バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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長いようで短かった大友戦もついに――

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします!


第百六問

第百六問

 

島津は元来楽観的な人間である。頼まれたら一応はやることはやるが、面倒なことは基本的にしたくない。今回大友とコンビを組んだのも、他の誰もやりたがらなかっただけで、誰かが替わってくれるなら喜んで明け渡した。

それでもいざ蓋を開けてみれば殆どは大友がやってくれた。自分はサポートに回るだけ。他の連中と違って特段役割もないので、楽なもんだと割り切った。それが……

 

「な、何だってんだいったい……?」

 

目の前の少女は、さっきまで項垂(うなだ)れて動く気配すらなかったはずだ。大友の言葉で絶望し、戦意を喪失していた。一応大友の言う通り警戒はしていたが、何も起きないので後は大友が秀隆を倒して、そのまま優子も倒してくれたら自分は何の手も汚さずに済んだと考えていた。

 

「どうなってんだよ……!」

 

それがどうしたことか。少女と友に俯き動かなかった堕天使は、今や怒りに髪を逆立て、足元には煌々と輝く魔法陣が浮かんでいる。何かヤバいことが起こりそうな気がするが、理解が追いつけないでいる。

 

「何をしている島津! 早く木下を倒せ!」

「!」

 

大友の声で我に返る。堕天使の足元にある魔法陣は、記憶が確かなら秀隆の召喚獣が魔法を使っていた時と同じ。ただ規模と輝きがその時よりも大きい。かなりデカい魔法だということは容易に予想がつく。島津はすぐさま鴉天狗を堕天使のもとに走らせる。

だが状況に追いつけず優子への対応が一瞬遅れた。その一瞬の隙を、この男が逃すはずがない。

 

「――汝に届け、足絡め取る黒沼(こくしょう)!」

「何ぃっ!?」

 

酒呑童子と鍔迫り合いをしていた悪魔の足元に魔法陣が浮かぶ。大友は魔法を発動させまいと押し込む力を強めるが、悪魔は微動だにすることなくむしろ大剣を押し返してきた。

 

「――サイフォンタングル!」

「な、何だぁ!?」

 

秀隆の魔法が解き放たれ、鴉天狗の足元の床が沼のように泥濘(ぬかる)む。鴉天狗の足は足首あたりまで沈み、身動きが取れなくなった。

 

「キサマぁっ!」

 

酒呑童子が力任せに剣を横薙ぎに振るう。悪魔はそれに逆らわず、その反動を利用して距離を取り、鴉天狗と酒呑童子の中間地点に着地。

 

「――呪縛。()は絡みつく執念!」

 

着地と同時に秀隆は詠唱開始。悪魔の足元で再び魔法陣が展開する。

 

「――バインドゴースト!」

 

秀隆が術名を叫ぶと同時に、今度は酒呑童子の足元に別の魔法陣が展開。その中から無数の鎖が現れ、酒呑童子の身体を雁字搦(がんじがら)めにする。

 

「キサマ! 術どころか、女に頼るなぞ」

「頼る? 何言ってんだ?」

 

怒りで唾を飛ばしながら吠える大友に、秀隆は小馬鹿にしたように笑い返す。

 

「これは最初から……()()()()だろ?」

「此処に降臨し名を示せ! 怒りではなく、(ゆる)しではなく、それは純粋たる真理!」

 

堕天使の輝きがさらに増す。そして――

 

「やれ! 優子!」

「――ヴァーチュアスレイ!」

 

優子の言葉とともに天井付近から無数の光の柱が直線状に振り注ぐ。

 

「うわぁあああっ!」

「ぬぉおおおおっ!」

「……」

 

降り注いだ浄化の光は、鴉天狗を貫き、悪魔の横を掠め、酒呑童子を灼き尽くした。

 

     Aクラス 島津道弘 化学 0点

 

「嘘……だろ……?」

 

全く油断していなかったわけではない。点数も(味方から)削られてはいたが、まだまだ戦える範疇だった。それが一瞬で消し飛んだ。今までに一度たりとも経験したことのない負け方に、島津は未だ信じられないでいた。かと言って、堕天使も無傷ということはない。

 

      Aクラス 木下優子 化学 262点

 

魔法を打った優子の召喚獣も150点程消耗している。しかも大技を使った反動なのか、堕天使をガックリと膝をついてる。通常の試召戦争なら反撃を受けているところだが、今や敵は大友しかいない。

 

「流石だな。優子」

「……」

 

秀隆が優子の方を向いてニヤリと笑う。優子はそれひは返さずに、カメラを床に置くと、ツカツカと秀隆に寄っていく。

 

「ん? どうした? 流石に疲れ」

「――ふんっ!」

「ぐぼぁっ!!」

 

優子は宣言通り、秀隆の顔面を思いっ切り殴り飛ばした。グーで。

全く警戒していなかった秀隆は、綺麗に錐揉み回転しながら1メートル程飛んで行った。

 

「テメェいきなり何しやがぐへぇっ!?」

「……」

 

殴られた頬を押さえて上体を起こす秀隆。優子は秀隆の腹に飛び乗ると、そのまま無言で殴り続けた。グーで。両手で。

 

「ちょ、――ま――タン、――ゆ、――」

「…………」

 

秀隆が殴られる度に何か言おうとするが、優子はお構いなしに投げ続ける。布施教諭も島津も、大友すら唖然とするくらいに。

 

「待てって言ってんだろ!」

 

秀隆が優子の両手を掴んでようやく止まる。それでも優子はまだ殴ろうと腕を動かす。

 

「く……この……!」

「…………よ」

「あん?」

「ふざけんじゃないわよ! このバカ!」

 

優子があらん限りの力で叫ぶ。

 

「んだと」

「こっちがどれだけ心配したと思ってるのよ! 私がどんな思いで今までいたと思ってるのよ!!」

「優子……」

「もう、戻らないかと思ったじゃない……」

 

ぽたり、と雫が秀隆の制服に小さなシミを作る。

 

「……悪かったよ。けど言っただろ? 俺は俺だって」

「……アンタは言葉が足りなさすぎるのよ」

「別に全部口に出す必要はねぇだろ」

「……あるわよ。口に出してくれなきゃ。言葉にしてくれなきゃ、伝わるものも伝わらないわよ……」

「……お前には通じたじゃねぇか」

「……バカ。甘えないでよ……」

 

秀隆は観念したかのようにふぅと息を吐く。

 

「……わーったよ」

 

秀隆がマイクに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。

 

「え?」

「俺の負けだ」

「――じゃぁ」

「……ただな、どうしてもケジメはつけてぇんだ」

「別にそんな」

「じゃないと、俺の気が済まねぇんだ」

「うん」

「だからよ――」

 

秀隆は優子の耳元に顔を近づけると、二、三言何かを呟いた。

 

「……分かった」

「なら退いてくれねぇか? 流石に腰が痛えわ」

 

優子は黙って頷くと、秀隆から降りた。

 

「おー痛ぇ……。ったく。思いっきり殴りやがって」

「アンタが悪いんでしょうが!」

「いってぇ!」

 

頬を擦りながらまだ文句を垂れている秀隆の腰に優子が手痛い一発を噛ますが、布施教諭も島津も秀隆に同情はしなかった。

 

「さて、と。んじゃ、取りあえずは目の前の敵を片付けますか」

「そうね」

 

秀隆と優子が改めて正面の敵を見据える。

 

     Aクラス 大友宗貴 化学 104点

 

酒呑童子は光の柱に灼かれプスプスと蒸気を出していたが、その強靭さ故か戦死にはなっていなかった。

 

「良かったんすか? 攻撃しなくて」

「……構わん。どうせまだ操作を受け付けていなかったからな」

 

皮肉っぽく笑う秀隆に、大友は腕を組んで瞑目しながら答えた。

 

「どうだか」

「お前こそ良かったのか? 俺を倒すチャンスはいくらでもあっただろ?」

「嫌味かよ」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする秀隆に、大友はガハハと笑ってみせる。

 

「人には、友には、殴ってでも分からせんといかん時があるからな」

「大友。お前にそれを言う資格はねぇぞ」

 

しみじみと言う大友に島津がすかさずツッコミを入れる。

 

「神崎よ」

「あん?」

「今のお前と昔のお前、どちらが強い?」

「あー?」

「答えろ」

 

真剣な眼差しで秀隆に問いかける大友。

それに対し、秀隆は面倒臭そうに後頭部を掻いた。

 

「んなもん知らねぇよ。自分の強さなんて気にしたこともねぇからな」

「なるほど。お前らしいな」

「ま、闘ったら分かるんじゃねぇか?」

「ウハハハッ。それもそうだな」

「……けどまぁ」

 

秀隆はチラリと優子の方に目を向ける。

 

「今の俺は()()じゃねぇからな。アンタには悪ぃが、今は負ける気はしねぇな」

「……そうか。ならば」

 

大友と酒呑童子は構えを新たにする。

 

「お前()()を倒して、俺はさらなる高みへ行くとしよう!」

「簡単に行けると思うなよ!」

「さっきまでの借り、まとめて返してあげるわ!」

 

フィールドの中央で3体の妖が激突する。

 

「飛天翔駆!」

「なんの!」

 

空中に舞い上がった悪魔が、回転で勢いをつけて飛び蹴りを見舞うが、酒呑童子は大剣の腹で打ち返す。

 

「閃光! 墜刃牙!」

 

その隙に堕天使が斬り払いから顔面に目がけて突きを放つ。

 

「甘いわ!」

 

酒呑童子はそれを今度は太刀を抜いて防いだ。

 

「どうした! その程度か!」

 

距離を取った秀隆と優子に対し、大友が見得を切る。二刀流となった酒呑童子は、画面越しでも怯むほどの迫力だ。

 

「ったく。クソうっとうしいったらありゃしねぇ」

「ねぇ秀隆」

 

どこをどう攻めるか考えていた秀隆に優子が声をかける。

 

「何だ優子? 何か良い作戦でも思いついたか?」

「私と()()をしない?」

「…………は?」

 

優子から出たのは作戦提案ではなくまさかの賭け。これには秀隆も真顔になる。

 

「お前状況分かってんのか!?」

「条件は……そうね、『先に大友先輩を倒した方が勝ち』。『負けたは方は勝った方に『フランドール』のケーキセットを奢る』でどう?」

「どうってお前なぁ……」

「判定は……丁度いいから布施先生にお願いしようかしら」

「わ、私ですかっ!?」

「勝手に話を進めるなよ……」

 

信じられないと叫ぶ秀隆を無視して、下唇に人差し指を当てて少し悩むように提案する優子に、秀隆は呆れてため息を吐く。いきなり判定役に指名された布施教諭も大いに驚いた。

 

「あら? 負けるのが怖いの?」

「――んなわけあるか!」

「……お前ら。ずいぶんと余裕そうだな?」

 

置いてけぼりを食らった大友が額に青筋を立てる。

 

「ほら見ろ。怒られたじゃねえか」

「なによ? 別に先輩が怒ろうが関係ないでしょ?」

「いやお前それは」

「喋っている暇があると思うか!」

 

まだ言い争いをしている秀隆と優子の間に酒呑童子の1振りが割って入る。

 

「っと。おい優子! 責任取れよ!」

「私に勝ってから言いなさい!」

「舐めるのも大概にしろ!」

 

大剣と太刀の連続攻撃が悪魔と堕天使を襲う。嵐のような連撃に、悪魔も堕天使も手が出せない。

 

「お前が挑発したせいで、向こうも本気になったじゃねぇか!」

「上等じゃない。そっちの方が燃え上がるでしょ?」

「んな呑気な……」

「でりゃぁああっ!」

 

大剣、太刀、蹴り。そのどれもが致命の一撃と成りえる。だが秀隆も優子も、怯まずにその合間を縫って反撃に出る。

 

「潜身脚!」

「ぬん!」

 

悪魔の足払いを酒呑童子は一歩引いて躱し、反撃の一撃は蹴り上げで相殺する。

 

「旋月閃!」

「ふん!」

 

堕天使の大振りの横薙ぎの一閃を、酒呑童子は太刀を縦に構えて受ける。

 

「閃空裂破! 崩龍斬光剣!」

「ぐっ!」

 

その隙に悪魔は背後に回り、飛び上がりながら横方向に回転斬り。頂点に達したところでジグザクに急降下しながら斬りつける。

 

「飛燕月華! 翔舞槍月閃!」

 

今度は堕天使が背後から武器を振り上げながから空中に飛び、そこから槍を脳天目がけて叩きつける。

 

「ちぃっ!」

 

酒呑童子は斬り上げは上体を反らしてダメージを最小限にし、頭への一撃は首を傾けて肩で受けた。堕天使の槍は刺突特化のランスのため、肩から切り裂くことはできない。

 

「ウハハハッ! 楽しいな! 楽しいな、神崎! 木下!」

「そうかよ!」

 

酒呑童子の体勢が崩れた隙に秀隆が召喚獣を肉薄させる。

 

「アンヴィバレンツ!」

 

悪魔が怪腕を大きく左右に3度振るい酒呑童子を切り裂く。

 

「ブラッディ・ローズ!」

「ぬぉぁあああっ!!」

 

堕天使もそれに合わせて突きからの斬り上げ、空中連続突き、最後に斬り払いで薔薇の様な鮮血が飛ぶ。

その連携技、連続攻撃を酒呑童子は大剣、太刀で的確に致命傷を受け流した後、両剣を地面に叩きつける。その衝撃で悪魔と堕天使が後方に大きく吹き飛んだ。

 

「舐めるなよ! その程度の攻撃で」

「舐めてるのは」

「どっちかしら?」

 

悪魔と堕天使は空中で後方に一回転して着地。着地と同時に酒呑童子に一気に詰め寄る。

 

「合わせろ!」

「任せて!」

「こいっ!!」

 

接敵する直前、2体は左右を入れ替えると、堕天使が上半身、悪魔が下半身に向けて連続蹴りを繰り出す。

 

「打ち上げて!」

「仕留める!」

「「飛燕双天脚!!」」

 

最後に悪魔が酒呑童子を蹴りで打ち上げ、2体同時に止めの蹴りを見舞う。

 

「うぉおおおっ!!」

 

だが酒呑童子も負けじと最後の一撃は大剣と太刀を交差させて防御。鍔迫り合いのように押し合いになる。

 

「どぅりゃぁあああっ!」

 

裂帛の気合い一閃。酒呑童子は最後の力を振り絞って悪魔と堕天使を上空へ大きく弾き飛ばした。

 

「まだだ! まだ終わらんよ!」

 

吠える大友と酒呑童子。距離は空いたものの、この距離なら遠距離攻撃にも対応できる。

大友は来たるべく反撃に備えて酒呑童子に正二刀の構えを取らせる。先程と同じなら着地と同時に突っ込んでくるはず。元の膂力はこちらが上なのだから、今度こそカウンターで仕留める。

 

「大友、上だ!」

「ぬっ!」

 

だが、大友の予想は大きく外れることとなる。

吹き飛ばされていたはずの悪魔と堕天使が空中で急停止。その場で魔法陣が展開する。

 

「なっ!?」

「聖なる槍よ、敵を貫け!」

「黒曜の輝き。快速の槍となりて敵を討つ!」

 

堕天使の持つ槍が煌めきを増し、悪魔が左腕に纏っていた闇が槍に変化してその手に握られる。

 

「ホーリーランス!」

「デモンズランス!」

 

2体の召喚獣が投擲した槍は、目にも止まらぬ速さで酒呑童子の両腕を貫き、足に刺さり、その巨体を床に縫い付けた。

 

「バカな……っ!」

「まだだ!」

 

島津の声でハっと上を見ると、悪魔と堕天使はまだ魔法陣を展開したままでいた。

 

「聖なる刃よ! 我に仇なす敵を討て!」

「裁きの時、来たれり。 還れ、虚無の彼方!」

 

両手を取りあった堕天使と悪魔の魔法陣が煌々と、禍々しく輝く。

それを見た大友は、秀隆と優子の方も見ると目を瞑って満足したように頷いた。

 

「見事だ」

「――ディバインセイバー!」

「――エクセキューション!」

 

酒呑童子の頭上に雷雲が現れ、無数の稲妻が雨のように振り注ぐ。さらに足元に出現した魔法陣からは、闇の奔流が下から突き上げ、上から闇の柱となってその巨体を飲み込む。

光と闇の最大魔法を受けて、酒呑童子は光の粒子となって霧散した。

 

    Aクラス 大友宗貴 化学 0点

 

「「俺(私)たちの勝ちだ(よ)」」

 

長いようで短かった戦いに、ようやく決着がついた。

 




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