バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は夏休み海編その⑤。水着回(女性陣)です。


夏休み海編⑤

夏休み海編⑤

 

「お待たせっ。準備に手間取っちゃってゴメンね」

 

そんな元気な声で愛子がやって来た。愛子の水着は、下はジーンズを短くカットしたようなウォーターデニム生地のホットパンツ風で上は同じ素材のビキニ。ただ水泳部の水着とはサイズやデザインがだいぶ違うのか、肩やお腹の部分に日焼けの境界線がハッキリと出ていて明久やトレイズなどは少々目のやり場に困る。亜美と同じタイプの麦わら帽子も、小麦色に焼けた肌によく似合っていた。

 

「工藤先輩の水着可愛いですね!」

「ありがとう。亜美ちゃんの水着も可愛いね!」

「流石水泳部だな。水着も麦わら帽子もよく似合ってるもんだ」

「あはは。ありがとう坂本君。それ、代表にも言ってあげたら?」

「死んでもゴメンだ」

「素直じゃないな〜。……ん?」

「…………(ササッ)」

 

愛子が視線を感じてそちらを向くと、康太が慌ててカメラを隠した。

 

「あははっ。ムッツリーニ君ってば。ボクの水着、撮りたいなら堂々と撮ればいいのに。いつも言ってるけど、別にボクは怒ったりしないから。ね?」

 

康太を挑発するように腰をくねらせる愛子。その言葉通り、後ろで亜美がシャッターを切っているが、愛子が怒る気配はない。むしろリクエストに答えてピースサインも振りまいていた。

 

「…………自惚れるな、工藤愛子」

「え? どういうことムッツリーニ君?」

「…………貴様の水着など微塵も(ダバダバ)――これは熱射病のせい」

「おお。頑張ったなムッツリーニ。28秒だぞ」

「凄いじゃないかムッツリーニ。鼻血の我慢記録更新だよ」

「くそ。時任の水着に耐えたからもう少しいけると思ったのに!」

「残念だったな聡。後でジュース1本な」

「なんで皆そんなに悠長なのさ。というか人の鼻血我慢で賭けなんてしてないで助けてあげようよ……」

 

まるで蛇口を捻ったかのように止めどなく流れ出す鼻血を心配して、愛子が康太に駆け寄る。

 

「あ、待って工藤さん。君が今近づくと――」

「…………日差しが強くなってきた……っ!(ブシャァァアアッ)」

「え? ちょ、ちょっとムッツリーニ君!? ムッツリーニ君ってば! 大丈夫なの!? 鼻血が噴水みたいになってるんだけど!?」

「…………今年の熱射病はタチが悪い(ブシャァァアアッ)」

「もうコレ熱射病とかじゃなくて新型ウイルスか何かじゃないかな!?」

「強いて言うなら『エロラ出血熱』か」

「神崎君も何『うまいこと言った』みたいな顔してるさ!?」

 

漫画や映画で頸動脈を切り裂かれると血が噴出するバイオレンスなシーンがあったりするが、康太の鼻血の勢いは今やそれ以上だ。

これ以上の出血は流石にまずいと感じた明久が倒れる康太の横にそっと寄り添う。

 

「ムッツリーニ」

「…………明久……」

「……遺言は?」

「何言ってるの吉井君!? 演技でもないよ!?」

「…………来世は、鳥に生まれてきますように……」

「ムッツリーニ君もそこで乗らないの! ちゃんと助けてあげるからっ!」

「そこまで心配する必要はないぞ」

「神崎君も何言って――」

「…………そして、空から女子更衣室を思う存分に覗けますように……」

「しかも生まれ変わってもやることはソレなの!? もつちょっと現世の死因から何か学ぼうよ!」

「流石は土屋だな。死してなお欲望に忠実とは恐れ入る」

「マクスウェルも中々にムッツリーニの扱いが分かってきたようだな」

「分かってるなら鼻血を出す前にどうにかしようよ……」

 

それが土屋康太という人間なのだから仕方がない。

笑顔のまま鮮血に顔面とビーチを染めて逝った康太に、明久は敬意を表して敬礼した。

 

「すみません。お待たせしちゃいました」

「……お待たせ」

「お待たせしました」

 

愛子に遅れること少し。次に現れたのは瑞希、翔子、リリアだった。

瑞希の瑞希が少し露出が高めのピンクのビキニにパレオを合わせたもの。翔子は少しにおとなしめの白のビキニに、水着用のミニスカートを履いている。リリアは黒のフリル付きのビキニに翔子よりも少し長めのスカートスタイル。

当然、皆のスタイルも合わさってかなり写真映えする姿だ。康太の代わりにと、亜美が頻りにシャッターを切っている。

 

「……愛子。あまり土屋をイジメないように」

「いや、ボクは何もしてないんだけど……」

 

むしろ康太の持参したクーラーバックから輸血用の血液パックを取り出して輸血しているところだ。

 

「違いますよ翔子ちゃん。土屋君は愛子ちゃんの水着姿があまりにも可愛いから興奮しちゃったんですよ。ね、土屋君?」

「…………そんな事実は確認されていない」

 

倒れ臥し、虫の息ながらも頑なに否定する康太。康太がどう言い張ろうと、鼻血を出して倒れたのは紛れもない事実なのだが。

 

「……興奮?」

「はい。土屋君も男の子ですから」

「……そう」

 

瑞希の言葉に翔子はひとつ頷くと、ゆっくりと雄二に歩み寄る。

 

「……雄二」

「んぁ? なんだ翔子?」

「……えい(ブスリ)」

「ふごぁ!?(ブシャァァアアッ)」

 

そして、雄二の鼻に翔子の白魚のような指が潜り込み、間欠泉の如く鼻血が湧き出した。

 

「……これで、いい」

「いいわけあるかぁっ!? いきなり何しやがる!(ブシャァァアアッ)」

「……だって、雄二は私に興奮しないといけないから」

「それで実力行使か。なるほどな」

「なるほどな、じゃねぇっ!(ブシャァァアアッ)」

 

雄二が鼻血を出して興奮していなかったことが不満だったようだ。そんな事をしなくても、少なくとも明久や聡にとっては鼻血ものだし、浜辺を歩く男性客も皆翔子たちの方を振り返っている。

 

「あの、トレイズ……。どうかな? この水着」

「え? あ、ああ……。その、よく、似合ってる、と思う……」

「……えへへ。ありがと」

 

その後ろではリリアとトレイズが甘酸っぱい芳香を醸し出していた。

 

「皆、綺麗だからなぁ……。スタイルもいいし……」

「え……っ!? あ、明久君!? そんな、綺麗だんて、恥ずかしです……」

「んぁっ!? ご、ゴメン! つい口に出ちゃった!」

 

どうやら無意識のうちに思っていたことを口にしていたようで、明久が慌てて口を噤む。

不意打ち気味に『綺麗だ』と褒められた瑞希はパレオの裾を合わせるようにつつ身体を縮めて恥ずかしがる。

明久と瑞希がお互い気まずい雰囲気でいると、

 

「ふん。どうせウチはスタイルが良くありませんよーだ」

 

と、明久の背中側から少しご機嫌斜めな声が。振り返ると、美波が頬を膨らませてツンとしている。

美波はパーカーを羽織っているので全部は見えないが、着ている水着は競泳水着のようなスポーティなレオタードタイプのようだ。

 

「そんなことないよ。その水着、よく似合ってるよ」

「そんな見え透いたお世辞なんていらないわよ」

「お世辞じゃないよ」

「そ、そう?」

「うん。その水着、手も脚も胸もバストも細い美波によく似合って痛ぁぁああっ!!」

「今、胸が小さいって2回言わなかった?」

 

弁慶の泣き所を蹴り抜かれた明久が砂浜に転がりながら悶絶する。勝ち気な目を更に釣り上げて美波が明久を睨む。

 

「てか島田。泳ぐ気満々って水着だな」

「そうだね。ボクが部活で着てるタイプみたいだね」

「こ、これはその、たくさん泳ぐ気だったからで……! ほら、最近ジュースやアイスが美味しくて、体重が増えちゃったから……」

「え? でも美波、車の中では夏バテで胸が痩せたって」

「む、胸は痩せたけどお腹は出たのよ――ってウチのバカぁーっ! そんなこと強調してどうするのよーっ!」

 

強く言い切り盛大に自爆する美波。顔を覆って嘆き出す美波を、秀隆たちは少し呆れながら眺めるしかなかった。

 

「……泣くほど変わってるか?」

「ていうか胸って痩せるもんなのか?」

「まあ、言っても脂肪の塊だからね」

「筋トレしすぎると痩せるって言うしな」

「大丈夫だよ美波。全然そんな風には見えないよ」

「いいのよアキ……。どうせウチなんて、古き良き日本人体型なんだから……。ドイツで育ったはずなのに……」

「そりゃお前の両親は日本人だからな」

 

食生活が全く無関係とも言えないが、そもそもドイツに住んでいようと、美波の両親は2人とも日本人なのだから体型も日本人になりやすいのは当たり前だ。

 

「大丈夫ですよ美波ちゃん。オーストリアでも美波ちゃんみたいな娘はたくさんいましたから!」

「……でもリリアはちゃんと『ある』じゃない」

「それは……」

「島田先輩はスレンダーですから、モデルさんみたいなスタイリッシュな水着がよく似合ってますよ!」

「そ、そう……?」

「そうだよ美波。無いものねだりしたってしょうがないんだし。今の美波も十分魅力的だよ」

「あ、アキ……っ」

 

明久に魅力的だと言われ、美波の顔が茹でダコのように真っ赤に染まる。反面、瑞希の頬はフグのようにぷっくりと膨れ上がった。

 

「なに騒いでるのよ?」

「何かあった?」

 

と、そこにやって来たのは優子と裕香。優子は水色のフリル付き花柄ビキニにパレオ。裕香は紺のビキニの上にライトグリーンのシードレスを羽織っていた。そして注目すべきは――

 

「一之瀬さんそんに胸あったのっ!?」

 

美波が裕香の胸を見て悲鳴を上げる。普段の制服姿からは想像できなかったが、裕香も瑞希と負けず劣らずの胸部装甲を有していた。

 

「うぅ……。やっぱ目立っちゃうかな……?」

 

シードレスでほとんど露出はないはずなのに、それでも目視で確認できるほど突出したそれは、美波にとっても刺激が強すぎた。

そして刺激が強いと言うことは――

 

「…………今年の夏は猛暑が続く……!(ブシャァァアアッ)」

「ムッツリーニ君っ!?」

 

この男が耐えられるわけもなく、落ち着いたはずなのにまた鼻血が壊れた水道管のように噴き出した。

 

「私もびっくりしたわ。横で着替えてたらいきなりブルンって」

「ちょっと木下さんっ! 言わないでってば!」

 

恨めしそうに裕香の胸を恨めしそうに凝視する優子。裕香は恥ずかしそうにして、その視線から逃れるように胸を腕で隠した。

 

「一之瀬さん。普段どんな下着を着ているんですか?」

「……胸を見られるのがいやだから、ちょっとキツめのを」

「ダメですよ。ちゃんと自分のサイズに合ったものを選ばないと」

「過度な締め付けは形が崩れちゃいますし、肩こりや腰痛の原因にもなるんですよ?」

「うぅ……。それは分かってるんだけど……」

 

裕香はチラリと聡の方を見やる。聡は裕香に見惚れているのかボーッと裕香を眺めていた。

 

「……やっぱり恥ずかしい」

「水着に着替えた時点でどうしようもないだろ」

「アンタはまたデリカシーのないことを……」

 

首を傾げながら呟く秀隆に、優子は呆れてため息を吐いた。

 

「ほら聡。一之瀬さんに何か言うことあるでしょ?」

「え? あ、あぁ……」

 

誠に肘でつつかれて聡が正気に戻る。聡は改めて裕香に向き合うと、

 

「裕香」

「聡?」

「えっと、その……。よ、よく……似合ってる……ぞ?」

「……なんで疑問系なのよ?」

「し、仕方ないだろ! 水着のセンスなんてよく分からないんだから……」

「何よそれ。でも……ありがと」

 

と、こちらも思春期真っ只中の空気を作り出していた。

 

「うむ。良きかな良きかな」

「アンタは何様のつもりなのよ?」

 

2人の様子をニヤニヤと眺めている秀隆に優子がツッコミを入れる。因みに明久と雄二はそれぞれお仕置きを受けて康太とは別の理由でビーチに転がっていた。

 

「神崎先輩!」

「うん?」

 

と、優子の後ろから亜美が秀隆を呼ぶ。

 

「神崎先輩も、何か言うことがあるんじゃないんですか?」

 

亜美は優子の肩を掴むと秀隆の方にグッと優子を押し出す。「ちょっと時任さんっ」

 

「言うこと、ねぇ……」

「ちょっと、あんまりジロジロ見ないでよ」

 

秀隆は優子の水着姿を頭の天辺から爪先まで見渡すと、一言――

 

「大人びた小学生?」

「せめて中学生って言いなさいよ!」

「優子ちゃん。それもどうかと……」

 

優子の回し蹴りを上体を反らして躱す。

 

「どうしました皆さん?」

 

と、ここでラスボスのお出まし。

 

「あら? どうかしましたか美波さん。そんなところで座り込んで。ウチの愚弟が何か粗相でもしましたか?」

 

美波の後ろから浮き輪を持って現れたのは、明久の姉吉井玲。玲の声に、美波を含め全員の眼がそちらを向く。

 

「あ、何でもないんです玲さん。ちょっとウチがひとりで落ち込んでいただけで――」

 

美波は玲の姿を見て立ち上がりかけて、

 

「……しくしくしくしく」

「美波さん?」

 

玲の姿を見て顔を強張らせて固まった後、再び座り込んで泣き始めた。

 

「美波さん。どうして私を見て泣き出すのでしょうか」

「いいんです……。ウチはもう、瑞希や一之瀬さんや玲さんには一生勝てないんです……」

「???」

 

何を言われているのか分からず、玲は首を傾げるばかり。

 

「…………」

 

その陰では、優子が自分の胸に手をやり、玲と自分を交互に見やる。

 

「勝てない勝負は止めておけ」

「ま、まだ分からないわよ! あと5年、10年したら私だって」

「ばーか。あんなメロンになれるわけないだろっ」

「何ですって!」

 

砂浜でアクションRPG並みの攻防が繰り広げられ中、明久は玲の水着を見てホッとしていた。

 

「良かった……。姉さんが普通の水着を選んでくれて、本当に良かった……!」

 

玲が着ていたのはどこにでもある普通の無地のビキニ。おかしな点はどこにも見当たらない。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよアキくん。サイズがなくて、選択肢がほとんどありませんでしたから」

「待つんだ姉さん。選択肢があったらどうするつもりだったんだ」

 

玲が水着を買ったのはビーチ近くの売店。奇抜なものはないだろうが、ネタとして普通じゃない水着が置いてある可能性も否定できない。そもそも、明久は玲が普通の水着と普通じゃない水着の区別がつくのかすら怪しんだ。

 

「良かったな優子。仲間ができて」

「どう言う意味よ?」

「お前もサイズが合わなくて選択肢なんてほとんどなかっただろ」

 

ネズミとネコの喧嘩がカートゥーンアニメ並みに激しくなる。

 

「……玲さん」

「はい、なんですか翔子さん?」

「……少しだけ、失礼」

 

――むんずっ

 

翔子が玲の背中側から胸をしたから鷲掴みにする。

 

「? どうしましたか、翔子さん」

「……凄い……」

 

翔子が玲の胸を軽く揉みながら戦慄する。

大きさ、弾力、張り。どれをとっても『凶器』と呼ぶにふさわしいステータスだった。

 

「あ、玲さんっ! 私も失礼しますっ!」

 

そして、今度は瑞希が翔子の後ろから玲の腰に腕を回す。

 

「??? 瑞希さん。あなたも何か?」

「……いえ……なんでも……ないです……」

 

瑞希は玲のくびれ部分を数度ど撫でた後、力なくそう答える。そして玲からゆっくりと離れると――美波の隣に同じように座り込んだ。

 

「……しくしくしくしく……」

「あ、瑞希……。いらっしゃい……」

「美波ちゃん……。海って、残酷ですね……」

「違うのよ瑞希。残酷なのはきっと、神様なのよ……」

 

まるで生気の感じられない眼をした美波が瑞希を温かく迎え入れる。そこだけまるでお通夜のような雰囲気だ。

 

「残酷なのは現実だろ」

「それを受け入れられないから、2人ともああなっているのよ」

「それなら、お前はよく平気でいられるよな」

「……どう言う意味かしら?」

「ほらほら2人とも元気出しなよ。最後の人たちも来たみたいだし、ね?」

 

優子が三度拳を振り上げようとした時、愛子がこちらに近づく人影を見つけた。愛子が元気よく明るい声と共に視線を向けた先には、意気消沈した面持ちの秀吉と、それを慰めるように話しかける竜史と雅子の姿が。

 

「すまぬ皆の衆……。ワシらが最後のようじゃな……」

 

頭上の天気とは裏腹に、秀吉の声と表情は沈んだままだ。

両脇に竜史と雅子が連れ添っているので、一瞬親子に見えてしまった。因みに竜史の水着はライフセーバーのような上下タイプ。雅子は紺のレオタードに白のパーカーを合わせている。

 

「どうした秀吉。ずいぶんと元気がないじゃないか」

「そうだね。着替えの時は『今度こそワシを男として認識させるのじゃ!』なんて張り切っていたのに」

「というか、そんなTシャツなんて持ってたか?」

「放っておいてほしいのじゃ……」

「まぁ、色々あってね」

 

俯く秀吉は、明久たちの見慣れないTシャツを着ていた。




ご感想などお待ちしております。

先週までリアルが慌ただしかったですが、何とか定期投稿できてよかったです(一部ミスあり)
まだ少し忙しい時期は続きますが何とか頑張っていきます!

1話分の長さは?

  • 5000字程度(約5分)が良い
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