バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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Bクラス戦後の対談です。

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第十問

第十問

 

「随分と思い切った行動にでたのう。お主ら」

 

壁を壊した明久と敵の召喚獣を一瞬で倒した秀隆。そんな二人に、秀吉は呆れ半分、関心半分といった口調でそう言った。

 

「うう……痛いよう。痛いよう……」

「痛いのが嫌ならやるなよ。痛ったぁ……」

 

血の滲んだ右手に息を吹きかけながら涙目で痛がる明久に、秀隆は呆れていたが、本人も頭痛に頭を抱えていたので他人の事は言えない状況だった。

 

「何とも……お主ららしい作戦じゃったな」

「で、でしょ? もっと褒めて褒めて!」

「いや、褒められてないからな」

 

何を勘違いしたのか、明久は褒められていると思っていた。

 

「後先考えず自分を追い詰める。男気溢れる素晴らしい作戦じゃな」

「……遠まわしにバカって言ってない?」

「結構ストレートだと思うぞ」

 

教室の壁を破壊するという前代未聞の作戦に出たのだ。バカと言われても仕方がなかった。

 

「ま、それがコイツ等の強みだからな」

「なんて不名誉な!」

「どんな強みだバカ野郎」

 

雄二が明久の肩を叩きながら二人をからかった。

 

「さて、それじゃ嬉し恥ずかしの戦後対談といくか。な、負け組代表?」

 

先程の威勢はどこへやら。根本は床に座り込んですっかり意気消沈していた。

 

「待て、雄二。その前に少しいいか?」

 

秀隆が少しふらつきながら雄二に近づいた。

 

「おい。大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないが、喋るだけなら問題ない」

「そうか。じゃあ少しだけだぞ」

 

雄二は少し立ち位置をずらし、秀隆に譲った。

 

「悪いな……さて、根本。俺が言いたいことは分かるな?」

 

根本の前に座り込んで秀隆が聞いた。

 

「……ふん。どうせ俺の作戦にケチをつけようってんだろ」

 

根本は秀隆を睨むと舌打ちした。

 

「まあ。大体はそうだな」

「ほら見ろ」

「お前は今日『勝てる戦争』に負けたんだからな」

『はあ!?』

 

秀隆の発した言葉に、根本だけでなく、F、B両クラス、雄二や明久達も驚いた。

 

「……なるほど。『俺なら勝てた』そう言いたいのか」

 

自嘲気味に根本が笑う。秀隆が戦略でマウントを取っていると思ったからだ。だが秀隆はそれを否定した。

 

「んにゃ。少し違う。詰めを見誤らなかったら負けていたのはFクラスだったってことだ」

「おい、秀隆。どういう事か説明してくれ」

 

秀隆の後ろから雄二が説明を求めた。

 

「いいぜ。先ずは、雄二を協定の場に出した事だな」

「Fクラスの設備を破壊する囮でもあったね」

 

明久があの時の事を思い出しながら言った。

 

「ああ。けどな。あん時下手すりゃ俺達が負けていたんだ」

「どう言うことじゃ?」

「その前に確認だ。雄二、あん時何人護衛連れてた?」

 

雄二の方を向かずに秀隆が聞いた。

 

「ん? 確か2、3人だな。Fクラスの殆どは渡り廊下に出っ張らってたし、伝令役と中堅部隊で少し残しておいたからな」

「その時の根本側の人数は?」

「そっちも同じ位だな。あとは調停者役の先生がいた程度だ」

「場所は視聴覚室か?」

「そうだ」

 

雄二の回答の一つ一つに、秀隆は頷いて聞いていた。

 

「おい。そんなの聞いて何になる?」

 

根本が苛立ちを隠さずに聞いてきた。

 

「大いに関係あるね。何故なら、お前はその時点で雄二を打ち取れたからだ」

「……はっ!」

「……そうか! 危なかった……」

 

秀隆の答えに、根本と雄二は何かに気づいた。だが一方は驚愕、一方は安堵と表情は異なっていた。

 

「分かったか? あの時は『まだ』戦争中だったんだ。なら眼の前の先生に召喚許可をもらって雄二と勝負すりゃ良かったんだ。先生も余程の理由がなけりゃ召喚不許可なんてしないだろうしな」

「けど、そんなの分かっていたら、雄二だってのこのこそんな所に行かないよね?」

「いや。あの時『調印中は互いに手出ししない』を条件にしていた。だからもし調印直後に召喚されていたら分からなかった」

「だろうな。というかそもそもそんな条件は反古にすればいいだけだ。それがダメなら、Fクラスに伏兵でも仕込んでおけばよかったんだ。おあつらえ向きに隣は空き教室だ。雄二が帰ったとことを狙い打てばいい」

 

協定調印時ひとつ見ても、根本はいくつも勝利パターンを逃していたという。

 

「次にCクラスだな。協定で『戦争に関わる行為の全面禁止』を約束させておいてのCクラス利用は見事だった。危うく引っかかりそうになったからな」

「はっ! それをひっくり返した本人が言うかよ」

 

根本は鼻で笑って自嘲した。

 

「そうだな。お前がCクラスの使い方を誤らなかったらこっちが追い詰められていたのにな」

 

秀隆はニヤリと笑いながら言った。

 

「使い方?」

「ああ。根本は俺達からCクラスに行かせるように仕向けただろ?」

「そうだね。Cクラスとの同盟話を持ち掛けさせるためだよね?」

「吉井にまで見透かさせていたとはな……俺も落ちたな」

 

秀隆が説明していたとは知らない根本は、増々気落ちしていた。

 

「けどな、俺達じゃなくて『Cクラス』から持ち掛けられていたら?」

「Cクラスから?」

 

 明久は秀隆の言っている意味がよく分かっていなかった。

 

「……Cクラスから同盟話を持ち出し、それに俺が答えた時点で『協定違反』とみなし、一網打尽にする。そう言いたいのか?」

「流石は我らが代表。正解だ」

 

雄二の正解に、秀隆は芝居がかって手を鳴らす。

 

「……どゆこと?」

「お前な……いいか? 『戦争に関する行為』ってのは、何もこっちがアクションを起こす必要はないんだ。相手からのアクションにこっちが応えることだって立派な戦争行為なんだぞ」

「雄二、それじゃあ明久は分からんよ。つまりだ、一言に『事故』と言ってもこっちが相手を撥ねるパターンとこっちが撥ねられるパターンがあるだろう? 今回根本が狙ったのは前者で、後者をやられてたら負けてたのは俺達だったって事だよ」

「なるほど」

 

雄二の答えを聞いても理解していなかった明久に、秀隆が掻い摘んで説明した。今回の場合、協定締結が決定しているので、放課後にFクラスは戦争に関する一切の行為を禁止されていた。もしCクラスが何らかの理由をつけてFクラスに同盟、或いは協定を持ち掛けた場合、Fクラスの返答に問わず、Fクラスは『同盟の交渉』という行為をしたことになる。これは戦争に関する行為であるので協定違反になる。秀隆が言いたかったのはこういうことだった。

ここでも、根本は大きなミスを犯していたのだ。

 

「最後に、姫路だな。アイツを封じられた時は流石に焦った」

 

秀隆はチラリと瑞希の方を見た。瑞希はFクラスが勝ったというのに浮かない顔をしていた。

 

「だがな……お前はやりすぎたんだ。だからバカを怒らせて痛い目を見たんだ」

「ああ。まさか壁を壊す程のバカだとは思わなかったよ」

 

最後の抵抗なのか、根本はそんな皮肉を言った。

 

「そうだな。明久はとんでもないバカだ。だからこそ、あんな出鱈目な作戦を思いつけるんだ。お前の最大の敗因は、そんなバカの思考を読み切れなかったことかもな」

 

秀隆は言いたいことは言えたのか、徐に立ち上がると雄二の肩を叩き、

 

「後はよろしく」

 

と言って下がった。

 

「おう。さて、それじゃあ改めて戦後対談といくか。結論から言うと、俺はBクラスの設備を奪うつもりはない」

 

ざわ……ざわ……

 

雄二の発言に、BクラスだけでなくFクラスからも騒めきが起きた。

 

「まあ落ち着け皆。俺達の目標はあくまでAクラスの設備だBクラスは通過点にしかすぎない」

 

秀隆の説得で、Fクラスの生徒達は一応大人しくなった。

 

「確かに、本来ならBクラスの設備を明け渡してもらい、お前達には素敵な卓袱台ライフを送ってもらうが……『ある条件』をBクラスが了承してくれれば、さっき言ったように特別に免除してやらんこともない」

「……条件は何だ?」

 

根本が雄二に条件を聞いた。Bクラスの設備を護れるなら多少の理不尽な要求は受け入れる。根本にも代表としてそれくらいの気概はあるようだ。

 

「条件は……お前だよ。負け組代表」

「俺、だと?」

「まさか雄二にそんな趣味があったとは……」

「ちげえよ! お前は一々茶々を入れないと気が済まないのか? あと、お前らも本気で引くんじゃねえ!  今のはコイツ冗談だ!」

 

 秀隆の茶々入れの冗談を半ば信じた根本を始めとする両クラス生徒は一斉に雄二から一歩引いた。雄二は不名誉なイメージを持たれてはかなわないので大声で否定した。

 

「ゴホンッ。根本。お前には散々好き勝手やってもらったし……正直去年から目障りだったんだよ」

 

ここまで言われているのに、誰からも根本を擁護する声は上がらなかった。

 

「そこで、お前らBクラスに特別チャンスだ。Aクラスに試召戦争の準備が出来ていると宣言してこい。そうすれば今回は設備は見逃してやる。ただし宣戦布告はするな。あくまで『戦争の意思と準備』があるとだけ伝えるんだ」

「それだけでいいのか?」

 

あまりの条件の軽さに根本は拍子抜けしたような顔をした。雄二の性格からしてもっと屈辱的な条件を出してくると思っていたからだ。

 

「ああ。負け組代表が()()を着て今言った通りにしてくれたらな」

 

雄二が取り出したのは、今朝秀吉が来ていた女子生徒の制服だった。それを見た途端、根本の顔が一転し、絶望一色になった。やはり、雄二の出す条件がそんな軽いものではなかった。

 

「ば、バカな事をいうな!? この俺がそんなふざけた事を--!」

 

根本は全力で拒否するが、

 

『Bクラス全員で必ず実行させよう!』

『任せて! 必ずやらせるから!』

『それだけで教室を護れるならやらない手はないな!!』

「(根本君は一体どんな事を今までやってきたんだ?)」

 

根本以外のBクラス()()の意見により雄二の条件をのむことになった。根本の人望は、明久に心配されるほど最初から存在しなかったようだ。

1年生の同級生ならいざ知らず、2年生で初対面したであろう生徒からの支持すらないのは噂以上のことをやったのだろう。

 

「んじゃ、決定だな」

「く、やめろ! 近寄るな!!」

 

 根本は制服を着さされてたまるかと必死に抵抗するが、

 

「離せ変だぐふうっ!!」

「取り敢えず、黙らせました!」

「お、おう。ありがとう」

 

1人のBクラス男子生徒が根本の鳩尾に右ストレートを打ち込み沈黙させた。あまりの変わり身の早さに、流石の雄二もタジタジになった。

 

「明久、着付けは任せたぞ」

「了解」

 

雄二は明久に根本の着替えを任せた。明久も根本から手紙を取り返す目的があったので快く了承した。だがやはり、その行為自体は気持ちの良いもではなかった。明久の表情がそれを克明に物語っていた。

 

「うぅ……」

 

と、シャツを脱がせたところで根本が意識を取り戻しかける。

 

「てい!」

「がふっ!!」

 

が、明久の手刀が根本の首に入り、根本の意思はは再び暗い闇の底に堕ちた。

 

「うーん……これ、どう着せるんだろう?」

 

女子の制服は男子のものとは構造が違うので、明久は着付けに悪戦苦闘していた。

 

「私がやってあげるよ」

 

見かねた一人の女生徒が明久に助け船を出した。

 

「そう? じゃあ折角だし、可愛くしてあげて」

 

明久はほんの冗談で言ってみたのだが、

 

「それは無理。土台が腐ってるから」

「(酷い言われようだ)」

 

女生徒の即答に苦笑しか出なかった。

 

「じゃあよろしくね」

 

明久は根本の制服を手に入れるとBクラスを後にした。

 

 

「――多分この辺に……あったあった」

 

明久はBクラスを出た所で根本の制服を探り、例の手紙を見つけた。

 

「さて、この制服は……ゴミはゴミ箱に捨てないとね」

 

不要になった制服をゴミ箱に放る明久。これで根本は女子生徒の制服のまま帰宅する羽目になった。

 

「で、その手紙をどうするつもりだ?」

「うわうっ!?」

 

突然後ろから声を掛けられて、明久は心臓が外に飛び出す程驚いた。

 

「な、なんだ秀隆か。どうしたの? 先に帰ったんじゃ」

「いや、さっき鉄人に見つかってな。これから鉄人の車で病院に行って検査を受ける羽目になった」

「ああ……アレは脳に負荷がかなりかかるって言ってたもんね。ご愁傷様」

 

秀隆に両手を合わせる明久。如何に秀隆とはいえ、放課後まで西村先生と一緒に居たいとは思わなかった。

 

「まあ、こればっかりは仕方がないしな。んで、お前はそれをどうするんだよ?」

「これ? 勿論姫路さんに返すよ」

「そうか。なら、頑張れよ」

「う、うん?」

 

明久はこの時は秀隆の『頑張れ』の意味がよく分かっていなかったが、数分後に痛いほど身に染みることとなった。一方――

 

「――まったく。お前達ときたら、少しは考えて行動せんかバカ者が」

 

秀隆は病院に向かう車の中で鉄人こと西村先生の説教を受けていた。

 

「人を明久みたいに言わないでくださいよ」

「『みたい』ではなく『そうだ』だと言っとるんだ。あれ程『あの状態』にはなるなと言っておいただろう?」

 

秀隆は例の状態になることを西村先生と学園長から固く止められていた。それほど、あの状態は召喚者に危険を及ぼすのだ。

 

「今回は仕方がなかったんですよ。1%でも勝率を上げておきたかったんですから」

「今回の試召戦争の事は俺もよく聞いている。確かに根本のしたことは教師として見過ごすわけにはいかん」

 

他の先生達から、戦争の状況を聞いていた西村先生も根本のやり方には感心していなかった。それほど、根本の行動は目に余るものだったということだ。

 

「だが、奸計が得意なお前ならそんなことしなくても勝てただろう。実際、根本の作戦を悉く潰したそうじゃないか」

「それはそれ、これはこれですよ。アイツには絶対的な絶望を味あわせておきたかったんで……それにアレに早く慣れておきたかったし」

「ん? 何か言ったか?」

 

最後の呟きは西村先生の耳に入らなかった。

 

「いえ、何でもないですよ」

「そうか……ほら、着いたぞ」

 

車は病院の駐車場へと入っていった。

 

「俺はこれから残りの仕事を終わらせてくるから、検査が終わったら学園に連絡してくれ」

「了解」

「じゃあ先生に迷惑を掛けないように」

 

西村先生はそう言い残すと、秀隆を病院の入り口で下して学園に帰って行った。

 

「……漸く掴んだ奥の手なんだ。簡単に手放せるかよ」

 

秀隆は見えなくなった車に向かって呟いた。

 




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