バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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秀隆&優子ペアVS大友&島津ペアその2

優子に迫る凶刃。そして大友の真の目的とは――

今回は区切りの関係で少し短めです。


第百四問

第百四問

 

「優子っ!」

「え?」

 

秀隆の悲鳴のような叫び声に優子が振り返る。島津との戦闘に集中していた優子は、迫りくる酒呑童子への反応が遅れてしまった。

 

「でぇりゃぁああー!」

 

気迫とともに振るわれた渾身の一薙が堕天使を捉える。

 

「きゃぁああっ!?」

「うぉおおおっ!!」

 

――ザンッ

 

召喚フィールドに2つの羽が飛ぶ。一つは、鴉のような黒い羽。もう一つは、蝙蝠のような膜翼。

 

「がぁあああっ!!」

 

秀隆が右肩を押さえて片膝をつく。

 

「秀隆っ!?」

「心配すんな」

「でもっ」

「それより、お前の召喚獣は?」

「……大丈夫みたい……」

「そうか……」

 

秀隆は召喚獣を飛ばし、間一髪で優子の召喚獣を救い出していた。その代償として、右の翼を斬り飛ばされ、点数が大きく削られた。

優子の召喚獣はほぼ無傷。では宙を舞ったもう一つの翼は――

 

「おい大友! なんでこっちも攻撃すんだよ!?」

 

()()()が片翼を失ったことに島津が抗議。堕天使を狙った一振りは、鴉天狗にも命中していた。

 

「避けらきれなかったお前が悪い」

「はぁ!? んだよそれ! こっちはあの子の相手で手一杯なんだぞ!」

「だから手伝ってやったんだろう?」

「ならせめて一言言えよ! てか事前に作戦があるなら教えろよ!」

「そんなものあるわけなかろう。全て即興よ」

「だから意味分かんねぇって! お前の私情に俺を巻き込むなよ!」

 

大友の傍若ぶりに流石の島津も怒りを露わにして怒鳴る。優子1人に集中していればいいと思っていた矢先にまさかの味方からの奇襲。これで怒るなという方が無理だ。

大友と島津が言い争っている間に、秀隆は呼吸を整える。

 

「アンタ、本当に大丈夫なの?」

「ああ。久々にきついフィードバックだったが、まだ死んじゃいない」

「そう、だけど……」

 

奇襲とはいえ点数を大幅に削られ、翼も片方を失い機動力も削がれた。それは向こうもある意味同じだが、状況的にはかなりマズい。

秀隆は確かめるように右手を握っては開きを繰り返し、再び立ち上がる。

 

「まだ折れてはいないようだな」

 

立ち上がった秀隆を見て大友が牙を見せる。

 

「テメェ……。マジでどういう了見だ? 味方ごと優子を狙うとか正気の沙汰じゃねえぞ」

「正気も正気よ。お前を野生に戻すには、今一度絶望を味わった方がいいと思ったからな」

「なんですって?」

 

大友の言葉に、秀隆ではなく優子が反応する。

 

「さっきから聞いてましたけど、先輩は秀隆じゃなくて()()()()と戦いたいんですか?」

「そうだ」

「月華凶刃? 月華凶刃ってあの?」

「ええ。俺がそれっスよ」

「マジかっ! そういや、月華凶刃って白髪に紅い目って聞いたような……」

「正確には銀髪っスけどね」

 

秀隆の昔の二つ名を知った島津が驚く。まさか近辺でも有名な不良が学園にいるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「なんでですか? 『今の』秀隆でもいいでしょう?」

「今の神崎も強い。が、俺が戦いたいのは()の神崎ではない。()の月華凶刃だ」

「人を獣呼ばわりしてっ! 害獣退治でもやりたいんですか!」

「せめて魔物って言えよ」

「いやそれもどうかと思うぞ」

 

大友が欲した強さは、今の秀隆の強さとは違うという。

 

「坂本――悪鬼羅刹にも言えることだが、あの時のお前たちは感情の赴くままに、目の前の敵に噛みついていた」

「人を狂犬みたいに言うんじゃねぇ。売られた喧嘩を片っ端から買ってただけだ」

「変わらんだろ。本当に厭世的な人間というのはな、何もかもに興味が沸かないんだ。喜怒哀楽だけじゃない。この世の事象全てが他人事。自分すらもな。地球儀をただ意味もなく回し続けているような虚無感。世界の中に自分は居らず、自分の中に世界は存在しない」

「じゃぁ俺は半端者ってか? ま、否定はしねぇけどよ」

「そうだ。半端者故に力の制御などない。まさに『暴力』。俺が求める強さはそこにある」

 

人に戻り抑制が利くようになった秀隆や雄二からは得られない暴力。それが大友の求めるものだという。

 

「先輩は部活で格闘技をやってるんですから、それで十分満足しているんじゃないんですか?」

「言っただろう。俺が求めるものは真の力と力のぶつかり合い。暴力だと。格闘技と言えど所詮はスポーツ。殺気を漲らせているが、蓋を開けてみればただの気迫よ。背中のひりつくような、死戦とはかけ離れた別物だ」

「そんなもの、ただの学生に求めないでください!」

「ただの学生で出来ているから価値がある。月華凶刃、あわよくば悪鬼羅刹も討ち倒すことができれば、俺はさらなる高みに行ける」

 

朗々と語る大友。大友にとって月華凶刃との死闘は欲求であり目標。強さを求め、強きに至るまでの壁であり、過程であり、糧なのだ。

 

「……理解できないわ」

「だろうな。それに、俺からしてみれば、お前の方が理解できん」

「どういう意味ですか?」

 

理解し難い。優子が大友に感じるように、大友も優子にそう感じるという。

 

「お前と神崎は去年までいがみ合っていたのだろう? それがいかなる経緯で解消されたとしても、お前が神崎を庇う理由がどこにある?」

「それは」

「どうせ()()()()()()()()()という浅はかな理由だろう。まったく、学力だけの連中はすぐに助長するな」

「違う! 私はそんな理由で」

「お前の中途半端な優しさで、神崎を堕落させるんじゃない!」

 

優子がギリリと奥歯を噛み締める。怒りと悲しみで頭が上手く回らない。言葉が出てこない。けれども、吐き出さずにはいられない。

 

「アナタに……アンタなんかに……! 私たちの、私の気持ちなんて」

 

――バンッ

 

辺りを照らしていた照明が消え、フィールドが暗闇と静寂に包まれる。

 

「これは!?」

「夏川たちの作戦だったか?」

「まったく、ようやくか」

 

事前に知らされていなかったのか、布施教諭が驚いた声を上げる。どうやらこの消灯は常夏コンビの作戦のようで、大友はむしろ遅いと非難した。

 

――パッ

 

消灯していたのはおおよそ1分。暗闇の中で周りの輪郭が分かりだすかどうかの時間だ。常夏コンビの作戦は完了したというのだろうか。

 

「さて、話が逸れたな」

 

大友は仕切り直しとばかりに酒呑童子に剣を構えさせる。

 

「木下優子。邪魔立てするというのなら、お前から斬り捨ててやろう」

「……上等よ。アンタなんかには絶対に負けない!」

 

堕天使も槍を構える。普段の品行方正な優子からは想像できない感情を剥き出しにした姿に、布施教諭は困惑していた。

 

「ウハハハっ! その威勢や良し! だが、威勢が良いだけでは俺は倒せんぞ?」

「そんなこと、やってみなければ」

「――もういい」

 

放たれた一言に、その場にいた全員の背筋がゾワリと震える。布施教諭も島津も、格闘技をテレビで見ることはあれど生で見たことはない。まして経験など皆無。故に、その()()の正体も分からない。

 

「秀隆?」

「おお……!」

 

そして、その感覚に対局の反応を示す2人。優子の顔は不安に青ざめ、大友の顔は興奮で赤みが増す。

 

「大友センパイよぉ」

 

その中でただ一人、秀隆だけが抑揚のない幽鬼のような声で喋る。

 

「散々っぱらグダグダと御託を並べてくれたが、とどのつまり『昔の俺』とヤり合いたいだけだろ。んなもんに()()を巻き込むんじゃねぇよ」

「秀隆?」

 

ゆらり、と秀隆の身体が揺れる。

 

「そうだ! 俺はお前との死合を」

「その前に、アンタは一つ勘違いをしている」

「勘違いだと?」

「言っただろ。今も昔も俺は俺だと」

「だがお前は」

()()()()()()()()()()()()()()ってか?」

 

秀隆の言葉の意味を理解するのに一瞬の間が空いた。

 

「別に俺は力の抑え方を知っただけ、()を得ただけで弱くなったつもりはねぇよ。昔より小賢しくなったのはたしかだけどな」

 

布施教諭も島津も、その言葉の意味が分からずさらに困惑する。

 

「はぁ……ったく。結局はこうなるのか」

「秀隆」

 

俯いて乾いた笑いを上げる秀隆に優子が縋る。

 

「秀隆お願い。止めて。アンタはもう」

「悪いな優子」

 

秀隆はカメラを優子に押し付けると、トンと優子を軽く押して離す。

 

「だめ」

「んじゃ、大友センパイ」

 

秀隆が髪をかき上げる。それに呼応するように、悪魔の身体が震える。

 

「俺と喧嘩してぇなら……とっととぶっ殺してやるから覚悟しなぁ!」

 

悪魔が吠える。声のない咆吼を上げ闇を纏う。斬り落とされた右翼のつけ根から噴水のように赤黒い闇が噴き出し、新たな翼を作る。左腕を闇が覆い異形の巨腕と成す。

 

「秀隆!」

「ウハハハッ! それだ! その眼だ! その顔だ!!」

 

優子の悲痛な叫びをかき消すように大友も吼え、酒呑童子が踊りかかる。

 

「チェストーーーッ!!」

 

最上段から振り下ろされる一撃。生半可な防御では防ぎきれない一刀を、悪魔は左腕一本で受け止める。

 

「なにっ!」

「嘘だろ!?」

 

避けるでもなく、受け流すでもなく、酒呑童子の一撃を武器すら使わずに受けとめた事実に島津はおろか大友も目を疑った。

 

「コンジュームクロウ!」

 

秀隆はそのまま左腕を横薙ぎに振るい酒呑童子の身体が大きく傾く。

 

「ぐっ……!」

「双牙掌!」

 

酒呑童子の体勢が崩れたことろを斬りつけ、さらに左アッパーで追撃。酒呑童子の身体が少し宙に浮く。左腕に激痛が走るが関係ない。

 

「臥竜空破!」

 

酒呑童子の巨体が浮いたところにさらなる追撃。先の一撃よりも気迫のこもった左アッパーが腹部に突き刺さる。

 

「崩竜武双脚!」

 

アッパーの勢いで悪魔も少し飛び上がり、そこから空中で5連続の回し蹴り、締めのサマーソルトキックを酒呑童子の顎に食らわせ、その巨体が仰向けに倒れ込む。

 

「嘘だろ!?」

 

島津は今まで大友が召喚獣勝負で苦戦することを見たことがない。操作に慣れていなかった2年の時ですら、そのパワーで豪快に敵をねじ伏せてきた。それが今や後輩に、しかも大友の得意な徒手空拳で打ち負けていた。にわかには信じられない光景だ。

 

「ウハハハッ! 良いぞ! 最高だ!」

「そうかよ。んじゃそのまま死んどけ――絶影!」

 

酒呑童子はダメージをかなり受けた。しかし肩で息をしているのは悪魔の方。加えてフィードバックのダメージもバカではない。攻撃した秀隆の腕と足が痛みで悲鳴を上げている。長期戦にもつれ込めば、いかに秀隆といえど苦痛耐えきれなくなるのは明白。早々に決着を着けるために、秀隆は頭上から剣を突き刺そうと再び召喚獣を飛び上がらせる。

 

「甘いわ!」

 

だがそれを待っていたと言わんばかりに、酒呑童子が仰向けのまま酒瓶を呷ると悪魔の顔に向かって口に含んだ液体を吹きかけた。

 

「がぁあああっ!」

「秀隆!」

「悪いな。まだまだ俺は楽しみたいんでな」

 

酒呑童子が仕掛けたのはプロレスなどで使われる技『毒霧』。本物の酒は召喚獣で再現はできてないが、眼球に勢いよく液体を吹き付けられ激痛が走る。流石にこれには秀隆も膝をついた。

 

「大友、今のうちに!」

 

酒呑童子が倒れ込んだのを見て鴉天狗が加勢しに駆けつける。今のうちに体勢を整えれば2人がかりで秀隆を倒す事もできるが、

 

「邪魔をするな島津! 邪魔立てするならお前でも容赦しせん!」

 

大友は島津を怒鳴りつけてそれを拒否した。前に出ようとした鴉天狗を酒呑童子の大剣が襲う。

 

「なにすんだよ! こんな状況で、んなこと言ったってしょうがないだろ!」

「お前が割って入ったところで何になる? お前でアイツの相手ができるとでも?」

「いや、それは」

「ヤツの召喚獣を見てみろ」

「え?」

言われて島津が秀隆の召喚獣に目を向けると、悪魔の足元には魔法陣が浮かび上がっていた。

 

「ヤツめ。目潰しされた途端に距離を取って魔法の準備に入りおった」

「んな目茶苦茶な……。ただのハッタリだろ?」

「だとしても、お前が入り込む余地があると思うか?」

 

無理だ。島津は模擬戦で一度も大友に勝ったことがない。その大友に埃をつけた相手に勝てる見込みなんてあるわけがない。仮に乱入したとして、足手まといにしかならない。

 

「わかったら、お前は木下優子の相手をしておけ」

「……あんな状態の子の相手なんてできるわけないだろ。俺は夏川たちとは違うんだ」

 

島津は優子に少し同情を込めた視線を送る。

秀隆の悪魔が変身してから、優子は両手を床につき、項垂れたまま動こうとしない。今の優子なら、島津でも容易く倒せるだろう。実際にやるかやらないかは置いておいて。

 

「そうか。なら最低限の警戒はしておけ」

「警戒? なんでだ? あんな状態で戦えるわけないだろ?」

「何が起こるか分からん。それが試召戦争だ」

「いや、今回はただの肝試しだろ……」

「さあ神崎よ! まだまだこれからだ! もっと俺を楽しませてくれ!」

「あ、おい!」

 

大友は話を無理やり切り上げて秀隆との戦闘に戻る。

島津は暴走状態の大友にため息を吐く。

 

「ただのイベントだろうが」

 

他の連中みたいに肝試しの装飾や驚かし方に熱を入れるのはまだ分かる。ズボラな島津でさえ、柄にもなく内心ウキウキしたくらいだ。それなのに、大友は最初から別のモノを見ていたらしい。自分では到底理解できるものではないようだ。

先程まで苦痛で目を押さえていた秀隆でさえ、もう立ち直って大友と斬り合っている。化け物には化け物をぶつけるとはよく言ったものだ。自分なんかが気安く入り込める領域ではない。

 

「……あの子も災難だな」

 

島津がもう一度優子に目を向ける。自分はただ巻き込まれただけだが、彼女は少し事情か違うようだ。

まだ項垂れたままの後輩。秀隆と優子の関係性を知る由もないが、昔何かあったらしいことは察せられる。それで関係が悪化したことも。それがようやく仲直りできたと思ったら大友のこれだ。彼女がああなってしまうのも無理はない。島津は心の中でご愁傷さま、と呟いた。

 

「…………」

 

一方、優子の心は当然穏やかではなかった。

新学期の試召戦争できっかけを作り、強化合宿で決意し、お泊まり勉強会で約束した。清涼祭で安心しきっていた。もう大丈夫だと。あの頃の秀隆には戻らないと。

だが、それは大きな思い違いだった。泥沼から引きずり出せたと思っていた。地獄の底からすくい上げることができたと思っていた。

それは大きな間違いだった。彼は今も昔もソコにいた。ただ自分は手を握っていただけだった。上から目線でやった気になって、本質を見ようともしなかった。友だちに説教をたれておいて、自分はこのザマだ。どの口が言えたことか。彼女に吐いた台詞は呪詛返しのように自分に跳ね返ってきた。過去に囚われていたのは、自分も同じだった。

 

「秀隆……」

 

変わったと思った。変われると信じた。変わっていけると願った。過去を清算し、今を変え、未来を創れると思っていた。そのなんとも無責任で、傲慢で、滑稽なことか。自分の無力さに腹が立つ。

 

「なんで……」

 

幾度となく繰り返してきた言葉。なんで、どうして、あの時、ああしていれば。後悔と自責の念が優子の中で渦巻く。

 

「……」

 

チラリと秀隆を横目で見る。その顔は確かに獣だ。相手をいたぶることしか考えていない、知性も理性もない獰猛な笑み。実際、秀隆は嬉々として大友と殴り合っている。自身の痛みなど関係ない。本能の赴くままになぶり殺す。まさに畜生の所業だ。悪魔というより魔物、魔族のようだ。

突きつけられた現実は、年端もないかない少女の心を折るには十分すぎた。

 

「(もう……無理ね……)」

 

止めることはできない。止める勇気も出ない。かと言って、これ以上受け入れられるものでもない。だったらいっその事――

優子が堕天使に指示を出そうとしたその時、

 

『どうしてそんな酷いことを言うんですかっ!!!!』

 

少女の、怒りと悲しみに満ちた大音量の叫び声がAクラス中に響き渡った。




ご感想などお待ちしております。

あと軽くですが今後の書き方(字数)についてアンケートやってるのでもしよろしければご回答お願いします。

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