怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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第十四話 時計台には秘密が存在するものである

満開だった桜は役目を終えて散り、バトンタッチするように桜の木には碧色の葉が生えていた。先月まで涼しかった日本でもゴールデンウィークを皮切りに一気に気温が上がり、外を歩けば半袖でいる人も珍しくなくなった。

そんなゴールデンウィークもあっという間に終わり、学生達は長い連休で慣れてしまったぐうたらな身体を引きずるように歩いて学校に来ていた。

学校では旅行に行ったことを自慢げに話す者もいれば学校が始まってしまったことに嘆く者などいて、ゴールデンウィークのことについて色々話す者がたくさんいた。

そんな中、黒羽怪斗はいつも通りに新聞を広げながら自分のことについて書いてる記事を見てにやけていた。

 

「(おー載ってる載ってる。こりゃ次の仕事も楽勝だな!)」

 

観ていたのは『平成の大怪盗!またお宝を華麗に奪う!!』という記事だった。そこには怪盗キッドを絶賛することや、これから警察が彼を捕まえるためにはどうすればいいか、といった考察が書かれている。

と、快斗はある記事を見つけた。

 

「お?キッドに魅了された女性ファン急増中……?こりゃたまんねーな!」

 

さらにニヤけ度が増して新聞を眺める。

そう呟いた彼の新聞を破るように現れた人物がいた。

 

「何が女性ファン急増中よ……」

 

そのまま快斗の新聞を取り上げてびりびりと破り始める。

 

「あんな男青子の中じゃね!!最低男街道ダントツ独走まっしぐらよーー!!!」

 

ビリビリに破った新聞を花吹雪のように投げ捨てた。ゴールデンウィーク早々快斗の机の周りにゴミが散る結果となった。

 

「まあそう怒るなよ。確かにオメーの親父が毎回コテンパンにされてるかもしんねーけどよ。しゃーねーだろ。だってあいつは……」

 

快斗は落ちた新聞の残骸を拾って右手に集める。それを握りしめてマジシャンがするように左手の人差し指をトントンとする。

 

「確保不能の大怪盗なんだからよ!!」

 

ばっと右手を開くと先ほど破られた新聞が買った時のように戻っていた。

 

「(すがすがしい程の自画自賛……)」

 

木葉は教室に入るなり快斗が怪盗キッド――すなわち自分自身について褒めていたので、彼の相棒としては反応に困ってしまった。木葉が自分の席に鞄を置くと、快斗は木葉に気づく様子もなく話を続ける。

 

「ま、あの警部じゃ捕まえるのは無理だろーぜ」

「なによ、ちょっとマジックが出来るからってキッドに肩入れしちゃってさ。あんなの盗んだ物を捨てたり後で返したりする善人ぶった愉快犯じゃない!」

 

青子の言うことも一理あるのだがそれを聞いた木葉の心境は複雑なようで。

 

「(最低男街道ダントツ独走の愉快犯の仲間としては何だかなぁ……)」

 

友達の怪盗キッド嫌いには嫌というほど思い知らされているが、もし青子が快斗が怪盗キッドで、自分がその仲間だと知ったら彼女はどう思うのだろうか。

 

「(殺されそう……)」

 

リアルに彼女ならやりかねない、と木葉は冷や汗をかいた。

そんな木葉の後ろから背後霊のように現れ、肩に手を置いて囁く女性が現れた。

 

「あら、私は彼のそういうところ好きよ?イタズラ好きの少年みたいでカワイイじゃない?」

「紅子ちゃん……」

 

青子が呟いた視線の先には木葉の後ろで背後霊のように立っている小泉紅子がいた。

名前の通り鏡のように綺麗な紅色の長い髪と世界を魅了する美貌を持ち合わせた彼女は男達の中ではダントツの人気を誇る。前までは女王様のような態度を取ったりして女受けはかなり悪かったが、最近ではその角も取れて性格もかなりマシになっている。

一個下の後輩に言わせるなら憧れの先輩ってやつだ。

 

「騙されたらダメよ紅子ちゃん!あいつはどう転んでも犯罪者なんだから!」

 

青子の目の前にはその犯罪者と仲間がいるのですが。

 

紅子がチラッと自分の事を見てくるので苦笑いして返す。

一応紅子は快斗が怪盗キッドで、木葉がその仲間だと知っている。これだけで弱みを握っているのに、何故かその事をバラそうともせず逆にアドバイスをくれたりする。彼女が怪盗キッドのファンなのか知らないが協力的なのだ。

 

「それにニュースで見たでしょ?今日キッドが狙う獲物!」

「確か駅前の古い時計台だったかしら」

「そうよ!あれはこの街のみんなのものよ!その時計を盗むなんて酷いと思わない!?」

「え、ええそうね……」

 

快斗の方をチラッと見ながら答える紅子。快斗は興味がないように新聞を見ていた。

 

「それに、あの時計台は……」

 

と言って悲しそうな表情になる青子。あの時計台に何かあるのだろうか。

彼女の幼馴染みの快斗の方をチラッと見ると笑っていた。いつもの大胆不敵な笑みや他人を煽るような笑みとは違って、とても優しい笑みだった。

これは過去に何かあったな、と木葉は確信を持つ。

青子が恵子のところに行ったのを見て紅子が木葉の背中にピタリと付きながら木葉を押して快斗の席の横に行く。そして木葉と快斗にしか聞こえないような小さな声で囁いた。

 

「ねぇ、どういうつもりか知らないけど今回の仕事は手を引いた方が良くってよ」

「だーかーら、前から言ってんだろ。俺は怪盗キッドじゃねーって」

「あら、貴方のお仲間さんは認めてるわよ?」

 

その時、快斗の目線がキツくなったのは気のせいだと思いたい。

 

「時告ぐる塔二万の鐘を鳴らす時、光の魔神、東の空より飛来し、白い罪人を滅ぼさん」

「はあ?また占いの結果か何かか?」

「違うわよ。邪神ルシュファーが告げた予言よ」

「ル、ルシュ……?」

「丁度貴方が予告した日が二万回目の鐘を鳴らす日……信じるか信じないかは貴方次第だけどね」

「……あっそ」

 

快斗は全く信じてない様子でまた新聞を読み出す。それよりさっきから紅子がずっとひっついているようなのだが何なのだろうか。

 

と、快斗の席の前に現れる人影が一つあった。

 

「どうやら今日も怪盗キッドが来るようですね」

「何だよ白馬」

「君の活躍を期待してますよ」

「だから言ってるだろ?俺は怪盗キッドじゃねーって」

 

と、自信に満ちあふれたような口調で快斗の前に現れたは白馬探だった。彼は以前から何回か怪盗キッドを戦っていて、毎回あと一歩のところまで追い詰める強者だ。怪盗キッドの仲間のことも認識しているが、まだその全貌はつかめてない。そういう意味では紅子の方に軍配が上がっている。

 

「白馬君は来ないの?」

「僕は今日大事なパーティーに出席しないといけませんので」

 

さすが警視総監の息子だ。自分達とは住む世界が違い過ぎる。

 

「ま、せいぜい頑張るがいい」

 

この数ヶ月で何かがあったのかは知らないが白馬は快斗が怪盗キッドだということに確信を持っているようだ。あの事件で怪盗キッドと快斗は別人だと分からせたはずだが……。

 

「(……伊達に探偵やってないってことね)」

 

仮にも警視総監の息子。この辺の推理は出来てるってことか。

 

一限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。木葉は紅子の言葉を思い出しながら席に着いた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

快斗が住んでいる街には東京タワーと並んで名物になっている時計台がある。

 

だがその時計台も他のテーマパークへの移転が決まり、近々この時計台が姿を消すことが確定した。せめて二万回目の鐘をここで鳴らさせてくれ、という市の訴えで今日までこの東京の街に残っていたこの時計台は50年前の市長が外国の有名時計技師び大枚を作らせた物で、短針にはその技師のサインと共に大きなダイヤが数個埋め込まれている美術的にも高い評価を得ているのだ。

 

今回、怪盗キッドがこれを狙うということあって、時計台の周りには沢山の観客と警察が集まっていた。

 

「上空を飛行中のヘリ、および館内でパトロール中の警察官に告ぐ!不審人物が現れ次第直ちにワシに報告!各ブロックで警備している警察官はワシの指示があるまで誰一人通すな!!任されたエリアを死守するんだ!!」

 

中森警部が部下に的確に指示を出していく。今回も大勢の警察官に加えて数台のヘリを用意している。警備は万全だ。いくら変装の達人とはいえ今回は簡単に入ることは出来ない。

というのも前までは警察官の配置を曖昧にした上に警察官なら誰でも出入りできる状況にしてしまったのだ。だから警官に変装して簡単に入られてお宝を取られてしまった。

だが今回は時計台の外と中で完全に警備を分けた。外で警備している警察官は中に入ってはいけないし、中で警備している警察官は外に出てはならない。だから今回は外の警察官に変装しても容易に入ることが出来ないのだ。入ろうと思えば必ずチェックが入る。自分の名前と生年月日を聞かれるのは勿論、入る目的まで言わなければならない。

 

つまり変装するだけでは潜入出来ないのだ。

 

だから今回の警備は完璧だと思っている。

 

 

 

しかし中森警部は気づいていない。

 

 

 

怪盗キッドにとって、この程度の警備は予想の範疇だということに。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

木葉は時計台の足下の工事現場に来ていた。

 

恐らく工事の途中だったのだろう。そこには重機やトラックが数台置き去りにされていて、掘り返された土やこれから使うであろう小道具まで色んなところにある。

 

しかしここは今回のマジックに使うのにうってつけの場所だ。今は警察官がいたるところでうろうろしているので早めに仕掛けをつけて退散しないと自分が捕まってしまう。

 

だから木葉はいつもより早いペースで作業を始めた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「何ッ!?パトロール中に怪しげな男を見かけた!?」

「はい!その男は途中で見失いましたが、代わりにこんな物を落として行きました!」

「こ、これはキッドのマントとシルクハット!?」

「警部の了解を取った!その時の状況や男の人相を最上部にいる警部に伝えろ!」

「ハッ!!」

 

二人の警官が事情を聞き、一人の警官がキッドのシルクハットとマントを持って中に入っていった。

今は予告した時間の30分前。辺りにいる警察官も時間が迫るにつれて顔が強ばっていく。ヘリの音とキッドコールのせいで今までに無いぐらい騒がしい舞台になってしまっているが、快斗にはそんなこと関係なかった。

 

「(楽勝楽勝!やっぱ白馬の野郎がいねーと張り合いがねーな!)」

 

キッドの白いマントとシルクハットを持っているこの男、実は怪盗キッドだったのだ。まさか自分の変装道具を堂々と持って入るなんて考えてなかったのだろう。顔のチェックもされずに通された。ラッキーというか人の心理の裏を付く結果というか。

 

と駆け足で最上階に向かっている時、耳に付けている通信機から声が聞こえた。

 

『設置終わったよ』

「サンキュー相棒」

『じゃあ頑張ってね』

 

それだけで通信を切られてしまった。仕事中は不必要な言葉はいらないって彼女が言っているようだった。

でも今日の仕事も楽勝だ。

仕掛けも済んだし潜入も完璧。後はこれを警部のところへ持って行くフリをして予告の時間まで隠れて入れて、仕掛けを発動させれば今日の仕事は終わりだ。

ここで白馬が絡んで来ると仕掛けを壊されたり変装を見破られたりとハラハラする展開に持ち込めるのだろうが、今回は白馬がいないため何のピンチもなく終わるのが目に見えていた。

だから少し注意を怠ったのもそのせいかもしれない。

 

 

 

 

 

この時、ヘリの数が下調べした時の情報より多いことに気がついていれば、もう少し楽に仕事を終われただろう。

 

 

 

 

 

まさかあんなギリギリな戦いになるとは、この時の怪盗キッドとその仲間の二人は思ってもみなかった。

 

 

 




今回も三話完結になりそうです
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