バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回はオカルト召喚獣登場part1です。




第八十九問

第八十九問

 

「すいませーん。西村せんせーい」

 

明久が西村教諭に呼びかけると、西村教諭は怪訝そうな顔をしながら明久たちの側にやってきた。

 

「どうした吉井。お前が俺を呼ぶとは珍しいな」

 

西村教諭は警戒しているのか、腕を組んで明久に睨みを利かせる。明久も、何も普段から何かにつけて雑用を押し付けられたり追いかけ回されたりする相手に、好きこのんで自分から話しかけているわけじゃない。

 

「すみません。ちょっと先生にお願いがありまして」

「お願いだと? おかしなことじゃないだろうな」

「んな大したことじゃねぇよ」

「貴様の『大したことない』は信用ならんな」

「酷い言われようだな。どのくらい信用できねぇんだ?」

「『飲むだけで痩せる薬』並みだな」

「ほぼ詐欺じゃねぇか! 流石にそこまではねぇよ!」

 

西村教諭の手酷い例えに秀隆は異論を唱えるが、普段から酷い目にあっている明久たちは無言で頷いて西村教諭に同意した。

 

「いえ。本当に大したことなくて、ただ召喚許可を貰いたいだけなんです」

 

明久がそうお願いすると、西村教諭はあからさまに『厄介なことになった』と顔を歪める。

 

「あー……。いいか吉井。お前や神崎は観察処分者だ。人よりもずっと力があり、尚且つ物や人に触れることのできる召喚獣を持っている。そんな危険な召喚獣をみだりに喚び出すことは感心できんぞ。また教室の壁でも壊されたら敵わんからな。そんな余計なことを考えずに――」

 

くどくどと言い訳がましく言う西村教諭に、明久は違和感を覚えた。いつもなら「ダメだ」の一言でバッサリと終わらせるのに、今日はやけに歯切れが悪い。まるで隠し事を必死に取り繕うとしている明久のようだ。

 

「やけにはぐらかすじゃねぇか。明久の変な言い訳癖が伝染ったか?」

「神崎。気持ち悪いことを言うんじゃない」

「西村先生もそこまで言うことはないと思います!」

「西村教諭。ワシらは別に悪巧みをしようとしとるわけではないぞい。ただ純粋に召喚獣の装備がどうなったのか知りたいだけじゃ」

 

横から秀吉が助け舟を出す。明久、雄二、秀隆のFクラスの3バカは西村教諭からの信用度は低いが、秀吉や瑞希か言えば多少の融通は利かせてくれるはずだ。

 

「いや、しかしだな、木下。試召戦争でもないのに召喚獣を喚び出すのはあまり褒められたものではないぞ」

 

しかし、西村教諭は奥歯に物が挟まったかのような物言いをする。これは何か裏に隠しているに違いない。

 

「鉄人。何をそこまで隠している。俺たちの召喚獣に何か不具合でもあったのか?」

「あっあのか、じゃなくてあったんだろ。どうせまたメンテナンスに失敗でもしたんだろ」

 

当然、Fクラスのブレイン2人も西村教諭の違和感を見逃すはずがない。2人は召喚システムにまあ不具合が起きたのではないかと西村教諭を問い詰めた。

 

「人聞きの悪いことを言うな。システムには何も異常はない。それよりもそろそろ休憩時間も終わりだ。席について次の授業の準備をするんだ」

 

鉄人と言われたことにも文句を言わず、西村教諭は何も問題は起きてないと言い張るが、返って雄二たちの疑念を深くさせ、瑞希や美波も西村教諭に疑いの目を向けだした。

 

「西村先生。私たちの召喚獣に何かあったんですか?」

「ウチらの召喚獣なら物に触れられないから問題ないですよね?」

 

先程の西村教諭の台詞を引き合いに出すなら、明久の観察処分者仕様の召喚獣は物理干渉ができるから許可できないということになる。それならば、物理干渉のできない通常の召喚獣なら問題はない。

 

「……さて、授業を始めるぞ」

 

だというのに、西村教諭は2人を無視して踵を返す。これは雄二と秀隆が疑惑を確信に変えるのに十分だった。

 

「ちょっと待った」

 

教壇に戻ろうとする西村教諭の腕を、雄二が掴む。

 

「……何だ坂本。話は終わったぞ」

「アレで終わりって言われて、はいそうですかってなるわけねぇっすよ」

「どうやら俺たちの召喚獣に何かあったのかは間違いなさそうだな。こうなりゃ召喚許可なんていらねぇ。ただ、何があったかは説明してもらうぞ――起動(アウェイクン)っ」

 

雄二の呼びかけに応じ、黒鉄の腕輪が起動する。雄二の腕輪の機能は召喚フィールドの生成。つまり、教師の許可なく召喚獣を召喚できるようになる。

 

「黒鉄の腕輪か。学園長も厄介なものを……」

「こんくらいは予想できてただろうよ」

「それじゃ――試獣召喚(サモン)っ!」

 

明久がお馴染みのキーワードを口にすると、足元に魔法陣のような幾何学模様が出現。そこから出てくるのは、いつもと変わらないなら、学ランと木刀で身を固めたデフォルメされた明久の姿をした召喚獣――のはずだった。

 

「あれ? 何だかぼくの召喚獣が……?」

「おいおい……。明久のくせに、何だか妙に贅沢な装備になったな。これは甲冑か?」

「正確には板金鎧(プレートアーマー)だな。兜はないみたいだが」

「剣まで持ってるわね。今までとは全然違うじゃない」

「それに、背も随分大きくないですか?」

 

現れたのは、白銀に輝く板金鎧を身に纏い、一振りの大剣を携えた騎士姿の明久だった。

 

「こいつは……。試召戦争が本物の戦争みたいなりそうじゃねぇか」

「そうじゃな。これならば本物の人間とさして変わらんからの」

 

いつもの召喚獣はデフォルメされ、頭身も人の腰の高さほどしかない。しかし、今目の前にある明久の召喚獣は本人と背丈がほとんど変わらない。耳の形が違うので見比べれば違いが分かるが、遠目からは見分けがつかないレベルだ。

 

「顔も明久君そっくりですね。いつもは可愛い感じですけど、今度のは凛々しいです」

「え? そ、そう?」

 

瑞希に凛々しいと言われ、明久が照れて後頭部を掻く。

 

「姫路も酔狂なヤツだな。こんなブサイクのどこがいいんだか」

「あ痛っ」

 

パコン、と雄二が明久の召喚獣の頭を小突くと、その叩かれた頭は首から離れ、ゆっくりと重力に従って畳に落ちていった。

 

「「「…………」」」

 

テンテンと二、三度畳の上でバウンドした生首は、皆が絶句する中、コロコロと転がり、ちゃぶ台の脚にぶつかって停止した。コテンと傾いた無表情な召喚獣の顔が明久たちの方に目を向ける。

 

「「きゃぁぁあああーっ!!」」

「おおーっ」

 

文字通りのホラーな展開に、瑞希と美波は互いに抱き合いながら絶叫を上げた。逆にリリアは興味深そうに眼を輝かせている。

 

「えぇぇっ!? な、なにコレ!? 僕の召喚獣がいきなりお茶の間にはお見せできない姿になっているんだけど!?」

 

身体は仁王立ちのままで頭だけが床に転がっている。デフォルメされていない分異様な生々しさがある。

 

「ん? ああ、すまん。そんなに強く叩いたつもりはなかったんだが、まさか外れちまうとはな……。待ってろ、今ホチキスを持ってくる」

「バカだな雄二。ホチキスだと首元に針がうまく刺さらないだろ。こういう時はカスガイを使うんだよ」

「2人とも、何を的外れなことを言ってるのさ!? くっつけるなら接着剤でしょ!? ホチキスとかだと穴が空いて痛いんだから!」

「そういう問題ではないと思うのじゃが」

「なぁに。ピアスの穴だと思えば大丈夫だろ」

「そういう問題でもないと思いますよ?」

 

明久の召喚獣は観察処分者仕様なので、召喚獣が受けたダメージが本人にフィードバックされる。麻酔もなしに穴を開けられたら、相当痛いだろう。

 

「それはそうと、いくら明久の点数がないに等しいくらいだからと言って、何も登場と同時に戦闘不能にならなくてもいいだろう」

「え? これってそういうことなの?」

「けど無記名だったのは世界史だけだろ? それに0点ならそもそも召喚できないはずだろ?」

 

『Fクラス 吉井明久 総合科目 1053点』

 

と、いつものように少し遅れて召喚獣の頭上に点数が表示された。

決して高くはないが期末試験の結果はきちんと反映されているようだ。

 

「明久よ。どうやらお主の召喚獣は戦闘不能にはなっておらぬようじゃな」

「うん。そうみたいだね」

 

よく考えれば、頭が取れても平然としているから戦闘不能なわけではない。試しに明久が右手を上げるよう動かしてみると、問題なく召喚獣も右手を上げた。

 

「つまり、首が取れるのは仕様ってわけか」

「首が取れるもの強化の一部なんでしょうか?」

 

鎧や剣はともかく、首が取れることが果たして強化に繋がるのだろうか。

 

「姫路さん、美波。目を開けても大丈夫だよ。別にこれは死体じゃないみたいだから」

「はぅ……。そうじゃなくても、やっぱり怖いです……」

「べ、別にウチは驚いただけで、こんなもの怖いわけしまゃ……」

 

強がりながらも瑞希と同様に明久の召喚獣から微妙に視線を逸らす美波。怖がる瑞希と強がる美波を、明久は微笑ましく見ていた。

 

「さて鉄人。これはどういうことか説明してもらおうか」

「こんな召喚獣が面白しろ仕様になってんだ。ババアから何か聞いてんだろ?」

 

雄二と秀隆がわざとらしく目を背ける西村教諭に問いかける。

西村教諭は諦めたようにため息を吐くと、訥々(とつとつ)と説明を始めた。

 

「……俺にはよく分からんが、今喚び出される召喚獣は化け物の類か何かになっているという話だ」

「お化け、ですか?」

「てことは、明久の召喚獣はデュラハンか」

「みたいだね。首の取れる騎士のお化けってあんまりいないし」

「しかし、なぜ召喚獣がこんな仕様になっておるのじゃ?」

 

秀吉が西村教諭に疑問を投げた。

 

「お前らも知っての通り、試験召喚システムは科学技術だけで成り立っているわけではない。幾ばくかの偶然やオカルト的な要素も含まれているんだ」

「??? つまり、どういうことですか?」

「あー……。要するに、だな……」

「調整に失敗した、と」

「……身も蓋もない言い方をするんじゃない」

「他にどう言えってんだよ」

 

雄二の台詞に西村教諭が仏頂面で答えた。ここ最近またシステムの緊急メンテナンスが続いていたのはそういう理由だったようだ。

 

「明久の召喚獣を見るかぎり、どうやら今回はオカルトの部分が濃くでたようだな」

「なるほど。オカルトと言ったらお化けだもんね」

「だな。これはこれで面白いな」

「何だかワクワクします」

 

秀隆とリリアは面白そうに明久の召喚獣を眺めていたが、普通夜道でデュラハンに出くわしたら、大の大人でも腰を抜かしそうだ。

 

「けど、なんでデュラハンなんだろう?」

「お化け、というなら日本の妖怪もおるじゃろうしな」

 

海外、特にヨーロッパではオカルト的な民話では妖精だったり神話生物由来の伝承が多い。逆に中国や日本では妖怪や化け物の伝承が多い。デュラハンは日本でも比較的有名な西洋妖怪ではあるが、あまり馴染みのないお化けになった理由はなんだのだろうか。

 

「学園長曰く、どうやら召喚者の特徴や本質から喚び出される妖怪が決まるらしい」

 

腕組みしながら説明する西村教諭の言葉を噛み締めるように、秀隆が明久の召喚獣を見やる。

 

「特徴や本質、ねぇ」

「ということは、僕の召喚獣にデュラハンが選ばれたのは、僕の騎士道精神が召喚獣に影響されたってことですね」

「明久。現実から目を背けるな」

「え? 違うの? そうなると他に考えられるのは、甲冑の似合う男らしさとか、大剣を振るう力強さとか」

「おそらく『頭がない = バカ』じゃな」

「言ったぁー! 僕が必死に目を逸らしていた現実を秀吉が包み隠さず言ったぁー!」

 

明久は召喚システムからもバカと認定されたようだ。

 

「じゃが、こうして見ると以前の召喚獣よりも強そうではないか。武器も金属製の大剣じゃし鎧も着けておる」

「そ、そうだよね。前より強そうだよねっ」

 

本質云々は置いておくとしても、肝心の装備自体は大幅に強化されているのだから、強くなったことに違いはないはずである。

 

「そうか? 俺は強くなったようには思えないけどな」

「俺もそう思う。むしろ弱体化したように見えるな」

 

だが、雄二と秀隆はそこに水を差すようなことを言ってきた。

 

「なんだよ2人とも。何が不満なのさ」

「不満も何も、その取り外しのできる頭が問題だろ」

「お前その状態でどう戦うつもりだ? もし戦闘中に頭が転がったらどうなるよ?」

「…………狙われるね。確実に」

「そうじゃな」

 

どんなに点数の高い召喚獣でも、頭に一定以上のダメージを受けたらそく戦闘不能になる。それがただでさえ点数の低い明久の召喚獣で、尚かつ身体で守られることなく無防備に転がっていたら、正しく格好の的だ。

 

「そういうことだ。つまり、明久の召喚獣は常にどちらかの腕で頭を抱えないとならない。片腕しか使えないなんてハンデもいいところだな」

「う……。そういうことか……」

 

いかに強力な装備を得ようとも、肝心の召喚獣本体が片手落ちならば意味がない。両腕が使えた分、以前の召喚獣の方が強かった可能性すらある。

 

「せめて飛頭蛮の落ち武者ならまだマシだったと思うんだがな」

「飛頭蛮?」

「一言で言えば日本版デュラハンだ。ただし、デュラハンと違って頭を自在に動かすことができるらしい」

「頭を動かせる、ですか。それなら、ピンチになっても何とか生き延びることができそうですね」

「ま、結局弱点丸出しは変わらないけどな」

「戦場だと頭がどこに行ったかすぐに見失っちゃいそうね」

 

敵味方が入り乱れる戦場で、頭と身体を同時に動かすのはかなりの集中力と繊細な操作を要しそうだ。一歩間違えれば、巻き添えを食らいかねない。結局、明久の召喚獣は弱体化と言った方が良いという結論になりそうだ。

 

「吉井。さっきから面白そうなことをしてるな」

 

明久たちがそうやって騒いでいると、西村教諭の精神汚染からようやく回復したクラスメイトが数人寄ってきた。

 

「これ吉井の召喚獣か? さっき特徴や本質がどうの言っていたようだが」

「なるほど。だから吉井の召喚獣は頭がないのか」

 

流石に明久と言えども、このクラスメイトたちにまで言われる筋合いはない。

 

「そう言うのらそっちも喚び出してみてよ。きっと僕のより酷い召喚獣が出てくるから」

 

明久が挑発的にそう言うと、クラスメイト3人は揃って口の端を歪めて嫌な笑い方をする。

 

「おいおい。そんなことを言っていいのか、吉井」

「俺たちが世界一バカなお前ほど酷いわけがないだろ?」

「俺の本質はなんと言ってもジェントルマンだからな。酷い召喚獣なんかが出てくるわけがねぇよ。いいから見てろよ――」

「「「試獣召喚(サモン)っ!!」」」

 

3人の喚び声に応じ、魔法陣から召喚獣が現れる。

 

……ズズズズズ×3

 

「「きゃぁあああ――っ!!」」

 

瑞希たちが明久の召喚獣から首が取れた時以上の悲鳴を上げる。

3人が喚び出したのは――3体のゾンビだった。

 

「なるほど。性根が腐ってるからか」

「こ、怖いです明久君……っ!」

「あ、アンタたち! その汚いものを早くしまいなさいよっ!」

 

明久の両腕を掴んでガタガタと震える2人。

一方、自分の本質を汚いと言われた3人は互いの肩を抱き合いながら泣いていた。

 

「個人個人で違う妖怪の姿になるんじゃなくて、似たような本質なら似たような化け物が出てくるみたいだな」

「これはこれで面白いな。秀吉はどんな召喚獣になるんだ?」

「んむ? ワシか? そうじゃな……。ワシと言えばやはり演劇じゃからな。妖怪ではないが、演劇で有名なオペラ座の怪人あたりが妥当じゃろうか。……どれ。試獣召喚っ」

 

ポン、という効果音とともに喚び出されたのは、頭に猫耳をつけ、丈の短い無地の着物を着て、2本に分かれた尻尾を持つ妖怪だった。

 

「猫又だな」

「猫のお化けか。可愛いね。秀吉によく似合ってるよ」

「どうやら秀吉の本質は『可愛い』ということらしいな」

「つ、ついに召喚システムにまでそんな扱いを……」

 

なんなら着けているヘアピンまで花柄の女の子向けになっている。

出てくる妖怪は、魑魅魍魎だけではないようだ。

 

「また木下はそうやってアキを誘惑して……」

「わ、私だって負けませんっ」

「別にワシは明久を誘惑したつもりはないのじゃが……」

「というかその状況でよく言えるな」

 

秀吉の召喚獣が怖くなかったせいか、2人は嫉妬に満ちた表情で秀吉を睨む。が、明久の腕をガッツリ掴んで胸を押し当てているような状態で、秀吉に誘惑云々言えた立場ではない。怖さ故だろうが、無自覚とは怖ろしいものだ。

 

「明久君。見ていてくださいっ。私も可愛い召喚獣を出してみせますっ」

「あ、うん。楽しみにしてるよ」

「はいっ。頑張りますっ」

 

明久も可愛らしい瑞希のことだから、天使や女神のような召喚獣が出ると思っていた。

 

「それじゃいきます。……試獣召喚(サモン)っ!」

 

今度はボンっと言う効果音とともに、辺りに紫色をおびたピンク色の煙が立ちこめた。煙が薄くなり、その輪郭が濃くなっていく。煙の中から現れたのは――

 

「きゃぁあああーっ!? あ、明久君っ! 見ないでください!っ」

「わっ!? な、何っ!? いきなり視界が真っ暗に! というか背中に怖ろしいほどの柔らかい感触がっ!!」

 

召喚獣の姿が見えた途端、瑞希が明久の背後に回り、両手で明久の眼を塞いだ。

明久は急に視界が遮られたことと、背中に当たる柔らかいものの感触で軽くパニックを起こしていた。

煙の中から現れた瑞希の召喚獣の衣装は、緋色のハイレッグカットのレオタード。背中から生えた蝙蝠のような翼、尾骶骨部分からは先の尖った尻尾を生やし、頭には少し歪んだ2本の角。そして扇情的に微笑むその姿は、本から飛び出してきたようなサキュバスだった。

「ち、ちょっと瑞希! アキから離れなさい!」

「だ、ダメですっ。今手を離したら明久君に召喚獣を見られてしまいますっ」

「いいから、その手を――って、アンタの召喚獣は何をしているのよ!?」

「え?」

「こ、今度は腕が何か柔らかいものに包まれたような……っ!」

 

美波の声に瑞希の召喚獣の方を見ると、瑞希の召喚獣は、明久の召喚獣の肩に頭を乗せ、腕を自分の胸の谷間挟み込むようにして抱きついていた。

 

「ちょっと瑞希! いくらサキュバスだからって、アンタ自分の召喚獣に何させてるのよ!」

「わ、私は何も操作してません!」

「そんなわけないでしょうが! ――もう怒ったからね! ほら、早くアキから離れなさい!」

「だから今はダメですっ!」

「いだだだっ! ま、待って! 僕の首はそっちには――」

 

怒り狂った美波が、明久の眼を塞いでいる瑞希の手を無理やり引き剥がそうとする。

 

「くぺっ!?」

「「あ」」

 

強引に引き離そうとしたので、勢い余って明久の首が180度回ってしまった。召喚獣ともども、お茶の間には見せられない姿に。

 

「まったく。お前ら何やってんだよ……」

「それにしても、凄い召喚獣ですね……。…………お、お胸が特に……」

「そこまで肌を露出させているわけでもないのに、随分と大きさが強調されているもんだな」

 

雄二は露出が少ないと言うが、ハイレグ姿は思春期の男子高校生にはかなり刺激的なはずだ。具体的には、西村教諭の精神攻撃から復活した生徒が、瑞希の召喚獣をみた瞬間に満足した顔で鼻血の海に沈むくらいには。

 

「と、とにかく上着を……あぅっ! 通り抜けちゃいます……っ!」

 

瑞希の召喚獣は物理干渉ができないので、当然触ることも、上着をかけることもできない。瑞希の召喚獣はそのあられもない姿を惜しみなく披露している。

 

「…………明久……っ! 倒れている場合か……っ!」

 

そして明久の横では、いつの間にか復活したムッツリーニこと土屋康太が、顔面を鮮血に染めながらも必死にカメラを構え、予備の1台を明久にも差し出していた。瑞希の召喚獣を撮影しようと高速でシャッターを切っているが、肝心のレンズが血で覆われているので写真は赤一色になって無駄になるのだが。

 

「姫路。召喚獣を隠したいのなら俺から離れろ。召喚フィールドの有効範囲から出たら自然に消えるからな」

「あ……。は、はいっ。そうしますっ」

 

瑞希は雄二の言葉に頷くと大急ぎで雄二から離れ、召喚獣が消えたことを確認すると今度は早足で戻ってきた。

 

「災難じゃったな。姫路」

「うぅ……。酷いです……。あんな格好だなんで、恥ずかすぎます……」

 

恥ずかしさのあまり、瑞希は首まで真っ赤にして泣きそうな顔をする。

 

「んなこと言っても、アレが姫路の本質みたいだから仕方ないだろ」

「わ、私の本質って……?」

 

瑞希が不安げに表情を曇らせつつ明久たちを見やる。

 

「え、えっとね……。その、なんて言うか……」

「そ、そうですね……。ちょっと、言いにくいんですが……」

「胸がデカいってことだろ」

「うわぁああんっ!」

 

子どものように泣きじゃくる瑞希。

明久たちが必死にオブラートに包もうとしていた台詞を、雄二は平然と言ってのけた。流石は雄二といったところだろう。そこにシビレもしないし憧れもしないが。

 

「そ、そんなことないです! 確かに私は全体的に少し太ってますけど、特徴になるほど大きくなんて全然ないですっ!」

「よすんだ姫路さん! それ以上言えば特定の誰かを傷つけることに――あれ? 急にまた視界が暗くなったような?」

「アキ、言いたいことがあるなら聞くわよ?」

 

にこやかに 美波が明久の頸動脈押さえていた。

 

「島田。だったら聞く姿勢を取ってくれ。あと姫路。その台詞はこっちにも飛び火しそうだから止めてくれ」

 

秀隆も背筋が凍る思いで廊下に気を配っていた。

 

「けれど、なぜサキュバスなのでしょうか? その、お胸が大きいからというのなら、他の女生徒の召喚獣もサキュバスになるのでしょうか」

「いや、外見的な特徴だけでは決まらんだろ。他の内面的な特徴、姫路の場合は『大胆』ってのも関係してると考えられるな」

「大胆、ですか?」

「ああ。思えば姫路にはそういうフシが見られたからな。この前明久と帰った時にも『襲いかからないように我慢します』とか言ってたし」

「合宿の時も明久の写真1枚で寝返ったようじゃしな」

「となると、大胆というより『性欲が強い』って言った方が正しいか」

「ち、違います! 私はそんなんじゃありません! あ、あれはその、思いあまってというか、勢いというか、その……」

 

恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯く瑞希。

瑞希のこれまでの言動を鑑みるに、確かに瑞希は明久に対して大胆というか一線を越えるような言動をしていることが度々見受けられる。明久の『デュラハン = バカ』やクラスメイトの『ゾンビ = 性根が腐っている』のように、召喚獣がどんな妖怪になるのかは召喚者の内面によることが大きいようだ。

そんな瑞希を見て、得意そうな笑みを浮かべる少女が一人いた。




ご感想などお待ちしております。

次回にはオリキャラのオカルト召喚獣出せたらいいなぁ……

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