怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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第六話 仲間の存在は非常に厄介である

21:04分。

 

怪盗キッドが現れる時刻まであと56分。

予想以上に時間の流れが早いことに警備していた警官達は少なからず緊張し始めていた。それは大学の合格発表を待ち構えている学生の時のような緊張と少し似ていた。そんな中、外のパトカーで待機を命じられていた警察官は退屈そうにあくびをした。

 

「あー、こんな寒いのに仕事なんかやってられるかよ」

 

それは独り言のつもりで口にしたのだ。車の中は誰もいないし、誰かと連絡を取っているわけでもない。

 

それなのに。

 

「じゃー休んじゃえば?」

 

声が帰ってきたのはなぜだろうか。

 

「へ?」

 

不振に思い後部座席を見ると、トンカチを片手に持った怪盗キッドがそこにいた。だが気づいた時にはその警官は頭を殴られ気絶させられていた。

 

「いい夢見なよ」

 

にやっと笑って警官の着ていた制服を脱ぎ取り、それを自分の服に着せる。

 

「じゃあな」

 

眠っている警察官に一言添えて、彼はパトカーから降りて美術館の中へと侵入した。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

「……よっと」

 

 

白馬探はこの寒空の中、屋上へと顔を出していた。

 

怪盗キッドを自分なりに調べたところ、彼の逃走手段は主に突然消える、ハンググライダーやバルーンを使って空へと逃げ出す、ロープを使う、変装してこっそり逃げるなどさまざまある。今回も恐らくいずれかの手段を使って逃走するつもりだろう。ハンググライダーや変装して逃走されてはこちらもお手上げだが、バルーンやロープなら対処法はある。要はキッドが来る前にロープなら切って、バルーンなら空へと逃がしてしまえばいいのだ。そうなれば、少なからず彼を追い詰めることにはなるだろう。先ほどロープは切ったのであとはバルーンだけだ。バルーンを仕掛けるとしたらまず一番最初に思いつくのは屋上だ。そう思って白馬は屋上へと来たのだが……

 

「ん?」

 

どうやら先約がいたようだ。全身黒い格好をしたいかにも怪しい人物。その人物はちょうどバルーンの仕掛けをしているところだった。

それは後ろ姿だったが、しかしその人物を見て白馬は確信した。

 

彼が今日のメインディッシュだと。

 

「……貴方が怪盗キッドですね。全身白い格好と聞いていましたが……なるほど、その先入観を持たせることが貴方の狙いですか」

「……」

「確かに彼が白い格好をしているという情報があれば必然的に白い者を探してしまう。しかし潜入するときはあえて黒い格好をすることで見つかる危険なくす。こういうことですね?」

「……」

 

 

何もかも見透かしたような口ぶりで話始める白馬。それに対して全身黒の人物は何も話そうとしない。ただ黙秘しているだけなのか、それとも話せない理由があるのか。白馬は自分の背中に汗が出始めているのが分かった。まだ後ろ姿しか見えてないというのに鳥肌が立ちそうな程のプレッシャー。これは決して寒さからくるものではなかった。

 

「ですが運が悪かったですね。貴方が逃走用の仕掛けをしている間に捕まってしまうことになってしまうとは……」

 

と、白馬が得意げに話している時だった。

 

その人物がゆっくりとこちらに振り向いてその素顔を表わした。

 

刹那、すさまじい程の威圧感が彼を襲った。

 

「(な……ッ!?)」

 

ただ振り向くという動作だけなのに身体が金縛りにあったかにように動かなくなてしまった。手は震え、足は竦み、身体が動かないのに頭は逃げろと言っているような感覚。その威圧感だけで人を殺せそうな……恐ろしい人物だ。だが彼は逃げようとはしなかった。せっかくここまで追い詰めたのだ。今更威圧感ごときでへばってられない。

すさまじい威圧感があるためあまり顔を直視出来ないが、何とかその素顔を確認することが出来た。

 

「(女……?)」

 

帽子を深くまで被っていたので詳しいところまでは分からなかったが、その顔立ちなどから女だということが分かった。

 

「(……怪盗キッドの唯一といってもいい確信が持てる情報が彼が男だということ。でも今僕の目の前にいるのは女だ……どういうことだ?)」

 

 

 

 

同時に、白馬は三つの可能性を思いついた。

 

一つ目、これが本当の怪盗キッドの素顔でメディアや警察と対峙する時は変装して声を変えている可能性。

 

二つ目、一つ目の反対で、これが変装で怪盗キッドの時が素顔の可能性。

 

三つ目、怪盗キッドに仲間がいて、彼女がその仲間の可能性。

 

 

 

 

白馬はそこまで考えて二つ目はないと切り捨てた。もし、そうするなら一つ目の方が捕まる危険も低くなるからだ。男だという先入観があれば(もし目の前の女が怪盗キッドだった場合)性別が違うので、警察も攪乱出来る。ならばこれが素顔なのか、それとも彼女が仲間なのか。その二つまで絞られた。

 

「貴方は、怪盗キッドですか?それとも仲間ですか?」

 

だがその人物は答えない。もちろん簡単に答えてくれるとも思っていなかったが、何かしら話してほしいものだ。加えて彼女の威圧感が絶えず襲ってくるので精神面が今までに無いほどに疲弊している。ただそこにいるだけで、ここまで自分を追い詰めたのは彼女が初めてだ。

 

「……なるほど。あくまでも黙秘ですか。では最後に一つ」

 

彼はそれでも得意げな様子をやめずに彼に問いかける。

 

「あなたは何故盗むのですか?何のために……」

 

白馬の言葉を聞いて、彼女はニヤッと笑った。

 

たったそれだけのことなのに、白馬はこれまでにない寒気と恐怖を感じた。背中から指を刺されているかのような威圧感。思わず、一歩後ずさりしてしまった。

 

対して彼女は白馬の問いに対して、短く応じた。

 

「―――――」

 

「――ッ!?」

 

小さく粒やいた言葉は、だが確実に白馬の耳にも届いていた。

彼女はどこからかハンググライダーを取り出して漆黒の空へと飛び出していた。

 

「くっ……」

 

その黒い姿に黒いハンググライダーでは、すぐに闇に溶け込んでしまい見失ってしまった。ここまで警察官がいるのにも関わらず彼女は誰にも気づかれることなく侵入し、白馬以外の人物に気づかれることなく立ち去っていった。

 

「……ここまで手際がいいと、敵とはいえ感心しますね」

 

彼女が消えたことで白馬を縛っていた謎の金縛りも解けてホッとし、敵に賞賛の言葉を贈った。ちゃんとバルーンを空に離してから、白馬は重い身体を引きずるようにして美術館内に戻っていった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

予告の時間まであと数分となった。白馬は姿を消す前は余裕の表情でうろうろしていたのに、今は少し疲れた様子で端っこに身を寄せている。

 

「(フン。あの探偵坊主も現場の緊張感を体感したか)」

 

そんな白馬の様子を見て、中森警部は得意げに笑ってみせた。もうすぐ予告の時間ということもあって言葉にはしないが、やはりこういう時には気分が良くなってしまう。

中森警部が慣れた様子で首だけをキョロキョロ動かしながら怪盗キッドが来るのを待ち構えていた。

 

 

 

そんな中、静寂が支配するこの空間にシューという音がしたのは突然だった。

 

 

 

突然‘アダムの微笑’が地面から噴射した煙に覆われた。

 

「何ッ!?」

 

煙は思った以上に直ぐに晴れた。だがそこにあったのは‘アダムの微笑’ではなく、『絵は貰ったぜ。怪盗キッド』と書かれた白い紙だった。

 

「しまった!!」

 

中森警部は焦ったように声を上げ、即座に走り出す。

 

「まだこの近くにいるはずだ!!探せ!!!」

 

中森警部の声と共に、ここにいた警察官は中森警部の後に続いて走りだした。

一人の警察官を除いて。

 

「いってらっしゃーい」

 

焦ったように走り出した警察官を見送った警察官――いや、怪盗キッドは飾られていたモノを外し、地面に置く。

怪盗キッドは変装を解く前に『絵は貰ったぜ。怪盗キッド』と書かれた紙をはがして‘アダムの微笑’をその目で確認する。

 

「これが時価四億円の名画か……俺には芸術は分からん」

 

だがこれで名画をいただくことに成功した。キッドは掛けられている額縁を外しながら得意げに喋り出す。

 

「しかしよー、よくこんな簡単な手に引っかかるよなー」

 

そう、キッドが行ったの煙が出た瞬間に‘アダムの微笑’の上から『絵は貰ったぜ。怪盗キッド』と書かれた紙を貼り付けあたかも一瞬の内に取られてしまったと思わせる簡単な……

 

「そう、極めて単純なトリックだ。今どきどこのマジックショーでもやっていませんよ。そんな化石のような手には……」

 

背後からゆっくりと近づく場違いな格好をした青年に冷や汗をかいたキッド。しかし、その声にはどこか疲れているような感じがした。

 

「1分13.02秒の遅れですよ怪盗キッドさん」

「いやあ雪でダイヤが乱れちまって……」

 

だがキッドは既に絵画を額縁から外していたので、後は逃げるだけとなった。

 

「ハハハ、ちょっと気づくのが遅かったようだな!」

 

鮮やかな身のこなしで二階に飛び移り、窓を開けて逃げる準備に入った。対して青年――白馬は階段からよっくりと歩いてきて余裕の素振りを見せる。

 

「あ、そうそうロープは切っておきました。マジックの後はサーカスでもやるつもりだったんですか?」

「なっ……え?」

「あと屋上のバルーンも空に離してあげました」

「……」

 

逃走経路を断ち切ったことにより白馬は勝利を確信した。しかし、キッドにはまだ焦ったような様子はない。

 

「ひとつだけ聞きたい。どうしてあなたは盗むのですか?なんのために……」

 

その問いに対してキッドはフッと笑って応じた。

 

「それを捜すのがキミの仕事じゃないのか?」

 

言いながら、ハンググライダーを自分の背中につける。

 

「ハンググライダー……まるでバットマンのようですね」

「バットマンはコミックヒーローだ、実在しない。あとロープを切ったと言っていたがよく見た方がいいぜ」

「……なに?」

 

確実に追い詰めたはずなのに、先に笑顔が消えたのは白馬の方だった。キッドの言っている意味が分からず思わず顎に手を当てて考える。

 

「私はキミの考察に付き合っている暇はないのでね。失礼」

 

しかしキッドは白馬に付き合っている時間はない。一度帽子に手を当てて一礼をし、そのままキッドは窓の外に飛び出して夜空の彼方へと消えていった。だが白馬はキッドの愚かさに鼻であしらって口にする。

 

「愚かな。今日は北北西の風、風力は7だ。夜間飛行には向いていない」

 

すると、そう時間が経たない内にキッドがバランスを崩し、徐々に落下しているのが見て取れた。今外はキッド捕獲のために集められた警官がたくさんいる。そんなところに怪盗キッドが落下すればどうなるか。

 

「この勝負、僕の勝ちですね」

 

捕まるのも時間の問題だ。白馬は改めて勝利を確認し、キッドの最後の姿を見届けようと窓から乗り出すように身を預けた。

 

「な……ッ!?」

 

その瞬間、白馬は二つの意味で驚かされた。 白馬の視線の先では落ちそうになっているキッドを抱える黒いハンググライダーを携えた人物がいた。その人物はハンググライダーの後ろにプロペラを付けて、風の流れに身を任せずに、あえてそうすることで夜間飛行を可能にしていた。その人物――黒服の女はこちらを一瞥すると、そのままキッドを抱えたまま飛び去っていった。

 

「……なるほど。ここまで想定済みというわけですか」

 

そして、白馬がもう一つ驚いた理由はすぐ目の前にあった。

 

そこには切ったはずのロープが縛りつけられていた。屋上の方を見るとちゃんとバルーンもつけてある。自分がロープを切ったのは予告の一時間前。その時は既に多くの警察官が美術館内だけでなく美術館外を警備していた。

 

その中で、誰にもバレずにまたロープをつないだ、というのか。

 

「僕は彼を……いや、()()をなめすぎていたのかもしれませんね」

 

白馬は暗闇に消えていく二人を眺めながら、自分の敗北に悔しさをにじみ出していた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

快斗を抱えながら空を飛んでいる木葉は安堵の息を吐いて快斗の方を見た。

 

「……だから言ったでしょ?今日は風があるから念のためにプロペラつけといた方がいいって」

「わ、悪かったって。まさかあんな身体を持っていかれると思わなかったんだよ」

「どう?女の子にお姫様だっこされているご気分は?」

「……最悪だよ」

 

目をそらしながら答える快斗。今快斗のハンググライダーは幹となる部分の針金が綺麗に曲がってしまっていて飛べない状態にあるのだ。つまりこのまま帰るとなればずっと木葉にお姫様だっこされて帰らなければならない。

 

ある意味公開処刑である。

 

「これからはもっと慎重にね。今日みたいにならないように」

「……そうさせてもらうよ。今回ばかりはマジで懲りたからな」

 

と快斗は心の中で堅く誓いながら木葉にお姫様だっこされて帰って行ったのであった。

 

 

 

 

この木葉の忠告が数日後快斗を助けることになるとは、この時は快斗も木葉も思ってはいなかった。

 

 

 

 

 




原作(漫画)ではこの次の日に白馬が転校してくるんですが、原作でも次の日は休日なんですよね。さすがにそれはおかしいので白馬はもう少し後で転校してきます。

ちなみに高校生の転校は手続きなどが大変でかなり面倒だそうです。
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