バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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夏休み海編その⑥です。

明久と雄二は男のプライドを傷つけられて……。

秀隆と優子のワンシーンもあります。


夏休み海編⑥

夏休み海編⑥

 

「それじゃ皆、準備運動をしたら泳ごうか」

「「「はーい!」」」

 

明久たちは各々腰を伸ばしたり屈伸したりして準備運動をして、一気に海に駆け出した。

 

「ひゃっほーっ!」

「冷たーっ!」

 

真っ先に海に飛び込んだのは聡と愛子。プールのようなバシャンという水飛沫は出なかったが、水面から顔を出した2人は手を振って後続を促した。

 

「代表ー! 優子ー!」

「お前らも早く来いよ!」

「へいへい」

「そんなに慌てると足攣るわよ!」

 

愛子たちに続いて秀隆たちも海に入る。夏の太陽に照らされた海水は最初は温く感じたものの、直ぐに身体が慣れて心地良よい冷たさになる。

 

「んじゃ、しばらく泳ぐとするか」

「そうだね」

「楽しいのぅ」

「……海水が気持ちいい」

「どこまで泳げるか競争するか?」

「いいね。たまにはやろうかな」

「オーケー。ウチの運動神経を見せつけてあげるわ」

「わ、私は遠慮しときます……」

「私もこの辺りでのんびり泳ぎます」

「私もそうしようかな」

「私も」

 

遠泳組と遊泳組に分かれて、しばらくの間海を満喫した。

一方浜辺では、

 

「玲ちゃんも飲む?」

「あ、いえ。今は遠慮しときます」

「そう?」

 

雅子は玲に差し出した缶ビールを引っ込めると、自分の分のプルタブを開けてゴクゴクと飲みだした。

 

「君も少しは自重したら?」

「いいじゃん別に。青い空、青い海、白い雲、降り注ぐ太陽。ビールが美味い!」

「ホントにもう……」

 

完全にオッサンと化した雅子にため息が出る。願わくば、玲たちにダル絡みしないでいて欲しいものだ。

 

「君たちは泳がなくていいの?」

 

竜史がパラソルの少し前でカメラを構えている康太と亜美に声をかける。

 

「…………俺たちは別に」

「はい。コレがメインですから」

 

カメラのファインダーから目を外さずに2人が答える。

 

「そう。まぁ2人が良いんなら」

「…………海、水着、水飛沫――これは売れる……!」

「誠さんの水着姿を余すとこなく収めないと!」

「……やっぱり君たちも泳いで来なさい」

 

細やかな抵抗をする2人を引きずって、竜史も海に繰り出した。

 

ひとしきり泳いだ後、昼食の時間も近づいてきたということで、明久たちはしばしの休憩時間を取ることにした。

その間、明久や雄二はペンションに置いておいたスイカ割り用のスイカやバットを取りに、秀隆たちは昼食の買い出しに行くことになった。

焼きそばやアメリカンドッグなどやジュース。取り敢えずパックに入って持ち運びが容易なものから買って戻る途中、

 

「……悪ぃ。ちょっと便所行ってくるわ」

「おう」

「混んでそうだけど大丈夫?」

「流石に大丈夫だろ」

 

海で身体が冷えたのか秀隆がもよおしたと言い、1人離れた。近場の仮設トイレには少し列ができていたが、そう待たされることなく順番が回ってきた。

 

「ふぃ〜。」

 

海の家の外の蛇口で手を洗っていると、

 

『君可愛いね〜。どっから来たの?』

『俺らと遊ばな〜い?』

「ナンパか」

 

どこからかチャラついた台詞が聞こえてきた。流石にこの規模の海水浴客がいたら、ナンパが起きていてもおかしくはない。秀隆は面倒事に巻き込まれまいと、ソロリとその場を立ち去ろうとしたが、

 

『結構よ』

「ん?」

 

その聞き覚えのある声と言葉に、秀隆は立ち止まざるを得なくなった。

 

『え〜。良いじゃんか別に〜』

『絶対に楽しいからさ〜』

『だから結構よ』

 

物陰から様子を覗うと、予想通り、優子がチャラついた男2人に絡まれていた。

 

『人を待たせているんで』

『人ってカレシ?』

『こんな可愛いカノジョほっとくヤツなんて置いてさ〜。俺らと楽しいことしようよ?』

 

やんわりと拒絶する優子に、意外にも男たちは食い下がる。秀隆は見た目の割りに根性あるなと内心感心した。

 

『あんまりしつこいと警察呼びますよ?』

 

だが優子からしたら鬱陶しい以外のなにものでもなく、ハンカチや財布の入ったポシェットに手を入れる仕草をする。変なことをすると通報するぞ、と警告したつとりぁったが、返ってそれがアダとなった。

 

『はははっ。警察なんてムダムダ』

『ほら、早く行こうよ』

 

なんと男たちは優子の警告を無視して強引に腕を引いたのだ。急に腕を引っ張られて、優子の手からポシェットが落ちる。

 

『きゃっ!』

『きゃっ、だって!』

『可愛い〜ね〜』

 

何が面白いのか、男たちは悲鳴を上げる優子を見て囃し立てた。

秀隆はため息を吐くと、のそりのそりと3人に近寄った。

 

「おい」

「あん?」

 

後ろからの声に、ナンパ男の1人がドスの効いた声で振り向く。

 

「んだよテメェ」

「何か用か?」

「用があるから声かけたんだろ」

「俺らはオメェなんかに用はねえよ」

「勘違いすんな。俺もテメェらに用なんざねぇ」

「「あ?」」

 

ガンをつけるナンパ男たちを無視して、秀隆は2人と優子の間に強引に割ってはいる。

 

「行くぞ」

「あ、うん……」

 

秀隆は砂浜に落ちたポシェットを拾い、軽く砂を払うと優子の手を引いてその場から立ち去ろうとする。

 

「おい待てよ」

「テメェ。いきなり来て横取りとはいい度胸じゃねえか」

 

ナンパ男たちが秀隆の前に立ち塞がる。

 

「横取り?」

 

秀隆は冷たく鋭い眼光で男たちを睨み返す。

 

「そうだ。その女は俺たちが先に目をつけたんだぞ。こっちに寄越しな」

「はっ! だとしたら見る目がねぇな」

「んだとっ!」

「テメェ。俺らに逆らったらどうなるか分かってんのか?」

 

秀隆に挑発されて男たちが色めき立つ。

 

「んなもん知るかよ」

「テメェ!」

 

ナンパ男の1人が秀隆に殴りかかる。

 

「飛燕脚!」

 

秀隆は前方に飛びながら回し蹴りを放ちカウンターを食らわせる。まともに顔面に蹴りを食らったナンパ男は横に大きく吹き飛ぶ。

 

「お、お前ら! 俺らのバックに誰がついてるのか知ってんのか!?」

「だから知らねぇっての。それと、人のモンとったら泥棒って言葉を知らねぇのか?」

「どう言う意味だ?」

「まだ分かんねぇのか?」

 

秀隆はグッと優子の肩を抱き寄せる。

 

「え? ちょっ」

「コイツは俺のツレだよ」

「はあっ!?」

 

ツレと言われて、ナンパ男と優子が驚く。

 

「ってなんでそっちも驚いてんだよ! 絶対嘘だろ!」

「ただの照れ隠しだって」

「だ、だったらチューしてみろよ! チュー!」

「……それはご勘弁を」

「なんでそこで拒否るのよ!」

「それより良いのか? こんだけ人が集まってきたら、監視員のお兄さんが来ちゃうんじゃないのか?」

 

騒ぎを聞きつけてか、秀隆たちの周りには人だかりができていた。誰が監視員に通報していてもおかしくはない。

 

「く、くそっ! 覚えてろよ! アニキに言いつけてやるからなー!」

 

お決まりの捨て台詞を吐いて、ナンパ男は相方を抱えて逃げていった。

 

「俺たちも行くぞ。リュウ兄にバレたら面倒だ」

「あ……」

 

秀隆は優子の肩から手を離すと、そのまま手を繋いで小走りにその場から去った。

少しだけ名残惜しそうな優子の顔は、秀隆からは見えなかった。

 

「あ秀隆。やっと戻ってきた」

「長かったな。混んでたのか?」

「大の方だったんだろ――って木下さん?」

 

秀隆が誠たちの所に戻ると、買った物をレジャーシートに並べているところだった。別れた時にいなかった優子を連れていたので皆訝しがった。

 

「ああ。そこで()()合流してな」

「ふ〜ん」

「んだよ?」

「いや。そこで()()()()合流したのなら」

「何で手を繋いでるんだ?」

「あ」

 

言われて気がついたのか、慌てて秀隆が優子から手を離す。

 

「こ、これはだな――道中人が多かったから、はぐれないように仕方なく」

「それにしは木下の顔が赤くないか?」

 

誠とトレイズがニヤニヤと秀隆を問い詰める。普段からヤラれているのだから、こういう時に仕返しをしない理由もない。

 

「ち、ちょっと日差しに当てられたんだよ。ほら優子。パラソルの下で少し休め」

「……うん」

 

優子は少しゆったりとした動きでリリアたちの待つレジャーシートに座る。

 

『優子ちゃん?』

『どうしたの? 顔が赤いようだけど……』

『……何でもないの』

 

優子たちのレジャーシートからそんな会話が聞こえてくる。

 

「それで、何があったの?」

 

缶ジュースを手に竜史が秀隆を問い詰める。

 

「別に何も」

「嘘をつくんじゃない。トイレにしては長すぎるし、木下さんの様子も少し変だよ」

「……ナンパに絡まれてたから助けただけだよ」

「それだけ?」

「それだけだ」

 

秀隆は竜史から強引に缶ジュースを引ったくると、一気に呷る。

 

「ならいいけど」

「信用ねぇなぁ」

「今までの実績だよ」

「嫌な実績だ」

 

秀隆は苦笑いすると、話題を変えるように浜辺に視線を向ける。

 

「ところで」

「ん?」

「アイツらは何をしてるんだ?」

 

秀隆の視線の先では、

 

『じゃあ、次は俺の番だな。明久、バットを寄越せ』

『いやいや、何言ってるんだよ。雄二はさっきやって失敗したばかりじゃないか』

『そう言うなよ明久。今のお前で全員1回目が終わったから、次は2周目だろう? それなら次はまた俺の番からじゃないか』

『いやいやいや。2周目が始まるなら、今度は順番を反対にする方が公平だと思うよ。だから僕がもう一回挑戦するよ』

『いやお主ら。秀隆と姉上が帰ってきたようじゃから、次は2人の番じゃと』

『あ、あの、明久君に坂本君。折角のスイカを割って飛び散らせちゃうのもなんですから、スイカ割りはこの辺で……』

『『スイカは絶対に割らないから大丈夫(だ)!』』

『アンタらはいったい何を割るつもりなのよ……』

 

明久と雄二が笑顔のままバットを引っ張り合っていた。

 

スイカ割りや昼食を終えた後は自由時間。各々が海や浜辺で遊び満喫していた。

 

「ねぇ雄二」

「何だ?」

 

順番で荷物番をしていた明久が雄二に尋ねる。

 

「急に肩の辺りが軽くなった気がするんだけど」

「奇遇だな。俺もだ」

 

雄二がコキコキと肩を鳴らしながら明久に同意する。

女子に悟られないようにしていたが、皆といる間、明久は周囲から敵意にもにた視線を常に感じていた。女性陣がいなくなってからそれが弱まったということは――

 

「女性陣がいなくなって妬みの視線がなくなったから、だよね」

「そうだな。まったく厄介なもんだ」

 

玲、雅子を始める明久たちに同行している女性は皆美女、美少女揃い。目立つ分周りの男性客からの視線も強く、一緒にいてキツイ部分もある。おそらく『なんであんなガキどもが』と思っている輩も少なくないだろう。

 

「皆今何してるんだろ?」

「さあな。ムッツリーニはカメラのレンスを洗浄するとか言ってたが」

「ふ〜ん。どうせまた鼻血で汚しちゃうくせにね」

「それでも、動かずにはいられないんだろ」

「そうだね。ムッツリーニってそういう男だもんね」

 

ただ座っているのも暇なので雄二と適当に駄弁りながら周囲を見回してみる。明久の周りでは海らしくカップルや親子連れの海水浴客が遊んでいたが、

 

「こうして見てみると、意外と女の人だけのグループ客も多いんだね」

「ん? そういやそうだな。ってか、ナンパをする男連中がいるんだから、ナンパされる女もいて当然か」

「それもそうだね」

 

現に明久たちがスイカを持って戻った時も、瑞希たちはナンパをされていた。その時は玲の機転でナンパ男を撃退できたが、その代償として明久はナンパ男に多大なトラウマと誤解を植え付けることとなった。

 

「ナンパねぇ……。そいうのって、漫画や小説の中だけの話かと思ってたよ」

「だな。意外と身近にあるもんなんだな」

 

明久が自分には縁遠いものだと思っていると、

 

「明久君」

「……雄二」

「差し入れよ」

「ん?」

 

ジュースを抱えた瑞希、翔子、美波が戻ってきた。

 

「気が利くな。ちょうどのどが渇いていたところだ」

「……夫を気遣うのも妻の務め」

「そうか。その務めは今直ぐに放棄しろ」

「ありがとう。姫路さん。美波」

 

明久と雄二は差し入れを受け取るが、

 

「? どうかした?」

 

瑞希と美波が浮かない顔をしていたのが気になった。

 

「実は……」

「ウチらまたナンパされちゃったのよ」

「え? また?」

 

瑞希たちはまたナンパに出くわしたようだ。

 

「ゴメンね3人とも。そこまで気が回らなくて」

「いえ、これは私たちが自分でしたことですから」

 

明久は申し訳なさそうな顔をしたが、瑞希は明久の責任ではないと慰めた。

 

「さっきは特に、美波ちゃんと翔子ちゃんが随分と迫られて困ってましたよね」

 

瑞希が苦笑いを浮かべながら2人に視線を送る。

 

「ホント、ウチああいうのって苦手なのに……」

「……私も、苦手」

 

執拗に迫られていたという2人は疲れた顔をしていた。あしらうのに相当苦労したのだろう。

 

「ふぇ〜。それは大変だったね」

「いつものように腕力で片付ければ良かったんじゃないか?」

 

などと明久と雄二が他人事のように言っていると、

 

「かーっ! アンタたちは何も分かってないねぇ!」

 

後ろから大声で非難された。後ろを向くと、ビールの缶を片手に雅子が呆れていた。

 

「分かってない?」

「どういう意味だ?」

「どうもこうも、そんな態度を取ってる時点でダメなんだよ」

 

雅子がビールをグビリと飲む。

 

「そんな態度って言われても」

「何がダメなんだ?」

「かーっ! これだから最近の若い奴は……。女心ってもんを何も分かっちゃないねぇ」

 

酔っているせいか、それとも素がそれなのか、雅子がこれみよがにため息を吐く。

明久と雄二が意味が分からず疑問符を浮かべていると、また後ろから不機嫌そうな声が聞こえてきた。

 

「こらアキ。アンタ、ウチらが困っていても気にならないっていうの?」

「明久君。それはちょっと酷いと思います」

「あ、いやそういうわけじゃ……」

 

美波と瑞希がジト目で明久を睨む。明久とて瑞希たちが困っているのが気にならないわけではない。ただ、普段の立ち振る舞いから、困るほどの心配はないと思っていた。

 

「……雄二はもっと、ヤキモチを妬いたり心配したりするべき」

「ヤキモチはよく分からんが、俺なりに心配はしてるつもりだと痛だだだっ! ちょっと待て! お前が俺に何を要求しているのかさっぱり分からねぇ!」

「……解るまで教えてあげる。……身体に」

「ふぐぁぁあっ!」

 

翔子がアイアンクローで雄二の顔を握る。翔子からしたら、自分は雄二に対してヤキモチを妬いたり、色々と心配して気にかけているのに、相手が同じくらい妬いたり心配してくれていると感じられないのが納得がいかないのだろう。

そしてそれは瑞希や美波も同じで、

 

「そうよね。アキたちはもっとウチらの事を心配するべきよね」

「そうですね……。少しくらいは妬いてもらえないと、なんだかちょっと……」

「じゃぁ、少し心配させてやりましょ。このままだと釈然としないし」

「いいですね。ちょっと意地悪しちゃいましょうか」

「ん? 急にどうしたの、姫路さんに美波?」

 

急に座り込んで顔を突き合わせてヒソヒソと囁き合う2人を明久は訝しがった。

 

「ねぇ瑞希。ああいうのって、いつどこに行っても出てくるから困るわよね」

「そうですね。困っちゃいますね」

 

徐に立ち上がり、明久の方を見ながらそんな事を言う2人。明久は訳がわからず首を傾げたが、後ろでは雅子が笑いを噛み殺していた。

 

「あれ? 美波や姫路さんってよくナンパされるの?」

「はい。それはもう、いつでも!」

「そうよ。それはもう、どこでも!」

 

妙に力を込めて言う2人。雅子が堪えきれずに笑い出すが、明久はそれに気づくことはない。

 

「……私も、しょっちゅう声をかけれて困る」

「嘘をつけ! お前と出かけてて声をかけられてた経験なんて1度もぎゃぁぁあっ!」

 

雄二も気にかける余裕はない。

 

「でも、その割にはさっき随分と慣れていない反応に見えたけど……」

「そ、そんな事ないです! いつもの事すぎて、呆れて声も出なかっただけです!」

「そ、そうよっ! 瑞希の言う通りだわ! 鈍くて恋愛ごとに縁のないアキには分からないでしょうけどねっ!」

 

鈍くて恋愛に縁のないまで言われて、流石の明久もムッときた。

 

「そんな事ないねっ! 僕だってナンパくらい余裕で――」

「明久君。余裕で、なんですか?」

「アキ余裕で、何かしら?」

 

周りの温度が体感5度ほど下がる。この先の台詞を言ったら殺されてしまいそうだ。

 

「まさか、できる、とでも言うんですか? 明久君が?」

「アキ。アンタ何を言ってるの? アンタにナンパなんてできるわけないじゃない」

「む」

「そうですよ。明久君にナンパなんて似合いませんし、うまくいくとも思えません。見栄を張っちゃダメです」

「むむ」

「アキくん。人には向き不向きというものがあります。アキくんは恋愛ごと全般が苦手なのにですから、ナンパなんて身の程知らずなマネは止めたほうが身のためです」

「そうだぞ吉井。お前みたいなタイプはナンパなんてできっこないんだから、大人しくお友だちと遊んどきな」

「むむむっ」

 

玲や雅子にまで言われて、明久の自尊心と反抗心に火がついた。

 

「……雄二も、全然女心がわかっていない。……だから、モテない」

「く……っ! 言ってくれるじゃねえか……っ!」

 

雄二が翔子に顔を鷲掴みにされながら呻く。

 

「ま、悪いことは言わないから、『お前ら全員』慣れないことは止めときな。下手なことをして犯罪に巻き込まれても面倒だろ?」

「そうですね。皆さん。今日は余計なことは考えずに海で楽しく遊びましょう」

「はい」

「ええ」

「……うん」

 

少しは溜飲が下がったのか、大人しく従う女子3人と、

 

「「……」」

 

対照的に面白くなさそうな顔の男子2人。

 

「(くそっ。なんか妙に納得いかねぇぞ)」

「(だね。理不尽に怒られた気がするよ)」

 

女性陣に聞こえないように小声で愚痴る明久と雄二。2人からしたら、あそこまで言われる筋合いはない上に、自分たちが悪者扱いされたのだか、納得いかないのも頷ける。

 

「(しかも、ちょっとナンパされたくらいで調子に乗りやがって。何が俺たちがモテない、だ。そんなワケあるかっての)」

「(全くだよ。僕が恋愛に不向きだなんて、そんなこと全然ないのに。僕だってその気になればナンパぐらい――)」

 

明久ができる、と言おうとしたその時、

 

「話は聞かせてもらった」

「九条君?」

 

2人の後ろで聡が腕を組んで立っていた。目を瞑り、ウンウンと訳知りがで頷いている。

 

「分かる。わかるぞお前らの気持ち」

「分かるって、お前彼女持ちだろ」

「俺自身恋愛が苦手じゃないはずなのに、モテないわけじゃないのに、女子から声をかけられない悔しさ。非常によく分かる」

「いや、だから君は」

「俺だってナンパしたり逆ナンされりして一夏のアバンチュールを体験してみたい!」

「「…………」」

 

ツッコミを無視して朗々と熱く語る聡に、開いた口が塞がらない。

 

「てなわけで、行くか」

「行くってどこに?」

「ナンパしにだよ」

「は?」

「お前ら悔しくないのか? 女子にあんなにまで言われて」

「そりゃ悔しいけど」

「ちなみにさっき土屋が女子大生のグループに逆ナンされてたぞ」

「ば、ばかな……!」

「そんな……ことが……!」

「まぁ土屋はカメラ持ってるし、パッと見は物静かで無害そうだしな。声をかられ易かったんだろうな」

「そ、そうだよね! そうに違いないよね!」

「ああそうだ! 決して俺たちがモテないわけじゃない!」

 

女性陣に傷つけられたプライドと、康太が逆ナンされたという事実に、明久と雄二の判断力は鈍っていた。

 

「じゃ、行くでオーケーか?」

「もちろんだ! こうなりゃ、俺たちの本気を見せてやろうじゃねぇか!」

「うんっ! 僕らが本気を出せばどのくらいモテるのか、皆に思い知らせてやろう!」

「そう来なくっちゃ! 善は急げだ、早速行こうぜ!」

「「応!」」

 

ナンパするために浜辺を駆け出す3人。

後に3人はこう語る――あの時は、本当にどうかしていた、と。

 

「でも、ナンパしているのが一之瀬さんにバレたら不味いんじゃ」

「吉井。こんな格言を知っているか?」

「格言?」

「『バレなきゃ犯罪じゃないんだよ』」

「それ、絶対にバレるヤツじゃん……」




ご感想などお待ちしております。

次回はナンパ――ではなく他キャラのシーンを書いていこうかなと思います。

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