明久と美波を待ち受けるものとは……
第百問
薄暗いCクラスの迷路を明久と美波は気持ち早足で進んでいた。
後ろから感じる殺気が気になるが、とにかく雄二に言われた通りに着物先輩、小暮の手前まで行き引き返す。そうすれば、この殺気からも逃れられ、美波の要望にも応えられる。
しばらくモニター越しで見た曖昧な記憶を頼りに迷路を進んで行く。時々仕掛けに驚いた美波がビクッとしがみついてきたが、ついさっきまで感じていた殺気は薄らいでいる。殺気の主も、この装飾や仕掛けに足を取られて距離が空いたのかもしれない。
『それにしても、美波がこんなにお化け屋敷が苦手だなんて思わなかったよ』
黙って歩いているだけでは美波が余計に怖がると思ったのか、明久が美波に適当な話題を振った。
「ほぅ。明久のくせに、中々に気が利いたことをするな」
「明久もデリカシーのない方だが、お前と違って気が利かないわけじゃないからな」
「それは雄二も同じじゃろうて」
「…………(こくん)」
ただその気の利かせ方が間違っていたり、間が悪かったりするだけなのだ。
『だ、だって、しょうがないじゃない。ドイツのお化けならまだしも、日本のお化けなんて全然知らないんだもの……。提灯からいきなり口や手足が出てきたり、普通の女の人が急に首だけ伸びるとか、そんなの知らないんだから……』
美波が必死になって弁明をする。
「ま、そりゃ知らなきゃ怖いわな」
「知っていても怖がってるヤツはいるけどな」
「ち、知識として知っていても怖いものは怖いんです! と言うか、知っているからこそ余計に怖いと言いますか……」
「逆に知らぬのに興味津々の人間もおるからの」
「知らないことってワクワクしますよね!」
「…………真逆の反応」
明久たちが提灯お化けやろくろ首に驚かないのは『そういうお化け』という事前知識があるからだ。どんな存在か知っているからこそ、恐怖への心構えができる。
対して美波はそれらがどんな存在なのか分かっていない。何が起きるか分からないから、心構えのしようがない。かつて妖怪が恐れられていたのも『正体が分からない』故だ。日本の妖怪を全くしらない美波が怯えるのも無理からぬことだ。
逆に瑞希のように『怖さを知っている』から怖がる人や、リリアのように『未知のもの』に関心を抱く人もいる。前者は歯医者を怖がる人、後者は探検家などに通じるものがある。
『でも、美波もそろそろ日本に慣れないとね』
『……いい。こんなものに慣れなきゃいけないなら、ウチはドイツで暮らすもの』
恐怖故か、美波はプイッとそっぽを向いてしまう。
美波は高校入学時に日本に引っ越してきたので、まだ1年ほどしか日本で過ごしていない。両親は2人とも日本人だが、ドイツで生まれ育った美波にとっての母国はドイツだ。
『けど、そんなのは寂しいよ美波。ドイツで暮らすだなんて』
『全っっっ然、寂しくなんてないわ。向こうにだって、ウチの友だちはいるもの。別に一人になるわけじゃないから、平気よ』
友だちも思い入れもドイツの方が断然多い。引っ越す際は、妹の葉月よりも渋ったくらいだ。
「美波ちゃん……」
「島田のやつ。すっかり拗ねちまったな」
「苦手なものに慣れねばならぬと言われたら、ああなってしまうのも仕方ないことじゃな」
すっかりへそを曲げてしまった美波は舌を出さんばかりの口調と勢いでまくし立てる。それを見て、明久が困ったように笑った。
『ああいや、そうじゃなくて』
『じゃあ何よ?』
『寂しいのは僕の方なんだけど』
『……え……?』
「明久君……?」
モニターの中で驚いたように明久を見つめる美波。それと同時に瑞希も驚いたように手で口を覆った。
『あ、いやっ。僕っていうか……。その、僕もだけど、姫路さんたちも寂しがると思うよ?』
「そこでヘタるなよ」
「お主が言えたことではなかろうに……」
自分の言った言葉の意味を遅れて理解したのか、明久が慌てて取り繕った。暗くて分かりにくいが、おそらく恥ずかしさで頬を染めていることだろう。
『アキが寂しいって、どうして?』
『え? どうしてって言われても、寂しいのは寂しいからで』
『だから、どうして寂しいって思うの?』
先程までの怯えた表情とは打って変わって、美波は真剣な表情で食い下がる。
「島田のやつ。ヤケに真剣だな」
「あの明久から言質を取ったようなもんじゃからの」
「島田からしたら、ここで押しとかないとって感じだな」
「…………チャンス到来」
「……」
秀隆たちが、アレコレいいながら明久たちを見守る中、瑞希は居た堪れないような表情で画面を見ていた。
「瑞希ちゃん……」
「……大丈夫ですリリアちゃん。私は、明久君が選んだことなら、どんな結末でも受け入れます……」
「でも……」
心配そうに顔を覗き込むリリアに、瑞希は大丈夫だとクビを振る。
「私は、明久君が幸せになってくれたらそれで」
「……」
泣き笑いの顔でそう言われると、リリアもそれ以上は言えなくなった。
「だったらもう少しお仕置きに手心が加えられないのかねぇ」
「お主のその一言で雰囲気が台無しじゃな」
モニターの向こうでは美波が真剣な表情で明久を見つめている。
明久は軽く深呼吸すると、ゆっくりと口を開いた。
『いつも一緒にいる仲間がいなくなるから、かな……?』
『……いつも、一緒……?』
『うん』
明久も聖人君子ではない。関わりのない人間がどこに引っ越そうが寂しくは思わないだろう。西村教諭や常夏コンビならむしろ小躍りして喜ぶだろう。玲なら尚更だ。
だが、Fクラスの仲間、それもいつもつるんでいる連中となれば話は別だ。程度の差こそあれ、いつもそこにあったものがなくなると、言いようのない喪失感と寂しさに襲われる。そしてそれは、雄二や秀隆以上に――
『それなら……アキはウチにずっと傍にいて欲しいって、そういうこと?』
『あ、うん。そうなる――かな?』
美波が畳み掛けるように明久に問う。明久はその勢いにけ脅され、少し違和感を覚えながらも頷いた。
「さぁて。盛り上がってきたな」
「お主は本当にいい性格しとるの」
「…………いつか馬に蹴られそう」
「バカ野郎。他人の青春ほど面白いもんはねぇだろうが」
「俺は全くそうは思わんがな」
心底楽しそうな秀隆とは対照的に、雄二は全く興味がなさそうにしている。元々恋愛に興味がないので、秀隆が何を面白がっているのか理解できないのだ。
「ま、お前には縁のないことだからな」
「……何だか含みのある物言いだな」
「お前女運なさそうだし」
「お前に言われたくねぇよ。それに俺は彼女が欲しいと思ったことはないしな」
「嫁がいるかなら」
「嫁もいねぇよ!」
秀隆に向かって雄二が吠える。
「だいたい、お前だって彼女欲しいと思ったことないだろう
が」
「ないね。そもそも、お前と違って俺に惚れる女なんているわけねぇっての」
「「「…………」」」
ヒラヒラと、ヘラヘラと宣う秀隆に、教室中の全員が微妙な顔をする。
「お前、前にも聞いたが、それ本気で言ってんのか?」
「あん? だから本気も何も事実だろ。誰がFクラスの不良になんか惚れるんだよ?」
「誰ってそりゃぁ……昔のお前を知ってるヤツとか?」
「昔って中学か? 余計にないだろ。ダチだって片手の指で余るくらいだぞ?」
「あー……。もういい。お前とこの議論するのは時間の無駄だったな。ただ」
「ただ?」
「後ろに注意しろよ」
「後ろ?」
秀隆が訝しがって後ろを向くと、
「…………」
笑顔の優子がいた。
「何だか優子か。愛子の尋問は終わったのか?」
「まだよ」
「そうか。後で俺も参加したいからそのままで」
「そうね。けど、その前に」
「ん? 優子、何で俺の腕を掴むんだ?」
「そりゃぁ――こうするため、よ!」
「あがぁっ!? や、やめろ! その関節はそっちには曲がらな」
「ふん!」
「ぎゃぁあああっ!!」
コブラツイストからの腕ひしぎ十字固め。秀隆はギブアップと畳をタップするが、当然優子は手を緩めない。
「ま、当然の報いだな」
「じゃな」
「…………残当」
「お前ら見てないで助けあだぁっ!?」
「本当に、アンタは、デリカシーが、ないわ、ね!」
「ぐぁあああっ!」
雄二たちは秀隆の悲鳴を無視して画面に視線を戻すと、また美波が明久に問いかけていた。
『じゃぁ……ウチが、ずっとアンタの隣にいてあげるって言ったら……アキは受け入れてくれるの……?』
『え? 僕の席だけじゃなくて、周りの席も全部暑いし、冬はきっと隙間風が寒いだろうから、止めておいた方がいいと』
『アキ。そうやってバカなこと言って誤魔化さないで』
『え? あ、はい。ごめんなさい』
明久が何で怒られているか分からないといった顔でわとりあえず美波に頭を下げた。
「結局。明久は明久、か」
「明久にはストレートに言わんと通じんからのぅ」
「…………ストレートに言っても怪しい」
『……ウチが聞きたいのは、そういうことさじゃない。ウチが聞きたいのは――』
美波がより一層真剣な表情で口を開こうとしたとこらで。
『お姉さまを誑かす気配……恨みます……呪います……殺します……!』
ペタペタと呪詛の言葉を振りまきながら、清水が明久たちに向かって猛スピードで迫ってきた。
『き――ムグぅっ』
気配を察した美波が咄嗟に悲鳴を上げそうになるのを、明久は美波口を手で覆って防いだ。このままでは失格になりかねない。
『美波。手荒なマネだけど、今はゴメン』
『――ぷはぁっ! な、何か恐ろしいものが来るわアキ……。逃げないと……!』
「マズいな。清水の嫉妬が臨界点を突破しそうだ」
「暗闇で見えぬから良いものの、もし直視しようものなら明久とて悲鳴を上げかねんぞ」
「…………命の危機」
異形と成りかけている清水に、雄二ですら戦慄を覚えた。
『いや、美波。こういうのは逃げているところを襲われるから怖いんだよ。大丈夫。別に危害を加えられるわけじゃないから、大人しくしとけば』
――シュカカカッ
言っている傍から壁にボールペンが三本突き刺さる。明久たちを狙っているのはその辺を飛んでいる害意のない蜂などではなく、明らかな敵意と殺意を持った存在なのだから、その理屈は通じない。
『逃げよう。走れるね美波?』
『ご、ごめん。今ので、腰が抜けて……』
美波は迫りくる気配に、とうとう腰を抜かしてへたり込んでしまった。
『……仕方ない。美波ゴメンっ』
『え? あ、ちょっと!』
明久は美波を抱えて一目散に走り出した。――お姫様抱っこで。
『あ、アキ! 下ろして!。ウチ、恥ずかし』
『ゴメン! もう少しだから我慢してて!』
『う、うん……』
迫りくる文房具が美波に当たらないようによけながら、明久は暗闇の迷路を走る。
『逃がしません……! お姉さまを奪い返すまで、地の果てまでも追いかけます……!』
『清水さん。君は今、ここにいるどのお化けよりも凶悪だよ』
「その清水について行ける久保も大概じゃの」
「久保君も運動神経が悪いわけじゃないからね」
「優子テメェ! いつまで関節技を極めるつも――あだだだだっ!」
「私の気が済むまでに決まってるでしょ」
「んだそれ!? 答えになってねぇよ!」
「明久たちが帰る頃には止めてくれよ」
「善処するわ」
「今すぐやめろーっ!!」
明久は迫りくる恐怖から逃れようと美波を抱えたまま必死で走る。美波も目を瞑って精一杯明久にしがみつくが、流石に追いつかれるのも時間の問題だ。
『こうなったら……やるしかない……っ』
明久は覚悟を決めたように美波の耳元で囁く。
『美波。いい? 僕が合図したら、小さな声で召喚獣を喚んで壁に変身させて』
『え? 何で?』
『いいから。できる?』
『うん……。やってみる……』
明久は簡単な迷路の分岐点に差し掛かると、わざと行き止まりの方に進んで、突き当たりの所で美波に小さく声をかけた。
『美波。今だよ』
『うぅ……。試獣召喚っ』
美波は明久の合図で召喚獣を喚び出すと、すぐさま石壁に変身させた。
『うん。見事なまでに真っ平らな壁だ』
『アキ、何か言った?』
『何でもございません』
明久は美波の殺気に怖気づきながらも、美波に召喚獣を少し動かすように指示を出す。
今回の召喚獣はいつもと違い明久たちの背丈くらいの大きさがあるので、暗さも合わさって上手くやればぬりかべの陰に隠れれることができる。
『お姉さま、オネェサマ……。逃がしませんカラネ……。ケタケタケタケタ』
『清水さん。君はもう邪悪すぎて周囲の空間まで歪んで見えるよ』
もはや人ではないナニカに成ってしまった清水と、その清水に追従する久保は、周囲を気にする余裕もなかったのか明久たちの隠れている通路をノンストップで駆け抜けて行った。
『美波。もう大丈夫だよ。現代の怪異は去ったみたいだ』
『ほ、本当……?』
念の為清水たちの気配が去ってから数秒置いて、ぬりかべにそのままの状態を維持させて明久も通路に出る。ぬりかべのお腹(?)あたりから顔をにゅっと突き出して、上下前後左右を確認しても、清水の姿は見当たらなかった。
『うん。上手く撒けたみたい』
『そう……なら……』
『うん』
『そろそろ、下ろしてくれる? もう一人で立てるから』
『あ、うん』
明久は美波の足が床に着くようにゆっくりと下ろす。しっかりと足を着けた美波はパンパンとスカートの埃を払いながら、
『アキってば……。こういう時はズルいんだから……』
『? 何か言った?』
『ううん。何でもない』
「明久のヤツ。前のDクラス戦あたりからたまに男らしくなりやがるな」
「そうじゃの。島田が絆されるのも無理はないわい」
「…………天然たらし」
「美波ちゃん……」
雄二たちが苦笑いでモニターを見ている後ろで、瑞希もまた食い入るように画面を注視している。
モニターの中では、美波が明久の言葉を確かめるように周囲を警戒している。
『ね? もう何もないでしょ?』
『そ、そうね。良かった……』
美波が一安心したようにほっと胸を撫で下ろす。明久たちが隠れていたのはただの袋小路ではなく、ゴミ捨て場という設定なのか、色々な使い古された道具が転がっていた。
『さてと、そろそろ戻ろうか。雄二の指示もあるし』
雄二の指示は『着物先輩の手前で隠れておけ』だったので、これで役目は果たせたはずだ。
明久は美波を促してぬりかべをすり抜けようと足を一歩前に踏み出す。
『待って、アキ』
その手首を美波が掴む。
「ここでくるか」
「島田も覚悟を決めたようじゃの」
「…………ドキドキ」
「美波ちゃん……明久君……」
『どうしたの美波? 何かあったの?』
『……続き』
カメラのマイクが捉えるのもやっとな、蚊の鳴くような小さな声で美波がポツリと零す。
『ん? なに? 聞こえないよ?』
『……続き。さっきの話の続き、ここではっきりさせたいの』
『さっきの話の続きって……?』
『アキが寂しいって思うのは、ウチがアキにとって友だちだから? それとも……』
『え? み、美波。何をそんなに興奮して……。ちょっと落ち着いてっ』
掴まれていない方の手で明久は美波を宥めようとするが、その手も美波に掴まれた。
『アキは勘違いしている』
『か、勘違い?』
美波のパワーで押し倒されそうになるのを、明久は何とか踏ん張って堪える。
『ウチはオランウータンもチンパンジーもナマケモノも好きじゃない。そんなのじゃなくて、ウチが好きなのは――』
『す、好きなのは……?』
「「「…………」」」
モニターの前の皆も、美波の次の言葉を固唾を飲んで待ち構えた。
『――お、お化……け……っ! はふぅ』
『美波っ』
くたっと力が抜けて膝から崩れ落ちる美波を、明久が咄嗟に腰に手を回して支えた。
「「「あー……」」」
寸前のところで気絶してしまった美波に、雄二たちが気の毒そうなため息を吐く。
「……」
「瑞希ちゃん?」
「え? あ、大丈夫、です」
リリアの声で我に返る。瑞希が美波が気絶した時、心配すると同時に安堵してしまった。友だちの安否を心からの心配できなかった己を恥じ、居た堪れななくなっていく。
「大丈夫よ、瑞希」
「優子ちゃん?」
そんな瑞希の肩に、優子がポンと手を置く。
「美波はアナタの友だちでライバルでしょ? そういう気持ちになるのも無理はないわ」
「そうで、しょうか……」
「そうよ。たぶん。逆の立場だったら、美波もアナタと同じ気持ちになるでしょうね。だから、おあいこだと思っとけばいいのよ」
「……優子ちゃんは、強い人ですね」
「別に強くはないわよ。それに」
瑞希の言葉に、優子は頭を振る。
「……コイツの相手してたらイヤでもそう思えるようになるわ」
ジト目で睨む優子の視線の先には、先程まで秀隆だったものが転がっていた。
『やれやれ……。こんなに怯えてるくせに、お化けが好きだって強がるなんて。美波のいじっぱりにも困ったもんだよ』
「吉井君も大概だしね」
「……そうですね……」
『さて、美波もこんなんだし、一旦戻ろうかなっと』
雄二の話だと、体調不良になったものを連れ帰るために途中で抜けるのはルール違反ではない。都合よく帰る名分もできたので、明久が美波の身体を背負うために後ろを向くと、
『ばあーっ!!』
そこには手足のついた古い道具たちが大勢でひしめいていた。ゴミ捨て場だと思っていた場所は、実は付喪神の集会所だったのだ。知らなかったとは言え、お化けの真っ只中に美波を連れ込んだことを、明久は少しだけ申し訳なく思った。
「たっだいまー!」
美波を落とさないように注意しながら明久がFクラスの戸を開けて教室に入る。明久が帰還すると、皆が笑顔で出迎えてくれた。
「おう、戻ったか明久。ご苦労さん」
珍しく雄二が明久を労う。
「よくやったな。作戦は大成功だ」
「え? なんで? 美波は気失っちゃってるし、僕らは何もできずに戻ってきただけなのに?」
「いや、お主らはそれでよかったのじゃ」
「…………(コクコク)」
これまた珍しく明久を手放しで褒める雄二。明久は何もしていないのにと首をかしげるが、秀吉も康太と問題ないと褒めるので、何かが起きたのだろうと何となく察した。
「…………」
「あ、姫路さんもただいま」
「…………」
瑞希の視線に気がついた明久は瑞希に微笑むが、瑞希はじっと明久を真剣な眼差しで見つめていた。
「? 姫路さん?」
「え? あ、ごめんなさい明久君! な、何でもないんですっ」
「そ、そう? それより悪いんだけど、美波を下ろすのを手伝ってくれないかな?」
「あ、はい。分かりました」
「吉井君。こっちですっ」
リリアの声の方を向くと、リリアが座布団で簡易的な寝床を作ってくれていた。
「ありがとう」
「いえいえ」
美波を寝かすためにリリアの方に向かう。瑞希はその背中に向けて「私も……勇気を出さないと……」と小さく呟いた。
「ごめん姫路さん。美波の身体を支えておいてもらえる?」
「はい」
「私も手伝いますね」
明久が中腰になり、瑞希が美波の身体を支える。リリアも手伝い、美波の腕を明久の肩から外そうとしたが、
「あれ?」
外れない。それどころか、明久の肩に美波の指が食い込んでいるような気がする。
「美波ちゃん?」
「…………」
「美波ちゃーん?」
「……う〜ん……」
「えい」
「ひゃぁっ!」
瑞希がジト目で美波の脇腹をつつくと、美波は悲鳴を上げた。
「やっぱり起きてたんですね!」
「え? 美波起きてたの?」
「い、今起きたのよ!」
「美波。起きたのならできれば下りて欲しいんだけど」
「ごめんねアキ。また腰が抜けちゃったみたいだから、もう少しこのままで……」
「ダメです! リリアちゃんがお布団を用意してくれましたから、安静にしていればすぐに良くなります!」
「……瑞希の意地悪……」
「拗ねてもダメです! ほら下りてください!」
「やーっ!」
「み、美波っ。指が、指が肩に食い込んでるから!」
瑞希が少し強引に明久から美波を引き剥がす。
「おい明久。お前の行動の結果が出るぞ。見てみろ」
「ん? なになに?」
やっとの思いで美波を下ろした明久が雄二の呼ばれてモニターを覗き込む。
そこには明久たちを追い越して行った久保と清水(だった妖怪)がチェックポイント勝負に挑むため、3年生の女子生徒2人組と対峙していた。
『ヒぃー……フぅー……! オネエサマ……オネエサマ ヲ イケニエ ニ ササゲナサイ……!』
『……ね、ねぇ。コレって、君の召喚獣なの? 凄く禍々しいオーラを出してるんだけど……』
『いいえ。これでも一応人間なのですが』
3年生の言う通り、清水は暗黒面に堕ちて久保の召喚獣と言っても差し支えなし程にバケモノと化していた。
「もし清水さん(?)が敵だったら、僕らは全滅していたかもしれないね」
「幼子が見たら1週間は悪夢にうなされるじゃろうな」
『それにしても意外ね。葵のところを突破する男子生徒が2人もいるなんて』
『葵……? ああ、あの着物姿の先輩ですか』
『うん。葵の魅力に絆されないなんて……前の子もそうだけど、君たちってもしかしてブス専?』
そう聞くということは、3年生女子から見ても小暮は魅力的な女性だということだ。伊達に茶道部や新体操部に所属していないということか。
『前の子とは鳳君のことですかね? いえ、彼がそうだという話は聞いたことがありません。それに、僕にだってあの先輩が魅力的な人だということは分かりますよ』
『本当に?』
久保は自分が魅了されなかったのは、美的センスの問題ではないという。
『ええ。僕だって、前に好きだった人は女性ですから』
明久は背筋に悪寒が走るのを感じるとともに、久保の現在が気になった。
『……コロ……す……ウバ……う……おネェさ……マ……』
『それでは先輩方。清水さんがヒトの言語を失う前に始めましょうか。試獣召喚』
『その子、もう既に人として大切なものをいくつも失っている気がするけどね……。試獣召喚』
『は、早く終わらせないと呪われそうね……試獣召喚』
『……試獣召喚……』
Aクラス 寿 湊 & Aクラス 中曽根みさお
現代国語 289点 & 現代国語 277点
受験に向けて問題が難しかったのか、あるいは学年トップクラスは不在だったのか、点数は300点未満と前のクラスと比べて低い。召喚獣も雪女とハーピーといった一般的なもの。
Aクラス 久保利光 & Dクラス 清水美春だったもの
現代国語 388点 & 現代国語 135点
対する2年生側は、襤褸を纏い、道に迷い、人を迷わす怪異が2体。見た目こそそれなりに妖怪なのだが、今は清水の方が妖怪然としている。
「久保君たち、勝てるかな?」
「まぁ何とかなるだろ」
久保は2年Aクラスの中でも三本の指に入るほどの猛者だ。特殊能力の与えられる400点には及ばなかったものの、点数だけでみたらこの4人の中で一番高い。苦戦をしいられるかもしれないが、勝てない勝負ではないはずだ。
「そう言えば、相手の雪女は吹雪を出したり、ハーピーは音波攻撃をしてきたりするのかな?」
「遠距離攻撃があるとなると、少し厄介じゃなの」
今まで相手にしてきた召喚獣は見た目からも殴り合いがメインなお化けたちだった。康太の吸血鬼も狼に変身していたので、雪女たちもモチーフの妖怪にちなんだ能力を持っていそうだ。
「いや。たぶん無理だろ。そういった特殊な効果は前の召喚獣でも一部にしか見られなかったからな」
「一部っていうと」
「400点オーバーの怪物どもだけだろう」
「400点オーバーか……」
試験で400点以上を取った科目では、召喚獣に特殊能力を与える腕輪が付与される。Fクラスでは康太の保健体育、秀隆の化学、瑞希の数学などがこれに該当する。
姿が妖怪に変わったとは言え召喚獣は召喚獣。妖怪由来だろうと特殊な能力付与は通常の召喚獣に準ずるだろうと雄二は予想した。康太の吸血鬼が狼に変身できたのもこれが理由だと。同じく400点越えの愛子の方は特殊能力であるかは不明だが。
「じゃぁ、この勝負って」
「素手での殴り合いだな」
明久も今回ばかりはシステムの見直しを切に願った。学年トップクラスの成績を誇る生徒たちの召喚獣勝負、しかも妖怪という見た目にも派手な戦いが、ただの殴り合いなのは気が抜ける。小暮のセクシーシーンや異形化した清水含めCクラスは宣伝映像には使えなさそうだ。
『湊! 私はこっちの男の子を引き受けるから、あなたはそっちの女の子(?)をお願い!』
『ダメよみさお! そっちの男の子の方が点数が高いのよ! それならあなたより少しでも点数のある私の方が!』
『い、嫌よ! だってその子目がイってるんだもの!』
『私だって嫌よ!』
3年生2人は清水の相手を相方に押しつけ合っていた。
「まぁ、合計点数では負けてるけど、なんとか勝てそうだね……」
「そうだな」
「ワシは久保が3匹の妖怪を操る死霊使いに見えるぞい……」
「……生の怪奇現象」
「あ、明久君……。やっぱり、この学校には何かあるんですよ……。そもそも、いくら召喚システムにオカルト方面の要素があるとはいえ、召喚獣がお化けになるなんておかしいですよ……!」
「そ、そうよ! きっとこの学園は呪われてるんだわ! だから美春も取り憑かれてあんな化け物みたいな姿に……!」
「学校の七不思議とかありそうですね〜」
「リリアさん? まさか夜の学園を探検しようなんて思ってらっしゃらないですよね……?」
「オネエサマ オネエサマ……。ミハル ハ オネエサマ ヲ コンナニモ Iシテイルノニ、ドウシテ フリムイテ クレナイノ……?」
画面の中で誰よりも悪霊と化した清水は、明日からクラスメイトにどんな目で見られるのだろうか。
「それはそうと、雄二」
「なんだ?」
「あそこに転がってるのはいったい……」
明久が後ろで転がってる秀隆だったものを指さして尋ねる。
「自業自得だ」
「身から出た錆じゃの」
「……因果応報」
「よく分からないけど、何があったかは分かったよ」
その横で優子がツンとそっぽを向いて仁王立ちしていた。
ご感想などお待ちしております。
また今回でメインストーリー100話達成できました!
読んでくださった方々ありがとうございます!
これからも頑張っていきます!
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない