バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から野球大会スタートです。
今回は第一回戦の1回表終了までです。



第百十三問

第百十三問

 

「それでは、Fクラスの選手は守備位置についてください」

 

主審を務める寺井教諭の声がかかる。立ち会いの先生は向井教諭のようなので、この試合の1回の攻防は古典勝負ということになる。

 

「んじゃ、試獣召喚(サモン)っ」

 

明久がキーワードを口にすると、足元にお馴染みの幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。そこから現れたのはデフォルメされた明久の姿をした召喚獣。いつもは学ランを来て木刀を携えた不良装備なのだが――

 

「今回は野球のユニフォームか。わざわざ試合用に調整するだなんて、学園長も変な所に労力を割いてるよなぁ」

 

今の召喚獣は高校球児よろしく白いユニフォーム姿。バットにグローブも持って思いの外可愛らしく見える。

 

「一応野球用ってだけあって、操作は一部自動になっているらしいな」

「ま、そうだよね。そうじゃないと、野球なんてまともにできないだろうし」

 

一部生徒のせいで忘れがちになるが、そもそも召喚獣の操作は難しい部類に入る。殆どの生徒は普段の感覚でボールを投げていたら、明後日の方向に飛んでいくのは目に見えている。その辺りはきちんと考慮されているようで明久は少し安心した。

 

「俺は全自動(フルオート)でも全然構わなかったんだがな」

 

と、一部の生徒代表が何やらほざいていた。

 

「お前はサボりたいだけだろ」

「当たり前だ」

「さも当然のように言うでないぞい……」

「…………怠惰極まりない」

 

秀隆はなんなら体育祭自体をサボりたいと思っている。

 

「で、でも全自動だと、それこそ点数でそのまま結果が決まってしまいますし」

「それもそうね」

「だな。ババァと鉄人の前であんだけ啖呵切ったヤツの台詞とは思えねぇな」

「それはそれ、これはこれだ」

「お主の場合はそれもこれもなかろうに」

「…………ただの言い訳」

「えぇ〜」

「と、取り敢えず、システムについては私たちで考えても仕方ないので、今は目の前の試合に集中しましょう!」

「それもそうだね。経緯はどうあれ、没収品を取り戻す絶好のチャンスなわけだし」

 

とは言うものの、それも最終的に教師チームに勝ったらの話。その肝心の作戦を、まだ明久たちは雄二から聞いていなかった。

 

「何を話ているのですか? 早く準備してください」

「おっといけねぇ。おーい全員聞いてくれー!取り敢えず、これがこの試合の守備位置と打順だっ」

 

召喚野球大会に参加するクラスメイトに雄二が呼びかける。こういった事に関する雄二の手腕は折り紙付き。皆黙って雄二の言葉に耳を傾ける。

 

「基本の守備位置と打順はこんな感じだ」

 

一番 ファースト  木下秀吉

二番 ショート   土屋康太(ムッツリーニ)

三番 ピッチャー  吉井明久

四番 キャッチャー 坂本雄二

五番 ライト    姫路瑞希

六番 セカンド   島田美波

七番 センター   神崎秀隆

八番 サード    須川亮

九番 指名打者   リリアーヌ・シュトラウスキー

   (レフト    横溝浩二)

 

ベンチ 福村幸平

    近藤吉宗

 

 

「ねぇ雄二。僕がピッチャーでいいの? 雄二か秀隆か姫路さんの方がよくない?」

 

明久は三番でピッチャーという随分と優遇された役回りに疑問を抱き、雄二に尋ねた。

召喚獣を使用するので点数の高い雄二たちの誰かがピッチャーをした方が打たれにくくなると感じたからだ。明久の点数だと、外野は送球が届かない可能性があるので内野を守る方が無難なような気がする。

 

「できるんなら、俺もそうしたいんだが」

「できるんならって?」

「俺たちの誰がピッチャーをやって、まともに捕球できるキャッチャーがいると思うか?」

 

言われて明久は脳内でシュミレーションしてみる。

 

「そっか。生身の人間と違って、召喚獣は他の人の十倍の力の差、とかがあったりするもんね」

「そういうことだ。細かい話になるが、使用するボールも――まぁこれは一般的な召喚獣と同じで物には触れないが――実際に重さを持っているとすると、かなりの重量に設定されているらしい」

「そ、そうなんだ……」

 

雄二の説明を聞いて、明久は驚くと同時に納得した。召喚獣の力は明久の点数であっても人の数倍あると言われている。Fクラスでそれなのだから、Aクラスの生徒が普通の重さのボールを投げたら打てるはずがない。

 

「そういう事なら仕方ないね。姫路さんたちの点数で重いボールなんて投げられたら誰も捕球できないもんね」

「…………少しでも身体に当たったら一発KO」

「しかし、それならば秀隆がキャッチャーをして姫路か雄二が投げればよいのではないのかの?」

「冗談言うなよ。俺の召喚獣は観察処分者仕様なんだぞ。雄二や姫路の球なんて捕ろうもんなら、どんだけフィードバックがくるか……」

 

想像するだけで秀隆ですら身震いする。例えるなら至近距離で放たれる砲丸をグローブで受けるようなものだ。まともに捕球できたとして腕の無事は保証できない。

 

「す、すいません。私、野球とかは全然分からなくて……。実際にやったこともないですし……」

「実は私も……」

 

加えて瑞希とリリアは野球初心者。それ故に、ピッチャーという大役を任せるには今回ばかりは心許ない。

 

「そういうわけだ。リリアを指名打者(DH)にしたのもそれが理由だしな。あと秀隆はキャッチャーよりも外野の方が活かせそうだからな」

 

雄二は秀隆をセンターに置いたのもきちんと考えがちあってのことだと言う。

 

「ま、1回戦目はルールを把握する意味も含めてこの守備位置と打順にしている。状況によっては配置変更はするけどな」

「ん。了解」

 

本職ではなく素人が、しかも召喚獣を使う野球なので、左右への打ち分けなんて殆どできないだろうから、ライトやレフトは比較的に打球は飛んでこないはずだ。指名打者も守備につく必要はないので、雄二の判断は正しいと言える。

 

「以上だ。他になにか質問は?」

 

雄二の確認に口を開く者はなし。全員が納得したということだ。

 

「よし。それじゃ――いくぞテメェら、覚悟はいいか!」

「「「おうっ!」」」

「Eクラスなんざ、俺らにとっちゃただの通過点だ! こっちの負けはありえねぇ!」

「「「おうっ!」」」

「目指すは決勝、仇敵教師チーム! ヤツらを蹴散らし、その首を散っていった仲間(エロ本)の墓前に捧げてやるのが目的だ!」

「「「おうっ!」」」

「やるぞテメェら! 俺の――俺たちの、かけがえのない仲間(エロ本)への弔い合戦だ!」

「「「おっしゃぁーーっ!!」」」

 

Fクラス男子の瞳に炎が宿る。無慈悲にも仲間を奪っていった敵――西村教諭率いる教師チームに天誅を加えるために。

 

「あ、あの美波ちゃん、リリアちゃん……。こうしていると、なんだか……」

「そうね……。ウチらまでそういう本を没収されたみたいよね……」

「私、なんだか恥ずかしいです……」

「ワシも別にエロ本などは持ち込んでおらんのじゃが……」

「秀吉とリリアはともかく、姫路と島田は似たようなもんだろうが」

 

Fクラス男子が一致団結する傍らで、小さなため息が繋がった。

 

 

『プレイボール!』

 

主審を務める寺井教諭の声がグラウンドに響き渡り、ゲームが始まる。試合をするのは召喚獣なので、明久たち守備陣はどこに立っていてもよいのだが、操作性を考えると、皆召喚獣の真後ろや横に立つことになる。

 

「おねしゃーすっ! 試獣召喚(サモン)っ」

Eクラスの先頭バッターが運動部らしく大きな声で挨拶(?)をしながらバッターボックスに入る。守備側の立ち位置は特に規定はされていないが、バッターはボックスの真後ろに立つことになっている。これは相手のサインやミットの位置が見えないようにするためだ。

 

   Eクラス 園村俊哉   古典 117点

             VS

   Fクラス 吉井明久   古典  71点

 

いつものように召喚獣の頭上に点数が表示される。

この試合のそれぞれの科目は、1回が古典、2回が化学、3回が数学、4回が英語で、最終回の5回は保健体育となっている。

先ずは大事な初回の古典勝負。明久は召喚獣にボールを持たせてマウンドに立ち、キャッチャーの指示を待つ。今回の野球勝負では変化球は使えない設定なので、雄二、キャッチャーが指示するのはコースと球速のみ。野球ゲームといよりはもはや初期の野球盤に近い。回数も5回と少ないので、いかに点を取られないかが重要だ。

そんな大事な初回で、雄二が指示するのは――

 

『真ん中、遅い球』

『そんなど真ん中なんて、大丈夫?』

 

いつものアイコンタクトでのやり取り。雄二が指示したのは、普通の野球ではまず見ないど真ん中のスローボール。

 

『大丈夫だ。向こうも慣れない召喚獣を使っての1球目だ。様子を見てくるに決まってるからな』

『ふむふむ。なるほどね』

 

例えEクラス相手と言えど召喚獣の操作には明久たちに一日の長がある。その上、普段の操作とは勝手の違う野球仕様。Eクラスが体育会系クラスということもあって、様子見のために初球は見送るという雄二の考えは間違っていないような気がする。力加減を知るためと、温存のためにスローボールを投げるというのも納得だ。

明久は雄二の指示に頷くと、召喚獣に投球の指示を出す。

 

『それじゃ、行くよ雄二』

『おう。来い明久』

 

明久の召喚獣が大きく振りかぶり、雄二の召喚獣のミット目がけてボールを投げる。その投球は――

 

――キンッ

 

『ホームラーーン』

 

「ちゃんと投げろやボケがぁー!」

「ちゃんと指示出せやクズがぁーーっ!」

 

明久の投げたボールは、甲高い音を立てて綺麗な放物線を描きながら、青空へ消えていった。

 

「お主ら……。いくらなんでも、運動部の面子を相手にド真ん中のスローボールはどうかと思うぞい……」

 

ファーストから秀吉の呆れた声が聞こえる。

たとえ召喚獣の操作に慣れなくても、そこは流石運動部。選球眼と反射神経で見事にボールを捉え、ホームランにしてしまった。

初回から0対1のビハインド。早くも雲行きが怪しくなってきた。

 

「おねっしゃっす! 試獣召喚(サモン)っ!」

 

ノーアウトランナーなしで2番バッターがボックスに立つ。明久はボールを受け取り、再び雄二とアイコンタクトを取る。

 

『テメェ明久。次ミスったら尻バットを喰らわしてやる』

『雄二こそ。次ミスったら脛バットを叩き込んでやる』

 

サイン(?)を確認し、2番バッターへの初球。

 

――キンッ

 

『ホームラーーン』

 

「「バットをよこせぇっ!!」」

 

それぞれがベンチに向かってバットを要求する。

これで0対2。しかも二者連続初球ホームラン。プロ野球選手なら放送事故以外のなにものでもない。相手を舐めてかかった結果がこれである。

 

「おい吉井! ちゃんと真面目にやれ! 俺たちの参考書(エロ本)がかかってるんだぞ!」

「それはこのバカに言ってよ! コイツがちゃんと指示を出さないから!」

「何を言ってやがる! お前がちゃんと投げないから打たれたんだろうが!」

「なにをっ!」

「坂本の言う通りだぞ吉井。今回は自動で投げるんだろ? お前がちゃんと投げていればこんなことにはならなかったはずた」

「むっ。だったら須川君が投げてみてよ。どうせ打たれるから」

「はん。俺は吉井より成績が良いからな。Eクラス程度、直ぐにスリーアウトにしてやるさ」

 

明久からボールを奪った須川は意気揚々とマウンドに上がり、

 

――キンッ

 

Eクラス  VS  Fクラス

3    ―――   0

 

瞬く間にアーチを量産した。

 

「……やべぇ。いきなり大ピンチだ……」

「いやもうピンチっていうか、点数を取られまくった後なんだけど……」

 

初回にアウトカウント1つも取れずに3点差。気の早い観客なら既に帰り支度を始めている頃だ。

 

「とにかく――タイムっ!」

 

雄二はタイムを取り、内野陣を集めて作戦会議に出る。

 

「ふぁ〜……。あのバカどもが。いくらEクラスったって格上なのは変わらねぇんだから、少しは警戒しろっての」

 

ボールが飛んでこないどころか遥か頭上を越えていくので、秀隆を始め外野陣は手持ち無沙汰になっている。秀隆がしゃがんでボヤいていると、

 

「あ、あの神崎君っ」

「ん? 姫路か。どうかしたのか?」

 

タイムの時間を利用してか、瑞希が秀隆に話しかけてきた。

 

「ピッチャーって、こんなにころころ替わってもいいんですか?」

「ああ。基本ベンチとの入れ替えは一回きりだが、既にフィールドにいる選手間でのポジションの変更は自由にできたはずだ。高校野球でも、ピッチャーの体力を温存させるために内野と交代したり、2番手ピッチャーを野手として出すってこともあるしな」

 

逆にメジャーリーグでは、延長につぐ延長で控え投手がいなくなり、外野の選手がピッチャーで投げるという珍事件が起きたこともあるそうだ。

 

「そうなんですね」

「ま、もっと細かいルールもあるだろうが、その辺は今回は気にしなくていいだろ。それと、聞きたいのはそれだけか?」

「あ、その……試合は大丈夫なんでしょうか? いきなりこんなに点数差が出てしまいましたし……」

「流石に野球をよく知らなくても、今の状況がヤバいってくらいは分かるか」

「はい。一応野球は時々お父さんがテレビで見てましたので。それにこういう時は大抵不機嫌になっていましたし……」

「どこの家も似たようなもんだな」

 

秀隆が苦笑混じりに呟く。親の贔屓のチームや選手が不調だと不機嫌になるのはどの家庭も似たようなものだ。それでテレビのリモコンの取り合いになるのも。

 

「まぁ、普通なら不安になる点差だな。特に今回は5回までしかないし、向こうのピッチャーによってはこっちの負けも普通にあり得る」

「やっぱり……」

「ま、それをどうにかするのも俺やお前の仕事でもあるからな」

「わ、私でお役に立てるでしょうか……?」

「お前は点数が高いから大丈夫だよ――っと、そろそろ試合が再開するな。定位置に戻れよ」

「あ、はい」

 

内野陣がピッチャーマウンドを離れたので試合が再開されるようだ。どうやらピッチャーは結局明久に落ち着いたらしい。

 

「さて、どうなることやら……」

 

秀隆の心配は勝負の行方か、はたまた自分の仕事(守備)が増えないことを願っているのか。

 

『プレイ!』

 

試合再開の宣言がされ、次のバッターがボックスに入る。Eクラスの4番打者を務めるのは――

 

『吉井明久……! よくも人のことを全身筋肉呼ばわりしてくれたわね……! 絶対に、絶対に許さない……っ!』

 

「げっ……」

 

思わず明久が悪態をつく。Eクラスの4番打者は代表の中林。クラス代表でかつ明久とも因縁(?)があるということで、その気迫は外野まで伝わってくる。

 

『明久。相手は4番だ。全力で投げてこい』

 

雄二のアイコンタクトに明久はしっかりと頷く。流石にクラス代表の4番打者相手に手を抜くほど明久もバカではない。最悪歩かせでもいいから、厳しいコースに全力で投げるべきだ。

明久は緊張をほぐすために一度大きく深呼吸をすると、召喚獣を投球モーションに入らせる。

 

――ゴスッ

 

『デッドボール。一塁へ』

『殴らせて! 一度でいいからあの男を殴らせてよ!』

『落ち着け中林! 折角勝っているのに乱闘でノーゲームにするのはもったいない!』

 

暴れる中林をEクラス男子が抑えて必死に宥める。

力いっぱい投げたボールは、力が入りすぎたあまりスッポ抜けて中林の召喚獣の頭を見事に捉えた。

あの暴れぶりは、帽子を取って謝った程度では許してはもらえないだろう。

もはや絶望的になった明久と隣のクラスの代表との関係性などお構いなしに試合は進んでいく。次はノーアウト一塁で5番バッター。まだまだ予断を許さない状況だ。

 

『さて。もう遊びはないしだ。真面目にやるぞ明久』

『僕はずっと真面目にやっているつもりだったんだけど……』

 

ため息をひとつ吐いて、明久は雄二の構えたミットに向かってボールを投げる。すると5番バッターは、前の3人がホームランを打ったというプレッシャーからか、打ちにくい球に焦って手を出して打ち上げてしまった。

 

『アウトっ!』

 

セカンドの美波が難なく捕球しようやく1アウト。やれやれと一息つく。

 

『よしよし、良い感じだ。次はここだ』

 

雄二がミットを構える。中林の時はスッポ抜けてデッドボールになってしまったが、ここにきてようやく力加減にも慣れてきた。これならいけそうだ。

 

『ストライク、バッターアウト! チェンジ!』

 

続く6、7番バッターからもアウトを奪ってやっと攻守交代。まだ1回の表が終わったばかりだというのに、明久は変な疲労感を覚えた。

 

「よし! さっきはちょっとしたハプニングがあったが、だいたい計算通りだ! さっさと点取ってブッ倒すぞ!」

「「「おおーっ!」」」

 

雄二の檄に、全員で拳を上げて応える。3点ビハインドとは言えまだまだ攻撃のチャンスは残っている。厳しい状況ではあるが、ここからの逆転は十分可能だ。

 

「……初回から三者連続初球ホームランってどんな計算してんだよ」

「それは言わぬお約束じゃろ……」

「だ、大丈夫ですよ! ここから頑張りましょう!」

 

一抹の不安を脳裏の片隅に置きながら、反撃の狼煙を上げるべく、Fクラスの1番バッターがボックスに立つ。




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