バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は野球大会の賞品交渉後から試合直前までの繋ぎ回です。


百十二問

第百十二問

 

交渉を終えて学園長室からFクラスに帰る途中、明久はふとあることに気がついた。

 

「雄二、さっきの話なんだけど」

「召喚野球の話か?」

「うん。アレってさ、一見合理的な判斷に見えたけど……それって、僕らが勝てる可能性があれば、だよね?」

 

雄二と秀隆が交渉で勝ち取ったのは、『生徒チームが勝てば没収品を返却してもらう』という賞品と、『Fクラスが勝てば今後の没収品の返却を検討する』という約束事。賞品と約束事、つまり明久たちが()()()()貰える物の交渉。

教師への復讐と引き換えに返還の可能性をえたと言えば、一見すれば合理的判断のように思えるのだが、実際はそうではない。なぜなら、今回は野球とはいえテストの点数を使った召喚獣勝負。勉強合宿で明久は教師との圧倒的な戦力差を思い知っている。これでは気晴らしができる分、復讐した方がマシのように思えてならない。

明久がそう言うと、雄二は「よく分かったな」という顔をして明久を見やる。

 

「お前の言う通りだ。結局あの話は、俺たちが勝てなきゃなんの意味も持たない。それが分かっていたからこそ、ババァも話に乗ってきたんだし、鉄人も何も言わなかったんだろうな」

「やっぱりそうだよね」

「逆に言えば、勝てさえすれば約束は絶対に果たされるってわけだ」

「そりゃそうだけど、相手が相手だし、僕らが勝つにはよほどのことがないと……」

「ま、そりゃそうだ。普通のやり方じゃ勝てねぇだろうな」

 

Fクラスと教師では点数は、天地ほどの差がある。もちろん勝負する科目にもよるが、小手先のテクニックだけでは覆せるものではない。

 

「それで2人とも。今回はどんな作戦を考えたの?」

「ん? 何の話だ?」

「とぼけないでよ。プログラムを読みながらずっと考え事をしていたみたいだし、それにあのルール決め。絶対に何か意図があってのことでしょ?」

「ま、そりゃそうだ。勝てる見込みのない勝負をするつもりはないからな」

「普通にやって勝てないなら、勝てる土俵に引きずり出すまでだ」

「どういうこと?」

「お前の言う通り、ルールを利用するつもりだが――まぁそれはやってみてからのお楽しみだ。どうせ今から説明しても、お前の頭じゃすぐに忘れちまうだろうしな」

「むしろちゃんと理解できるかが不安だ」

「失礼な。ちょっと思い出したり理解するのに時間がかかるだけだよ」

 

さも当然のことのように言う明久に、2人は「だからだよ」とため息を吐いた。

 

「けど、2人がそこまで頑張るってことは、没収されたのはMP3プレイヤーや武器だけじゃなさそうだね。他には何を?」

「おいおい聞き捨てならないな。俺は秀吉やリリアみたいな部活で青春を謳歌する若者のためにだな」

「けどそれが全部ってわけじゃないでしょ?」

 

明久も秀隆が(本人は認めないだろうが)友だち思いでかつ理不尽を嫌うことは知っている。だが普段なら瑞希たちにした図書館の話のように、『どうやればルールの穴を抜けられるか』を秀吉たちに教えるはずで、自らルールを改善しようとは動かないはずだ。

雄二にしても、2度目とは言えたかだがMP3プレイヤーにあそこまで譲歩までして交渉するとは思えない。つまり、

 

「極上の写真集を3冊ほど持っていかれた……」

「3冊って……。雄二の環境でよく隠し持っていられたね」

 

雄二の家は翔子が毎週のように強制捜査に入るし、雪乃が掃除中に見つけ出すことがしょっちゅうある。部屋に鍵をつけるどころか、貸金庫を借りるか悩むほどに環境が悪い。その中で3冊も隠しきれていたことが驚きだ。

 

「本棚の下や天井裏、完全防水して熱帯魚の水槽の底に沈めたりと、色々と工夫したからな」

「もうそれ見たい時に取り出せるレベルじゃないよね」

「目的と手段が入れ替わってるじゃねぇか」

 

愉しむための本なのに、奪われないように直ぐに取り出せない所に隠すのは本末転倒である。

 

「それで、秀隆は?」

「唯一生き残った写真集と、お気に入りの作家の処女作の初版本をな……」

 

どうやら秀隆もお宝を没収されていたようだ。

 

「ていうか秀隆もやっぱり参考書(エロ本)を取られてたんじゃないか」

「まぁな」

 

萎えただのその手の類は持ってきていないだのと言いながら、結局は参加するつもりだったのだろう。瑞希たちの手前大っぴらに言うのが憚れたようだが、この男は変なことろで恥じらいがあったりプライドが高かったりする。

 

「全部母親や木下姉に見つかったわけじゃなかったのか」

「ああ。クローゼットの奥の壁にカモフラージュした隠し棚の中に入れてあった」

「そんなもの作ったのか」

「1冊入れるのが精一杯だけどな」

 

この2人のレベルとなるともはや執念である。

結局、2人とも何だかんだ正論を振りまいていたが、蓋を開けてみれば明久たちと同じ穴の狢なだけなのである。

 

「そこまでしなきゃ守りきれねぇし、そこまでして守る価値のある逸品だったんだ」

「初版本もそうだが、中々お目にかかれない逸品だったからな。そうまでしてでも守りたかったんだ」

「そっか。そこまでの物なら、是非見たかったなぁ」

「……私も」

「私も」

 

明久が隣を歩く翔子と優子とともに頷き合う。

硬派を称する2人を、それほどまでして死守したいと思わせるほどの逸品だ。いったいどんな内容だったのか、明久も是非直で見て確かめたいと思い、お宝奪還にむけて更に意欲がわく。

 

「じゃ、そういうことで。後は雄二と霧島さん。秀隆と木下さんで仲良く」

「待て明久。この状況で俺たちを置いて逃げるな」

「もう少しゆっくりしていけ。Aクラス女子と話せる機会なんてそうそうにないんだぞ?」

 

さり気なくその場を去ろうとした明久は、2人に両肩を力強く掴まれてしまう。

 

「だって、このままここにいても……見るに堪えないグロテスクな光景が繰り広げられるだけだし……」

「あら。吉井君よく分かってるじゃない」

「あだだだだだっ!!」

 

優子が柔らかな笑顔で秀隆の腕を捻り上げる。

 

「……雄二を甘く見ていた。今後は水槽や植木鉢、雄二が入浴中の浴槽の中まで詳しく探す」

「おい待て。最後の一つは確実に捜査が目的じゃないだろ」

「……私には、雄二の成長を確かめる義務があるから」

「そんな義務はねぇ! 少しは木下姉を見習って」

「まったく。やっぱりトイレの中まで監視しないとダメなのかしら?」

「……分かった。優子を見習う」

「「ふざけんじゃねぇええぇっ!!」」

 

どうやら2人にはプライベートは存在しないらしい。

 

「――ん?」

 

明久がある事に気付く。翔子は成長を確認すると言った。そしてそれに躊躇いもないようだ。つまり――

 

「ねぇ霧島さん」

「……なに?」

「もしかして、霧島さんって……雄二と一緒にお風呂に入ったことがあったり」

「……中学に上がる前までなら」

「ィッシャァアアーーッ!」

「っぶねぇーーっ!」

 

明久の渾身のハイキックを、雄二は辛うじて身体を捻ってかわす。

 

「ちぃっ! 避けやがったな! 図体のデカいくせに良い反射神経してやがる……っ!」

「いつにも増して口が悪いな!?」

「どんだけ羨ましいんだよ」

 

幼馴染みの女の子と一緒にお風呂に入るという、男子高校生なら一度は憧れるシチュエーションを、よりにもよって目の前の男が体験していたのだ。明久の嫉妬の炎は伊達ではない。

 

「落ち着け明久。中学に入るまでとは言っても、高学年になった頃にはまったく」

「逆に10歳くらいまでは普通に入ってたんじゃねぇか」

「……私の胸が大きくなってからは、数回しか」

「何だかんだ坂本君も『男の子』よね」

「だらっしゃぁああーーっ!」

「うおおおおっ!? 今お前本気で俺を殺すつもりだったろ!?」

「流石だな明久。嫉妬に焼かれて人間辞めてやがる」

「その人間離れした攻撃を避ける坂本君も大概ね」

「テメェらも暢気に解説してんじゃねぇ!」

 

友人の命の危機だというのに、秀隆も優子も他人事ように見学している。だが、このままタダで転ぶ雄二ではない。

 

「おい明久っ! お前はある重要な事実を忘れているぞ!」

「重要な事実?」

「忘れたのか? コイツらも幼馴染み同士だろう!」

「おいおい。今更何を」

「コイツらだって、小学生の時に一緒に風呂に入っていてもおかしくはない!」

「はぁっ!?」

「ちょ、坂本君何を」

「しかも秀吉も一緒だ!」

「いやだから秀吉は男だから」

「どぅりゃあああっ!」

「ぬぉおおおっ!?」

 

どこからか持ってきたのか、明久はモップをかけ声と共に大上段から秀隆の脳天目がけて叩きつけた。

 

「あっぶねぇなっ!? モップだって当たりどころが悪かたっらヤバいんだぞ!?」

「黙れ邪教徒ども……。誰もが踏み入れぬことの許されぬ、遥かに遠き聖域を穢す異端者どもめ……。その罪、死を以て贖うべし。それが――」

 

『『『――我ら、異端審問会の掟』』』

 

「ちょ、ちょっと待て!? お前らいつの間に現れたんだ!? さっきまで気配すらなかっただろ!? それに風呂といっても別に何かあったわけでもぎゃぁあああっ!?」

「…………あ……雄二……」

「くっそやっぱこうなるのかよ!? テメェら何でこういう時だけそんなバケモノじみた連携がぐわぁあああっ!?」

「ちょっと秀隆!?」

 

雄二と秀隆は突然現れた覆面集団に一瞬でボコボコにされて何処かへ連れ去られてしまった。

 

『吉井一級審問官。異端者の発見、ご苦労であった』

『ありがとうございます。須川会長』

 

「……さっき話した『野球で勝てば没収品返却』って話……詳しく教えて欲しかったのに」

「聞く前にこれじゃぁ、ね」

 

こうなってしまっては話を聞くどころではない。2人はおとなしくAクラスに戻り授業を受けることにした。

 

 

――体育祭当日――

 

『――時より、第二グラウンドにて召喚野球を行います。参加する生徒は――』

 

校舎に取り付けられたスピーカーからアナウンスが響き渡る。

グラウンドの一部を仕切って作られた自分たちの待機場所を離れ、明久たちは野球大会の行われる会場に向かっていた。

 

「ふぁ〜……。やっと出番か……」

 

秀隆が大きく欠伸をする。体育祭の開会式は例年通り学園長や来賓の挨拶や開会宣言から始まった。その退屈なことこの上なく、秀隆だけでなく、途中で欠伸を噛みしめる生徒も大勢いた。もっとも、開会式の間がっつり船を漕いでいたのは秀隆くらいである。

 

「雄二。最初の対戦相手はどこだっけ?」

「確か1回戦は同学年の隣のクラスが相手という話だったから、Eクラスのはずだ。ほら、コイツが対戦表だ」

 

雄二が明久にA4サイズの紙を明久に渡す。そこには、櫓状の対戦表が書かれていた。

野球大会の会場は第二グラウンドと体育館の2カ所。AクラスとBクラスの上位クラスは体育館で試合を行い、それ以外のクラスと教師チームは第二グラウンドでの試合となる。

 

「へぇ。こういうのってくじ引きで対戦相手が決まると思っていたわ」

 

明久の後ろから対戦表をのぞき込んでいた美波が少し不思議そうに言った。

 

「一応最初だから戦力差が均等になるようにって前触れだが」

「来賓が召喚野球の視察に来るみたいだから。俺たち下位クラスの無様な試合は見せられないんだとよ」

「会場が体育館なのも、来賓の方に配慮してるからですかね?」

「たぶんそうじゃろうな」

 

体育館なら急な天候の悪化にも左右されず試合をすることができる。文月学園の体育館もかなり広めに建てられているので、召喚野球をするには十分だ。

 

「…………気の毒なのはD、Cクラス」

「3回戦で先生たちと戦うのですね」

 

トーナメントの関係上、C、Dクラスは3回戦で教師チームとの対戦となる。ここで3-Cあたりが教師チームを倒してくれれば楽になるのだが、現実はそうはあまくはないだろう。

 

「それで俺らはEクラスとの対戦ってわけか」

「Eクラス、Eクラスかぁ……」

 

隣のクラスではあるが、正直Eクラスとの交流はないに等しい。Eクラスは試験召喚戦争に挑んだという話も聞かないし、清涼祭の召喚大会でも肝試しでも直接関わることはなかった。せいぜいが覗き騒動の時だけ。つまり、明久たちはEクラスについての情報を殆ど持っていないのだ。

 

「雄二。Eクラスって野球で勝負しても大丈夫? 何も危険はない?」

 

明久が隣を歩く雄二に尋ねる。Eクラスは代表についても何も分かっていないので、万が一根本のような性格の人物なら瑞希や秀吉に危害が及ぶかもしれない。事前に危険かどうか確認しておく必要がある。

 

「ん〜……。まぁ、Eクラスは大丈夫だろ。さっきちょっと代表同士で挨拶した限りだと、対応も可愛いもんだったしな」

「え? 本当? 可愛いってどんな感じの子だったの?」

「「…………」」

 

可愛い感じと言われて明久が興味津々に聞いてくる。

後ろで瑞希と美波が凄い形相で睨んているが、気づいた様子はない。

 

「どんな感じって言うと、そうだな……」

 

雄二は少し思い出すように顎を擦り、コホンと咳払いをひとつ。

 

「『押忍っ! 自分はEクラス代表の中林であります! 本日は絶対に勝たせて頂くであります!』って感じだで」

「ソイツきっと全身筋肉質だよね!? 絶対可愛くないよね!?」

 

どこをどう取ったら可愛く見えるのか、雄二の審美眼が心配になる。

 

「いや、そうでもないぞ明久」

「え? そうなの?」

「漫画でもよくいるだろ? 学ランで"風紀委員"って腕章つけてる美少女が。たぶんEクラス代表もそれだ」

「そ、そっか。それなら」

「まぁ現実にそんなヤツいるわけないんだけどな」

「変な期待持たせないでよ!?」

 

秀隆におちょくられただけである。

 

「冗談だ。本当は『今日はヨロシクねっ。絶対に負けないんだからっ☆』って感じで喋る代表だった」

「そっかー。よぉーし、こっちだって負けるもんかっ」

「ただしラグビー部所属」

「ソイツやっぱり全身筋肉質だろ!」

「俺はそれより雄二のモノマネで吐きそうだ」

 

ぶりっ子のような喋り方をするラグビー部員なんて嫌すぎる。そのモノマネをする雄二含めて。

 

「なんてな。それも嘘だ。Eクラス代表は女子テニス部のエースをやってる中林ってヤツだ。性格は島田に近いんじゃぬいか?」

「外見は?」

「鉄人に近――冗談だ明久。ダッシュで逃げるな」

「雄二の冗談は心臓に悪いんだよ!」

 

美波の性格で外見西村教諭なのは勝ち目がなさすぎる。

 

「ちょっとアキ! 性格がウチに似てるって聞いて逃げるってどういうことよ!」

「ち、違うよ美波! それは雄二が見た目が鉄人に似てるって嘘ついたからで」

「お主らもいい加減にせんか」

「坂本君も。明久君をからかってばっかりでは話が進みませんよ?」

「結局、Eクラスはどんなクラス何ですか?」

 

一緒に歩いていたリリアたちが雄二に問う。どうやら全員Eクラスの知り合いはいないようだ。

 

「すまんすまん。そうだな……。Eクラスは一言で言えば、『体育会系クラス』だな」

「体育会系?」

「ああ。部活を中心に学園生活を送るヤツがほとんど。部活に打ち込んでいるせいで成績は悪いが、その分体力や運動神経はかなりもんだ」

「学力はFクラスに毛の生えた程度だからつけ入る隙はありそうだな」

「なるほどね」

 

部活中心だから、今まで試験召喚戦争にも関わってこなかった、というわけだ。Eクラスからすれば、教室の設備よりも部活の設備の方が重要なのだろう。

 

「部活バカってわだね」

『なんですって!』

 

明久がうんうんと頷いていると、叫び声を上げて正面からズンズンとこちらに歩いてくる女子生徒の姿。

 

「アンタにバカって言われたくないわよバカ!」

 

明久はヘアバンドをつけたその女子生徒に出会い頭に罵倒されてしまった。初対面のはずなのに、いやに好戦的だ。

 

「えっと――」

「私たちがバカなら、その下のアンタたちは大バカじゃない! この大バカ!」

 

ヘアバンドの女子生徒は怒髪天を衝くと言わんばかりに明久を罵倒する。瑞希や美波が露骨に不機嫌な顔をするのもお構いなしだ。

 

「明久。コイツがEクラス代表の中林だ」

「ああ。この人が例の全身筋肉質って話の」

「全身筋肉質!? 私いったいどういう紹介をされてたの!?」

 

ヘアバンドの少女、Eクラス代表の中林が目を丸くする。テニス部所属とは言え、女子で全身筋肉質と言われて良い気はしないだろう。

 

「な、何よその目は。これだからFクラスは嫌なのよ。人のことをジロジロ見て、いやらしい」

「あ、ごめんなさい。そういうわけじゃないんだけど」

 

明久が中林に素直に謝る。中林をマジマジと観察して、最近あまり接することのないまともな人だと安心していたのだが、それが誤解されたようだ。

 

「悪いな。明久はお前が鉄人似のラグビー部員だと聞いていてから踊ろうてたんだ」

「アンタ私に喧嘩売ってるんでしょ!? そうよね! そうに決まってるわ!」

 

中林の明久を見る目が更に厳しくなる。

 

「まぁ落ち着けパツキン姉ちゃん。明久も悪気があって言ったわけじゃない」

「パツキン?」

「何よパツキンって? 金髪ってこと? バッカじゃないの? 私のどこが金髪に見えるのよ。病院にでも行ってきたら?」

 

中林が雄二を訝しげに睨む。

 

「違う違う。パツキンってのは『金色の髪』ってことじゃねえ。『髪筋』って書くんだ。文字通り、髪まで筋肉でできてんじゃねえのか」

「言ってくれるじゃないの……っ!!」

「――と、明久が言っていた」

「なんですってぇぇーーっ!!」

「酷い誤解でげふぅっ!」

 

雄二の策略により、明久は中林の怒りを一身に受けるはめになった。

 

「ところで中林。さっきは聞き忘れたが、先攻・後攻はどうする?」

「知らないわよ! 好きにしたらいいじゃない!」

「そうか。それならこちらは後攻にさせてもらう」

「いいわよ。そんなことより覚えてなさい! 絶対にアンタには負けないんだから!」

 

中林は明久に敵意を剥き出しにしてそう言い捨てると、そのままズンズンとEクラスのベンチに戻って行った。

 

「よくやった。ナイス挑発だ明久」

「よくやった、じゃないっ! 雄二のせいで初対面の人との間に距離ができちゃったじゃないか!」

「気にするな明久。一生懸命努力さえしていれば、人との距離は埋められるし、大きな夢だって叶えられるし、秘蔵のエロ本だって奪い返せる」

「良いこと言っているようだけど最後の一言で台無しだ!」

 

だが野球大会の目的はエロ本の奪還なので間違いではない。

 

「はぁ……。またこれで僕のことをおかしなヤツだって誤解する人が増えた気がするよ」

「安心しろ明久。それは誤解じゃなくて事実だから」

「そこはフォローしてよ!」

 

試合前だというのに、明久は延長戦をフル出場したかのような疲労感に襲われていた。




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