怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

14 / 23
快斗空気だけど気にしない気にしない(目そらし)


第十二話 演技にアドリブはつきものである

劇の数分前、舞台裏にて。

 

「(わーお……マジでメイドさんの服だ……)」

 

鏡の中に写るメイド服姿の自分の姿を見て思わず苦笑いしてしまった。こんな姿をするのは初めての経験だった。これを誰かに見られたらと思うと今すぐ着替えたくなる。あ、そういえば快斗は今日ここに来る予定……。

 

「はぁ……」

 

どうやら知り合いに見られることが確定したようだ。そういえば舞台に出るかって誘われた時から演技の方に集中していて忘れていたが今日は怪盗キッドの予告の日なのだ。快斗が来ているのも当たり前か。

他の役者は台本を見てセリフの確認をしている者もいれば世間話をしてリラックスをしている者もいる。木葉も全く緊張していないといえば嘘になる。だけどそれも血筋のせいかどこか落ち着いていた。それに隣のこの子を見ればどこか安心してしまう。

「あー大丈夫かな……失敗しないかな」

「……恵さん、落ち着こうよ」

隣で同じくメイド姿でいる恵がカチコチという言葉がピッタリという程に緊張していた。確かに大舞台でもあるし、聞けばセリフのある役は今回が初めてらしく、それがより一層彼女を凍り付かせているらしい。

 

「木葉さんは凄いですよね……昨日急に劇に出ることが決まったのに今この時も自然体でいられるなんて……」

「私はちょっと特別だけどね」

「それでもです。やっぱり私役者に向いてないのかなぁ……」

 

恵は普段は明るいのだがどうもネガティブ思考になりやすい。確かに人には誰しも向いてる向いてないは存在する。向いていないことを無理にし続けるのは苦痛だし意味をなさないだろう。だが木葉が見る限り恵の演技はまだまだ未熟だが才能はあると思っている。恐らくこのまま練習していけばいつか大物の役者になるだろう。だがそこまで行くには厄介なネガティブ思考が邪魔をしている。

「これは私の両親が言っていたんだけど……」

「え?」

 

驚いたように恵は木葉の方を見る。その横顔はどこか落ち着いていて、でもどこか悲しそうな表情をしていた。

 

「お父さんもお母さんも、最初は演技はあんまり上手くなかったんだって」

「え!?」

「来る日も来る日も怒られてばかり。一時期はやめろとまで言われたこともあったらしいよ」

「……」

 

正直ポカンとなってしまった。あの伝説の役者が怒られたことがあるとは。恵も何度かビデオで夕中夫妻の演技を見たことがあったが、どれもこれも他の役者が見劣りするくらい上手でこれが才能なんだと感じたこともあった。

だから、怒られるという光景が想像出来なかった。

 

「でも諦めなかった」

「それは……どうして?」

「好きだから」

「え?」

「好きだから続けた。それだけ」

 

粘り強く努力して、その結果報われて、死んだ今もその伝説は受け継がれているのだ。

 

「だから恵さんも自信持っていいんだよ。好きなんでしょ?演技することが」

「は、はい……」

「だったら大丈夫。ほら、昨日の快斗君にも言われたでしょ、客はカボチャと思えって」

「快斗君……?」

「昨日のアルバイトの子だよ」

 

言われて恵は「あー……」と唸る。確かに昨日はそんなアドバイスを受けて少し自信が付いたのだ。結果的に今日も緊張することになったけど今は木葉の言葉を聞いて少しリラックス出来たと思う。

 

「ありがとうございます木葉さん!」

「敬語はいらないよ。私の方が年下なんだし」

「え?」

「私今17だよ?」

「えー!?私の3つ下!?」

「……何歳だと思ってたの?」

「えっと……24ぐらい、かな」

 

サバを読んだつもりはないんだが勝手にサバを読まれたようだ。というかこれはサバを読んだということになるのか?

 

「……まあ何でもいいや。今日頑張ろうね恵さん」

「うん!頑張ろうね木葉!」

 

年下と知ったせいかいきなり敬語が抜けて呼び捨てになったのには少しびっくりしたが、恵の顔がかなりマシになったのでよしとした。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

「どうだ電気室!?異常はないか!?」

『電源、配線共に異常はありません!』

「暗闇に紛れて宝石を盗むのが奴の常套手段だ!油断するなよ!」

『ハッ!!』

 

中森警部が通信機を介して部下と最終確認をする。今回は怪盗キッドの久々の躍動ということもあって対策はばっちりなのだ。

 

「よーし、これで場内の電気が消えることはまずあるまい。万が一消えても20カ所に設置されたバッテリー型ライトが奴を捉えて離さん!」

 

一度会場を見渡して不審者がいないことを確認する。警官に紛れてることも考えて警官の変装チェックも朝にちゃんとした。これで奴が来るとしたら客に紛れて現れるのみ。

 

「フフフ、キッドよ。今夜現れたが最後、二度とワシの目から逃れることは出来んのだー!!」

 

高らかに叫び勝利宣言をする。実際今回の警備は万全だと自負しているし、抜かりはないと確信している。

 

だが。

 

怪盗キッドはその上を行くことを、中森警部は改めて思い知ることになる。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「ダメだダメだ。国中探しても我が妻にふさわしき女性はいない……」

 

王子役の三谷幸樹が白馬に降りながら残念そうに呟く。

既に舞台は始まっていて、話は王子が妻を探すところまできた。客もその演技に惹かれるように見入っている。

 

「どこかにいないだろうか……」

 

そう言うと胸ポケットからあるケースを取り出した。それをパカッと開けてそれを頭上に持って行く。

 

「この『グリーンドリーム』のような光り輝く女性は!!」

 

それを出した瞬間に会場にいた客は『おお!!』という声と共に湧いた。中森警部、警官、そして快斗もその宝石を視線をそらさずに凝視している。王子は箱を閉じてそれを舞台袖で待機している警官にスッと渡す。その素早い手さばきに、客のほとんどはそのことに気づいていないだろう。

 

「ふー……」

 

中森警部は一度大きなため息を吐いた。怪盗キッドが出てくる可能性があったので集中力をいつも以上に使ったため少し疲れてしまったようだ。

 

「現れませんでしたね、キッド」

と警官がホッとしたように呟く。しかし中森警部の顔にはまだ勝ち誇ったような笑みは無かった。

 

「いや、『グリーンドリーム』が警官の手を離れて観衆の目にさらされるシーンはもう一度ある。奴が狙うとしたらそこだ!」

 

近くの警官はもちろん、他の場所に配置されている警官も通信機越しにその言葉を聞いて、今一度気を引き締めた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

話はさらに進み、舞台は王女を中心としたシーンになった。

 

「お帰りなさいませ王女様。もうすぐお食事の準備が整いますのでしばしお待ちを……」

「(お、木葉か……)」

 

観客席で見ている快斗は木葉の登場に少し高揚した。脇役とはいえ大舞台に出ているのを見るのは友達としても相棒としても少し嬉しかった。

 

「分かったわ。下がりなさい」

 

そう言ったのは王女役の今泉麗子。普段からお嬢様っぽい性格からか、その演技や姿は不思議と様になっていた。メイドB役の木葉はスカートの裾を摘まんで小さくお辞儀をし、王女に背を向けずにゆっくりと下がる。無駄に精度が高いメイドの演技に思わず快斗は苦笑いしてしまった。

 

その直後、メイドC役の人が王女にある噂を伝えた。

 

「ええ!?后選びの舞踏会!?」

 

王女が驚いたように声を上げて、自分の頬に手を当てる。

 

「まあ!あのガイア王国のマルサ王子が……」

「おやめください王女様!」

 

と、ここでメイドA役の恵が止めに入る。

 

「(お、恵ちゃんの番だ……!)」

 

快斗も恵の出番に少し前のめりになって舞台を見る。

 

「ガイア王国とは敵同士!それが市民や国王の耳に入ったらどうなるか……」

 

次は王女が「心配はいらないわ。上手くやってみせるから……」と言い返すところだ。これを乗り切れば恵の「わ、分かりました……」という不安げな言葉を言うだけになり、この後はメイドのセリフは無くなる。自分の出番はもうすぐ終わる、そう思っていた。

 

だが。

 

「じゃあ貴方は私の世界一の美しさを、一生この国に閉じ込めとおっしゃるの?」

 

――え?

 

突然のアドリブに、恵だけでなくメイドC、D役の人たちも声には出していなかったが内心驚いていた。

 

セリフが違うことに、恵は取り乱し、

 

「あ、いや私は……」

 

言葉を詰まらせてしまった。そんな情けない格好を見た観客からは失笑にも似た笑い声が飛んでくる。木葉は心の中でため息をした。まさかここまで自分勝手だとは思わなかったのだ。流石に本番はアドリブは控えるだろうと勝手に先入観を持ったのがマズかったのだろうか。見かねた木葉は思い切って口を開く。

 

「王女様」

 

王女役の今泉は突然のアドリブに驚いた形相で木葉の方を向いた。対して木葉は笑顔は崩さないまま、王女に向かいあう形で立つ。

 

「国王にはどう説明なさるおつもりですか?」

「どう……ですって?」

「はい。敵国の后選びに参加するとなれば遅かれ早かれ国王の耳に入ることでしょう。その際、どう国王に説明なさるおつもりですか?」

「……!」

 

木葉のアドリブに、今度は今泉が黙り込んでしまった。

 

舞台の世界には雰囲気を出すためにセリフとセリフの間に間を取るということをあえてする場合がある。もちろんそれは中々高度な技だ。下手な人がすると違和感が残り、舞台が台無しになってしまうことだってある。しかし今回はそんなレベルではなかった。まるでセリフが飛んでしまったかのような間があった。観客達は台本を見てないのでどこがアドリブか分からない。だからこのアドリブも台本通りと思ってしまうのだ。数秒の沈黙があり、観客がざわつき始める。流石の今泉もマズいと思ったのだろう。頬を伝う一粒の汗が見えた。

 

「あ……、うっ……」

 

だが何を言えばいいのか分からない。アドリブをすることはあってもアドリブを振られたことは無かった。加えて彼女は親の権力でヒロインの役をつかみ取る事が出来た駆け出しの新人。レベル的には恵と同じぐらいなのだ。恵が出来なかったことが彼女に出来るはずがない。

 

木葉はそんな今泉の表情に満足したのか、ニヤッと笑って口を開いた。

 

「相変わらずですね、王女様」

「……え?」

 

木葉が口を開いたところで、観客のざわめきが止んだ。

 

「昔からそうでした、王女様。小さい頃から後先考えずに突っ走るんですから……」

「あなた、何を言って……」

 

アドリブをを勝手に出したのなら、自分の手でアドリブを終わらせなければならない。

 

「でもこんなに大きくなられて……とても喜ばしく思います」

「……」

 

だから、さらにアドリブを加える。

 

「国王への説明は私が何とかします。王女様は舞踏会へ行く準備を」

「え……」

「王女は何も気にせず行ってください。王女が戻ってくる頃には何事もなく平穏に過ごせることをここに約束します。ですがマルス王子を惚れさせることが出来るまでは保証できません。どうか、それをお忘れ無く……」

「……」

「ふふ。その顔はどうしてこんなに若い私が自分の幼少期のことを知っているの?とでも言いたそうなお顔ですね。では特別にお答えしましょう。メイドとは常に若返る生き物なのですよ」

 

世界中の男が惚れそうになるようなウィンクを華麗に決めて、メイドB役の木葉は舞台袖へと消えていく。それを呆然と見ることしか出来なかった今泉はハッとなり、慌ててセリフを紡いだ。

 

「時間が無いわ。早く行きましょう」

 

その言葉に恵達メイドも慌てて「はい!」と声を揃えて返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台に照らされていた照明が落とされて、裏方の方達が早足でセットを変えていく。

 

僅か一分の間に、舞台裏ではぴりぴりした空気が流れていたのを観客達は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 




いつもは二話完結ですが今回は長くなったので分割しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。