怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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第四話 人には制裁が下される時がある

しとしとと降っていた雪はお昼頃にはすっかり止み、学校が終わる頃には道路はほぼ乾きかけていた。

 

「さー、買い出しに行くわよ!!」

 

青子はこんな寒空の下だというのにいつも以上に張り切っていた。

後ろにいる快斗は面倒くさそうに頭をかき、木葉は苦笑いしている。あの元気は一体どこから沸いてくるのか。ちなみに木葉は快斗達と一緒に帰って準備の手伝いをすることになった。ついでに青子の家も知れるので一石二鳥である。

 

「ねー青子ちゃん、今日は何を買うの?」

「えっとね、ケーキでしょ、家とクリスマスツリーの飾り付けでしょ、後は……」

「……くりすますつりー?」

 

と、木葉は聞き慣れない言葉に首を傾げた。

木葉はまだ両親が存命だった頃に住んでいた家は両親が忙しくてクリスマスツリーなんて立てる暇なんてなかったし、両親が亡くなり祖父母の家に預けられるも祖父母は行事関連に関しては一切の興味がなかったのでクリスマスツリーなど出すはずがなかった。もちろん、一人暮らしをしているアパートも5畳の部屋が二つにキッチン、風呂、トイレがあるだけの小さいアパートなので置く場所がない。

だから、クリスマスツリーなどとは縁が全くといっていいほど無い人生を送ってきた木葉にとって、それはとても新鮮なものだった。

 

「え、木葉クリスマスツリー知らないの!?」

「う、うん。見たことない」

「嘘ー!?木葉の家じゃクリスマスツリー飾らないの?」

「家狭いからねー」

「……そっかー。でもテレビのニュースとかでもやってる気がするけどな」

「あれ、そうだっけ?」

 

と青子は不思議そうにそう言うが、木葉は基本テレビをつけないでいる。

祖父母の家ではテレビは置かずラジオや新聞で毎日の時代の流れを感じる方達なのだ。その環境で育ったせいか、バラエティ番組なんて全く知らないし、一応一人暮らしを始めるにあたって小さいテレビは買ったものの基本的にはあまりつけていない。

じゃあ普段何をやっているのかというと、だいたい新聞か本を読んでいる。昔は恋愛ものやミステリーといった小説類いの本ばかり読んでいたが、最近では料理本やコーヒーの美味しい煎れ方などといった勉強になる本を読み始めている。表には出してないが、漫画も少し読んでいたりする。

 

と、三人が歩いていると学校の近くにある大きな雑貨屋に到着した。そこにはペンやノートといった学生に必要不可欠な文房具から安物のバッグや携帯のケースなど様々なものが売っている。だが今日はクリスマスイヴということもあって、クリスマス関連のものが沢山売っていた。今は店の外からガラス越しの見えるクリスマス関連のグッズを眺めている。そんな青子の様子を見て快斗が話しかけた。

 

「オメー毎年ここで買うんだな」

 

しかし、青子の視線と思考は既にクリスマスツリーの飾り付けにあるようで。

「今年はこんなのも売ってるんだ!あれ、これってもしかして新商品?可愛いー!」

 

快斗の話など全く聞いていなかった。自分の世界に入っている青子を見て思わずため息をしてしまった。快斗はふと木葉の方を見るとガラス越しに見えるクリスマスグッズに釘付けになっていた。その綺麗な横顔に思わずドキッとしてしまった。普段は意識してなかったが木葉はかなりの美人だ。これで彼氏が出来たことないというのだから世の男の目は腐っていると言いたくなる。

だがそんな快斗の様子に全く気づかないほど木葉は何かを見ていた。

 

「……何見てんだ?」

 

と快斗が木葉の方に歩み寄り木葉が見ているほうに視線を合わせると、そこにはキラキラ七色に光るクリスマスツリーがあった。店で設置してあるやつだろう。こういうことに疎い快斗もあのクリスマスツリーは綺麗だと思ったほどだ。

 

「そんなに見たいなら中入ればいいだろ」

「……え?いいの?」

 

いいも何も雑貨屋に入るだけなのに誰の許可が必要なのだというのだ。

 

「つーか、もう青子のやつは入っちまってるしよ」

 

言われて、木葉が隣を見るとそこには友人の姿はなかった。そういえば、今日の目的はクリスマスツリーの飾り付けの購入だったと思いだす。

 

「……」

 

木葉は心ここにあらずの状態で店の中に入っていった。

 

「……どうしたんだあいつ」

 

快斗は木葉の様子に首を傾げながらも彼女の後に続いて店の中に入っていった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

「あー買った買った!今年もいい感じにイルミネーションできそうね!」

 

店での買い物を済ませた青子達は荷物を三人で分担して持ち、パーティー会場である青子の家に向かっていた。

 

「……ったくよ、毎年毎年飽きないねぇ」

「いいじゃない、何回やっても!」

 

快斗は青子とは幼馴染みなので青子のクリスマスパーティーには毎年参加していた。小さい頃は喜んで参加していただろうが、もう彼は高校生。今更そんなことを楽しみする年齢ではなくなった。だが青子はいつまで経っても飽きないようで快斗は毎年付き合わさせることに面倒くさく思い始めている。っていうかもう思っている。

 

「……」

 

しかし、木葉はあのクリスマスツリーを見てから何だか様子がおかしい。普段なら青子と快斗が話しているとだいたい苦笑いしているか茶化してくるのだが、今の彼女はさっきからずっと上の空だ。

 

「どうしたんだよ木葉。らしくねーな」

 

そう彼女に言うと木葉はハッとなり快斗と視線を合わせた。すると抱えていた荷物をぎゅっと強く握って快斗に訴えた。

 

「……あのクリスマスツリー、綺麗だった」

「……え?あ、そうだな」

「うん……とっても綺麗だった」

「……お、おう」

「あんなの……初めてみた」

 

どうやらあのクリスマスツリーに感動しただけらしい。

変に心配して損した、と快斗は呆れてため息をした。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

青子の家に着いた三人は早速準備に取りかかった。

ただいまの時刻は四時過ぎ。そこそこ急いで準備をしないと皆が来てしまう。

だから三人は急いで準備にとりかかっていた。

 

 

「快斗!そこの飾り付けずれてるよ!もっと右!」

「あん?そんなの適当でいいだろ!」

「青子ちゃん、綿はこんな感じでつければいいの?」

「うん!いいん感じ」

 

 

 

 

~一時間後~

 

 

 

 

「ちょっと、フォークとスプーンは逆でしょ!」

「んなのどっちでもいいだろ」

「青子ちゃん、コンセントどこー?」

「ソファの近くにない?」

「……んー、あった」

 

 

 

 

 

「やっべ、飲み物冷蔵庫に入れとくの忘れてた!」

「あ、青子ちゃんの家のコーヒーの豆ってこれ使ってるんだ」

「買いにいった時たまたまセールしてたから。木葉ってコーヒーの種類と分かるの?」

「これでも珈琲店でアルバイトしてるからね」

「「へー」」

 

 

 

 

~さらに一時間後~

 

 

 

 

 

「……この電球がついてる電線、なんか絡まってねぇか?」

「あ、本当だ」

「えー!?ケーキも取りに行かないといけないのに!」

「俺たちで直しとくからお前はさっさと取りに行ってこいよ」

「分かった!頼んだよ!」

「へいへい」

「いってらっしゃーい」

「行ってきまーす!」

「……これは骨が折れそうだな」

「……だね」

 

 

 

 

~さらに30分後~

 

 

 

「だー!!やっと終わったぁぁぁ」

「結構かかったね……」

「あぁ……ちょっとトイレ行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

 

疲れ果てて座っていた快斗が飛び跳ねるように立ち上がりリビングを出て行った。

クリスマス色に染められた青子の家のリビングは自分の部屋二つを会わせても負けてしまうほどの広さがあった。部屋の中央には大きなクリスマスツリーがあり、雪を連想させる綿や明かりを消すと綺麗に光る電球とコードが巻き付けられている。先ほど苦戦していたのはこれが絡まってしまったからだが、何とか綺麗に巻き付けることが出来た。

一応今日のために雰囲気づくりの曲を用意しているのだがそれを流すのはパーティーが始まってからだ。快斗も青子も今はいないのでパーティー前だというのにとても静かに感じられる。こういうときに付けるのがテレビだ。派手に彩られた部屋には少し似合わないもしれないが準備も終わり暇になってしまったのでテレビを付けた。

 

そこから映し出されたのは興奮したようにニュースをするアナウンサーだった。

 

 

『さあ予告状の時間まであと一分!!さあ怪盗キッドはくるのか!?』

「……へ?」

 

それを聞いて、木葉は素っ頓狂な声を上げた。木葉は怪盗キッドである快斗の相棒だが、仕事内容によっては快斗一人でやるときがある。

例えば警備員が少なくてそこに二人も紛れ込めばバレる危険性が高まる時、例えば快斗のアリバイを作るために木葉が快斗に変装して快斗を演じている時、などがある。

だがその場合でも怪盗キッドとして飛び回る日は必ず木葉に知らせる。例え木葉が何もすることがなくても必ずだ。だが今回の怪盗キッドが宝石を盗むなどという話は寝耳に水だ。まさか今快斗がトイレに行ったのはこのため……?

 

「……」

 

自分が快斗に裏切られたような気持ちになり少しショックを受ける。なぜか、心の中がすっぽり空いたような感覚になってしまった。

 

「……快斗君」

 

と思わず呟いた時、リビングの扉が勢いよく開かれた。

 

「間に合ったー!!ケーキやっと届いたよーー!」

 

そこにはケーキを重たそうに持っている青子がいた。その顔はホッとした様子が見られる。木葉は自分の感情を察すられないように笑顔で反応した。

 

「おかえりー」

「ただいまー!……あれ、怪斗は?」

「トイレに行ってるよ。もうすぐ出てくるんじゃない?」

「あん?俺がどうしたんだよ」

 

と、青子の後ろからやってきたのは先ほどまでトイレに行っていた快斗だった。勝手に怪盗キッドをしてないことに少し安堵した。だがそれだとニュースの意味が分からなくなる。何故怪盗キッドが現れるのか。先ほどのニュースだとあと一分だと言っていた。ならもう予告の時間になっていてもおかしくないのに快斗は焦ることもなくここにいる。

 

ということは……

 

と木葉が考えていた時、この家中を響かせるような大きなインターホンが鳴った。

 

「あ、皆来たみたい」

 

言って家主の青子はリビングを飛び出して急ぎ足で玄関へ向かう。運良く快斗と二人きりになれたので快斗の服の裾を引っぱって話しかける。

 

「ねぇ」

「ん?どうしたんだ?」

「今日予告状出した?」

「んなもん出してるわけねーだろ。今日は予定が入ってるのによ」

「でもさっきニュースで予告まであと一分って言ってたけど」

「ふーん………………ってなにぃぃぃ!!!!??」

 

鼓膜を破らんとする勢いで叫ぶ快斗。本当に快斗は例のことを知らなかったようだ。

 

「どこだそれは!?」

「確か東風デパートだった気がするけど……」

「……ハッ、怪盗キッドの名前を使って売り上げを伸ばす算段ってわけか」

 

そういう快斗の顔にはどこか怒りが混じっている気がした。

 

うん、怖い。

 

「おもしれー。この怪盗キッド様を簡単に利用することがどれだけ愚かな行為か思い知らせてやる」

「……ほどほどにね」

 

だいたい快斗のやろうとする事が分かったのであえてそう忠告だけしておいた。あまり意味はないとは思うが。

 

「木葉、後は頼む」

 

そう言い残すと快斗は青子のベランダから飛び出し、全力疾走しながら東風デパートへと向かっていった。

 

「……いってらっしゃい」

 

この台詞を言うのは今日で何度目だろうか。いつも誰かを見送る立場になっている自分に苦笑いしながら今日のパーティーに参加する友人達を今いない快斗の分も含めて祝ってみせた。

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

東風デパートでは大勢の人で賑わっていた。

買い物を楽しむ人、クリスマス限定で彩られた街の風景を楽しむ人、デパート内で食事を楽しむ人など様々いた。

だが今年のクリスマスイヴの最高の目玉は怪盗キッドだろう。ジャイアンツの星が飾ってあるツリーの周りには大勢のキッドファンと警察官がいた。

もうすぐ予告の時間ともあって観客からはキッドコールが始まっている。

 

「今ここに東風デパートの財前オーナーにおこしいただいました。今日キッドから予告状をもらった感想は?」

「いやあ驚きました」

 

と、カメラの前で話しているのは怪盗キッドがジャイアンツの星を盗む瞬間を映そうと来たアナウンサー、そしてこの東風デパートのオーナーだった。

 

「でもこの予想外の売り上げはどうですか?」

「まったくキッド様々ですなー!あんなコソドロでも世のため人のためになることがあるんですなー。我々は貴方のおこしをお待ちしておりますよ!」

 

ハハハと高笑いしながら財前オーナーはテレビの前で言って見せた。その言い方や雰囲気は視聴者からすればあまり印象がいいとは言えないが。

 

 

 

 

 

オーナーはデパートへと戻り、アナウンサーはなおも今の状況を実況していた。

 

「お聞きくださいこの大歓声!!しかし未だに怪盗キッドは現れません!!」

 

もう予告の時間から五分ほどが経っているが怪盗キッドの姿はまだ現れない。それでもやまないキッドコールは怪盗キッドがどれだけ人気ある人物か分かるだろう。

 

「……遅い。全く何をやっておるんだ?」

 

オーナーはオーナーで怪盗キッドが来るのを待ち望んでいた。それはもちろん、ニセモノの怪盗キッドをだが。

そんな誰もが怪盗キッドを待ち望んでいた時だった。

バババという鈍い音と共に白い姿の男が現れた。その男はヘリコプターから降ろされた梯子に不格好な状態でしがみつきながらやってきた。そんな姿だというのに集まったキッドファンは誰も彼がニセモノだとは疑わなかった。その怪斗キッドは死に物狂いの様子でヘリから飛び降り、息を切らしながらジャイアンツの星にしがみつく。

 

「何をしておる!?さっさと退散せんか!!」

 

その一連の流れをツリーの側の窓から見ていたオーナーがニセモノの怪盗キッドに焦るように怒鳴りつける。

 

「オ、オーナー……私にはやっぱり」

「馬鹿者!副社長だぞ副社長!!」

 

それを聞いた社員はさっきまでの弱気を振り払うかのように片手でジャイアンツの星を掴んでヘリから下ろされている梯子に手をかける。

 

「で、ではジャイアンツの星は頂いていく!さらばだー!」

 

そう言って怪盗キッドはこの場から立ち去ろうとした。オーナーも社員もホッとした様子で息をついた。その時、怪盗キッドに扮した社員の足を掴む手があった。

 

「は?」

 

その瞬間、ツリーの中から警官の格好をした人たちが何人も現れた。

 

「観念しろ怪盗キッド!」

 

そこにはもちろん中森警部の姿もあった。中森警部は掴んだ足を引っ張ってヘリから逃げられないようにツリーの中へと押し込む。

 

「取り押さえろ!!」

 

周りにいた警官が中森警部の命令を聞いて一斉に飛び込む。ニセモノの怪盗キッドはもちろん捕まるまいと抵抗するが、その際にジャイアンツの星を取りこぼしてしまった。

 

「あー!!ジャイアンツの星が!!」

 

それは大きなツリーのてっぺんの方で行われているいざこざなのでこのままジャイアンツの星が地面に落ちれば少なからずどこかにヒビが入るだろう。下手をすれば折れてしまうかもしれない。そうなれば時価数十億円も一気に値段が下がるだろう。それだけは阻止せねばと自分の命も省みずオーナーは窓から飛び出しジャイアンツの星に抱きついた。幸い地面に落ちる前にツリーがクッションになって何の被害もなくジャイアンツの星を取り戻せた。

 

「オ、オーナー!!」

 

と社員は近くにオーナーがやってきたことで涙目で助けを求める。しかしオーナーはジャイアンツの星を抱きかかえながら社員に向かってこういった。

 

「なんだ!?お前なんぞわしは知らんぞ!!」

 

しらを切るようにそう言って社員を払いのけた。その間に中森警部が彼の両手に銀色に鈍く光る手錠をかける。それを確認した中森警部はニッと満面の笑みで笑い、キッドの応援に来ていたファンに言ってのけた。

 

「怪盗キッド召し捕ったり~!」

 

それを聞いたファン達は落胆した。

 

「えーー!?」

「そんなぁ……」

「なんだ。怪盗キッドもたいしたことねーじゃん」

 

他の人々も犯罪者が捕まったというのに何故か皆落ち込んでいた。それはテレビカメラの前で実況しているアナウンサーも例外ではなかった。

 

「みなさーん!これからも東風デパートをよろしく~!」

 

その中で喜んでいるのは警察の人たちとオーナーだけだろう。何しろオーナーは社員を一人を失っただけで莫大な利益が出たのだ。しばらく売り上げが肩上がりになると思えばニヤケが止まらない。

 

喜ぶ者と落ち込む者が両方いる中、今夜のマジックショーは終わりを告げようとしていた――

 

 

 

 

 

――その時だった。

 

 

 

 

 

オーナーが持っていたジャイアンツの星がいきなり吹き飛ばされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

オーナーは突然のことに驚きながらもジャイアンツの星を探す。飛ばされたジャイアンツの星は回転しながらある人物の手元に吸い込まれるように入っていった。その人物は白を基調としたスーツに白いマント、青いネクタイと白のハットが特徴の人物。

 

その名を、叫ばずにはいられなかった。

 

「か、怪盗キッド!?」

 

それを見たキッドファンは先ほどまでの暗い空気から一転して大歓声となった。対して怪盗キッドを捕らえて喜んでいた警官達は捕まえた怪盗キッドと交互に見ながら声を上げた。

 

「か、怪盗キッドが二人!?一体どっちがホンモノなんだ!?」

「メリークリスマス、中森警部……」

 

その声を無視するかのように怪盗キッドは静かにささやく。

 

「そんな馬鹿な!?」

 

オーナーはホンモノの怪盗キッドの登場にパニクっていた。それもそのはず。予告状を出したのは紛れもない自分自身であり、怪盗キッドが来るなんてあり得なかったからだ。

そんなオーナーの様子を察したのか、キッドはオーナーにこう言ってのけた。

 

「俺は予告状通り参上したまでだぜオーナー……それに今夜はクリスマスイヴだ。何が起きても不思議じゃない……」

 

中森警部は、この時確信した。

 

「このキザなセリフ……まさしく怪盗キッドだ!!捕まえろ!!」

 

しかし、警部達が怪盗キッドに飛び移ろうとしたときに怪盗キッドは呟いた。

 

「おっとその前に俺のバースデープレゼント受け取って貰おうか」

 

その瞬間、ツリーの幹の部分が突如爆発した。重心を失ったツリーは重力の赴くがままに倒れる。そしてその倒れた先は、東風デパートの中心部にあたる部分だった。ツリーは勢いよく東風デパートの方へと倒れ、デパートの四階部分をぺちゃんこにするような勢いで壊れていった。

 

「儂のデパートがぁぁぁ!!!」

 

天国から一気に地獄に落とされたオーナーはたまらず泣き叫んでしまった。これで大きな利益が確定していたものが大きな借金になることは間違いないだろう。怪盗キッドの名を勝手に借りて大もうけをしようとした罰をくらったのだ。自業自得である。

 

「ほんじゃーまー、俺はこの辺で帰らせてもらいますか」

「待て―!!キッド!!」

 

警部がキッドを捕まえようと叫びながら走り出すが、それよりも先にポンという音を立てて怪盗キッドは東風デパートから姿を消した。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

その一連の流れを、木葉はテレビの実況から見ていた。

 

「うわー、派手にやったねー」

 

キッドの仲間の木葉もこれには流石にどん引きである。確かにオーナーのやったことは許されることではないが、何もここまでする必要はなかっただろう。

 

そう思っていると、青子の家に快斗が帰ってきた。

 

「ちょっと快斗!いくら快斗の好きなマジシャンが出る番組があるなんてそのまま帰ってこないなんて酷いよ!!せめて録画したら直ぐに帰ってきなさいよね!!」

 

と帰ってくるなり身に覚えのないことをペラペラとしゃべりだす青子だったが、そういえば木葉に後を任せたことを思い出して話を合わせる。

 

「わ、悪かったよ青子。本当は録画したら直ぐに帰ってくるつもりだったんだけど……見入っちまって……」

「もー!」

 

何とか話を合わせてくれたことに木葉はひとまず安堵した。上手い言い訳がこれぐらいしか思いつかなかったので本当に良かったと思う。

 

その安堵からか何となくチラッとクリスマスツリーを見た。そして木葉は驚いた。

 

「(いつの間にジャイアンツの星を……!?)」

 

さっき帰ってきて未だに青子に怒られているはずなのにジャイアンツの星はクリスマスツリーのてっぺんに飾られている。いつ置いたのだろうか。

 

「それより青子、俺腹減ったー」

「快斗がいない間にみんな食べちゃったよー!」

「えー!!そんなぁ……」

 

と快斗が先ほどのキッドファンのように落胆する。よほどケーキが食べたかったのか、その顔は今にも泣きそうだ。

そんな快斗を木葉は手招きでこちらに呼び寄せた。

 

 

「……んだよ木葉。俺は今きg――」

 

 

と、言い終える前に口が何かで塞がれた。

 

刹那、口の中からいい香りが広がっていく。

 

快斗はそれを口に含まれた瞬間これの正体が分かった。それは今日唯一快斗が食べるのを楽しみにしていたデザート、それも快斗が一番好きなショートケーキだ。それを噛むと同時に歯と金属が当たる音がした。恐らくフォークだろう。木葉が一口サイズのケーキをフォークに刺し、それを快斗の口に無理矢理押し込ませたのだ。

木葉がフォークを抜き取り、快斗は口の中のものを飲み込む。木葉がフォークを置いた皿には一切れ分のショートケーキといくつかのお菓子があった。

 

「オメー……」

 

と、快斗が何かを言おうとしたとき、木葉が先に一言呟いた。

 

「お疲れ様」

 

そして、間を空けずに言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマス、快斗君」

 

 

 

 

 

 

 

 

木葉は小さく囁き、ゆっくりと肩を叩き、僅かに微笑んで、静かに青子の方へと向かっていった。

 

その小さな心遣いに心のなかでサンキューと言って、快斗は笑顔でこう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリークリスマス、木葉」

 

 

 

 

 

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