バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は夏休み海編その4。ペンション到着からビーチの一幕までです。

諸事情により突貫&短めですがご了承ください。


夏休み海編④

夏休み海編④

 

道の駅から更に車で走ること2時間弱。明久たちは目的のペンションに辿り着いた。

ペンションは緑に囲まれながらも潮の香りが届くような好立地だった。

 

「わぁ……。眺めも良いですね……」

「凄いわねぇ〜。風も気持ちいいし」

「……絶好のロケーション」

「晴れてて良かったよね〜」

 

小高い丘の上にと言うだけあって眺めは絶景。風通りも良く、頬を撫でるよそ風が心地よい。

 

「建物も可愛いですね」

「レトロって感じよね」

「何だかワクワクドキドキします」

「リリアが言うと何か起きそうで怖いわ」

 

ミステリードラマの撮影にも使われたというペンションは、建屋は大正時代に建てられた物を改修して使っているらしく、モダンな外観ではあるが設備は最新式らしい。内装も基本的には当時の様式を残しているそうだ。

 

「…………良い被写体になる」

「ですね!」

 

いつの間にかカメラを取り出していた康太と亜美は建屋や風景をバックに頻りにシャッターを切っている。もちろん、康太はペンションや景色を眺めている女子がメインだが。

 

「あれ? 時任さんもカメラが趣味なの?」

「あ、はい。お父さんがフォトグラファーなので」

「へぇ。そうなんだ。そのカメラもお父さんの?」

「これはお父さんからのお下がりなんです」

 

亜美が明久の前に掲げて見せたのは一眼レフカメラ。小さな亜美の手で持てるのかと不安になるくらいの大きさで、年季もそれなりに入ってて少し違和感もあったが、父親のお下がりと言われて納得した。

 

「なら結構良いもんなのか?」

「…………今も愛好家がいるくらいの一級品」

「そうなんですか?」

「…………(こくり)」

「てことは、かなり高価なものなんだな」

「お父さんは古臭いっていってましたけどね」

 

と、亜美は苦笑する。だが康太の言うことが事実なら、多少年季が入っていても好んで使う人が多いカメラだということだ。職人気質の照れ隠しだということはすぐに分かる。

 

「土屋先輩のカメラは最新型ですよね?」

「…………春に出た新モデル」

「良いですねよそれ。画素数も高くて――」

「…………それだけじゃない。この遠望レンズと合わせると――」

と、唐突に康太と亜美のカメラ談義が始まった。康太も亜美も普段からは考えられないくらい饒舌になっている。

 

「鳳君いいの?」

「何が?」

 

それを遠目から眺めていた愛子が誠に尋ねた。

 

「時任さん、土屋君と楽しそうだけど」

「そうだね。僕だとカメラの話は聞くことしかできなさいから、話し合える友だちができて楽しいんだろうね」

「鳳君はそれでいいのカナ?」

「その質問の意図は聞かないでおくけど。まぁ、趣味の分かる異性は誰にでもいるし。けど、それで心変わりとは限らないでしょ?」

「ずいぶんと余裕なんだね?」

「余裕ってわけじゃないよ。ただ、好きな人が楽しそう。それだけだよ」

 

愛子が「ちぇ〜」と面白くなさそうに口を尖らせるのを、誠は微笑ましく見ていた。

 

「おーい皆ー! 荷物を置いて海に行こう!」

「「「はーい!!」」」

 

ペンションの換気も終わり、明久たちは早速海に繰り出すことにした。

 

「んで、俺たちは待たされるわけか」

「しかたないよ。女の子は水着の準備に時間がかかるんだから」

「スペースが空いててよかったよ」

「結構人来てるからな」

 

一足先に水着に着替えた明久たち男子組がビーチ着いて約20分が経過した。

大型のレジャーシートとパラソルを2組セットして女子を待つ。シーズンゆえかビーチは8割ほどが海水浴客で埋まっていたが、運よく大きめのスペースが空いていたので何とかそこにレジャーシートを張って居場所を確保できた。

余談だが野郎どもの水着はハーフパンツスタイル。秀隆だけは競泳選手のようなピッチリしたタイプだった。

 

「…………こっちも機材の準備に時間がかかるから助かる」

「ですね」

 

一方、康太と、女子の中では最初に海にでた亜美は、カメラの準備に勤しんでいるようで、レンズを磨いたり予備バッテリーの確認などをしている。

因みに亜美の水着は白のワンピースタイプでロングヘアや麦わら帽子とによくマッチしている。

そうしてのんびり時間を過ごしていると、遠くから微かな会話が明久の耳に届いた。

 

『……む。明久たちはあそこじゃな。おーい、お主ら――』

『あ、あなたっ! 何をしているんですかっ!?』

『んむ? なんじゃ監視員の方じゃな。そんなに血相を変えてどうしたのじゃ?』

『どうしたのじゃ、ありませんっ! どうしてあなた上を着ていないんですか!』

『??? どうしてもと言われても、普通男物の水着には上はないものじゃと』

『女の子が男物の水着を着ている時点で間違っているんです! とにかくこっちに来なさい!』

『ま、待つのじゃ! ワシは男じゃからこれで良いと』

『どうしたの木下君?』

『何かあった?』

『おお、小鳥遊夫妻! よい所に来てくれたのじゃ! この監視員を説得してはくれぬか?』

『説得?』

『あなた達がこの子の保護者ですか?』

『あ、はい。一応』

『女の子に男物の水着を着せるなんてどういう教育をしてるんですか!?』

『いや彼は歴とした男の子で』

『男の娘?』

『監視員殿、『こ』の字のニュアンスがおかしいと思うのじゃが』

『彼は男子なので上の水着は必要ないかと』

『仮にそうだとしても、彼に上半身裸は認められません』

『何故なのじゃっ!? ワシは男じゃと』

『……木下。諦めてTシャツかパーカーでも羽織っときな』

『小鳥遊女史まで!? いったい何故なのじゃ!?』

『いいか木下。私らはお前が男だって理解はしてる。けど残念ながら、他の人からはそう見えないんだ』

『じゃから男らしさを見せるために』

『坂本みたいに筋肉があるならともかく、その顔を初見で男と見破るのは無理だ』

『……もしこの監視員さんが木下君を男だと認めても、他の人が通報する可能性があるというわけだね?』

『そうです。その可能性がある以上、この子には上着を着てもらいます。最近は彼のような小柄な子を狙った事件も増えてきてますので』

『最近は男女問わず物騒だからね』

『それを言われると、僕も職業柄見過ごせなくなってしまうね』

『つうわけだ木下。ビーチの治安とお前の安全のためにそ水泳用のパーカー買うぞ』

『ぐぬぬぬ……』

『大丈夫。男の人だってパーカーくらい羽織るさ。現に僕だって着てるし』

『それはそうじゃが……』

『上を着ないと絶対に海水浴場には入れませんからね! 途中で脱いでもダメですよ! きちんと遠くから双眼鏡で監視してますからね!』

『いや、そこは他もちゃんとみといてほしいのじゃが……』

 

あまり詳しい内容は分からなかったが、秀吉が監視員の人と少し揉めた後、小鳥遊夫妻と海の家へ行くのが遠目に見えた。

 

「秀吉、何かあったのかな?」

「うん?」

「いや、さっき小鳥遊さんたちと海の家に行くのが見えたような気が」

「海の家? 買い出しか?」

「分かんないけど、監視員さんと何か言い争っていたような?」

「あー……。なら心配ないだろ。小鳥遊夫妻もいるなら大事にはならないだろうしな」

「? まぁ、そうだね」

 

女性陣(と秀吉+小鳥遊夫妻)が中々やってこないので、明久たちは適当に駄弁りながら軽く準備運動をしながら過ごすことにした。

 

「それにしても、今回は玲さんたち様々だな」

「ん? 車のこと?」

「たしかに、吉井の姉貴や小鳥遊さんが車出してくれなかったらここまで来られなかったか」

「そもそも、海に行くって話もなかっただろうしね」

「それもるが、『不純異性交遊の禁止』ってヤツだ。あれのおかげで翔子がおとなしくなってくれて助かる」

「ああ、それね。たぶん姉さんは僕にしか適応させるつとりはないと思うけど……」

「それでも小鳥遊夫妻がいるだろ。警察と学園関係者の前で下手なことはできないだろ」

「マサ姉は気にしない気がするな」

「旦那がいるだろ。あの人は常識的な人っぽいから抑止力になってくれるはずだ」

「どうだろうな。リュウ兄も流されやすいから」

「刑事でそれはどうなんだ?」

「ま、とにかく全員、ってことにしておいてくれ。その方が都合がいい」

「え〜? どうしようかな〜?」

 

日頃の仕返しでもあるのか、明久が雄二のお願いにもったいつけるように言う。

 

「別に、言いたいなら言っても良いが、その時はお前にも相応の報いを受けてもらう」

「報い?」

「島田とのキスをバラす」

「天地神明に誓って黙っておくよ」

 

仕返しよりも自分の命が優先だ。

 

「おい吉井! あの噂本当だったのか!?」

「へ?」

 

横で聞いていた聡が驚いて大声を上げる。

 

「島田とキスしたのか!?」

「え? あっ!? え〜と……」

 

あの時のゴタゴタで忘れていたが、明久と美波がキスをしたというのが事実だと知っているのは明久や清水らの当事者だけで、聡は一応協力関係にあったが真相は分からずじまいでいた。

 

「キスくらいでグダグダ言ってんじゃねぇよ」

「そうだね。聡もキスくらいはしたことあるでしょ?」

「それとこれとは話は別だ!」

「したことは認めるんだな」

 

明久を問い詰める聡はそんな墓穴には気づいていない。

 

「畜生!なんで吉井ばっかり……! 俺にだっておいしいイベントがあったっていいだろ!」

「彼女持ちの言っていい台詞じゃねぇな」

「…………節操のない」

「土屋君が言えたことじゃないような?」

「…………失礼な。俺はエロには興味ない」

「恋愛をエロに結びつけてる時点で興味津々じゃないか」

 

などと康太の意味のない弁明に呆れていると、

 

「そういやお前、他にも頬にキスされたなんてことがあったよな」

「うぇっ!?」

「そういやそんな話もあったな」

「え!? 何で秀隆も知ってるの!?」

 

キスで何か思い出したのか雄二と秀隆が思案するように呟いた。明久は何かがバレたと思ったのか、両手をブンブンと振って弁明するように叫んぶ。

 

「ち、違うんだよ! 屋上でのアレはきっと、姫路さんなりの挨拶のつもりだったはず! あれ依頼姫路さんの態度は変わらないし、本当のところを聞こう思っても中々きり出せないし――」

「は? 姫路? 島田の妹のチビっ子じゃなくてか?」

「…………明久、屋上って?」

「挨拶? けどお前の言い方だとチークキスじゃないよな?」

「吉井先輩。そのお話、詳しくお願いします」

「…………」

 

明久はギャグ漫画のような『やっちまった顔』がお披露となる。

 

「おい明久。何か面白いネタを隠していないか?」

「そう言えばお前、肝試しの後何か様子がおかしかったな? 何があった?」

「…………ことと次第によっては」

「吉井もよくやるよな」

「吉井君も何だかんだ言って持ってるよねぇ」

「吉井! お前ってやつは……っ!」

「吉井先輩って見た目によらずプレイボーイなんですね」

「いやいやいやいや。そんなことはないよ。ちょっとそういう夢を見たってだけで」

「そうか。それなら後で姫路に聞いてみるか」

「おだべば」

「なんて?」

「何語かは分からんが『やめて下さい』と言いたいってことは分かるぞ」

「それは話が早くて助かるよ……」

「…………相当混乱している」

 

とは言え、これでは白状したようなものだ。

 

「しかし、姫路が明久にキスか。アイツも大胆になったもんだな」

「召喚獣がサキュバスになって吹っ切れたか?」

「…………ありえる」

「なんでそんなことになったんだ?」

「それが僕にもサッパリで……」

 

明久自身も何故瑞希がキスをしたのか理由が分からないようで困惑していた。

 

「美波みたいにメールを勘違いしたわけでもないし……」

「まぁでも、キスされたのが事実なら、少なくとも嫌われてないのは確かだね」

「う〜ん……」

「何かあるのか?」

「いや、姫路さん前に初恋がまだ続いているって言ってて」

「初恋?」

「その相手が誰だったのかなって思ってさ」

 

明久とて瑞希に憧れを持つ男子生徒の一人だ。その瑞希の初恋の相手となると、気にならないわけがない。キスされたことも含め、好意を持たれているのではと期待もするが、初恋が続いているという発言から、その可能性は低いと踏んでいた。

 

「姫路の初恋の相手?」

「案外お前だったりするんじゃないか?」

「あはは。そうだったら嬉しいけどね」

「…………違うの?」

「う〜ん……。確か小学校の頃、姫路本人さんが違うって言っていたような……」

 

明久の記憶力な上に小学校の頃の話だ。明久自身も自分の言葉に確証を持てないでいた。

 

「照れ隠しで否定しただけじゃないんですか?」

「……小学生ならあり得る」

「う〜ん。男子生徒ならともかく、姫路さんは小の頃からおとなしくて優しかったからそんな嘘つくかなぁ……?」

 

亜美が小学生特有の照れ隠しではないのかと聞くが、明久は迷いながらもそれを否定した。その横では雄二と秀隆が人知れず苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「ま、昔のことなんだ。今更気にしても仕方ないだろ」

「それもそうだね。あはは」

 

本人に聞けば早いがそれは野暮というもの。また美波たちからデリカシーがないと言われてしまう。

 

「…………それよりも重要なのは、さっきのキスの話」

「その通りです」

 

普段は口数の少ない康太がここぞとばかりに明久を問い詰める。亜美も女の子だからか恋バナに興味津々で明久に詰め寄った。仮にこの2人に事実を話したら、またたく間に文月新聞にリークされ、明久はFFF団の供物にされるだろう。

 

「あー……。それなんだけど、実は……」

 

明久がどうやって煙に巻こうかと考えていると、

 

「…………っ!(ササッ)」

 

康太が急に目の色を変えてカメラを構える。4台のカメラを器用に構え、目からギラついた光が放たれる。どうやら女性陣の気配をさっしたようだ。

 

「ほらほら。皆来たみたいだよ。海と言ったらやっぱり水着の女のだよね!」

「ちっ。誤魔化されたか」

「ま、話は後でいくらでも聞けるだろ」

「そうだね」

「…………とにかく、撮影を」

「皆どんな水着なんだろうな」

「楽しみだな」

「はい。写真の撮りがいがあります」

 

亜美もカメラを構え準備万端。明久たちも女性陣の水着姿を拝める瞬間を今か今かと待ちわびた。

 

 




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