バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は夏休み海編の後半戦。夏祭りの終盤に差し掛かったところからです。

――さあ、地獄のハジマリダ


夏休み海編⑫

夏休み海編⑫

 

投扇興で一勝負終えた秀隆たちは集合場所に集まった。

秀隆たちが到着した頃には明久たちは既にそこに居たのだが、

 

「ねぇ雄二。やっぱりおかしいよ」

「奇遇だな明久。俺も何か変だと思ってたんだ」

 

明久と雄二が隅の方で座り込んでヒソヒソと話し込んでいた。なにやら不穏な空気すら感じられる。周りで見守る秀吉たちも呆れ顔だ。

 

「何やってんだお前ら?」

「あ、秀隆」

「鳳と聡も一緒か」

 

優子たち女子組は瑞希たちに合流したので、必然的に男子は男子で固まる。

 

「ってどえらい荷物だな」

「おう。今日の晩飯とデザートだ」

 

誠は和牛セット、聡はお菓子詰め合わせの箱を皆に見せる。

 

「えっ!? 凄っ!!」

「これはまた、荒稼ぎしたようじゃな」

「…………豪勢」

「いったい何があったんだ?」

 

3人は明久たちに出店での一幕を説明する。

 

「投扇興?」

「また珍しい出店だな」

「初めてで1〜3等を総ナメとは店主も商売上がったりじゃな」

「…………豪運」

「俺もやってみたかたったな」

「後でまだやってたら行ってみるといいぞ」

「結構楽しかったね」

「ま、あとは特賞と駄菓子か玩具くらいしか残ってないけどな」

 

めぼしい景品はないが、それでも良い体験ができることには違いない。トレイズはまだ店が開いていたらリリアと行ってみると言う。

 

「それより、お前ら雁首そろえて何してんだ?」

「あ、そうだ。聡。一之瀬さんに変わったところはなかった?」

「裕香に? いや、特には感じなかったな」

 

明久は聡に裕香に変わりなかったかと聞くが、聡に心当たりはなかった。

 

「なら……やっぱり僕らは許されたのかな?」

「まだ油断するな明久。一之瀬が聡を許しただけで翔子や姫路たちはまだ許してないかもしれねぇし、一之瀬が巧妙に隠しているだけかもしれねぇ」

「そっか。ならまだ油断はできないね……」

「さっきから何の話をしているんだ?」

「祭りの間、姫路たちが妙に明久らに優しかったらしいのじゃ」

「…………工藤も怪しい」

「いや、工藤はいつも通りに見えたぞ?」

 

明久と雄二は秀隆たちが出店を巡っている間に自身に起きたことを話した。

 

「う〜ん。聞いている限りだと、変なところは感じないけど?」

「いや、姫路たちがナンパなんてしでかした明久たちに直ぐに優しくするとは思えねぇな」

「一緒にやらかした俺が言うのもなんだけど、お前らなんで友だちを続けられてるんだ?」

 

妙に信頼されているのかされていないのか分からない関係性である。

 

「しかし、霧島や工藤はともかく、姫路や一之瀬らにそのような腹芸が出来るとは思えぬが」

「逆だ秀吉。翔子や工藤がいるから、姫路たちも腹芸が出来るんだ」

「最初から打ち合わせしておけば、変に演技する必要もないってことだ。試召戦争の時のFクラス(うち)みたいか感じだな」

「え? だとしたら裕香も?」

「ありえない話ではない、かもね」

「そもそも簡単に許されるようなことでもないしな」

「…………制裁は免れない」

 

明久たちはこれから何かされるのだろうかと肝を冷やす。

 

「アンタたち、いつまでそこで話してるのよ」

 

と、中々女子に合流しない明久たちを見かねてか、優子が尋ねてきた。

 

「お、丁度いい木下姉。翔子から何か聞いてないか?」

「聞いないかって、何を?」

「僕たちの処遇について」

 

雄二は優子なら何か聞いているだろうと思い聞き出そうとする。

 

「ああそれね。それなら――」

 

優子はそこで言葉を切ると、集合場所にしていた広場の時計を確認する。

 

()()()()()()()()

「? それってどういう――」

 

――ピーンポーンパーンポーン――

 

明久が更に質問を重ねようしと口を開くと同時に、広場のスピーカーからチャイムが鳴り響く。

 

『ただいまより、『納涼! ミス浴衣コンテスト』の参加受付けを行います。出場される方は――』

 

続けてスピーカーからアナウンスが流れる。どうやらミスコンテストの案内のようだ。

 

「へぇ。ミス浴衣コンテストなんてあるんだ」

「あっちの野外ステージはそのための舞台か」

「そう言えばさっきから浴衣の女の人が向こうに集まってたな」

「…………撮影チャンス」 

 

おそらくは町おこしの一環であろうミスコンテスト。となれば出場する女性も自然と浴衣の似合う美人揃い。康太の言う通り、シャッターチャンスには事欠かないだろう。

 

「ねぇ皆、聞いた? ミス浴衣コンテストだって」

「……面白そう。」

 

アナウンスを聞いてか愛子たちもこちらに寄ってきた。珍しく翔子も興味があるようだ。

 

「こんなイベントもあるんですね〜」

「知らなかったわ〜」

 

瑞希と美波も明久の側に寄る。妙に台詞が白々しいが、明久はそれに気づくことなく他人事のように提案した。

 

「じゃあ、いっそのこと出場してみたらどうかな? 皆ならきっといい線までいくと思うよ?」

 

贔屓目を除いても今明久の周りに居るのは目を引く美女ばかり。その人気ぶりは昼間のビーチで立証済み。出場すれば好成績、ひょっとしたら優勝だって夢ではない。

だが明久の放ったその何気ない一言で、瑞希たちの瞳が妖しく光る。

 

「あ、それはいいですね。頑張って、皆で出てみませんか? きっといい思い出になると思います」

 

明久が自分の提案に苦笑いしていると、瑞希がそんなことを言い出した。出るはずのないと思っていた明久たちは大きく驚いた。

 

「ええっ!? いいの、姫路さん!? 嫌じゃないの!?」

「はい。恥ずかしくはありますけど、そのくらいへったあゃらですっ!」

 

瑞希はガッツポーズまでする気合いの入りっぷり。予想外すぎる返答に明久の方が困り顔だ。

 

「ホントにホントに、いいの? ステージに立つんだよ?」

「何よアキ。ウチら文化祭でコスプレして召喚大会にまで出たのよ? 今更浴衣でステージなんてどうってことないわよ」

 

更に念を押す明久を美波が笑い飛ばす。確かに美波たちは一学期の清涼祭でコスプレ喫茶をしてそのまま召喚大会にも出た。それはメイド喫茶をしていた翔子たちも同じ。今更と言えば今更だ。

 

「そうですよ明久君。それに、皆と一緒なら頑張れますし、良い思い出作りにもなると思いますから」

 

瑞希も笑顔を崩さない。皆で泊まりがけで遊びに来て、さらにはミスコンテストのステージに立てば確かに良い思い出にはなるだろう。結果は関係なく、『皆で頑張った』という記憶は生涯忘れることはない。

高校2年生という2度と来ない青春の1ページを瑞希はしっかりと刻もうとしているのだと明久は少し感動した。折角こうして皆で一緒にいるのだから、良い思い出が増えることは良いことだ。

 

「「「…………」」」

 

明久たちが感心する中、秀隆、誠、トレイズは逆に不信感を募らせる。

瑞希の言う通り、清涼祭でのコスプレと比べれば浴衣は可愛いものだが、それでも引っ込み思案の瑞希が積極的に出ようと言い出すとは思えない。それは愛子を除く全員に言えること。やたら『皆』を強調しているように聞こえるし、いつもなら一言苦言を呈しそうな優子がニコニコと笑いながら黙ったまま。何より、リリアと亜美に至っては()()()()()()()()。必ず裏があると警戒心を高めた。

 

「それじゃ、申し込んでみようか。皆可愛いし、きっと優勝できると思うよ」

「はい。頑張ります」

「今日こそはアキにウチの認識を改めさせてやるんだから」

「……雄二もそう思う?」

「うん? まぁ、優勝はともかく、お前が出たいんなら出ればいいんじゃないか?」

「聡もそれでいい?」

「ん? まぁいいんじゃないか? 俺も反対する理由はないし」

 

3人がそう言った途端、瑞希たちが『言質を取った』と不敵に笑う。

 

「はいっ。出てみましょう!…………()()()()()()()()()

「「「散開っ!!」」」

 

明久、雄二、聡は咄嗟の瞬発力で逃げようとするが、

 

「アキ、どこへ行こうとしてるのかしら?」

「……雄二。コンテストに参加する。この場にいる、全員で」

「観念しなさい。聡」

 

隣に立つ美波たちに取り押さえられてしまう。3人ともさっきの笑顔から顔が崩れていない。明久たちの危険信号が騒ぎ出すのが遅すぎた。

 

「ね、ねぇ。何を言っているのかな……? 僕には全然意味が分からないんだけど……」

「だ、だよな明久。なぜ俺たちの肘関節を極めているのか、全然理由が分からないよな」

「そうだよな。なんで俺たちが映画の犯罪者みたいに押さえつけられているのが、まるで意味が分かんないよな」

 

夏盛りだというのに、明久たちは全身に肌寒さを感じていた。身体も小刻みに震え、顔も青ざめている。

 

「明久君。坂本君。九条君。まさかとは思いますけど――」

「……昼間のナンパ」

「あの程度で許されたなんて」

「思ってないわよね?」

「「ひぃいいいぃっ!!」」

 

底冷えのする声に屈託のない笑顔に明久と聡が悲鳴を上げる。

ようやく全ての合点がいった。

あれだけのことをしておいて軽い罰で済んだのかも、瑞希たちが明久たちに普段と変わらず接し、むしろ妙に優しくしてたのかも。

全ては――

 

「全ては、このための伏線か……!」

「「「罪には罰を。駄犬には鞭を」」」

 

ハイライトの消えた瞳で瑞希、美波、翔子が唱和する。

最近瑞希たちがFクラスの悪影響を受けているとは思っていたが、これほど毒されているとは思いもしなかった。しかも翔子はAクラスの代表でもあるのに。裕香が侵されていないのが唯一の救いだが、裕香は裕香で悪ノリしているように見える。こちらは愛子や優子の悪影響もあるだろうか。

 

「で、でも、いきなり女装だなんて言われても無理があるよね?」

「だ、だよな。俺たちなんて見ての通り男だぜ?」

「そ、そうだ。メイクしても骨格や顔つきでバレるし、何より浴衣がないだろ?」

 

明久たちの言う通り。学園祭で明久が女装できたのは事前に準備ができていたから。この場にはメイク道具も、コンテスト出場に必須の浴衣すらない。いかに強引な翔子たちといえどもこのままの状態で明久たちを出場させることは不可能だ。

などど考えているると、そんな明久たちを嘲笑うかのように、女性陣が腕を組んで言い放った。

 

「坂本君ともあろう人が、察しが悪いですね」

「……雄二はもっと頭を使うべき」

「そうよ。アキや九条はともかく、坂本は気づいても良かったんじゃない?」

「なんで私たちが態々(わざわざ)車で移動したのか」

 

瑞希たちは車に乗った時点で察するべきだったと言う。

意味が分からず怪訝な顔をしていると、玲がとどめの一言を放つ。

 

「アキくん。姉さんたちは言ったはずですよ。『着替えがあるかは車で行く』と」

「「「――――っ!!」」」

 

明久たちは「しくじった」と声にならない悲鳴を上げる。着替えは美波たちのためだけではなく、この時のために用意してあったのだ。

 

「だ、だか待ってくれ! 細身の明久や中性的な顔立ちの聡はともかく、ガタイのデカい俺では女装は無理があるはずだ! この場はどうか2人の女装だけで納めてくれ!」

「キサマ雄二! 1人だけ助かろうというのか!」

「この裏切り者め!」

「ええい黙れキサマら! 俺はお前らと違って女装趣味なんてないんだ!」

「僕だってそんなもん持ってない!」

「俺はそもそも女装したことなんてねぇ!」

 

3人は醜く互いを蹴落とし合う。

 

「んなことだろうと思ったぜ」

「あら、アンタは察してたの?」

「何かあるとは思ってたけど」

「流石にここまでとは思わなかったな」

 

秀隆ですらせいぜい『到着したら恥ずかしい目にあわされるかも』位にしか思っていなかった。まさか女装させてコンテストにまで出場させるのは想定外すぎた。

 

「だいたい、僕にミスコンテストなんて無理だよ! どこからどう見ても男なんだから!」

「俺だってそうだ! 俺は明久や木下と違って学校新聞の『女装が似合いそうな男子生徒ランキング』に載ったことすらないんだぞ」

「聡キサマもか!」

「……3人とも往生際が悪い」

「まったくよ。少しは男らしく覚悟を決めた土屋()()を見習いなさい」

「…………っ!?(シュバッ)」

「ダメだよムッツリーニ君。友だちを見捨てて逃げちゃ、ね?」

 

康太の持ち前の逃走術も、いつの間にか背後に回っていた愛子によって無力化されていた。昼間に血を流しすぎたのもあるのかもしれない。

 

「…………俺は……無関係……っ!(ジタバタ)」

「知ってるんだよムッツリーニ君。こっそり君がボクたちの水着姿の写真を撮っていたのも。浜辺でお姉さんたちにナンパされていたもの」

「…………だからアレは……!」

「あの人たち以外にも色んなお姉さんたちに話しかけられていたよね。……ボクチョットオハナシガキキタイナー」

「…………俺は、無実だ……っ!」

「照れなくても大丈夫だよ。チョッだけトナニをオハナシしてたのか教えてほしいだけだから、ネ?」

「…………だから俺は……!」

「それにムッツリーニ君も結構可愛い顔してるし、ちゃんとメイクすれば吉井君や弟君に負けず劣らずの可愛い美少女になると思うよ♪」

「…………俺を、巻き込むな……っ!!」

 

康太は愛子に抗議の目を、明久たちに余計なことをしてくれたなと憎しみのこもった眼差しを送る。

やれやれと康太たちを見ていた秀隆が、()()()()に気づく。

 

「ちょっとまて島田。今、土屋『たち』つったか?」

「まさかとは思うけど……」

「アンタたちも出るのよ」

「「「はぁあああっ!?」」」

 

美波に代わって優子がさらりと答えた。

 

「ちょっと待ってよ!」

「あのバカどもはともかく、なんで俺たちまで出なきゃならないんだよ!」

「俺たちはナンパなんてしてねぇし! むしろ追い払ってやっただろ!」

 

秀隆やトレイズたちは明久たちとは逆で、むしろ女性陣に纏わりつく悪い虫を追い払っていた。その秀隆たちが女装させられる謂れはないはずだ。不意打ちも不意打ちに、トレイズや誠ですら口が荒くなる。

 

「安心しなさい。アンタらのは私たちの単純な興味だから」

「「「安心出来るかっ!!」」」

 

完全にとばっちりである。

 

「リリア! 何とか言ってくれ!」

「亜美も、僕の女装なんてみたくもないでしょ?」

 

トレイズと誠はそれぞれのパートナーに思い直すよう説得する。

 

「優子ちゃん。やっぱり私はあんまり」

「私も、写真は撮りたいですけど」

「でも浴衣姿は見たいでしょ?」

「「それは、まぁ……」」

「「おぃいいぃ!!」」

 

2人とも良心と欲望の間で揺れ動いていた。

 

「というか秀隆も抗議しろよ!」

「そうだよ! このままだと秀隆だって」

「俺だって抗議できるもんならしてぇよ」

 

秀隆にも抗議するよう促す2人に、秀隆は憮然とした態度で答える。

 

「ならなんで」

「アレ見てみろよ……」

「アレ?」

 

秀隆が指さす方向では――

 

「さて、何が良いかしらね。秀隆は髪と目の色が特徴的だからロシアとか東欧系出身の設定が良さそうね。髪型も無理にウィッグをつけずにスポーティな感じを出しても良いわ。背も高い方だから違和感もない。うん、これで行きましょう。浴衣も明るい色より髪色が映える紺や黒系統が」

「ああなったら……もう止まらねぇ……」

「「あぁ……」」

 

乾いた笑いを浮かべる秀隆に、2人は同情する他なかった。

 

「お前ら、何を騒いでいるんだ?」

 

と、そこに遅れてやってきたのは引率役の小鳥遊雅子。昼間からしこたま呑んだはずなのに、また缶ビールを片手に練り歩いていた。

 

「た、小鳥遊先生助けて!」

「というか旦那を! 警察を呼んでくれ!」

「俺たち脅されてるんだ!」

「何を大げさな――悪いけど、竜史はしばらく来れないよ」

 

雅子は明久たちに呆れながら竜史は居ないと言う。

 

「何かあったのか?」

「祭りにスリが出てね。竜史が現行犯で押さえた」

「こんなお祭りでもスリなんて出るのか」

「むしろこの規模のお祭りだからスリに狙われるんでしょうね」

「そう言えば、所々に『スリに注意!』ってポスターがありましたね」

「年々警備を強化してるみたいだけどね。それでも減らないらしいんだ」

「警察も大変じゃのぅ」

「ま、アタシの財布を狙ったのが運の尽きだったね」

「それは、ご愁傷さまね」

 

それならば竜史が現行犯で取り押さえたのも頷ける。

 

「なら地元警察に引き渡して終わりじゃないのか?」

「一応事情聴取とかもあるからね。ま、少ししたら戻ってくるさ」

 

ビールで喉を潤すと、改めて明久たちに尋ねる。

 

「んで、この状況はいったいどうしたってんだい?」

「実は――」

 

秀隆が事の顛末をかい摘んで説明する。

 

「あっはははっ! なるほどね。そりゃぁいいお灸になりそうだ」

「笑い事じゃないですよ!」

「俺たちが恥をかいてもいいってのか!」

「それでも教師かよ!」

「元はと言えばアンタらがバカなことしでかしたからだろう? なら一時の恥くらい甘んじて受けな」

「「「そんな殺生な!」」」

 

雅子にまで見限られて明久たちは情けない悲鳴を上げる。一時の恥どころか一生のトラウマになりそうだ。

 

「…………俺は、冤罪だ!」

「俺たちだって!」

「そうだねぇ。流石に土屋やマクスウェルたちは見逃してやるべきだね」

「えーっ!」

「工藤。アンタ結局あの後も祭りでも土屋を連れ回したんだろ? 今日はそれで勘弁してやりな」

「ぶーぶー」

「…………ほっ」

口を尖らせてぶーたれる愛子。反対に康太は心底ホッとしたように息を吐く。

 

「シュトラウスキーに時任も。アンタたちもどうせなら女装なんかじゃなくて普通の男物の浴衣姿が見たいだろ?」

「はい」

「それは……」

 

正直見てみたい気もあったが、流石に言うことは憚れた。それに普通の浴衣姿の方が見たいというのは本心だ。

 

「私はどっちも見たいわ」

「オメェには聞いてねぇよタコ」

 

ただし優子は除く。

 

「まぁでも、吉井たちも昼間にお説教はしたし、反省もしているみたいだしね」

「だったら!」

「でも!」

 

まだ反発し合う2組を、雅子は交互に見やる。

 

「どうしても姫路たちの気が済まないってなら、一応受付だけして()ねられたらそこでお終いってことでいいだろ」

 

雅子の出した折衷案に、明久たちは一瞬考える。

 

「私はそれで構いません」

「ウチも」

「……私も」

「私も」

 

女性陣は二つ返事で了承。目的は明久たちに女性特有の恥ずかしさを体験させること。受付で門前払いを受けようが、女装させた時点で目的は果たしたのだから構いはしない。決して明久たちの可愛さを全世界に発信できないのが残念だとは思っていない。

問題は明久たちだが……

 

「うん。それならいい……かな?」

「仕方ない……。そこまで言うのなら、受付までは恥をかいてやるか」

「そうだな……。それで裕香たちの気が済むのなら……」

 

渋々といった体で、明久たちは提案を受け入れる。

だが明久たちにも勝算がないわけでなはない。何せ明久側には雄二がいる。ガタイといい野性味溢れる顔つきといい、メイクや衣装では隠しきれない程の『男らしさ』がある。仮に雄二を先頭にして受付けをすれば、即座に女装がバレて同じグループの明久たちも疑われ、出場を止められる可能性は大。そうなれば、瑞希たちも諦めざるを得ない。

受付に行くまでの間に恥をかいて女性陣の溜飲が下がるのなら儲けもの。分の悪い賭けでもない。明久たちにとっても、悪くない取引だ。ただ――

 

「だが、俺たちだけ恥をかくのは納得がいかねぇ」

 

雄二が更に要求を重ねた。

 

「どういうことですか?」

「一応ウチらも参加してあげるんだし」

「いや、お前らじゃねぇ。そこで他人事のように笑っている奴らのことだ」

 

雄二の視線の先には、難を逃れた4人の姿。

 

「いや、俺たちは関係ねぇから」

「道連れにしようたってそうは行かねえぞ」

「今回は君らが悪いんだからね」

「…………因果応報」

 

雄二はどうにか秀隆たちを引きずり込もうとするが、呆気なく一蹴されてしまう。

 

「だが、少なくともムッツリーニはこちら側のはずだ!」

「そうだそうだ!」

「土屋たちだけ逃げようたってそうはいかねぇぞ!」

「…………っ!!(ブンブン)」

 

明久たちも最後の足掻きとばかりに康太だけでも道連れにしようとする。

 

「んー……。なら秀隆たちはミスター浴衣コンテストに参加したらどうだ?」

「「「ミスター浴衣コンテスト!?」」」

 

今度は優子たちが目を光らせる番だ。

 

「ま、ミスコンテストの男版だな」

「いや、それは分かるけど」

「なんで僕たちがそんなコンテストに」

「思い出作りなんだろ? 折角なら参加してみたらどうだ?」

「そうですよトレイズ!」

「誠さんも! 折角だから参加しましょうよ!」

 

リリアと亜美がトレイズと誠の袖を引く。

元々は明久たちを騙す方便でもあったとはいえ、思い出作りと言われたら断り辛い。それに普通のミスターコンテストの方を2人にせがまれては悪い気はしない。ずるずると流れを持っていかれた。

 

「まぁ……」

「2人がそこまで言うなら……」

「「やったー!」」

 

パンッと手を叩き合って喜びあうリリアと亜美。何だかんだ、2人ともパートナーの晴れ姿を見たいのだ。

そんな2人を眺めながら愛子が康太に持ちかける。

 

「じゃぁムッツリーニ君。僕らも出ようか」

「…………いや、俺は」

「ふーん……。そんなこと言うんだ」

 

断られるや否や、愛子は康太の前で少し前屈みになり、浴衣の襟元に指をかける。

 

「チラッ」

「…………っっ!!(ブシャァァアアッ)」

 

康太の鼻から大量の鮮血が噴出し、自分の服と愛子の浴衣を汚す。

 

「あーよごれちゃったー。これはきがえないとなー」

「…………工藤……貴様……っ!」

「まぁまぁ、着替えはあるし、ね」

「…………それは」

「そうだ! 折角だからさ、ボクと衣装交換しようよ、ねっ」

「…………何?」

 

愛子が屈託のない笑顔で爆弾を投下する。

 

「ボクが男物の浴衣を着てミスターコンテストに出るからさ、ムッツリーニ君は女物の浴衣を着てミスコンテストに出ようよ」

「…………なんの意味がっ!?」

「思い出作りだよ。オ・モ・イ・デ・ヅ・ク・リ♪」

「…………俺は貴様なんぞとっ!」

「ふーん。まだそんなこと言うんだ。それなら」

 

愛子は康太に耳打ちする。

 

「学園のカメラに、良くない映像が流れても知らないよ?」

「…………工藤愛子、貴様!」

 

屈託のない笑顔が、邪悪な魔女の微笑みに見える。

 

「では、そうと決まれば早速準備を始めましょうか。お願いしますね、木下君」

「了解じゃ」

 

メイクを担当すのは我が悪友の1人木下秀吉。演劇部に所属する秀吉ならばメイクなどお手の物。きっと明久たちの気持ちを察してくれるだろうと高をくくっていた矢先。

 

「よろしくね、秀吉」

「うむ。心得た。必ずやお主らをコンテストに出場させてみせよう」

 

やたらと目に力を入れて秀吉が宣言する。

 

「あ、あれ? 秀吉?」

「おい秀吉。ちゃんとバレないようにしてくれるんだよな?」

「なんでそんなゲームのキャラみたいに両手の指の間に化粧筆を挟んでるんだ?」

「すまんな、お主ら。メイクも立派な演劇の技術の一つなのじゃ。決してお主らに日ごろの鬱憤をぶちまけようとしているわけではないぞい」

 

にっこりと、まるで天使の様な笑顔で一言。

 

「――悪いが、手加減できそうにない」




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