バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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あれよあれよと詰め込んでいたらすこし長くなりましたが何とか間に合いました。
今回はカラオケにかこつけた本編で紹介できなかったオカルト解説回です。


番外編―バカとカラオケとオカルトの秘密

バカとカラオケとオカルトの秘密

 

無事に(?)特別補習を終えた明久たちは、今までの鬱憤を晴らすかのように夏休みを満喫していた。

そんなある日、明久たちは秀隆のバイト先である喫茶店『フランドール』からヘルプを頼まれアルバイトをしていた。

 

「いやぁ。助かったよ。ありがとう。急に頼んで悪かったね」

「いえ。僕も丁度金欠だったんで」

「…………俺も」

「俺も退屈していたところだったからな」

「困った時はお互い様なのじゃ」

「そう言ってもらえるとこっちも助かるよ。――はい。これ今日の日当ね」

「「「あざまーす!」」」

 

喫茶店のマスターから恭しく日当の入った茶封筒を受け取る。秀隆はまだ奥で掃除中なので、先に明久たちの清算を済ませる。

 

「あと、これも」

 

全員に給料袋を渡し終えた後、マスターはチケットのような紙も明久たちに配る。

 

「これは?」

「知り合いのやってるカラオケの割引券。良かったら使ってよ」

「良いんですか?」

「もちろん。うちじゃ使い切れないくらいもらったし。急遽きてくれたお詫びってことで」

「んじゃ。そういう事ならありがたく頂戴しとくか」

「そうじゃの」

「…………ありがたい」

 

いくら夏休みとはきえ、予定もなく家でゴロゴロしているだけでは気が滅入る。遊び盛りの男子高校生にとっては嬉しいサプライズだ。

 

「どうする? 今から行く?」

「流石に今からは遅いだろ」

「1枚で何人か使えるみたいじゃからの。後日姫路たちも誘って行けばよかろう」

「…………フリータイムも使える」

 

有効期限までもまだ日にちがあるので、後で皆に連絡して都合の合う日に集合となった。

 

「はぁ……。なんで私まで……」

「まぁまぁ。たまには姉上も外に出んとカビが生えるぞい?」

「元々生えてるようなもんだけどな」

「何か言ったからしら?」

 

カラオケに行く道中で優子、秀吉、秀隆はそんな会話をしていた。秀吉と秀隆に比べて、優子は明らかに気落ちしているようだ。

 

「私だって映画やゲームセンターならこんな気にはならなかったわよ」

 

優子が気落ちしている理由。それは行き先がカラオケボックスであることだ。

 

「ま、確かに優子の歌は独特だからな」

「そうじゃの」

 

優子は秀吉の双子の姉だけあって声質が悪いわけではない。むしろ同年代の子と比べても良い方だと言ってもいいだろう。

 

「……ハッキリと言ったらどうなの?」

「音痴」

「うぐっ……!」

 

ただし、音感がよろしくなかった。教科書通り歌っているはずなのに、いつも音程がズレてしまう。友だちとのカラオケも、専ら拍手やタンバリンを叩いてやりすごしていた。

 

「まぁ、完璧な人間なぞおらんということじゃな」

「猫被ってる時点でなぁ」

「何よ! Aクラスに恥じない振る舞いをするのは当然でしょ!」

「その優等生様が家では下着、ジャージ姿でBL本読み漁ってるとはな。クラスメイトが知ったら卒倒するんじゃないか?」

「霧島や工藤にすら隠し通しとるようじゃからな」

「当然でしょ。代表はともかく、愛子に知られたらどんな目にあうか……」

 

あっという間に学園中に知れ渡り、新聞部からの取材が殺到することだろう。

 

「まぁそれはそれとして、よく音楽の授業でバレなかったな」

「音楽は選択科目だもの。私はずっと書道を選択してたし」

「なるほどな」

 

楽器を演奏したり、歌を歌わなければ音感がないことが知られることはない。その辺りは上手く立ち回っていたようだ。

 

「じゃがどうするのじゃ? 今日は工藤らもおるようじゃし、流石に一曲も歌わんというわけにはいかんじゃろ?」

「……何とかするわ」

 

不安を胸に抱えつつ、3人は待ち合わせ場所に向かって行った。

 

「わー! 結構広いね!」

 

案内された部屋に入るなり、愛子が歓声を上げる。

通されたのは10数人程が入れるパーティールームで、天井にはミラーボールが吊り下げられていた。

 

「よーし! めいっぱい歌ぞー!」

 

愛子は早速ソファに座ると、デンモクを操作し始める。

今日集まったのはFクラスのいつものメンバーに、Aクラスから優子、翔子、愛子、トレイズの4人。ようはいつもの面子だ。聡たちもさそったが、旅行などの理由で都合が合わなかった。

 

「愛子ちゃんはよくカラオケに行くんですか?」

「うん。水泳部の子たちとね。瑞希ちゃんたちは?」

「私はあまり……」

「ウチも家族とたまに行く程度ね」

「私もです」

「……私も」

「私もね」

 

どうやら女性陣は愛子以外カラオケはほぼ行かないようだ。

 

「そうなんだ。吉井君たちは?」

「僕らもそんなには行かないかな」

「へぇ。以外だね」

「そうかな?」

「俺たちはたいてい明久の家で遊んでたからな」

「あ、そっか」

「それに明久が万年金欠だしな」

「カラオケは案外お金がかかるからの」

「俺はそもそも日本のカラオケは初めてだな」

 

明久が漫画やゲームといった物に浪費しているのもあるが、学割があるとは言えアルバイトなどの収入が乏しい明久にとってカラオケや映画は少し贅沢な娯楽だ。玲が帰ってきてから浪費は多少抑えられてはいるが。

 

「じゃぁ、今日は目一杯楽しもう!」

 

音頭を取った愛子が一曲入れる。歌うのは今流行のJ-POPだ。

そこから先は皆で順番に歌っていく。J-POPに流行りのドラマの主題歌や人気ロックバンドのカバー曲。雄二が洋楽を歌ったり、翔子が演歌、康太がラップを歌ったりと意外な一面も垣間見れた。

 

「はい。秀隆」

 

明久が今ハマっているアニソンを歌い終えてマイクを秀隆に渡す。

 

「ん」

 

秀隆がマイクを受け取ると同時にスピーカーから秀隆が入れた曲が流れる。

 

「あ、この曲……」

 

イントロのメロディを聞いた優子が反応する。優子が秀隆の方を向くと、秀隆は一瞬優子を見るが、直ぐにモニターに視線を移した。

秀隆が歌ったのは、とある男同士の友情を表した歌。喧嘩別れか、それとも別の理由か、袂を分けた2人が心では繋がっているというのもテーマにした歌。秀隆の好きなゲームの主題歌でもある。

 

「意外だね」

「え?」

 

優子の隣に座っていた愛子がポツリと呟く。

 

「神崎君って激しめのロック歌いそうなイメージあったけど、あんな優しい声で歌えるんだ」

「……そうね」

 

優子は愛子にそう一言だけ返す。恐らく愛子は知らないだろう。秀隆が歌っている主題歌のゲームがどんなものか。そこに出てくる2人の幼馴染がどう描かれているか。

そして、これは噂だが、この曲にはもう一つの特徴がある。

 

「ほらよ」

「え? っととっ」

 

物思いにふけっていたら、急に秀隆がマイクを放り投げてきた。慌ててキャッチしたので床に落とさずに済んだ。

 

「ちょっと。何のつもりよ」

「何のつもりって……。折角だからお前も歌えよ」

「えぇ……」

 

枯骨に嫌そうな顔をするが、秀隆はニヤついたまま。

 

「私は遠慮するわ」

「ええー! 歌ってよ優子〜!」

「これだけ人がいるなら私一人歌わなくても大丈夫でしょ」

「そういう問題じゃないよ! ボクらは優子の歌が聞きたいの!」

 

愛子が頑なに優子も歌うように訴える。優子は助けを求めて翔子や瑞希を見るが、皆期待したような眼差しを返してくる。秀吉を除けば男子側も似たようなもの。雄二ですら少し面白がっている。

 

「はぁ……。分かったわよ……」

 

観念してデンモクに曲を入れる。流行曲に疎いわけではないので歌詞は一応頭には入っている。しかし、それを歌うとなると優子の『歌』が余計に悪目立ちする。となるとここは――

 

「え?」

「同じ曲?」

 

スピーカーから流れてきたイントロは今しがた秀隆が歌ったのと同じメロディ。画面に出てきた曲目は違うが歌手は同じ。これはどういうことだと皆が首を傾げていると、画面に歌詞が流れ出す。

 

「「「英語版!?」」」

 

そう。秀隆た曲の特徴。それは英語歌詞版があることと。日本語と英語で2人の視点が入れ分かること。

この世の不条理に憤り闇に転がり落ちた1人と。それでも正義を信じて自分の正義を貫いた1人。互いに正反対の道を進みながらも、互いを思い合っていた2人。いずれまた道が交わることを信じて進む2人をそれぞれイメージした曲。

最初は眉唾物だと優子は思っていたが、曲を聴いたり翻訳したり、実際にゲームをしてみたりしてその噂が本当なのではと思うようになった。そう考えると納得のいくところもあった。何より、いつか2人のようになれたらと秘かに思っていたから。

 

「……ふぅ」

 

歌い終わってホッと一息を吐く。この歌はラストのサビ前以外はリズムも音程も分かりやすいので何とか歌うことができる。

 

「なんだ優子歌えるじゃん!」

「歌はあんまり得意じゃないの。結構外してたでしょ?」

「そうかな? 英語だからじゃない?」

 

それに、多少音を外しても『英語で不慣れだから』と言い訳もたつ。これなら自分の沽券に関わることもそうないだろうし、何より、

 

「ハハッ。そう来たかよ」

 

右手で顔を覆ってクツクツと笑う秀隆。コイツに一泡吹かせたと思えば、多少の恥など安いものだ。

 

「それじゃ、一通り歌ったところで――次はお楽しみのデュエットターイム!」

「「え?」」

 

テンションが急上昇する愛子に反比例して、雄二と優子が青ざめる。

 

「ちょっと待て工藤! デュエットは歌いたいヤツだけに歌わせればいいだろ!」

「そうよ愛子! 強制させるようなものじゃないわ!」

「えー。いいじゃん別に。減るもんじゃなし」

「「良くない!」」

 

雄二の寿命と優子の羞恥心とプライドが擦り減っていく。

 

「だいいち、それだと愛子は土屋君とデュエットすることになるのよっ!」

「…………なぜそこで俺の名前を?」

「んー? ボクは別に気にしないよ? というかデュエットって必ず『男女』である必要はないしー。それとも、優子はナニを想像したのかなー?」

「なっ!?」

 

ニヤニヤと厭らしい笑みを隠そうともしない愛子。完全に肝試しの時の復讐をするつもりだ。

 

「ま、いいんじゃないか? 工藤以外にも楽しみにしてるヤツらもいるみたいだしな」

 

そう言う秀隆の視線の先には瑞希や美波、トレイズ。カラオケデュエットとという合法的に(?)密着できる機会もそうそうないので、多少期待するのが思春期というものか。

 

「ちょっと秀隆。あんまり公序良俗に反するようなことは」

「たかだがカラオケに大げさな。――ほら、入れたぞ」

「え?」

 

優子が気づいた時には、秀隆は曲を入れ終わりマイクを握っていた。

 

「おー神崎君だいたーん!」

「んなんじゃねぇよ。とっとと面倒なことは終わらせたいだけだ」

「あははっ。神崎君らしいや」

 

秀隆が入れたのはとあるバンドの人気楽曲で、これまたゲームの主題歌。

 

「秀隆、この曲好きだよね」

「まぁな」

 

ゲームをしてない時でもよく聴くし、カラオケでも必ず歌う。鏡合わせの様な2人が傷つけ、傷つきながらもひとつになっていく歌。ともに業を背負って歩んでいく様を描いた歌。この曲も、ゲームをプレイしてから聴くとまた違った味わいがある。

何でこんな選曲をするのかと、優子は少し非難めいた視線を秀隆に向ける。

 

「ま、イヤなら普通に独りで歌うだけだ」

「う、歌うわよ!」

 

秀隆にアテられた気がして癪に障るが、この曲を一緒に歌えること自体は、悪い気はしなかった。

 

それからは、優子がお返しとばかりに同じバンドで、アニメのエンディングに使われている曲を入れたり、明久と瑞希、美波が3人で歌ったり、トレイズがガチガチに緊張して音を外しまくったり、翔子が雄二にデュエットを迫ったりと暫くワチャワチャとした時間が続いた。

ひとしきり歌って皆お腹が空いたということで、大皿のフライドポテトやピザを頼んで食事タイムとなった。

 

「――そう言えば」

 

明久が口いっぱいにポテトとピザを放り込んでいた時、リリアが不意に話を切り出した。

 

「翔子ちゃんと優子ちゃんの召喚獣って、結局なんのお化けだったんでしょうか?」

 

優子と翔子の肩がビクリと一瞬震える。

 

「確かにな。それに秀隆も悪魔もただの悪魔じゃなかったみたいだし」

「おいおい。何言ってんだよ。俺のは善良な悪魔だったろ?」

「悪魔に善良もクソもあるかよ。それにババアが言ってただろ。『怠惰の悪魔』ってよ」

「覚えてやがったか」

 

勉強にはほとんど使われないのに、こういう時には遺憾なく発揮される雄二の記憶力に秀隆は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「ババアの言葉を借りるなら、お前の悪魔は」

「そうだよ。お察しの通り『ベルフェゴール』だ」

 

これ以上の隠し立ては無意味、と秀隆はあっさりと白状した。

 

「やっぱりな」

「秀隆の特性を考えると、それ以外ないじゃろうな」

「…………納得」

「うるせぇよ」

 

雄二たちが頷く中、明久はキョトンとしていた。

 

「ベルフェゴールって、どんな悪魔だっけ?」

「……七つの大罪の一柱。『怠惰』あるいは『好色』を司る悪魔」

 

秀隆に替わって翔子が説明する。

 

「ん? 好色? 怠惰だけじゃないのか?」

 

そこに雄二が疑問を投げかけた。ベルフェゴールが怠惰の悪魔というのは知っていたが、好色は初めて聞いた。

 

「たしか、色欲の悪魔って別にいましたよね?」

「……それはアスモデウス」

「アスモデウス? リリスじゃなくて?」

「リリスはまた別だ。作品によっては同一視されるけどな」

「そこは今はいいじゃろう。して、何故ベルフェゴールは好色なのじゃ?」

 

明久たちはゲームや漫画での知識しかないが、ベルフェゴールが人を蠱惑するイメージはない。

 

「……ベルフェゴール自身が人を誘惑することはない」

「え? じゃぁどうして?」

「……ベルフェゴールの『趣味』が関係している」

「趣味? 悪魔のくせに趣味なんてあるのか」

 

とは言っても悪魔の趣味だ。普通のそれではないだろう。

 

「……人の営みを覗き見る」

「人の営み? 私生活ってことですか?」

「……夜の営み」

「「「あー……」」」

 

全員の微妙な視線が秀隆に刺さる。

 

「なんだよ」

「いやー……。何ていうか……」

「これ程までそのまんまな悪魔がいるとはな」

「そこまで酷くねぇよ!」

「似たようなものじゃろうに」

「…………一緒」

 

性格、言動、趣味。ここまで揃った妖怪もそうそうない。もはや必然と言ってもいいだろう。他の連中のオカルトは場合によっては変わっていたかもしれないが、秀隆のオカルトは変わらなかっただろう。

 

「なるほどな。それでお前は悪魔が出た瞬間微妙な顔をしたのか」

「ああ。全部見透かされたようで癪だったからな」

「本当に、システム自体はよくできておったのじゃの」

 

調整の失敗の賜物とは言え、人の本質を測るという点ではある意味成功していたと言える。

 

「本当。いい趣味してるわよね。アンタもベルフェゴールも」

「はっ。趣味に関してはお前に言われたかぁねぇな」

 

皮肉めいた視線を送る優子を、秀隆は鼻で笑った。

 

「趣味? 優子ちゃんの召喚獣も趣味が関係してるんですか?」

「う……それは……」

 

リリアに純粋な目を向けられて優子は思わず視線を逸らす。

 

「そうだよなぁ。あまり人に言えたもんじゃないようなぁ。――ベルゼブブさんよぉ」

 

優子が秀隆に「黙れ」と目線で訴えるが、秀隆は気にした風もなくニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。

 

「ベルゼブブってたしか」

「…………七つの大罪のひとつ。『暴食』を司る悪魔」

「だよな。けど、木下のは堕天使だったろ?」

「ベルゼブブは元々熾天使だ。それがルシファーと共に神に反旗を翻して堕天使になり、悪魔になったんだ」

「……ちなみにルシファーも七つの大罪の悪魔で、司るのは『傲慢』」

「へぇ。そうなのね」

「でも、それなら優子はベルゼブブよりもルシファーじゃない?」

「愛子。私が傲慢だって言いたいの?」

「だって初めて会った頃の優子って、何だかとっつき難かったもん。それに常夏先輩だっけ? あの人たちほどじゃないけど、時々こっちを見下してた感があったし」

「それは……」

 

これには優子もきつく反論はできない。優子も最初は『Aクラスらしい思考』をしていたからだ。自分より下のクラスは文字通り格下。なんならAクラス内でも自分より成績の低い生徒も無意識に見下していた節もある。加えて愛子の奔放な性格は、当時の優子には理解しがたく低俗と考えていたことは否めない。表では誰にでも等しく丁寧に接していたつもりだったが、愛子にはそれが慇懃無礼に見えていたそうだ。

 

「ま、俺がヤサグレていたとしたら、優子は自惚れたってことだな」

「その自惚れていた女に負けたのはどこの誰だったかしら?」

 

空中でバチバチに火花を散らす2人。明久たちは「ヤレヤレまたか」と生温かい目で眺めていた。

 

「う〜ん。でも、何でベルゼブブだったんだろ?」

「何がだ?」

 

明久は納得していないのか頭をひねる。

 

「ほら、秀隆の説明を聞くとさ、堕天使って神様に逆らったから地獄に堕とされたんだよね?」

「まぁ、そうだな」

「でも木下さんって誰かに反発してたわけじゃないよね?」

「たしかに、そうですね」

「優子が先生に逆らったなんて聞いたことないわね」

「Aクラスの中でも久保と並んで優等生って感じだな」

「でしょ? だからなんだかしっくりこなくて」

「「……」」

 

明久の指摘に、秀隆と優子は内心焦った。

ベルゼブブ、堕天使は神に反旗を翻した『結果として』地獄に『堕とされた』という認識が一般的だが、これは反旗を翻す『ために』地獄に『堕ちた』という解釈もできる。

だとしたら、考えられるのは合宿でのこと。流石に召喚システムがあの事まで把握しているとは考えにくいが、もしそうだとしたら、

 

「(絶対にコイツらにはバレてはいけない!)」

 

この面子に知られようものなら、またたく間に学園中に広まり、一躍時の人なるのは明白だ。優子はただでさえ肝試し以来『秀隆とはどうなったのか』と愛子たちから詰め寄られているのだ。絶対に隠し通さなければならない。

 

「ま、そんなに深く考えることでもないだろ。木下姉は秀隆(コイツ)とつるんでいるんだから、たぶんそれだろ」

「悪魔と一緒にいるから堕天使、というわけですか?」

「ちょっと坂本君。それだとまるで私が秀隆に絆されたみたいじゃない」

「似たようなもんだろ」

「違うわよ!」

 

たしかに漫画やゲームでは天使が悪魔に唆されて堕天するというのはよくある設定だ。しかし、それはそれとしてそう解釈されるのも癪に障る。現に優子の横では愛子が眉を三日月型に曲げて腹立たしいくらいにニヤついている。

 

「ほーら。やっぱり優子ってば神崎君のこと」

「だから違うって言ってるでしょ! それに、それが理由なら代表だって堕天使のはずでしょ!」

 

優子の言う通り、その解釈が成り立つなら、魔物(狼男)に絆されている翔子の召喚獣も堕天使になってもおかしくはない。

 

「バカなことを言うんじゃない木下姉。別に俺は翔子を誑かしてなんかいないだろ」

「似たようなもんでしょ」

「違うだろ!」

 

すっかり立場が逆転している。

 

「まぁ、霧島の召喚獣の解釈はあながちそれで間違いとは言えないんだがな」

「どういうことです?」

 

秀隆は優子の言葉を完全には否定しなかった。

 

「霧島の召喚獣は……たぶん清姫だな」

「「「清姫?」」」

 

聞き慣れない妖怪の名前に明久たちが疑問符を浮かべる。

 

「お前ら、安珍・清姫伝説って知ってるか?」

「知らない」

「どんな伝説なんですか?」

「ざっくり説明すると――」

 

その昔、安珍という大変美形な修行僧がいた。安珍は修行で訪れた地で宿を借りた。その荘園の主の一人娘である清姫が安珍に一目ぼれし、関係を迫ってきた。困り果てた安珍は『必ず戻るから』と嘘を言って逃げ出した。謀れたと知った清姫は怒り狂い、蛇となって安珍を追った。最後は寺の釣り鐘に隠れた安珍をそのまま焼き殺し、自らは河に身を投げた。

 

「っていう伝説だ」

「……なるほど」

「霧島の本質は『一途な愛(?)』と『雄二へのお仕置き』というわけじゃな」

「つまりは、『ヤンデレ』ってわけだ」

「んな本質であってたまるか! それに翔子が一方的なだけで俺がお仕置きなんてされるいわれがねぇだろ!」

「だから清姫なんだろうな」

「『嫉妬』ではないのがまた」

「…………それだと『橋姫』になる」

 

橋姫は『宇治の橋姫』や『丑の刻参り』で有名な妖怪で、こちらは『想い人に寄付く人』を妬むが、清姫は『自分を騙した男』を恨んでいる。

 

「坂本君たちの方がしっくりくるじゃない」

「……照れる」

「照れるな!」

 

雄二からしたら、翔子との関係を召喚システムにすら認知された形だ。認めるわけにはいかない。

 

「けど、清姫の伝説ってなんだか切ないですね」

「姫路。お前正気か? 安珍は一方的に関係を迫られた挙げ句殺されたんだぞ?」

「でも、清姫も死んじゃったんでしょ?」

「それは恐らく安珍を殺したことによる責任を」

「ちなみにだが、安珍と清姫は死後2人とも畜生道に堕ち、どこかの寺の住職に供養されて成仏したそうだ」

「それってつまり……」

 

翔子が雄二の腕にひしっと抱きつく。

 

「……『死んでも一緒』。『来世でも一緒』」

「ええい抱きつくな! そんなこと認めてたまるか!」

「本当に、2人はお似合いですね」

「そんなわけあるかぁあああっ!」

 

雄二の雄叫びが、防音壁を貫通して木霊する。

 

「まぁでも、坂本君と代表とはベクトルが違うけど、神崎君と優子も似たような関係ってことでしょ」

「違うわよ! どう解釈したらそうなるのよ!?」

「えー。でもこれが一番しっくりくるけどなぁ」

「そんなわけないでしょ! と言うかいい加減そのムカつく笑いを止めなさい!」

「いひゃい。いひゃいひょひゅうこ」

「坂本君も優子ちゃんも素直じゃないですね」

「「だから違うっていってるだろ(でしょ)!!」」

 

優子が愛子の口をこれでもかと横に引っ張る。

しかし、雄二と同じく頑なに否定するということは隠しておきたい何かがあるというわけで、瑞希やリリアはますます疑ってかかる。

 

「姉上と秀隆の関係性が姉上の召喚獣に影響されておるかはともかく、姉上の召喚獣が堕天使である理由はもっと単純じゃと思うぞい」

「え? そうなの?」

 

一方で、秀吉は優子の場合はもっとシンプルな理由だと言う。

 

「うむ。堕天使の『堕』の字は『堕落』という言葉にも使われるじゃろ?」

「言われてみればそうですね」

「ならば、姉上の生活態度を鑑みれば」

「秀吉。それ以上何か言ってみなさい。どうなるか分かっているわよね?」

「……なんでもないのじゃ」

「「「???」」」

 

急に口を閉じた秀吉に消化不良になる明久たち。秀隆は思い当たる節があるのかケタケタと笑っている。

 

「はっ。なるほどな。たしかに、そっちの方が有力っぽいな」

「秀隆も何か分かったの?」

「ああ。秀吉の言うように、堕天使は堕天使でも『堕落した』天使ってことだ。いや、駄目な天使で『駄』天使かもしれねぇな」

「なんですって!?」

 

駄天使とまで言われては優子も黙ってはいられない。

 

「アンタにだけは言われたくないわよ! 堕落が服着て歩いてるくせに!」

「それは否定しないがお前も大概だろ。イヤなら『家』での生活態度を改めるこったな」

「アンタは学校での生活態度を改めなさい!」

「それは無理ってなもんだ。なんたって、俺は怠惰の悪魔なんでね」

「アンタはまたすぐそうやって! また西村先生に怒られても知らないわよ!」

「ははっ。蝿の王が何か言ってら」

 

優子は秀隆を怒鳴りつけるが、まるで効いていない。むしろ煽られて青筋が浮かんでいる。

 

「蝿の王?」

「ベルゼブブの別名だよ。挿絵とかだと翅に髑髏のある蝿だったりするんだ」

「へぇ。……何で蝿?」

「それは知らねぇけど、優子なら納得だな」

「……そうじゃの」

「どうして優子ちゃんなら納得できるんですか?」

「どうしてって、そりゃぁ」

 

秀隆はニヤリと意地悪く、秀吉は呆れて呟くように言った。

 

「「蝿は腐ったモノが好きだから」」

「……アンタたち。遺言はそれでいいのね?」

 

第二次リアル肝試しがここに勃発した。




秀隆と優子が歌っている曲は完全に個人の趣味です(むしろ歌わせてみたかったから書いたまであるw)。

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