俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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遅くなりました。



第7話 再開ノ悪夢

 朝、起きると妙な静けさがあった。

 朝だから静かなのは確かなのだがなにかがおかしい。リビングに行き、鼻歌を口ずさみながら朝食を作る。アリアもそろそろ起きてくるはずだが。

 

「おーいキンジ、アリア起きろ」

 

 ​───返事が返ってこないだと⁉︎

 キンジはともかくアリアまで、そんなに眠たいか? 俺は寝室に行き、2人に目覚ましで起きてもらおうとしたが……2人ともいなくなっていた。ベットもしっかり整ってるし、朝早くでたのか?

 

 俺は一人寂しく朝食を作る食べ終え、支度をして7時58分発の武偵校行きのバスに乗る​────

 

 

 

 

 

 

 ​────つもりだったのに10分待ってもバスは来なかった。

 バスの運転手も寝坊したのか? どうなってんだ.....

 仕方なく俺は先日購入した自転車で武偵校へと向かう。

 

 

 だが……おかしいぞ? 絶対おかしい。

 車が走ってないのだ。いつもは絶対に走っているはずなのに今日は1台も走っていない。何かに消されたような、不自然な感覚が襲ってくる。道にだって俺しか人がいない。

 

 不思議に思いながらも武偵校についたが......いつもは賑わっている校門周辺には誰1人としていなかった。強襲科の訓練棟からも発砲音聞こえてこない。まるで.....この世界に自分ひとりだけしか存在していない、そんな感じだ。

 強襲科の訓練棟を横切り、本校舎へと赴く。これもまた不思議な、人の気配が全くしない本校舎に入った瞬間......ここに来てはいけないと本能が告げてきた。心臓の鼓動が早まり、顔から冷や汗がでてくる。

 

 だが、そんな異常事態でも自分のクラス行かなければならない、そんな気がしてならない。

 この矛盾している感情は一体どこから? 考え事をしていると、いつの間にか自分のクラスに向かって歩いているのに気がついた。廊下に コツコツと足音が響き、一歩踏み出す度に不安な気持ちがどんどん心を覆っていく。

 

 だがそんな気持ちとは裏腹に、どんどん自分のクラスに歩を進めていく。

 行かなければならない使命感に駆られながら、クラスの手前までつくと......自分の足が止まった。

 

(ここに誰かいるのか? )

 

 教室の扉を開け教室に入ったが、誰もいない。ほかの教室と一緒だが......強いて言うなら空気が重い。なにか得体の知れないモノがいるみたいで​───

 

「朝陽、やっと逢えたね」

 

 ​───ッ!? 先っきまでは誰も教室にいなかったのに!?

 恐る恐る振り返ってみると、鮮緑色の髪が肩まで伸び、顔立ちもハッキリとしている女性が立っていた。美人の部類に間違いなく入る。目も綺麗な鮮緑で、カラコンではない。着ているワンピースも透き通った翠色だ。

 

 だが、俺はこんなヒト見たことない……はず。

 

「あんた、誰だ? 」

 

「ふふっ、朝陽イジワルだね。そんなとこも好きだよ」

 

「何言って......」

 

 そいつはニッコリと微笑むと、深みのある目で

 

「わたしだよ? ルル(瑠瑠神)だよ? 」

 

「​────ッ!? 」

 

 ルル、そんな名前をしているやつは俺の知る中で1人しかいない。

 その名前を理解した時、反射的にグロックに手をのばした。そして迷わずフルオートで瑠留神の顔に連射するが、

 

「そんなの、私には効かないよ? 」

 

「なっ!? 」

 

 それらの弾がすべて瑠留神の顔の前で止まっていた。瑠留神はそれらを手で弾き落とすと、俺に近寄ってくる。瑠留神の目は俺のことしか見ておらず、頬は赤く染まっていた。

 

「おい、なんで俺につきまとうんだ!! 」

 

「朝陽が好きだから」

 

「なんで幼なじみを殺した! 」

 

「朝陽が好きだから」

 

 だんだんコイツに腹が立ってきた。俺を殺しておいて愛してるだと? ふざけるな!

 

「どうして俺を殺した! 」

 

「朝陽が好きだから」

 

「俺のどこがいいんだよ! 」

 

「朝陽のすべてッ!! 」

 

 ヒステリックに喚くと、瑠留神は自らの頭に爪たてさらに口角をあげ、俺と目を合わせた。

 その目を見た瞬間、金縛りのように体が動かなくなる。

 

「ねえ、朝陽は楽しかったよね? もう1回戻ろうよ」

 

「は? ......俺はお前となにかしたことは無い」

 

「ううん、朝陽は私の恋人なの。一緒に暮らして、一緒にご飯食べて、ずっと楽しく話してたんだよ? 」

 

 そんな記憶は一切ない。そんなこともしたくない。

 こんなヤンデレと一緒にいたら、一瞬で殺される。

 

「俺はお前と暮らしてない!」

 

「嘘……嘘嘘嘘嘘! 嘘だッ! 」

 

「​───ッ!? 」

 

 瑠留神が叫んだ瞬間......空気がズシリと重くなるのがハッキリとわかった。

 目の前に巨大な猛獣がいるような、そんなプレッシャーが瑠瑠神から発せられる。

 

「朝陽、ホントウダヨ? だって私、日記書いてたもん」

 

「な!? ......だったら見せてみろよ! 」

 

 ヤケになって俺も怒鳴ってしまった。

 瑠瑠神はその言葉を聞くと、ワンピースを脱ぎ始めた。

 

「な!? 何を......ッ!? 」

 

「ね? これがわたしの日記だよ? 」

 

 ルルがワンピースを脱ぎ、見えたものは......

 

 

 

 

 

 ビッシリと無数の切り傷が、瑠留神の両腕、太もも、足、腹、胸部にある。

 その切り傷は、一生消えないようなとても深い傷。そしてそれらは全て......()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり​────

 

「お前ッ!? そんな自分の身体に切り刻んで!? 」

 

「そうだよ? 私、爪が鋭いの。あのクソロリビッチに閉じ込められた世界ってなにもないのよ? だけど......朝陽は違った。朝陽は私のところに来てくれた!! 会える時間が少なかったからそれを全部、私の身体に日記として残すことにしたの 」

 

「それはお前の妄想だろ!! 」

 

「違う!! 朝陽は私に優しくしてくれた! ずっと一緒って言ってくれた! 私は忘れないようにと思ってこの身体に書いた! 朝陽のことと思えば全然痛くないの! 」

 

 おかしいだろ、 こんなの​────

 

「狂ってる......」

 

「そんなことないよ。私は朝陽だけを考えてるだけ。朝陽以外何もいらないの。この私達2人だけの世界でずっと一緒にここで暮らそうよ」

 

「そんなの......嫌に決まっているだろ!! 妄想だけしておとなしくしてろよ!! 」

 

「そっか。言う事聞かない朝陽にはオシオキだね」

 

 ザッ!! っと音が俺の左側で聞こえた。なぜだか身体が軽くなったような気がする。体内から何かが抜けていく感覚が左腕から絶えずしていて​、冷や汗も額から流れ落ちていく。嫌な予感を残しつつも左腕を見ると​───

 

()()()()()()()()()()()()()。それはとてつもなく鋭いものが一瞬で斬ったようで、

 

「がああぁあああああああぁあぁあああ!? 」

 

 痛い、熱い、どれもそれを表現出来ないほどその感覚は襲ってくる。地面にぶっ倒れ、声にならない絶叫を教室内にこだまさせた。

 一瞬の間にも血はどんどん流れていく。身体を振り回してもその痛みは取れない。

 

「朝陽、私の恋人だよね? 」

 

 俺は意識を失いかけたが、痛すぎてもう感覚がわからなくなってきている左肘に能力を使い凍らせ、止血する。

 想像を絶する痛みが全身を駆け巡りながらも必死に立つ。足がガクガク震えるがそれでも言葉を紡ぐ。

 

「俺は、お前の......恋人なんかじゃねえ! 」

 

 ザッと音がすると同時に今度は右足がすべてもっていかれた。切断面から勢いよく血が流れ、それと同時にまたあの痛みが襲ってくる。

 

「あああああああああああああ!? 」

 

 後ろ向きに倒れ、それと同時に耐え難い苦痛もまだ続く。左肘、右足、2つを切断され、痛みで頭がぐちゃぐちゃになる。

 絶叫で喉をつぶし意識が刈り取られるような痛みと出血により痙攣している、傍から見れば俺はそんな情けない姿だろう。痛いのに、苦しいのに思考だけは冴えている。瑠瑠神はそんな俺をしばらく見つめると、諦めたようにため息ついた。

 

「朝陽、今日は機嫌がわるいみたいね......また会いにくるよ? 朝陽のこと、大好きだから」

 

 そう言い残すと、瑠留神は仰向けに倒れている俺の腰あたりに座り込み、耳元に顔を寄せる。

 

「朝陽、愛してるわ」

 

 甘い声をかけ、どこから取り出したのかわからない

 鋭く尖った包丁の刃を下に向けながら腕を上にあげる。

 

 そして​───

 

 

 俺の顔面へ振り下ろされた......

 

 

 ​

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ」

 

 ラノベでよくあるテンプレ言葉を口にするとは思わなかったが、現在真っ白な天井が見える。

 あれ? 俺は確かまた瑠留神に殺されたはずじゃ......

 

「あら、やっと起きたのね」

 

 アニメ声で俺に喋りかけてきたのは、頭に包帯を巻き、俺の横のベッドで寝転がっているアリアさんだ。

 

「え......俺は何してた? 殺されたはず」

 

「何変なこと言ってんのよ。あんた、悪い夢でも見てたみたいね。相当うなされてたらしいわよ」

 

 夢?......確かに夢といえば夢だが、痛みがリアルすぎだ。

 

「そうか......そういえばアリアはどうして頭に包帯まいてるんだ? 」

 

 自慢のオデコを隠すようにぐるぐると包帯が巻かれている。

 

「あんたが寝てる間にバスジャックがあって、キンジをかばって代わりに傷を受けたのよ」

 

「即日で回復してるあたりアリアらしいな」

 

「何言ってるの? バスジャックは昨日よ」

 

「え? 」

 

 ということはあれか? あんな短い時間で2日間も寝てたって言うのか? あとでゼウス様に聞こうか。

 そのあとアリアに色々と事情を聞いてると、SSRのアラン先生と探偵科の高天原先生が俺のところに訪れてきた。

 なんでも、俺がうなされて超能力暴発させてるから助けてくれと電話したらしい。

 武偵病院に運び込まれ、特別治療室で怪しい術で俺の超能力をある程度抑えていた。それで今日、安定したからアリアの横のベッドに寝かされたということだ。

 

「まったく、部屋中凍らせやがって! 貴様、弁償はきっちりするんだよな? 」

 

「アラン先生……しっかりしますよ……」

 

「京条君はどんな夢見てたの? すごいうなされてたけど 」

 

 アランのやつが弁償のことしか俺に触れてこないのに、武偵高の良心こと高天原先生は俺の心配をしてくれる。優しくしてもらって、もう涙がでそうだ!

 

「まあ今日はゆっくりしていってね。体調が悪くなければ明日には退院できるから」

 

「はい、ありがとうございます高天原先生 」

 

「貴様、私もいるのだぞ? 」

 

「……アラン先生もです」

 

 ふぅ、高天原先生は良いとして、アランが来ると怖いんだよな……アリアは2人の先生が病室を出るまでじっとしていたが、出ていった瞬間、俺に真剣な表情をむけてきた。

 

「あたしは明日退院よ。ママとの面会があるの 」

 

「面会? なんでまた……」

 

「実は……武偵殺しの冤罪をかけられているの 」

 

「な⁉︎ ……そうか。逮捕されているのか。何かあったら頼りにしてくれ 」

 

「わかったわ、ありがとう。キンジと違って頼りになるわ」

 

 ああ……ヒステリアモード時は頼りになるんだがな。バスジャックの時は違ったのか。

 

「でも、キンジだって色々と事情があるんだ。例えば、あいつのお兄さんのこととかな 」

 

「何があったの? 」

 

「船で海難事故にあったんだ。その時、あいつの兄は乗員乗客全員を避難させた。それで自分が助かるのが遅れてしまった 」

 

「そうなの……じゃあ武偵をやめたいって言ってるのは? 」

「武偵なら自分で調べろ。すぐにヒドイ記事がでてくるからな」

 

「……わかったわ。あたし、ジュース買ってくる」

 

 アリアはジュースを買いに外に出た。病室には俺しかいない。そう、やることは一つ!

 

「おいロリ神、瑠瑠神に悪夢見させられた」

 

『……久しぶりかと思ったら随分と重い内容だね』

 

「どうなってんの? ちゃんと封印してんの⁉︎ 」

 

『しっかりやってるよ! でも……瑠瑠の力が思っていたよりも強くなっているの』

 

 え? 瑠瑠さん強くないですか? ちょっとチートじゃないですか? 俺チーターは嫌いなんですけど!

 

「先に言えよ! こっちは手足切断されて、また顔面刺されたんだぞ! 」

 

『ごめん! まさか一回で力を放出するとは思わなかったんだ……』

 

 土下座でもしてるんじゃないかと思わせるほど、声に力が入っている。

 

「と、言いますと?」

 

『瑠瑠が今出せる最大限の力であなたに干渉したの。今は力を使い切っているはずだわ』

 

「じゃあ力をためたらまた来るのか」

 

『そう……かも』

 

 え? 瑠瑠神が夢に出てくるたびに手足切断なの? 嫌だよ!もうあんな痛い思いしたくないよ! ロリエモンなんとかしてくれ!

 

『ロリエモンとかふざけたこと思わないでよ!!』

 

「あ、心読まれんの忘れてたわ」

 

『はぁ......こっちも力を溜めれないように術式強化しておくから』

 

「あ、ありがとう。じゃあまたな」

 

『ええ、それとひとつ。アニメって面白いわね』

 

「サボってんじゃねえよ!! 」

 

 まったく......ホントにしっかりやってんのか? ゼウス様との連絡も切れたし。そういえば瑠留神に斬られたところ何もなってないよな? 病院側が貸してくれたであろう服の袖をめくってみる。

 

「......なんだこれ」

 

 斬られた肘の部分には何も無かったが......二の腕に小さな紅い傷跡があった。バツ印か?こんなものつけやがって。許すまじ!!

 

 袖を戻したところでアリアが帰ってきた。ただテレビを見るだけでも暇なので、互いに銃の整備をしながらアリアの戦妹について話す。

 戦妹とは、簡単に言えば先輩と後輩でのパートナー。1人につき1人で、その先輩からは直接指導してもらったり一緒に任務に行けたりする。強い先輩の戦妹となれば妹である後輩もまた強くなるというわけだ。

 

 アリアの戦妹は見たことあるが......強襲科でDランクの成績で、良いところは頑丈なところと気合、あとは敵を仲間に変えることが出来る、ある種の才能だな。

 相当気に入っているらしく、夜まで嬉しそうに話していた。9時くらいのになり、もう寝ようかと思ったがアリアの戦妹とその御一行様が病室に入って来るのが見えた。どの1年も真剣な顔をしているし......俺は布団に潜っておこう。

 

「アリア先輩!! あたし、夾竹桃と戦います! 」

 

「そう......あかり、あなたの技がもう殺しの技なんかじゃない、武偵の技だわ。自信もって戦ってきなさい」

 

「はい!! 」

 

「ほら! あんたも何か言いなさいよ!! 」

 

 ドゴォ!と効果音が鳴りそうなアリアのかかと落としが俺の腹に炸裂し、胃の中のものが一瞬出てきそうになるがこらえる。

 

「おいアリア! 邪魔にならないように気配消して布団に潜ってたのに。空気読めよ! 」

 

「アリア先輩、その人って......京条先輩ですか!? 」

 

「そうだよ。京条だ。よろしくね」

 

「よ、よろしくお願いします!! 」

 

 

 とりあえず急ぎの事情のようなので詳しい自己紹介は後日、ということで俺は布団をかぶった。

 アリアが武偵憲章を復唱させてるのを耳にしながら、俺は深い眠りへとついた……

 

 

 

 

​───────​───────​───────

 

 

 

「​───瑠瑠神がまさか()()()をこんなにも早く出せるなんて……」

 




瑠瑠神さんの妄想怖いです。文字どおり身体に刻み込んだらしいです。




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