バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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Aクラス戦その2です。


第十三問

第十三問

 

前半戦が終わり、両陣営は小休止に入った。第一戦目はFクラスが美波が得意の数学で挑んだが、数学トップクラスの鳳誠の前に敢え無く敗北。次の明久も物理科目で佐藤美穂相手に持ち前の操作技術の高さで善戦するも惜しくも敗北。このままAクラスペースで行くかと思われた三回戦、リリアが世界史で転校生トレイズ・マクスウェルを下し、Fクラスが待望の一勝を得た。続く康太も、同じく転校生の工藤愛子を得意の保健体育で腕輪の能力を駆使し瞬殺。結果、2勝2敗のイーブンとなった。

 

「では、次の方お願いします」

 

思わぬ展開にAクラス生徒が騒めく中、高橋教諭の冷静な声が響いた。流石に学年主任なだけはあって、現状に動揺することはなかった。Aクラスの担任だとはいえ、そこは贔屓にせず公正に見ているということだろう。

 

「あ、はい。私です」

 

4人目の選手は、Fクラスからは瑞希が出陣した。

 

「なら、僕が行こうか」

 

対するAクラスからは眼鏡に短髪の少年が出た。

 

「出たな、学年次席『久保利通』」

「ああ。心配所のだな」

 

久保利通は昨年度は学年第三位の実力者だが、瑞希が振り分け試験を途中退席したので今年は繰り上がりで学年次席となっている。しかしその実力は当然折り紙付きで、去年の成績自体は瑞希との差は僅か20点前後で拮抗している。当然、今回の試召戦争でも点数で瑞希の上を行く可能性は十分に有り得る。

 

「教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

高橋教諭の問いに久保は即答した。

 

「ちょっと! 何を勝手に――」

「構いません」

「姫路さん?」

 

明久は久保が瑞希に何の了承も問わずに科目を決めた事に抗議しようとしたが、それを瑞希が遮った。

 

「無駄だ明久。どうせ最後の一教科は雄二に選ばせるんだ。ハナからこっちに選択権なんてねえよ」

「でも……」

「そう悲観するな。姫路を信じろ」

 

久保に対峙する瑞希の顔は、決意に満ちていた。

 

「それでは、召喚してください」

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

2人の召喚獣が現れた。瑞希の方はいつもの騎士鎧に大剣。対する久保は袴胴着に持ち手が鎖で繋がれた二振りの大鎌だった。そして点数は――

 

Fクラス 姫路瑞希 総合科目 4409点

VS 

Aクラス 久保利通 総合科目 3997点

 

2人の点差は当初の予測を大きく外し約400点差。総合科目でも、これ程の点差はほぼ勝負を決したようなものである。

 

「まさか……ここまで差が……」

「いきます!」

「くっ!」

 

あまりの点差に茫然と立ち尽くす久保。瑞希はそんな久保に先制の一撃を見舞おうとしたが、寸前で我に返った久保に躱されてしまった。

その後、瑞希と久保の攻防は数分続いたが――

 

「……おかしいな」

「どうした?」

 

瑞希と久保の試合を観察していた秀隆がそう呟いた。

 

「久保に攻撃の意思がみられない」

「そうか? 姫路の猛攻に攻めきれていないだけじゃないのか?」

「それにしても極端に攻撃回数が少ないんだよ」

 

確かに試合は瑞希が果敢に攻め立て、久保が辛うじて防いでいるという状況だった。久保の時折反撃するものの、それを踏まえても極端に少ない。

 

「それに、久保の操作技術が予想以上に上手い」

「守ってるだけだろ?」

「その守り方が異様に上手いんだよ。ほら、まただ」

 

秀隆が久保の方を指さす。久保は鎌で瑞希の大剣を受ける瞬間、鎌を大剣の動きに合わせて下げる様に受けていた。

 

「……確かに」

「どこが上手いのじゃ?」

 

久保の動きを見て秀隆の指摘に納得する雄二。一緒に見ていた秀吉は今一よく分からなかった。

 

「久保のあの防御方法は、生身でも実際にやろうとするとかなり難しいんだ。操作に慣れないはずの召喚獣ならなおさらだ」

「なのに久保はやっている。相当練習した証拠だ。まあミスの方が多いがな」

 

秀隆の指摘通り、久保は瑞希の攻撃をいなすのを何度か失敗している。だが失敗だと判断した瞬間にバックステップ等で攻撃を避けていたのでダメージは最小限に留まっていた。

 

「それにしても、何で久保はそんな練習をしてたんだ? まるで俺達がAクラスに攻め入る事を予測していたみたいじゃないか」

「……」

 

雄二の呟きに、秀隆は思わず顔を背けた。

 

「……お前、まさか情報をリークしたんじゃねえだほうな?」

「してねえよ! 俺達の目的は最初っからバレてたんだよ」

「バレてた? 一体誰に」

「……優子だよ」

 

2人の騒ぎに注目していた周りの皆が、一斉に秀隆を見て、秀隆は渋々白状した。

 

「お主、姉上にあったのか?」

「ああ。Dクラス戦の後、図書室でな。そん時は、はぐらかしてたんだが……」

「まあ恐らくその時だろうな。クソッ! てことは俺達の作戦も」

「想定済みだろうな」

「じゃろうな。じゃがそれでも乗って来るとは、流石はAクラスと言ったところかの。大した自信じゃわい」

 

秀吉が改めて感心したようにしみじみと呟いた。

 

「じゃあ、何で久保君は攻めてこないの?」

「そりゃあこの短期間じゃあ防御を徹底的に練習した方が効率が良かったからだろ。短期間なら両方やるより片方に集中した方がいい」

「ああ。だがそれだけじゃないな。アイツは待ってるんだ」

「待ってるじゃと? いったい何を?」

「姫路の唯一にして最大の弱点--ガス欠だよ」

「……はあ……はあ……っ!」

 

秀隆たちが考察している最中、瑞希の息がだんだんと荒くなっていく。肩で息をし、呼吸の間隔も狭まり、額には玉のような汗が浮かびはじめた。

 

「ふむ。そろそろ頃合いだね」

 

久保はそんな瑞希の様子に、眼鏡の位置を直すとそう呟いた。

 

「それじゃあ、今度はこっちから攻めさせてもらおう」

「くうっ!」

 

好機とみた久保が一転して攻勢に出る。両手に持った鎌を烈しく振るい、瑞希を攻め立てる。瑞希は大剣を盾の代わりにして何とか耐えてはいるが、表情からも限界が近いことが見て取れた。

 

「なっ! 卑怯な」

「卑怯なんかじゃねえよ。自分に有利な状況を作り、相手を追い込む。これは兵法の基本だ」

「そんな! なら姫路さんは……」

 

久保を卑劣だと憤る明久。秀隆はそんな明久に冷酷とも言える言葉を投げかける。明久はそれを聞いて悲痛そうな声をあげ、心配そうに瑞希を見た。

 

「まあそう悲観すんなって。もう手は打ってある」

「え?」

「自分の欠点てのはな、自分がよく知ってるものさ」

 

防戦一方の瑞希だが、苦しい表情を浮かべる中、その瞳からは闘志の炎は消えていなかった。

 

「思ったよりなかなか耐えるね。けど、これで終わりだよ!」

「あっ!」

 

久保の召喚獣が鎌を掬い上げる様に振り、瑞希の召喚獣の大剣を弾き飛ばした。大剣が宙を舞い、上体がばんざいをするように反れる。瑞希は無防備な状態になってしまった。

 

「止めだよ!」

「まだです!」

 

鎌の刃が迫る中、瑞希は召喚獣を久保に突撃させた。瑞希の召喚獣の肩口に鎌が刺さり、点数が大幅に減少する。それをものともせず、瑞希の召喚獣は右手で久保の召喚獣の顔を、左手で右肩を掴み、地面に組み伏せた。

 

「くっ! けど――」

「いいえ。私の勝ちです」

 

抵抗する久保の召喚獣、だが瑞希の召喚獣は決して掴んだ手を放そうとはしなかった。そして、腕輪が輝きだす。

 

「ま、まさか!」

「やあああ!!」

 

――キュボッ――

 

ゼロ距離から放たれる熱線。久保の召喚獣は為す術もなく首から上が吹き飛んだ。

 

「し、勝者、Fクラス!」

 

Fクラス 姫路瑞希  総合科目 6点

      VS

Aクラス 久保利通 総合科目  0点

 

薄氷の勝利。久保の最後の攻撃、そしてゼロ距離で熱線を撃った事による反動で瑞希の点は一桁代にまで減少していたものの、これでFクラスが勝ち越した。勝者を宣言する高橋教諭の声も、Aクラスが窮地に陥ったせいか、はたまた瑞希があんな攻め方をしたのが意外だったのか少し震えていた。

 

「ふう……勝てました~」

 

その場に座り込み安堵の息を吐く瑞希。そんな瑞希に、久保が近寄り手を差し伸べた。

 

「君があんな戦い方をするなんて意外だったよ」

「私もです。けど、どうしても勝ちたかったんです」

 

久保の手を借りながら立ち上がる瑞希。もう呼吸も整っていた。

 

「一つ、聞いてもいいかい?」

「何ですか?」

「君は、どうしてそこまでもして勝ちたかったんだい?」

 

久保の質問に、瑞希は一度目を瞑ると、

 

「私、Fクラスが好きなんです。誰かの為に、一生懸命になれるFクラスが」

 

と笑顔で答えた。

 

「好き、か。……今回は僕の完敗のようだ。けど、次は負けないよ」

「望むところ、です」

 

瑞希と久保はお互いの健闘を讃え合い、自分の陣営に戻った。

 

「よくやった。姫路」

「やったわね瑞希!」

「すごいよ姫路さん!」

「一瞬肝が冷えたがの」

「…………正直心臓に悪かった」

「けど、勝ててよかったです!」

「ま、お疲れさん」

 

Fクラスに戻って来た瑞希を、皆拍手で迎えた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

瑞希はかなり嬉しかったのだろう。頬を赤く染めて皆にお辞儀をした。

 

「これも神崎君のアドバイスのお蔭です」

「やっぱり最後のはお前の作戦だったのか」

「俺はアドバイスしただけだ」

 

瑞希はBクラス戦が終わってすぐ、秀隆に「特訓を付けて欲しい」と言ってきた。理由は「これ以上皆の足を引っ張りたくないから」だった。

 

「姫路の弱点は『体力のなさ』だ。けどこれを短時間で克服するのは無理だからな。だから、逆に利用することにした」

「それでアレか?」

「ああ。誰であれ、姫路クラスを相手にする時は基本ガス欠を狙うからな」

「だったらそれを逆手にとって相手の隙を突こうって作戦だったんです」

「それであんな無茶をしたのね」

 

美波は瑞希の作戦が秀隆の発案だったのを知って、秀隆を感心したような呆れたような眼で睨んだ。

 

「つっても俺がアドバイスしたのは、相手が止めを刺すのに大振りになった隙をついてカウンターを狙うってだけだ。あんなことするとは思わなかったよ」

「え? でも神崎君が『熱線をゼロ距離で撃てれば確実なんだがな』って呟いていたのを聞いて……」

「「「……」」」

「分かった。分かったから俺をそんな眼で見るな!」

 

無茶の原因は、やはり秀隆にあったようだ。

 

「まあいい。それより次はお前だぞ。大丈夫なのか?」

「問題ない……と言いたいとこだが、正直相手の指定する科目次第だな。まあ相手はおそらく優子だし、アイツは文系が得意だから現国か古典あたりなら何とかいけるだろ」

「地理だったら?」

「じゃあ行ってくる」

 

秀隆は明久の質問には答えずにフィールドに入った。秀隆が所定の位置につくと、既に優子が対面に立っていた。

 

「久保の動き。アレはお前の差し金だな?」

「さあ、どうかしらね。それより、さっきの姫路さんの攻撃、アレはアンタの仕業ね」

「さてな」

 

お互いに腹の探り合い。だが淡々とした会話の中に、得体の知れない緊張感が漂っていた。

 

「教科は何にしますか?」

「お前が選んでいいぜ」

「あら? いいのかしら? 貴方の苦手科目を選ぶかもしれないわよ?」

「そん時はそん時さ。最後はうちの大将が何とかしてくれるさ」

 

挑発する優子に対し、秀隆は飄々と答えた。

 

「……まあ、いいわ。今にその人を食ったような表情、出来なくしてあげる」

「やってみな」

 

睨み合う両者。舌戦では秀隆に軍配が上がった。

 

「それでは木下さん。科目は何にしますか?」

 

今度は優子だけに問う高橋教諭。どうやら優子が決めることは決定したらしい。

 

「仕様がないとは言え、まずいな。木下姉のことだ、秀隆の苦手科目も熟知しているだろう」

「秀吉、そうなの?」

「姉上の事じゃ、恐らく調査済みじゃろうな」

 

秀隆の苦手科目は地理と物理。既に物理は佐藤が選択しているので、優子は地理を選ぶ可能性が高い。となると、秀隆の敗北は濃厚である。Fクラスが不安に、Aクラスが期待に満ちた視線を優子に注ぐ。そんな中優子が選択したのは――

 

「化学でお願いします」

『『『えええ?!』』』

『『『よっしゃー!!』』』

 

優子が宣言した直後、Aクラスから驚嘆の、Fクラスから驚喜の叫びが上がった。

 

「き、木下さん。本当によろしいのですか?」

 

本来中立であるべき審判の高橋教諭ですら、優子に確認を取った。それ程に、優子の選択は予想外なのだ。だが優子は「大丈夫です」と強く答えた。

 

「おいおい、本当にいいのか? 化学は俺の得意中の得意かもくだぞ?」

「何度も言わせないで。これでいいの。それに――」

「それに?」

「アンタの得意科目でアンタを倒せなきゃ意味ないのよ!」

 

力強く叫ぶ優子。その瞳には、言葉以上の決意が宿っていた。

 

「分かりました」

 

高橋教諭も優子の意思が伝わったのか、それ以上は何も聞かずに化学のフィールドを展開した。

 

「では、召喚して下さい」

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

2人の召喚獣がフィールドに出現する。秀隆の召喚獣はいつもの黒いマントを羽織ったガンマン風の衣装に変形型の二丁銃剣。優子の召喚獣は、騎士鎧にランス。右腕に小ぶりの盾を装備している。そして点数は――

 

Fクラス 神崎秀隆 化学 479点

VS 

Aクラス 木下優子 化学 458点

 

その差僅か21点。秀隆に圧倒的な軍配が上がるかと思われたが、その予想は大きく外れた。

 

「へえやるじゃねえか」

 

秀隆が率直な感想を述べる。

 

「驚かないのね?」

「お前が俺相手に化学を選択したってことは少なくとも勝算があるってことだ。その時点で400点超えてくること位は容易に想像がつく。まあ本当に超えてくるとは思わなかったよ」

「なら表情にだしなさいよ」

「ちょっと待て! 確か木下姉の化学は300点前後だった筈だ!」

 

ようやく我に返った雄二が今更な事を叫んだ。

 

「今更なに言ってんだ。んなもん勉強したからに決まってんだろ?」

「けどこんな短期間で100点も上げる何て――」

「姫路さんだってそうじゃない」

「ぐっ……!」

 

優子にまで言われて、雄二は口を閉じるしかなかった。

 

「まあ、んなこたぁどうでもいいな」

「そうね。高橋先生、もう始めても?」

「は、はい! それでは……始め!」

 

優子にせっつかれて、高橋教諭は慌てて試合開始の宣言をした。

 

「さあ! 死合おうか!」

「来なさい!」

 

秀隆と優子は自分の召喚獣を相手の召喚獣に突進させ――

 

「なんてな♪」

 

――ることはなかった。秀隆は召喚獣を一瞬だけダッシュさせると、すぐさまバックステップさせる。

 

「セッシブバレット!」

 

バックステップ中に素早く双剣を双銃に変換し、連射した。

 

「甘いわ!」

 

だが優子もそれに臆することはなかった。召喚獣を急停止させると、ランスを振り弾丸を弾き返し、盾で防御した。これで優子はほぼノーダメージ。逆に連射した分秀隆の点数が減った。

 

「ヒュー。やるな。そうこなくっちゃな!」

 

秀隆は口笛を吹いて感心すると、すぐさま召喚獣を走らせた。

 

「一迅!」

「瞬迅槍!」

 

双剣とランスがぶつかり火花を散らす。武器の重量差からか秀隆の方がやや押され気味だった。

 

「裂双!」

「くっ!」

 

秀隆は双剣を突き出した態勢のままX字に剣を振るわせた。それによりランスの軌道がずれ、優子の召喚獣の懐が露わになる。

 

「鏡月閃!」

「まだよ!」

「ちぃっ!」

 

すかさず秀隆の召喚獣が一歩踏み込んで回転斬りを繰り出す、が優子の召喚獣は盾でガード。反撃しようとしたが、秀隆の召喚獣は攻撃をガードされた瞬間にバックステップで距離を取っていた。

 

「しかし意外だな」

「何がよ?」

「お前もソレやるとはな」

「ああ。さっきの技ね。ええ、そうよ。アンタと一緒。ゲームの技を真似してみたの。と言うか、私がゲームしちゃあ悪いの?」

「いいや。別に」

 

下校中に交わされる様な会話をしているが、2人の召喚獣は激しい戦闘を繰り広げていた。

秀隆の召喚獣が弾幕を張り、優子の召喚獣はそれをガードしながら突進。急所を突こうとするが秀隆は紙一重で回避させ眉間を狙うが、優子は首を強引に横に振らせて回避。今度はお返しとばかりに優子が突きの嵐を見舞い、秀隆は身体を捻り、逸らし、飛び、伏せ、剣でいなして躱していった。

 

「ちょこまかとすばしっこくて鬱陶しい!」

「テメエこそ、防御が硬くてウゼェんだよ!」

「何よ!」

「んだよ!」

 

言い合いながらも2人の戦いは激しさを増していく。ギャラリーもその圧倒的な戦況に、息をする暇も惜しむように見入っていた。

 

「鳴時雨!」

「散沙雨!」

 

もう幾度となく繰り返した衝突。優子は連続突き、秀隆は連続切り。だが今回の秀隆の攻撃は蹴りのおまけ付だった。

 

「あうっ!」

「もらった!」

 

ランスを蹴られバランスを崩す優子の召喚獣。秀隆はこれを好機と追撃をかけるが――

 

「調子に、乗るなあ!」

 

優子は召喚獣の喉元に迫りくる紙一重で躱させると、踏ん張った体勢のまま強引に槍を突きだし、秀隆の召喚獣の右肩に突き刺した。

 

「ぐあっ!」

 

フィードバックによる激痛が秀隆を襲う。寸前で回避行動に出たので貫通こそ免れたが右肩を穂先で大きく斬り裂かれた。加えて、バランスを大きく崩し、地面に倒れこんでしまった。

 

「そこ!」

「っ! クイックフリッカー!」

 

優子が止めを刺しにかかるが、秀隆は召喚獣に地面を転がらせてこれを回避。起き上がりざまに2発撃つが、優子は苦も無くガードした。

 

「……よし。まだいけるな」

 

秀隆は優子から距離を取り、右腕を数回大きく回し、戦闘に支障がないことを確認。再び臨戦態勢を取った。

 

ここで召喚獣の『傷』について補足説明をしておこう。召喚獣は致命傷、切断などの場合の除き『傷』を負うことはない。その理由は至って単純で、召喚システムにそこまでの再現性がないのだ。現に、明久がBクラス戦でBクラスとDクラスの境界の壁を破壊した際、フィードバックにより明久自身は傷を負ったが、召喚獣はまだ戦える状態だった。

反面、残り体力を可視化するために『傷跡』はつく。回復試験を受けずに戦闘を繰り返していく内に召喚獣がボロボロになっていくのはそのためである。

秀隆が腕を回したのは『切断』レベルのダメージなのか確認することと、自身にフィードバックされたダメージによるパフォーマンスの状態を確認するためだ。

 

「(さて、どうするかな……)」

 

臨戦態勢は取ったものの、秀隆は攻めあぐねていた。優子も優子で秀隆の次の一手を警戒し攻めてこなかった。

 

「(銃撃はほぼ効果なし。牽制程度には使えるが、銃弾の消費点数とダメージの期待値を考えると余り無駄撃ちはしたくないな。かと言って接近戦も今のところ決定打はない……)」

 

優子もかなり操作を練習してきたのだろう。ランスの弱点であるはず懐も、格闘術や石突を効果的に使うことで対処していた。

 

「(()()を使えばまだ活路は作れるが……)」

 

秀隆はチラリと高橋教諭を覗き見た。

 

「(多分鉄人からも聞いているだろうし、最悪、強制終了されかねねえ)」

 

 秀隆の言う()()とは、Bクラス戦で用いたアレである。使用すれば勝率は格段に上がるだろうが、病院からの帰り、西村先生から「次使用したら強制的に生徒指導室に送る」と脅されたので、使うかどうするか悩ましい。

 

「(仕方ない)……できれば取っておきたかったが」

 

秀隆はそう呟くと眼を瞑り、集中した。すると、召喚獣の腕輪の宝石が赤く輝きだした。

 

「させない!」

 

腕輪での攻撃が来る前に仕留めようと、優子は召喚獣を走らせた。

 

「「「秀隆!」」」

 

Fクラスから悲鳴が上がる。秀隆はまだ腕輪の発動が完了しておらず、召喚獣が棒立ち状態だった。

 

「これで、終わり!」

 

ランスの穂先が秀隆の召喚獣の眼前に迫る。正に絶体絶命。その時――

 

「『展開』!」

 

――ギィン――

 

秀隆のかけ声と共に、鈍い金属音が響いた。

 

「っ!」

 

優子が眼を見開いて驚く。それもその筈。優子のランスは、突如現れた盾によって防がれていた。

 

「そら!」

「くっ!」

 

秀隆のかけ声で盾が暴れ、優子の召喚獣は弾かれたように後退した。

 

「その盾……」

 

優子は改めて秀隆の召喚獣をよく見た。秀隆の召喚獣は、先程までなかった盾を身に着けていた。いや、()()()()()は正しい表現ではない。何故なら、その盾は、秀隆の召喚獣の周りを()()していたからだ。秀隆の両肩と背中の計三枚、幾何学模様の施された長細い六角形の金属製の盾が秀隆を護るように浮遊している。

 

「これが俺の腕輪能力『サテライト・シールド』だ」

「サテライト・シールド……」

 

その名の通り、秀隆の出した盾は、召喚獣の回りを衛星のように漂っている。

秀隆の召喚獣が、優子の召喚獣を剣の切先を向けた。

 

「さあ、こっからが本番だ!」

 

秀隆はニヤリと人を食ったような笑みを浮かべた。

 




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