秀吉が敗れた今、Cクラスに挑むのは……
第九十九問
「す、すまぬ。皆……。このワシが、あれほどまでにみっともない悲鳴を……」
「気に病むな秀吉。同性に――しかもあんなムサイ野郎に真剣な顔で本気の告白をされたら悲鳴を上げるのも無理はない」
「そうだよ秀吉。あんなのをされたら普通は精神に異常をきたしてもおかしくないんだから、悲鳴で済ませただけでも凄いよ」
秀吉も(不本意極まりないが)同性からの告白経験はある。しかもしょっちゅうある。しかし、あんな衆目(カメラ)の中でされたことはない。眼中にないどころか嫌悪感すら抱く相手にされたら、常人なら発狂していてもおかしくない。
「流石の私もアレはないと思うわ」
「お前がそう言うなんて珍しくな」
秀隆が呆れ半分、驚き半分で優子を見やる。
「そりゃ一応弟だもの」
「まぁそうか」
「秀吉のパートナーは秀吉が認めた相手じゃないと」
優子の言い方に引っかかるものを感じたが、藪蛇になりそうなので秀隆は追及はしなかった。
「告白も厳しかったのじゃが……『お前を想って書いたんだ』と言われて自作のポエムを朗読されたのが一番苦しかったのじゃ」
しかも痛々しいポエムまで添えられていた。明久も『お前は俺を照らす太陽だ』というフレーズか聞こえた瞬間に思考を破棄してしまったくらいだ。
それは他の皆も同じようで、気の毒そうに秀吉に慰めの言葉をかける。
「せめて鳳の力でCクラス突破を……それがならなくともせめて消耗させるぐらいはしておきたかったのじゃが」
「ごめん皆。僕の力不足で」
「いや、二人とも悪くないよ」
「そうだ。悪いのはあのモヒカン野郎だ」
「人の心を弄ぶなんて、赦せません!」
「肝試しじゃなかったら一発殴ってやりたいわ」
「今回ばかりは私も怒りました!」
「……お仕置きするなら協力する」
普段は温厚(?)な女性陣も、今回は怒りを隠そうともしない。常夏コンビの好感度は、底辺を越えて地中深く沈んだようだ。
「けど、実際Cクラスはどうするの? 秀隆と木下さんが出れないから秀吉たちに行ってもらったのに。あのモヒカン先輩で作戦が失敗しちゃったし」
「すまぬ」
「それは気にするな明久、秀吉。向こうは向こうでこっちのメンバーのことをある程度は知っているようだが、こちらには秘密兵器がいる。アイツらなら、色香に惑わされることはないだろうし、おそらくはチェックポイントもクリアできるはずだ」
「え? そんな人いたっけ?」
Fクラスの男子生徒は軒並み先程の突撃で失格になっているし、他のクラスでも一般的な男子生徒は小暮の前に陥落するだろう。
「女子だとしても、常夏コンビの精神攻撃に怯えきっているだろうし……」
「いや、常夏コンビはもう大丈夫だろう」
「坊主はあんだけやれば出てこない、てか本人が出たからないだろうし、モヒカンにいたっては秀吉ピンポイントメタだろうからな」
夏川はゴスロリを着せられた上に康太と愛子によって返り討ちにあっている。仮に周りがもう一度と言っても本人が断固拒否するだろう。
常村は(自発的に)秀吉が怯え上がるほどの告白をしている。秀吉は演劇に精通していて演技かどうか見抜くことのできる。そうでないのなら、あの告白は演技などではなく、心からの告白ということになるので。
「そっか……。あの告白は、秀吉だけを狙った本気の一撃だったのか」
本気、という単語に秀吉が一瞬ビクンと身体を震わせる。流石の秀吉も軽くトラウマになってしまったようだ。
「そういうこった。あんな危険なものはもう何処にもない」
「まだ何かしらの隠し玉があるかもしれないが、あれ以上の恐怖映像はないだろうな」
雄二と秀隆が言い聞かせるように明久に告げる。明久はなぜ自分に言われているのか分からず訝しがった。
「だから安心して行って明久、島田」
「って、あれ? 秘密兵器って僕と美波?」
「じょ、冗談じゃないわ! あんなモノを見た後で行けっていうの!?」
てっきり他の人が行くものだと思っていた明久は少し驚いた。美波も度重なる3年生の精神攻撃のせいで、自分の身体を掻き抱いて怯えている。これではチェックポイントにたどり着けるかも怪しい。
「雄二。それは流石に無理があるよ。美波はこんなんだし、それに万が一チェックポイントにたどり着いても、僕と美波の点数じゃ3年生のAクラスの人と戦うのは厳しいだろうし」
期末試験前のDクラス戦で明久と美波が清水を倒せたのも、相手がDクラスとはいえ自分たちと比較的点数が近く、操作性もおぼつかなかったからだ。成績も経験も上の相手に敵うとは思えない。
このことを雄二や秀隆が気づかないわけはないと明久は疑問を抱いた。
「いいから。お前は余計なことを考えずに島田と肝試しを楽しんでこい」
「楽しんでこいって、そんな悠長な」
「そ、そうよ! だいいち、こんな状況で肝試しなんて楽しめるわけないでしょ!」
「そうでもないぞ……島田、ちょっとこっちこい」
「な、なによ?」
美波は秀隆に手招きされて教室の隅に行く。
「いいか島田。これはチャンスだ」
「チャンス? どういうこと?」
「今はあのモヒカンのせいで2年はピンチだ。この局面を切り抜ける、もしくはそのきっかけを作れば、お前と明久の株は上がる」
「だから、それが何だっていうのよ?」
「分からないのか? 『吉井の相方は島田』と周りに堂々と喧伝できるってことだよ。そうすれば、外堀を埋められて今後が楽になるだろ?」
「べ、別にウチはそこまでしなくても……」
「このまま明久に『美波の好みは類人猿』と疑われたままでもか?」
「やるわ。ウチは絶対にやり遂げてみせる」
美波にも負けられない戦いがある。
「それに、相手はあの鈍感の極みの明久だ。合法的に密着できる肝試しは、距離を縮める絶好の機会だろ?」
「でも、あのアキよ?」
「そこは吊り橋効果だよ。この窮地を乗り越えることができれば、流石の明久にもお前に対して友情以上の感情を抱くさ」
「でも……」
明久と心の距離を縮められる可能性があるとは言え、美波は肝試しへの参加をまだ渋る。
「……嫌なら無理にとは言わねぇよ。そん時は姫路に頼むさ」
「だ、誰も嫌だなんて言ってないでしょ!」
「そうか。やってくれるか」
「う……」
嫌ではない。そう言ってしまった時点で、美波は秀隆の罠にハマったも同然。断るに断れない状況を作られてしまった。
秀隆は「よろしくな」と美波の肩を叩くと、皆を連れて皆の所に戻った。
「島田は快く引き受けてくれるそうだ」
「絶対嘘だ」
喜色満面の秀隆と意気消沈の美波。どう考えても美波が快諾したとは思えない。会話の内容は分からないが、秀隆が何らかの脅しをかけたのは明久でなくても見て取れる。
「失礼な。ちゃんとメリットを提供した上で説得しただけだ」
「それデメリット言ってないでしょ」
「言う必要ないからな」
「完全に詐欺師の手法じゃな」
「デメリットなんて
「それはそうですが……」
「ま、それなら島田は目を瞑って明久に掴まってたらいいさ」
「べ、別にウチは怖がってなんか」
「あー、分かってる分かってる。俺が言いたいのは、明久が怖がるだろうから、島田にはそれを支えてやって欲しいってことだ」
「明久にも男のプライドがミジンコくらいはあるだろうからな。目を瞑って掴まってやるくらいの気遣いも必要だろ?」
要するに、明久の自尊心を保つために、か弱い女子を演じろというわけだ。もちろん、これは美波に向けた建前ではあるが。
「そ、そうね。坂本たちがそこまで言うのなら、ウチも言う通りにしてあげてもいいわ。別に怖がってるわけでもないし、アキに掴まっていたいってわけでもないんだからね!」
秀隆の説得もあってから、美波はこれ幸いにと二つ返事でこの提案を受け入れた。美波の変わり身の早さに、明久たちも苦笑を隠せない。
「やれやれ……。島田も難儀な性格じゃのぅ……」
「何か言った木下!?」
「いいや。何でもないぞい」
美波に限らず、Fクラスには意地っぱり、いや意固地な生徒が多いようだ。
「まぁいいや。よく分からないけど、そこまで言うのなら行ってくるよ。よろしくね、美波」
「あ、あのっ、美波ちゃんっ! 気が進まないのら私が……」
「ううん! 全然そんなそとないわ! 楽しみで楽しみでしょうがないもの! それに、アキと一緒に行く約束もしてるし! なんならお化けなんて私が退治してやるわ!」
「いや、ルール違反で失格になるからそれは止めてくれ」
「ほら、行くわよアキ!」
「あがぁっ! み、美波っ! 腕を掴むっていうのは関節技を」
「ああ、待った明久」
美波に引き摺られて教室を出ようとした明久を雄二が呼び止める。
「な、なに雄二?」
明久が立ち止まると雄二は近づいて小さな声で指示を出す。
「お前らに一つだけ指示がある。ある程度まで進んで例の着物女の手前まで行ったら、周囲に誰もいないことを確認して物陰に隠れて、ここに戻ってこい。いいな?」
「え? どういこと? 戻ったら失格になっちゃうんじゃないの?」
雄二につられて明久も小声で確認する。
「大丈夫だ。ある程度の悲鳴を上げるか、召喚獣勝負で負けるかしない限りは、失格にはならない。これは事前にも3年に確認済みだ」
「そうなの? もしかして、こういう状況を見越して?」
「別にそういうわけじゃなかったんだがな。急な体調不良で相方が離脱した時、大丈夫な方はそのまま別の組で参加できるように、な」
「それ、雄二や秀隆の提案じゃないでしょ?」
「ああ。癪なことに、3年の大友の提案だ」
このルールは 3年生との事前協議で、肝試し中の途中離脱に関して3年生側から質問があり、大友の提案を雄二たちが修正したものだ。
「だから途中で戻ってもルール違反じゃない。指摘されたら島田が体調を崩したとでも言えばいい」
「それならいいけど、そんなことして何の意味が」
「よしっ。そんじゃ、行ってこい」
明久が雄二の指示の真意を問い質す前に、雄二は明久の背中をバンッと叩いて教室から追い出すように明久を送り出した。
「坂本、何の話だったの?」
「う〜ん。何だかよく分かんないんだよね」
「何よそれ? また何か企んでるんじゃないでしょうね」
「今回ばかりは僕も知らないんだってば」
「本当に?」
「本当だってば。それよりも、肝試し頑張ろうね、美波」
「うぅ……。は、早く終わらせましょ!」
「あだぁっ! だ、だから腕を掴むのは関節技を決めることじゃないんだって!」
明久は帰る時に右腕が無事なのかが心配で、雄二の指示の意味を考える暇はなかった。
『……行こうか。清水さん。僕らの戦いに』
『……そうですね』
そして背後から忍び寄る影にも、気づきはしなかった。
「雄二。ちゃんと指示は出せたのか?」
明久に指示を出して戻ってきた雄二に秀隆が確認を取る。
「ああ。問題はない。明久も意味は分からなくても、一応指示通りには動くだろ」
「それもそうだな」
明久は深く考えずに雄二や秀隆の指示を実行することが多々ある。それ故に、よく騙されて被害を被っていいるのだが。
「んむ? 何か秘策でもあるのかの?」
「秘策ってほどじゃない。ただ適切な人員を送り出しただけだ」
「適材適所、というわけですか?」
「吉井君たちがCクラス攻略に適材なのですね」
「ま、ある意味じゃそういうことだな」
「怪しいわね。いったい何を企んでるのよ?」
「企んでねぇよ」
「すぐに分かるから心配するな」
雄二も秀隆も「後は仕掛けを御覧じろ」と言いモニターに視線を戻す。秀吉たちもその意図を理解できないままに、同じように画面に視線を戻した。
『っとと』
『――っ!!』
「「きゃーーっ!!」」
バンッと言う音を立てて突然眼前に飛び出してきた一反木綿に明久は一旦足を止める。古いカーテンで作られた一反木綿の出来はそれなりによく、薄暗い雰囲気とマッチして中々の迫力がある。
モニターで見ていた瑞希とトレイズが変わらず悲鳴を上げるくらいには。
『うぼぁあ"あ"ー……』
『――っ!!』
「「きゃぁあああっ!」」
「ほぅ今のは上手い演出だな」
「うむ。前から本人が声を出して、実は後ろから召喚獣が迫ってくるとは中々に面白いの」
血塗れで腕が変な方向に曲がっている人形の演出に秀隆や秀吉が感心したように頷いている。他の待機組も瑞希たちと同じように悲鳴を上げているが、翔子から折檻を受けている雄二を見慣れているせいか、画面の向こうの明久を含め、Fクラス男子に怖がる様子はない。
「……さぁ愛子。観念なさい」
「待ってよ! 今は肝試し中だよ! ほら、吉井君たちを応援しないと」
「そっちは秀隆たちが何とかするわ。今はアナタのことよ愛子」
「……さっきの先輩とのやり取りを詳しく」
「モニターで見てたんだから分かるでしょ!」
「そうね。けど、アナタらしくないつっけんどんな物言いの心理を知りたいわ」
「……早く吐いた方が楽になる」
「だから何にもないってば!」
因みに教室の隅では戻ってきた愛子が優子と翔子からの尋問を受けていた。
『ちょっとグロいけど、これくらいなら平気だよね、美波?』
『――っ!!(ブンブンブン)』
明久に平気かと聞かれた美波がこれでもかというほど首を振る。つられて瑞希とトレイズも首を振っていた。
「島田のやつ。明久をアレよりもグロい状態にしているって自覚はないのか?」
「自分でヤるのと他人がヤッたのを見るのとじゃ違うんだろ」
「それも何か違うかと思うがの」
「…………Fクラスでは日常風景」
普通の高校生活でそんなグロテスクな映像が日常風景になるはずはないのだが。
そんなこんなで、明久と美波はパーテーションや暗幕で仕切られた迷路を出口を目指して進んで行く。明久は道筋をあまり覚えていなかったので、迷いそうで少し不安になっていた。
『それはそうと美波。そんなにくっつかれると歩きにくいんだけど……』
カメラは明久が持っていて、持っていない方の腕は美波ががっしりと掴まっている。これではもし進行方向にドアがあったら開けることはできない。明久はせめて肘から先を動かせるようにしてほしいと美波に頼んだが。
『――っ!!(ブンブンブン)』
この有り様で美波は明久の腕から離れようとしない。むしろ関節を外されそうでそっちの方が心配になってくる。
「美波ちゃん。あんなに明久君にくっついて……」
「羨ましがるなら最初に立候補すればよかっただろ」
「そ、それは……そうなんですけど……」
「今回ばかりは、島田のいじっぱりの勝利じゃな」
「うぅ……。私にもっと勇気があれば……」
「島田のは勇気じゃなくてヤケクソだけどな」
「…………ただの見栄」
とは言うものの、島田自身も今は恐怖が勝り、明久と肝試しを楽しむ余裕は皆無だ。むしろ参加したことを後悔しているかもしれない。
そんな美波を見かねてか、明久が何かを探すように周りをキョロキョロと見渡して始めた。
「明久のやつ。何やってんだ?」
「たぶん、島田の気を紛らわせられるものを探してるんじゃないか?」
「このままだとまともに腕が動かせんからの」
「…………先にも進めない」
『あ、美波。窓があるよ。外を見れば少しは――』
明久はセロファンが貼り付けられた窓を見つけた。セロファンのせいで採光量は落ちているが、一応外の風景は見れる。空と太陽でも見れば、美波の気も少しは晴れるとふんだのだが――
『きひひひひ……っ。うらめしやぁ……』
「――っ!! ――っ!!」
「「きゃぁあああーっ! きゃぁあああーっ!」」
誰かの召喚獣であろうやたらリアルなろくろ首の頭が窓の外を通過していった。
「なるほど。召喚獣のすり抜けをそう使うか。試召戦争に使えるかもな」
「いや、人の入り乱れる試召戦争で正確に壁の外から狙うのは不可能じゃろ」
「そもそも召喚フィールドが壁の外まで広がることの方が稀だろ」
「なんで君らはこんな状況で次の試召戦争の話なんかできるんだっ!?」
「もはや職業病ですね」
そもそも雄二たちは肝試しには最初から興味はないので、召喚獣の使い方に注目するのはある意味では当然なことだ。
「仕方ないわね。こうなったら直接土屋君に」
「わーっ! ダメ! それだけは絶対にダメ!」
「……なら早く白状する」
「それもヤダー!」
こっちはこっちで肝試しそっちのけである。
「でも、トレイズにも早く慣れてもらわないと」
青ざめた顔でモニターを見守るトレイズにリリアが優しく声をかける。
「慣れる? そりゃ、確かに俺もそろそろ召喚獣の操作には慣れたいけど」
「ううん。そっちじゃなくて」
「?」
疑問符を浮かべるトレイズに、リリアがにこやかに告げる。
「そろそろ私たちの番だから、お化けに慣れておいてもらわないと」
「………………え?」
トレイズの思考が数秒止まった。
「いやいやいやいやっ! 何を言っているのですかリリアさん? 俺たちの出番は当分先じゃ」
「でも、もう人数もずいぶんと少なくなってきたし、そろそろ準備した方がいいと思うの」
「…………」
トレイズがギギギと油の切れたブリキ人形のような動きで雄二と秀隆を見る。
「んー。そうだな。Cクラスでだいぶこっちの戦力も減っちまったからな」
「もしもの時の保険のために準備しておいてくれると助かるな」
「ね?」
無慈悲にそう告げる雄二と秀隆に笑顔のリリア。今この瞬間だけはトレイズにはこの3人が何よりも怖ろしく見えた。
「まぁ、行くのは明久たちの作戦が成功してからだな」
「そうだな。それを見届けてからでも遅くはないな」
「頼む吉井、島田! そのままCクラスをクリアしてくれ!」
「明久たちがクリアしても、お主らがAクラスに挑むのには変わりないと思うぞい」
トレイズは恐怖でまともな思考が出来ていなかった。
『うぅ……もうやだぁ……。来るんじゃなかったぁ……。ねぇ、アキ。帰ろ……?』
画面では恐怖の限界に達したのか、美波が明久に涙目で訴えていた。
「おお。島田のやつ。ずいぶんとあざといな」
「本人は必死だからそんな気は全くないんだろうがな」
「それにしても、普段と比べてかなりしおらしいの」
「…………普段とは真逆」
今の美波はかなり庇護欲を掻き立てられる姿になっている。明久も美波の普段とのギャップにドギマギしていると。
ーーシュカッ
『へ?』
突然後ろから、一本のシャープペンシルが明久の頬をかすめて壁に突き刺さった。
ツゥ……と明久の頬から赤い一筋の雫が垂れ落ちる。
『あ、あはは……。なんだろうこの仕掛け。ずいぶんと直接的だなぁ』
明久を捉え損ねたシャープペンシルは、壁を破壊して根元まで埋まっている。
「身体への直接攻撃はルール違反ではなかったかの?」
「これが3年の仕掛けたトラップならな」
「流石の常夏コンビもそこまでバカじゃねぇだろ」
「…………流石にルールは守る」
これまでの仕掛けも、人道に反するものはあれどルール違反はなかった。ならばこれは3年生の仕掛けた罠でないということになる。
「雄二」
「ああ。ようやくお出ましだな」
「うむ? お主らはアレが誰が仕掛けたか知っておるのか?」
「ああ。と言うか、この場で明久を直接狙うヤツなんて一人しかいねぇだろ」
秀隆が明久たちのカメラとは別のモニターを指さす。秀吉たちがそちらに注目するとーー
『……次は外しません。豚野郎……!』
そこには般若もかくやと言わんばかりの恐ろしい形相の清水が映っていた。
「きゃぁあああっ!」
「お、鬼だ! 本物の鬼だ!」
「たしかに。今の清水は誰よりも鬼じゃな」
「…………もはや人かどうかもあやしい」
嫉妬の炎を纏った清水の髪がワナワナと逆立っていく。モニター越しからも、明久への殺気がヒシヒシと伝わってくる。
『み、美波。もうちょっと頑張ろう。そうしたら、一緒に教室に戻るから』
『……あ、アキがそう言うのなら、もうちょっとだけ頑張る……』
「Fクラスをお化け屋敷に改造したら、島田も少しは大人しくなるかもな」
「そ、それは困ります!」
「ちょっと楽しそうですね」
「お、俺も勘弁して欲しいんだが……」
「…………トレイズは関係ないんじゃ?」
「お化け屋敷にしてしまったら、暗すぎて勉強にならんの」
「俺は堂々と寝れるからそっちの方がいいな」
「お前は普段から居眠りしてるだろうが」
などと秀隆たちが呑気にしていると、画面の向こうでは明久の邪な気配を察したのか、清水がシャープペンシルやカッターナイフを構えていた。
『落ち着くんだ清水さん。ここで仕掛けるのはまだ早い』
『そ、そうでした。もっと暗い所でお姉さまと豚野郎を引き離すんでした』
モニターから清水と別の男子生徒の声が聞こえる。
「この声は、久保かの?」
「…………ある意味納得の組み合わせ」
『幸いにも、パートナーの組み合わせを中で替えちゃいけないというルールはなかったからね。坂本君たちも、うまいルールを作ってくれたもんだよ』
康太の予想を裏付けるように久保が思惑を吐露する。
「たしかに、そんなルールはなかったの」
「迷路の具合によっては、途中でパートナーと別れるなんて可能性もあったからな」
「チェックポイント勝負もあくまで『2人でいること』が必須条件だからな。途中で悲鳴を上げて失格になってなければ、その時誰と組んでいようが関係ない」
「…………久保はそのルールを利用するつもり」
何らかのアクシデントでパートナーが入れ替わるかもしれない。久保はその状況を利用するつもりのようだ。
『……美波。ちょっと急ごうか』
『あ、待ってよアキ。ウチ今はそんなに早く歩けない』
背筋に悪寒を感じて明久が早足になる。
『清水さん。僕らも急ごう』
『ええ。早くお姉さまを豚野郎からお救いしなければ!』
併せて久保と清水も歩みを速める。
お化け屋敷で地獄の競歩鬼ごっこが始まった。
次回はオリジナル展開、もとい別視点からお送りしようと思います。
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない