バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回はオカルト召喚獣登場part2です。
ようやくオリ主のオカルトが出てきます。


第九十問

第八十六問

 

「ふふっ。瑞希ってば可哀想に。そんな無駄に大きな胸をしているから、あんな格好の召喚獣が出てきちゃうのよ」

「うぅ……。あんまりです……」

「でもその点、ウチは何の心配もないから大丈夫よ」

「それ、自分で言ってて悲しくならないのか?」

「――きっとあんなエッチなのじゃなくて、妖精とか女神とか戦乙女とか、そういう可愛いのが出てくるはずだから」

 

雄二と秀隆の予測が正しいのなら、召喚獣は召喚者の内面を反映した妖怪になるはず。美波の性格なら、可愛いはともかくとしても、戦乙女などのカッコいい召喚獣か、もしくは好戦的な妖怪になるだろうなと明久は思った。

 

「これでリリスだったら笑えるな」

「小さいサキュバスみたいな淫魔だっけ?」

「なるほどな。確かにあり得そうだ」

「そこ! 聞こえててるわよ! 見てなさいよ――試獣召喚(サモン)!」

 

美波の喚び声にポンッと出てきたのは、秀吉の猫又のような無地の浴衣を着た召喚獣だった。

 

「何じゃこの物の怪は?」

「秀吉のとあまり大差ねぇな」

「うぅ……。美波ちゃんだけ可愛いのなんてズルいです……」

 

猫又との違いは耳と尻尾の形。それと……

 

「けど、なぜ全身が灰色なのでしょうか?」

 

美波の召喚獣で特筆すべきはその体色。浴衣だけでなく、肌も髪も瞳の中までまるで石のような灰色だった。かといって石像のように動けない様子はなく。美波が軽く動かしてみると、灰色の召喚獣は問題なく動いた。

 

「これだけじゃ分かんねぇな。おい島田。なんかやってみろよ」

「え? いきなり何言うのよ。ウチはお笑い芸人じゃないんだけど」

 

秀隆の無知振りに美波が眉をひそめる。

 

「それじゃあさ。何がお化けであることは間違いないんだし、誰かを驚かさてみたら?」

「そんな急に言われても……」

 

美波は文句を言いながらも渋々と息を吸い込み――

 

「――わぁっ!!」

「きゃあっ!」

 

瑞希に向かって覆いかぶさるように両手を上げ、大声で驚かした。その瞬間――

 

――ボンッ

 

アニメで見るような煙を上げて美波の召喚獣が変化した。

――ぬりかべ(1枚の大きな石壁)に。

 

「「「……………………」」」

 

皆が気まずそうに沈黙する中、明久も声が出そうになるのを必死に耐える。

「……ねぇ、アキ」

「な、何かな美波」

 

明久の方からは美波の表情は一切見えない。だというのに、明久は今美波がゾンビやデュラハンが目じゃないほど、どんな怪物よりも恐ろしく感じる。

 

「ウチの召喚獣。さっきまで可愛かったわよね」

「う、うん。そうだね……」

「じゃぁ、今この召喚獣は、ウチに何を言いたいのかしらね?」

「な、何だろうね?」

 

明久は言葉を濁しながら必死に周りに助けを求めるが、雄二も秀吉も、秀隆やリリアでさえも気の毒そうに目を逸らす。

明久は持てる頭脳をフル回転させ、どうにかこうにか、ぬりかべと美波の特徴を照らし合わせる。

 

「そ、そうだっ! きっと美波とぬりかべは()()ってとこが似て……いて……」

 

何とか捻り出した言葉を言っていて気がつく。もやはこの問題に、明久が生き延びるための正解などそもそも存在しないことに。

 

「へぇ〜。ウチが硬いって、どこがかしら?」

 

美波に凄まれて、明久も覚悟を決めた。

 

「うん……。きっとね……、胸が硬いとあがぁっ! そ、そうだっ! 拳だよ! 美波は拳も硬かったんぎゃぁああっ!」

「拳()って何よ! 触ったこともないクセに! アキのバカぁーっ!」

 

拳は現在進行系で触れていることは不問とする。

 

()()の硬さ、とか言っとけば殴られなかったのにな」

「ムッツリーニよ。お主はどんな召喚獣なのじゃ? まだ確認しておらんのじゃろう?」

「あ、じゃぁ私も一緒にいいですか?」

「いいんじゃないか? 代理召喚に数の制限はなかったはずだ」

 

明久を助けるためか、秀吉が少し遅れて止血作業を終えた康太に話題を振った。それにリリアも乗っかる。

 

「…………試獣召喚(サモン)

試獣召喚(サモン)ですっ」

 

2人が召喚獣を喚び出すと、魔法陣からタキシードを着た血色の悪い康太と、いつもの召喚獣のサイズで着物を着たリリアの召喚獣が現れた。

 

「康太は吸血鬼(ヴァンパイア)か」

「なるほど。確かにいつも血を欲しているイメージがあるね」

「若い女が好きという点も酷似しておるの」

 

康太はある意味ぴったりな召喚獣だった。

 

「リリアちゃんのはどんなお化けなんでしょう?」

「私だけ普通に調整されたんでしょうか?」

 

対してリリアの召喚獣は服装以外はいつもと同じ。妖怪になったのか疑わしいレベルだ。

 

「他より小さいから……コロポックルやキジムナーあたりか?」

「私そんなに小さくありません!」

「……そうね……リリアは()()()()だものね……」

「み、美波ちゃん落ち着いてください」

「それにその手の妖怪はリリアの特徴と一致しないだろ」

 

コロポックルはアイヌの、キジムナーは琉球の伝承に残る小人だが、そのどちらも着物を着ておらず、特徴もリリアとは合わない。

 

「ん?」

 

皆がなんの妖怪かと考えていると、リリアの召喚獣は懐から()を取り出してあやとりをし始めた。

 

「あやとり? なんで?」

「あー……。何となく分かったわ」

「…………(コクン)たぶんアレ」

「なんじゃ? 2人とも分かったのかの?」

 

あやとりをする召喚獣を見て、秀隆と康太はある妖怪を思い浮かべた。

 

「たぶん座敷童子だ」

「座敷童子?」

「…………東北地方に伝わる子どもの妖怪。住み着いた家に幸福をもたらすと言われている」

「聞いたことがあるな。反対に座敷童子をいじめると不幸が起きるんだったか?」

「私も前にテレビで『座敷童子が出る旅館』を見たことがあります」

「なるほど。背が小さいのも子どもだからか」

「特徴は『純粋』ということかの」

「あとは『好奇心旺盛』とかもあるかもな。リリアは子どもみたいに何でも興味を示すみたいだしな」

「私そんなに子どもっぽくないですよ!」

 

ぷくぅと頬を膨らませるリリア。そんな所作も召喚獣が座敷童子になった理由なのだろう。言ってるそばからリリアの召喚獣は、明久の召喚獣(デュラハン)の頭をボールに見立ててコロコロと転がしている。

 

「ここまで来ると雄二たちのも見たくなるよね。召喚してみてよ」

「ん? そうだな。このままだと俺は召喚できないから、フィールドをOFFにして鉄人に許可をもらうか。今更鉄人も文句は言わないだろ」

 

雄二がそう言うと、西村教諭は「やれやれ」と呟いて、諦めた表情をしながら頷いた。雄二の展開したフィールドが消され、改めて西村教諭が召喚フィールドを展開する。

 

「ワシらと違って2人は攻撃的じゃからな。きっと戦闘向きの妖怪がでるじゃろう」

「そうだね。雄二は金棒を持った大鬼とか、秀隆は鎌を持った死神なんかが出てきそうだね」

「好き勝手言いやがって」

「ま、召喚したら分かるだろ。それじゃいくぞ。……試獣召喚(サモン)っ!」

 

明久たちの予想を受けつつ、雄二が召喚獣を喚び出す。

現れた召喚獣の装備は――鍛え上げられた肉体・引き締まった肉体・筋肉に覆われた肉体の三拍子揃った肉体だった。

 

「また手ぶらじゃないかぁーっ!」

 

キリッと堂々とした顔つきで現れた雄二の召喚獣の武器は、潔いほどの拳だった。

 

「んなことより、雄二の召喚獣、今までより退化してないか? いくらなんでも上裸はないだろ」

「しかも何の特徴もなく雄二そのものが出てきおったな。これでは服装以外雄二と区別がつかん」

「ちょ、ちょっと目のやり場に困りますね……」

 

厳密には耳の形も違うのだが、そんなことが些細になるほど雄二の召喚獣は雄二そのものだった。

上半身とはいえ、男の半裸は刺激が強いのか瑞希たちは窓の外に目を向けている。

 

「雄二……。とりあえずその見る人全てを不幸にする召喚獣を早く消してよ……」

「分かっている。こんなもん、俺だって見たくもない」

「こんなん見て喜ぶのは霧島くらいだろ」

「おい秀隆。怖ろしいことを言うんじゃない」

「じゃが、雄二の召喚獣は結局何の妖怪なのじゃ? これではさっぱり分からんぞ」

「…………ドッペルゲンガー?」

「それだと服装も同じになりませんか?」

 

リリアの召喚獣以上の難解さに秀吉たちが苦戦していると、

 

「皆何を言ってるのさ。これは最近日本で確認された新種の妖怪『坂本雄二』じゃないか。醜い容姿と汚い性格で美人の幼馴染みを騙すって話の」

「対象がピンポイントすぎるだろ」

「明久。召喚獣を喚び出せ」

「ん? 別にいいけど。試獣召喚(サモン)っ」

「目指せワールドカップ!(ガコッ)」

 

明久が召喚獣を喚び出した途端、雄二は見事な上段回し蹴りでデュラハンの頭を蹴り飛ばした。

 

「あがぁっ! 蹴ったね雄二!? 僕の召喚獣の頭をサッカーボールに見立ててゴミ箱に蹴り込んだね!? なんてことしてくれるのさ!」

「雄二ナイシュー」

「秀隆も『ナイシュー』じゃないよ! せめてキーパーとして受け止めてよ!」

「そう怒るな明久。よく言うだろうが。『友達はボールだ』って」

「それを言うなら『ボールは友達』じゃないの!? 前後の言葉を入れ替えたらただのいじめの現場だよ!」

 

もしもボールに意思があったのなら、サッカーはよってたかって友だちを蹴り飛ばすスポーツになってしまう。

 

「そもそも俺はお前を友だちだと認めていないがな」

「だったら蹴るな!」

「アンタたち、本当に友だちなの?」

「「誰がこんなバカと!」」

「息ぴったりですね」

「悪友であることに違いはねぇな」

「…………腐れ縁」

 

1年生の頃からこの調子なので、漫才も板についてきている。

 

「とりあえず、僕の(召喚獣の)生首をゴミ箱から救出しないと」

「うむ? 雄二の召喚獣の様子が変じゃぞ?」

「お? 本当だな。何が起きるんだ?」

 

直立不動だった雄二の召喚獣がブルブルと身震いを始めたかと思うと、その口が大きく裂け、全身に凄い勢いで毛が生えてきた。

 

「「きゃあぁあああーっ!」」

「…………狼男」

「なるほど。そういうことか」

「雄二の特徴は『野性』か」

 

雄二の()()()()のような髪の毛が更にツンツンに逆立って、野性味たっぷりの顔は、狼の顔となり(まさ)に野性化していた。

 

「で、でも、満月でもないのに変身するなんておかしくないですか?」

 

瑞希が明久の袖を掴みながら泣きそうな声で尋ねる。

 

「さぁな。なんか丸い物でも見たんじゃないか? 伝承なんて曖昧なものだしな」

「漫画とかでもサッカーボールで変身する狼男なんてざらにいるからな」

「だったら明久の頭じゃろうな」

「…………判定基準が雑」

「これも調整に失敗した影響でしょうか?」

 

一応月には『魔力を高める』という言い伝えもあり、満月の夜に狼男が変身したり、吸血鬼が強くなるというのもその伝承からきている。

 

「んじゃ、一通り見たことだしそろそろ補習にもど」

「「ちょっと待った」」

 

召喚獣のお披露目会はこれで終わり、と締め括ろうとした秀隆の肩を雄二と明久がガッツリ掴んで待ったをかける。

 

「……んだよ?」

「お前、まだ召喚してないだろ」

「一人だけ逃れようったってそうは問屋が卸さないよ」

「……チッ」

 

秀隆の肩がギクリと揺れる。 秀あわよくば有耶無耶(うやむや)にしようとしていたが、死なば諸共が信条の悪友2人がそれを逃すわけもない。

 

「別にいいだろ俺の召喚獣くらい。それより、もう休憩時間も終わりだろ? な、西村センセイ?」

「いや、ここまで来ると、俺もお前の召喚獣が気になるな」

「はぁっ!?」

 

まさかの西村教諭にまで梯子を外され、秀隆は驚愕する。

 

「鉄人の許可も得たことだし、とっとと喚び出せ」

「死んでも断る」

「そうか。ならば姫路の召喚獣の件でお前がどう思っていたか木下姉に話さないといけないな」

「鬼かキサマ!」

「俺の召喚獣は狼男だ」

「そっちじゃねぇよ!」

 

珍しく秀隆が雄二に手玉に取られている。

 

「それに周りを見てみろ。こんな状況で断れると思うか?」

「う……」

 

いつの間にか秀隆は西村教諭を含め、教室に居る全員から注目されていた。これでは召喚獣を喚び出すまで終われそうにない。

 

「……わーったよ」

「最初から大人しくそうすればいいんだよ」

「どんな召喚獣が出てくるかな?」

「秀隆も雄二と同じく好戦的じゃからの」

「天狗とか狡猾そうな妖怪が出てきそうね」

「――試獣召喚(サモン)

 

秀隆の喚び声で、毎度おなじみの幾何学模様の魔法陣が現れる。その中から徐々に姿を現す召喚獣。

頭に生えた山羊のように曲がった角。蝙蝠を思わす爪のついた翼膜。先端がスペードのマークのように尖った尻尾。ファンタジーに出てくる貴族のような服を着て、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべたその姿は正しく――

 

「「「やっぱり悪魔か」」」

「オイテメエら。それはどう言う意味だコラ」

 

現れた召喚獣は、ある意味予想通りの悪魔だった。

 

「どうもこうもあるか」

「秀隆と言えば悪魔。悪魔と言えば秀隆だもんね」

「これ以上お主に適格な妖怪もおるまいて」

「…………お似合い」

「テメエら。後で覚えとけよ」

「流石に日頃の行いのせい、としか……」

「特徴はなんでしょうか?」

「そりゃ『悪魔』でしょ」

 

秀隆は文句を垂れるが、本人以外の全員はこの結果に納得していた。

 

「というか、お前もこうなると予想していたから召喚を渋ったんだろうが」

「……まぁな。 鉄人が『召喚者の本質』といった辺りから嫌な予感はしてたんだ」

 

そうでなければ、面白至上主義の秀隆が嬉々として召喚しないわけがない。

 

「しかし、召喚システムにも悪魔と断定されるとは……。まったく情けない」

「ちょっと待て鉄人。明久のデュラハンや雄二の狼男が良くて、なんで俺の悪魔がそんな嘆かわしがられなきゃならねぇんだよ」

「当たり前だ。吉井や坂本の召喚獣にも思うところがないわけではないが、コイツらの場合はあくまでも『自分自身の特徴』が元になっている」

「俺だってそうだろうが」

「お前の場合は悪魔だからな。おそらく『人を誑かす』、つまりは人を騙すという特徴からきているのだろう」

「だから何だよ」

「『人に迷惑をかける』という特徴からきていると言っとるんだ。これを期に身の振り方を改めることだな」

「だが断あがぁっ!!」

 

キメ顔で言った秀隆の脳天に西村教諭の鉄の拳が降り注ぐ。

 

「あれ? 神崎君の召喚獣が」

「あだだだ――ん?」

 

皆が秀隆に呆れる中、秀隆の召喚獣はどこからか枕を取り出すと、畳に寝転がり堂々と昼寝を始めた。

 

「おいおい。こんな状況で昼寝とはな」

「流石秀隆。全然動じてないね」

「神崎。キサマまだ指導が足りてないのか?」

「ま、待て鉄人! 俺は何も操作してないぞ!」

 

秀隆が必死に手を振って否定する間も、召喚獣はスヤスヤと寝息を立てている。

 

「なんとも剛胆じゃな」

「…………ある意味本人と一緒」

「こんなトコロまで似るんですね」

「何だか可愛いですね」

「リリア。流石にそれはないわ」

 

周りの喧騒などお構いなしに、秀隆の召喚獣は熟睡を決め込んでいる。

 

「まぁいい。それはそうと、この召喚獣は次の試召戦争までには直るのか? こんなんでクラス間の勝負なんてやったら妖怪大戦争になっちまうだろ」

「そ、それは困ります……。怖いのも困りますし、私の召喚獣は恥ずかしいですし……」

「ウチも召喚する度に現実を突きつけられている感じがして嫌だわ……」

「その上俺と明久の召喚獣は物理干渉ができるからな。下手したら今度はか――()()の壁だけじゃ済まないぞ」

 

通常の試召戦争ですら人が入り乱れているのに、このサイズの召喚獣だと更に混乱しそうだ。

 

「召喚システムの調整については俺もよく分からん。学園長なら何か知っているかもしれんが」

 

西村教諭が言いながら眉を顰める。どうやらこの状況は教師陣にとってもあまり好ましくないようだ。

 

「そもそも、システムについてはあのババア以外に理解できるやついないだろ」

「そうだな。何しろ召喚システムの開発者だからな。その辺は鉄人に聞くより直接ババアを問い詰めた方が早いか」

「だね。早速学園長に聞きに行こうか」

 

明久、雄二、秀隆の3人は学園長室を目指して教室を出る。

システムの不調となれば、次にいつ試召戦争が再開されるかも分からない。打倒Aクラスを目標にしている明久たちにとっては、これは早急に確認して、できるなら解決しておきたい。

 

『キサマらっ! ドサクサに紛れて脱走か!』

「しまった! 気づかれたよ!」

「走れお前ら! 学園長室に逃げ込めばこっちのもんだ!」

「了解っ!」

 

――学園長室――

 

「んで、どうなんだ学え――ババア」

「教えてください、学え――ババア」

「早く吐いた方が身のためだぞ、学え――ババア」

「……どうしてアンタたちはアタシを素直に学園長と呼べないのかねぇ……」

 

明久たちが問い詰めると、学園長は呆れたようにため息を吐いた。

 

「すみません。学園長」

「はンッ。今更言い直しても教えてやるもんかい。このクソガキどもが」

「そんな!? 酷いですよババア長!」

「その呼び方は今までで一番酷いさね!?」

「明久。勢い余って変な混ざり方してるぞ。それに仮にも相手は目上の人だぞ。失礼なことを言うんじゃない」

「おや。珍しく殊勝な心がけじゃないか」

 

明久を窘める秀隆に、学園長も感心したが、

 

「ババア長だと、全国のお婆さんの代表みたいじゃないか。世のお婆様方に失礼だろ」

 

そんなわけあるはずなかった。

 

「感心したアタシが馬鹿だったよ」

「そうだぞお前ら。巷で若いという評判の学園長(笑)に失礼なことを言うんじゃない」

「アンタも十分失礼だよクソジャリ。流石は悪魔、デュラハン、狼男っと言ったところかね」

 

学園長が不機嫌そうにボヤく。開発者なだけあって、明久たちの召喚獣の現状は把握済みのようだ。

 

「現状は把握済みみてぇだな」

「なら話は早い。この惨事は正直なところどうなんだ? きちんと復旧するのか?」

「はあ? 復旧? 何を寝ぼけたこと言ってるんだいボウズども。それだとまるで召喚システムに欠陥があるみたいじゃないか」

 

学園長が心外だと言わんばかりに、明久たちを馬鹿にしたような眼で見ている。

 

「テメエこそ何を寝ぼけたことを抜かしやがる。まるで、じゃねぇよ。明らかに欠陥だらけだろうが」

「今回も調整失敗してるじゃないですか」

「いいや、違うね」

 

学園長が海外の通販番組よろしく大げさに首を横に振る。言外に「まったくこの馬鹿どもは」と言っているようだ。

 

「アレはちょっとした遊び心さ」

「遊び心?」

「そうさね。今は夏真っ盛りだからね。肝試しにはもってこいの季節だろう?」

「は?」

 

唐突に夏の風物詩の話題を出した学園長に明久は思わずマヌケな声が出てしまう。

 

「つまり、ババアは肝試しの季節に合わせて召喚獣も妖怪仕様にカスタマイズしたと言いたいのか?」

「そうさ。アレは夏休みでも健気に登校して勉強に励む可愛い生徒たちへの、アタシからのささやかなプレゼントさ」

「微塵もんなこと思ってないクセによく言うぜ……。というか、俺らは勉強『させられてる』んだが?」

「プレゼントって、そんなバカな……」

 

仮にこれが学校行事の一環だとしたら、遅くとも終業式の日には事前告知があったはずだ。怪しさ満点の学園長の言葉に、明久は疑いの目を向ける。

 

「ん〜……。そうか。まぁ、ババアがそう言うのならそういうことにしておくか」

「ま、そうだな。期間限定みたいだし、別に減るもんじゃないしな」

「え? 本当のこと聞かないの?」

 

驚いたことに、雄二と秀隆はこれ以上追及するつもりはないようだ。いつもの2人なら、鬼の首を取ったかのように嬉々として問い詰めそうなものだが。

 

「別に今ここでババアに『調整は失敗だった』と認めさせたところでメリットはないだろ」

「清涼祭の時みたく緊急性があるわけでもなく、あくまで召喚獣の仕様が変わっただけで、システム自体は動いてるしな」

 

清涼祭の時は試験召喚大会の景品である『腕輪』が調整できておらず、暴走して大事故が発生する恐れがあったが、今回はその心配もないようなので、学園長を問い質したところで得られるものはない。

 

「それより、学園長のありがたいお言葉に甘えさせてもらおうぜ」

「甘えさせてもらうって……それってつまり、本当に召喚獣を使った肝試しをするってこと?」

「ああ。学園長もそれを見越した上でのプレゼントって言ってるんだろ? 俺たちに召喚獣の異変が伝わった以上は、世間体を考えると何もしないわけにもいかないだろうしな」

「仮に生徒にバレなかったとしても、スポンサー向けの定期報告会みたいな場で現状を報告しなけりゃならないだろうしな。そうなったら俺らに知れ渡るのも時間の問題。どのみち結果は変わらんだろうさ」

 

雄二と秀隆が視線を送ると、学園長は苦虫を噛み潰したような顔をした後、小さく嘆息した。

 

「やれやれ……。本当にアンタらはこういうことにだけは頭が回るねぇ……」

「頭が回る? どういう意味ですか?」

「つまり、試験的なシステムとして運用している以上、調整に失敗したとは言いたくないってことだ。隠し切れるならそうしたかっただろうが、生徒にバレた以上はそうもいかない」

「ババアはシステムの開発者としても、学園の運営としても責任があるからな。調整を失敗したなんて報告しようものならスポンサーから今後の支援について難色を示されるし、そのせいで召喚システムが使えないなんてなったら生徒からの顰蹙を買う」

「ああ、なるほど。だから肝試しをやることで『元から計画していた出来事』にしようってわけか」

 

文月学園が他の高校よりも安い授業料で運営できているのは、いくつもの企業や団体から『召喚システムの開発費』として資金的援助を受けているからだ。

世間から注目を浴びている以上、資金繰りという面でもネガティブな印象は可能なかぎり回避したい。

 

「じゃあ、そういうことで残り2日の補習期間は肝試しってことでいいんだよな?」

「学園長の言質も取ったわけだし。今登校している生徒総動員しても準備に1日はかかるだろうしな?」

 

雄二と秀隆が嬉しそうに問いかける。

2人の真の目的は最初から肝試しにかこつけて西村教諭の灼熱補習を潰すことだったようだ。本当にこういうことには抜け目ないなと舌を巻くと同時に、補習が潰れて嬉しいのは明久も一緒なので心の中でサムズアップした。 

 

「いいや、ただの肝試しなら却下さね。あくまでも召喚獣は学習意欲向上のためのツールだからね。見た目だけ楽しむのは授業の一環とは認めないよ」

 

学園長がそこだけは譲れないと言わんばかりに首を振る。

見た目たげの変更を楽しむだけなら、わざわざ補習期間にやる必要はない。スポンサーに報告するにしろ、教師陣の召喚獣を見せるだけでこと足りる。

授業の一環として行うなら、どこかで点数を使用した勝負の要素を取り入れろと言うのが学園長の主張だ。

 

「それならチェックポイントでも作って、そこで勝負でもさせるか。それなら文句もないだろ?」

「それが良いな。ついでに期末試験や補習の成果も見られるしな」

「そうさねぇ……。ルール次第だけど、それなら認めてもいいかもしれないね」

「よし。決まりだな」

「んじゃ、他のクラスにも伝えて、準備に取りかかるか。俺たちだけでやってもつまんないだろうし」

 

雄二が満足そうに頷く。

秀隆の言う通り、狭いFクラスの教室でFクラスの生徒だけで肝試しをしてもたかが知れている。こういった行事は2年生全体でやったほうがはるかに盛り上がるだろう。

こうして、学園と召喚システムを使った一風変わった肝試しが開催されることとなった。

 

「そう言えば、ひとつ確認したいんだが」

 

学園長室を出る直前で、秀隆が学園長に尋ねた。

 

「なんだい? 一応言っとくけど、召喚獣の見た目は変えれないからね。もう知ってると思うけど、アレは召喚者の特性が反映されてるからね」

「変えられるんならそれはそれでありがたかったが、それじゃねぇよ。召喚獣の仕様が変わったのはいつ分かったんだ?」

「分かったんじゃない。変えたんだよ」

「はいはいそうだったな。んじゃ、いつ変えたんだ? まさか昨日今日じゃないだろ?」

「……期末試験の時さ」

 

学園長がバツの悪そうに答えた。

 

「……なら、『夏休みを利用して装備のリセットのためのメンテナンスをするからその間は召喚システムが使用できない』ってことにしとけばバレることはなかったんじゃないのか?」

 

明久曰く、この時の学園長の顔は、今まで見たことないくらいマヌケな顔だったらしい。




秀隆の召喚獣、皆さんの予想は当たっていましたか?

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