怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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あの探偵が出てきます


第五話 探偵がやってくる時がある 

「犯人はあなたです!」

 

 

少年はそこそこ年をとったであろう男性を指さしながらそう言った。

するとその男は膝から崩れ落ち、突然泣き出した。

この場所は殺人事件が起きた場所であり、丁度今犯人を追い詰めているところだった。

少年は崩れ落ちた男を見ながら問うた。

 

「一つだけ聞きたい……なぜこんなことを?」

「私には病気の娘が……!」

 

声は震えていたが、男はしっかりとそう答えた。

そこまで聞いて少年は膝を折り、同情するかのように男の肩をポンと叩いた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

警視庁捜査二課の中森警部はコーヒーを口にし、新聞を見ながら少しいらついていた。

 

新聞記事には『ロンドン帰りの名探偵またもや事件解決!』『出た!名ゼリフ!!「なぜこんなことを……」』『怪盗キッド危うし!!?』などと少年を絶賛するコメントが書かれている。殺人は通常捜査一課。捜査二課の中森警部の管轄外ではあるが、こうも一世代下の少年に事件を解決されると警察がなめられているようで気に入らない。

多くの警察官は誇りとプライドを持っているのでこういった素人の手はあまり頼らないし、頼りたくも無い。だが、同じ東都警察捜査一課の目暮警部はある高校生探偵に信頼を置き、事件に詰まった時には相談に乗ってもらったりするそうだ。自分には考えられない、と中森警部は心の中で吐き捨てながらもう一度新聞に目をやった。

 

やっぱり気に入らない。

 

「フン。何が『なぜこんなことを……』だ!悪い奴に理由なんかいらねーんだよ!!」

 

中森警部がコーヒーカップを飲み干して新聞を机の上に置いた。中森警部は見た目とは裏腹に綺麗好きなので自分の机の上は綺麗に片付いている。だからそこそこ大きい新聞も余裕でおけるスペースがある。そんな中森警部とは反対に机の上はペンや書類で埋め尽くされ、半ゴミ屋敷のようになっている警察官は中森警部とはこれまた反対意見のような言葉を口にした。

 

「楽しみですねー彼と怪盗キッドの対決が!」

 

その言葉に中森警部の怒りはマックスに達したようで、火山が噴火したような勢いで叫んだ。

 

「バカヤロー!!キッドと対決するのはワシだ―!!!」

 

耳の鼓膜が張り裂けそうになったが何とか帽子が飛んだだけで済んだ、と警察官は自分の発言に訂正しようともせずに中森警部の迫力に驚いていた。そんな中森警部に共鳴したかのようにある警察官が慌てた様子でここにやってきた。壁に手をついて呼吸を整えると、悲鳴にもにた声でこう叫んだ。

 

「け、警部!!キッドから予告状が!!!」

「なにぃーー!!?」

 

 

 

 

 

 

今日も捜査二課の方々は騒がしい朝を過ごしていた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

二月上旬。

 

東京の中心部から離れたところにある東都遊園地では多くの客で賑わっていた。ここには遊園地の定番のジェットコースターやメリーゴーランド、遊園地になども確かにあるが、それ以外にも夏限定でプールが解放されたり、冬限定でスケートリンクが作られたりしている。

 

今は冬なのでスケートリンクが開かれ、さまざまな大人や子供がスケートをして楽しんでいた。そんな中、スケートリンクにいるのにも関わらず全く滑ろうともせずに双眼鏡である場所を眺めている人物がいた。

 

「あれが‘アダムの微笑’か……あーあ、大事そうに抱えちゃって。今夜俺に盗まれるとも知らずにな」

 

言って彼――快斗はにやっと笑った。

今日快斗が怪盗すると予告したのは‘アダムの微笑’というかなり昔のお偉いさんが書いた絵画だ。時価数億円とも言われ、一部の人にはとても人気の一品となっている。

そんないかにも怪しい雰囲気を醸し出している快斗にゆっくりと近づく人物。

 

「……犯人は貴方です」

 

快斗の耳に囁くように語りかけ、彼女は微笑んだ。快斗は身体をビクッと震わせ勢いよく振り向く。そこにはいたずらっ子の笑みを浮かべた快斗の相棒――木葉が目と鼻の先にいた。

 

「ひとつだけ聞く。なぜこんなことを……」

 

どこか聞いたことがあるようなフレーズを口にして快斗の横に並ぶ。

 

「オメーなぁ……下見してるだけだろうが」

「女の子をデートに誘ってときながら自分の世界に入るキミにちょっとからかっただけなのに……」

「デートって……」

 

確かにここには快斗と木葉の二人で来ているので普通に考えればデートだし、今回は本当にデートという名目でここに来ている。だが本来の目的は‘アダムの微笑’の強奪だ。決してデートという生ぬるい目的で来ているわけではない。

だが木葉は何故か遊園地に来ただけなのにとてもウキウキしている。

 

「……なんでお前はそんな楽しそうなんだ?」

「だって私遊園地に来るの初めてだもん!」

 

なるほど、と理解した。確かに初めて遊園地に来たらこのテンションも頷ける。ここにはジェットコースターや観覧車などがいっぱいあるのだ。テレビや雑誌でしかそれらを見たこと無かったのなら少なからず感動してしまうだろう。女の子ならなおさらだ。

「でも今日の目的を忘れんなよ。あくまで今日はあれの強――」

「分かってるって。さ、一緒に滑ろ」

 

分かっているのかいないのか、木葉は快斗の手を取り快斗を壁際から離そうとした。

 

「おいちょっ、待て――」

 

急に引っ張られたせいか、快斗はバランスを崩してずっこけてしまった。

 

「……お?」

 

その転倒の仕方に木葉は違和感を覚えた。経験者なら多少引っ張られたぐらいなら少しはバランスを崩すかもしれないがすぐ体勢を整えるぐらいは感覚でできるだろうし、少なくてもこんな素人丸出しの転け方はまずしないだろう。

 

もしかして……

 

「ねえ快斗君。まさかとは思うけど……」

 

まずい、と思った快斗は誤魔化すように木葉に説明する。

 

「べ、別に滑れないわけじゃないからな!ただ今日はスケートリンクの状態が悪いだけで――」

「私、別に滑れないって一言も言ってないけど……」

 

自ら墓穴を掘っていくスタイル。

 

「ふーん……」

 

彼女は察しがいいので仕事をするときも短い言葉で済むので非常に助かるのだが、こういう時ばかりはとても厄介だ。必死に快斗は立とうとするが、苦手なスケートの上ではうまく立つことが出来ない。

 

「へー……」

 

あ、これ絶対悪いこと企んでいる顔だわ、と嫌な予感が全身を駆け巡りながらも快斗は何とか立ち上がった。

 

「私が教えてあげよっか?」

「いらねーよ別に!」

 

すごくなめられているような気がするが今はこの状況を乗り切ることが先だ、と考えて快斗はここから逃げようとする。だが、滑れない人間がいきなり前に行こうとすればどうなるか。

 

「うおっ!?」

 

またもや尻餅をついて他の人からの視線を集める。なんと情けない姿だろうか。こんな姿を青子に見られたらなんて言われるか……

 

「私が青子ちゃんじゃなくてよかったねー」

 

と快斗の心を見透かしたような言葉をさらっと口にする木葉。そんな木葉は快斗の手を取って出口の方へと滑り、一緒にスケートリンクから出てくれた。スケート専用の靴を脱いでそれを係員の人に返す。

 

「おい、どこに行くんだよ?」

「これ以上の偵察は不要でしょ?」

「え、ちょっ、待っ……」

 

そう言って、木葉はこのスケートリンクを後にした。

 

ちなみに快斗が靴を脱ぐのに苦戦したのはまた別の話。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

辺りが暗くなり、昼間多くの客で賑わっていた東都遊園地は夜のパレードも終えてかなりの静けさを取り戻していた。しかし今日は違った。遊園地内にある美術館では何台ものパトカーや大勢の警察官が集まっていた。それは今日この美術館で‘アダムの微笑’を盗むという予告状が怪盗キッドから出されたからだ。

 

「いいか、怪盗キッドが予告したのは22時きっかりだ!!なんとしても‘アダムの微笑’を守るんだー!!」

 

『おー!!』という警官の気迫が聞こえ、中森警部は納得したように頷いた。

 

「よーし、時間を合わせるぞ」

 

中森警部が袖をまくって腕時計がしっかり見えるように調整し、他の警官も同じようにして時間を合わせる。

 

「えーと、今の時刻は――」

「西暦2014年2月8日土曜日……」

 

中森警部が今の時刻を読み上げようとすると横から若い男の声がした。

 

「20時51分16.05秒ですよ」

 

一斉に声のする方を向くと若い青年がこちらに背を向けて立っていた。

 

「私の時計は年に0.001秒しか狂いませんから、ご参考までに……」

「お前はロンドン帰りの――」

 

その青年はこちらに振り向いてキザな笑顔を見せながら自分の名を語った。

 

「白馬探です!よろしく」

 

シャーロック・ホームズのコスプレのような場違いな格好で現れた白馬に中森警部は少しいらだちを覚えた。

 

「帰れ帰れ!ここは素人さんがくる場所じゃないわ!!」

 

今朝の新聞の少年だ。あの時もそうだが、一般人に勝手に捜査されるというのはやはり気に入らない。ゴミのような扱いで白馬を追い出そうとする中森警部に後ろからひょこっとある人物が現れた。

 

「いや~そう堅いこと言わんでくれ」

「は、白馬警視総監殿!?」

 

その人物は中森警部の上司にあたり、白馬探の父にあたる白馬警視総監。普段なら事件の現場に赴くないはずの人物が現れて思わず背筋が伸びてしまう。

 

「どうしてここに……?」

「いやー息子が一度怪盗キッドを見たいというもんでな……」

 

総監とあろう御方でも息子の頼みとなればただの親になっていまうのだろうか。

 

「しかし、いくら総監の頼みでもこればかりは……」

 

今まで白馬探が事件を捜査してきたのは殺人事件であり、基本的には危険性が終わったあとのことなので事件に協力できただろうが今回は違う。これから犯罪が起こるのだ。それも何回も相手して来た中森警部でさえ手を焼く存在だ。今日来たばかりの高校生探偵にどうこう出来る相手ではない。

 

それを分かった上で白馬警視総監は中森警部に頼みを入れてきた。

 

「最近探はマスコミにあおられていい気になっておる。ここは一度現場の厳しさを教えてやってくれ」

 

ただの親バカでこうしたわけではなく、父親として息子が調子に乗っているのはあまりよろしくない、と。そう判断したからこそ白馬探には一度敗北というものを味わってもらわなければならない。その意図を読み取った中森警部は敬礼しながら白馬警視総監の方を向いた。

 

「分かりました!そういうことならこの中森銀三におまかせください!!」

「よっ、名警部!!」

 

頼むのも上手ければ褒めるのも上手な人だ。そんな白馬警視総監は仕事があるのか怪盗キッドが来る前に去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪盗キッド来るまで、あと一時間半。

 

 

 

 

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