怪盗の相棒   作:黒雛の赤龍

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第八話 探偵は諦めが悪い職業である

トイレから戻ってきた快斗は美術館内の空気がさっきよりも重くなっていることを感じ取った。腕時計を見ればもう予告十分前だ。中森警部も白馬もさっきまでのリラックスした表情はどこにもなく、怪盗キッドとの対決に向けて集中しているように見える。

 

白馬は快斗が戻ってきたことを確認するとニヤッと笑った。緊張した空気の中、白馬がこちらに歩み寄ってくる。

 

「やっと戻って来ましたか」

「少し道に迷っただけだ。それに多少長くても問題ないだろ?」

「そうですね。キッチリと予告前に戻ってきてくれましたから……」

 

いいながら、白馬は自分の右手に手錠の輪の片方を掛けた。何してるんだ?と快斗が不振に思っていると白馬はもう片方の輪を快斗の左手にしっかりと掛ける。

 

「ッ!?何のマネだ!?」

「とぼけても無駄ですよ。こっちはもうほぼ確証を得ているのですから。貴方が怪盗キッドだということにね!!」

 

そう高らかに言う白馬に警官の視線が集まる。それは中森警部も例外ではなく、皆驚き、先ほどまでの重苦しい空気から一転して騒がしくなった。

 

「……どういうことだ?」

「キッドの残した頭髪から彼が高校生だと判明した。そして現役高校生のデータとキッドのデータを照らし合わせていく内にある名前がはじき出されたのだよ」

「まさかそれが……!」

 

信じられない、とでもいいそうな声色で中森警部は声を上げた。白馬は中森警部の言葉に小さく首肯すると、快斗を指さして答える。

 

「そう、黒羽怪斗の名前がね!」

 

それを聞いて警官達はさらにざわついた。中には既に確保の体勢に入っている警官もいるほどだ。

 

「……んなの偶然だろ?」

「フン、今に分かるさ。予告の時間になればね」

 

そう、もし怪盗キッドが黒羽怪斗という仮説が正しければ快斗は怪盗キッドに扮するため、いずれここを抜け出さなければならない。しかしこうして自分と快斗の手に手錠を掛けていればこっそり抜け出すことは不可能だし、仮に抜け出せたとしてもそれは自分が怪盗キッドだと言っているのとほぼ同義になる。中森警部は自分の娘の幼馴染みが怪盗キッドだということに信じられない様子だったが、すぐに切り替えて警官に指示を出す。

 

「まだ怪盗キッドが快斗君と決まったわけじゃない!予告の時間まであと三分もある!気を引き締めろ!!」

 

色々思うところはあるが、さすが中森警部の部下といったところか。怪盗キッドらしき人物が現れようとも最後まで油断しない姿勢を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その時がやってきた。

 

 

 

ポン、という音と共に、突然宝石を置いてある大きな銅像を中心に煙りが巻き上がった。

中森警部とその部下は慣れた様子で煙りを吸わないように鼻と口を腕で覆う。しかし、この男はそんなことも忘れて声を上げていた。

 

「なにッ!?」

 

白馬は信じられないものを見るような目で銅像を見つめた。十秒ぐらいで煙りが晴れて視界が明るくなる。そして、銅像の上には宝石を片手に不敵な笑みを浮かべる怪盗キッドの姿があった。

 

「そんなバカな!?」

 

白馬はいつものような冷静さを欠けていた。快斗と怪盗キッドを交互に見ながら、それでも現実を受けいられないような様子だった。

 

「中森警部、予告通りこの宝石は頂いていきます……では私はこれにて失礼……」

「待てぃ!怪盗キッド!!」

 

中森警部とその部下が銅像にしがみつき、何とかして登ろうとするが、それよりも早く怪盗キッドが飛び出し、そのまま二階の窓を割って空へと羽ばたいていった。

 

「クソッ、またしても逃げられたか!!」

 

中森警部が悔しそうに舌打ちする。小さくなっていく敵をその目に焼き付けながら銅像から降りた。警官達を見ると連日の犯行からか疲れがあるように思える。既にハンググライダーで遠くまで逃げた怪盗キッドを追うのは無駄だろうし部下達に余計な疲労を蓄積させるのはさすがにかわいそうだ。そう判断した中森警部は警官達に一度署に戻るように命令した。

 

警官達が美術館から出て行くのを確認すると悔しそうにうなだれる白馬の方へ寄る。

 

「どうやら君の推理は外れたようだな」

「……」

「怪盗キッドは一筋縄ではいかないということだ。よーく覚えとけ」

 

何十年も怪盗キッドを追い、その度に逃げられていた中森警部が言う言葉はいままでで一番重みのある言葉だった。そして、改めて自分の無力さを痛感する。中森警部は白馬の様子を気にしながらも警官達と一緒にこの場を去ったが、白馬はまだこの場所を動くことが出来なかった。

 

「……怪盗キッド」

 

自分の思考をことごとく狂わせた怪盗の名を、もう一度頭に刻み込む。

 

生涯忘れることのないであろう、悪党の名を。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

怪盗キッドは宝石を右手に握りしめながら自分の居場所を確認した。目を凝らすと森林の先に道路が見えた。それを確認した怪盗キッドは高度を下げて着陸態勢に入る。上手いこと樹木の隙間をかいくぐり、何とかハンググライダーが木に引っかからずに着陸できた。

 

ハンググライダーをしまい、学校の制服に早き替えをする。そして顔の変装を解いてやっと自分の素顔に戻った。

 

「ふぅ……」

 

どうやら慣れないことをしたためか変な汗が出ていたようだ。しかし、役者の娘の血が流れている彼女の演技に気づく人は誰もいなかっただろう。たった一人を除いては。

変装の残骸をちゃんと回収して先ほど見えた道路の方へと足を進める。しばらく歩くとそこそこ大きな道路に出た。山道なので彼女の目の先にはガードレールがあり、その先はもう崖となっている。彼女――夕中木葉は都会では中々見ることが出来ない綺麗な星空を眺めながら小さく呟いた。

 

「まさか私が怪盗キッドに扮することになるなんてね……」

 

快斗から招待状についての電話を貰った時、木葉は二つの案が浮かんだのだ。

 

自分が快斗に変装し快斗が怪盗キッドをするか、自分が怪盗キッドをして快斗は快斗のままでいるかだ。

 

本来なら前者を選ぶのだが、白馬はともかくあそこには快斗のことを良く知っている中森警部がいる。快斗と木葉では身長が10cmほど差があるので違和感を覚えられるかもしれないし、身内ネタや昔の話などされたら終わりだ。変装を解かれて捕まるのがオチだろう。それに木葉が怪盗キッドとして降り立っても遠くからなら多少の身長差ならバレないし、演技は得意分野だ。警察を無理に刺激せず直ぐに退散すればバレずに宝石を盗むことは可能だろう。

 

そういう理由があって、今回木葉が怪盗キッドに扮することになったのだ。

 

「……で、迎えの車はまだ?」

 

今日は少し遠出したということもあって車で帰ることになっているのだ。行きは電車だったが、今回は招待状の件もあったので付き人の寺井さんが迎えに来てくれる約束のはず……なんだけど。

 

「(まさか場所が分からないなんて言わないよね?)」

 

木葉の服には発信器をつけてあるのですぐに見つけてくれると思ったんだが……

 

 

 

 

と思っていた矢先だった。

 

まるでバスの停留所のように自分の前に止めてくる車があった。ナンバーを確認して自分の迎えの車だと確信する。そのまま迷うこと無く後部座席に乗ると、車は勢いよく発進した。

 

車が発進した直後ぐらいに運転席の寺井が弔う言葉をかけてくる。

 

「お疲れ様でした木葉様」

「ありがとう寺井さん」

 

運転席で車を運転しているのは黒羽怪斗の父、黒羽盗一の元付き人の寺井だ。怪盗キッドの正体をしっている数少ない人物で今でもこうして怪盗キッドのサポートに回ってくれている。

そんなホンモノの怪盗キッドさんは木葉の横でぐっすり寝ていた。自分が乗車したのにお気づかないぐらいに。多分連日の仕事で疲れているのだろうが、せめて一言ないのかねぇ……

 

そんな木葉の様子を見て、寺井は言いづらそうに話しかける。

 

「それで木葉様。この宝石は……」

「残念ながら『パンドラ』じゃなかったよ」

「それは残念でしたな。また警察庁の方へ送り返さなければ」

 

本当に残念そうに言葉を紡ぐ。木葉はそれに対して苦笑いしか出来なかった。

 

 

 

 

 

今木葉達が狙っているビッグジュエル――またの名をパンドラの箱という。

 

木葉達も詳しいことは分からないのだが、このビッグジュエルがあれば永遠の命が手に入るらしいのだ。

見分ける方法は簡単。宝石を月に照らし、何もなければただの宝石、赤く光ればビッグジュエル。ただそれだけだ。

もちろん快斗と木葉が不老不死なんて望んでいるわけでもなければ誰かを不老不死にさせたいわけでもない。ならばなぜ怪盗キッドがそれを狙うのか。それは、木葉の両親と快斗の父親を殺した犯人がそれを狙っているからだ。

いや、犯人というよりは組織といった方が正解か。なんにせよ怪盗キッドがビッグジュエルを手にすれば組織は何が何でもそれを奪おうとするだろう。そうなれば組織との接触もでき、本来の目的である自分達の親を殺した犯人を捕まえるという事を達成できるかもしれないのだ。

とは言ったものの、快斗は木葉が相棒になる前に一度部下達と交戦しただけだし、木葉に至っては組織の人物達と会ったことすらない。その一度きりの交戦のおかげで組織の目的を把握できたのが唯一の救いか。

 

だが、こんな情報量で本当に組織を倒すことが出来るのだろうか。

 

相手の数は未知数な上にこちらの人数は二人だ。普通に考えれば返り討ちにされるのがオチだろう。

 

「(……なにか準備をしておかないとマズいかな)」

 

と考えるも一向に何も思いつかないのが現状なのである。怪盗キッドの正体をバラすことは出来ないし、自分達も組織も警察の敵なのだ。犯罪者同士の争いに手を貸す一般人なんているわけがない。

 

結局何の案も思いつかないまま、木葉は自分のアパートまで送られていた。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

白馬は警官達にパトカーで送ってもらっていた。

 

未だにあの光景が信じられないのか、白馬の顔には元気が無かった。

 

「(これで振り出しか……)」

 

今まで集めた怪盗キッドの情報も全てパァになった。加えてこれから新たに集めるであろう怪盗キッドのデータもどことなく信用に欠けるに違いない。

 

なんせ、今日は裏切られたから……

「裏切る……?」

 

と、ポツリと呟いた言葉に何かしら引っかかりを感じたのだ。何か、大事なことを見落としているような……そんな気がしてならないのだ。頭が霧に覆われたように情報が送り出されない。何か忘れている気がするのだ。『裏切り』に関係する何かが……

 

「……ッ!!」

 

そして、思い出した。

怪盗キッドの仲間の存在を。

 

「……なるほど、そういうことですか」

 

怪盗キッドは変装の達人だ。ならば怪盗キッドの仲間が変装出来ても不思議じゃない。

もちろんちゃんとした証拠もないから直ぐに捕まえることは出来ないし、これも悪魔で仮説でしかない。

 

それでも。

 

「……必ず見つけてやりますよ。君が怪盗キッドだという証拠をね」

 

この時、白馬は思っていなかった。

 

一週間後に転校する高校が奇しくも快斗と同じ学校で、さらに快斗と同じクラスになろうなんて。

 

そんな偶然が起こるなんて、あの快斗も木葉ですらも思っていなかった。

 

 

 

 

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