怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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うーむ……バレンタインデーだからといってバレンタインの話を投稿したのはまずかったか……?(時系列的な意味で)


第十話 人は誰しも死ぬ時がある

怪盗1412号、通称怪盗キッドは腹の激痛に耐えていた。

今分かるのは自分が木葉に抱かれて空を飛んでいること。

そして、頭の中に訴えかけてくる声があるということ。

 

――くるのよ黒羽快斗。いや、怪盗キッド!

 

「誰、だ……!?」

「ちょっと動いちゃダメ。傷が深いんだし、一応応急措置はしたけどだからといって――」

 

と、相棒の木葉が快斗に心配した様子で話しかけてくるが快斗はそれどころではなかった。

 

――そも苦しみから解放してあげる。

 

「お前は何者だ!?一体どこにいる!?」

「……本当にどうしたの?ねぇ大丈夫?」

 

何度問いてもその答えが帰ってくることはなかった。ただ一方的に話しかけられ、激痛に苦しむだけ。

 

――そこの森に降り立ちなさい。貴方が今求めている物が手に入るわ。

 

「森……?」

 

言われて快斗が視線を落とすと確かに樹木が生い茂っていてまるで森のようだった。その先を見ると何か白い霧のような物が渦巻き、それは空高くまで伸びていた。

 

「なに、あれ……?」

 

木葉も森の方に視線を変えて、驚愕した。自然現象なのかどうか疑ってしまう程恐ろしい光景。あの霧の中に魔物が住んでいると言われても今の木葉なら信じてしまうかもしれない。

 

「相棒、あそこに降り立ってくれ」

 

快斗が自分のことを『相棒』ということはまだ仕事を完全に終えてないということ。あそこに快斗の今までの不振な行動も理由も分かるのだろうか。

 

「……分かった」

 

でも訳は特に聞こうとしなかった。それが相棒の役目。相方を信じてこそ相棒の木葉が存在する。状況はイマイチ理解できないが今は快斗を信じるしかない。

木葉は進路を変えて急降下した。そのまま森へと入り、地上に降り立つ。ハンググライダーをしまって快斗を下ろした。

 

「くっ……」

 

睡眠ガスは腹の激痛もあって完全に目が覚めているようだが、謎の狙撃のせいで上手く歩けないでいる。

 

「手を貸すよ」

「……悪いな相棒」

 

木葉は快斗の肩に手を回し一緒に立ち上がる。二人はゆっくり歩きながら霧が渦巻く方へと向かっていった。

 

――おいでキッド。早く!

 

その間にも声が頭の中に語り続ける。

 

――さぁ、もうすぐよ。

 

「(一体誰が……)」

 

――私がその苦しみから救ってあげる。

 

「(なんのために……?)」

 

――救ってあげる。

 

霧の中には入ると、そこには一人の女が高級椅子ともとれる椅子に座っていた。

バックに幽霊屋敷のような物もあり、ますます不気味さが増している。もう一度女の方に視線を戻すと水着と半袖を足して2で割ったような衣装に黒のソックス、腰にスカーフが巻かれている。首からネックレスが、腕にはリングが数個巻かれていた。

何より特徴的だったのが左手に握られている人形。その人形の腹部には()()()()()()()()()()()()()()

 

そして、その人形はどこか()()()()()()()()()()

 

「ホホホ、待っていたわよキザな悪党さん。でも今度は貴方が盗まれる番よ」

 

女――小泉紅子は余裕の笑みを見せながら快斗に囁く。

 

「私が貴方の心を、盗んであげる」

 

だが快斗はあくまでポーカーフェイスを保ちながら答えた。

 

「そんな格好じゃ風邪を引きますよお嬢さん……」

 

そんな彼の反応におかしくなったのか紅子は高笑いをしてみせた。

 

「ホホホ、それで紳士ぶってるつもり?貴方正体は分かっているのよ!」

「……大人をからかうものではありませんよ」

いや、あんたも子供でしょ、と思わずツッコミそうになったが何とかこらえた。

 

だが、快斗が苦しんでいる原因があの人形だということは流石の快斗や木葉も分かる。まずはあの人形をどうにかしないとこっちに勝機は訪れない。

 

「でも貴方を虜にするには隣の女は邪魔だわ。だから……」

 

言いながら彼女はあるものを取り出した。それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして()

 

「ッ!?お前、何を……!」

「こうするのよ!!」

「やめろッ!!!」

 

言って、人形のある部分に釘を勢いよく突き刺す。その部分は、()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「が……あ……ッ?」

 

隣にいた木葉が心臓を押さえたが口からが血が吹き出た。そのまま身体から力が抜けたように座りこむ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

一気に息づかいが荒くなり、大量の汗が木葉の体中を撫でていく。

 

「大丈夫か相棒!?」

「がぁっ……!……はぁ、はぁ……」

 

普段ならどんな状況でも答えてくれる相棒が自分の声に反応してくれなかった。つまりそれだけ余裕がないということだろう。

 

「テメェ……!」

 

快斗には今までにない程に怒っていた。自分だけならともかく、無関係な木葉をここまで苦しめているのがどうしようもなく許せなかった。

 

「ホホホ。安心しなさい。まだ釘が刺さっている間なら半日ぐらいは生き延びるわ。でもこの釘を抜いた瞬間、彼女の心臓は鼓動を停止させる」

「やめろ……それだけはやめてくれ!!」

 

快斗は叫んだ。

 

彼女には何度も救われた。怪盗キッドとしての活動もそうだが、黒羽快斗としても、彼女の存在はかけがえのないものになっていった。

 

自分の理解者である木葉。怪盗キッドとしての相談にも乗ってくれたり訳も聞かないで自分を支えてくれたり、何より優しい気遣いが怪斗の心を癒やしてくれた。

 

彼女には借りを作ってばっかりで何も返せていない。

 

彼女を――木葉を失いたくなかった。

 

そんなキッドの様子を見て、紅子は用意していたハート型のチョコを取り出した。それを快斗の口元まで持って行く。

 

「彼女を救いたければこれを食べて私の虜になりなさい……そうすれば彼女をあの苦しみから解放してあげる」

「……それは本当か?本当にそれで木葉を救えるのか!?」

「ええ。女に二言はないわ」

 

その言葉を聞いて、快斗はチョコを受け取った。これを食べれば木葉が救われる。

 

もう一度木葉の方を向いた。今は片方の手で心臓を押さえてもう片方の手を地面につけて身体を支えている。先ほどより苦しそうだ。このままでは半日どころか数分で死んでしまいそうだ。

 

迷っている暇はない。

 

「(木葉が救えるのなら……)」

 

この身に変えても。

 

そう決意してチョコを食べようとした。

 

「(これでこの男も私の虜……!)」

 

紅子は勝利を確信して、木葉を苦しみから解放する準備を始めた。

 

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

 

快斗が手にしていたチョコが突然吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

同時に紅子が持っていた二つの人形も吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

「「なっ……!?」」

 

 

快斗と紅子は同時に声をあげた。その飛ばされた方を見ると、ハート型のチョコと快斗と木葉をイメージしたであろう人形、そしてトランプが突き刺さっていた。ここは特別な処理をしており、快斗と木葉がここに入ってから誰も侵入できないようにしていたのだ。すぐ確認するが、その処理は消えていない上に誰かが侵入した跡も無かった。

 

となれば、これを出来たのはただ一人。

 

「木葉……!?」

 

焦りを交えながら勢いよく振り返るとそこには心臓を押さえながらもトランプ銃を構えている木葉がいた。

 

「お前どうして!?」

 

快斗が血相を抱えて木葉の方へ向かう。

 

しかし、木葉は糸の切れた人形のようにトランプ銃を落とし、前に力なく倒れた。

 

怪斗はそれを受けろめて、彼女に訴えかける。

 

「おい木葉!木葉!!」

 

紅子が見ている前だというのに構わず彼女の名を叫んだ。失いたくない彼女の本当の名前を。しかし、彼女は目を開けることすらなかった。

 

「……まさか!?」

 

紅子が何かに気づいたように先ほどのチョコの方を向いた。よく見ると、木葉をイメージしただろう人形に刺さっているはずの釘が()()()()()

 

そのことに、快斗も気づいたようだった。

 

「嘘、だろ……」

 

 

 

快斗も見てしまった。

 

人形から釘が抜けていることに。

 

 

 

 

感じてしまった。

 

木葉の体温が下がっていっていることに。

 

「……おい、木葉」

 

名前を呼んでも、返事をしてくれなかった。

 

「……起きろって」

 

訴えかけても目を開けてくれなかった。

 

「……頼むからさ」

 

身体を揺らしても、一切反応がなかった。

 

「……お願いだから」

 

抱きかかえて、改めて現実を突きつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

もう、木葉の身体が冷たくなっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

「……あああああああ!!!!!!」

 

 

現実を拒むかのように、快斗は叫んだ。

 

でも、眼からあふれ出る涙を抑えることは出来なかった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「……」

 

 

彼女は現実を受け止めることが出来なかった。

怪盗キッドを虜に出来なかったこと。

怪盗キッドと彼女は自分が思っていた以上に強い信頼関係で結ばれていたこと。

 

そして。

 

自分が完全に敗北したこと。

 

「(恐らく彼がチョコを食べていたとしても彼は私の虜にはならなかった……彼には、もう……)」

 

冷たくなった彼女を抱きかかえながら涙を流す快斗の姿を見て、紅子は諦めたかのように笑った。紅子は木葉によって吹き飛ばされた人形を拾って、あろうことかその人形を()()()()。そして人形が跡形もなくなった瞬間、ある変化が起こった。

 

「……え?傷が治ってる?」

 

快斗が腹の部分をさするとそこには何の痛みも傷跡もなかった。

 

「なんで……」

 

よく見ると、木葉の顔にも赤みが戻ってきたような……

 

「え……?」

 

と、快斗は思わず呟いてしまった。

 

その声に気づいたのか、彼女はゆっくりと眼を開けた。

 

「あれ……快斗君?」

「木葉……お前っ!!」

 

木葉が眼を覚ました瞬間、快斗の顔はぱぁと明るくなり、思わず木葉に抱きついた。

 

「ちょっ……どうしたの急に?」

「よかった……本当に、よかった……」

 

木葉はよくわからないまま快斗に抱きつかれていた。

 

「(……なんか、ここ数分ぐらいの記憶がないんだけど)」

 

何故か欠如した記憶のせいで木葉は状況の整理がついていなかった。ふと女――紅子の方を見るとそこにはどこか疲れ切ったような表情でこちらを見ていた。

 

「一応種明かしをしておくわ。この人形は型を取った人間の分身になることが出来るの。だから腹を刺せば拳銃で撃たれたような痛みが走り、心臓を突き刺せば数時間後には死んでしまう」

「はぁ……」

 

と紅子は話すが木葉にはイマイチ理解出来なかった。これは種も仕掛けもあるマジックとは違い、全ての事象を変えることさえ可能にする『魔法』。

それが一般の人間に理解できるはずがなかった。

「でも人形を跡形もなく消してしまえばそれは全て元通りに戻るのよ。例えそれが死んでいようともね」

「……?」

「貴方には理解が出来ないでしょうね。だから怪盗キッドに説明してるつもりだっだけど……彼は今それどころでは無さそうだし」

 

怪斗は未だに木葉を抱きしめて彼女の体温を確かめていた。木葉が生きていることを、何度も何度も自分に言い聞かせるように。

 

「まずは謝らせてちょうだい。元に戻せるのは分かっていたけど、あなたたちの心を傷つけてしまったわ。本当にごめんなさい」

 

言って、彼女は頭をさげた。あのお嬢様が自分に頭を下げるなんて……おもわず自分の目を疑ってしまった。紅子は頭を上げるともう一度笑みを浮かべた。その笑顔は先ほどの諦めたような表情ではなく、自信に満ちあふれた笑顔だった。

 

「木葉さん、私は必ず黒羽君を虜にしてみせる。次は『魔法』を使わずに正々堂々とね!今はいい夢を見させてあげるけど……ずっとこんな日が続くとは思わないことね!」

「……えっと、何の話してるの?」

「……フン、誤魔化しても無駄よ。私には全てが分かっているんだから!」

 

と紅子は得意げに話すが、木葉は彼女が何の話しをしているのかさっぱりわからなかった。ちなみに紅子は木葉が快斗に対して好意を持っているのだと確信しているが、それは誤解で、今の木葉には快斗に対する恋愛感情は無い。

 

「それじゃあね、木葉さん」

 

と言って紅子はこちらに背を向けて立ち去ろうとした。

 

「あ、最後に聞きたいことが」

 

だが木葉が話しかけてきて足を止める。

 

「あら、何かしら?」

「何で私の名前が木葉だと思ったの?」

「怪盗キッドは最初貴方の事を『相棒』って呼んでたけど途中からこう叫んでたのよ。『木葉』ってね」

 

刹那、どこからかピキッという音がしたような気がした。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………へぇ」

 

どこからそんな声が出るのか、というような低い声が木葉の口から発せられた。

嫌な予感がしたのか、紅子は少し早口になりながら言った。

 

「だ、だからそう思っただけで根拠はないわ!それではごきげんよう」

 

言うことを言い終えた紅子は足早に去って行く。少しして、木葉未だ抱きついている快斗を無理矢理離し、両手でほっぺたを引っ張った。

 

「ててててて!!!ひゃへほ!!」

 

やめろ、と言いたかったのだろうがほっぺたを引っ張られているせいで上手く言葉にできない。引っ張っていた手を離し、快斗に今紅子から言われたことを全て離した。

 

それを聞いた快斗はみるみる内に青ざめていった。

「……何か言うことは?」

「……えっと、いや……その……」

「何・か・い・う・こ・と・は・?」

 

とびっきりの笑顔で木葉は快斗に問いかける。だがその笑顔が恐怖でしかないのは……言うまでもないだろう。

 

「ま、まあ落ち着けって」

「今なら遺言ぐらいなら聞いてあげるけど?」

「殺すきまんまんじゃねーか!!ってかお前一度死んだんだぞ!!心配させたこっちの身にもな――」

「ニコニコ」

「…………はい、すいませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一時間ほど説教された快斗であった。

 

 

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