バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は肝試し編のCクラス攻略の続きからです。

はたしてムッツリーニと愛子は小暮先輩を突破できるのか!?


第九十八問

第九十八問

 

Dクラス(ゴスロリ夏川)を突破し、意気揚々とCクラス攻略に挑む康太と愛子の前に、着物を着崩した美人の女性が現れた。

 

『ようこそいらっしゃいましたお二方。私、3年A組所属の小暮葵と申します』

 

艶っぽい声に濡れた瞳。伏し目がちに頭を下げて挨拶をしながらも、着崩した着物はそれ以上はだけさせない。胸の谷間か見えるか見えないかのギリギリの角度。モニターの前の男子生徒はそれだけでノックアウトされた。普段の康太なら鼻血を噴き出して倒れているところだが、今回は珍しく寸前のところで踏ん張っていた。

 

『小暮先輩ですか。はじめまして。ボクは2年A組の工藤愛子です。その着物、似合ってますね』

 

対峙する愛子も挨拶を返すが、どこか他人行儀だ。

 

『ありがとうごさいます。こう見えても私、茶道部に所属しておりますので』

『あ、そっか。茶道部って着物を着てお茶を点てますもんね。その服装はユニホームみたいなものですね。着方は少しエッチですけど』

『はい。ユニホームを着ております』

 

言葉の端にトゲを見せる愛子とは対照的に、小暮は終始おっとりした様子で答えていく。その横で、康太は生まれたての子馬の様に足をガクガクさせていた。

 

『そうですか。それじゃ、ボクたちは先を急ぐので』

『そして、実は私――』

 

脇を通り抜けようとする愛子を防ぐように、小暮は少し横にズレる。

 

『? 何ですか? まだ何か』

『――新体操にも所属しておりますの』

 

小暮が着物の襟合わせに手をかけたと思ったと思うと、一瞬で着物を脱ぎ捨てた。その下から現れたのは――レオタードに身を包んだ小暮の姿だった。

 

――ブシャァアアアッ!!

 

『ちょっ!? ムッツリーニ君!?』

 

『土屋康太&工藤愛子、音声レベルおよびモニター画像全て赤 ! 失格です!』

 

この露出に耐えられるわけもなく、康太は血の海に伏し、愛子は突然噴き出した鼻血に気を取られて声を大きくしてしまった。

 

「畜生っ! やり方が汚えっ! はだけた着物だけでもギリギリだってのに、その下に露出満点のコスチュームだと!? あのムッツリーニがそんなもんを直接見て耐えられるワケがねぇだろうが!」

「まったくだよ! なんて汚い手を使うんだ! とにかく、雄二と秀隆は急いで対策を練って! 僕は今から姫路さんに土下座をしてさっきの記録用ハードディスクを設置し直してもらうから!」

「分かってる! 抜かるなよ明久!」

「もちろんさ! 必ず録画してみせる!」

 

小暮のレオタード姿を見た瞬間から慌ただしく動き出す明久と雄二。その言葉は怒りに、目は欲情に燃えていた。

 

「お願いだ姫路さん! 早くハードディスクを――ってあれ?」

 

瑞希に駆け寄ろうとした明久の視界が突如暗転。明久が何が起きたか理解する前に、

 

「ダメじゃない、アキ。坂本と神崎にばっかり作戦を練るのを任せるなんて。ねぇ瑞希?」

「そうですね美波ちゃん。今動かすべきは目じゃなくて頭だと思いますよ、明久君?」

「って痛ぁっ! 目ぇ痛ぁっ!」

 

美波は一瞬の内に明久の目を突き、遅れてきた痛みに明久は悶え苦しむ。

 

「……雄二。悪い物を見るいけない目はこれ?」

「ぐぁあああっ! 『いけない目はこれ?』じゃねぇ翔子! 耳や口を捻り上げる調子で目を突くな! お仕置きのレベルが全然可愛くねぇぞ!」

 

のたうつ明久の横では同じように翔子に目を突かれた雄二がもんどり打っていた。

 

「なにやってんだお前ら」

「ひ、秀隆! お願いだ! 早くハードディスクを!」

「俺もそうしたいのは山々なんだがな」

 

秀隆はヤレヤレと肩を竦める。

 

「秀隆。少しでも妙な動きを見せてみなさい。アンタの頭と胴体がお別れすることになるわよ?」

「くそ! 秀隆もか!」

 

頼みの綱の秀隆も、8割ほど優子に首を絞められていて身動きが取れなくなっていた。

「お願いだ姫路さん! 今は絶体一隅のピンスなんだ! だからハードディスクを!」

「明久よ。色々な言葉が混ざって次世代言語になっておるぞ」

 

千載一遇のチャンスか絶体絶命のピンチと言いたかったのだろう。焦りすぎて明久のが無茶苦茶になっていた。

 

『大変だ! 土屋が危険だ! 助けに行ってくる!』

『一人じゃ危険だ! 俺も行く!』

『待て! 俺だって土屋が心配だ!』

『俺も行くぜ! 仲間を見捨てるわけにはいかないからな!』

 

明久たちがそんなこんなしている内に、Fクラス男子は独断専行でCクラスに突撃していく。

 

「おい戻れバカども! 今行ったら」

 

『『『うぉおおおぉぉーっ! 新体操ぉーっっ!』』』

 

「……突入と同時に全員失格したようじゃな……」

「あのバカどもが……」

「なんでウチの学校の男どもってこうもバカだらけなのかしらね……」

「どうして覗き騒ぎが起きたのかよく分かる気がします……」

「原因は清水さんでしたけどね……」

 

原因がどうあれ、Fクラスが覗きを行うのは時間の問題だったと思わしめる光景に、秀吉たちは開いた口が塞がらなかった。

Dクラス攻略までは比較的順調だっただけに、ここでの戦力激減は痛手だ。

 

「う……うぅ……。ま、マズいな……。このまま放っておいたら男子は久保以外ほとんど全滅しちまう……」

 

目を押さえながら雄二が呻きながらそう言った。たしかに久保は女子に興味がないため、小暮の色香に惑わされることはないだろう。

 

「そうだね。状況を打開するためにも、ここは僕に任せて」

「アキ。アンタここまでやってもまだ懲りてないのかしら?」

「明久君。あまり反省していないようですと、お姉さんに言いつけちゃいますからね?」

「分かったよ。突入は諦めるよ」

 

玲の名前を出されては、明久も引き下がらざるを得ない。

 

「仕方ない。向こうは色香で攻めてくるのなら、こっちは――」

「女子に行ってもらうわけだね。よし。頼んだよ秀吉」

「……明久よ。誤解しておるようじゃが、ワシとて異性に興味はあるのじゃからな。特にお主にはそのことを覚えておいてもらわんと、ワシも色々と困」

「……え……? 異性に興味があることを覚えておいて欲しいだなんて、秀吉……。皆の前で急にそんなこと言われても、僕は、その……」

「ま、待つのじゃ明久! 今のはお主に向けた遠回しの告白ではないぞ!? 何故頬を赤らめておるのじゃ!?」

 

明久は唐突な秀吉からの告白(?)に顔から汗が吹き出すほど真っ赤に染めていた。

 

「いや、今のはお前の言い方も悪いぞ。相手は明久なんだから」

「そうよ秀吉。告白するならちゃんとストレートに言いなさい」

「よし優子。お前は今日はもう喋るな」

「もがっ!? むーっ! むーっ!!」

 

秀隆は余計なことを言いそうな優子の口を手で覆って塞ぐ。

 

「不公平です……。どうして木下君だとあれだけで告白だと……」

「ウチなんて、キスまでしたのに……」

「まぁ気にするな姫路、島田。秀吉は最初に男として接していた分、心の距離が近いんだ」

 

その近くでは落ち込む瑞希と美波を雄二が励ましていた。

 

「まぁけど、ここは秀吉に行ってもらうしかないな」

「秀隆までワシを女子扱いすると言うのか!?」

「違ぇよ。チェックポイントの偵察には今まで通り点数の低いヤツから行かせたい。その中でも小暮先輩の色気に耐えられそうなのがお前くらいだってだけだよ」

「……言わんとすることは分かるが、ならばお主と姉上でも良かろう」

「そこでネックになるのが大友だ。秀隆がCクラスに入るのを見てチェックポイントでの勝負に出てくるかもしれない。科目と点数よってはそこで全滅もあり得る」

 

雄二は大友の存在も秀吉を選んだ理由だと言う。

 

「あれ? 大友先輩って最後のAクラスじゃないの?」

「たしかに。大友先輩もそう言ってましたね」

 

昨日大友はAクラスで秀隆を待つというようなことを言っていた。

 

「そうだな。だが、言ったからといって本当にAクラスに居るとは限らん」

「どういうこと?」

「チェックポイントで人員の入れ替えはできないはずですよね?」

「ルールではな。だが、そこに落とし穴がある」

「落とし穴?」

「今回3年は事前に誰がどこのチェックポイントにいるか俺たちに情報を開示する必要がない。極端な話、2年の誰か最初にチェックポイントに到達する直前で人員を変えることも可能だ」

「なるほど。人員の変更が不可能なのはあくまでチェックポイントでの勝負が確定してからだから」

「そうなると、到達してない時なら本当はそこの担当が誰かだったかなんてウチたちは確認できないから」

「ギリギリで入れ替えても白を切れるってワケさ」

 

つまり、昨日大友がAクラスを担当すると言ったところで、状況によっては他のクラスで出てくる可能性と十分にあり得るということだ。

 

「大友センパイとやらは、秀隆との勝負を熱望してたからな。どこのチェックポイントを担当するかより、『誰と戦うか』を優先してもおかしくない」

「つまり、ここで秀隆を出しちゃうと、大友先輩が出てきちゃうかもしれない、と」

「向こうの戦力が分からない以上、今神崎君を出すのは得策ではないですね」

「……厄介な状況」

 

大友という存在だけで2年生の行動に制約がかかっている。

相手に厄介な存在を匂わせて有利な状況に持っていく戦略は雄二や秀隆の専売特許ではあるが、今回は相手の方が1枚上手のようだ。

 

「つぅわけで、今回は一旦秀吉に行ってもらうしかないんだよ」

「最悪チェックポイントで負けたとしても、相手が大友でないことを確定させたい。これはお前にしか頼めないんだ秀吉」

「……そこまで言われては断れぬではないか」

「ごめんね秀吉」

「謝る必要はないぞい。ワシとてあの3年生に負けるのは癪じゃからな。最低限の仕事はしようぞ」

「ありがとう秀吉」

「うむ。任されよう」

 

とりあえず秀吉が突入することは決まった。

しかし、もう一つ問題がある。

 

「ですが、木下君の相方は誰にしますか?」

 

秀吉の相方を誰にするかだ。原則男女の二人一組で行くことにはなっているが。

 

「そうだな……。正直木下姉と姉妹で行かせたいんだが」

「雄二よ! お主今ナチュラルに木下『姉妹』と言わんかったか!?」

「でもそうだね。本当は女の子同士で行ってもらうのがいいんだけど」

「明久! お主もいつまでワシを女子扱いするつもりじゃ!?」

「そうですね。木下さんですから」

「……うん。優子だから」

 

秀吉の抗議がスルーされつつ、皆の視線が秀隆に集まる。

しかし、秀隆はその視線の意味に気づくことはなく。

 

「ん? 別にいいんじゃないか?」

 

と当たり前の事のように言ってのける。秀隆の一言に全員が「またかよコイツ……」という顔をする。

 

「んだよその顔は」

「神崎君。いい加減にしないと優子ちゃんが可哀想ですよ」

「そうよ神崎。優子の気持ちも考えなさいよ」

「女の子はデリケートなんですよ!」

「……デリカシーがない」

「なんでそこまで責めらきゃならないんだよ!? まるで意味が分からんぞ!?」

 

女性陣から非難の集中砲火を浴びて、珍しく秀隆がたじろんだ。

 

「ありがとう皆。気持ちだけでも嬉しいわ」

「でも」

「私は大丈夫よ。――後でコイツを100万回殴って憂さを晴らすから」

「だからなんでだよ!? 俺は全然大丈夫じゃねぇぞ!」

「そう。なら問題ないわね」

「問題大有りなんだが!?」

「お前ら、いい加減話を戻すぞ」

 

ギャーギャーと喚く秀隆たちを、雄二が手を叩いて制する。

 

「まったく。秀隆の朴念仁は今に始まったことじゃないだろ」

「どういう意味だコラ」

「そのまんまの意味だバカ。それより、木下姉をお前と組ませるのにはちゃんとした理由がある」

「理由だぁ?」

「そうだ。お前のデタラメな召喚獣の操作についていける女子が木下姉くらいしかいないんだよ」

「む……」

 

雄二の意見に思い当たる節があるのか、秀隆が押し黙る。

 

「いいか。2年の中でも、お前は観察処分者の立場を利用して1年の頃から召喚獣を操作してきた」

「人聞きの悪い言い方をするな。観察処分者として雑用をしてただけだ」

「その後に特訓してたんだろうが。そんなワケで、秀隆と、ついでに明久の召喚獣の操作技術は異様に高い。コイツらについていけるヤツなんて、学園全体を見ても数える程もいないだろ」

「そうね。前にウチもアキと一緒に美春を倒したけど、今同じことをしても勝てるか少し自信がないわ」

 

あの時は2人ともアドレナリン全開だった。所謂火事場の馬鹿力だったのだ。その時とは状況が違うとは言え、上級生のAクラス相手にあの連携ができるかと言えば、美波は少し疑問を覚えた。

 

「運動神経の良い島田ですらこれだ。多少成績が良くても、姫路や他のAクラス女子だろうと同じだ」

「たしかに。私も神崎君の動きについていけるかどうか、正直自信はありません」

「私もです」

「……神崎は雄二じゃないし」

「翔子。今は関係ないから黙っていてくれ」

 

雄二が翔子をストンと脇に避ける。

 

「だが木下姉は違う。いつぞや2人でFクラス男子と清水を相手に無双していたからな」

「ああ。そんな時もあったね」

「お前の差し金だったやつな」

 

秀隆の指摘に雄二は視線を逸らした。

 

「つぅかよ。その理屈なら秀吉も該当するだろ。召喚大会の時にコンビ組んだんだし」

「いや、ワシはあの時はほとんどお主におんぶに抱っこじゃったしの」

「決勝戦でも、神崎君と戦ったのは明久君でしたしね」

「それにあの時はほぼ初見殺しだったからな。お前の存在を知るヤツが3年にいる以上、対策を取られていると考えた方が良い」

「だから、神崎君と連携が取れる優子ちゃんが必要なんですね」

「そうだ。状況次第では一瞬で2対1になっちまうからな。そうなれば、秀隆であろうと勝つのは難しい。大友センパイっつぅ不確定要素もあるしな」

「そりゃぁ、まぁ」

「それに木下姉とお前はツーカーの仲だからな。咄嗟のアドリブ連携でも何とか乗り切れるだろ」

「そっちが本当の理由だろ絶対」

 

だが雄二の言う通り、秀隆が大友の相手をする以上、コンビを組むのは優子が最善のようだ。

 

「というわけだ。しっかりと舵を取ってくれよ木下姉」

「仕方ないわね」

「なんでお前が苦労するみたいになってんだよ」

「実際苦労するもの」

「はっ。 言ってろ。精々足を引っ張るなよ」

「こっちの台詞よ」

 

とりあえず、秀隆と優子がペアになることは確定したが、

 

「……それで、ワシは誰と組めばいいのじゃ?」

「「「あ」」」

 

肝心の秀吉とペアを組む相手が決まっていない。

 

「なら、僕が組もうか?」

 

と、そこに一人の男子生徒が声をかけた。

 

「君は」

「誠? お前もいたのか」

 

声をかけたのは、Aクラスの鳳誠だった。

 

「酷いな。僕だって講習を受けてたんだから、いるにきまってるだろ」

「いや、お前が講習を受けるのが意外だったからよ」

「僕だって受験対策くらいするさ」

「嘘つけ。どうせ聡と一緒で親に受けるように言われたんだろ」

「バレたか」

「お前が進んで必要以上の勉強するとは思えないからな」

「まぁね」

 

秀隆と気さくに話す誠は秀隆の中学生の時の友人で、秀隆曰く『勉強しないタイプの秀才』。その評価通り、誠はAクラスでは珍しくあまり勉強に真面目な方ではない。それでも成績は中堅を維持している。

 

「鳳だったか? お前が秀吉と組むのか?」

「うん。何か問題でも?」

「いや、こちらとしてもありがたいが……」

「ああ。小暮先輩ね。僕なら大丈夫だよ」

「鳳君も女子に興味ない感じなの?」

「まさか」

「コイツ一応1年に彼女いるからな。興味ないわけじゃないぞ」

「そうなんですか?」

「それなのに、あの先輩に耐えられるの?」

 

彼女の有無に関わらず、2年生のほとんどの男子生徒は小暮の艶姿にやられていた。てっきり、誠も久保と同様に女子に興味がないタイプだと皆は思っていたが違うようだ。

因みに明久は「裏切り者には死を!」と誠に飛びかかって秀隆から裏拳を食らっていた。

 

「コイツはただ彼女意外の女に興味がないだけだよ」

「なんだ。秀隆や雄二と同じタイプか」

「「どういう意味だコラ」」

「そのまんまの意味じゃろ」

 

このやり取りももうマンネリ化してきそうだ。

 

「それに僕ならチェックポイントの確認と削りもできると思うよ」

「ふむ……。それなら頼んでみるのもありか」

 

色香に耐性がありAクラスでもある誠は、たしかに秀吉の相方としては最適ではある。

 

「でも、大丈夫なの鳳君?」

「何が?」

「秀吉と一緒にいて、彼女さんは怒らないの?」

「へ?」

 

明久の台詞に誠がキョトンとする。

 

「いや、木下君は男だし。それにこれくらいじゃ怒らないよ」

 

笑って答える誠を、明久や雄二は信じられないモノを見るかのような目で見ていた。

 

「そんな……女子から理不尽な目に合わないだなんて……」

「鳳のやつ、かなり恵まれた環境にいやがる……」

「いや、お主らのケースが特殊すぎるだけじゃからな」

 

流石に世の男性全員が女性から理不尽を受けているわけではない。

 

「それにコイツの彼女はどっちかって言えば『正妻の余裕』を見せつけるタイプだからな」

「『後方彼女面』をリアルでする人がいるだなんて……」

 

誠の恋人はかなり強かな性格のようだ。

 

「まぁ、いい。頼めるか、鳳?」

「もちろん。最初からそのつもりで声をかけたからね」

「じゃぁ秀吉、誠。任せた」

「任されようぞ」

「頼んだよ秀吉。無事に戻ってきてくれたら……僕は君に伝えたいことがあるんだ」

「その台詞を聞くと、明らかにワシは無事では済まん気がするぞい……」

 

大きくため息を吐きながら、秀吉と誠は連れだってCクラスへと向かって行った。

 

『へぇ。思ったよりも雰囲気あるね。画面越しに見のると直接見るのとじゃ大違いだ』

『そうじゃの。存外に暗くて歩きにくいぞい』

『あ、そこセットがあるから気をつけて』

『ぬ。本当じゃ。危うく踏みつけるとこじゃった』

 

Cクラスの順路を、秀吉と誠が順調に進んで行く。一見仲睦まじいカップルのような錯覚を覚えるが、この2人は男である。

 

「順調みたいだね」

「ああ。あとは鳳が色仕掛けに掛からなければいいが」

「アイツなら大丈夫だよ」

「本当に大丈夫でしょうか?」

「そうよ。あのマクスウェルですらあの先輩に見惚れていたのに」

「ぶふっ!」

「トレイズ?」

「ち、違うんだリリア! そ、そう! 君があんな着物を着たらキレイだろうなって」

「……トレイズのエッチ」

「誤解だー!」

 

あたふたと言い訳を巡らすトレイズを横に、秀隆は余裕そうに構えていた。

 

「お前やけに鳳を信頼しているな」

「友だちだからかな?」

「それもあるが、アイツは色仕掛けに対する抵抗力が異様に高いんだ」

「というと?」

「前に夜のコンビニでアイツが逆ナンされているのを見かけたんだ」

「それは羨ましけしからんね」

「アキ?」

「明久君?」

「んで、助けてやろうと近づいたら、アイツ相手に向かってなんて言ったと思う?」

「この人が僕の彼し――」

「『あ、もう先約がいるんで』ってガンスルーしてった」

 

優子の発言を遮って秀隆がその時の事を説明した。

当然、その時誠にはそのような先約はなく、そのまま家に帰っそうだ。

 

「それは、強いな」

「うん。僕なら断れる自信ないもん」

「明久君はもう少し警戒心を持った方が良いと思います……」

「だから、誠ならあの先輩の色香に惑わされる心配はねぇよ」

「たしかに。秀吉と歩いているのに全然緊張してないみたいだし」

「それはまた別の話だと思いますよ……」

 

誠の耐性は秀隆が呆れる程に強いらしい。その証拠に――

 

『こんにちは』

『こんにちは小暮先輩。すみませんけど、そこを通してもらいますね』

『あら? 貴方は男の人ですよね』

『はい』

『小暮先輩とやら。ワシも一応男なのじゃが』

『……そうですか。どうやら貴女たちには私では力不足のようですね。どうぞお通りください』

『じゃから小暮先輩よ。『アナタ』のニュアンスが少し違うように聞こえたのじゃが?』

『それじゃ、お言葉に甘えて先に行こうか。木下さん』

『お主絶対ににわざとじゃろ!?』

 

失格ラインギリギリで秀吉が叫ぶ。

 

「しまった。誠の悪い癖が出た」

「悪い癖?」

「アイツ、からかい甲斐のヤツをみると弄る癖があるんだよ」

「なるほど。流石は秀隆の友だち」

「いい性格してるわね」

「今は自重してほしいんだが……」

 

色香には惑わされなかったが、別の方向での失格の危険性が出てきた。

 

「それにしても、ずいぶんとあっさり通過させてくれたね」

「そうだな。いくらなんでも無抵抗すぎる」

「この先にまだ何かあるのか、はたまたよほどチェックポイント勝負に自信があるのかだな」

 

皆の脳裏に大友や常夏コンビの顔がちらつく。

視線を画面に戻すと、小暮のいた場所を通過してからすぐの所で、常夏コンビの片割れ――ソフトモヒカン頭の常村が立っていた。

 

「なんだろう? 秀吉対策かな?」

「それにしては、さっきの坊主頭の先輩みたいな変な格好もしてませんね」

「やめてよ瑞希。またあんなおぞましい姿なんて見たくないわ」

「……同感」

「けど、特に悲鳴を上げる仕掛けも見られませんが?」

「何か秘策があるかもしれないな」

「でもただ立っているだけに見えるわよ?」

 

常村はただライトに照らされて通路の真ん中に立っているだけ。何か秘策があるかもしれないが、演劇部である程度のホラー耐性もあり、Fクラス故にグロテスクなものへの耐性もある秀吉がそう簡単に悲鳴を上げるとは思えない。

召喚獣が得も言われぬバケモノなのかもしれないが、昨日の騒動で常村の召喚獣は馬頭鬼だと分かっている。今更その程度では秀吉対策にはなりえない。

 

『来たか、木下。待っていたぞ』

『なんじゃ? ワシを待っていた? どういうことじゃ?』

『よくわかりませんが、そこを退いてもらえませんか先輩。僕たちは先を急いでいるので』

『黙れモブが。お前に用はねぇんだよ』

『……』

 

「相変わらず感じの悪いヤツだ」

「すごいや。さっきまで笑顔だった鳳君の顔が引きつってる」

「あの常夏コンビには人の神経を逆撫でする才能があるみたいだな」

「まるで秀隆と坂本君みたいね」

「「失礼な。コイツほどじゃねぇよ」」

「どっちもどっちだと思いますよ……」

 

『なんだか知らぬが、用があるのなら手短に頼むぞい』

『ああ。大丈夫だ。時間は取らせねぇ。……いいか、木下秀吉』

『なんじゃ』

 

画面に映る常村が真剣な眼差しで秀吉に向かって一歩近づく。

そして、はっきりと、聞き間違えようのない口調で、秀吉に告げる。

 

『俺は――お前のことが好きなんだ』

 

明久たちは生まれて初めて、秀吉の本気の悲鳴を聞いた。

 




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