俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 ヒルダと喧嘩後、ココと合流


第77話 羨ましく、救われ、堕ちる

「話、するネ」

 

 ココは直刀を向けたまま質問する。

 

「ルルになるの、とまたカ? 」

 

「とまた・・・・・? あ、ああ。発作は収まったよ」

 

「じゃあ『ココのことスキ』って言えアル」

 

「・・・・・いや、なん──」

 

 向けられた直刀が瞳の前に突き出される。少しでも動けば穿たれるであろう位置。疑惑の念を晴らすためとはいえなんて言葉を・・・・・。

 

「ココのこと好き、です」

 

 俺が口にして、しばらくココからのアクションは起こさなかった。俺に直刀を突きつけたまま、ジッと俺の目を見つめている。殺気は感じられず、敵意もなし。ただ冷たい視線だけを向けるだけ。俺もその雰囲気にのまれ何も言えなかった。下手に何かして左目を抉られたら、すでに右目を失っている俺は今度こそ何もできなくなる。

 

「・・・・・異常はないアル。でも制御ができてないネ。瑠瑠神が今まで能力に頼ってきたツケを取り立てに来たヨ」

 

 ココはスッと直刀を下げながら息を大きく吐く。そして俺の横に腰かけた。

 

「来てさっそくメーワクかけるバカはオマエが初めてアル。せっかくシャワー浴びてたのに台無しネ。死ねアル」

 

 確かに、ココからは甘い桃のような香りと髪に潜む心地よい暖かさを感じる。それを台無しにする暴言もココらしい。

 

「その、なんだ。あ、ああ。ありがとう、救ってくれて」

 

 ふん、とココは満足げに鼻を鳴らすと、小さな頭を俺の肩にのせた。

 ココと会った時はろくなことがないのが常識だったため、思わず俺も硬直してしまう。目つきの悪さは変わらないけど、常時殺気を纏っていたココはどこえやら。まるで距離の近い妹みたいな雰囲気だ。

 

「態度変わって驚いてるカ? 」

 

「まあ、そんなとこ、だけど。・・・・・変な物でも食ったのか? 」

 

「ここ藍幇城ネ。守りは万全ヨ。食べ物も全部チェック済みアル。──今までのオマエへの態度はウソも含まれてるアル。心の底から嫌ってるわけじゃないヨ。でも言わないとほかの妹たちに示しがつかないネ。ええと・・・・・()()()()()()()するな、アル」

 

「どういう心境の変化なんだそれ。困惑通り越して何も言えんが」

 

 それにしても無防備や過ぎないだろうか。弱っていても俺とココは敵同士。心中しようと思えば出来なくないのに、昔からの友達のように平然と横にいる。あくびまでしてる始末だ。敵の横でリラックスしてるのは褒められたものではないけど・・・・・。って、ココさん、なんで俺の肩に頭を載っけるんですかね

 

「とりあえずちょっと離れようか。いかんせん距離がな、近い」

 

「うるさいネ。男なら肩は黙って貸すアル」

 

 四の五の言うな、とココは気だるげに言う。

 調子が狂うとはこういう状況だろう。敵意剥き出しで斬りかかってくれでもしたら、大義名分のもと取り押さえられるのに。無抵抗どころか距離感だけなら理子のソレと同じだ。恐怖っていう感情はないのか。

 

「オマエは『センパイ』ネ。センパイだから気が抜けるヨ」

 

 よく、分からない。が、

 

「同じ境遇(キョーグー)になったココはオマエの『コウハイ』ヨ。センパイはコウハイに優しくしろアル」

 

「同じ境遇って──おまえっ、まさか」

 

 背中に冷や汗が伝う。

 その言葉が意味するもの。俺と同じ境遇ってのは、つまり──。

 

「色金じゃないヨ。マトモな死に方をしないことが確定してることが同じ境遇ネ」

 

 ──なんだ、そんなことか。

 ほっと胸を撫で下ろし・・・・・いやいや! 死に方が確定している、だって?

 

「確かに俺は、魂の消失? と言っていいのか分からないけど、朝陽としての死は多分そこだ。肉体は見るも無残な姿となって朽ち果てる。傍から見りゃ惨い死に方だろうな。でもお前はまだ中学生だろ。こんな組織に属しているから一般人のような、のどかに過ごしてゆっくり死んでいくってのは無理かも知んないけどさ。少し悲観的になってるんじゃ・・・・・」

 

「わかるヨ。ココは運命を売ったネ」

 

 ──言葉が、でなかった。強く否定するわけでもなく、ただ遠くを見つめて。悲しい思いも、恨みすらも感じさせないその横顔は、あるがままの運命を受け入れると覚悟を決めていた。一点の曇りもないその表情が仮面だと祈ってしまうくらい羨ましくて、生まれた言葉は喉を通る前に消えていく。

 

「ココは産まれた時から死への道が決まってたネ。武器商人が組織藍幇とはじめて会った時こう言ったヨ。『どの国よりも強くなりたいなら、この子を付き人としてくれませんか? 』って。それがココの運命変えたアル」

 

「・・・・・」

 

「まだココが小さい時に皆の期待せおって付き人なったネ。1週間に4回の訓練を武器商人とするアル。ココがこれするようになてから、ココ強くなったネ。オマエも見たヨ。ココの力を」

 

 思い返せば、確かにココは人ならざる力を使っていた。修学旅行での新幹線ジャックの時だ。バスカービルもろとも消そうとココがビームみたいなのを発射して、俺らは避けたけど、射線上にあった山がひとつ文字通り消し飛ばしたんだっけ。

 

「・・・・・信じられな」

 

──ココの言ってることが本当なら、アレは後天的に植え付けられた超能力(ステルス)だ。ともすれば、後天的にヒトに植え付けられる技術を武器商人は持っている。超能力(ステルス)の軍隊を創ることだってアイツには不可能ではない。

 

「おちょくってないよな」

 

「嘘つく理由ないヨ」

 

嘘であって欲しいとココを観察するが、嘘を言っているようなそぶりは一切見せていない。

 

「だったら、超能力(ステルス)の獲得方法はどうやったんだ」

 

「背中をちょっと触れられてただけアル。武器商人の言葉で、ンー・・・・・魔力供給と運命力の前借り、だったネ。力の扱い方以外は特別なことしてないネ」

 

「・・・・・うそ、だろ」

 

 開いた口が塞がらないとはよく言ったものだ。まさに今その状況だ。そして畳みかけるように、

 

「あとオマエ勘違いしてるけど、ココがもらったのは超能力(ステルス)じゃないヨ。魔力? をつかうネ。超能力(ステルス)よりもずっと強い、数年先の技術と才能アル」

 

 と、少しばかり自慢げに話している。

 俺や白雪、ジャンヌといった超能力(ステルス)の使い手の場合、精神力を消費することで能力を発揮する。高出力の超能力は燃費が悪く、大技を決めるのは仕留める確信があってこそ放つもの。あの日のココも例にもれず、莫大な高出力の光線を放った後立てなくなっていた。問題はその影響だ。ジャンヌや白雪ほどグレードの高い超能力者でも、(しぜん)を一瞬にしてどうにかできる実力はない。魔力ってのが仮に精神力に近いものだとすれば、つまり、魔力の方がエコな上にパワーもあるってことだ。

 

「運命力の前借りは、魔力を使った大技でココが傷つかないためアル。この時代の人間が魔力の技をつかたら怪我するアル。動かしたことない筋肉うごかして筋肉痛になるのと一緒ネ。でも運命力の前借りで、ココの未来に訪れる『幸運』をむりやり借りるネ。そうすると、『幸運なことに怪我しなかった』ということになるアル」

 

「っ、そんなことできるわけが── 」

 

 ない、とは言いきれない。話の真偽はともかく説明はつく。ココが山をも消す光線を放ったあと、その場に力なく座り込んでいた。運命力の前借りとやらでも立てなくなる程の喪失感は貰わざるを得ないのか。いや、この場合、代償は立てなくなるだけで済んだと言った方が正しいな。まあデメリットなしであんな大技撃たれたらお手上げだが──。いや、そんなことよりも、だ。もっと重要なことがある。

 

「前借りってことは・・・・・どうなるんだ。お前の未来に訪れるであろう『幸運』は」

 

「残るのは『不運』だけアル。使えば使うほど未来から幸運は無くなるネ。だからセンパイと呼んだアル」

 

「・・・・・そうか」

 

 幸運と不運の量が産まれてから定まっているのであれば理屈は通ってる。けどそれを悲観する様子はない。ただ、()()()()()と受け入れている。歳不相応にも落ち着いている。それがただ、■■しくて、

 

「後悔とか、辞めたいとかないのか」

 

 こんな小さい子にこんな感情を抱くのは間違っているとしても、水を差すような言葉を投げた。何を祈っているのか自分でも考えるのが嫌になるくらいに。

 

「──ないアル。あるはずがないヨ。だってココは──」

 

 ・・・・・と、口を小さく開いたままココは固まった。それから、何かを思い出したかのように頬を緩ませながらゆっくりと閉ざす。まるで、言いかけた言葉を閉じ込めておくように。

 

「ココは、なんだよ。言えない秘密でもあるのか」

 

「ないネ。ただ心入れ替えただけアル。それよりオマエは他人の心配をしてる場合じゃないヨ。頭から色金を象徴(しょーちょー)する角が生えてきてるアル」

 

 トントンとココは自分の額を指でつついた。半信半疑に手のひらで額全体に触れてみる。

 

「・・・・・・・・・・これ、か? 」

 

 前髪をどかし直にもう1回触れてみる。最初は何かのデキモノかと思えるような小さな突起だと思った。けど、ちゃんとした()()()がある。突起付近を強く押すと、太い芯に細い管が巻きついているような形なのがすぐ分かった。多分1センチかそこら、形状的に見られたらすぐバレるとはいえ、まだ前髪で充分隠せる。

 

「さっきの武器商人(アレ)との戦いでついに見えるようになるまで成長したネ。でも突然じゃないヨ。頭の中から刺されるような頭痛(いたみ)はあったはずアル」

 

「確かに・・・・・いわれてみれば何度かあったような気がするな。てことはこれ、頭の中から生えてんのか!? ──っ! 」

 

「腹の中グチャグチャなくせに大声だすなアル。・・・・・角は頭蓋骨が変形してるだけネ。でもオマエのような色金と相性が悪い人間は痛み感じるアル」

 

「そうなんだな。──アリアは、緋緋神とアリアの関係はどうなんだ。あの頭痛が戦闘中にでもおきれば事故に繋がる。先に知っておくだけでも事故のリスクは低くなるんだ。アリアの口からも、今どの段階にまで緋緋神の脅威が迫っているか聞けてなくて。それにほら、あいつも一応女子だし、おデコをチャーミングポイントと自称してるのにこんなのが生えてきたらショックだろ? 」

 

「本人に聞けばいいアル」

 

 ・・・・・あ。

 

「何でも知ってるわけじゃないヨ。チームメイトのことはオマエが自分で聞く──そんなことも分からなかったアルか? 」

 

 ズブリと冷たい刃が胸に刺さる。

 チームメイトのことはそのチームメイトが1番よく知っている。当たり前のことだ。その当たり前が、出来ていなかった。その現実を再び突きつけられる。

 

「緋緋神は乱暴な性格と聞いたネ。他にも神崎アリアと似てる部分があるヨ。だから波長たぶん合うネ。合ってるから、適合すればもっと強くなれるアル。相手にしたらめんどくさいネ。いっそのこと朝陽みたく取り込まれてしまえばいいヨ」

 

 俺の動揺をよそにココは香港の夜景に向かってそう吐き捨てた。

 

「あぁ、いや、そういうこと言うな。一応チームなんだから。アリアは命の恩人だし緋緋神のことで手伝う約束もしてるんだ。身体中に愛の言葉(なまきず)を刻まれるような道を辿らせるわけにはいかない。そのためにも俺は、絶対に打ち勝たないといけないんだ」

 

 アリアが今どこまで緋緋神化しているのかちゃんと聞いてなかったな。けどもし俺と同じような段階を踏むのであれば、まだ安心できる。緋緋神の力を使ったのは2回か3回だけ、しかも緋緋神の人格は表にでていないときた。時間はある。アリアが失った、緋緋神化しないための7つの殻金さえ取り戻せれば良い。

 

「・・・・・・・・・・オマエ、瑠瑠神の他に()()()()()()アルか? 」

 

「──え? 」

 

 意味不明な言葉に思わず顔を横に向ける。

 

「どういうことだよ」

 

 聞いてもココは俺と目を合わそうとしない。遠くに見える煌びやかなビル群をジッと見つめるのみだ。

 こういうとき、ただの冗談だと聞き流せば、あるいは無視すればいいんだろうが、今の俺にはたぶんできない。肌を刺す寒風よりも冷たい震えが手足に現れる。

 

()()と瑠瑠神、そのふたりだろ? 何言ってんだよ」

 

 ココのショートな髪がなびきその意図を隠す。まるで、視界に入れたくないと語っているようで。なぜだか心が急に縛られていく。息がうまく吸えない。過呼吸には至らないけど、それに近い。

 

「──」

 

「な、なんなんだよ。おまえには他に誰かいるように見えるのか? 」

 

「────」

 

 答えない。ずっと無視されている。

 ああ、おまえも──

 

「────おまえも、おいていくのか? 」

 

 口にしてからハッとする。想いもしなかった言葉。口からこぼれてしまった一言。それでも効果はあったらしい。頑なに視線を合わさなかったココと再び目が合った。たぶん予想していたものとかけ離れた戯言を口にしたからだ。

 前にも何度か、想いもしない感情が出ることがあったけど、どうしてこんなタイミングで・・・・・。

 

「・・・・・そう、アルか。そうネ。変なこと聞いたヨ」」

 

 そよ風にかき消されそうな小声。妙に優しげで、どこか懐かしく暖かい。なんでもないその一言で、寒さは吐息にのせられ次第に震えは収まっていく。それどころか、逆にホッとした気分だ。何もやましいことなんてないのに。

 

「話もどすヨ」

 

 いつもの口調に戻ったココは、また淡々と話し始める。

 

「さっきも言ったケド、他人の心配は自分のこと済んでからアル。とくに今のオマエ相当弱いネ。瑠瑠神の能力に頼ってばかりで戦闘の基礎なんもできてないヨ」

 

「・・・・・はは、いたいとこをついてくるな・・・・・」

 

「当然アル。それにオマエについたのが緋緋神ならまだよかたヨ。緋緋神は戦争好き。だから能力の使い方も実戦向きアル。けどオマエは瑠瑠神ネ。瑠瑠神は元々おだやかな性格だったと聞いたヨ。そんなのに同化していくなら、オマエもっと弱くなってくヨ。能力だけ持った格闘知識もないヤツが戦うときはいつだって力任せアル。今のオマエの戦い方がソレと同じネ」

 

 言葉のナイフで滅多刺しにされているかのようだ。

 ココが言ったのは紛れもない事実。1回瑠瑠神の能力を使い始めた時から、発動するたびに京城朝陽という人間が堕落していく。その事実を噛み締めながら、どんな場面でも最後は結局頼ってしまう。保険があるから俺自身の動きに隙がうまれ、能力を使わざるを得なくなる。この繰り返しだ。

 

「何度も言うヨ。今のオマエは弱いアル。キンジにも負けるネ。うちの訓練生の方がまだ強いヨ」

 

「そう・・・・・なんだろうな。おれ、どうやってSランク武偵になってたんだろ」

 

「そんなこと聞くなアル」

 

 武偵高入学前のシャーロックとの特訓の日々が思い出される。本当に死の1歩手前まで努力し、駆け引きを覚え、武器の扱いを体に叩き込んだ。ゼウスからの特典で身体能力が常人よりも引き上げられていることもプラスして、やっと手にしたSランクだ。瑠瑠神を倒すにあたって欲しかった実力の一端を身につけたかもしれないのに、台無しにした。ミイラ取りがミイラになる、まさか自分に訪れることとは思ってもみなかったな。

 

「鍛え直さなきゃいけないアル」

 

 再び俺の目を見つめ、ココは力強く言葉を紡ぐ。

 

「オマエの実力はもう元には戻らないネ。身体も瑠瑠神のままヨ。だからスタイル変えるネ。オマエいつでもピンチなってから瑠瑠神の大技使うネ。それじゃダメヨ。大技は相手たおせるけど負担でかいネ。相手をたおせないけどチャンスは作れる小技をつかうネ」

 

「確かにまあ、衰えてるのは自分でわかるけどさ・・・・・小技って言ったって、アレの能力に小さいも大きいもないだろ」

 

「出力の問題アル。オマエの周囲1センチの時間を遅くするのと世界中の時間を遅くするのとでは全然違うヨ。他にも次次元六面(テトラディメンシオ)は1つしかださない、有視界内瞬間移動(イマジナリ・ジャンプ)は使わないとか色々ネ」

 

 確かに。後半のテトラなんたらとイマジナリなんたらはよく分かんないけど、俺が瑠瑠神に乗っ取られた時に使った未知の技の2つだろう。立方体の影っぽいやつと、瞬間移動。立方体の影らしきやつは、今さっき頭の中に流れてきた4次元空間から生み出した物体っぽいけど──思い出すだけで頭が痛くなる。人が一瞬で受け取るには過剰な情報量だ。頭が破裂してないだけマシ。

 と、ここまで考えて疑問が浮かぶ。

 

「・・・・・・・・・・おまえ、なんで俺よりも知ってんだ? 瑠瑠神の能力のこと」

 

 色金自体が機密情報扱いなのに、能力についてやたらと詳しい。

 

()()()能力アル! ちがうのは時間の使い方が過去か今か未来かだけネ! オマエは逆に知らなさすぎるヨ! 色金を扱うなら歴史を学ぶの当然のことアル! ココみたく情報盗んでも調べろアル! 」

 

 ──当然のことだった。危機感がまるでない。色金の情報なんて国から盗んでも死ぬ気で調べるべきだった。時間がなかった、なんて言い訳できない。

 

「あとは武器商人が知ってたヨ。アイツ何でも知ってるネ」

 

「もう何知ってても驚かねえよ」

 

 武器商人と話したいことは山ほどある。ただ、それ以前に自分の怠惰で手遅れになっていたことも、俺のまわりの被害のこと、そして自分ができることを全てに決着をつけてからだ。その一歩をいま、踏み出そう。

 

「ココ」

 

 緋色にも近い瞳を見つめる。本気で殺しにきた相手、そして仲間から引き離そうとする組織の一員に対してこんなことを言うもんじゃないが、それでも。

 

「ありがとう」

 

 ココはその一言は予想していなかったらしく、嬉しいような、気持ち悪がるような複雑な感情が一気に顔にでていた。顔の歪んだ粘土細工みたいな、そんな感じ。そして

 

「勘違いするなアル。ココはオマエが暴走しないための監視役ヨ。まだオマエのこと嫌いアル。今回はあまりにもオマエが惨めだったから慰めただけネ。使えない()()()()(ケツ)ぬぐいをする身にもなれアル」

 

 と、俺から目を逸らした。それから、

 

「────どういたしまして、アル」

 

 と、また、俺に寄りかかり肩に頭をのせた。

 嫌いならなんでくっつくのかなあと若干困惑しつつ、空を見上げる。飛び降りなんて考えてた時とはもう違うんだって、他ならぬ自分に見せつけるために。あとはチームのみんなにどう伝えるか。それを考えよう。もう、辛い思いはしたくないから・・・・・。

 

「──」

 

「────」

 

 

 ──いや待て、おかしいな。話の流れにのせられるな。雰囲気にもだ。ココの過去とか、俺の今後とか話しててそっちに意識飛んでたけど、もっと重要なことがある。

 

(こいつ、ほんとにココか? )

 

 別人じゃないかってくらい急にデレデレするし、えも言われぬ違和感が常にココにつきまとってる。ココと前会ったときは新幹線ジャックだ。その前は修学旅行の前。確かレキとキンジがデートっぽいのをしてたのをレキとアリアと一緒に目撃した前だったかあとだったか・・・・・。そんときからなんか変わって──って、そうだ! ()()()だ! 本来のココなら()()()が相当おかしかったはず。ならこいつは──っ!

 

「おまえ! ココ以外の三姉妹のどれかだろ! 」

 

「なに急に言い出すヨ。ココはココ、それ以外にいないアル」

 

「今のおまえと、新幹線ジャックとその前に俺と会った時のおまえ、口調が違うんだよ」

 

「──っ! 」

 

 頬に軽い頭突きを繰り返していたココは、ビタッ! と動きを止める。

 

「この死に体の傷を背負ってまた判断力が落ちてたんだ。それに加えて濃い内容の話をするもんだ、口調よりも話の方に優先して頭をまわす。だから気づけなかったけど──どこいったんだ? あのかっこいいセリフは」

 

「やめろ、アル」

 

 おっと声が震え出したな。顔を見ようとしても背けるし。なんなら耳まで真っ赤だ。ここまで話して正体がバレりゃ作戦失敗。俺に負かされた不名誉な称号を手に入れるんだ。さぞ恥ずかしいだろうな。今の俺は戦闘どころか立つことさえ血反吐はく思いしてやらなきゃいけん重症だが、正体を暴くことならできる。やってやるさ、死にはしないんだから!

 

「そうだな。お前はこう名乗ってたな。たしか、 怒り喰らう左腕(イビルバイター)紅龍ノ(レッド)──」

 

「うわああああああぁぁぁっっっッッ!!」

 

 ──弾けたように視界が横に飛ぶ。一瞬遅れて、首の骨が折られたんじゃないかって衝撃が駆け巡り、

 

「いっっっっっっっっっっッ!? 」

 

 あまりにも味わったことの無い未知の痛みだったため、首を斜め上に向けたまま固まることしか出来なくなった。動かしたら絶対に痛みが走るから動かせないアレだ。

 しかも、なんか聞いたことがない骨のなり方した気がする。って、うわっ。首がなんか熱くなってきたぞ。

 

「おま、え・・・・・そこまで、しな、くても」

 

「うるさいネ! うるさいうるさい! 忘れろアルっ! 死ねアル! 口を一生開くなアル! 」

 

 ああこれは──もう卒業したのか。中二病はこんな短期間で治るもんじゃない。多分、誰かに目を覚まさせられるような何かを言われたんだな。かわいそうに。

 

「あれは、そう! 武器商人(アレ)がその口調の方が威力が上がるって言ってたからヨ! 意味知らなくて使ってたアル! もう使ってないネッ! あーもうそれを思い出させるなアルゥゥッ! 」

 

 ・・・・・涙を浮かべた般若のような形相で胸ぐらを掴まれ、激しく前後に揺られる。

 こりゃ、失敗だったかもなあと、それでも俺は笑みを浮かべた。

 

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