バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から肝試し編のDクラス攻略です。
今回は丁度いい区切りがあったので前回よりも短めになってます。

衝撃映像にご注意ください。


第九十六問

第九十六問

 

『よし! Bクラス制覇っ!』

『やったね真一君!』

 

朝倉&有働ペアが撃破されてからのべ7組のペアが突入。その内5組が失格ギリギリの小さな悲鳴を何度か上げながらも、なんとかチェックポイントに到達した。

今回のチェックポイントでの勝負では通常の召喚獣勝負とは違い補充テストはない上に人員の変更もない。なのでチェックポイントの守備を任された3年生は受けたダメージをそのまま次の2年生との勝負に引き継ぐこととなる。

対して攻め込む2年生は、1回の勝負で勝てなくても何度か戦って相手を消耗させたらクリアすることができるようになっている。

要するに、このチェックポイントでの勝負は、2年生はいかに多くの成績優秀者を失格させずに送り込むか、3年生はいかに消耗を少なく2年生を撃破していくか、が鍵となっている。

そう言った意味では、雄二が早々に偵察隊を上位クラスではなくFクラスに切り替えたのは英断だった。

 

「はぁ……。良かったです……。これで私たちはBクラスに行かなくていいんですよね?」

 

Bクラス突破の瞬間を食い入るように見ていた瑞希がホッと胸を撫で下ろす。

 

「うん。もうBクラスはクリアしたからね」

 

事前に取り決めたルールでは、一度踏破したクラスは飛ばして次のクラスからスタートできるようになっている。これは公平性を期すために、限られた時間でもちゃんと2年生がクリアできる時間を確保するためだ。一応最初から肝試しを楽しみたい生徒は最初のクラスから挑戦できるようになってはいるが、もちろん瑞希はそれに該当しない。

 

「私は怖いからできれば不参加にさせてもらいたいんですけど……」

「う〜ん……。気持ちは分かるけど、そればっかりは学園長のお達しだからね」

 

授業を潰してやっている以上は、この肝試しも立派な授業の一環。自由参加の夏期講習に参加している他の生徒ならまだしも、補講に強制参加のFクラスでは残念ながらそれはまかり通らない。

 

「俺もサボりたいから不参加にしたいんだが」

「何でそれでOKになると思ったのよ……」

「俺も命の危険があるから不参加にしたいんだが」

「……ダメ。雄二は私と回る」

「じゃ、じゃあ俺は今回は」

「楽しみだね。トレイズ」

 

別の理由で参加が強制されるケースもあるようだ。

 

「この調子で皆さんが全部クリアしてくれたらいいんですが……」

 

一応Fクラスの主要メンバーは2年生側の主催ということで最後の方の順番になっている。そこに瑞希は一縷の望みをかけているわけだが、3年生の本気具合を見るとそれも怪しかった。

 

「姫路さんが行かないで済むように、僕らも頑張るよ。ね、美波?」

「そ、そうねアキ。一緒に頑張りましょ」

 

明久の呼びかけに、美波は複雑そうな顔をして答えた。怖いながらも楽しみな部分もあるという、色々な感情が入り混じった表情だ。恐怖心に加え、美波の元来の負けず嫌いな性格と、明久と肝試しを回れるという楽しみがそんな表情をさせているのだろう。

 

「ここまでくれば素直になりゃいいのにな」

「アンタにだけは言われたくないでしょうね」

 

他のクラスの参加者も、モニターを見て悲鳴を上げたり、相手の配置をノートに書いて攻略法を探ったりと、それぞれの方法でこのイベントを楽しんでいる。瑞希にもせめてこのお祭りのような雰囲気だけでも楽しんでほしいと明久は願った。

 

『それじゃ、俺たちは引き続きDクラスに向かうぞ』

『頑張ろうね、真一君』

 

カメラの向こうではBクラスを突破した2人がそのままDクラスに向かうところだった。ここから先はまた未知の領域。警戒は怠れない。

 

『怖かったらいつでも俺を頼れよ、真美。俺が守ってやるからな』

『うん。ありがとう。頼りにしてるからね真一君』

 

画面ではそんな甘酸っぱい光景が繰り広げられていたのだが、

 

『『『チッ……ッ!!』』』

 

モニターから伝わる2人の会話に対して、教室中から舌打ちが聞こえた。明久が周りを見渡すと、やっていたのは主にCクラスやBクラスの男子生徒だった。意外にも、Fクラス男子はそんなマナーの悪い行為をしていなかった。

 

「坂本。次は俺に行かせろ。ヤツらに本当の敵は2年にいるって思い知らせてやる」

「待てよ近藤。ここは【安心確実仲間殺し】の異名を持つこの俺、武藤啓太の出番だろう」

「いやいや【逆恨み凄惨します】がキャッチコピーの、この原田信孝に任せておくべきだ」

 

Fクラスの恐ろしさはその行動力。舌打ちなどという生温い行為では収まらない。

 

「おいおいお前ら……。とにかく少し落ち着けよ」

 

雄二が呆れたように肩を竦める。

 

「――そういうことは、クラス全員でやるべきだ」

 

素晴らしきかなFクラス。蔓延る悪事は見逃せど、他人の幸せは見逃さない。こうした嫉妬心と逆恨みからくる日々の活動が、Fクラスの連帯感を生み出している。

 

「バカかお前ら。今は身内同士で潰し合ってる場合じゃねぇだろ」

 

秀隆が雄二たちを諌めるようにため息を吐く。

 

「――こういうのはな、後で衆人の前で弄るから楽しいんだろうが」

「アンタも大差ないでしょうが」

 

物理的にダメージを負うか、精神的に羞恥心に苛まれるかの違いでしかない。

 

「けどまぁ、確かに今仲間同士でやり合うのはまずいよね。せっかく先に進んでるんだから、勝つためには彼らにも頑張ってもらわないと」

「うむ。やるからには勝ちを狙いにいくのは当然じゃな」

 

明久たちは敵の仕掛けを見極めるために画面に視線を戻す。

次の舞台となるDクラスは、さっきまでのBクラスと比べて圧倒的に狭く、面積も約3分の1ほど。Bクラスより大掛かりな仕掛けを施すのは物理的にも厳しそうなので、比較的楽にクリアできそうだが――

 

『きゃぁあああっ!』

『え!? どうした真美!? 何かあったのか!?』

『な、何かヌメッとしたものが首筋に……』

 

Bクラスを突破して少し楽観視していた矢先、モニターから女子生徒の悲鳴が響く。

 

「…………失格」

 

音声レベルを見ていた康太が静かに告げる。今の悲鳴は女子生徒1人のものだが、ルール上この場合は両者ともに失格となる。Bクラス突破の功労者2人の快進撃はここで止まった。

 

「ねぇ、雄二、秀隆。今の何か見えた?」

「いや、カメラには何も映っていなかったな」

「首筋って聞こえたから、たぶんまた死角からの攻撃だろうな」

 

Dクラスの装飾はどこかの町並みをモチーフにしているわけではなく、あくまでもただ暗く、それでいて廃墟のようにただゴミゴミとした作りになっている。これでは本人たちですら何が起きたか判別するのは難しいだろう。

 

『うきゃぁああーっ!』

『おいっ! どうした!?』

 

続けて突入した2組目も、何度か現れたお化けには怯むことなく何とか進んでいたが、途中で失格になってしまった。

 

「いったい何が起きているんだろう?」

「向こうの召喚獣は見えておるからの。Dクラスの広さではそう多くの召喚獣を喚び出せんはずじゃ」

「だとしたら……」

「…………恐らく、直接接触」

「だろうな」

「召喚獣は囮で、本命はそっちってわけだな。敵ながらよく練られた作戦だ」

 

康太の考察に雄二と秀隆が頷く。最初に突入したペアの女子生徒が『ヌメッとしたもの』と言っていたのは、恐らくコンニャクか何かを押し付けられたのだろう。肝試しの小道具としては定番で古典的な手法だが、それ故に効果は絶大だ。

 

『おわぁっ!? へ、蛇!?』

『か、カエル! カエルが降ってきた!』

 

立て続けに3組目も失格。今度は玩具の爬虫類。見た目といい触感といい、暗闇で悲鳴を上げさせるには十分な素材だ。

 

「くそっ。向こうもバカじゃないな。上手く切り替えてきやがる」

「上手く切り替えるって、驚かし方を?」

「ああ。刺激する感覚を視覚から触覚に替えてきやがった。Bクラスでは散々視覚のみを刺激されたからな。急に他の感覚に替えられたらついていけないだろ」

「ある種のミスディレクションだな。しかもDクラスでも召喚獣を見せて適度に視覚も刺激しやがるから」

「どうしてもそこに視線を誘導させられる、というわけですね」

「なるほどの。向こうも頭を使っておるというわけじゃな」

「極論を言えば、視覚への刺激は目を瞑れば回避できるけど」

「……触覚は我慢するしかない」

「私も見えないところから急に触られたら叫んじゃいそうです……」

「ウチ、反射的に殴っちゃうかも……」

「俺もだ……」

 

後日一般公開するので設備の破壊はご遠慮願いたいが、美波たちの気持ちも十分理解できる。

Bクラスではいくら怖くても相手は普通の召喚獣なのでこちらに触るとこはできない。さらに道も広かったので、目で見える物に驚くという点に注意しておけば問題なかった。

しかし、Dクラスではそれに加え触覚への刺激も織り交ぜてきた。今から新しく突入する生徒たちも、モニターで散々『目に見える恐怖』を植え付けられてきた。カメラでは伝わらない『身体に触れられる恐怖』にはすぐに対応できないだろう。

 

「それならこっちだって手を打ってやろうじゃねぇか。Fクラス部隊第二陣、出撃準備だ!」

『『『『おうっ!』』』』

 

気合いの入った返事が返ってくる。第二陣の総人数は4組8名。はたして上手く突破できるだろうか。

 

『おい。坂本や戻ってきたヤツらの話だと、どうにもココは何かよく分からん物を当ててくるらしいぞ』

『そうなのか。だとしらさっきまで見ていたBクラスよりもやりにくいな』

『ああ』

 

Fクラス第二陣の内の一組が警戒しながら会話をしている。いくら流血沙汰に慣れているとはいえ、やはり得体の知れないものに触れられるのはやりにくいようだ。それでも、ほかのクラスの生徒よりは余裕がうかがえる。

 

『そこで、俺はちょっとした対策を考えてきたんだ』

『対策? 何かいい方法があるのか?』

『おう。とっておきの方法だ。……いいか? 突然触ってくる物が怖くなって悲鳴を上げてしまうのは、それがなんだかよく分からない気持ち悪い物だからだ』

『ああ。そうだな』

『だから、その触ってくる物を、【俺の事が大好きで手を繋ぎたいけど、恥ずかしいからそこらの物を使ってしまう美少女】に脳内変換してやればいい。そうしたら、怖いどころか嬉しい接触に早変わりだ』

『な、なんだと……!? それはあまりにも妙案すぎる……! 武藤、俺はお前の頭脳が恐ろしいぜ……!』

『へっ。よせやい』

 

末恐ろしいとは、このことを言うのだろう。

 

「ねぇ雄二。あの2人、会話がモニター越しに皆に伝わっていることを知らないのかな?」

「分からん。何せ、恐ろしい頭脳の持ち主だからな」

「確かに恐ろしいがのぅ……」

「最初の着眼点までは良かったんだがな」

「…………やはり、Fクラス」

 

これでまたFクラスの評価が下げられることだろう。3年生よりもよほど内申点を気にすべきなのだが、そんなものを厭わないのもまたFクラスたる所以か。

そのまま明久たちが呆れ顔で2人を観察すること数分。たまたま方向転換したカメラに、2人に向かって何かが横切る瞬間が見えた。

 

「あれは……」

「コンニャクじゃな」

 

飛翔するコンニャクは、そのままピタッと2人の首筋に触れる。

 

『『ふおぉおおーっ! たまんねぇーっ!!』』

 

バカ2人は脳内変換でトリップしていた。

 

「………………失格」

「秀隆。後であの2人を始末しておけ」

「面倒だな。明久。合コン参加者2名追加だ」

「了解」

 

またしても毒牙の犠牲者が増えることとなった。

 

「こ、このクラスは見ているだけならそんなに怖くないので助かります……」

「そうね。これならウチも平気かも」

「急に目の前に何かが出てきて驚かされることがないから安心して見れるな」

 

などと言いながらも、悲鳴が上がる度に身体をビクリと震わせる瑞希と美波を、明久は可愛らしく思っていた。

 

「雄二。今の2人はともかく、他の3組は順調みたいだね」

「そうだな。突然の接触に驚きはするものの、悲鳴を上げるほど繊細な神経をしている連中じゃないからな」

 

西村教諭の鉄拳制裁や、船越教諭からの過剰なボディタッチに比べたら、コンニャクや玩具の爬虫類はまだ可愛い部類だ。この程度で失格するほどFクラスはヤワではない。

 

「ということは、向こうもそろそろ動きを見せるということじゃな」

「だな。向こうにもこっちの様子は筒抜けだからな。また手を替えて落としにくるだろうな」

 

互いにカメラを通じて状況が把握できるということは、それだけ臨機応変に対応できるということだ。向こうが優勢な時にこちらが手を打てるのだから、逆もまた然り。

 

「そうなると、今度は何をしてくるのでしょうか?」

「どうでしょうね。皆目見当も――うん?」

 

優子が言葉を途中で区切ってモニターに身体を向ける。同じように思案していた雄二たちも、揃ってモニターに目を向ける。

 

「あ、雰囲気が変わりましたね」

「そうね。暗くて分かりにくいけど……」

「広い場所に出たみたいだな」

 

カメラ④が映すのは暗くて広い空間。かといって広間の様な部屋ではなく、本当にただの広い空間のようだ。

 

「けど、何も仕掛けがなさそうだね」

「うむ。広めの空間だけのようじゃ。あとは……中央の上部に照明らしき設備が見えるくらいじゃ」

 

秀吉の言葉にさらに目を凝らすと、確かに天井付近にケーブルのような物が見えスポットライトと思わしき傘に繋がっていた。演劇部なだけあって秀吉は舞台装置ならケーブルのような一部分だけでもそれが何か分かるらしい。

 

『なんか不気味だな』

『ああ。よく分からねぇけど、ヤバい感じがする』

 

モニターの向こうの2人が固唾を飲む様子が伝わってくる。いくら繊細な神経とは無縁のFクラスとはいえ、勝負の勘所はそれなりき分かっている。

この局面は、勝負の行く末を左右する場面の一つになる。明久たちはその雰囲気をヒシヒシと感じていた。

 

「…………人の気配」

 

康太が小さく呟く。

画面には、暗闇の空間の中央に、誰かが静かに佇む影が映し出されていた。それが向こうの仕掛けなのか、はたまたアレは囮で本命が後ろから襲ってくるのか。広い空間と人影だけの現状では判断できない。

 

『突っ立っていても仕方ない。先に進むぞ』

『分かった』

 

2人が歩を進め、カメラもそれに伴って暗闇の奥を映し出さんと移動していく。

そして2人が中央まで後数歩といったところで、画面に動きが見られた。

バン、と荒々しく照明のスイッチが入る音が空間に響く。

暗闇から一転して急に空間が眩い光で満たされ、2人もモニターを見ていた明久たちも一瞬目が眩む。

光に慣れてきた明久たちの目に、画面中央に映し出された常夏コンビの片割れ――坊主の方の夏川の姿が入る。夏川は部屋の中央でスポットライトを浴びただ静かに佇んでいた。

 

――全身フリルだらけの、ゴシックロリィタファッションで。

 

『『『ぎゃぁあああーーっ!!』』』

 

画面の内外、男女問わず、そこら中から響き渡る悲鳴。瑞希や美波はもちろん、明久や秀隆でさえ、人生で最大の恐怖を前に震え上がって叫んでしまっていた。

 

「坊主野郎めっ! やってくれやがったな!」

「汚いっ! やり方も汚ければ映っている絵面も汚いよ!」

「きゃぁああーっ!? お、お化け! いや、お化けじゃないですけどお化けよりも怖いです!」

「うぅぅぅ……っ! 夢に見る……! 絶対ウチ今夜は一人じゃ寝れないわ……!」

「……気持ち悪い」

「アレはワシも流石に耐えられん……」

「くそっ! よりにもよって何だってあんなに衣装もメイクもバッチリなんだよ! 嫌がらせか!?」

「それが向こうの作戦ってことでしょ……。それにしても……。うぅ……」

「リリア! 絶対に見ちゃいけない! 犠牲になるのは俺たちだけで十分だ!」

「トレイズ!? 何が起きてるの!? トレイズたちは大丈夫なの!?」

 

さしものFクラスメンバーや優子や翔子たちも想定外のグロテスクな画像に悲鳴は避けられない。耐性のない生徒は嘔吐や失神の危険性すらある。まさに阿鼻叫喚。なんとも恐ろしい攻撃だ。

 

『何だ? 今こっちの方から何か聞こえなかったか?』

『ああ。間違いない。今こっちから悲鳴が――ぎゃぁあああーっ!』

 

明久たちはモニターで見ているから惨状が分かるが、後続のペアは当然自分たちが進む先に何があるか分からないため、悲鳴を聞きつけて無防備にも地獄の大口に足を踏み入れる。

 

「雄二!秀隆! 早く手を打たないと全滅だよ!」

「分かっている! たが、既に突入しているやつらはもう助けようがない……」

「そんな!? 彼らを見捨てるしかないって言うの!?」

「残念だが……。今はやつらがあのグロ画像に奇跡的に耐えることに賭けるしかないんだ……っ!」

 

『ぎゃぁあああーっ! 誰か、誰か助け――』

『嫌だ! 嫌だ嫌だ! 頼むからここから出してくれ!』

『助けてくれ! それができないならせめて殺してくれ!』

『☆▽▷♡♤☆◆っ!?』

 

そんな一縷の望みも虚しく、突入部隊は無残にも散っていった。

 

「…………突入部隊……全滅……!」

「くそぉっ! 皆ぁっ!」

 

注ぎ込んだ戦力は全て壊滅。モニター越しに見ていた明久たちですら精神に多大なるダメージを負った。直視した彼らのダメージは――想像を絶することだろう。あまりにも惨すぎる光景だ。

 

『坂本っ! 仇を……! やつらの仇を討ってくれ……!』

『このまま負けたら、散っていったアイツらに申し訳がたたねぇよ……!』

 

クラスの仲間たちが涙を流しながら雄二に訴える。

いくらFクラスの生徒とはいえ、あの様な惨い死に様は憐れすぎる。

 

「分かっている! 向こうがそうくるのならこっちだって全力だ! 今突入準備をしている連中を全員下げろ! ムッツリーニ & 工藤愛子ペアを投入するぞ!」

 

『『『おおおーーっ!!』』』

 

その2人の名前を聞いて、教室中から期待と興奮の入り混じった雄叫びが響き渡る。この2人なら何とかしてくれると誰もが信じているからだ。

 

『『『ムッツリーニ! ムッツリーニ!』』』

『『『工藤! 工藤!』』』

 

鳴り止まない『工藤 & ムッツリーニ』コールの中、名前を呼ばれた愛子は緊張した様子もなく、康太に話しかけていた。

 

「だってさ。よろしくね、ムッツリーニ君」

「…………(コクリ)」

 

頷く康太も緊張した様子はない。あのグロ画像を見た後だでも自然体でいられるとは、やはり2人とも只者ではないようだ。

 

「頼んだぞ2人とも。何としてでもあの坊主を突破して、Dクラスをクリアしてくれ」

 

雄二が2人の目を見て話しかける。

教室の広さを考慮すると、夏川を突破すれば残りはチェックポイントだけになるはずだ。Dクラスに配置されているのは保健体育の教師のようなので、2人ならばそのままチェックポイントを通過してDクラスを制覇することも可能である。先ほどの仲間たちのような犠牲を二度と出さないためにも、2人の活躍に期待せざるをえない。

 

「う〜ん。約束はできないけど、一応頑張るよ坂本君」

 

いつもの飄々とした口調で愛子が答える。自信がないような口ぶりだが、表情はそうは言っていない。

 

「ああ。よろしく頼む。ムッツリーニも、行けるな?」

「…………問題ない」

 

康太も静かに小さく頷く。

 

「…………あの坊主に、真の恐怖を教えてやる」

 

康太の目がいつになく暗く燃えがっていた。




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