いい感じの区切りが見つからずいつもより長めになってますが、その分楽しんでいただけたら幸いです。
第九十五問
『ね、ねぇ……。あの角、怪しくない……?』
『そ、そうだな……。何か、出てきそうだな……』
康太の設置したモニターから、尖兵として出撃していったBクラス男女の持つカメラから送られてくる映像と音声が流れる。
まず最初に攻略するのは建物の作りの構造上からBクラスのチェックポイント。本来は名門高校並みの設備を持つBクラスの教室は、今は古めかしい江戸時代あたりの町並みをモチーフにした作りになっている。
演出のため光量が絞られて薄暗くボヤケた感じのその映像は、皆の居る明るい教室で見ているだけでも結構なスリルを味わえた。
『そ、それじゃ、俺が先に行くから』
『う、うん……』
カメラが見るからに怪しい曲がり角を中心に周囲を忙しなく映し出す。カメラを持つ2人は入念な警戒態勢を取りながらそちらに歩みを進める。
「み、美波ちゃん……あの陰、何かいるように見えませんか?」
「きき気のせいよ瑞希。何も映ってないわ」
「2人とも。そんなに怖いなら無理して見なくていいからね?」
瑞希と美波が手を取り合ってモニターを遠目から見ている。少し気の毒になった明久はなるべく見ないように勧めるが。
「べべ別に怖くなんてないわよ!」
「わ、私は少し怖いですけど、でも、後で行くかもしれないので今のうちに慣れておかないと……」
序盤のペアがクリアしてくれない限り、全員参加が基本なのでいつかは順番が回ってくる。その時の恐怖を考えると、嫌でも今から恐怖に目と心を慣らしておかなければならない。
「り、リリア……。こここ怖かったら」
「はいはい。ちゃんと手を握ってあげるからね」
トレイズは映像に身体を硬直させ、その手をリリアが取って慰めている。完全に姉と弟。いや、母親と幼い子どもと言ってもいい光景だ。
「これって江戸時代のどのあたりの町並みがモチーフかしら?」
「……たぶん江戸時代中期。神田かその辺りだと思う」
Aクラス女子のトップ2は、何故か肝試しそっちのけでモチーフの考察をしていた。
『行くぞ……っ!!』
『うん……っ!』
そうこうしている内に、カメラが曲がり角の向こうを写す。はたして鬼が出るか蛇が出るか。予想される恐怖に皆が身構えながら見ていると、カメラはその先に続くただの道を映し出した。
「な、何だ。何もいないじゃない……」
「良かったです……。あそこは安心して進めるんですね……」
「べ、別に俺は何が来ても平気だけどな」
モニターを見た瑞希たちが、何もないことに安堵して胸をなで下ろしたその瞬間。
『『ぎゃぁあああーっ!?!?』』
「「「きゃぁあああーっ!!」」」
カメラから大きな悲鳴が上がり、それを聞いた瑞希たちも、それに負けないくらいの大きな悲鳴を上げる。カメラには何も映っていないのに、声だけで悲鳴を上げるとは、よほど緊張していたのだろう。
「…………失格」
康太が機材を指さして呟く。『カメラ①』と書かれたデジタルメーターは一瞬で跳ね上がり、赤い失格ラインを遥かに超えたら音声レベルを示していた。
「???」
恐怖に悲鳴を上げた瑞希たちとは対称的に、翔子は皆が何にそんなに驚いているのか分かっていないのか、しきりにモニターの瑞希たちを交互に見比べて首を傾げていた。
「アナタたち、いくらなんでも驚きすぎよ」
「だっ、だってあんなに悲鳴が……!」
「そうよ! あんな悲鳴出されたらびっくりするに決まってるじゃない!」
「きっと本物の幽霊や妖怪がいたんだ!」
「そんなわけないでしょうよ……」
「まぁ、ある意味本物とも言えますけど」
ガタガタと震え上がる3人に、優子は呆れリリアは苦笑を禁じえなかった。
「う〜ん……。それにしても、先発隊が一つ目の曲がり角でいきなり失格なんて……。3年生も本気みたいだね」
「だな。流石は上級生と言ったところか」
カメラは5台用意してあり、時間をずらして何組かが同時に突入する手筈になっているが、まだ二組目が出発する前に一組がいきなり失格になるのは想定外だった。
「これだと最初の所に何があるのか分からないね」
「あれではむしろ余計に身構えてしまい、恐怖が助長させられるだけじゃな」
明久の台詞に秀吉がうんうんと頷く。
明久の経験からすれば、恐怖というのは見えているモノよりも見えないモノの方が耐性が低くなる傾向にある。対処しようがないというのもあるが、やはり『よく分からないけど良くないですものがある』というのは精神的にキツイものがある。
「…………二組目がスタートした」
康太が『カメラ②』と書かれたモニターを指さした。そちらにはAクラスの男女ペアが進んでいく姿が映し出された。
「今度は向こうがどんなことをしてくるのかがはっきり映るといいね」
「そうじゃな」
一応この肝試しは3年生との勝負ということにもなっているし、怖がっている瑞希たちのためにも少しでも情報が欲しい。Bクラスをクリア、とはいかないまでも向こうが何を仕掛けているのかは知りたい。
「いや、それは難しいだろうな」
「え? 雄二、それってどういう――」
何を予見したか知っているような物言いの雄二に、明久がその台詞の真意を確認しようとした時、
『『ひゃぁぁあああーっ!?!?』』
「「「きゃぁあああーっ!!」」」
またしても開始早々にモニターの向こうから悲鳴が聞こえてきた。
「…………失格」
今度はさっきとは若干違って、最初の曲がり角が少し見えてきたばかりの地点。ポイントをずらしてくるとは、3年生もかなり
『ち、血塗れの生首が壁から突然出てきやがった』
『後ろにいきなり口裂け女がいるだなんて……』
画面からはそんな呟きが聞こえてきた。
カメラに何も映らなかったのは死角から突然現れたからのようだ。今回の召喚獣はデフォルメされた頭身の低いマスコット体型でなく、召喚者とほぼ頭身の変わらない
「のう雄二。さっきお主が言った難しいとはどういう意味じゃ?」
「それは――そういえば秀隆はどうした? さっきから声も姿も見当たらないんだが」
「あ、そういえば確かに」
「神崎君ならアソコに……」
リリアが指さす方を見ると、
「zzz……。zzz……」
秀隆が今回特別にFクラスに設置された扇風機のひとつを占領して、ガッツリ昼寝をしていた。
「アイツこの状況で寝てるのか!?」
「しかもブランケットにアイマスクまで用意してるし」
「耳栓もしてますね」
「学園の備品を完全に私物化しておるな……」
学園としてのイベントかつ2年生と3年生の勝負だというのに、秀隆は堂々とサボっている。
「おい木下姉。秀隆を起こしてくれ」
「え? なんで私が?」
「俺たちが起こしたら暴れかねないからな」
「それに起きるとも限らないし」
「……仕方ないわね……」
優子は呆れてため息を吐くと、おもむろに自分の鞄を漁りだす。
「念の為に持ってきておいて良かったわ」
そう言って優子が取り出したのは、フライパンとお玉だった。
「? 木下さん。それで何をするの?」
「姉上、まさか……」
「皆、耳を塞いで」
優子は秀隆の耳栓をそっと外すと、教室いる皆に耳を塞ぐように言う。秀吉が慌てて耳を塞ぎ、他の皆も訳もわからぬままそれに従った。
「……右手にお玉を! 左手にフライパンを! 横たわりし者に正義の鉄槌を!」
優子が呪文のように唱えながらお玉とフライパンを構える。
「秘技! 死者の目覚め!」
「「「ぎゃぁあああーーっ!?!?」」」
優子が力任せにお玉でフライパンを何度も強打すると、とてつもない轟音がFクラスに轟き、教室にいた生徒たちがさっきとは別の悲鳴を上げる。その音はFクラスを貫通しEクラスまで届いたのか、Eクラスの方からも悲鳴が聞こえる。
「――だぁあああっ! 何だ!? 敵襲かっ!?」
あまりの轟音に、寝起きの良い方ではない秀隆ですから飛び起きた。
「おはよう秀隆」
「……優子? ってそのお玉とフライパン……やりやがったなテメェ!」
「どう? おばさん直伝の
「アレは心臓に悪いから止めろっつっただろ!」
「アンタが寝てるのが悪いんでしょうが」
皆が轟音の後遺症でふらつく中、2人は平然と口喧嘩をしていた。
「な、何、今のは……?」
「耳を塞いでいたのに、音が頭の中まで響いたぞ……」
「まだクラクラします……」
「アレは『死者の目覚め』。寝起きの大層悪かった秀隆の父君を母君が起こすために編み出した秘技じゃ」
「…………いい迷惑」
枕を引き抜いても布団をひっくり返しても起きなかった秀隆の父親は、何故かこの方法だと直ぐに目が覚めたという。それが今や秀隆と優子に引き継がれている。
「秀隆の親父さん、よくそれで仕事ができるな」
「どうにも切り替えのスイッチがあるようでな。仕事の日は一応は目覚ましで起きるようじゃ。いわば休日用じゃの」
「休日の度にこれは、流石にご近所に迷惑じゃないのかな?」
秀隆の知られざる家庭事情に明久たちは少し戦慄した。
「んで、俺を起こしたってことはもう終わったのか?」
「そんなわけないでしょ。まだ序盤も序盤。三組目がスタートしたところよ」
「んだよ。まだ全然じゃねぇか。まぁ、三組目ってんなら最初のチェックポイント通過くらいは」
「まだ最初の曲がり角すら通過できてないわ」
「…………」
優子の状況説明に、秀隆は言葉が出なかった。
「おい雄二! なんだこの体たらくは! とっとと終わらす手筈だったろうが!」
「うるせぇ! 寝ていたヤツに文句を言う資格はねぇ!」
「何だとコラ!」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。向こうもそれなりに本気なんだよ」
「死角から妖怪を出現させられて苦戦しておるのじゃ」
明久と秀吉の2人がかりで秀隆を落ち着かせて、詳しい状況を説明した。
「……そういうことか。んで、三組目って誰だっけか?」
「たしか、九条君と一之瀬さんだったと思うよ」
「あの2人か」
モニターに視線を移すと、カメラでは例の曲がり角が見えてくるところだった。
『祐香。ゆっくり進めよ』
『う、うん……』
「あの2人ってホラーは得意なの?」
「聡はそこそこ。一之瀬は普通だな」
『やっぱこう薄暗いと心細いね』
モニターでは祐香が不安そうな声を出している。
『それならこうするか。――
聡が召喚獣を喚び出した。喚び出された召喚獣は、秀隆の悪魔と同じような姿だが、服装がさらに豪華になっていた。
『こうすれば人数が増えたみたいで心強いだろ?』
『ふふっ。そうね。――
祐香も召喚する。こちらは灰色のシルクと思われるドレスを着た祐香の姿だが、顔や髪にところどころ煤や埃がついていた。物理干渉できないはずなのに、布の擦れる音がする。
「アレは何の物の怪じゃ?」
「九条君のは悪魔みたいだけど、一之瀬さんのは分からないわね」
「秀隆は分かる?」
「う〜ん……。たぶん一之瀬の性格からして……あの見た目だとシルキーあたりか?」
「シルキー?」
「たしか、イギリスの妖精でしたよね?」
「ああ。家事を手伝ってくれるんだが、怒らすとめちゃくちゃ怖いらしい」
「とんだ
「けど、九条も悪魔なのか? そんな風には見えないけど」
「……土屋。九条の召喚獣の額部分を拡大できる?」
モニターを見ていた翔子が康太に拡大するように言い、康太が機材を操作すると、聡の召喚獣の顔がアップで映される。
「……あの文様……たぶん、マモン」
聡の召喚獣を見ていた翔子が呟く。
「マモン?」
「『強欲』を司る悪魔だな」
「そういえば九条君、合宿でも率先して覗きに参加してたね」
「アイツも明久とおんなじで漫画やゲームに小遣いつぎ込んで財布がいつもカツカツだからな」
「なるほど。欲望に忠実ってわけか」
そんな話をしていると、2人は曲がり角を曲がって行く。
『……っ!』
『……ひっ!』
「…………ギリギリセーフ」
曲がり角を曲がると、また死角から生首と口裂け女が現れたのか2人は小さく悲鳴を上げた。しかし、メーターは失格ラインをギリギリで下回り、辛うじてセーフとなった。
「何とか、第一関門突破だね」
「そうじゃな。それで雄二よ。さっきの話じゃが」
「何の話だ?」
「チェックポイントに辿り着くのが容易じゃないって話よ」
「そうそう。さっきは聞きそびれちゃったから」
「ああ。それはな」
「……カメラを使っているのは私だけじゃないと思う」
雄二の代わりに翔子が答える。
「僕たちだけじゃない?」
「正確にはカメラの映像を見ているのは、だな」
「向こうもこの映像を見ている、ということね」
視線が再び画面の聡と祐香に集中する。
「そうじゃなかったら、カメラの使用なんて俺たちに有利過ぎる。文句を言ってこなかったのは、向こうにもメリットがあるからだ」
「実際のお化け屋敷でも、隠しカメラとかの映像を見て驚かすタイミングを見計らってるからな」
「へぇ。そうなんだ」
「……如月ハイランドでバイトしてただろうが」
明久の記憶からはすっかり抜け落ちていたようだ。
「てっきり自信があるからだと思ってた」
「それもあるだろうがな」
「手持ちのカメラだとどこに注意してるか分かりやすいからな。死角から襲うタイミングを見計らうにはうってつけだ」
基本人は無意識に自分の目線と同じ方向にカメラを向ける。もしくは上下左右の反対。またカメラの映像から足元、天井、壁などその人が特に注意を向けているものも分かる。驚かす側にとってこれほど有益な情報もない。
「おまけに俺と明久以外の召喚獣は物理干渉できないからな。壁をすり抜けての強襲なんて離れ技も可能ってわけだ」
「なるほどのぅ。何台も固定カメラを設置せんでも、ワシらが勝手に位置を教えてくれるわけじゃから、向こうとしたら楽なもんじゃろうな」
「…………召喚獣を使った肝試しならでは」
『うわぁっー!?』
『きゃぁあああーっ!!』
「「「きゃぁあああーっ!?」」」
そうこうしている間に、モニターから悲鳴が聞こえ、今度は失格ラインを超えてしまった。
「…………失格」
『お、落ち武者が通り抜けて行くだなんて……』
『あんなの無理に決まってるだろ!』
どうやら死角からではなく、今度は正面から落ち武者が2人を斬りつけようと突進してきたようだ。
「そりゃ無理だな」
「それは僕でも悲鳴上げちゃうかも」
「ワシもじゃ」
いくらぶつかることはないとは言え、いきなり落ち武者に斬りかかってこられたら誰だって悲鳴を上げる。
結局、三組目まで終了したが、チェックポイントに到達すらできていない。この流れは非常によくない。
「雄二、どうする? 最初のBクラスでこの調子だと、この先が不安なんだけど」
「分かっている。あまり切羽詰まってなくても勝負は勝負だからな。一方的にやられっぱなしってもの気に食わねぇ」
雄二が持ち前の負けず嫌いを発動さて、ふんと鼻を鳴らす。
「最初は様子見と思っていたが、そうも言ってられないな。こうも点数の高い連中が失格になると、チェックポイントが厳しい」
「だな。向こうは間違いなくチェックポイントには成績上位者を配置しているだろうしな」
チェックポイントは5箇所設置されているので、3年生側の召喚獣バトル参加者は五組十名。その内の3人、常夏コンビと大友は確定としても、残りの7人もAクラスで埋めてくるだろう。それに対抗するには、2年生側も高得点持ちの生徒を多く送り込まないと、チェックポイント勝負で全滅ということもあり得る。
「んじゃ、こっちも手を打つか。皆! 順番変更だ! Fクラスの須川&福村ペアと、同じくFクラスの朝倉&有働ペアを先行させてくれ!」
雄二がその場に座ったまま指示を出す。しばらくすると、カメラ④と⑤のモニターにそれぞれFクラスの見知った顔が映った。
『行ってくるぜー』
『カメラは俺が持つぞ』
時間をずらして突入するため、朝倉&有働ペアはひとまず待機し、先に須川&福村ペアがカメラを持ってスタスタと歩き始める。
度胸があるのか何も考えていないのか、2人は何の躊躇もなく件の曲がり角に迫っていく。
「あ。こうやって何でもないように映してもらえると、さっきよりも怖くなくて助かります」
「そうね。これならまだマシね」
「何であの2人は何の躊躇いもなく進めるんだ……」
瑞希と美波の言う通り、前の組のように警戒している人のカメラワークよりも、須川たちのように無警戒でドンドン進んでいく方が恐怖は薄らぐ。加えて、2人のようにズンズンと先に進まれたら驚かす側もタイミングを測りにくい。
『お、アソコだったか? 何か出るって場所』
『だな』
辛うじて三組目の通過は許したとは言え、立て続けに二組のペアを脱落させた曲がり角をカメラが映し出す。
『んじゃ、行ってみるか』
2人がカメラを構えたまま曲がり角を曲がり、何気なく横の壁を映すと、
「「「きゃぁあああーっ!?」」」
そこには血みどろの生首が浮いていた。
そして、そのままカメラが更に動いて背後を映す。
そこには、耳元まで口が裂けている不気味な女が立っていた。
「「「きゃぁあああーっ!? きゃぁあああああーーっ!?!?」」」
瑞希、美波、トレイズの3人は、どこからそんな声が出ているのかと言わんばかりの大きな悲鳴を上げる。いや、3人だけでなく、他のところでモニターを見ていた生徒たちも同じように悲鳴を上げている。生首も口裂け女も、妙にリアルで、確かにホラー耐性がなければかなり怖い映像だ。
だというのに――
『お、この人、少し口は大きいけど美人じゃないか?』
『いやいや。こっちの方が美人だろ。首から下がないからスタイルは分からないけど、血を洗い流したら綺麗なはずだ』
須川と福村は冷静に(別の意味で)相手を見定めていた。
予想外過ぎる展開に、口裂け女と生首の方が驚いているように見える。
「な、何でアイツらはあんなに冷静なのよ! アキたちも! あんなにリアルなお化けなのよ!?」
顔を青くしている美波が叫ぶ。
「何でって言われてもな……」
「別に命の危険があるわけじゃないからね」
「グロテスクなものはFクラスで見慣れているからな」
「…………あの程度、殺されかけている明久に比べたら大した事ない」
「あれ以上が起きているFクラスって何なんだよ……」
「姉上の折檻に比べれば可愛いもんじゃ」
「秀吉? ちょーとお話があるんだけど?」
教室の隅に連れて行かれる秀吉を横目に見つつ、明久たちが美波にそう返す。今更流血程度で驚く明久たちではない。
『それにしても暗いな……。何かに躓いて転びそうだ』
『ああ。それなら丁度いい。あそこにある灯りを借りていこうぜ』
モニターに装飾品として飾られている古びた提灯が映し出される。須川と福村はそれを勝手に拝借しようと近づいて行く。
――ボンッ
「「「きゃぁあああーっ!」」」
その瞬間、提灯が突然燃え上がり、中ほどから裂けて長い舌を顕にした。
「なるほど。提灯お化けか」
「あのような召喚獣の使い方もあるんじゃの」
いつの間にか(ボロボロで)戻ってきた秀吉が秀隆の横で感心したように呟く。
3年生は装飾品の中に付喪神の召喚獣を忍ばせていたようだ。これも中々上手い演出だ。
『お? これ掴めないぞ?』
『召喚獣なら掴めるだろ。試獣召喚っ』
そんな向こうの粋な演出も意に介さず、福村がゾンビを召喚し、提灯お化けの持ち手を掴ませて進んで行く。提灯お化けはなんとか逃れようと身体をブンブン揺らすが、持ち手を掴まれてしまってはどうしょうもない。
「な、何か……かなりシュールな光景ね……」
「そ、そうですよね……。テレビの番組を見ているみたいです……」
「ちょっと提灯お化けが可哀想に思えるな……」
「……雄二。怖いから手を繋いで欲しい」
「黙れ翔子。お前は全然怖がってなかっただろうが」
「……怖くて声が出なかった」
「嘘つけ。悲鳴を上げるタイミングを計り損ねただけだろ」
怖がる瑞希たちと、いつも通りの会話を繰り広げる雄二と翔子。
そんなこちらの状況などお構いなしに、ゾンビが腐肉を撒き散らしながら提灯お化けで足元を照らして進んで行く。
ちょっとした映画さながらの光景を眺めつつ、そのまま須川と福村の快進撃(?)を見守る。
時間が来たので、カメラ⑤を携えた朝倉たちが出発していた。
「うむ? そう言えば雄二。お主、肝試しは極力男女のペアにすると言っておらんかったかの?」
モニターを見ていた秀吉が雄二に尋ねる。確かに、Bクラスを進んでいる須川、福村ペア、朝倉、有働ペアは全員男子生徒だ。
「だいたいそうなるようにはしてあるんだけどな」
「俺たちFクラスはほとんどが男子だからなぁ」
「…………数が合わない」
2年生全体の男女比はほぼ同じだが、Fクラスは9割が男子生徒。夏季講習に参加している生徒の男女数は同じくらい。
そうなると、肝試しに参加している生徒は、Fクラスの分男子生徒が多いことになる。男子生徒全員が女子生徒とペアを組めないのも致し方ない。
『あー畜生。なんでこの俺が須川なんかと……!』
『それはこっちの台詞だ。だいたい、お前がモテないから悪いんだろう』
パートナーに不満があるのか、『カメラ④』のモニターからそんな会話が聞こえてきた。事前に男女ペアと聞かされて、いざふたを開けてみれば相手は男子。しかも見知ったFクラスとくれば、須川たちでなくとも不満を感じる。
「私は別に良いと思うけどな(ボソッ)」
例外はいるようだが。
『何だと須川……? お前だって、朝から20人くらいの女子にに声をかけて全滅していただろうが』
『ち、違う! アレは別に断られたわけじゃない! 向こうには向こうの事情があったんだ! 決して俺がモテないわけじゃない!』
『俺だってそうだ! タイミングが悪かっただけで、俺はモテないわけじゃない!』
女子生徒にペアを断られた現実から眼を背けるため、須川と福村がそんな不毛な会話を続ける。
音声のメーターは失格ラインギリギリで激しく上下している。
『待て福村。この先で何かがこっちに向かってくるそうじゃないか。ここはひとつ、お互いに両手を広げて待ち構えて、飛びついてきた方がモテるということにしないか?』
『なるほど。それは名案だ。さては須川、お前天才だな?』
『へへ。よせやい。照れるじゃねぇか』
などと2人が頭の悪い会話をしていると、少し前に聡と祐香が失格になった場所にやってきた。
『『バッチ来い!』』
肝試しにも関わらず、2人が堂々と両手を広げて待ち構えると、目の前の壁から1体の落ち武者が現れ。落ち武者は錆びてボロボロになった刀を振りかざすと、2人に向かって斬り掛かってきた。のだが――
『『男じゃねぇかーっ!!』』
落ち武者の性別が男だと分かった途端、須川と福村は雄叫びを上げながら膝から崩れ落ちた。そんな2人の真ん中を、落ち武者が悠々と通り過ぎていく。
「…………失格」
当然メーターはデッドラインを大きく振り切り、2人はあえなく失格となった。
「なにやってんだアイツらは……」
「流石はFクラス、と言ったところね」
「ほんっとサイテーね」
「明久。後でアイツらと船越先生の2対一の合コンをセッティングしておけ」
「了解」
「お主らも大概鬼畜じゃな」
「…………当然の報い」
「けど、須川君たちのおかげで相手の仕掛けも分かりましたね」
「そうですね。チェックポイントまでもうすぐですね」
須川と福村が情けない理由で失格して以降のペアは、途中で数組の失格を出しながらも順調に進んで行った。
朝倉&有働ペアも、井戸から現れるろくろ首や柳の下に浮かぶ一つ目小僧など、オーソドックスなものから奇抜なものまで色々な演出をくぐり抜け、開けた場所にたどり着いた。
中心には3年生と思わしき二人組と、英語の遠藤教諭が2人を待ち構えていた。
『おお。チェックポイントか。結構余裕だったな』
『Bクラスだから長い迷路だったけどな』
次々と現れる敵の召喚獣を破竹の勢いで突破(通過)しきた朝倉たちの意気はかなり上がっている。このままチェックポイントも通過してくれたら申し分ないんだが。
『『『『――
皆がモニター越しに見守る中、遠藤教諭の許可を得た4人が召喚獣を呼び出す。
Aクラス 近藤良文 & Aクラス 大竹貴美子
英語 286点 & 英語 324点
「やっぱりAクラスの人が来たね」
「3年生は塾や予備校に通ってるヤツも多いだろうに、きっちり成績優秀なヤツを用意してきたな」
英語の成績が更に高い生徒もいるだろうが、3年生も2年生同様フルメンバーというわけではない。仮に400点声の生徒はいなくても、300点代の生徒はいるようだ。
余談だがAクラスの成績は大抵が200点前後。康太の保健体育、秀隆の化学、それに瑞希の点数を見慣れているせいで明久たちの感覚は麻痺しかけているが、本来なら200点を超えるだけでかなりの好成績だ。Bクラスのチェックポイントを任された2人も、間違いなくトップ10に入る実力者だ。
対する2年生の成績は――
『『ぎぁあああーっ!』』
点数が全て表示される前に瞬殺されてしまった。点数こそ見えなかったが、比べるまでもない大差であることは分かった。
「ま、こんなもんだわな」
「そうね。チェックポイントは純粋な点数勝負だからね」
度胸はあれどFクラスはFクラス。小細工なしの成績勝負でAクラスに勝てるわけがない。
「だが、これでチェックポイントまでの道のりは分かった。これなら他のクラスの連中を送り込める確率も上がるはずだ。皆! ここは一気に勝負を決めるぞ! 今の成績を見て連中に対抗できそうな点数のある組はドンドン突入してくれ!」
雄二が待機しているメンバーに声をかける。
『『『『俺たちに任せとけっ!』』』』
「お前たちは対抗できる点数じゃないだろ!?」
何故か、いの一番に名乗りを上げたのはFクラスのメンバーだった。
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない