バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は夏祭り編の続き。オリキャラ(秀隆中学生組)との話となります。

※投扇興の点数はウィキペディアを参照してます。


夏休み海編⑪

夏休み海編⑪

 

「よう聡、誠。景気はどうだ?」

「ぼちぼちだよ」

 

射的屋から少し歩いた所で、聡たちが金魚すくいに興じていた。

お馴染みのプラスチック製の生け簀には、赤や黒、金に斑模様の金魚が所狭しと泳いでいる。

 

「秀隆もやる?」

「いや、俺らペンション泊まりだろ。それに容器もないのに金魚は持って帰りにくいし」

「とか何とか言って、負けるのが怖いんだろ?」

 

明らかな挑発。ニタニタと意地悪く嗤う聡に、秀隆もニヤリと牙を剥く。普段ならこんな挑発には乗らないが、今日は違った。

 

「ほぅ。言うじゃねぇか。たまにはその安っぽい挑発に乗ってやるよ」

「はっ! 今日こそはお前に吠え面かかせてやるよ!」

「できるもんならやってみな雑魚が」

 

バチバチと火花を散らす秀隆と聡。はたから見たらただのチンピラ同士の喧嘩にしか見えない。苦笑いを浮かべる誠に同情しつつ、優子は秀隆から距離を取る。

 

「珍しいわね。神崎君が聡の挑発に乗るなんて」

「たぶん、お祭りでテンション上がってるでしょ」

 

優子は浴衣の裾を折り裕香の隣に座る。反対側ではポイを片手に亜美が真剣な眼差しで水面とにらめっこ中。

 

「えい!」

 

気合一閃。亜美のポイが水面を掬い取る。が、釣果はなし。受け皿にはバシャリと水だけが満たされた。

 

「あぅ……。難しいです」

「亜美ちゃんは力入れすぎなのよ。こうやって――」

 

今度は裕香のチャレンジ。ポイを水面から少し下に平行になるように沈め、金魚の下に潜らせる。

 

「せい!」

 

タイミングを合わせてポイを掬い返すも、金魚は寸前で反転。ポイは虚しく空を切った。

 

「あっ!」

 

裕香が短い悲鳴を上げる。引き上げた裕香のポイには大きな穴。和紙で出来たポイは水を吸って破れやすい。おそらく金魚の尻尾あたりが当たっていて、その衝撃で破れたのだろう。

 

「裕香は少し時間をかけ過ぎたみたいね」

「う〜ん。難しいわね」

 

裕香が破れたポイをむむむっと睨む。

 

「木下先輩、お手本を見せてもらえませんか?」

「え?」

 

亜美が懇願するような目を向ける。

 

「そうね。私たちを冷静に観察していたみたいだから、優子は取れるわよね?」

 

藪をつついてなんとやら。余計な口を挟むんじゃなかったと若干の後悔が募る。

 

「う〜ん。どうかしら? 岡目八目って言葉もあるし」

 

外から見ていたから冷静に観察できただけで、実際やるとどうなるかは分からない。

 

「ダメ元でもやってみないと分からないわよ?」

「そうですよ。一度だけお願いします!」

 

裕香だけならいざ知らず、亜美に純粋な眼差しでお願いされては断るに断れない。

 

「……分かった。一回だけね」

「はい」

「取れなくても文句言わないでよ」

「大丈夫。その時は大口叩いたっくせにって言うから」

「同じじゃないの……」

 

ブツクサと呟きつつ、優子は小銭を店主に渡し、代わりにポイと容器をもらう。

 

「…………」

 

優子はじっと金魚たちを観察。活きの良さや泳ぐ向きを考え、一匹に絞る。

 

「…………」

 

狙った金魚が生け簀の端によったところで、優子はゆっくりとポイを沈め――

 

「っ!」

 

金魚がポイの上に来たところで素早く手首を返す。スナップが効きて一瞬で半回転したポイは、見事金魚を捉え容器にポチャンと黒い金魚が移る。「ふー……っ」

 

「「やった!」」

 

亜美と裕香が手を叩き合って喜ぶ。後ろで見ていたギャラリーも「おおっ」と歓声を上げ、店主もうんうんと嬉しそうに頷いた。

 

「なんとか面目躍如ね」

「凄いです木下先輩!」

「やるわね。このままもう一匹いく?」

「うーん……止めとくわ」

 

次を促す裕香に優子は首を振り、ポイを見せる。

 

「あー……」

「破れちゃってましたか……」

 

優子のポイは端のほうが破れている。中央はまだ無事なのでできないことはないが、優子はポイを店主に返した。

 

「いいのかい?」

「ええ。一匹取れただけでも上出来です」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 

店主はビニール袋に金魚と水を入れると手早く紐で巾着風に結ぶ。

 

「はいよ嬢ちゃん」

「ありがとうございます」

 

袋の中の金魚を覗き込む。金魚は環境が変わったことに気づかないのか、気ままにふよふよ泳いでいる。

 

「可愛いですね」

「そうね」

 

3人で顔を合わせて笑っていると、

 

「っしゃぁああっ!!」

 

隣から雄叫びが轟いた。

 

「だぁああぁっ! クッソッ!」

「ヒャハハハッ! 見たかゴラァ!」

「五月蝿いわよ! 他の人の迷惑を考えなさい!」

「完全にチンピラね……」

「ですね」

 

中指を立てて聡を挑発する姿はとても高校生とは思えない。

 

「んだよ。勝ったんだからいいだろ」

「よくないに決まってるでしょうが」

「それで、何匹捕れたんですか?」

 

亜美の質問に秀隆は人差し指と中指をピンと立て、

 

「2匹!」

 

と高らかに告げた。

 

「威張るほどじゃないでしょうに」

「聡の()()()よりましだ」

「ボウズ?」

「0匹ってことよ」

「くそぅ……。あそこで破れなけりゃ……」

「欲張って3匹も一気に狙うからだよ」

 

どうやら聡は逆転を狙って賭けに出たようだが、見事に失敗したらしい。

 

「あいよ坊子」

「サンキューおっちゃん」

 

秀隆はウキウキでビニール袋を受け取る。秀隆と取った赤い金魚2匹はそれぞれが円を描くように優雅に泳いでいる。

 

「それで、その取った金魚はどうするの?」

「「あ」」

 

誠に言われて思い出す。秀隆たちは今はペンション泊まり。金魚を移す鉢もなければ持ち帰る用の容器もない。

 

「ハハハッ! 自分で言っといてバカでやんの!」

「んだとコラ!」

「はいはい喧嘩しないの。今回は挑発に乗ったアンタが悪いでしょ」

「聡も変に煽らないの」

「「ぐぬぬぬ……っ!」」

 

互いに歯軋りし合う2人。優子たちの言う通りだから反論のしようがない。

 

「優子もごめんね」

「私たちがお手本を見せて欲しいと言ったばっかりに……」

「気にしないで。やると決めたのは私だから」

 

とは言うものの、優子も金魚を持て余しているのは事実。さてどうしたものかと頭を捻らせていると、

 

『ああーんっ!!』

『金魚ーーっ!!』

『ダメ! アンタたちこの前もそれでお小遣い使い切ったでしょ!』

 

後ろの方で泣き叫ぶ声。振り向くと、小学生くらいの兄妹が母親のズボンの裾を引っ張りながら泣いていた。どうやら金魚すくいをやりたいとねだっているが、母親の許可がおりないようだ。

 

「「……」」

 

その様子を見ていた秀隆と優子は向き合うと苦笑いを零す。どうやら今日は()()()()()らしい。

 

「よう坊子ども。金魚は好きか?」

『『好きー!』』

 

胡散臭い人間に声をかけられて母親は警戒するが、子供たちは無邪気に元気に返事をする。

 

「あの、ご迷惑でなければ、私たちの取った金魚をもらってもらえませんか?」

『え?』

 

秀隆が子供たちの前に金魚を振り子のように翳している間に、優子が母親に説明する。

 

「私たち今日は観光でここに来ているんですけど、明日の朝には帰るんです。車での長距離移動では金魚ももちませんし」

『いいのかい?』

「ええ。むしろもらって頂けた方がこちらとしてもありがたいので」

『そうかい? それなら』

「お前ら、大切に育てるって約束できるか?」

『するー!』

『いっぱいお世話するー!』

「よーし! いい返事だ!」

 

秀隆は母親の許可を取る前に既に兄妹に金魚の袋を渡していた。

 

「こら秀隆。まだ返事をもらってないでしょう?」

『いいよ。いいよ。アタシもこの子らのわがままに辟易してたところさね』

 

母親の方も苦笑いを浮かべる。母親からしたら、へそを曲げた子供たちの機嫌が直って万々歳といったところのようだ。

 

「それじゃぁ……はい」

『お姉ちゃんありがとー!』

『ほら。お兄さんにもお礼言いな』

『ありがとー!』

 

ブンブンと両手を振る兄妹に、秀隆たちも軽く手を振って答えた。

 

「あ、そうそう。金魚はなるべく早めに水槽に移して、できれば少し暗い所においてあげてください」

『暗い所?』

「その方がストレスが減って金魚が長生きするらしいです」

「あと、餌のやりすぎに注意。明日から少量を1日2回で十分だからな」

『分かった!』

 

秀隆は兄妹の頭をポンポンと叩くと、優子たちとその場を後にした。

 

「ちぇ。何だかんだ美味しい所は持っていきやがった」

「ま、仕方ないんじゃない? 取ったのは2人だし」

「アンタは引き立て役が十分よ」

「まぁまぁ。次は何をしますか?」

 

皆でワイワイ喋りながら次に行こうとすると、

 

「おい(あん)ちゃん」

 

後ろから声をかけられた。振り向くと、出店の店主の1人がこちらに手招きをしている。

 

「アンタだよ。銀髪の」

「俺?」

 

店主は秀隆を指名。訝しながらもその店の前に行く。

 

(あん)。中々()なことするね」

 

どうやらその店主は先ほどのやり取りを見ていたようだ。

 

「そうか? 不用品を押し付けただけだぞ?」

(あん)たちにとってはそうかもな。たが、あの兄妹に取っては大切な思い出さ」

「どうかな。多分来週には忘れてるんじゃないか?」

「ガハハハッ! かもしれねぇな。でも兄ちゃんたちは気にしないだろ?」

「まあな」

「だから粋ってなもんよ」

 

店主は1人納得したようにウンウンと頷く。

 

「それで、おっちゃんは何か用なのか? 景品でもくれんのか?」

「それは兄ちゃん次第だな」

 

皮肉に笑う秀隆に、店主もニヤリと返す。

 

「ウチの試遊料を一回タダにしてやるよ。いいもん見せてくれた礼だ」

「なるほどな」

「どうするの?」

 

一応優子が聞くが、秀隆に断る理由はない。

 

「ま、ここが何の店かによるな」

「ウチは投扇興さ」

「「「なんて?」」」

 

投扇興。それは投擲用の扇、枕と呼ばれる直方体の桐の台、蝶と呼ばれる的を用いた座敷遊びの一種で、扇を蝶に当て、その倒れ方や位置関係で『役』が決まり、その点数で競う遊びだ。和製ダーツとも呼ばれ、競技カルタ同様に流派や団体もある歴とした競技だ。

 

「なんでそんなマニアックなもんを」

「輪投げとかじゃダメなのか?」

「近頃はこの業界も不況でね。目新しさやインパクトが必要なのさ」

「いやそれは分かるけどさ」

 

それにしても投扇興はマニアック過ぎるだろとツッコミを入れる。

 

「こう見えても人気なんだぜ?」

 

確かに3列ある遊戯台では子供から大人、カップルに友人グループと様々な人が並び、的に目がけて扇を投げている。外国人のグループは一投するたびに歓声を上げる熱の入れようだ。

 

「たしかに楽しそうね」

「だろ? これが案外難しくて楽しいんだ」

「さてはおっちゃん布教も兼ねてるな?」

 

秀隆の質問には答えずガハハハと笑い返した。

 

「ま、遊ばせて貰えるんならなんでもいいや。やってこうぜ」

「そうね。私もやってみたくなっちゃったわ」

「僕らもやってみる?」

「おう! やってけやってけ! 君らの分もサービスだ!」

「マジで!? ラッキー!」

「ありがとうおじさん」

「ありがとうございます」

 

店主は気前よく秀隆たでげなく聡たちも一回無料でいいと言う。

 

「んで、肝心のルールは?」

「5回投げて点数の合計で景品が決まる。点数表と景品はアレだ」

 

店の奥には点数表と、その横に景品の書かれた看板が立ててあった。参加賞の駄菓子から始まり光る玩具や人気カードゲームのパックが並び、1等は高級和牛セットで200点。そして特賞は――

 

「「「温泉ペア宿泊券!?」」」

 

縁日の景品としては破格。金額だけで言えばゲーム機なんて目じゃないものだった。

 

「300点って……取らせる気がないだろ」

「それでもワンチャンありそうなのが嫌らしいね」

「500点じゃないだけマシか?」

 

特賞の宿泊券は300点。点数表を見ると『紅梅(こうばい)』という役が60点なので最低でも紅梅以上は必要となる。ちなみに一番点数の高い役は『夢浮橋(ゆめのうきはし)』で100点となっている。

1等の高級和牛セットですら取れるか怪しいラインなので、この特賞は『客寄せ用』と言われても仕方ない。

 

「まさかこの旅館はもう潰れてるって()()はないよな?」

「ちょっと失礼よ」

「大丈夫だ。地元の旅館だが風呂も飯も一級品だぞ」

 

どうやら温泉宿は地元の旅館らしい。そこの宣伝も兼ねているということか。

 

「なるほどな。んじゃ、ありがたく遊ばせてもらいますか」

「おう! 頑張りな!」

 

男女に分かれて列に並ぶ。先ずは女性陣がチャレンジ。

 

「結構距離があるわね」

 

投擲する場所から的までやおおよそ1〜2メートル。本来は座って遊ぶものだが、今回は縁日ということで立ったままで扇を投げることとなる。

 

「それじゃ、投げな」

 

枕と蝶の位置を調整した店主が声をかける。3人は蝶に狙いを定め、同時に一投。

 

「やった!」

「……難しいわね」

「あ、乗りました!」

 

一投目は三者三様の反応。裕香の扇は蝶に当たり、そのまま一緒に落下。優子は的を外し扇は枕に当たることなく手前で落下。そして亜美は、

 

「おお。やるな嬢ちゃん。『夕顔(ゆうがお)』だ。8点な」

「やりました!」

「凄いわね亜美ちゃん」

 

亜美の扇も蝶に命中しそのままもつれ込むように落ちて、扇の紙の部分に蝶が完全に乗っかった。

 

「惜しかったね。中骨まで行ってたら『朝顔(あさがお)』だったぞ」

「次はそれを目指します!」

「そっちの嬢ちゃんは『花散里(はなちるさと)』で1点。そっちの嬢ちゃんは残念だけど『手習い』で0点だ」

「何とか0点回避ね」

「むぅ……」

 

裕香も何とか役有りで点数を獲得。優子のみ無得点となった。

 

「危なかったな」

 

悔しがる優子に秀隆が後ろから笑いかける

 

「何がよ?」

「点数表見ろよ。もし扇の要が当たってたら『コツリ』で()()()()1点だぞ」

「え?」

 

優子が点数表を確認すると、確かにそう書いてある。しかも優子の投げた扇は要が枕の方を向いて落ちたので、最悪マイナスからのスタートもあり得たのだ。

 

「マイナスがあるのも難しいね」

「ああ。力任せに投げても上手く飛ばないのもあってかなり難易度の高いゲームだな」

「見ろよ。台に当てて台ごと倒れたら『野分(のわき)』でマイナス30点だぞ」

 

投扇興は科料(マイナス)もあるのでかなり投げるのにテクニックと集中力を要するようだ。実際。優子たちの前の組は、二桁点数行くのがやっとだった。

 

「練習すれば高得点狙えそうだけど」

「ぶっつけ本番の縁日でそれは無理だな」

「とりあえず、()に当てるところからだな」

 

投扇興は扇を蝶に当てるか、扇が枕に寄りかかることが点数に繋がりやすい役の作り方になっている。何はともあれ先ずは枕に届かす、蝶に当てることからだ。

 

「それじゃ、次いいよ」

 

2投擲目の準備も終わり、優子たちが扇を投げる。

最終的な結果は、亜美が26点、裕香が16点、優子が11点だった。最高点は亜美の『早蕨(さわらび)』の14点。惜しくも4等に届かなかった。

 

「はいよ。この中から好きなのを選びな」

 

店主が駄菓子の入った箱を3人に差し出す。亜美はその中から3個、裕香と優子は2個ずつ取り出した。

 

「難しかったわね」

「でも楽しかったです!」

「何だか納得いかないわ……」

 

楽しかったたと笑い合う2人に対して、優子は渋い顔。何とか二桁点数は取ったものの、手習いは優子が一番多かった。

 

「良いじゃんか。()()()()じゃなかったんだしよ」

「ヤキトリ?」

「麻雀で1度も上がれずにゲームが終わることをそう言ったりするんだ」

 

つまりは釣りで言うところのボウズ。参加賞以上をもらえたから良しとしろと言いたいのだろう。

 

「それじゃ、俺たちの番だな」

「さっきは負けたが今度は負けねぇからな!」

「今回は僕も参加しようかなぁ」

 

男子3人は3人で火花を散らす。

 

「誠さん頑張ってください!」

「聡。0点だけは止めてよ」

「……」

 

亜美と裕香はエールを送るが、優子は秀隆を睨んだまま。

 

「なんだよ。俺には声をかけてくれないのかよ」

「……私より点数高かったら許さないから」

「斬新な応援だな」

 

苦笑いしながら投擲用の扇を閉じたり開いたりして準備ができるまでの暇を潰す。

 

「いいぞ」

 

店主が準備完了の声をかける。3人は的に向かって扇を構えるが、

 

「ん?」

「なんだか」

「さっきより遠くないか?」

 

秀隆たちの蝶は優子たちの時よりも明らかに遠くなっている。

 

「さてはおっちゃん。女子だけ贔屓したな」

「何のことやら」

 

店主はとぼけるが、直す気がないのはそういうことだろう。

 

「まぁいい。絶対に特賞もぎ取るぞ」

「おう」

「そうだね」

 

誠も珍しく闘志を燃やし第一投。3人の扇はそれぞれ蝶に当たり、

 

「おお!」

 

店主が驚いて歓声を上げる。秀隆の扇は蝶を落とし、そのまま台の上に乗った。誠の扇は秀隆と同じだが蝶が床に立ったまま。聡は蝶と扇が床に落ちたが、蝶が扇の紙の部分に立った。

 

「凄えなこりゃ。『澪標(みおつくし)』、『桐壺(きりつぼ)』、『浮雲(うきぐも)浮雲』だ」

 

点数はそれぞれ秀隆が55点、誠が75点、聡が20点。一投目からかなりの高得点である。

 

「しゃっぁ!」

「ふぅ……」

「くそぅ。なんで俺だけ」

「いやいやい十分でしょ」

「凄いです誠さん!」

「……やるわね」

 

誠と秀隆は1等が見え、聡もまだまだ挽回できる点数。店主の首筋に薄っすら冷や汗が流れる。

その後も点数を重ね、4投目の終了時点で下から誠が52点、秀隆が93点。誠に至っては111点の高得点。特賞獲得は不可能となったが、誠は2等確定。()次第では1等も狙える点数だ。

 

「それじゃ、投げてくれ」

 

ここまできたら店主も腹をくくったのか、腕を組んで静観に回る。亜美たちもギャラリーも、固唾を飲んで最後の一投に注目する。

 

「えい!」

「そりゃ!」

「たぁっ!」

 

3人の手から扇が離れ、蝶に向かって一直線に飛び――

 

『『『おおおっ!!』』』

 

ギャラリーから今日一番の歓声。誠の放った扇は蝶に当たり、枕に乗る。その蝶は床に落ちることなく、扇に引っかかった。

 

「か、『篝火(かがりび)篝火』! 90点!」

 

本日の最高得点。競技でもまずお目にかかれることのない高難易度の役だ。これで誠は合計201点となり、見事1等賞を獲得した。

 

「やった!」

「凄い! 凄いですよ誠さん!」

 

誠と渾身のガッツポーズ。亜美は人目も(はばか)らず誠に抱きついて喜びを表現した。

 

「だーくっそ!」

「結局誠かよー!」

 

負けの確定した2人は地面に拳を叩きつけて悔しがった。

 

「いや、君らも大概凄いからな」

 

店主が呆れながら2人の役と点数を告げる。

 

「銀髪の兄ちゃんは『横笛(よこぶえ)』で60点。そっちの兄ちゃんのは『帚木(ははきぎ)』で85点だぞ」

 

秀隆の蝶は床に落ちた扇の要に立ち、誠の蝶は枕の上で倒れ、その上に扇が乗っっている。どちらも競技ですら中々お目にかかれない高得点役だ。

3人全員が100点超え。1〜3等を総ナメである。

 

「やったじゃない聡!」

 

地に伏す聡の頭を、慰めるように裕香が撫でる。トータルでは秀隆に負けているが、最後の1投は秀隆よりも点数が高い。裕香からしたら十分に値千金である。

 

「…………」

 

優子も同じように地に伏す秀隆の前に立ち、

 

「ふっ」

 

なぜか勝ち誇ったように鼻で笑った。

 

「テメェ最下位のクセに態度でけぇなおい!」

「何よ。粋がっておいて鳳君に負けたくせに」

「後輩に負けたテメェには言われたくねぇよ! この負け犬が!」

「何ですって!」

 

いきなり喧嘩を始めた2人に、周囲もついていけずポカンとしている。

 

「おいおい。喧嘩はよそでしてくれ」

 

店主が呆れながら店の奥から景品を取り出す。

 

「持ってけドロボー」

「「「あざーすっ!」」」

 

誠には牛肉の入った箱。聡にはお菓子の詰め合わせの箱。そして秀隆には、先ほどのゲーム機の箱より大きめの直方体の箱が渡された。

 

「いやー。いいもん見させてもらったよ。あそこまで行くと逆に清々しいな」

 

実際の競技でも『絵合(えあわせ)』、『夕霧(ゆうぎり)』、『行幸(みゆき)』と行った1点台の役が多く、早蕨のような10点以上の役は中々狙って出せる選手も少ない。今回の3人はかなりのレアケースだ。

 

「しかし凄いな。普通は10投して40点出せれば優勝圏内なんだがな」

「僕らもあんなに点が取れるとは思いませんでした」

「運が良かったよな」

 

ビギナーズラックを差し引いても出来すぎな点に、店主は完敗だと拍手を送る。

 

「でもまぁ楽しかったな」

「そうだな」

「またやりたいです」

「来年も来ようかしら?」

「いいね」

「次は特賞を取りに行くか」

「たはは……。勘弁してくれ……」

 

店主は来年も搾られるのかと戦々恐々としながら、秀隆たちを見送った。




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