漫画ではバレンタインデーの後にクリスマスの話をやってたんですよね……その辺の時系列が曖昧になってしまいました。すいません。
外では珍しく雪が降っていた。
快斗達が住むところは毎年一回降るかどうかというぐらい雪が降らないので、積もりそうな勢いで降っているのはかなり珍しい。雪が降るに伴いこの地方の気温もいつになく低い。
気温が低いということは……
「……へっくしょん!」
快斗は学校で鼻水を垂らしながらくしゃみをしていた。気温が低くなってまず要注意しなければならないのが風邪である。家では暖房をつけるとか、寝るときはいつも以上に暖かくして寝るなど、対処法はさまざまあるが、一瞬でも気を抜くと風邪になってしまうのがこれの怖いところ。
快斗はその一瞬の気を抜いてしまい風邪になってしまった残念な一人である。
「(こりゃ、しばらく怪盗キッドはお預けだな……)」
そんなことを考えながら窓から見える雪を眺めていた。
そんな時、不意におでこに何かが当たった。
「変ねー、馬鹿は風邪引かないのに」
その正体は青子だった。青子が手のひらをおでこにあてて熱を測っていたようだ。そんな青子の行動に快斗は少し顔を赤く染めて彼女の手を振り払った。
「気安く触んじゃねーよ!!」
「何よー!せっかく青子が心配してやってるのにー!!」
だが快斗が風邪を引こうが夫婦喧嘩は平常運転だった模様。
「(これを実家のような安心感というべきか……)」
と、遠くから快斗と青子のやりとりを見ていた木葉が心の中で呟いた。
ちなみに木葉はついさっき登校してきたばかりなのだが、つくなり早々夫婦喧嘩を見ることになるとは流石に思って無かった。
そんな木葉を見つけたのか青子は木葉に話しかけた。
「木葉、おはよう!」
「おはよー青子ちゃん」
挨拶を交わしながら自分の席に鞄を置く木葉。青子が快斗に興味が無くなって恵子の方に向かったのを見計らって怪斗に近づく。
「いつになったら風邪治るの?」
「うっせーな。そんなの俺が聞きてーよ」
「そっか。これで12月は一度も飛び回ることはなかったねー」
怪盗キッドは11月末に宝石を奪ってから一度も姿を見せることはなかった。理由は期末試験と快斗の風邪が重なったからなのだが、世間ではもう引退報道など色んな噂が立っている。世間の考えることは何というか恐ろしい。
「ま、別に欲しいお宝なんて無かったからいいけどよ」
「そうですかそうですか」
「オメェなぁ……」
それは、言い訳する子供に適当にあしらう大人の図だった。そんな快斗から視線から外して、ふと珍しく降っている雪を見た。
「(結構降ってるなー)」
祖父母の方に住んでいた時でもあまり降っていなかったので、この雪の降りように木葉は少なからず驚いていた。そんな時快斗が「あっ」と何かを思い出したような声を上げて木葉の方を向いた。
「そうだ。今日青子の家でクリスマスパーティーやるんだけどお前も来るか?」
言われて木葉も快斗と視線を合わせる。
「クリスマスパーティー?」
「あぁ、毎年クリスマスになったらやるんだよ。あいつお祭り好きだからな」
言って、青子の方を見る。彼女は女子数人達と何かの話をしているようだった。
「あの女の子達が今日のメンバーなの?」
「そうなんじゃねーの」
「……って、青子ちゃんの許可取らなくても大丈夫なの?快斗君が勝手に決めてるけど」
「あいつならオッケーしてくれるだろ」
「……快斗君は来るの?」
「強制参加」
「あ、そう……」
と面倒くさそうに快斗は言って視線をそらした。彼女の性格からして準備の手伝いに使うのだろう。その青子の方を見るとさっきまで話していた女の子達と分かれて、どこか楽しそうな様子でこっちにやってきていた。
「ねえ、今日青子の家でクリスマスパーティーやるんだけど木葉も来る?」
デジャヴを感じたのは気のせいではないはず。
「さっき快斗君にも誘われた」
「本当!?珍しいこともあるのねー」
青子が見たことのないような動物を見るような目で快斗の方をみつめる。そんな彼はこちらの話を聞いてないのか、いつのまにか新聞を読んでいた。
「まあ何でもいいや。それで、今日の予定は大丈夫?」
「大丈夫だよ。じゃあお邪魔させてもらおうかな」
「オッケー!じゃあ七時に私の家ね!」
と、木葉が来ることが決定し、時間と場所を伝えたら木葉は困ったような顔をした。
「……えっと」
「ん?どうしたの?」
青子も不思議そうに木葉のことを見つめる。何か伝え忘れたことでもあっただろうか。
と、考えたところで青子は思い出した。
「あ、そうそう!持ち物のことだけど、木葉は何も持ってこないでいいよ……ってのもアレだからお菓子買ってきてね!ポテチとか袋詰めしてあるチョコレートとか!」
「……そういうことじゃなくてね」
「もー、じゃあ何?」
歯切れが悪そうに紡ぐ木葉に青子も少しご立腹の様子。ちなみに木葉が言おうとした時に青子が勝手に話し始めたからこうなったのは秘密にしておこう。
そんな青子を見て、木葉は少し申し訳なさそうな感じで青子に言った。
「私、青子ちゃんの家どこか知らないんだけど……」
「……あっ」
――――
―――
――
―
警察署。
捜査二課では中森警が退屈そうに新聞を眺めていた。そこに大きく書かれていたのは『姿を消した怪盗』『海外進出か!?』『引退!?』と様々だが、それは全て怪盗キッドに関するものだった。怪盗キッドは月平均二回、多いときは四回五回となる時があるが、最低でも月に一回は必ず予告状を出してお宝を奪いに行くのだ。それが11月末の事件をキッカケにパタリと姿を消し、今日のクリスマスまで一向に姿を見せてこない。
「最近全く姿を現しませんねー怪盗キッドのやつ」
と警官の一人が中森警部にお茶を出しながら呟いた。その中森警部は「フン」と吐き捨てて新聞記事を改めて見た。
「奴のことだ。また何か仕掛けて来るに違いない」
中森警部は怪盗キッドが風邪を引いているなど微塵にも思ってないようだ。
「そう……ですよね。今は準備期間ということですよね」
それは、部下も同じだった。
「あぁ。奴は……必ず来る!!」
……と、怪盗キッドが本当は風邪を引いているだけとは知らずに中森警部は今から気を引きしめていた。
そんな時だった。
テレビのニュースが突然『速報!』というテロップを出すと共に少し興奮した様子でアナウンサーが話していた。
『皆さんお待たせしました、キッドです!!怪盗キッドが予告状を出しました!!』
テレビから聞こえるアナウンサーの声に、捜査二課の者達が驚いた形相でニュースに釘付けになった。
『今夜クリスマスイヴの18時54分、東風デパートのクリスマスツリーに飾られたジャイアンツの星を頂に参上する。怪盗キッド……』
そこまで聞いて、中森警部は「フフフ……」と笑みを漏らし、待ってましたと言わんばかりの態度で叫んだ。
「全車出動!!今すぐ東風デパートへ向かえ!!」
『おー!!』という部下の声がこだまし、今日出勤していた捜査二課の者は皆慌てた様子で東風デパートへと向かった。
――――
―――
――
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東風デパートの社長室にて。
怪盗キッドが予告状を出したこともあって今日の売り上げが数倍にまで膨れ上がっていた。東風デパートの社長からすればここまで嬉しいことはないだろう。
「ホホホ。
それが
今回予告状を出したのは怪盗キッドではなく東風デパートの社長だったのだ。怪盗キッドがしばらく姿を消している今、予告状を出せばキッドファンはたまらず駆けつけるだろう。そうすれば客は増え、売り上げが上がるのは目に見える。していることはかなり邪道だが、社長はそんなもの構わないと言わんばかりの態度で今日の売り上げを見ながら高笑いをしていた。
ちなみに今回キッドが狙う(ことになっている)ジャイアンツの星はダイヤやエメラルドが散りばめられているスターで、大きさは縦横一メートル近くある。そんな大きいスターに宝石が散りばめられているので、時価は数十億円とも言われている。
それをホンモノのキッドが聞けば喉から手が出るほど欲しがるだろうが、生憎キッドの耳にはそんな情報は入っていなかった。
と、社長の言葉聞いていた弱気そうな社員が社長のことを心配するように話しかけた。
「お、オーナー。肝心のキッドが来ませんと、今後の我がデパートの評判が……」
社員が心配しているのは今後の事だ。今は売り上げがよくても怪盗キッドが来なかったらニセ予告状のことがバレるのも時間の問題だろう。そうなれば、東風デパートの信頼が落ちるのは必然だろう。しかし、そんな社員の心配とは裏腹に社長は余裕そうに言ってみせた。
「怪盗キッドが狙った獲物は逃すはずがなかろう……」
「えー!?来るんですか!?」
まさかの返答に社員は驚きを隠せなかった。実はこの社長は怪盗キッドと繋がりがあるのでは……?と少し疑い始めたところで社長は察しの悪い社員に対して少し不満げに社員に呟いた。
「まだ分からんのかね?」
「はい?」
言って、人差し指を社員に向けた。
「君が怪盗キッドになりすますのじゃ!!」
「え!!?わ、私がですか!!?」
社員は社長にそう言われて怯えるように驚いた。
だが当然の反応とも言える。社長が勝手に行った尻拭いを他人にやらせようと言いのだ。それも泥棒をするという犯罪ときたものだ。一切犯罪を犯した事の無い社員は否定するように首を横に振った。
「む、無理です無理です!!私に犯罪なんて……それに怪盗キッドですよ!?あんな警備をかいくぐるなんてとても……」
「安心せい、逃げ道は用意しておく」
「で、ですがオーナー……」
しかし、これに対するメリットは大きい。
これでジャイアンツの星が奪われたとしても奪ったのは社員。星は必ず帰ってくるし、多額の保険金も入ってくる。その上全ての罪は怪盗キッドが被ってくれるのだ。今日の売り上げのことも会わせると一石三鳥にも四鳥にもなるのだ。ハイリスクハイリターンだが、社長の目には既にハイリターンしか見えてないようだ。だが怯えるように否定する社員がやってくれ無ければこれは成立しない。だから社長は社員に囁くように呟いた。
「成功すれば副社長のイスを約束しよう」
それを聞いた社員は試合に勝てばご褒美が貰えることが決まった子供のようにパァと顔を明るくした。
「ふ、副社長……」
お金、権力。
その全てが今の自分の立場から大幅にアップするのだ。思わず自分が副社長になった自分を想像してしまう。
「悪くない条件だと思うがね……」
確かにハイリスクハイリターンだが、成功すれば社員からしても大きなメリットとなるだろう。今の質素な生活から抜け出せるとなれば、やってみるのも悪くない。
そう、思ってしまった。
「オ、オーナー!やらせていただきます!!」
そして、社員は新人社員のころのように大きな声で返事をした。
現在の時刻は15:23分。
この時、ホンモノの怪盗キッドの怪斗はニセ予告状が出されていることをまだ知らなかった。