バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から夏休み海編の後半戦。夏祭り編となります。

……今から後半戦?(白目)


夏休み海編⑨

夏休み海編⑨

 

「酷い目にあったね」

「ああ……」

「まだ膝が痛え……」

 

ペンションのリビングのソファでぐったりと項垂れる明久、雄二、聡の3人。それを秀隆とトレイズが冷ややかな目で見下ろしていた。

 

「自業自得だろ」

「異性と一緒に出かけているのにナンパなんて、言語道断だろ」

「…………失礼極まりない」

「「「はい。反省してます……」」」

 

しおらしく頷く3人。流石に反省したのか、いつもバカをしているテンションではなくなっていた。

 

「けど、よく僕たち無事だったね」

「ああ。いつもなら少なくとも三途の川が見えていてもおかしくないのにな」

「待て。お前らのお仕置きって臨死体験レベルなのか?」

 

世間一般ではそれは私刑と呼ばれる。

 

「ま、リュウ兄もいたからな。大人しくしといたんだろ」

「小鳥遊さんがいなかったらどうなってたんだ!?」

 

聡はもしもの事を想像して震えが止まらなくなっていた。

 

「まぁ吉井君たちのお仕置きの認識はともかく、まだ許されたとは限らないんじゃない?」

「そうじゃな。追加のお仕置きがあってもおかしくないじゃろうな」

「だよね」

「ま、まだ何かあるだろうとは思ってたさ」

「お前ら普段何やらかしてんだ……?」

 

Dクラスである聡は、Fクラスの惨状など知る由もない。

 

「どうする? 逃げる?」

「いや、相手の考えが見えないうちに逃げるのもまずい。万が一許されて」

「因みに、姫路はペンションのキッチンを見て張り切っていたぞ」

「「逃げよう(るぞ)!!」」

「決断が早くないか!?」

 

明久たちは最悪の事態を想定して一目散に窓に向かって走る。

 

「お主ら落ち着くのじゃ。この短時間で食材を買いに行けるわけなかろう」

「…………秀隆の冗談」

「なんだ、冗談か……」

「驚かせやがって……」

「姫路の料理がなんだってんだ?」

「「さあ?」」

 

瑞希の料理の『腕前』を知らない3人が首をかしげる。

 

「だいいち、今から近くの町でやってるお祭りに行くんだろ?」

「酷い目に合うようなことも起きないと思うよ?」

「「だといいんだけど……」」

「ま、荷物持ちや懐が寂しくなるのは覚悟しとくんだな」

「…………それは、いつものこと」

「定番の罰だよね」

 

万年金欠の明久にはそちらでも致命的なのだが、命が危険にさらされるよりはマシだ。

 

「まぁいいか。なるようになるよね」

「そうだな。殺されないだけマシとするか」

「…………達観している」

「達観って言えるのか?」

 

今までのことを思うと、と秀隆と秀吉は苦笑する。

 

「それにしても、随分と長いな。着替えに何分かけてんだ?」

 

雄二が壁の時計を見ながらぼやく。

女性陣が着替えのために隣の棟に移動してからかれこれ30分以上経過している。5分足らずで身支度を終える明久たちと比べてるまでもなく、長い間待たされている。

 

「水着のケアってそんなに面倒なのかな?」

「水着というか、シャワー浴びたり髪乾かしたりがあるだろ」

「それだと長いのも納得だね」

「島田や霧島は髪が長いからの」

「…………髪の手入れは大切」

「工藤や玲さんは短いだろ?」

「それでもちゃんとケアしないといけないんじゃないか?」

「髪以外にもスキンケアや化粧直しもあるじゃろうな」

「何にせよ、時間がかかりそうってイメージあるよね」

 

などと女性の身支度に関して談義していると、

 

「「「お待たせー」」」

 

と華やかな声と共に、女性陣がリビングになだれ込んできた。

 

「皆、随分と時間がかかってたんだね――おおっ!」

「お、凄いな。そんなもんを用意してたのか」

「…………時間がかかるのも納得」

「とんだサプライズだな」

「まさに夏の風物詩だね」

「へぇ。こんなに色んな柄があるんだな」

「ファッションショーみたいだな」

「なるほど。浴衣じゃったか。全員よく似合っておるではないか」

 

明久たちの目に飛び込んできたのは浴衣姿の女性陣。赤、青、浅葱色、紫など色とりどりの浴衣。柄も定番の朝顔や金魚から牡丹や葡萄、錦鯉もある。お披露目するように並んでいる姿はまさに浴衣のニューモデルを披露するファッションショーのようで、明久たちの気分も一気に上がる。もちろん、全員が可愛くてスタイルが良いのも大きな要因だ。

 

「へぇ〜。綺麗だね〜。髪型も変えてるから色っぽく見えるよ」

「そ、そうですか?」

 

浴衣に合わせて髪をアップに纏めた瑞希が袖を広げてクルッと回ってみせる。褒め言葉として色っぽいは少しどうかと思うが、本人は満更でもないようで、袖で口元を隠しながらふふっと笑っている。

 

「まさか、私も着ることになるとは思いませんでした」

「アタシもさ」

 

少し戸惑ったように自分の浴衣を見下ろすのは玲と雅子。2人は浴衣を持ってきていなかったのに用意されていたことに驚いていた。

 

「皆で着れるように前からこっそり相談していたんですよ」

「お二人の浴衣は翔子ちゃんが用意してくれたんです」

「……着ていないのが何着かあったから」

「玲ちゃんは分かるけど、アタシは頭数に入ってなかったはずだろ?」

「…………もしもの時のために予備をいくつか持ってきていた」

「用意周到だねぇ」

 

雅子が少し呆れたように感心する。

 

「ウチ、浴衣って初めて着るかも」

「私もです」

「あ、そっか。美波たちは海外育ちだもんね」

「はい。振り袖とは違うんですね」

「浴衣は名前の通り、元々は湯浴みした後に着ていた着物だからな。振り袖とはまた違った着心地だろ?」

「ちょっと歩きにくくて変な感じね」

 

帯や裾に手をやって着心地を確かめる2人。

美波はそのまま奥襟を少し緩めるように手を伸ばし、リリアは裾の擦れが気になるのかパタパタと重ねを直す。その際に明久とトレイズの視界に、日焼けしていない白い肌や、少し焼けて小麦色になった肌が入る。

 

「「…………ほぇ〜…………」」

「お前ら、だらしない顔してるぞ」

「「へ?」」

「? な、何よ、アキ?」

「トレイズ? どうかしましたか?」

「あ、ああ、いや! 別に何でもないんだっ!」

「そ、そう! ちょっと暑さと湿度にボーッとしてただけで!」

「え? それ大丈夫なの?」

「少し横になりますか?」

「「大丈夫です!」」

 

明久とトレイズが慌てて2人から視線を逸らす。美波たちの浴衣姿に当てられたのか、2人の顔は耳まで赤くなっている。

 

「(吉井君にマクスウェル君。君たち美波ちゃんとリリアちゃんに見惚れてたでしょ?)」

「「(工藤(さん)!?)」」

 

音もなくスッと2人の間に近寄った愛子が耳打ちする。

 

「(な、何を言ってるのさ工藤さん!)」

「(そ、そうだぞ工藤! 俺たちがそんなはしたないこと――)」

「(ふふふっ。隠さなくても大丈夫だよ。浴衣だと2人とも特に可愛いよね〜。ほら、浴衣っておっぱいが大きくなくても格好つくでしょ? そうなると、美波ちゃんって他はかなりレベル高いから特に可愛く見えちゃうんだよ。それにリリアちゃんも、小柄で色白だから浴衣みたいな着物がよく映えるんだ。着物ってボクらみたいな女の子には助かるんだよね)」

「(そ、そんなこと言われても僕には何のことだかさっぱり)」

「(あ、ああ。俺には工藤の言ってるこどがまるで理解できないぞ)」

「(ふ〜ん……? そう。分からないなら、ボクが教えてあげる。いい、見てて?)」

 

愛子はそう言うと、裾の辺りに手をやって康太の方を向いた。

 

「ちら」

 

『……っ!?(ブシャァァアアッ)』

『む、ムッツリーニ!? 何事じゃ!?』

『いきなり鼻血を吹き出して倒れたぞ!?』

『…………お、俺が、いったい何をしたと……?』

 

開けられた浴衣から覗く白い肌を目の当たりにして、康太は大輪の彼岸花を咲かせる。明久たちの悪友は、いきなり死の淵に追いやられた。

 

「ね? ムッツリーニ君もいつもより興奮しやすいでしょ? これもボクの胸が小さくても浴衣のおかけで色っぽく見えるからなんだよ」

 

後ろで恨めしそうにこちらを見ている康太を無視して、愛子がエッヘンと胸を張る。康太に何か恨みでもあるのか、はたまた扱いが上手くなっただけなのか。

 

「う〜ん……。それについてはいつもとの差がよく分からないからなんとも……」

「昼間も鼻血を吹き出していたからな」

 

心なしかいつもより鼻血の勢いが増したようにも見えたが、誤差の範疇な気もする。

 

『生きているかムッツリーニ!? いったい誰がこんな酷いことを真似を!』

『今輸血パックを取ってくるからな!』

『…………もう、ダメかもしれない……』

『しっかりするのじゃムッツリーニ! まだ死んではならん!』

『そうだぞ! お前を待ってる奴らが学園にはたくさん』

『…………だが、これはこれで……満更でもない……』

『……なんというか、心配しておる自分が阿呆のように見えてくるぞい』

『やっぱ一回死んできた方がいいんじゃないか?』

 

呆れる秀吉と聡に明久が輸血パックを渡していると、その後ろでは雄二と翔子の会話が聞こえてきた。

 

「……雄二。私の浴衣、どう?」

 

明久の位置からは表情はよく見えないが、声色から翔子がどこか照れくさそうにしているのは分かる。雄二の前に一歩出て披露された浴衣姿は、長い髪と地色の紫が良く映えていた。

 

「ん? ああ、そうだな〜……。まぁ似合ってるんじゃないか?」

 

ナンパの負い目もあるのか雄二が形だけ褒めている。こういった時くらい少しは誠意を見せてもいいのでは、と明久も内心呆れた。

 

「……じゃぁ、私と結婚したい?」

 

唐突な質問だが、いつものことなのでスルー。

 

「全然」

 

即答する雄二。やはりいつものこと。

 

「……じゃぁ、私と婚約を結びたい?」

「微塵も」

「……じゃぁ雄二――」

「まっぴらだ」

「――生きて、いたい……?」

「おおっ! 翔子は本当に可愛いな! 見違えたぜっ!」

 

いつものようにフェイントにひっかかる雄二。いい加減学んでも良いはずだが、相変わらず翔子に関しては感の鈍い男である。

 

「……雄二は素直じゃない」

「お前な……。一応言っとくと、今のは『脅迫』って言うんだぞ……」

「……恋愛では手段を選んではいけないって、お義母さんが言ってた」

 

雄二の両親の馴れ初めが気になるところではあるが、明久が翔子の一途さに感心していると、今度は秀隆たちの会話も聞こえてきた。

 

「どうですか、誠さん?」

「うん似合ってる。可愛いよ」

「……えへへ……」

 

誠が素直に亜美を褒め、亜美もはにかんだように笑いながら身体をくねらせる。まさにリア充爆発しろな展開に明久が血涙を流しながらし嫉妬していると、

 

「どうよ聡。私の浴衣姿は」

「ああ。すっごく似合ってるぞ!」

「ええ〜。なんかワザとらしいなぁ〜」

「本当だって!」

「ふふっ。分かってるわよ。……ありがと」

 

聞こえてきた聡の裏切り行為に、明久がどう処刑してやろうかと考えていると、次に聞こえてきたのは秀隆と優子の会話。

 

「ど、どうかしら、秀隆?」

 

と優子が秀隆に尋ねる声が聞こえた。あの唐変木がどう女性を褒めるのかと興味本位で聞き耳を立てる。

 

「うん? そうだな……」

「似合ってる?」

「ああ。さっきの水着よりはサマになってるぞ」

「そ、そう……?」

 

褒め言葉としてそれはどうなんだと明久たちが呆れ返が、優子は満更でもないようだ。

 

「まさにお祭りにはしゃぐ小学ぐへぇっ!?」

「アンタは人生小学生からやり直しなさいっ!」

 

もはや狙って言っているとしか思えない秀隆の余計な一言に、明久たちは大きな大きなため息を吐いた。

 

「さて。それじゃあお祭りに行きましょうか。こんな事をしていると間に合わなくなるかもしれませんし」

 

パンパン、と手を叩き皆を促す玲。海の家でチラッとみたお祭りのポスターには、終了時刻は夜の10時と書いていた。まだ日が沈み出してきた時刻だから、出店が閉まるまでには十分に間に合うはずなのだが。

 

「そうですね玲さん。間に合わなくなったら困りますもんね」

「急ぎましょう。ウチ、日本のお祭りってまだこれで二度目だから楽しみなのよね〜」

「私も三度目ですが、とてもワクワクします!」

「お祭りってテンション上がるわよね〜」

「皆さんのお写真たくさんとりますね」

「……遅れたら、まずい」

「そうよね。早く行きましょう」

「ボクもすっごく楽しみ。早く行こっ」

 

それだというのに、女性陣は『急げ急げ』と繰り返す。だが焦っている様子もない。その違和感に、明久と秀隆が少し訝しむ。

 

「雄二、秀隆。皆あんなに急いで何かあるのかな?」

「分からん。が、警戒していた方がいいかもな」

「そんな大層なもんでもないだろ。どうせ色気より食い気物ってことなんじゃないか? 俺もかなり腹が減ってるからな。気持ちは分からんでもない」

「俺もかなり消耗したからな。お腹と背中がくっうきそうだ」

「お祭りの屋台のご飯ってなんであんなに美味しいんだろうね」

「…………たこ焼き。焼きそば。お好み焼き」

「ワシも心なしか腹が減ってきたのじゃ」

「射撃とかもあるんだろ? 楽しみだな〜」

 

昼間に目一杯運動したせいか、男性陣の腹の虫も大合唱しそうだ。ソースの焦げた匂いを想像するだけで口の中がお祭り一色になる。

 

「ほら、アキくんたちも用意してください」

「はーい――ってあれ? 姉さん、車で行くの?」

 

ここからお祭りの会場である公園までは少し遠いが歩いて行けない距離ではない。てっきり歩いていくものばかりだと思っていた。

 

「はい。海よりは離れていますし、着替えも持って行きたいので車の方がいいでしょう。この人数で歩いて行くのもそれなりに大変ですし」

「ん? ならリュウ兄の姿が見えないのは」

「少し準備してもらってんだよ」

「準備?」

「さっき言った着替えとかよ」

「もちろん、明久君たちの分もありますよ」

「なるほど」

 

それならば車で行くのも納得だ。

お祭りの最中にソースやジュースが零れてせっかくの浴衣が汚れて雰囲気が台無しに、なんてことは十分にあり得る話だ。車があるのだから着替えを用意しておくことにこしたことはない。もしかしたら、浴衣での徒歩移動になれてない美波やリリアへの配慮でもあるのかもしれない。

 

「どうする? 僕たちも浴衣を着る?」

「今から着替えるのは面倒だろ。それに着替えがあるってんなら、向こうに着いてから車の中で着替えてもいいだろ」

「それもそうじゃな」

「んじゃ、夏の風物詩を楽しみますか」

「…………良いショット期待してる」

「花火も上がるみたいだね」

「まさに夏、って感じだな」

「楽しみだな〜」

 

これから聞こえてくるであろう祭り囃子を想像するだけで、明久たちの気は(はや)り心は躍り始めた。

 

――これから地獄が始まろうとするとは、この時の明久たちは微塵も想像だにしなかった。

 




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