バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から肝試し編のAクラス攻略です。

無事に(?)Cクラスを突破した2年生に待ち受ける者とは……


第百一問

第百一問

 

久保と清水(だった何か)が怯える3年生を僅差で撃破しCクラスを突破。残るはAクラスのみとなり、2年生もにわかに活気ついてきた。

 

「それじゃぁ、行こっか。トレイズ」

「へ?」

 

久保たちのCクラス突破を見て安心したのも束の間、リリアがトレイズに天使の笑みを見せながら悪魔の宣告をした。

 

「べ、べつにもう少し後でもいいんじゃないかな? ほら、久保たちがAクラスを突破するかもしれないし」

「いや、Aクラスは常夏コンビと大友が待ち構えている。久保がどちらに当たってもいいように、そろそろお前たちにはも出てもらういたいんだが」

「だ、大丈夫だろ。久保と清水はまだ点数が残ってるし、仮に負けたとしても坂本や秀隆がなんとかしてくれるだろ?」

 

トレイズが往生際悪く出陣を引き延ばそうとする。だが、それを見越してかリリアはトレイズの腕を掴む。

 

「トレイズ」

「リリア?」

「私、もう我慢できないの……」

「!?」

 

瞳を潤ませて上目遣いでトレイズに訴える。言葉のチョイスも相まってかなり際どい発言だ。

 

「り、リリア!? いったいどこでそんな言葉を」

「愛子ちゃんに『これならトレイズもイチコロだよ』って」

「工藤おーーーっ!」

 

トレイズは嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら愛子の名前を叫ぶが、愛子は先程までの優子たちからの尋問でグロッキーになっていた。

 

「さ、行こ。トレイズ」

「ちょ、ちょっと待ってくれリリア。まだ心の準備が」

「大丈夫。私がついているから」

「うぅ……。分かった……」

 

女子にそこまで言われては引くわけにもいかず、トレイズは肩を落としながらAクラス突入のため教室を出ていった。

 

「意外だよね。トレイズがお化けが苦手だなんて」

「たぶん島田と似たような理由だろ。如月ハイランドでも『日本のお化け屋敷は陰湿だ』って言ってたしな」

 

元々なのか知らないものへの恐怖ゆえか、トレイズも肝試し参加には消極的だった。それでも参加したのは、リリアが参加するからだ。彼女の前で情けない姿は見せたくないといあプライドだ。もう手遅れかもしれないが。

 

「そういえば、結局Aクラスのチェックポイントはどうなったのかの?」

「…………中ボス大ボス方式か、同時討伐方式か」

「分からん。今朝確認したがはぐらかされた」

「ま、それも見てれば分かるだろ」

 

Cクラスをクリアして心に余裕ができたのか、雄二が楽観的に答えた。

 

「そうだね。大友先輩はともかく、常夏コンビには一度勝ってるもんね」

「常夏コンビは雄二と霧島が相手し、大友先輩に秀隆と姉上が勝てばワシらの勝ちじゃな」

 

常夏コンビは清涼祭の召喚大会で秀隆と秀吉に敗北し、昨日みた世界史の点も雄二や翔子で対応できるレベル。問題は大友をどう攻略するか。雄二だけでなく残りのメンバーもやや楽観的に構えていた。

 

「…………Aクラスの仕掛けも単純」

「みたいだな」

 

広すぎるAクラスに大掛かりな仕掛けは間に合わなかったのか、手の込んだ装飾はあまりされていないようだ。仕掛けも広さを活かした迷路と、突然お化けとなった召喚獣が驚かしにくるというシンプルなもの。迷路自体もパーテーションや暗幕の壁を随時入れ替えて迷路の道筋を帰る程度。しかし逆を言えば、待機しているメンバーにルートを絞らせないという側面もある。事実、想定外の道に戸惑っている内に後ろや横から奇襲を受けて失格するペアが続出ししている。

 

『ぅおわっ!?』

『きゃぁああーっ!』

 

「…………③と⑤、失格」

 

シンプルや演出や装飾は返って肝試し本来の不気味さを醸し出している。

先程までの異様な光景に怯えていた2年生たちも、今は気を取り直してアトラクションを楽しんでいた。

 

「それにしても、トレイズも頑張ってるな」

「そうじゃの。苦手なお化けに果敢に挑んでおるわい」

 

④と書かれたモニターでは、トレイズが悲鳴を上げそうになる口を必死で押さえて堪えていた。

 

「マクスウェル。アンタの気持ちはウチにはよく分かるわ」

「私もです」

「逆にリリアは活き活きとしてるわね」

「……とても楽しそう」

 

対照的に、リリアは満面の笑みで迷路を進んでいた。トレイズが悲鳴を上げそうになるたびに口角が上がっているのが少々気になるが。

 

『いないな……。あの2人はどこにいるのだろう……。急がないと、こうしている間にも2人の絆が……く……っ!』

『ドコ……? オネエサマ ドコ……?』

 

一方、迷路の分岐点で誰かを探すように辺りを見回す久保と清水。その姿は魔獣を連れた魔物使いのようで、獲物を探しているようにも見える。

 

「久保のやつ。相当焦ってんな」

「やれやれ。清水はともかく、久保まで正常な判断ができなくなっているとは……。チェックポイントを通過したんだから、自分たちの前には誰もいないと気付いてもいいだろうに」

「よほど姿を見失ったことに焦っておるようじゃな」

「…………恋は盲目」

「え? 清水さんは美波を探しているのは分かるけど、どうして久保君は焦ってるの?」

「「「………………」」」

明久の言葉に、秀隆たちは目を逸らして押し黙った。

 

「え? なんで皆黙るの?」

「……そうだな。まぁ、久保は目論見が外れて焦ってるんだよ」

「目論見? 目論見って?」

「……俺からは言えねぇよ」

「?」

 

流石の秀隆も、本人を目の前に話すことは憚れた。

 

「う〜ん。目論見、ねぇ。実は久保君は清水さんが好きだけど、清水さんが美波を必死(?)で探してるから焦っているとか?」

 

康太が恋は盲目といっていたからか、明久はそう予測を立てたが。

 

「あ〜……。まぁ、好きな人絡みで冷静じゃないってことろは合ってるんだがな」

「相変わらずお主は鈍いと言うか何と言うか……」

 

雄二たちは微妙な反応をする。

 

「む。失礼な。僕は秀隆みたいな朴念仁じゃないよ」

「お前のそれも聞き飽きたな」

 

ムッとする明久に雄二が欠伸を噛み殺しながら言う。もちろん、明久は後ろで睨んでいる瑞希と美波に気づいてはいない。

 

「ま、いいや。今度機会があったら本人に聞いてみるよ。もしかしたら協力できるかもしれないし」

「明久……。お主は、なんと残酷な……」

「やめとけ明久。久保が泣くぞ」

「…………非道がすぎる」

「???」

 

明久は3人の言っている意味が分からずキョトンとしている。

 

「吉井君。これは久保君の気持ちの問題なの。本人から打ち明けられてない以上、私たちは見守るしかないのよ」

「あ、うん。そうだね」

 

優子は明久に諭すように語るが、秀隆と秀吉は胡散臭そうに優子を見ていた。

 

『どこに……彼らはどこに……ん? 明かりが……?』

『オ、オネエサマ……ドコ……?』

 

「んむ? どうやら久保と清水がチェックポイントに到着したようじゃな」

「あ、本当だ」

 

迷路を抜けて久保と清水が広い場所に出る姿が映し出される。勝負のための明かりか用意されているので、ここがチェックポイントの一つで間違いないようだ。

 

『おう。来たみてぇだな。ずいぶんと待たされたぜ』

『お前らが俺らの相手1組目だな。3年の実力をじっくりと見せてやるから覚悟しやがれ』

 

どうやら久保たちの相手は常夏コンビのようだ。画面の端には物理担当の木村教諭の姿も見えるので、常夏コンビは物理で攻めてくるようだ。

 

「木村先生ってことは、常夏コンビは理系か」

「みたいだな」

 

『失礼。先輩方、ここに吉井君と島田さんは来ていませんでしたか?』

 

と、ここで久保が核心に触れる質問をする。

 

『あア? ここに来たのはお前らが最初だぜ』

『つうか、さっき1組目って言っただろ』

 

訝しがりながらも、常夏コンビは久保のよく分からない質問に律儀に答えた。

 

『そ、そんなはずは……。彼らは僕らよりも先に行ってたはずでは』

『吉井たちなら、途中で引き返し行くのが映ってい気がするな』

『そもそも、お前らがCクラスのチェックポイントをクリアしたんだから、失格にしろ引き返したにしろ、吉井たちは肝試しから抜けて出してたに決まってんだろ』

『そ、そんな……! じゃぁ僕たちは今までずっと無駄な時間を……』

『? よく分かんねぇけどよ、あいつらに会いたいのならさっさと俺たちに負けて教室に帰るんだな。――試獣召喚(サモン)

『そう言うことだ。さっさと始めようぜ――試獣召喚(サモン)

『そうですか……。試獣召喚(サモン)……』

『……試獣召喚(サモン)……』

 

微妙にやる気を失っている久保と既に人の面影を失っている清水が常夏コンビと対峙して召喚獣を喚び出す。

 

「ここを突破できれば俺たちの勝ちなんだが」

「久保君たちは勝てるかな?」

「どうだろうな。久保も清水も、たしかガチガチの文系だったはずだ。物理での勝負となると、正直分が悪い」

 

今後の試召戦争のために敵戦力の情報収集をしていたのか、雄二がそんなことを言った。

理科系科目を選択する場合、理系は物理と化学、文系は生物と地学を選択する場合が多い。一応2年生は一通りの科目を履修しているので、2人とも全くできないというわけではない。それでも、常夏コンビに対抗するのは厳しそうだが。

 

「3年は受験に照準を合わせて勉強しているからな。選択科目の物理で勝負をしかけてきたってことは、よほどの自身があるんだろうな」

「そうなると……久保君たちは苦しいね」

 

物理と生物は理系の中でも得手不得手が分かりやすい科目だ。理系だからと物理を選んだが、成績が中々上がらないというケースは少なくない。それでも物理を選んだということは、常夏コンビの自信の表れと言ってもいいだろう。

因みにだが、3年生は2年生と違い、一部の科目(物理・化学・生物・地学や地理・世界史・日本史)が選択制になっているので、試召戦争のルールが若干異なる。これはセンター試験に合わせたルール設定で、【化学↔地学】、【物理↔生物】といったように一部の選択科目が対応した科目の点数に置き換わるようになっている。明久たち2年生の総合科目も概ねこのルールに則っている。

 

「つまり、常夏コンビは得意科目を選んできたというわけじゃな」

「だな。ま、俺たちも保健体育を選択したわけだから、そこはおあいこだな」

 

学園長の方針で保健体育は全学年通じて必須科目となっていものの、受験では必須科目でない以上3年生で真面目に取り組む生徒は少ない。そうなると、エキスパートがいる2年生が有利になることは必然であった。

一方、受験で必須科目となる物理や地学などの選択科目は3年生が有利だ。広く浅く満遍なく履修する2年生に対し、3年生はセンター試験や一般入試に向けて集中的に勉強している。康太や愛子のような特化ではないにしろ、2年生よりも高水準であるとこは間違いないだろう。

 

   Aクラス 久保利光 & Dクラス 元・清水美春

      物理   213点  &  物理 71点

 

2年生側の点数が先に表示される。

流石は久保。2年生次席の称号は伊達ではなく、文系で物理が得意科目でないとはいえきっちりAクラス内の平気点を叩き出している。一方で清水は物理が苦手なのか、Fクラスでも見慣れた点数に留まっていた。

「久保は残念ながら300点にも届かず、か」

「まぁ文系でこれだけ点数が取れてたら十分だろ」

「今回は科目選択の運がなかったわね」

 

普通の試召戦争でも200点を超えていたら主戦力級だ。苦手科目でこれ以上は高望みというものだろう。

 

「これで向こうが300点とかの点数を出してきたら危ないね」

「それは恐らく大丈夫じゃろう。あの常夏コンビじゃからな」

「そうだね。雄二がたち向こうを挑発してくれて助かったよ」

「…………先見の明がある」

「流石に3年のトップクラス相手はきついからな」

 

これまで見てきた常夏コンビの点数はどれも200点代かそこら。常夏コンビの素行の悪さからしても、得意科目とはいえ300点には届かないだろう。明久たちはそう予想してい。

 

「…………」

「どうしたの秀隆?」

「どうにも引っかかる」

「引っかかる? 何が?」

「常夏コンビはどっちかっていば俺や雄二より根本みたいなタイプだ。いくら底意地が悪いとは言え、安い挑発や100%勝ち目のあるわけじゃない勝負に乗るか?」

「でも根本君みたいなタイプだったら、目先の利益にまっさきに飛びつくんじゃない?」

「それは、そうなんだが」

 

秀隆はさっきから常夏コンビが自信満々の表情を崩していないことが気にかかった。清水はともかく、Cクラスでの久保の点数は見ているはずだがら、多少の警戒はしていてもいいはずだ。だというのに、常夏コンビは余裕の笑みを浮かべたまま。そこが魚の小骨のように引っかかっていた。

 

「そう心配せずとも、仮に久保と清水が負けても雄二と霧島が倒せば問題ない話じゃ」

「……私と雄二は負けない」

「…………」

 

翔子も珍しく鼻息を荒くする。

だが秀隆の疑念は晴れない。まるで何かを見落としているかのよう。開け忘れて放置された宝箱が気にかかるような気持ち悪さがぬぐえない。

そうこうしている内に、少し遅れて常夏コンビの点数が表示される。

 

    Aクラス 常村優作 & Aクラス 夏川俊平

       物理   412点  &  物理   408点

 

「「「なにぃ!?」」」

 

召喚獣の頭上に表れた点数に明久たちの驚愕の声がハモる。

 

「ちょちょちょちょっと、あの点数はどういこと!? 常夏コンビってあんなに成績が良かったの!?」

「あれではまるでAクラスの優等生じゃな」

「お二人ともAクラスであることは存じてましたが……」

「アイツら、あんなに点数が高いなんて……」

「…………信じられない」

 

明久たちもにわかには信じがたい現実に開いた口が塞がらないでいた。

 

「しくじった……! どうりで簡単に挑発に乗ってきたワケだ。 アイツら、俺の意図を見透かしてやがったな……!」

「少し考えりゃ分かることだった……! 俺たちは常夏コンビどころか3年生の情報すらほとんど知らねぇんだ。アドバンテージは、ハナから向こうにあったわけだ……!」

 

向こうには雄二や秀隆だけでなく、翔子や瑞希の情報くらいは調査済みのはず。それでも慌てる素振りすら見せなかったのは、秀隆の言う『100%勝てる見込み』があったからだ。敵を舐めていたのは、2年生だった。

 

『んじゃ、精々頑張ってくれよ後輩ども』

『散々待たされたんだ。少しは粘ってくれよ?』

 

常夏コンビの召喚獣は変わらず牛頭鬼と馬頭鬼だが、点数の影響か昨日とは違い鎧を纏い武器も強化されている。

 

「見るからに強そうですね」

「大丈夫だよ姫路さん。きっと久保君なら少しでも削って――」

 

『僕たちの負けですね』

 

「――って早ぁっ!」

「あっさり負けたわね」

 

画面の中では清水の迷い神を槍が貫き、久保の迷い神は大槌にぺしゃんこにされていた。

 

「先程の会話のせいで2人とも心此処にあらずといった状態じゃな。アレでは一撃でやられるのも道理じゃろうて」

「ま、そんなもんだよな。元々アイツらの目的は肝試しとは別のところにあったわけだし」

「そうだな。それよりも、今はリリアたちだ」

「…………ちょうどチェックポイントに到着した」

 

リリアたちのモニターに視線を移すと、リリアたちも明かりのついた開けた場所に出ていた。彼女たちが対峙するのは常夏コンビではなく――

 

「リリアたちの相手は大友か」

「ということは、同時討伐形式のようね」

 

リリアたちが時間稼ぎのために迷路をぐるぐるしている様子もなかったので、大友たちの場所に誘導されたと見るのがよさそうだ。

 

『なんだ。神崎ではないのか』

『いや、カメラ見てたんだから違うのはわかるだろ』

 

あからさまにがっかりする大友に、相方の3年生男子がため息を吐きながらツッコミを入れる。

 

『まぁいい。神崎が来るまでの肩慣らしと思うことにしよう』

『……なんかゴメンな。』

『いえ、大丈夫ですよ』

 

男子生徒がリリアたちに申し訳なさそうに頭を下げる。

リリアも気にしないでと手を振るが、トレイズはそうもいかないようだ。

 

『……肩慣らしで終わるかどうか、試してみるか?』

 

流石に見下されてカチンときたのか、トレイズが珍しく好戦的になっている。

 

「トレイズのやつ。やけにヤル気出してきたな」

「リリアの前でバカにされたのが頭にきたのじゃろうな」

 

『ふん。その威勢やよし。では試させてもらおう。――試獣召喚(サモン)っ!』

『俺だってやれるんだ! ――試獣召喚(サモン)!』

『トレイズ。私も頑張るから――試獣召喚(サモン)!』

『はぁ。ま、お互い頑張ろうや――試獣召喚(サモン)

 

喚び声に応えてお馴染みの幾何学模様の魔法陣から4人の召喚獣が現れる。

 

「「「でけぇっ!」」」

 

大友の召喚獣が現れた瞬間、教室中からそんな悲鳴が上がる。

大友の召喚獣はかなり大柄な鬼。大友自身が大柄ではあるが、それよりもふた周り程大きく筋骨隆々の体躯。赤銅の肌に禍々しく額から伸びた2本の角。身の丈程の大剣を軽々と片腕で担ぐ膂力。更には腰にも太刀を佩いる。片手に携えた陶器製の酒瓶すら、異様な気配を発しているように思える。

 

「大友先輩の召喚獣はまさに鬼って感じだね」

「シンプル故に、迫力が画面越しからも伝わってくるぞい」

「…………まさに化け物」

 

元々本人が強なのもあるが、牙を生やした口を開けて笑う様はまさに妖怪に相応しい。隣の鴉天狗がかわいく感じるほどだ。

 

「……ただの鬼じゃない」

 

鬼をつぶさに観察していた翔子が鋭い声を上げる。

 

「ただの鬼じゃない?」

「……あれは、酒呑童子」

「酒呑童子……京都の大江山の鬼か」

 

酒呑童子は大江山に住む鬼の頭目で茨城童子ら多くの鬼を従えていた。京都の若い娘を誘拐していたことで帝の怒りを買い、源頼光らによって討伐された。

 

「酒呑童子は怪力乱神。大友にはぴったりな妖怪だな」

 

秀隆のいつもの皮肉めいた笑みも、今は強がりにしか見えない。

対する2年生、リリアの召喚獣は座敷童。トレイズの召喚獣は明久と同じ様な鎧に剣と盾を持った騎士姿のトレイズだが、その身体は色白く半透明になっていた。

 

「トレイズの召喚獣ってなんだろ?」

「半透明だから幽霊(ゴースト)かしら?」

幽霊(ゴースト)というより……レイスか?」

「レイスって死霊や悪霊ですよね?」

「たしかにレイスは生者に呪いをもたらす存在でもあるが、親しい人を悪いものから護るって説話もある」

「じゃぁマクスウェルの召喚獣って」

「…………リリアの守護霊」

「つまり『リリアを守る』がマクスウェル君の本質ってわけね」

「そういえばアイツはリリアを追っかけて留学までしたんだったな」

「……マクスウェルらしい」

 

現に今もトレイズの召喚獣は座敷童を守るように盾を構えている。

 

 Aクラス トレイズ・マクスウェル & Fクラス リリアーヌ・シュトラウスキー

  化学     288点       &  化学 136点

 

遅れて点数が表示される。トレイズは300点には届かなかったものの、それでもAクラス平均以上。リリアも100点は超えCクラス並みの点数は叩き出している。

 

『ふむ。Aクラスの留学生だけあって、成績は良いようだな』

『そっちの子もFクラスにしちゃぁ良い点数だ』

 

3年生2人はリリアたちの点数に多少驚く素振りは見せるものの、大した脅威には感じていないようだ。

 

   Aクラス 大友宗貴 & Aクラス 島津道弘

     化学 429点   & 化学   396点  

 

『だが俺の敵ではないな』

『ま、そうだな』

 

表示された点数は、まさに絶望というに相応しい点数だった。

 

「当たり前のように400点を超えてやがる……!」

「もう一人の先輩もほぼ400点だよ!?」

「間違いなく、Aクラスのトップレベルじゃな」

 

『島津よ。お前が400点を切るとは珍しいな』

『あー悪い。ちょっとケアレスミスが響いちまった』

『お前の悪い癖だな。本番ではそれが命取りになるぞ』

『肝に銘じて置くよ』

 

2人の会話からして、島津の方も普段は400点代レベルのようだ。

つまり、Aクラスのチェックポイントは化け物揃いというわけだ。

 

『さて、すぐに終わってくれるなよ?』

『悪いな。これも勝負なんでね』

 

酒呑童子と鴉天狗が剣を構える。

 

『リリアは俺が護る!』

『その心意気や良し! ――だが』

 

酒呑童子が一気に距離を詰める。

 

『どりゃあっ!』

『ぐぅ……っ!』

 

酒呑童子のショルダータックルがレイスを襲う。レイスも盾で攻撃を受け止めるが、その巨体による圧倒的な質量に押され、体勢が大きく崩れてしまった。

 

『しま――』

勉強して(力をつけて)出直してこい!』

 

体勢が崩れて防御がガラ空きになったレイスを、酒呑童子の大剣が脳天から斬り裂いた。

 

『そんな……! バカな……!』

『トレイズ!?』

『余所見とは感心しないなぁ』

『――っ!』

 

リリアの後ろから鴉天狗が斬りつける。リリアはなんとかその攻撃を間一髪でかわす。

 

『ありゃ』

『まだ――』

『終わりだ』

 

だがチェックポイントでの勝負は2対1。かわした先に酒呑童子が待ち構えていたおり、座敷童を一瞬で斬り伏せた。

 

『そんな……』

『ごめんリリア。俺が』

『ううん。トレイズのせいじゃないよ』

 

ガックリと項垂れるトレイズをリリアが慰める。

 

「トレイズ……」

「あの点差だ。負けるのも無理はない」

「むしろ一撃防いだことを称賛すべきじゃな」

「…………勇敢だった」

 

大友に怯むことなく挑んだトレイズの勇姿は、教室にいた全員に伝わっている。

 

『ふん。肩慣らしにもならんか』

 

だが無情な声がモニターから響く。興奮も落胆もない、事実を淡々と述べる声に、全員の視線が④のモニターに集中する。

 

『おい大友そんな言い方は』

『事実だ。少しは期待したが、肩透かしだったな』

 

余りにも冷淡な言動に島津が諌めるが、大友に意を介した様子はない。

 

『……くそっ!』

 

トレイズが悔しそうに床を殴る。その痛々しい光景に瑞希たちは思わず目を逸らした。

 

『――トレイズ! 血がっ!』

 

トレイズの拳から血が滲んでいた。

 

『大丈夫だ。こんくらいツバつけとけば治る』

『でも』

『それは民間療法だ。唾液はかえって細菌の侵入を許し悪化させる。早く保健室に行って消毒をするんだな』

『大友。お前は少しは空気を読むことを覚えてくれ』

 

「なんか大友先輩、昨日と雰囲気違うね」

「たぶん切り替えスイッチがあるタイプだな。戦闘になると、それ以外のことに興味がなくなるんだろうよ」

 

島津が頭を抱えてため息を吐く。昨日は気さくな印象を受けたが、今の大友は酷く冷淡だ。秀隆の言う通りスイッチが切り替わったように。

 

『……ありがとうございました』

『ホントごめんな』

 

悔しさで唇を噛み締めるリリアに、島津が本当に申し訳なさそうにに手刀を切る。

 

『帰ったら神崎に伝えろ。次はキサマの番だと』

 

Aクラスの教室を出るために踵を返した2人に、後ろから大友が非情な言葉を告げる。お前たちは用済み。言外にそう含んでいるようだ。

 

「…………」

 

トレイズは出かかった言葉をグッと堪えると、振り返って大を睨む。

 

『……悔しいけど、今の俺じゃアンタには勝てない』

『そうだな』

『勉強しても、アンタに勝つことはできないかもしれない』

『そうだな』

『けど、それでも――勝つのは俺たちだ』

 

トレイズの台詞に、大友がニヤリと不気味に笑う。

 

『己の無力を認めながらも意志は死なず、友に託す。良いぞ。良い顔だ。次に会うときは楽しませてくれ』

『やなこった』

 

トレイズはべぇっと舌を出すと、リリアの手を引いて教室を出た。

 

「……」

 

秀隆の拳が、静かに硬く結ばれた。

 

 




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