怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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時計台編、まさかの三話で完結せず。


第十六話 怪盗には念には念が必要である

数々の難事件を解決してきた高校生探偵工藤新一。

 

少し幼さが残る顔だちとは裏腹に、鋭い着眼点に鍛えられた洞察力と観察力、高校生とは思えない博識な頭脳を持った彼の推理力は警察をも唸らせるほどだった。

 

それは例え相手が殺人犯ではなく泥棒だとしても同じだった。必要最小限での指示で嘲笑うかのように怪盗キッドの変装を見破り、あわよくば逮捕もありえると言わんばかりのところまで追い詰めていた。

 

そして怪盗キッドは思わぬ場所で変装を見破られ、現在逃走中であった。

 

「(……こりゃあ結構ヤバいぞ)」

 

自分自身が追い詰められているのもそうだが、腕時計を見てされに焦りを感じ始めていた。

 

予告の時間まであと三分。時計台の中心部までは走っても最低二分は掛かる。つまりヤドカリが貝を捨てて海を歩いているような状態の自分には身を守ることを考えている猶予さえも残されていなかった。

 

形勢逆転の一手が欲しい。

 

そう願った時、突然耳に付けている通信機からノイズが走った。

 

「(……何だ?)」

 

それはまるで突然通信が切られたようなそんな感じのノイズだった。

トントンと通信機を叩いても変わらない。相変わらず耳障りな音が流れるだけだった。

どこかにぶつかってはいないので壊れた可能性は低いだろう。そうなれば向こうの通信機が壊れたか、もしくは……。

 

「……なるほどな」

 

そういえば相棒に"アレ"を持たせていたことを思い出した。もしこれが相棒がしたことだとしたら、この状況も頷ける。

どうやら逆転の一手は思わぬところからやってきたようだ。

 

「警察を攪乱している今なら、事を起こせるってか?」

 

依然自分達が不利な状況なのに変わりないが、相棒が賭けに出たのは確かだろう。

 

 

 

通信機能抑制装置。

 

 

 

これは周辺百メートルにある電子機器が発する電波、受け取る電波、電子機器を使った情報収集や他人との連絡を妨害するものだ。簡単な言葉で言えば携帯などを圏外にするのである。絶えず通信機で連絡を取りあっている警察からすればこの妨害は現場の混乱を招くだけでなく、伝えるべき情報や指示が伝わらない、異変をいち早く察知出来ないなどといった状況を起こすことが可能である。

 

しかしそれはこちらも同じだ。

 

仲間との連絡はもちろん中森警部に仕掛けた盗聴器も意味をなさなくなった。いつも警部の指示を聞いて自分がどのルートで動くか決めているのだが今回は情報無しで動くことになりそうだ。

 

「……さて、いっちょやりますか」

 

ここまで警察に捕まる緊張感に襲われながら仕事をするのは初めてだ。

当初は楽勝だと思われていた今日の仕事。それがたった一人の高校生にここまで追い詰められるとは思っていなかった。

 

しかし怪盗キッドはこの程度のアクシデントで止まる男ではない。通気口から出て怪盗キッドは警察官の変装を解く。

 

警察官がいないのを確認して、怪盗キッドは足早に時計台の中心部へと向かった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「おいどうなっている!?」

「分かりません!ですが何者かによって通信が妨害されている模様です!!」

「何者って……んなもん怪盗キッド以外誰もいないだろうが!!」

 

慌ただしく中森警部は走り出した。

数分前から部下との連絡が途絶えたばかりか、携帯も圏外になっているなど不可解なことが立て続けに起こっていた。

ここは東京の中心部。携帯が圏外になるわけがないし、通信機が使えないということもあまり考えられない。つまり誰かが意図的に通信を妨害したということ。

そんなことをして得する人物は、怪盗キッドを除いて他にいなかった。

 

「しかしそれは怪盗キッドには仲間がいたはず……それなのにどうして?」

 

部下が自分に付いてきているのを横目で見て、中森警部は説明し出した。

 

「奴の変装がバレたのが一番大きい理由だろう。前は白馬君が自分の目で確かめて変装を解いていたが、今回は怪盗キッドからすれば未知の場所から変装を見破られたことになる。それが奴にある心理状態を与えているんだ」

「あの怪盗キッドが焦っている……そういうことですか?」

「恐らくな。得意の変装が名前も顔も知らない遠くから指示を出している人物に見破られたとなれば、自分達にも影響が来る上で通信を妨害したのも頷ける」

「では中森警部は今どこへ?」

「さっきも言ったように奴は焦っている。そして予告まであと一分を切っている。何が言いたいか分かるな?」

「……時計台の中心部!!」

「奴が現れるとしたらそこしかない!急ぐぞ!!」

「はい!!」

 

足を速めて中森警部は階段の方へと向かう。

ここから二階上がれば丁度時計台の裏にあたる場所に到着する。そこにある時計の機関室は時計の調整する場所。つまり時計台の中で一番時計に近い場所なのだ。

そこの扉を開く。するとまず目に入ったのは自分達には理解できない機械ではなく、見慣れた白い煙だった。

 

「くっ……まさかこれはッ!」

 

怪盗キッドの常套手段であり自分達も使ったことがある睡眠ガス。鼻をつくような臭いは何回受けても慣れることはない。強烈な睡魔が中森警部と部下を襲ったが、外から聞こえた『おおおおお!!』というすさまじい歓声にハッと目を覚ました。

 

「何だ!?一体何が起こっている!?」

 

ハンカチで口と鼻を覆いながら窓を開けて換気をする。白い煙が窓の外に逃げていくにつれて視界が良好になっていた。しかし中森警部はこの光景に眉をひそめた。中を警備していた警官は全員眠らされ、外の観衆は大きな歓声を上げていてとても興奮していることが分かる。そして腕時計を見れば、予告の時間から一分過ぎている場所を刺していた。

 

ここまで情報が集まっていて、分からない中森警部ではない。

 

それを答え合わせするかのように、階段を上がってきた部下が息を切らしながら中森警部に向かって叫んだ。

 

「大変です中森警部!!予告の時間になったと共に工事中の現場から白い煙が吹き出して……その煙が晴れたと共に時計台の針が奪われました!!」

 

やられた、と中森警部は心の中で舌打ちをする。

 

どうして自分は怪盗キッドに予想外の事態が起こったから捕まえるチャンスだと思ったのか。確かに通信を妨害すれば怪盗キッドにも影響が出るとは思っていた。しかし、通信を妨害するという手段は相手が大人数の相手ほど効果が高くなる。警察と怪盗キッドの仲間、どちらが多いなんて推測するまでもない。

 

「クソッ!!」

 

恐らく怪盗キッドは宝石を盗んで不適な笑みを浮かべながら夜空を飛んでいる頃だろう。窓から顔を出して時計台の方を見る。

 

 

 

そこには針が奪われた時計台が存在するだけ――

 

「なっ!?」

 

違った。

 

そこにはないはずのものが当たり前のようにあった。

 

二つの大きな時計台の針、そして文字盤の上にひっそりと立つ一人の白い男。

 

そう、その人物は中森警部が捕まえたくても捕まえられない宿敵とも言うべき男。

 

「か、怪盗キッド!?」

 

その男――怪盗キッドはニヤッと笑って、時計台の針を足でコンコンと叩いた。

 

 

――――

―――

――

 

 

 

ヘリでその光景を見ていた工藤は思わず目を見開いてしまった。

 

予告の時間になった途端、時計台の下から白い煙が飛び出して時計全体を覆った。数秒たらずで煙はヘリの風に流されたが、流されたのは煙だけでなく時計台の針もだった。

これを耳で聞かされていたらそんなわけがない、と切り捨てていただろう。しかしこれは紛れもない現実だ。

目暮警部からは日本一の怪盗と聞いていたが、その名の通り、あっさりと時計の針を盗んでみせた。それも警察や数百人を超える大観衆が見守る前で、僅か数秒で、その姿を現すこともなくやってみせた。

外にいる観衆は今日一番の盛り上がりをみせていた。工藤は最初は泥棒がこんなに世間から人気な理由が分からなかったが、今なら何となく分かる。

彼はこそこそ忍び込んで宝石を奪う一般的な泥棒とは違い、盗むと予告した上で警察が作り出した数々のトラップをかいくぐり、まるでマジックのように盗んでみせる。

 

十年前の自分ならあの華麗なマジックに魅せられていたかもしれない。

 

しかし、もう自分は大人だ。今ではこうして警察やメディアから信頼されるほどの探偵に成長し、実際に担当した事件が迷宮入りしたことはなかった。

 

だから今回も見破れるはずだ。

 

彼――怪盗キッドのマジックのタネが。

 

「……ん?」

 

その時、文字盤に違和感を覚えた。針が奪われて、針がない時計の時点で違和感だらけなのだが今のはそれとは少し違った。確か今揺れたような……。

 

「……すみません、ヘリを時計台に近づけてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな!?」

 

先ほど聞いた話ではキッドは時計の針に埋め込まれた宝石を針ごと奪って去っていったと中森警部は聞いていた。しかし時計台に設置された窓から覗いて見れば怪盗キッドが時計の針と一緒にそこにいるではないか。

 

「(情報が攪乱された!?いや、今は通信を妨害されてそんなことは出来ないはず……)」

 

通信機が使えない今、直接自分に伝える手段が足しかない。それが伝言ゲームのように伝わっていったなら途中で多少の齟齬が生じるのも無理はない。しかし、今回自分に伝わった話とは真逆の光景が広がっていた。流石に誤差の範囲では済まされない。誰かが意図的に情報を変えでもしないと――

 

「――そういうことか。今回のお前達の作戦読めたぞ!」

 

中森警部が自信満々に声を上げて胸ポケットから拳銃を取り出す。

しかし、それよりも早く怪盗キッドがトランプ銃で中森警部の拳銃をはじき飛ばした。

 

「中森警部。残念ですが今夜はあなた方とじゃれている暇はありません。どうやら少々頭のキレるジョーカーを味方につけているようですし――」

 

もう一度、文字盤の中心を足でコンコンと叩く。

 

「マジックの答え合わせは、この文字盤の中心に刻み込まれた暗号を解いてからにしてもらいたい」

「暗号だと!?」

 

何を言っているのか意味が分からなかった。

 

しかし、そんな疑問をぶつけている暇などなかった。

 

「うおっ!?」

 

怪盗キッドが驚いたように声を上げる。見ると文字盤と怪盗キッド自身を覆うように何かが被さっていたことに中森警部は今気づいた。

 

「白い布だと!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことかね工藤君!?」

 

隣に座っていた目暮警部が突然文字盤が揺れ出したことに驚愕と疑惑を交えた声で工藤に問いかけた。それもそのはず。工藤がヘリを時計台に近づくように指示を出し、その後突然文字盤が揺れ出したのだ。

目暮警部の問いに、工藤はいつも殺人事件の謎を解くときのような態度で答える。

 

「煙幕と共に文字盤を照らすライトを切り、前もって仕掛けていた巨大なスクリーンで文字盤を覆い、そこに時計台の針が消える映像を工事中の足場かに取り付けていた映写機から映したんですよ」

 

なるほど、と目暮は呟く。確かにそれならまるで一瞬で時計の針を取ったかのような錯覚を作り出すことが出来る。

 

しかし、それだけでは説明できないことがある。

 

「どうしてわざわざそんなことを?そんなトリックすぐバレるんじゃ……」

「ええ、だからあのトリックはフェイク。今頃彼はスクリーンの裏で宝石を――」

 

そこまで言って、工藤はあることを思いついた。

 

「ちょっとお借りしますよ」

「えっ!?」

 

目暮警部が思わず声を上げる。何故ならまるでスリをする輩のような早い手さばきで目暮警部の胸ポケットからあるものを取り出したからだ。

 

工藤はそれを右手に持つと、一切の躊躇いもなく発砲する。

 

スクリーンを支えている上下の鉄柱の下の方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい誰だ撃ってるのは!?」

 

中森警部が大声を上げて音がした方を見る。だが残念なことにキッドが仕掛けたスクリーンが邪魔になって見えなかった。スクリーンがヘリの風によって怪盗キッドの身体を押しつける。ヘリがかなり近くまで来ていることが音と風圧で分かる。

 

「(こんな近くにヘリがいたんじゃハンググライダーで飛ぶのは無理だ……)」

 

珍しく怪盗キッドは焦り始める。

近くには中森警部に警察のヘリ、そして拳銃を持って威嚇した――恐らく工藤新一。

ハンググライダーは使えないし、睡眠ガスももう使ってしまった。手品で逃げようにもここは地上から十数メートル離れた時計台の文字盤の上……全くと言っていいほど逃げ場がない。トランプ銃を使ってヘリを何とかしようにもスクリーンと風圧のせいで上手くいかないだろう。

 

万事休す、か。

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあショーのフィナーレだ。座長の姿を拝見するといたしましょうか」

 

 

工藤が拳銃を構えながら怪盗キッドに言ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉が届いたのか、キッドは冷や汗をかきながらもニヤッと笑ってトランプ銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()、一斉に発砲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

そう声を上げたのは、工藤でも怪盗キッドでもなく、なんとヘリの操縦席に座っていたパイロットだった。バン!工藤が威嚇射撃として拳銃を発砲すると同時にキッドが上の鉄柱を発砲してスクリーンと鉄柱を引き離す。フワッとスクリーンが浮いたところでヘリが大きく揺れて、時計台から逃げるようにヘリは高度を上げた。

急な操作により重心をズラしながらも何とか振り落とされないようにドアを掴む。

少ししてヘリが安定したところで工藤は身を乗り出してパイロットに問いただした。

 

「どうしましたか!?」

「は、花火です!工藤さんが拳銃を発砲したと同時にヘリの真下に花火が……」

「花火!?」

 

ヘリの中から時計台を見下ろす。

 

怪盗キッドはヘリが離れたことにより、逃走する時の常套手段のハンググライダーを使って闇の中へと消えていく。あの時のスクリーンは邪魔だったのか工事現場を覆うように落ちていっていた。しかしそこには花火らしきものは見渡らなかった。恐らく一発で消えるタイプの花火だったのだろう。よく見れば花火を撃った後の火花が僅かに散っているのが見て取れた。

 

まさかここまで想定して花火を用意したのだろうか。

 

……いや、今回は中森警部にも伝えず勝手に現場に入り込んだ――自分で言うのもなんだが――イレギュラーだ。情報がどこからか漏れたという可能性はゼロに等しいだろう。

 

一体どんな想定をすれば工事現場に映写機の他に花火なんて代物を――

 

「――いや、そっちの線も考えられるのか」

 

もし、怪盗キッドに仲間がいたとしたら。

 

それが本当なら、突然の通信障害も、花火のことも頷ける。

そこまで考えて、工藤はふと目暮警部の方を向いた。その目暮警部は自分のメモ帳を見ながらうーんと唸っていた。

 

「どうしたんですか?」

「さっき中森君から電話があってな、怪盗キッドが文字盤の中央に暗号を残していったらしく、そこにはこんな文字が書かれておったらしいんだがワシには何がなんだかさっぱり……」

 

そこにはコ、ナ、ケ、ノ、ネ、ナ、ハ、ワ、テ、サ、ニ、オという文字が時計周りに並べられていた。

 

それを見て、工藤はニヤッと笑った。

 

「うーん……さっぱりだ」

 

目暮警部は背もたれに精一杯重心を預けてさじを投げた。どうやら検討もついていないらしい。

 

しかし工藤新一にはこの程度の暗号は直ぐに解けていた。

 

そして、怪盗キッドが警察にどんなメッセージを残したのか。その先の事まで推理をしていた。

 

「(目暮警部、暗号をローマ字に直して母音を一文字ずつ時計回りにズラして読むと『コノカネノネハワタセナイ』って書いてあるだろ?多分、あの宝石はニセモノだってことを伝えたかったんだろうな)」

 

この時計台は近々どこかのテーマパークに高値で売ると聞いていた。それならあのメッセージの意味も簡単に理解出来る。それを踏まえると、怪盗キッドは街のシンボルを守りたかったからわざわざこんな身の危険を冒してまでこんなことをしたのだろうか。

 

泥棒なのに、何故?

 

「(……まあ、理由なんてどうでもいいか)」

 

彼は泥棒であり犯罪者だ。理由はどうあれいずれは警察の監獄に入れなくてはならない。

 

次こそは必ず捕まえてみせる。そう工藤は力強く決心した。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

警察と怪盗キッドの白熱した勝負を間近で見られたことに観衆達は今までにないほど興奮していた。既に怪盗キッドは去っていき、警察も本庁に戻ろうとしているのに熱気は冷めることはなかった。

 

そんな中、観衆の中から抜け出して人気の無いところに身を寄せる一人の少女がいた。

 

「はー疲れた……」

 

頬を流れる汗を手の甲で拭って少女――木葉は夜空を見上げた。

 

都会ということもあってか星は殆ど見ることは出来なかった。祖父母の家に住んでいた時は田舎ということもあって、夜空を見上げれば無数の星が空一面を覆い尽くしていた。それが当たり前の生活を送っていたせいか、未だにこの暗い夜空には慣れそうにない。

 

通信抑制装置も映写機も回収し――スクリーンだけは観衆のところに行かないと回収出来ないため諦めたが――予想外の出来事だらけで今回ばかりは本当に捕まってしまうかと思った。快斗にいつか使えるから、と言われて持たされていた花火が功を奏したようだ。

 

何とか仕事を終えた木葉は道ばたに座り込む。

 

しかし人気の無いところとは言え、全く人が通らないわけじゃない。映写機を携えた女子高生が道ばたに座り込んでいると警察に通報されればそれこそ怪盗キッドの仲間だとバレて捕まってしまう。

 

「……よし」

 

一度気合いを入れて木葉は立ち上がった。

小学校の頃、家に帰るまでが遠足と言われたのを不意に思い出した。

その時は先生の言っている意味が全く分からなかったが、今なら分かる気がする。

アレは遠足で疲れるのは分かるが、だからと言って道ばたで座り込んだら他の人に迷惑を掛けるよ、という遠回しのメッセージだったのかもしれない。

映写機を大きな袋に入れてそれを担ぐ。電波妨害装置はポケットに入るサイズなのでポケットに入れて重い身体を引きずるように足を動かす。

 

帰ったらゆっくり寝よう。

 

そう決心した彼女の背後から突然声がした。

 

「……少し、お聞きしたいことがあるのですが」

 

ビクッと、身体が震えた。

 

まさか自分が怪盗キッドの仲間だと疑って話しかけられたのではないか、という予感が頭の中を駆け巡る。

 

「……なんですか?」

 

おそるおそる振り返る。木葉の警戒している様子を見て、目の前の男はおどけたように笑った。

 

「そんな警戒しないでください。私は少し聞きたいことがあるだけです」

 

目の前の男は木葉と同じようにキャップ帽を深く被り、この暗さもあってか素顔は全くと言っていいほど分からなかった。しかし声からするとかなり若い男だと推測できる。

 

「(もし男が警察なら、この映写機を捨ててでも逃げないとね。でもこの辺は高い建物とかないし困ったな……)」

 

木葉は仕事の時はもしものことを考えてハンググライダーを常備している。しかし、それは高いとこからじゃないと使えない。地上に降り立っている今では全く意味をなさない。

 

一応トランプ銃はあるが、それでこの男にどこまで対抗出来るだろうか……。

 

しかし、そんな不安は男の質問によってなぎ払われた。

 

 

 

 

 

 

「あなたは『シャロン・ウィンヤード』という人物をご存じですか?」

 

 

 

 

 

その言葉に、木葉の眉がぴくっと動いたのを男は見逃さなかった。

 

 

 

 




多機能フォーム初めて使いました。普通にミスってたので修正しました。
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