いよいよ大友との対決。はたして大友が戦う理由とは?
第百三問
2年生と3年生の肝試し勝負もいよいよ終盤。2年生は残り4組8人となりその半数はFクラス。しかもAクラス同士のペアは1組しかない。2年生をほとんど知らない3年生は自分たちの勝利は間違いないだろうと確信した。
更に言えば、常夏コンビや大友は特定の2年生と召喚獣勝負をしたがっていたが、肝試しで悲鳴を上げさせればその必要もない。ここまでの3クラスで要領を得ていたので、男子生徒はともかく女子生徒に悲鳴を上げさせる自信はある。
だと言うのに、今Aクラスの驚かせ役を担当していた3年生たちは困惑していた。
『うらめしや〜』
『ケケケケケケッ!』
『呪ってやる……! 恨んでやる……!』
「「……」」
今肝試しに挑んでいる2人、神崎秀隆と木下優子は全くおどろく気配はない。悲鳴を上げるどころか、眉一つすら動かさない。むしろ驚かしにきたお化けを一瞥して、逆にお化けをビビらせている。
足取りも早く、迷路を躊躇なく進んで行く。まるで出口がどこに繋がるかが分かっているかのように。
「確認しときたいんだけど」
ここでようやく優子が口を開く。口調と内容は忘れ物はないかの確認くらいのものだが、相方の男子生徒を見る目は疑念を孕んでいた。
「なんだ?」
聞かれた秀隆の方は、露骨にうんざりしたような顔をする。聞かれる内容が分かっているからだ。
「本当に大友先輩と認識はないのね?」
優子はもう何度目かになる質問をする。それに対する秀隆の答えも決まっている。
「ねぇよ」
にべもない。その一言に尽きる。何度聞かれようとも、秀隆の記憶に大友の姿はない。
「なら何で大友先輩はアンタに固執してんのよ」
「別に固執してるわけでもねぇだろ」
「名指しで指定されて固執してないわけないでしょ」
大友は自身が守るチェックポイント勝負の相手に秀を指定した。同じくチェックポイントを守る常夏コンビも明久と雄二を指名しているが、大友のそれは明らかに毛色が違う。
「んなこと言われてもな。中学ん時に喧嘩した相手にいなかったし」
「忘れてるだけじゃないの?」
中学生の頃の秀隆の思考は今よりも極端だ。興味のないものにはとことん興味はなく、例え喧嘩の相手が『その筋』の者だとしても記憶には残らなかっただろう。
「あんな奴相手にして忘れるわけないだろ」
「まぁ、そうね。たぶん負けてたでしょうし」
「言ってくれるな」
「勝てたの?」
「……分からん」
殊更、勝負事に関して言えば人の記憶というものは勝った相手よりも負けた相手の方が強く印象に残る。勝った相手はただの通過点だが、負けた相手は立ちふさがる壁だ。仮にその敗北が予定されていたものだとしても、自分の現状を知る意味でも超えるべき課題という意味でも負け試合は深く記憶に刻まれる。
「流石のアンタも、一度負けた相手は忘れないか」
「忘れてたとしても直ぐに思い出すさ」
「だとしたら、本当に面識がないのかしら?」
「だからそう言ってるだろ」
無理もないが、優子は未だに懐疑的だ。
「ま、向こうが一方的に知ってた可能性はあるな」
「そうね。アンタと坂本君の悪評は私も耳くらいしてたからね」
秀隆は『月華凶刃』、雄二は『悪鬼羅刹』の二つ名で知れ渡る不良だった。2人が喧嘩の絶えない日々を送っていたの要因でもある。
「噂に尾ヒレでもつけば、怖い物みたさで見学していたのかもしれないわね」
「人を動物園のパンダみたいに言うんじゃねぇよ」
「パンダに失礼よ。アンタなんて精々野犬よ」
「酷え言われようだ」
秀隆は苦笑しながらも優子の言葉を否定しなかった。実際、当時の2人は野犬と言われてもおかしくないくらいに荒れていた。そのことを思えば、野犬ですら可愛げがある。
「まぁ、確かに腕試し感覚で喧嘩吹っかけてきたヤツもいたから、あのセンパイも知っててもおかしくはないだろうな」
大友はレスリング部所属なだけあり腕っぷしには自信があるだろう。それこそ、トレイズとの闘いでも強者を求めるような言動をしていた。『喧嘩の強い中学生』の噂を聞きつけていてもなんら不思議ではない。
「ただ、だから余計に分かんねぇ」
「何が?」
「大友は見た目通りの戦闘狂だ。俺や雄二の噂を聞いたら、腕試しに来てもおかしくはねぇ」
「そうね」
「なのに来なかった。どっかから見てたのかも知れねぇが、あの先輩がそこで終わるようには見えねぇ」
「喧嘩に乱入してこなかったのが不自然って言いたいの?」
「ああ」
「けど、その頃既に部活やジムに所属していたら、したくてもできなかったんじゃないの?」
「……それもそうだな」
秀隆はそこで詮索を止めた。これ以上考えても埒が明かないというのもあるが、ちょうど開けた場所に出てきたからだ。
「ま、後は本人に直接聞くとするか」
薄暗い迷路の中にある照明で照らされた空間に、件の大友が仁王立ちで待ち構えていた。
「待っていたぞ。神崎」
「できれば会いたくなかったけどな」
「そうつれないことを言うな。俺とお前の仲じゃないか」
「初対面で仲も何もねぇだろうが。あとその発言はコイツの前でするな。俺の尊厳に関わる」
「失礼ね。人を雑食動物みたいに言わないでよ」
「似たようなもんだろうが」
「? よく分からんが、とっとと始めるぞ」
今か今かと待ちわびていた瞬間が訪れて、大友は見るからに地に足がついていない。召喚獣勝負でなければ、そのままタックルを仕掛けそうな勢いだ。
「その前に、一つ聞きたい」
「なんだ?」
「なんでアンタは俺と闘いたいんだ? 別に雄二たちでもいいだろ」
「なんだそんなことか」
大友は『何を今更』と言う顔をする。秀隆が理由に気が付いていないのを本気で不思議がっていた。
「そっちには何かあるんだろうが、こっちには喧嘩吹っかけられる謂れはないんでね」
「ふむ……。それもそうか」
「え? お前ら初対面なの? てっきり知り合いかと」
「私も信じられないけど、どうやらそうみたいです」
事態を把握しきれていない島津が困惑して大友と秀隆を交互に見る。大友の意気込みからして、因縁があると思っていたようだ。
「まぁいい。そんなものこの際どうでもいいことだ」
「いや、こっちからしたら迷惑極まりないんだが……」
「どうしても知りたいというのなら――」
秀隆の迷惑そうな顔を気にする様子もなく、大友は獰猛な笑みを浮かべる。
「戦えば分かる!
「っぱこうなるか。――
「ったく何なんだよいったい……。――
「私も同感です。――
喚び声に応じてお馴染みの幾何学模様の魔法陣が出現し、召喚獣が呼び出される。
大友の酒呑童子、島津の鴉天狗、秀隆の悪魔、そして優子は――
「それは」
「堕天使か?」
魔法陣から現れた優子の召喚獣は、3対6枚の翼を持ち、鈍色に輝く鎧を身に纏っていた。一見すると天使ののうだが、その翼は黒く穢れており、天使特有の光輪もない。
「堕天使。しかも6枚羽根ってことは熾天使……? てことは……」
秀隆が優子の召喚獣を観察すると、掌に紋章と、鎧に髑髏のついた羽を持った蝿が刻まれていた。
「……くくく。なるほど。そういう事か」
「……何が言いたいわけ?」
意地悪そうな笑い方をする秀隆を優子が睨見つける。
「いんや。ホントよくできたシステムだと思ってな」
「……遺言があるなら聞くわよ?」
「おーこわ」
雑談している傍から点数が表示される。大友と島津はほぼ無傷。対して秀隆と優子は、
Aクラス 木下優子 & Fクラス 神崎秀隆
化学 406点 化学 511点
「なっ!? お前本当にFクラスか!?」
「見てわかるでしょう? 正真正銘のFクラスっすよ」
「そういや、さっき保健体育がやたら高いヤツもいたな……。Fクラスには尖ったヤツが多いのか?」
「いえ、コイツを含むごく一部だけです」
秀隆と康太が特殊なでけで、諸事情でFクラス堕ちした2名を除けば、2-Fの認識は一般生徒のそれで基本的には間違いはない。
「島津よ。油断するなよ」
「コレ見て油断するほど余裕はねぇよ」
「なら結構」
改めて酒呑童子と鴉天狗が獲物を構える。悪魔と堕天使は、警戒するように半歩後ろ足を引いた。
「でりゃぁああっ!」
「散れ!」
挨拶代わりと酒呑童子が2人の召喚獣に向かって前に飛びながら斬りつける。秀隆と優子はその一撃を召喚獣を横に跳ばすことで回避。
「設備壊さないでよ!」
「善処するわ」
散開した悪魔と堕天使は、酒呑童子と鴉天狗を挟むように対峙し、何もない空間から武器を現出させた。秀隆は片刃の剣、優子は槍に盾と元の召喚獣に即した武器を構える。
「「蒼破刃!」」
横薙ぎに武器を振り、振った先から青白い衝撃波が天狗と酒呑童子を襲う。
「うおっ!」
「ふんっ!」
予期せぬ遠距離からの攻撃を鴉天狗は辛うじて身を捩ってかわし、酒呑童子は大剣で打ち払った。
「てゃっ! も
「無駄だぁ!」
「蒼破追蓮!」
「ちょっ! ぐぇっ!」
そこに追撃の2連撃。大友は再び大剣を振るい2発とも撃ち落とすが、鴉天狗は1発防ぐのが精一杯で、2発目は胴体に命中。小さいがダメージを受け体勢が崩れた。
それを見て優子と秀隆は召喚獣を鴉天狗に走らせる。早々に2対1の状況を作ってしまえば、勝ち筋は大きくなる。
「させるとでも思ったかっ!」
「ちぃっ!」
だが大友が秀隆の前に立ち塞がる。進路を塞ぐように大剣を振り、秀隆は後ろに飛んで後退。優子の堕天使のみが鴉天狗に肉薄する。
「秀隆! なんとか持ちこたえなさい!」
「そっちこそヘマするなよ!」
島津も大友ほどではないが点数は十二分に高い。油断していると足元をすくわれる。
「はぁ……。なんで君らみたいな強いヤツの相手なんか……。楽して勝てるんじゃなかったのかよ……」
「そういうならギブアップしてもらえませんか?」
「それはムリだね。そうするとアイツ止めらんないから」
「それ、もう意味なくないですか?」
「……そう言わないでよ」
島津は一応大友のストッパー役として組み込まれているが、最早意味のない役割だ。
「こっちとしては、君らが諦めてくれると助かるんだけど?」
「それは無理な相談ですね」
「だよね〜」
島津はヤレヤレと首を振る。
「んじゃ、一応仕事はちゃんとしますか」
島津が少し目を細める。優子は早期決着をつけるため、召喚獣を突撃させる。
「裂駆槍!」
「っと」
鋭く踏み込んだ槍の一突きを鴉天狗が剣で受け流す。そなまま堕天使の懐に潜り込もうとするが、
「秋沙雨!」
「おわっ」
堕天使もそうはさせまいと連続突きで応戦。最後に盾で突進。まともに受けた鴉天狗の体勢が崩れ床にへたり込む。
「いっ!?」
「(今!)落月爪!」
その隙を見逃さず、堕天使は渾身の一撃を鴉天狗に叩き込む。半円を描き、月をも落とす勢いで槍が振り下ろされ鴉天狗の脳天を砕く――
「っぶねぇ!」
「っ!」
はずだった。優子の渾身の攻撃は鴉天狗に一歩届かず、鴉天狗は不利な体勢ながらも槍の一撃を剣で防いでいた。ギリギリと槍と剣が鍔迫り合う。しかし、体勢有利は変わらないので、優子はそのまま力を込めて武器を押し込んだ。
「っと」
「くっ!」
だが鴉天狗の方が一枚上手だった。堕天使の力に逆らうことなく、身体を捻りながら剣で受け流し、そのままゴロゴロと転がりながら距離を取る。
「まだ! 月華天翔刃!」
「よっと」
鴉天狗が起き上がったところに追撃の鋭い突きとサマーソルトキックの連撃。体勢が整った鴉天狗はこれを後ろに大きく飛んで回避。終始優子が優勢だったにも関わらず、島津に致命傷を与えることはできなかった。
「ふぅ。あっぶなぁ。ホント強いね君」
「……全部避けられて嫌味にしか聞こえないんですけど」
一応のダメージは与えたが、初撃に比べたら微々たるもの。カウンターこそ受けなかったが、後味の悪いいやらしさが残る。
「いやいや。本心だから。俺ってそんなに信用ないように見える?」
「身近に胡散臭いヤツがいるので。先輩も見た感じ似たようなタイプみたいですし」
「酷いなぁ」
島津は本当に心外だというように肩を竦める。
「ま、けど君の攻撃は分かりやすかったし」
「え?」
「だって君の攻撃全部頭狙いでしょ?」
「!」
当たり前のことではあるが、召喚獣は試験の成績によって基礎能力のステータスが上下する。下位クラスの召喚獣が上位クラスの召喚獣に中々太刀打ちできないのもこれが理由だ。
だが弱点がないというわけではない。鎧で覆われていない部位は意図的に防御力が低く設定されている。機会こそほとんどないが、やりようによってはFクラスの召喚獣でAクラスの召喚獣の腕を切り落とすこともできる。
そして試召戦争の救済措置とも言われる『頭部への攻撃』。これは点数に関わらず一定以上のダメージを与えた場合即戦死となる。元々は学園長が試召戦争にリアリティを出すためのお遊び要素だが、実際に試召戦争を戦う生徒からしたら逆転の一手。上位クラスとの戦闘では可能な限り積極的に狙う生徒も多い。もっとも、操作性の観点から中々狙ってできないのが辛いところではある。また、余りにも狙いすぎると回避されやすい、カウンターを受けやすいという弱点もある。今の島津と優子のように。
「……読まれてたのね」
「そりゃあ、あんだけ狙われればね」
「けど、よくあの戦闘で狙いが分かりましたね」
通常の試召戦争でも相手の狙いが分かり難いのに、今の召喚獣はほぼ等身大。視界も奪われやすいのによく狙いが分かるものだ。
「こう見えて、目は良い方なんだ」
「目が良い……何かスポーツでも?」
「今は帰宅部だけど、中学の時は卓球やってた」
「戦績は?」
「全国大会1回戦敗退」
つまり実力はあるということ。昔取った杵柄だろうが、経験が活きていることは厄介だ。
「それじゃ、もうしばらく頑張りますか」
コキコキと首を鳴らす鴉天狗。優子は堕天使に槍を構えさせながらも、突破口が見出だせずにいた。
――一方
「どうしたどうしたぁっ!」
酒呑童子が豪快に大剣を振り回す。剣筋など関係なくただひたすら勢い任せに繰り出される一撃一撃を、秀隆はスレスレで躱していた。フィードバックにより時折感じる風圧に、首の後ろにじんわりと汗が滲む。
「避けているだけでは俺には勝てんぞ!」
「んな攻撃いちいち受けてられるか!」
「何より俺がつまらん!」
「余計に付き合いきれんわ!」
だが反撃の糸筋が見えないのも事実。おまけに酒呑童子は能力によりパワーが増している可能性があるため、まともに受けようものなら防御ごと弾き飛ばされる。
ならば、と秀隆は召喚獣を大きく後退させる。
「……一か八かやってみるか」
秀隆は酒呑童子の攻撃を警戒しつつ召喚獣に一定の距離を取らせる。
秀隆が頭の中でイメージすると、悪魔の足元に召喚時とは異なる模様の魔法陣が浮かび上がる。
「む?」
「足元注意だ! シャドウエッジ!」
酒呑童子の足元に『影』ができ、そこから闇の刃が顔を目がけて襲いかかる。
「むん!」
大友は酒呑童子を半歩後退させると同時に大剣で刃を叩き斬った。
「まだだ! ブラッディクロス!」
散らばった破片が空中で一瞬光り、赤黒い閃光が十字に奔る。
「ぐっ!」
これには流石に大友も焦ったのか召喚獣を大きく屈ませる。酒呑童子の頭上を血塗られた十字架が掠め、その余波が肌を切り裂く。
「絶影!」
ようやくできた隙。死角になった上から悪魔が奇襲。落下の勢いを乗せた剣を酒呑童子の脳天目がけて突き刺す。
「ふんっ!」
だがその剣先は届かない。酒呑童子は大剣の腹を盾のように構え致命の一撃を防ぐ。
「いい線だったが、少々短絡的だな」
「そうかな?」
防がれたものの酒呑童子はまだ起き上がってはいない。秀隆はその間に追撃を叩き込む。
「弧月閃! 飛連双閃! 翔雨裂空撃!」
三日月のような軌跡を描く斬撃。飛び上がりながらの2連続斬り、からの斬り下ろし、着地と同時の斬り上げ。そして連続突きからの縦方向の回転斬り。通常の召喚獣勝負なら例えAクラス相手でも倒しきれる連携技。本来なら大きなダメージを与えられるのだが。
「はははっ! いいぞ!」
大友は怯むどころか心から楽しそうに笑う。
「効果なしかよ」
「そんなことはない。思ったよりもダメージを受けた」
「皮肉かよ」
大友の言う通り酒呑童子にダメージは入っている。だがそんなものは微々たるもの。反撃されないよう連撃を叩き込んだのに、50点も削れていない。
「その『硬さ』がテメェの能力か」
「おそらくな。おおよそ『剛体』とでも言ったところか」
「まさに鬼だな」
「お前こそ、魔法を使うとは悪魔のようではないか」
「確かにな」
互いに笑い合うが、余裕の尺度が違う。方や一撃でも当てればオーケー。方や一撃でももらえばアウト。フェアなどという言葉はとうに消えうせている。
「……しかし」
「あん?」
「覇気がないな。あの時に感じていたような覇気が」
「あの時だぁ?」
「お前が中学生の時だ」
大友は少しがっかりしたように言う。優子の予想通り、昔の秀隆を知っていたようだ。
「……やっぱ知ってやがったのか」
「当然だ。悪鬼羅刹と並び、お前たちの悪評を聞かぬ日はなかったからな」
「そうかよ。んで、覇気がねぇってのは?」
「そのままの意味だ。あの頃のお前は獣のような覇気があった。歯向かうものを皆咬み殺すような覇気を」
「アホか。ただの中坊だぞ? んな歴戦の猛者みたいなもん持ってるわけねぇだろ」
「いいや持っていた。俺には分かる」
否定する秀隆を大友は更に否定する。
「何が分かるってんだよ。反抗期真っ盛りの、この世の全てにブチ切れるだけのガキの心理がよ」
「全て? いいや違うな。お前たちが怒りを向けていたのは自分自身だ」
「……」
見透かされていたようで、秀隆の心がざわつく。
「……根拠でもあんのかよ?」
「客観的根拠はないな。しかし、お前たちの目を見れば分かる」
「んな歯の浮くような台詞よく言えるな」
「そうでもないさ。……俺もそうだったからな」
「あん?」
「こっちの話だ。まぁ、俺の場合は怒りを昇華する場があっただけのこと」
お遠くを見るような目をする大友。しかしそれも一瞬でまた召喚獣で斬りつける。
「それでも鬱屈している日々を送っていた俺はある日、ガラの悪い連中に1人の中学生が絡まれているのを見た。ソイツらはその中学生を路地裏に連れて行った」
「……」
「気まぐれと、ほんの少しの正義感だった。俺はソイツらを追って路地裏に入った」
「……」
「目を疑ったよ。たった1人の中学生が、得物を持った大人数人をボコボコにしていたのだからな」
やはり、大友は秀隆の喧嘩を見ていたのだ。
「圧倒されたよ。強さとは、極めればここまでできるのかと。ここまで人は獣になれるのかと」
当時の光景を思い出したのか、大友が言葉の語尾を上げ、興奮気味に語る。
「そこまで思って、なんで今まで喧嘩吹っかけてこなかったんだ?」
「諸事情故とだけ言っておこう。だが、それからはより一層己の身を鍛えたさ。いずれお前と相見えるために。お前を討ち倒すために!」
酒呑童子の横薙ぎの一閃が悪魔の頭上を掠める。
「去年お前が入学したと知った時は柄にもなく小躍りしたくらいだ。上級生を病院送りにしたと聞いた時は胸が高鳴った。やはりお前は強者でいてくれたと。――だが!」
大友の声が一段と強くなる。
「今のお前はなんだ! あの時の獣はどこに行った!」
「知るかよんなもん。俺は今も昔も俺だ!」
悪魔の連続斬りも、酒呑童子には届かない。
「いいや! お前は変わった! あの時の覇気も、野生に満ちた力も、全てに絶望した眼も! 今のお前にはない!」
「痛々しい野郎だな! 中二病はとっくに卒業してる歳だろうが!」
両者の剣がぶつかり合う。点数では勝っているはずなのに、秀隆の方が押されている。
「今もそうだ! 昔のお前ならこの程度どうということなかっただろう!」
「んなわけあるかよ!」
悪魔の剣が酒呑童子の大剣を弾く。
秀隆からしたら大友の怒りは理不尽でしかない。知らぬところで勝手に憧憬を抱かれ、知らぬところで勝手に弱体化したと言われているのだ。怒りたいのはこちらである。
「お前といい悪鬼羅刹といい。なぜ2年生になって腑抜けた!」
「だから知らねぇて!」
繰り返される剣戟。段々と激しくなる酒呑童子の剣閃に秀隆も攻めあぐねる。
「だいたい、なんで俺の強さに拘る? アンタは十分に強いだろ!」
「確かに俺は強くなった。過去の遺恨など気にならないくらいにな」
「だったら俺につっかかってくんな!」
「そうはいかん! あの時のお前に勝ってこそ、俺の強さは証明される!」
「んだよそれっ!? 意味分かんねぇよ!」
勝手に強さの証明に利用されてはたまったものではない。一方的に押しつけられて秀隆も困惑を隠せない。
「だが、その理由も分かった」
「あん?」
「お前が弱くなったのは吉井、そしてそこの木下優子のせいだ」
「はぁっ!?」
大友の言葉に思わず秀隆も大声を上げる。
「なんでそうなんだよ! 2人は関係ねぇだろ!」
「いいや。吉井のせいでお前の心に変化が生まれ、木下優子のせいでお前は人間性を取り戻した」
「本気で言ってんのかテメェ……っ!」
「本気さ」
大友の顔が獰猛に、そして邪悪に歪む。
「だから――今一度俺はお前を獣に戻す」
「何言って――っ!?」
酒呑童子が急に向きを帰る。その凶刃が向かう先は――
「優子っ!!」
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない