バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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夏休み編その③。車内(秀隆サイド)とちょっとした寄り道回です。少しだけ秀隆の過去にも触れます。

※予約投稿時間ミスって少し遅れてしまいました


夏休み海編③

夏休み海編③

 

時間がもったいないのと話は車内でもできるというわけで、明久たちは車に分乗してペンションに向かうことにした。

玲の運転する車には、明久、雄二、秀吉、康太、瑞希、美波、翔子、愛子が、残りの秀隆たちは竜史の車に乗りペンションを目指す。

 

「ふぁ〜……」

「こら秀隆。いい加減シャキッとしなさい」

「んなこと言ったてよ……お前らが早すぎんだよ……」

 

集合した時のやり取りをまた繰り返す優子と秀隆。いくらか目は冴えてきたとは言え、まだまだ眠気は残っていた。

 

「相変わらず朝が弱いな」

「どうせ夜中までゲームしてたんじゃない?」

 

運転席と助手席に座る竜史と雅子が茶化す。秀隆は不満そうに鼻を鳴らすと「違ぇよ」と否定した。

 

「普通に11時くらいには寝たよ」

「十分寝てるじゃない」

「平日ならな。なのに、なんで夏休みの朝6時に叩き起こされなきゃならねぇんだ」

 

集合時間は朝の9時。秀隆の予定では8時に起きれば十分に間に合うはずだった。玲や竜史もそれを見越してレンタカーを借り、早めに集合場に着く予定だった。

ところが朝の6時過ぎに秀隆宅を優子が訪問。合鍵で侵入してまだ夢の中にいた秀隆を現実に引きずり戻した。

 

「何いってんのよ。5分前行動は当たり前でしょ」

「5分どころじゃねぇだろ! (俺の)予定の2時間も前に起こされたんだぞ! 遠足前の小学生じゃねぇんだっつぅの!」

「それはどっちかっていうと眠れない方じゃ……?」

 

前から2番目の席に座るリリアが苦笑いを浮かべる。

因みに10人乗りの車なので座席は前から順に2人、2人、3人、3人、となっている。運転席と助手席には小鳥遊夫妻。その後ろにリリアとトレイズ。真ん中の3人席に優子ら女子3人。残りの男子3人が最後部となっている。

 

「まったく。ほら。これでも飲んで目を覚ましなさい」

 

と言って優子が中身の入ったペットボトルを後ろに回す。

 

「炭酸水か」

 

受け付けとった秀隆がキャップを回すとプシュッという噴出音と共にペットボトルの水がシュワシュワと泡立つ。

秀隆は一口二口飲むと、喉を刺激する炭酸に「くぅ〜!」と喉を唸らせた。

 

「少しは目が覚めた?」

「ちぃとはな」

 

秀隆はキャップを閉めると、まだ中身の残るペットボトルを優子の顔の横に置く。

 

「へ?」

「ん? いらないのか?」

「そ、それはアンタにあげるわよ! 私の分は別にあるから!」

「? そうか。なら後で菓子でも買って返すわ」

「別にそれくらい……」

 

そんな2人を、裕香や誠たちはニヤニヤとニヤけながら見やり、聡は嫉妬の眼差しを秀隆に向けていた。

 

「まったく。素直じゃないねぇ」

「昔の君と同じさ。ねぇ、悪いけどお茶のペットボトル開けてくれる?」

「あいよ」

 

雅子はホルダーに入ったお茶のペットボトルを開けると竜史に渡す。

 

「ありがと」

 

竜史は左手で受け取ると、そのまま二口ほど飲み雅子に返す。

 

「私も貰っていい?」

「いいよ」

 

雅子は受けとったペットボトルにそのまま口をつけ、半分ほど飲み干した。

 

「おいおい。僕の分も取っといてよ?」

「大丈夫。分かってるよ」

「本当かなぁ?」

 

呆れたように呟く竜史に、雅子はニヒヒと笑い返す。後ろから見ていると、本当に中の良い夫婦だ。

 

「いいなぁ」

「憧れちゃいますねぇ」

 

裕香と亜美が羨ましそうに2人を眺めている。後ろの彼氏組はというと、誠はニコニコしままで、聡が慌ててそっぽを向くという真反対な反応だった。

 

「そんな良いものでもないよ。学校ではどうかしらないけど、彼女は家だとガサツだしだらしないし、本当に女性かと疑いたくなるよ」

「はん。その中身おっさんに惚れたバカはどこのどいつだっけ?」

「……そこまで言ってないだろ」

 

惚れた弱みというわけか、竜史は雅子にそこまで強くでれないようだ。

 

「ま、その分ベッドの上ではしおらしくしてるじゃないか」

「「「ベッドの上!?」」」

 

青少年たちの顔が一気に茹で上がる。

 

「ちょっと! 子どもたちの前で何言ってんのさ!?」

「ガキだっつってももうコイツらも高校生だぞ? ソッチの知識も経験もあるだろ?」

 

雅子が厭らしい笑みを浮かべて後ろを振り返る。当然その視線に目を合わせる者はなく、皆顔を耳まで真っ赤にして俯いていた。

 

「なんだい。優子たちといいアンタたちといい。もう少しはっちゃけても良いだろう。ま、間接キスを恥ずかしがるお子ちゃまには刺激が強すぎたかな?」

「いや、僕らの世代でもだいぶアウト寄りだったからね」

 

ため息を吐きながら竜史がボヤく。奔放、までとは言わないまでと、雅子もかなりオープンな性格なようだ。愛子が大人なったらこうなるんだろうなぁと優子は内心嘆息した。

 

「ん? ちょっと待ってくれ。木下といいってことは」

 

と、ここで聡が何かに感づいた。

 

「秀隆と木下は『そんな雰囲気』になったってことか?」

「「…………」」

 

今度は2人が目を逸らす番になった。

 

「おい」

「さて優子さんや。取り敢えず海にでたらナニをする?」

「そうね秀隆さん。取り敢えず少し泳いで、スイカ割りはやるとして……ビーチバレーなんかもありかしらね?」

「夜に花火もいいな」

「いいわね。海の家で売ってるかしら?」

「露骨に話をそらしやがった!」

 

窓の外を見ながら棒読みで会話する2人に、聡は痺れを切らした。

 

「畜生! 秀隆のクセに! お前は裏切らないと思ってたのに!」

「俺のクセにってどういう意味だよ。てかお前に言われたくねぇよ」

「どうせお前らは俺らの知らないとこでアンナコトやコンナコトしてたんだろ!」

「「してないわっ!!」」

 

2人が車外にまで響きそうな大声で叫ぶ。

 

「ふふっ」

 

と、優子の横で裕香が笑い声を漏らす。

 

「一之瀬さん?」

「あ、ごめんなさい。木下さんもちゃんと女の子なんだなぁって思って」

「どういう意味?」

「あ、変な意味じゃないの。ほら、その……Aクラスの人って私たちからしたら上流階級っていうか、お貴族様なイメージあったから」

 

Aクラスは完全実力主義の文月学園の中でもエリート中のエリート。基本的には生徒の模範となるべく成績優秀、品行方正な生徒が多いが、中には常夏コンビのようにその地位に胡座をかいて他を見下す生徒も少なくない。もちろん、誠や愛子のようにAクラスらしからぬ生徒もいるが。

 

「……愛子も言ってたわね。私ってそんなに慇懃無礼だった?」

「そこまでじゃないけど、雲の上の人ではあったかな」

 

優子はAクラスとして、率先してリーダーシップを発揮していた。代表が少し事務的な作業に不安があるというものあったが、Aクラスで先生やクラスメイトの期待に応えるのは優子としても苦ではなかった。むしろ誇らしいくらいだ。

人当たりも良く接していたはずなのに、愛子に慇懃だと思われたと知って少しショックを受けるくらいには。

 

「だから遊びとか恋愛とか、そういった事に興味ないのかなぁって」

「あのね一之瀬さん。私もアナタと同じ女子高生なのよ? 息抜きに友だちと遊んだりするし、別に恋愛に興味がないわけじゃないわ」

「そう? でも木下さんに告白されるとゴミを見るような目でフラれるって噂立ってたよ?」

「誰よそんな噂流したのはっ!!」

 

ワナワナと怒りで肩を震わせる優子の後ろでは秀隆がケタケタと嗤っている。

 

「だから神崎君と幼馴染みって知った時は驚いちゃった」

「俺も俺も。秀隆って中学ん時から暴れまくってたからさ。木下と幼馴染みでよく遊んでたって聞いた時は信じられなかったぜ」

 

裕香に聡が同調する。雄二と翔子にも言えることだが、2人はAクラスの優等生とFクラスの落ちこぼれ。普通は接点があるとは思わない。ましてや秀隆は観察処分者だ。男女関係なく関わり合いになりたくないと思うだろう。

 

「ま、中学は別の学校だったし、その頃は絶縁してからな」

「それでよく仲直りできたよなぁ」

 

トレイズが不思議そうに呟く。そこまで関係に亀裂が入っていたのなら、普通は仲直りどころか、二度と会いたいとすら思わないだろう。

 

「私は知ってましたよ」

「ん?」

「神崎さんが仲直りしたがってたこと」

「「「えっ!?」」」

「ね、誠さん?」

「あ、うん。そうだね」

「「「ええっ!?」」」

 

亜美の突然の暴露に、裕香たちだけでなく、優子も秀隆も驚いた。

 

「亜美ちゃんそれ本当!?」

「はい。前に神崎さんが」

「ちょっと待て時任! 俺はそんなこと一言も話したことないぞ!」

「時任さん詳しく教えて!」

「えっと……中学校の時に誠さんとちょっと喧嘩した時があって」

「そんな事もあったわね」

「それでムシャクシャしながら歩いていたら、知らない路地に入っちゃって」

「無意識に歩いてたんですね」

「前の美波と同じ感じね」

「それで怖いお兄さんたちに囲まれてしまって……」

「大事になってるじゃないか」

「それを神崎さんが助けてくれたんです」

「へぇ。あのヤンチャ坊主がねぇ」

「うっせぇぞマサ姉」

「その後すぐに誠さんも来てくれて。――その時に神崎さんが言ったんです」

「なんて?」

「仲直りできる内に仲直りしとけ。俺みたいになるなって。だから神崎さんも誰かと仲直りしたいと思ってるんじゃないかなぁって」

「「「へぇ〜」」」

 

無数の三日月が秀隆に集中する。

 

「……んだよ」

「いやぁ」

「神崎君も意外と男の子してたんだなぁって」

「……うっせ」

 

秀隆は乱暴に座席に背中を預ける。

 

「だから、神崎さんが木下先輩と仲直りできたって誠さんから聞いた時は時は嬉しかったです」

「亜美ちゃん神崎君のこと尊敬してたもんね」

「そうなの?」

「はい!」

 

優子は秀隆に慕われる後輩がいることに驚きを隠せなかった。

 

「神崎さんは私と誠さんのキューピッドですから!」

「キューピッドぉ?」

 

優子が胡散臭そうに聞き返す。

 

「はい。実は私中学校からこっちに引っ越してきたんですけど、町中で迷子になってしまいまして、当日は携帯電話も持ってなかったんでお母さんとも連絡が取れず……」

「また襲われた?」

「はい……。正確にはそれが初めてでした」

「危ないなぁ。それで?」

「そこに誠さんが駆けつけてくれて、身を挺して私を守ってくれたんです」

「鳳君カッコいいですね!」

 

リリアが手放しで誠を褒めると、誠は気恥ずかしそうに後頭部をかいた。

 

「たまたま路地裏に連れ込まれるのを見かけたから」

「それでも行動できるのは立派だよ」

「危険だからできれば警察に通報してほしいけどね」

 

刑事である竜史が苦笑しながら注意する。

 

「誰かさんの悪影響ですかね?」

 

誠が横に目線を向けながら惚けるようにうそぶく。その誰かさんは不貞腐れたように鼻をならしていた。

 

「それで、どうなったの?」

「まさか鳳がその悪漢たちをやっつけたのか?」

「いいえ。そこに神崎さんが来てくれたんです」

「それであっという間にソイツらを倒しちゃったんだ」

「秀隆らしいわね」

 

優子が首だけを後ろに向けると、秀隆はまだ外を見ている。

 

「それで、時任ちゃんは誠に惚れちゃったと」

「はい。その後も何度かお話して、誠実な方だと感じたので」

「なんだか漫画やドラマみたいですね!」

「そんなに大したことはしてないよ」

「女の子を悪漢から守ったのは十分大したことだろ」

「それも秀隆がいてくれたからだよ」

「秀隆に惚れなかったのは賢明ね」

「それは同感」

 

秀隆を置いてけぼりにして優子たちがキャイキャイと笑い合う。

 

「つまり、鳳君と時任さんを秀隆が助けたから、そこからお付き合いが始まったわけね?」

「はい! だから神崎さんは私たちのキューピッドなんです!」

 

満面の笑みで答える亜美に、聞いていた優子も少し誇らしげだ。

 

「しっかし、秀隆も損な性格してるよなぁ」

「そうだね」

 

話が終わった後、聡が呆れたようにボヤく。誠もしたり顔でそれに同意した。

 

「損な性格? このサボり魔の不良が?」

「お前に言われたくねぇよ蝿の王」

「なんですって!?」

「まぁまぁ」

「けど神崎って二つ名がつくほどの札付きだったんだろ?」

「秀隆が泣く子も黙る不良だったのはそうだけど、コイツから喧嘩をふっかけたことなんてほとんどないぞ」

「そうなの?」

 

これは優子にも意外だった。悪鬼羅刹と呼ばれた雄二と同様に、ムカつくヤツらに片っ端から喧嘩を売っていたと思っていた。

 

「たいていは因縁つけられて向こうからふっかけてきた喧嘩だったよ」

「……因縁をつけられるように誘導して、じゃなくて?」

「それも否定はできないね」

 

優子の疑問に、誠も苦笑いする他ない。

 

「まぁでも、秀隆って目立つ見た目してるから割りと簡単にイチャモンつけられそうだし」

「それもそうね」

 

銀髪に赤目で目つきも悪いとくれば、イキった不良やチンピラが因縁をつけてきても不思議ではない。実際、見てもいないのに『ガンを飛ばされた』と喧嘩を売られた回数は数しれず。喧嘩の理由には事欠かなかった。

 

「後は僕らみたいに誰かを助けるためだね」

「だな。俺と裕香も助けられたし」

「九条たちも秀隆に助けられてかは付き合い出したのか?」

「ううん。私たちは家が隣同士で、いつも一緒にいたから」

「いつの間にか付き合っていたと」

「恋愛漫画みたいですね!」

「ふふ。ありがとう。でも、そんなロマンチックなものじゃなかったわよ」

「そうなんですか?」

「ええ。――そうだ聞いてよ。聡ったら告白する時に漫画の引用してプロポーズみたいな台詞言ったのよ?」

「ちょっ!? 裕香さん!? それは秘密の約束でしょお!」

 

どうやら聡の中では告白は黒歴史化しているようだ。騒ぐ聡を宥めすかすように誠が締めくくる。

 

「ま、ようは人は見かけによらない、噂はアテにならないってことだね」

「見た目と言動で勘違いされやすいけど、話してみると案外秀隆も人の子だったってわけだ」

「人を鬼の子みたいに言うんじゃねぇよ」

「けど、私もその気持ちは分かります。私もFクラスでお話してから神崎君と仲良くなりましたし」

「俺も如月ハイランドで遊んでからだな。案外良いやつなんだなって」

「お前らマジで俺のことを何だと思ってたんだよ……」

 

秀隆が不機嫌そうにため息を吐く。その吐息を、優子は呆れ半分、嬉しさ半分で聞いていた。中学の時の秀隆のことは噂でしかしらなかったけど、ちゃんと支えてくれていた人がいて良かったと思う反面、その場に自分がいなかったことに一抹の後悔を覚えた。

 

「ま、どっかの誰かさんは助けた瞬間にビビって逃げ出したけどな」

「……」

 

秀隆の何気ない言葉に、優子の肩が一瞬ピクリと動く。

 

「仕方ないよ。秀隆怖いもん」

「んだと?」

 

死角になっているせいか、秀隆はそれに気づくことはなく、誠や聡とじゃれ合っていた。

 

「木下さん大丈夫?」

「ええ。大丈夫よ」

「そ、そう? 何だか笑顔が怖いような?」

「気のせいよ」

 

海で覚えてなさいよ、と優子は心の中で呟いた。

 

「ん?」

 

しばらく雑談をしながら走っていると、秀隆の携帯電話が鳴った。

 

「明久?」

 

画面を見ると明久からの着信だった。少し訝しがりながら電話に出る。

 

「もしもし?」

『あ、秀隆? 姉さんがこの先の道の駅でトイレ休憩しよって』

「道の駅?」

「そう言えば、さっき案内標識があった気がする」

「たぶんそこだな。リュウ兄ー! 明久が道の駅で休憩しようってさ!」

「分かった!」

「こっからだと、後10分位だね」

 

地図を見ながら雅子が竜史に指示を出す。

 

「オーケー。そこで一旦落合うか」

『うん。また後で』

「おう」

 

通話を切った後時間を確認すると、出発してから1時間半ほど経とうとしていた。そろそろ座り続けるのにも疲れてきた頃なので休憩するには丁度いい。秀隆たちはしばしの寄り道をすることになった。

 

「あ〜〜……。腹減った……」

 

道の駅に着いた明久たちは、取り敢えず各々トイレや軽食を買いに少しの間解散した。

少し遅れて車外に出てた秀隆は、大きく伸びをしてコリをほぐす。ようやく眠気も覚めてきて、空腹を覚える。

 

「売店か屋台で何か買う?」

 

財布の入ったポシェットを持って優子が尋ねる。道の駅の屋内にはお土産などを売っている売店、屋外の敷地内には牛肉の串焼きやお団子などの屋台に、テントでは地元で採れた野菜や果物、それを使ったスムージーなどが売られている。

 

「そうだな。さっきの炭酸水の礼に何か奢るわ」

「別に気にしなくてもいいわよ」

「借りはすぐに返す主義なんだよ」

「何よそれ……じゃぁ、スムージーでも買ってもらおうかしら」

「あいよ」

 

2人してスムージー売り場に行く。売り場には60を過ぎたであろうお婆さんが店番をしていた。その横では同じ歳くらいのお爺さんが網で牛串を焼いている。

 

「お姉さんスムージー2つ」

「あいよ。どれにする?」

「私はベリーのスムージーで」

「俺は野菜スムージーにするか」

「800円ね」

「はいよ……あとそっちの串焼きも2本もらえる?」

「いいよ。お爺さん串2ね」

「あいよぉ!」

 

牛串を焼いていたお爺さんが景気よく叫ぶ。

 

「朝から良く食べるわねぇ」

「1つはお前のだぞ?」

「え? 何で?」

「何でって……食べたそうだったから?」

「そんなに食い意地張ってないわよ」

 

優子は抗議するが、腹の虫がそれを許さなかった。

 

「はは。身体は正直だな」

「……変な言い方しないでよ」

「ふふ。まぁまぁ。良くできた彼氏さんじゃないかい」

「か、彼氏!?」

「なんだ、違うのかい?」

「え、えっと……」

 

優子は答えに窮しながらスムージーを受け取る。

 

「婆さん。余計なお節介は止めな。そんくらいの歳の子は色々と複雑なんだよ」

 

焼き上がった串を紙袋に詰めながらお爺さんがお婆さんを窘める。

 

「ほらよ。いいトコ焼いといたぜ」

「ありがとうございます」

 

秀隆は代金を払って牛串受け取る。

 

「兄ちゃん」

「ん?」

「女の子には優しくな?」

「肝に銘じておきますよ」

 

秀隆はお爺さんのお節介に苦笑しつつ、買った物を持って明久たちと合流した。

 

「お、秀隆。美味そうなもん食ってんな」

「おう。美味いぞこれ」

 

言いながら秀隆が牛串を一口齧る。ブランド牛ではないが、ミディアムレアに焼けている赤身肉は柔らかく、炭と香辛料の香りも相まって食欲を唆る。その香りだけで、明久も口の端からよだれが止まらない。

 

「アキ。はしたないわよ」

「だって……」

「仕方ありませんね。1本だけですよ?」

「本当? ありがとう姉さん!」

 

玲から千円札を受け取ると、明久は子どものように駆けていった。

 

「俺も買ってくるかな」

「……私も行く」

「ウチも。優子のスムージー見てたら飲みたくなっちゃった」

「私もご一緒します」

 

雄二たちも明久を追いかけて歩く。

 

「康太と秀吉は行かないのか?」

「ワシはさっきお茶を買ったからの」

「…………肉は消化に悪い」

「確かにな」

「なら、ボクがバナナでも買ってこようか? 空腹だと余計に酔いやすいらしいし、何かお腹に入れておいた方が良いよ」

 

少し車に酔ってぐったりしている康太を愛子が気遣う。

 

「…………助かる」

 

普段は愛子に対して素っ気ない康太も、今回は素直に好意を受け付けとった。愛子はひとつ頷くと、康太のためにバナナを買いに行った。

 

「しっかし、珍しい組み合わせだよな」

 

愛子たちを見送った雅子がポツリと呟いた。

 

「何がですか?」

「いや、ここに居るのってほとんどAクラスとFクラスだろ? 私たちの時代だと考えられない組み合わせだからさ」

「やっぱり当時から格差は酷かったんですか?」

「そうだね。露骨なイジメみたいなのはなかったけど、仲良くしてる子はあんまりいなかったかな」

「ましてや学年主任と観察処分者が一緒にいるなんてありえなかったね」

「そもそも観察処分者が居なかっただろ」

 

学園初の観察処分者は明久なので、雅子たちの時代には観察処分者こそいなかったが、それに匹敵ふるほどの素行の悪い生徒はFクラスに多くいた。だがそう言った背景を抜きにしても、当時からAクラスとFクラスが共に何かをする機会はほとんどなかったそうだ。それこそ、上流階級と貧困層くらいの隔たりがあった。

 

「ま、時代は変わったってことだよ」

「俺たちが特別なだけかもな」

「それでも、だよ」

「そうですね。皆さん、これからもアキくんと仲良くしてくださいね」

「「「もちろん」」」

 

その後は少しの間軽食とトイレ休憩をして、再び海とペンションを目指すべく車に乗り込んだ。

 




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