バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は夏休み海編のエピローグ、バーベキューとお泊り回恒例の夜会話パートとなります。




長かった……()


夏休み海編⑮

夏休み海編⑮

 

「結局、恥をかいたのは僕らだけじゃないか……」

「…………心の傷を負った……」

「なんだって俺がこんな目に……」

「それはこっちの台詞だバカ……」

「色々な意味で一生忘れられない夏になったな……」

「皆ご苦労さま」

 

夏祭りの会場を後にしてペンションに戻った明久たちは、その庭に設置されていてるコンロでバーベキューの準備をしながら黄昏ていた。

結局コンテストは乱闘騒ぎで中止となったため、実際に出場したのは明久たち男子と愛子だけ。その中でも比較的平和に終わったのは寸前で中止になった秀吉を含め4人だけ。残る明久たちはトラウマ級の体験を身に刻んだ。 後から報告を受けた竜史は呆れながらも明久たちを労った。

 

「僕、もうお婿に行けない……」

「行けると思っていたことに驚きだわ」

「なんだとっ!」

「がなるでない明久。お主にもきっと良き相手が見つかるじゃろうて」

「秀吉……。ありがとう!」

「う、うむ……」

「ま、確かに明久なら嫁の貰い手がいるかもな」

「雄二貴様まだ言うかっ!」

 

と、明久たちが喚いている一方で、

 

『冷静になってみると、ウチらもステージに上がらなきゃいけなかったのよね』

『そ、そうですね……。怒っていたから気になりませんでしたけど、今思うと危なかったです……』

『……中止になってよかった』

『私もああいった催し物はあまり得意ではないので助かります』

『ちょっと熱くなりすぎたわね……』

『いや、今更過ぎないかい?』

『まぁ、なんというか……』

『その場のノリと勢いといいますか……』

『ボクは楽しかったけどなー』

『アンタははそうでしょうね……』

 

少し離れたテーブルで飲み物やお皿を準備していた女子たちが胸をなで下ろしていた。

 

「……流石にずるいと思うなぁ」

「女子は工藤以外は受付けして控え室にいただけだもんな」

「その工藤もノリノリだったしな」

「…………やはりスパッツは……!」

「優子や時任は撮影に来てたけどな」

「まったく……。姉上ときたら……」

「そう言うな秀吉。木下姉は秀隆の晴れ姿で浮かれていたんだよ」

「黙れ中国人。早く国に帰ってオリンピック強化選手にでも選ばれとけ」

 

秀隆と雄二が胸ぐらを掴み合っていると、

 

「けど、コンテストの結果はちょっときになるよね」

「確かにな。順当に行ってたら誰が優勝したんだろうな?」

 

誠とトレイズが零す。明久たちは既に普段着に着替えてはいるが、浴衣姿は誰もがハイレベルだったので、あの中から優勝者が出てもおかしくはなかった。

 

「そうだな……。まぁ、妥当に秀吉じゃないのか?」

「雄二よ。男のワシが挙がる時点で妥当という言葉とは縁遠いとは思わんか?」

「まぁでも、無難に秀吉だろうな」

「秀隆まで何を言い出すのじゃ!?」

「無難かどうかさて置いても、木下もたぶん受けが良かっただろうから優勝候補では間違いないだろうな」

「九条よ、それはどういう意味じゃ?」

「最近『のじゃロリ』って流行ってるだろ?」

「ワシは幼女でも妖狐でもないわい!」

「どんなものかは知ってるんだね」

「……全員甲乙つけがたい」

「それは間違いないな」

 

男子で女子陣の浴衣批評。こういった行為は失礼だし、竜史に咎められると思ったが、耳を傾けてみると向こうは向こうで男性陣批評をしていた。竜史も知らぬ顔を作っているのでお相子と判断したようだ。

 

『私はやっぱり明久君だと思います。可愛い姿とあの天然っぷりがたまりません』

『土屋も結構可愛かったけど、ウチもやっぱりアキかなぁ』

『瑞希たちはそうでしょうね』

『聡は……黙ってれば可愛かったわね』

『……雄二はいまいちだった。……やっぱり男らしい格好が似合ってる』

『坂本君は少し無理がありましたね』

『ボクはムッツリーニ君の女装にキュンキュンきたけどね。あんなに似合うとは思わなかったよ〜』

『玲さんはどう思いますか?』

『私はアキ君の女装は見慣れてますから……。他の皆さんの女装が新鮮で良かったと思いますよ?』

『え? 明久君の女装を見慣れてるって――』

『母がとにかく女の子が好きでしたからね。上が私ということもあって幼い頃はよく私のお下がりのスカートなどを履かされていましたよ』

『たしか、今日アキが登録した時の名前って』

『ええ。アキ君が女の子だったらついていた名前です。母はアキ君が男の子と分かってもつけたがっていたようですが、男の子でそれは何か違うだろうと祖父が言いまして現在の――』

 

批評会はいつの間にか明久の暴露会になっていた。

 

「ちょちょちょちょっと止めてよ姉さん! 誤解だからね!? そういう格好をさせられていたのは幼稚園に上がるより前の話で!」

 

明久が玲の口を塞ぐためにテーブルに駆け寄った。

 

「やれやれ。どうやら明久は昔から明久のようだな」

「そのようじゃな」

「たぶん、母親に言われてなんの疑いもなく履いてたんだろうな」

「…………純粋」

「まさかそのまま成長するとは母親も思ってなかっただろうな」

 

良い意味でも悪い意味でも、今も昔も明久は変わらないようだ。

 

「そういやミスコンの話ばかりだけど、ミスターの方はどうなってただろうな」

「まぁ……秀隆じゃない?」

「だろうな。1番賑わってたし」

「言うなよお前ら……。二度と思い出したくもねぇ……」

 

秀隆がミスタ―コンテストの会場を1番湧かせたのは言うまでもない。本人は不本意だろうがミスターコンテストの優勝は秀隆で満場一致だった。

 

「とういうかリュウ(にい)! なんで止めてくれなかったんだよ!」

「だから悪かったって。スリの対応で離れられなかったんだから」

「それもそうだけど、俺たちの浴衣(女物+コスプレ衣装)なんて聞いてねぇぞ!」

「それは僕も知らなかったって言ったじゃないか。普通の着替えとしか聞きてなかったし」

「アイツらの言う普通が普通なわけないだろ!」

「知らないよそんなの……」

 

秀隆の失礼を通り越して理不尽な訴えに竜史は困ったようにため息を吐く。竜史たちは優子はともかく瑞希たちは初対面だし、優子も幼少期からかなり性格が変わっている。そんな女性陣の思考を察せと言う方が無理難題だ。

秀隆がまだブツブツと念仏のように文句を唱えていると、焼けた肉から滴る脂が炭に弾ける。

 

「おい雄二。そろそろ頃合いじゃないか?」

「ん? お、そうだな。おーい、そろそろ焼けたぞー」

 

雄二がまだテーブルでワチャワチャしている明久たちに呼びかける。

バーベキューの網の上では肉や野菜が香ばしく焼け、肉汁や醤油の焦げる匂いを漂わせる。

 

「だってさ。早く食べようよ!」

「そうですね」

「ウチもお腹空いたわ」

 

何だかんだ行って、明久たちは昼食以降はおやつを除けば屋台の食事しか摂っていない。食べ盛りの男子高校生はもちろん、女子たちももう空腹を抑えきれなかった。

 

「おう明久。丁度焼けてるぞ。たっぷりと食え」

「うん。ありがとう。じゃあはいこれ、雄二の分の飲み物」

 

雄二が明久の紙皿に焼け焦げたラードを乗せ、明久は雄二の紙コップになみなみとサラダ油を注いだ。

 

「「……………………!!」」

「ほれお主ら。睨み合っておらんで食わんか。焦げてしまうぞ」

「秀吉。バカどもはほっておいて食おうぜ」

「…………美味い」

「流石は1等の景品だな」

「野菜もいい感じだね」

「この焼きおにぎり美味いな」

 

元々バーベキューをする予定だったのでそれ用にある程度の食材は持ってきていた。そこに誠が投扇興でゲットした高級和牛セットが加わり一気に豪華な食卓となる。本当はバーベキューにするような代物ではないかもしれないが、生ものなので直ぐに頂くことにした。

 

「へぇ〜。結構おいしそうね」

「お肉やお野菜以外にも色んなありますね」

「まさにお祭り騒ぎですね!」

「坂本君って結構こういうの得意そうよね」

「……私の自慢の夫」

「バカなこと言ってないで早く食え。なくなっちまうぞ」

「……うん」

 

珍しく雄二が翔子に強く当たらずに紙皿に肉を盛る。翔子はそれを嬉しそうに一口一口噛み締めながら食べた。

 

「はい秀隆。お水」

「お、悪ぃサンキュー。――ぷふぁ。なぁ、ついでに肉くれねぇか?」

「これ? はい。あーん」

「んあ」

 

火の番をしている秀隆に優子が水を飲ませ、食事を与える。その流れるような作業を、愛子が意味深な眼差しでみていた。

 

「……なによ?」

「ん〜? 別に〜? 前は恥ずかしがってたのに、今日は随分と積極的なんだな〜って」

「仕方ないでしょ。秀隆は手が塞がってるんだから。それより、さり気なく土屋君の隣で甲斐甲斐しくお肉を取り分けてる愛子の方がアピールする気満々なんじゃないの?」

「べべべ別に僕はそんなつもりはっ! ほらムッツリーニ君。このカボチャももう食べごろだよ! ちゃんと野菜も食べないとバランスが悪いからね!」

「…………盛りすぎじゃ?」

 

優子に指摘された愛子は取り繕うように康太の紙皿に野菜を山のように盛っていく。

 

「食事の準備までありがとうございます。坂本君。神崎君。小鳥遊さん。アキ君が止めなければ私がやろうと思っていたのですが……」

「私もお手伝いしたかったのですが……」

「瑞希はウチらと洗い物ね」

「うぅ……。美波ちゃんも神崎君も厳しいです……」

 

玲は何をするか分かったもんじゃないと明久が止め、瑞希は未だに料理厳禁の身。必然と野外料理は男の仕事となった。

 

「あ、いや気にしないでくれ。俺はこういうのが好きなんだ」

「バーベキューなんてあんまりやる機会がないからな。せっかくなんでやらせてもらってるだけッスよ」

「僕も嫌いじゃないから大丈夫ですよ」

 

雄二が苦笑いを浮かべるが、まったくの建前というわけではない。実際に雄二は屋外での作業を好む傾向があるし、秀隆も料理をするが野外での料理は何度もやることでない。竜史もアウトドアは嫌いではないので、3人とも好き好んでやっていることには間違いないのだ。

 

「けど、私もそろそろお料理がしたいです……」

「だったらさ、今度皆で『コンビ料理対決』でもしようよ!」

「コンビ料理対決?」

「そ、1人が指示を出して、もう1人が料理するの。んで、できた料理を皆で食べ合うの。楽しそうじゃない?」

「それは良いですね!」

「……楽しそう」

「それなら私にもできそうです」

「色んな人の料理が食べれるのは良いわね」

「ナイスアイデアです!」

「でしょ〜。途中でコンビを入れ替えてもよさそうだよねえ」

「「「それは止めるんだ!」」」

 

アイデア自体は好評だったが、コンビ入れ替えは明久たちから待ったがかかった。

 

「ま、面白そうではあるが、難しそうだな」

「そうだな。場所も時間も限られるし、材料費もかかりそうだ」

「急に現実に戻しおるの」

「…………でも、楽しそう」

「それは間違いないな」

「いつかやってみたいね」

「やっぱ色んな組み合わせも見てみたいしな」

 

ワイワイとお喋りをしながらバーベキューをつついていると、あっという間に食材を食べきってしまった。多めに用意したつもりが、食べ盛りの高校生10人余りの胃袋を舐めていたようだ。

 

「そろそろ〆のデザートにするか?」

「そうだね」

「九条が手に入れた品もあることじゃしの」

「んじゃ、俺はコーヒー淹れてくるわ。フランドール(バイト先)から豆貰ってきた」

「私は紅茶を淹れてくるわ」

「あ、私手伝います」

「私もお手伝いします」

 

秀隆と優子、リリアに亜美は飲み物を用意するためにペンションの中に戻る。

 

「ん〜……。〆にするとは言ったが、なんかちょっと食い足りねぇな」

 

空になった網の上を名残惜しそうに見やる雄二。

 

「あ、やっぱり? 実は僕もなんだ」

「俺も。もうちょっと何か食いたいな」

「…………食材は、もうご飯どころか野菜すら残っていない」

 

明久たちもそれに同調する。食材は誠が獲得した分を含めてかなり多めに用意していたが、やはり男子高校生の胃袋を満たすには力不足だったようだ。デザートを入れても、また直ぐに空腹を覚えてしまう。

 

「そんじゃ、現地調達と行くか?」

「へ? 現地調達って?」

「近くにあるだろ? 海が」

「え? 海で何か採ってくるってこと?」

「坂本君。一応言っとくけど、許可なく採ったら密漁だからね」

「知ってるさ。けど、そこの浜辺はペンションの管理会社のプライベートビーチで釣り禁止の看板も立っていない。旅行客が釣りとか潮干狩りをすることも織り込み済みなんだろうよ。それにアンタもイチイチこんなことで通報したりしないだろ?」

「まあ、ね」

 

よく調べている、と竜史は感心して苦笑いする。秀隆にしろ雄二にしろ、こういった相手の思考を読んで先手を打つタイプは厄介極まりない。2人が更正(?)していて良かったと竜史は胸中でぼやいた。

 

「けど、今から海までいって採ってくるのは大変じゃないか?」

「まぁ、そうなんだよな……。本当なら罰ゲームで負けたやつに採ってこさせようとも思ったんだが」

「君たち本当にそういうの好きだよね」

「…………罰ゲーム好き」

「ま、楽しそうならいいけどな」

「たいていは明久がその餌食じゃがな」

 

秀吉たちがそう笑い合っていると、

 

「ソウ言エバ、ワタシ――」

 

瞬間。明久、雄二、秀吉、康太の4人は背中にぞわりとした悪寒を感じた。脊髄を大きな氷柱で穿かれたような、痛烈で鋭い感覚。身体を激しく引き裂くような、抗うこともできない圧倒的な恐怖。殺気とも違う、単純かつ純粋で背後から忍び寄る死の気配。

明久は次に起こるであろうことに慄きながら瑞希の唇から目が離せないでいた。

 

「家デ、マドレーヌヲ、ツクッテ――」

 

その瞬間、明久たちの心は一つになった。

 

「行こう雄二! 海で貝を採るんだ! 1秒でも早く!」

「よく言った明久! いっぱい採ってくるぞ! 他の物が何も入らなくなるくらいに大量にな!」

「夜の海は風情があっていいものじゃしな、ムッツリーニ!」

「…………暗い方が、きっと貝もたくさん採れる……!」

 

明久たちは一目散に夜の浜辺への駆け出していった。

 

「あ、おい!」

「何なんだ?」

「いったいどうしたんだろう?」

 

当然、事情を知らないトレイズたちは困惑する他なかった。

 

「まったくアキたちときたら……」

「うぅ……。やっぱりまだ信用ないんですね……」

「……瑞希。マドレーヌって?」

「それは――」

「おーい。コーヒーと紅茶が入ったぞー」

 

そこに飲み物とデザートのお菓子を持って秀隆たちが帰ってきた。

 

「あら? 坂本君たちは?」

「海に貝を採りに行ったわ」

「貝を? 何で?」

「……私がマドレーヌを作って来たと言ったら……」

「あー……」

 

察した秀隆がジト目で瑞希と浜辺の方を交互に見やる。

 

瑞希の料理の腕前は確か向上はしている。だがそれは誰かについていてもらっている場合の話で、1人でするととんでもない化学兵器を造り出すという悪癖は治っていなかった。

 

「せっかく神崎君にレシピを教えてもらったんですが……」

「レシピ? ――ああ、()()マドレーヌか」

「あの?」

「前に『フランドール』のマスターに教えてもらったレシピだよ。姫路が家で母親と作りたいって言うから教えたんだ」

「それ、大丈夫なやつなの?」

「マスターはネットで拾ったレシピだって言ってたから大丈夫だろ」

「あのマスターさんネット使うの?」

「使う使う。むしろ俺より使ってる」

「……意外」

 

マスターの意外な一面を垣間見たところで優子が話を戻す。

 

「で、そのマドレーヌがどうしたの?」

「作ってきたんですけど、テーブルに包んだまま家に置き忘れちゃったんです。せっかくお母さんと一緒に作ったんですけど……」

「なんだ。そうだったの」

「んじゃ、()()は明久たちの早とちりか」

 

秀隆たちは雄叫びを上げながら夜の海で貝を漁る明久たちを生温かい瞳で見守った。

 

――深夜――

 

「ふぁ〜……」

 

欠伸を噛み締めながら秀隆がトイレから出る。バーベキューで鱈腹飲み食いしたせいか、深夜にトイレに起きてしまった。中途半端に覚醒したせいで今から布団に戻るのももどかしい。少し夜風に当たるかとベランダに出ると、

 

「ん?」

 

隣の棟のベランダの縁に寄りかかりながら、優子が星を眺めていた。

 

「よう。また深夜徘徊か? この不良娘」

「アンタに言われたくないわよチンピラ」

 

ベランダの柵に背中を預けながらからかう秀隆を、優子は見向きもせずにあしらう。秀隆は軽く肩を竦めて頭上を見る。

眼前に瞬く満天の星空。今日の夜は雲もなく月も出ていたが、星々は月明かりにも負けずに煌めきを放っていた。

 

「――アレがデネブ、アルタイル、ベガ」

「いきなりアニソンなんか歌ってどうしたのよ」

「ちげぇよ。お前分かって言ってんだろ」

 

萎えたようなゲンナリとした顔で秀隆が優子を睨む。

 

「ふふ。冗談よ」

「どうだか」

 

秀隆は優子の言葉にやれやれと首を振ると、また星空に目を戻す。何だかんだ、優子と星を見ることが多くなったな、と秀隆が隣に視線を送ると、優子もそう思っていたのかこちらに目を向けていた。「くくっ」「ふふっ」

 

「ねえ」

「なんだ?」

「私、いつまで待てばいい?」

「あん?」

「言ってたじゃない。首を洗って待ってろって」

「ああ? そんなも――」

 

唐突に優子が尋ねる。秀隆は適当に答えようとしたが、優子の瞳が思いの外真剣みを帯びていたので、その口を閉じる。

ボリボリと後頭部をかくと、気怠そうに口を開いた。

 

「……ったく。何を期待してんだか」

「なに?」

「なんでもねぇよ。……2学期だ」

「え?」

「2学期中にAクラス(テメェら)を倒す」

「――へぇ。結構強気に出たわね」

「そんなんじゃねぇ。3学期に入ると、学園側は否応にも受験に向けたカリキュラムに切り替わる。そうなると、試召戦争システムは実質的に機能しなくなる」

「ま、そうね」

 

幾度となくも教師陣から(主に学園長と西村教諭)口酸っぱく言われている通り、試験召喚システムはあくまでも勉強へほモチベーションを上げるためのツール。身も蓋もない言い方をすれば体のいい息抜きだ。教室の設備の入れ替えこそあれど、授業内容自体は生徒のレベルに合わせられるため大きな変更はない。

だが受験シーズンともなれば、どうしてもそちら優先のカリキュラムになる。大学に進学するか、専門学校へ進むか。はたまた受験せずに就職するか。いずれにせよ、試召戦争にかまけていられる時間は今よりもグッと少なくなる。

実質的なタイムリミットは2学期いっぱい。これは秀隆と雄二が新学期の早い段階で出した結論のひとつであった。

 

「つまり、アンタたちは2学期中に私たちを倒さないといけないってわけね」

「ああ。3学期に入っちまうと、流石のFクラス(ウチ)でも試召戦争をする余裕はねぇ」

「そう。で、どうやって勝つつもり?」

「そこまでバラすわけねぇだろ。ま、勝算はあるってだけ言っとくわ」

「本当かしら?」

 

FクラスがAクラスに勝った事例は学園発足以来達成された実績はない。その実力差は、聳え立つ壁と言うにはあまりにも大きすぎた。秀隆たちも特殊な状況ではあるが打倒Aクラスまであと一歩の所で頓挫したのだ。再戦を望むどころか、まだ勝てる気でいる方がどうかしてると言える。

 

「勝つんだよ。でないと」

「でないと?」

「――お前を待たせっきりにさせちまうからな」

「……そう」

 

優子は小さく呟くと、満足そうに星を見上げる。その瞬きが、一層輝いて見えた。

 

「ああ、そうだ」

「?」

「夏祭りで取った景品あるだろ?」

「夏祭りの景品って、投扇興の?」

「そうそう。()()、お前にやるよ」

「ええ!?」

「んだよ? 変なこと言ったか?」

「あ、ううん。ごめん。ちょっと驚いただけ。けど、いいの?」

「ああ。ウチには()()()()()()()。上等なやつが」

「ああそっか。そうよね」

 

優子は秀隆の家にそれがあったことを思い出す。

 

「仕方ないわね。ありがたく頂いていてあげるわ」

「物貰う奴の台詞じゃねぇな」

 

笑い合う2人の間を、夏の夜風がすり抜けて行った。

 

――数日後――

 

「姉上すまぬ。ここの問題の解き方を――って、またそれを覗いておるのか?」

「別に良いでしょ? 悪い? 」

「別に悪いとは言っておらぬ。姉上もようやくBL本以外にも興味を持つようになったと思うばかりじゃ」

「アンタ、遠回しに私のことバカにしてない?」

「何のことやら――って待つのじゃ姉上。その間接はそっちには曲がら」

 

夕空に奔る流星を、優子の部屋の窓辺に置かれた、小さな天体望遠鏡のレンズが捉えていた。

 




ご感想などお待ちしております。

次回は番外編の予定です。

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