バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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夏休み海編その⑧です。

今回はオリキャラたちのちょっとした会話と、ナンパの行く末回です。
少々駆け足気味ですがご了承ください。


夏休み海編⑧

夏休み海編⑧

 

あれからしばらく。買い物を済ませた秀隆と優子がビーチに戻る。

 

「ただいま」

「……ただいま」

「おかえりなのじゃ」

「おかえり……なんかあった?」

「……聞くな……」

 

含み笑いの優子と意気消沈の秀隆といういつもと真反対の2人に、誠たちは訝しげだ。

 

「優子ちゃん。何があったんですか」

「それが聞いてよ。さっきね」

「言うな!」

 

リリアに真相を話そうとした優子を秀隆が鋭い声で制する。思わぬ大声に、リリアや亜美の身体がビクッと震えた。

 

「こら秀隆。そんな大声だすんじゃないわよ。2人が驚くでしょ」

「誰のせいだと――」

「返事は?」

「……すまん」

 

ニコニコと圧をかける優子に、秀隆は渋々従った。珍しい光景に、誠や秀吉が顔を見合わせる。

 

「どうやら何かあったようじゃな」

「うん。それも凄いのが」

「お前ら、詮索すればどうなるか」

「どうせ凶刃がらみだろ」

「…………」

 

雅子の言葉に、凄もうとした秀隆がビタッと止まる。

 

「図星みたいだね」

「……何のことやら」

「目が泳いどるぞい」

「珍しいこともあるもんだな」

 

誠とたちも面白がってニヤニヤと秀隆を見やる。秀隆は「クソッ」と悪態をつくと、レジャーシートにどっかりと胡座をかいた。

 

「おい秀隆。ラムネは?」

「この状況でよく催促できるな!?」

 

どこまでもマイペースな雅子に、秀隆が振り回される。

 

「これよ」

「おお。サンキュー優子」

「他の皆も好きなの取ってね」

 

優子の許可もおり、皆各々飲み物を選ぶ。

 

「んで、明久たちは?」

「まだ戻ってないな」

「たぶん、成功するまでチャレンジするんじゃない?」

「あのバカどもが」

 

男だけできてるならいざ知らず。今日は女性陣もいる上に聡は彼女持ち。それでナンパは、流石の秀隆も顔を顰めた。

 

「工藤たちは?」

「さっき戻ってきたけど」

「工藤が土屋を連れ回してたな」

「なるほど。工藤もやっとその気になったのか」

 

ため息を吐きながらコーラをグビリと飲む。そこかしこで「人の事が言えるのか?」という視線を感じたが、秀隆はそれを無視するこにした。

 

「秀隆も覚悟決めたら?」

 

 

後ろに聞こえないような音量で誠が秀隆に話しかけた。

 

「あん?」

「木下さんのこと。もう十分じゃないの?」

「お前には関係ねぇよ」

 

不機嫌そうに眉をハの字にすると、秀隆はコーラを一気に飲み干し、空き缶を握りつぶす。

 

「捨てといてくれ」

 

秀隆は少し乱暴にそう言うと、海に向かって歩き出す。

 

「ちょっと! どこに行くのよ!」

 

それに気がついた優子が慌てて追いかける。

 

「泳いでくるだけだ。お前はもう少し休んでろ」

「いいわよ。私も泳ぐわ」

「ついてこれんのか?」

「……頑張る」

「離岸流には気をつけろよ」

 

浅い所から泳ぎ始める2人。そんな2人を、誠と亜美は少しホッとしながら見守っていた。

 

「なんだかんだ、秀隆も木下に甘いよな」

「そうだね」

「でも、木下さんが楽しそうでよかったです」

 

お互いに文句を言い合いつつも海に歩いていく姿は、中の良い腐れ縁の幼馴染みそのもの。なんでアレで付き合っていないと言い張れるのかトレイズには不思議でならない。

 

「アイツがいがみ合ってた原因って、いったい何だったんだろうな」

「僕らもよく知らないんだ」

「神崎君。自分のことをあまり話したがりませんもんね」

「まぁそうか。札付きの悪だったなんて、黒歴史でしかないもんな」

 

稀に昔のヤンチャを武勇伝のように語る輩もいるが、トレイズからしたら態々過去の犯罪を自慢げに話す心境が分からない。

 

「でも、秀隆が立ち直ってよかったよ」

 

しみじみと、誠がこぼす。

 

「そういや、中学生の時に鳳たちがいても荒れたままだったんだよな?」

「うん。それでもマシになってたんだけどね」

「私たちに会う前は、毎日のように殴られた跡がありましたから」

「毎日?」

「親御さんは何も言わなかったんでしょうか?」

「秀隆の両親はその頃仕事で海外に行ってたらしいんだ」

「吉井と同じ単身赴任ってやつか」

「うん」

「私らがアイツの保護者代わりだったってわけさ」

 

後ろから雅子が口を挟む。

 

「アイツの両親はちょいと特殊な仕事に就いていてね。どうしても中々帰国できない状態だったんだ」

「それで荒れ放題だったのか」

「ああ。ま、喧嘩してただけで自堕落ってわけじゃなかったし。私らもアイツの面倒は最低限だけにしておいた」

「喧嘩だけでも相当だと思うけどな……」

 

補導される秀隆の横で竜史が平謝りしている姿が目に浮かぶ。

 

「先生は秀隆が荒れてた理由って何か知ってんのか?」

 

トレイズが少し冗談気味に聞いてみる。

 

「ああ」

 

と、雅子はアッサリと答えた。

 

「マジで!?」

「マジさ」

「教えてくれたりは」

「やだね」

「ですよね」

 

誠が肩を竦める。期待していたわけではないが、雅子とは言え、その辺りの線引きはしっかりしているようだ。

 

「分かっていると思うけど、これはアイツらの問題だよ。アタシたちが首を突っ込むもんじゃない」

「分かってますよ」

「ま、アイツもガキじゃないんだ。時がくれば、その内話してくれるさ」

「どうですかねぇ」

「秀隆だからなぁ」

 

到底打ち明けるとは思えない。

 

「アイツ全部ひとりでやろうとするからな」

「確かに」

「だから、少し心配です」

「はい」

 

中学生の時も 試召戦争の時も、秀隆は自分のできることを全部ひとりでやろうとするきらいがあった。おそらくそれは今もこれからも変わらないだろう。そうなった時、秀隆を支えれるか。

 

「というか、マクスウェル。アンタ人の事どうこう言える立場かい?」

「え?」

「アンタだってちゃんと自分の気持ちを」

「わー! わー!」

 

トレイズが慌てて雅子の口を塞ぎかかる。秀隆だけでなく、雅子もその手の人間だと言うことを完全に失念していた。思わぬ暴露に、誠やリリアが苦笑する。

 

「うーす。たでーま」

 

と、そこに件の2人が戻ってきた。

 

「おかえり」

「早かったな」

「割と人が多くてさ」

「早めにきり上げたの」

「優子の体力もミリだしな」

「失礼ね! まだまだ泳げるわよ!」

「どうだか」

 

戻ってきて早々口喧嘩する2人。誠はさっき話していたことを思い返して吹き出した。

 

「んだよお誠まで」

「そんなにおかしなことしたかしら?」

「ごめんごめん」

「というかトレイズは何してんだ?」

「お、おかまいなく!」

 

珍妙な光景に、秀隆も優子と首を傾げた。

 

「まぁいいや。それより、お前らも泳いできたらどうだ?」

「折角の海ですもの。鳳君たちも泳がないと損よ」

「そうだね」

「そ、そうだな。んじゃ、ちょっと行ってくる」

「私たちも行きましょうか、時任さん」

「はい!」

「晩御飯までには帰ってくるのよ〜」

「母親かよっ!」

 

やいのやいのとはしゃぐ秀隆たちを、雅子は「青春だな〜」と眺めていた。

 

一方その頃、明久たちはと言うと……

 

「さっきのは上手くいきそうだったのに、雄二が余計なことを言うから!」

「い〜や、違う! 九条が無駄に気障ったらしい軽薄そうな台詞を吐くからだ!」

「何言ってんだ! 吉井がバカなことばかり言うからだろ!」

「そんなことはないね! 雄二たちがわけの分からないことを言ったせいだよ!」

「そーだそーだ!」

「自分たちのことを棚に上げてよく言うな、このボケどもが!」

「黙れヤンキーゴリラ!」

「なんだとこのブサイクっ!」

 

ナンパを開始してから何度か女性のみのグループを見つけてはアタックしてみたものの、そのことごとくで撃沈していた。

その失敗の原因が、明久の余計な一言や雄二のノンデリ発言、聡の歯の浮くような台詞で女性たちをシラケさせたせいだ。つまりは全員が戦犯なわけだが、3人が3人とも他の2人のせいだと言い張ってぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。

結果として周りから人気が引いてターゲットが遠ざかるという悪循環に陥っていた。もちろん、3人はその事に気づいていない。

 

「……ってやめておくか。俺たちが争うのは不毛だ」

「……だね。こんなことをしても意味ないもんね」

「……心なしか人も遠ざかってるしな」

 

各々振り上げようとした拳を下ろす。ようやく問題がそこじゃないことに気付いたようだ。

 

「なぁ明久、九条。ふと、思ったんだが」

「なに?」

「何か良い作戦でも思いついたか?」

「いや。もしかすると、上手くいかないのは俺たちが本気になりきれていないからじゃないのか?」

「本気になりきれていない?」

「と、言うと?」

「相手が好みじゃないから、無意識の内にどこかで失敗するように自分にセーブをかけているんじゃないか、ってことだ」

「え? そうなの?」

「ああ。いわゆる深層心理ってやつだ」

「俺は割と本気だったけどなぁ」

「それも『俺は本気だ』と思い込んでいたたげで、本当は全然本気じゃなかったんだ」

 

人は筋肉を動かす時も、身体が傷つかないように脳がある程度のリミッターかけて力をセーブしている。雄二は自分たちが本気になれないのはその類ではないかと予想した。もし成功してしまった時に後々心理的な負担にならないように。失敗して当たり前の状況を自分から作り出しているのではないかという。

 

「じゃぁ、どうしたらいいのかな?」

「好みの相手を見つけるしかないだろうな」

 

好みじゃないから失敗すると言うのなら、成功させるには好みの相手を見つける他ない。

雄二の回答はある意味当たり前のことだが、明久は余計に頭を悩ますことになる。性癖、性的嗜好の好みはあれど、こと恋愛に関してはピンとこない。今まで恋愛という恋愛を経験しこなかったし、それ以前に恋心を誰かに抱いたかすら怪しい。強いて言えば瑞希や美波だが、はたして恋心と言えるのか明久に自信はなかった。

 

「ちょっと待てよ。俺はあえて裕香と違うタイプの女の人に声かけてたのに、それだと本末転倒じゃないか」

「……いや、よくよく考えたらこの場に九条君がいるのはおかしくない?」

「よくよく考えなくてもおかしいだろ。何で彼女持ちのお前が率先してナンパしてんだよ」

「坂本だって嫁さんいるじゃないか」

「翔子は嫁じゃねぇ!!」

 

誰も翔子の名前は出していないのだが、口走ったということはそういうことだろうか。

 

「彼女がいるくせに不貞をやらかすなんて、愛想尽かされてもしらねぇぞ」

「そうだよ。一之瀬さんの気持ちをちゃんと考えなよ」

「……まさかお前らに諭されるとは思わなかったぜ」

 

だがこの場に置いては明久と雄二の指摘は正しい。

 

「お前、何企んでんだ?」

 

流石に雄二が訝しむ。

 

「え? 九条君、何か良からぬことを考えてるの?」

「ナンパ自体が良からぬことだろ」

「それはそうだけど」

「そうじゃなくて、九条には他に考えがあるんじゃないかってことだ」

「考え? ただ女の人が好きなだけじゃない?」

「それもあるだろうが、仮にも中学から秀隆とつるんでるんだぞ? そんなヤツが、こんな短慮なわけないだろ」

 

どうなんだ、と雄二が視線で訴える。聡は観念したようにため息を吐くと、訥々と口を開いた。

 

「確かに、俺が裕香に甘えてるのは事実だよ」

「お前と別れることはそうそうないってことか?」

「ああ」

「でも、こんなことしてたら」

「分かってる。……これは保険なんだ」

「保険?」

「もし裕香が俺と別れることになっても、アイツが後々後悔して自分を責めないように。せめて別れる原因が俺にあるってしときたいんだ」

「あんな浮気男なんてこっちから願い下げだった、ってか?」

「ああ」

「なんでそんな身を削るようなことを」

「裕香は責任感が強いやつだ。例え相手に責任があっても、どうにかできなかったのかって自分を責めちまう」

「だから、一之瀬が自分を責めるまでもない理由をつけたいってことか」

 

幼馴染みである裕香の性格は聡が一番知っている。だから彼女の心を守るために、聡は道化を演じてるのだという。

 

「なるほどね」

「そう言うわけだから」

「お前、相当バカだな」

 

納得しかける明久と対照的に、雄二は聡を鼻で笑った。

 

「お前といい秀隆といい、変な方向にズレてるな」

「どう言う意味だ?」

「お前のやってることは、相手のことを思っているように見せかけて自分のことしか考えてないってことだよ」

「え? でも九条君は」

「一之瀬が九条の言う通りの性格なら、どんなことをしても一之瀬は自分を責めるぞ」

「いや、だから」

「仮に周りがお前のせいだと諭しても、一之瀬は自分を責めるだろうよ。『お前を繋ぎ止められなかった自分が悪い』ってな」

「…………」

 

そこまで考えが及んでいなかったのか、及んでいながら目を逸らしていたのか、聡がバツの悪そうな顔をする。

 

「そっか。一之瀬さんなら、そう思ってもおかしくないね」

「お前は一之瀬のためを理由にして、結局自分が傷つかない方法を選んでいるだけだよ」

「相手のために自分が傷つくって、普通に考えたら向こうが一番いやがることだもんね」

「そうだ。九条も秀隆も、なぜかそれを平気でやるかなら。しかも本気で相手のためと思っているからたちが悪い」

「じゃぁどうしろって言うんだよ」

「俺が知るかよんなもん。そんな事考える暇があったら、少しでも一之瀬に愛想尽かされないように頑張るんだな」

「他人事みたいに言いやがって」

「他人事だからな」

 

雄二は恋愛にまったくと言っていいほど興味はないが、過去の苦い経験から、これでも人としての線引きは弁えているつもりだ。雄二の言葉が、聡にボディブローのように効いてくる。

 

「はぁ。それしかないのか」

「まぁ、恋人と別れるのって結局自分を責めちゃうしね」

「明久のくせに知ったふうな口をきくじゃないか」

「どうせ漫画で得た知識だろ」

「失礼な! ……その通りだけど……」

「はは。明久も雄二も未経験だからな」

「「何だとキサマっ!」」

 

3人で笑い合う。何だかんだ、根っこの部分で似通ったところがあるので、打ち解けるのは存外に早かった。

 

「てか、いい風に言い訳してるけど、『実は本気出してませんでした』ってみっともなくないか?」

「そりゃ冗談で言ったんだからな」

「冗談かよ!」

「当たり前だろ。今更そんな言い訳格好悪すぎるだろ」

「だよね」

 

もっともらしいことを言っていたが、結局雄二も自分を正当化させたいだけだったようだ。

 

――テン テン

 

「「「?」」」

 

と、3人の足元にビーチボールが転がってきた。

 

「丁度いい。このボールの持ち主でラストにするか」

「オーケー」

「男だったらどうするよ?」

「そん時は全力で投げつければいいだろ」

「ナンパの〆が男はヤダなぁ」

「だね。せめて」

「「すみませーんっ」」

 

少し離れた所から聞こえてきたのは女の人の声。どうやら最後の最後で運が味方したようだ。

明久たちがそちらを向くと、こちらに手を振る女性が2人。ひとりは赤のストレート。もうひとりは黒のツインテール。夕日に照らされて顔はよく見えないが、かなりの美人であるように見える。

 

「ラッキーだね」

「けど向こうは2人だぜ? どうする?」

「決まってんだろ」

「「「……」」」

 

無言で見つめ合う3人。今、3人の心は一つとなった。

 

「「「うぉおおぉぉっ!!」」」

 

ラグビーの様にボールを奪い合い、女性に向かって猛進する。

 

「おい聡! 彼女がいるんだからここは俺たちに譲れ!」

「明久! お前女2人も侍らせといてこれ以上欲張るなんて卑怯だぞ!」

「黙れ妻帯者ども! 独り者の悲しみを味わえ!」

「「「負けてたまるかーっ!!!」」」

 

相手が2人ということは、誰か1人が溢れるということだ。ここにおいてそれは、男として完全なる敗北を意味する。

今3人を突き動かしているのは、ナンパを成功させたいという達成感ではなく、『コイツにだけは負けたくない』という自尊心である。

 

「「「お姉さんたち! ボールをお届けに参りました!!」」」

 

殴り合い、蹴飛ばし合い、もつれ合いながら、3人はボールの持ち主である女性たちの足元に転がり込む。

 

「ありがとう」

 

3人がトロフィーのように掲げたビーチボールを、ツインテールの女性が受け取る。そして、一言――

 

「……()()

「どういたし…………へ?」

 

雄二が間抜け面で素っ頓狂な声を上げる。なぜ自分の名前を、と雄二が疑問を口にする前に、種明かしするようにツインテールの女性は髪を結っていた紐を解いた。

 

「し、翔子っ!?」

 

首を振ったことでファサッと揺れるたおやかな黒髪。雄二が観光客だと思っていたのは、幼馴染みの霧島翔子その人だった。

 

「……雄二。浮気は許さない」

「ま、まて翔子! お前を放ったらかしてナンパしてたことは謝る! だが俺とお前は付き合ってないんだから浮気には」

「……浮気をしたらどうなるか、その身体に教えてあげる」

「サラバだ!」

 

ビーチフラッグの選手もかくやという反射神経で反転し逃げ出す雄二。翔子は般若の形相でその後を追いかける。地獄の鬼ごっこオン・ザ・ビーチが始まった。

 

「な、なんで霧島さんが……」

「なんで、って。分からないの、()()

「ふぇ?」

 

不意に名前を呼ばれて振り返る明久。先ほどまでストレートヘアだった女性は、今はポニーテールになっている。猫を思わせるつり目でこちらを睨むその姿は、

 

「げぇっ!? み、美波!?」

「げぇっとは何よ!」

「ごめんなさい! って、美波がいるってことは――」

「明久君。これはどういうことですか?」

「アキくん。姉さんは悲しいです。弟をこんな形で手にかけるなんて」

「アキ! アンタ、ウチらがいるのにナンパなんでどういうことよ!」

「ご、ごめんなさい! つい出来心なんです!」

 

瑞希、美波、玲の3人に囲まれて逃げられないと悟った明久は、その場で土下座して許しを請うた。

その光景を見ながら、聡はジリジリと後退る。

 

「ま、まずい……! 姫路たちにバレてたってことは、裕香にも」

「私が、どうかした?」

「!?」

 

ギギギ、と錆びたブリキのような音を立てて振り返る聡。目の前では、裕香がにこやかに佇んでいた。ピアノ線のように、薄っすらと目を開いて。

 

「聡! アンタは毎度毎度っ!」

「わ、悪かったって! これにはわけが――そ、そう! 俺は明久と雄二に誘われて仕方なくだな」

「アンタが扇動したって聞いたわよ?」

「そそそそそんなわけないじゃないですか?」

「聡」

「…………はい」

「正座」

「はい」

 

聡は大人しくその場で正座する。夏の砂浜は火傷しそうなほど熱いとはいえ、明久たちに比べたら楽なお仕置きだ。

 

「ここじゃないわ」

「え? じゃぁどこで」

「アソコ」

 

裕香が指さしたのは、海岸に少し突出した岩。風雨に晒された岩肌はヤスリのようにざらついていて、太陽に照らされ鉄板のように熱せられていた。

 

「裕香さん。あんなところで正座してたら僕のお膝がとんでもないことに」

「焼き土下座でもいいわよ?」

「…………正座します」

 

トボトボと囚人のように歩き出す聡と看守のように連行する裕香。

夏の陽気に誘われた愚者3人を、沈みゆく夕日が静かに見守っていた。




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