「一つ問おう。君にとって、京条朝陽として、瑠瑠色金とはなんだ」

 

 思わず身構えた体が今度は別の意味で固まる。そんなの分かりきった答えで、現状を知っている武器商人からは想像もつかないような問だったからだ。

 

「・・・・・憎たらしくて、今すぐ殺したい相手。俺の人生をメチャクチャにした報いをさせたい、クソッたれ金属だ」

 

「──! 」

 

「そのために教えてくれ。神を封印する方法を教えると、あの新幹線の中で俺に話したよな。どうしてそんなこと知ってるかなんてこの際どうでもいい。嘘なら嘘だと言ってくれ。もう時間がないんだ」

 

「・・・・・あ」

 

 ここ数ヶ月、謎が深まるばかりで何一つ解決できなかった。何もできず、瑠瑠神に成る不安が常に肩にのしかかっていた。()()()()この体には無数の愛の囁きが文字通り体に刻み込まれ、ボロボロになっている。これ以上進行されたらもう戻れない。だからここで瑠瑠神を封印する方法を聞けたとしたら、天の恵みそのものだ。俺を釣るための虚言だとしても、すぐに別へと気持ちを切り替えられる。だから──

 

「あああああああああああぁぁァァァァァァ⁉ 本当に、本当にいいいいいいィィッ!? 進歩していないバカじゃないっかああああああああぁぁぁぁっっっ!! 」

 

「っ⁉」

 

 冷静沈着で絶対的な強さを持つ強者。その雰囲気はどこへ消えたのか、目の前にいる男は発狂し、その黒髪を爪をたて掻きむしり始めた。

 

「私は心を読むことが出来る。だがこの答えだけは君の口から聞きたかった。これまでの十数年間、君の集大成(じんせい)は酷く荒んだものと同時にエメラルドにも似た輝きを放つ綺麗でありながらも儚い宝石のようだったんだ! 宝石は持ち主によって価値が変わる。泥をかければそこらに転がった石と同価値。だが磨きあげれば世界に類を見ない、君にとっても、理子君にとってもかけがえのない宝石となった。なっていたはずだ! 」

 

 空間が揺れる。そんな表現絶対おかしいってのは自分でもよくわかる。ただ、今目の前にいる男の周りがぐにゃりと歪んでいるんだ。幻覚を見ているわけじゃない。武装検事に向けられた時には感じ取れなかった、明確な殺気が四方八方から押し潰さんと迫ってくる。相手は一人、しかも真正面で奇怪な行動をしているだけなのに──!

 

「宝石、宝石なんて意味わかんねえよ! 確かにどちらかと言えば退化してるさ。この体はボロボロ、灯火ほどの命だ。だけど! 俺だって必死になって頑張って──」

 

「何もしてないじゃないか! あろうことか君は泥だらけになったその宝石を! 糞を踏んだ足で踏みにじっている! 」

 

「──っ! 」

 

「神に憑依された者、のちに神に召し上げられた者は数あれど、君のように生きたまま神に変成する者はそうそういない! 私はね、観察したいんだよ。人間が神にどう抗うかを! 神が台頭する時代──この世界で神代と呼ばれる頃には神に匹敵する人間が多くいたさ! 神の血を引く者も多かったからね! だが君はどうだ! そこらの有象無象(うぞうむぞう)と同じだ! 英雄の素質なぞ皆無! それどころか怠惰の擬人化そのものじゃないか! 」

 

 濁流のように次々と出る言葉。深まるばかりの謎の発言。それでも一切横やりを入れられないのは、雰囲気に飲み込まれたからだろうか。・・・・・どうしても口が開かない。

 奇行は止まらず、しゃがんだり立ったりを繰り返し、今度は泣き叫びそうな嗚咽を漏らし始める。

 

「宣言しよう! 君は、君という存在は! ロクな死に方をしない! 自ら怠惰な道を選択し、現実と向き合わない愚か者! 乗り越えるべき試練を他人任せにし、あろうことかクリアしたと思い込んでいる異常者だ! 前々からそんな気はしていたが、まさかこの期に及んでまで考えを改めぬとはさすがの私も驚きだ! 」

 

「・・・・・」

 

「京城朝陽! 君は最高の環境で育ってきたはずだ! 特に高校からは良き友に恵まれた! 君の成長のためと思い私は、ヒルダ、ココ、ジーサードに武器を売った。それを扱える能力も与えた! 成長を邪魔されず直で感じたいから、君のチームメイトが乗っていたバスの乗客が同じ制服の少女たちだけということに違和感を持たせぬよう認識阻害の能力も使った! 檻で一生飼い殺そうとした武装検事・公安にもだ! なのになのになのにいいいぃぃぃぃぃぃィィッッ!────全ては無意味だったようだね」

 

 嵐とも例えるべき狂暴を晒した商人は、まるで人格が入れ替わったようにスッと冷静さを取り戻した。言いたいこと全て出し切りスッキリだと、乱れた燕尾服を整え始めている。

 ・・・・・異常だ。俺が言えることじゃないが、かなり異常だ。ただ怯むわけにはいかない。ここで物怖じすれば、この先これ以上のチャンスはない。

 

「近くに武装検事はいないよな」

 

「いないよ。そんなの、瑠瑠色金の能力でわかるじゃないか。武偵高にいる蘭豹先生を君の部屋から遠視したように」

 

 んな事しねえよ! と悪態をつき、続ける。

 

「俺に自殺願望はないけど、死ぬのならせめて瑠瑠神を倒してから死にたい。俺の最期が悲惨だとしても、絶対に理子だけは助けたい。一番最善なのは、これ以上傷を負わず瑠瑠神を倒すことだけど、今までの自分を省みてそう都合よくなるはずがない」

 

「・・・・・」

 

「だから。結果として四肢を削がれ残った目を潰されて、何も聞こえなくなったとしても、それで理子が助けられるというのなら──」

 

「愚か者ッ! 」

 

 あまりにも単純で、体の芯を捉えるような怒鳴り声。

 

「だから、自分のことも大切にしてという理子君の願いを踏みにじるのか! 君の人生を語るに欠かせぬ想い人を、再び絶望の淵に落とすのか! 」

 

「そこまで言ってないだろ! 俺はただ、瑠瑠神を倒すためなら全てを賭けて守ると言ってるだけだ! そのためにどうしても知りたいんだよ。観察したいならいくらでもしてくれ。代わりに教えてくれよ! 」

 

「それではつまらないと言っているんだ。君自身が切り開く道だからこそ価値がある。幼少期から君の終わりまでがレポートであり、逆転劇のない単調なものを書くほど私は暇ではない」

 

「・・・・・っ! だったらアンタは一体何者なんだ! 最新鋭の技術ですら見たことない武器と能力を与えて、俺の幼少期も知っている! イ・ウーで育ったがそこじゃ1人しか顔を合わせてねえ! 神代とかわけわかんないんだよ! 何を知ってんだよ・・・・・! 」

 

「何を知っているか、という問だけ答えよう。全てだ。君がいかなる行動を選択した、その先の未来すべて」

 

 ありえない──! そう口にしようと開くも、言葉が出てこない。詐欺師だって考えは充分前に捨てた。ココの長女とやり合った時みせた山をも吹き飛ばす小型兵器を実際にこの目で見たからだ。あんなのを小型・兵器化し使用者に一切の怪我を負わせないものを作れる技術は存在しないはずだ。神代を見てきたってのも玉藻や瑠瑠神、緋緋神、璃璃神みたいなのがいる手前、否定はできない。

 ・・・・・目の前にあるもの全てを疑え。それが神を封印する方法とどう関係してくるってんだ。疑って分かんならこんなに苦しむことは無かった。

 

「・・・・・もういい。ひとつだけ。もうひとつだけヒントを出そう」

 

 悲壮感に打ちひしがれる中、全てを察したような哀れみの声が聞こえた。俺にとっては天の恵み、これ以上無い施しだ。

 

「っ、ほんとか!? 」

 

 あまりの嬉しさにうわずり気味に聞き返すと、被せるようにして、武器商人が言葉を続ける。

 

「ただし。底なしの怠惰と欲望には代償が伴う」

 

「──! ああ! 俺の身に起こるだけのものなら何だって払う! こんな傷だらけの体、もうどこに新しい傷が出来たって構わない! それであの子(理子)を助けられるのなら! ()()()()()()()()()()! 」

 

 心の奥底から湧き上がる感情に任せて言い放つ。

 

 ────『自分を大切にして』

 そう脳裏に響くだれかの声。いつの間にか興奮していた哀れな男女(じぶん)の声だけが冷たい暗闇にこだまする。

 

「──汝、隣人を愛せよ。イエス・キリストの言葉だ。これが君への最後のヒントだ」

 

「隣人を、愛せよ? 」

 

「用は済んだ。私は藍幇城に帰らせてもらうよ」

 

 と、武器商人はシルクハットの()()で仮面を隠すよう下に少しだけ傾けた。

 待て、という言葉は指をパチンと鳴らした音にかき消され、

 

「怠惰と驕りの先に何が見えるか、君自身で体感するといい」

 

 そう言い残し、気づけば目の前から忽然と姿を消していた。

 

「瞬間移動、認識阻害、もうどこぞの神だからとチート能力の持ちすぎだろ。くそ」

 

 結局、方法は教えてもらえずヒントを得ただけだ。『目の前にあるもの全てを疑え』、『汝隣人を愛せよ』だけ。こんなんで瑠瑠神を倒せるだと? ふざけるのも大概に──

 

「・・・・・? 」

 

 ツツツー、と生暖かいものが左肩を伝っている。なんだ? と手をやりながら振り向き、

 

「・・・・・!  テメェ! 」

 

 一方的な別れを告げたはずの武器商人が、ピタリと俺の背後に張り付くように立っていた。すぐさま左腕に盾を通し、右手に上下二連散弾銃(ダブルバレル)を。躊躇なくトリガーを引き──

 

「ぐァ! 」

 

 左肩、それもちょうど生暖かいものが伝い始めた箇所に、刃物を突き立てられたような激痛が走る。

 挟撃になるのはマズいが、チラと後ろを見ても誰もいない。かといって背中に刃物が突き刺さってる感覚はなく、縦に裂けた感覚から狙撃ではない。となると、

 

「これのどこが話し合いなんだよ。武器商人! 」

 

 右手に血の付いたナイフを持ち、俺をジッと見つめている武器商人のせいに他ならない。ただ、真正面からナイフを背中に刺したという矛盾に眉をひそめる。

 

「話し合い。古来、神代より、話し合いの次は殺し合いの定め。()()は貴殿を殺す。されど、これ試練にあらず」

 

 そういや、極東戦線で二チームに分かれ終わった際にも戦闘があったって聞いたな。平和に始まって平和に終われねえのかこいつらは!

 てか、また口調が変わってねえか!? 多重人格者か!

 

「月が二度空に昇るまで。すなわち0時から明日の0時まで。丸一日、殺し合い(はなしあい)に付き合ってもらう」

 

「冗談だろおい・・・・・」

 

 ガサッ、と背後から物音。振り向く前に正面の武器商人に向け1発撃ち、牽制しつつ背後をとったであろう何者かにも躊躇なく撃ち込む。

 やはり、と言ったところか、そこに敵はおらず。今度は左の鎖骨辺りに生暖かいものが流れるのを感じる。

 

「っ、このパターンはまさか──! 」

 

 肘をまげ胴体を守るように盾を構える。この刺される前兆の位置的に俺から真正面に来るはずだ。これなら不意打ちもでき──

 

「イッ! て、ェ! 」

 

 ズズッ、と異物が皮膚を裂き肉を搔き分ける。

 その気持ち悪い感覚が、脳を駆け巡る激痛が、寸前までの()()()な思考を吹き飛ばした。目が眩む痛みとドクドクと流れる血が、まさに真正面から俺に気づかれず刺したことへの証左。どんなに優秀な暗殺者でも、真正面から鎖骨を狙うなんてできない。ましてや屋外だ。

 けど、攻撃が見えないくらいで早々にギブアップなんてしてらんねえ!

 

爆氷(バースト)! 」

 

 暴れる激痛と嘔吐感を抑え込むよう声高々に叫ぶ。それに呼応し、瞬時に自分を中心として全方位に氷の波が生成・拡大していく。

 俺が使える氷系超能力(アイス・ステルス)はグレードが高く、その代わり精神力の消耗が激しい。だからこんな広範囲に渡る技は後々辛くなる要因だが、ここでチクチク攻撃されるよりは100倍マシだ。

 それに、成果はあった。

 

「捕らえたぞ、武器商人・・・・・! 」

 

 血のついたナイフを片手に、直立の状態で全身を青みがかった氷に覆われた武器商人を見据える。氷の中では意識は保てても呼吸すら出来ず、徐々に体温を奪われていく閉鎖空間だ。武器商人がいくら超人であろうと──神と呼ばれる存在であろうと、少しは時間を稼げるはず。稼げなきゃ困るんだ。俺は武器商人に構えていた銃を()()()()()()()()()、焦る気持ちを足にのせ武器商人とは反対方向に駆けていく。

 

 爆氷(バースト)で広範囲に広がった氷の波は武器商人を凍らせた後、すぐに解除して溶かしてあるから自分で滑るマヌケはしない。心配事はこのあと、ココ達からどう逃げおうせるかだ・・・・・! ここじゃ妨害電波でも出されてんのか圏外だ。通信手段も他になければ土地勘もない。おまけに負傷状態だから全力疾走は無理だ──

 

『朝──に──きこ──』

 

 ・・・・・っ! 脳内に直接話しかけてる!?

 いや落ち着け。断片的だが、かすかに聞こえたこの声はゼウス(ロリ神)だ。さっき連絡手段は皆無と思ったが、前言撤回だ。ゼウスなら周辺のナビゲートくらい造作もない!

 

「ゼウス! ここから最短ルートで安全にやり過ごせる場所はないか!? 」

 

『聞こ───朝──なに──』

 

「どうした! 何言ってるかさっぱりわからない! 」

 

 ザザッ、ザザッとノイズが混じりほとんど聞き取れない。携帯に飽き足らず頼みの綱であるゼウスとの通信まで遮断させるとは、ホントに真正面でやりあって勝てる道筋がさらに見当たらなくなった。

 幸いなことにまだ武器商人は氷の中だ。そこまでおとなしいと逆に不安で堪らないが、より逃げるスピードをあげ、吹き出す痛みで不安を押し殺す。再び狭い路地裏へ入り、暗闇の中に射し込む僅かな月光を頼りに走り抜け──

 

「対話を放棄すること許さず」

 

 凍らせたはずの武器商人が、氷に覆われた状態で目の前に現れた。

 

「・・・・・っ!? 」

 

 即刻能力を解除し、動く隙を与えぬよう同時にショットガンを頭めがけて発砲する。人形を放ったみたいに軽々と後ろへ吹き飛び、地面に大の字に、空を見上げてピタリと動かない。

 どうせ死んでないんだ、期待するだけ無駄。これでも死なないってんだからつくづく神はズルい生物だな。ここは逃げに徹するしか──

 

「なっ!? なんっ、で!? 」

 

 ありえない、と声を大にして言いたい。かくれんぼでスタート地点にいる鬼のとこに戻るやつはいないように、俺は武器商人からなるべく離れるような逃走経路をとっていた。

 

 それを否定するかのように、周りに広がる光景は俺に現実を突きつけていた。潰れた家屋、かろうじて点いている電灯、そして深い木々。大通りから走ってこれる距離に広がる、違和感を覚えるほど貧富の差が激しい場所。何より、俺がじいさんに変装してた武器商人をおんぶして辿り着いた場所だ。つまり、俺の目の前に武器商人が瞬間移動してきたのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・!

 

「我通達済み。ここは話し合いの場。故に逃げること許さず」

 

 っ、後ろ──!

 

「がッ!? 」

 

 ハンマーで思い切り叩かれたような鈍痛が後頭部に生まれ、痛みは痺れとなって手足を麻痺させる。それでもと、常時持ち歩いている雪月花()を抜こうとした途端、遅れて視界が激しく揺れ、膝から汚い地面に崩れ落ちる。

 

「汝に問う。なぜ学ばぬ。なぜ聞かぬ」

 

「ぐっ!? 」

 

 凄まじい質量をもった何かに腹を蹴られ、背に風を感じ、気づいた時には建物と思わしき残骸の下敷きになっていた。直後、

 

(息がっ・・・・・! )

 

 口を大きく開けても肺が空気を受け付けない。そうか、腹を蹴り上げられ激突した際に壁に背中から叩きつけられたんだ・・・・・! 胃は反射で中身を吐き出そうと、肺は空っぽになった中身を取り戻そうと、そのちぐはぐさで呼吸ができないんだ!

 

「何度過ちを繰り返す」

 

 酸素が足りない手で瓦礫をどかし、立ちたくないと震える足を無理やり動かす。身体中痛すぎて意識が散漫になってきたな。特に蹴り上げられた腹は死ぬほど痛いし、なんなら胃は多分どっか破れた。それでも立てるのは、思考できるのは、痛みが多少和らいでるからだ。体は全て瑠瑠神だからな。神経は惰性に生きていた名残を残しているだけだ。

 皮肉に感謝する自分を情けなく思いつつ、再び雪月花()の柄を握り──再び目眩で膝をつきそうになる。

 

「っ、立てよ足! 」

 

 この刀は対瑠瑠色金用刀。転生させてくれたゼウスから貰ったものだ。今の俺が瑠瑠神に近い存在だから拒絶反応を起こしているのかもしれない。

 その目眩も少しずつ耐えられないくらい酷くなり、うつむいてしまった、その時。股の間から影のようなものがチラリと見えた。木の影ではない。もっと別の、何か──!

 

 考えるより先に体が動いた。今までで1番速く、それも何かが迫ってくると断定し、それを避けるように地面へと倒れ込むような体勢で。剣先は背後にいるであろう何者かの左肩から右脇腹へ袈裟斬りにするように。とても武偵として褒められた動きじゃないが、

 

「ほう」

 

 確かに『切断した』感触が伝わり、同時に感心の声が切断した何かから聞こえた。すぐさま、武器商人とソレを同時に警戒できる三角形の位置取りになるよう引く。

 

「「絶望の中で意地汚く生きる・・・・・いや、生き残ってしまうのが汝の運命か」」

 

 ──なんだ、これは。こんなことあってたまるか!

 

「「それが汝に降りかかる呪い。直に見るのはこれが初である」」

 

 同じ服装で、同じ直立の姿勢で、鏡合わせに立っている。まったくと言っていいほど同じ。切断したはずの肉体は斬れてないどころか、燕尾服すら無傷に見える。

 

「武器商人は双子だなんて聞いてねえぞ」

 

 2人から視線をそらさず、超能力を発動させる。俺を中心として半径15mの地面全体に薄い氷の膜を貼ると共に、大気中に氷の結晶──雪に近いものを生成する。接近すれば地面の氷が割れる音で把握できるし、空中から来ようとも結晶の動きですぐわかる。ここから出る手段はなく、通信は断絶されたこの危機的状況の打開策を導き出せなきゃ俺は死亡確定だ。

 なんとかバスカービルかゼウス──ココでもいい、知らせる方法はないのか・・・・・!

 

「「我ら双子にあらず」」

 

 ズズズッ、と背に凍るように冷たい異物がめり込んでいく感覚が不意に訪れる。

 

「っ、なんっ、またかよッ! 」

 

 パキパキと氷が割れる音はしなかった。大気中の結晶の動きもない! なのに、今胸を刺されている! これは──

 

「3人以上の群体か・・・・・! 」

 

 雪月花()で周囲を薙ぎ払うように斬るが空振り。遅れて、

 

「うっ、ぐぅッ! 」

 

 傷口に炎を押し込まれたような熱さに身を悶えさせた。痛みのレベル、というか種類が全く違う。これまで俺を刺してきたナイフはただ痛いだけ。だが今回は、刺された箇所から原因不明の熱さが広がってきている。それに、

 

「ガァ、ァァッ!? 」

 

 頭の中に違和感があると思うのも束の間、頭蓋骨を砕き額を貫かんとする痛みに支配される。雪月花()を握る力はとうに抜け、再びうずくまる状態に戻される。凍える程の寒気が背中から全身へ、ドロドロ溶かされる程の熱気が額から首へとかけてめちゃくちゃに犯していく。吐き気を催すのも一瞬で、ヤバいと思った時には既に口から何かを吐き出していた。それは小さくウニのように無数の棘を纏い、僅かに鮮緑に輝いている。

 

「純度の高い瑠瑠神色金。汝が直接見るのは初であろう」

 

「それが怠惰に生きた汝の末路」

 

「自ら堕落に進む汝の罰と受け取られよ」

 

「元より()()の指示など聞いた我らが間違い。人格が違えば思想も変わるというもの。手元が狂い、使い物にならなくなったとしても我らは困らぬ」

 

 ──武器商人が4人に増えていることよりも。自分が瑠瑠神であるという確固たる証拠を吐き出し、今一度現実を突きつけられたことよりも。今、この時、手も足も出ず無様に転がっている事実が心に重くのしかかる。

 これが強襲科Sランクか。()()()()()とは思えない体たらくだよ。こんなんで(りこ)を守れるなんて笑っちまう。キンジなら俺よりよっぽど上手く切り抜けられるってのに・・・・・。

 

 

貴女(あなた)はそれでいいの? 』

 

 

 ・・・・・それでもだ。弱気になるな。まだ終わってない。目眩(めまい)は治らねえし、今にも頭から何かが()えてきそうな痛みが続いてるが、体が壊れたわけじゃない。・・・・・まだ、動かせられる。こんなとこで犬死になんてごめんだ!

 

「では、さら──」

 

 さらばと言わせる前に、口の中に溜まった血を振り向きざまに武器商人の1人に吹っかける。ここまで意地汚いのは予想外だったのか、狙い通り仮面の目にあたる部分に直撃。他3人の武器商人も一瞬だけ行動が止まった。

 

「不細工な面には派手な赤色で目立たせてあげないとなぁ、そんな喋り方されても格好つかねえだろ」

 

 レベルの低い煽り文句を言ってやる。時間、そして距離が必要なんだ。だから──

 

「ぐふっ──!」

 

 視界を潰してやった武器商人から黒光が放たれる。避ける判断どころか何をされたかさえ知覚できず、打ち上げられたゴミのように体が飛んでいく。平衡感覚は消え、硬く冷たい地面にバウンドしながら転がっていくのが辛うじて痛みで判断できた。

 

(──これでいい)

 

 超能力(ステルス)であの場から逃れる方法はあったが、精神力の消耗は避けたかった。ただ煽って吹き飛ばされて、余計にダメージを貰ったのは俺でも馬鹿だと思う。けれど、一番これが手っ取り早い。

 そして、この距離をどう活用しどれだけ時間をロスさせるか、それが問題だが、

 

「っく、グブッ・・・・・! 」

 

 もはや血にまみれ判別不明な固形を吐き出し、片膝をつきながらもなんとか立とうとするが、想定以上にダメージが入っているらしく、その度に全身に痙攣が起きる。気持ちを奮い立たせても、()()()()の肉体が立ち上がることを頑なに拒んでいる。ここまで来て動けませんじゃ目も当てられねえが、

 

「弱き者ほど威勢が良いな」

 

「もういい。汝をここで()()()にする」

 

 だるま──それはつまり、四肢を根本から削ぎ落とし、立つことも転がることも出来ない体ということ。どんな恥辱を受け続けようとも、指をくわえて見てるしかない、最悪の終わり方。

 

「散るがよい。ああ、心配無用。汝にはショック死などというつまらぬ死に方はさせぬ」

 

 霞む視界の中で、光すら飲み込まれるような底知れない黒光が、武器商人のかざした右手に収束するのが見える。闇夜に隠れそうな程小さかったそれは、1秒と刻む事に肥大化し、あっという間にバランスボール大に膨れ上がる。俺を吹き飛ばしたものよりも数段上のレベルであり──頭で考えるよりも、体がアレを受けるのを頑なに拒んでいた。到底立ち上がれぬ体を酷使せんと、棒きれ寸前の足に懸命に力を込める。

 

「ごげ・・・・・うごげっ・・・・・! 」

 

 息を整えようとも絶えず吐き出される血が肺に入り、体の反射で吐き出してしまう。地上で窒息死なんて鼻で笑えねえ。瑠瑠色金となった体といえど、元は脆いヒトの体。死に体を無理やり動かしてきたツケがまわってきたか・・・・・!

 

『わた・・・・・か・・・・・預け・・・・・お・・・・・』

 

「では」

 

 ためらいの欠片もない冷徹な言葉に呼応し、黒光は下された命令を執行せんと放たれ──

 

 

「本当にどうしようもないわよね。ずぅっーーと見てたけど、こんなヤツに私がやられたなんて腹立つわ」

 

 

 光すら飲み込まんとする黒光に──いや、正確にはその僅か手前。それを作り出している武器商人の腕を、天上から降り注いだ一筋の光が貫き。ほぼ同時に大砲のような雷鳴音が縦横無尽に鳴り響いた。さしもの武器商人たちもすぐには対応出来ず、続く第二射が黒光を作り出していた武器商人を覆い尽くし、勝鬨(かちどき)が如き 雷鳴が地上へと唸りを上げた。

 

(1人──やった、のか? )

 

 黒光を生み出した武器商人がいたところには既に地面が焦げた匂いしか残っておらず。その他の武器商人は俺に向かって・・・・・ちがう、俺の後ろに向かって不気味な仮面の瞳を向けている。

 

 俺も後ろを振り返ると、ソイツは音もなく忽然と姿を現していた。病的なまでに白い肌。その中で妖しく輝く、切れ長の赤瞳。紅のルージュに彩られた唇。先端に縦ロールを掛けた金髪のツインテール。極めつけは、見た事のある夜に溶け込む漆黒を基調としたゴスロリ服を着こなしている。

 

「でも、理子のためならというなら話は別。今はクソ神の支配も受けないしね。特別に、本当にほんっっっとに嫌なのだけど。今回は仕方なしね」

 

 闇夜を背景に、魔的な魅力と気高き誇り、高潔さを身にまとい俺を小汚いものでも見るような目で見下ろしていて。

 

「戦うわよ。あの子を守るために」

 

 朱色の三又槍(トライデント)を俺に向け、()()()()()──ヒルダはそう宣言した。

 





(レポート、テスト、etc で忙しかったんです・・・・・投稿遅れすみません・・・・・)

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