バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は召喚野球大会Eクラス戦の4回終了までとなります。


第百十五問

第百十五問

 

1回の攻防が終わり2回表のFクラスの守備。

 

「雄二。この回も僕がピッチャーでいいの?」

 

グラウンドに出る前に明久が雄二に確認を取る。

 

「そのつもりだが、どうかしたか?」

「いや、何だかんだ3点も取られちゃったし、このまま僕でいいのかなぁって」

「何だそんなことか。今更だろ」

「そうだけどさ。この回は科目が化学なわけだし、やっぱり秀隆あたりに投げてもらった方がよくない?」

「お前は俺を殺す気か!?」

 

秀隆をピッチャーに推す明久に、雄二は断固拒否の構えだ。

 

「俺はそれでも構わんぞ?」

「俺が構うわ! いいか、お前や姫路の点数で召喚獣仕様のボールなんて投げてみろ、俺の召喚獣なんて一瞬で消し炭になるに決まってるだろ!」

「それは違うぞ雄二」

 

召喚獣が一撃で戦死するという雄二の叫びを、秀隆は軽く否定した。

 

「なに? まぁ、お前ならその辺のコントロールは」

「消し炭じゃやくて肉塊だ」

「何も変わってねぇっ!?」

「というより、当たるの前提なんだね」

 

雄二の死は確定らしい。

 

「ともかく! この試合ではお前や姫路をマウンドに上げる気はねぇ! 明久、早くマウンドに上がれ! 秀隆もとっとと守備につけ!」

「あ、うん」

「へいへーい」

 

雄二の怒号に退散するように秀隆がセンターの守備に立つ。それを確認してから、雄二は召喚獣を座らせた。

 

『おねしゃーすっ。試獣召喚(サモン)っ』

 

Eクラスの8番打者が召喚獣を喚び出す。2回の科目は化学だが――

 

   Eクラス  大村新太郎  化学 65点

             VS

   Fクラス  吉井明久   化学 72点

 

『『『吉井の点数の方が高い!?』』』

 

E・Fクラス両陣営から驚きの声が上がる。10点も差がないのだが、明久がテストの点数で上位クラスに勝てることは予想していなかったようだ。

 

『まったく。失礼しちゃうよね』

『そう言うな。俺がEクラスでも同じリアクションするわ』

 

実は明久は早く玲をアメリカに返し一人暮らしに戻るため、瑞希や秀隆に世界史以外ですぐに成績の伸ばせそうな科目を相談したところ、瑞希からは世界史と関連付けて勉強できる日本史を、秀隆からは化学を勧められた。

瑞希の日本史はともかく、なぜ秀隆が化学を勧めたのか。それは化学が秀隆の得意科目であるから――ではなく、化学は意外にも暗記系の科目である、ことが理由らしい。

明久も最初は半信半疑であったが、教科書の例題をよく読んでみると、確かに化合物名や反応名などを問う問題が多かった。

もちろん計算問題や、化合物名の法則性など暗記以外にも勉強すべきところはあるので世界史ほど成績は伸びなかったが、明久の中ではかなり成績が伸びた科目ではある。

 

『よし。向こうが動揺しているうちに、とっととスリーアウトにするぞ』

『オーケー』

 

雄二の思惑通り、Eクラスは明久の点数に臆したのか、動揺を落ち着かせることのできぬまま、下位打線は三者凡退に倒れた。

 

「ナイスだ明久。よくやった」

「ナイスピッチです!」

「まさかお主が純粋な点数でEクラスに勝っておるとは思はなんだぞい」

「…………いつの間に?」

「まさかウチが古典以外でアキに負けるなんて……」

「前に秀隆にアドバイスもらったからかな」

「明久は元々覚えゲーは得意な方だからな」

「それでも、明久君が頑張ったからですよ」

「へへっ。ありがとう皆」

 

皆から褒められて、明久がこそばゆそうに鼻をこする。こうして誰かに褒められていると、苦手な勉強を頑張って良かったと思える。

 

「よし! このままの勢いで逆転するぞ!」

「次の打者は誰だっけ?」

「俺だ」

 

Fクラス7番打者の秀隆がバッターボックスに入る。

 

『来たわね。Fクラスの問題児その3』

「その1と2は聞かないでおいてやるよ――試獣召喚(サモン)

 

秀隆が中林の言葉に苦笑しながら召喚獣を喚ぶ。

 

   Eクラス 中林宏美   化学  81点

             VS

   Fクラス 神崎秀隆   化学 564点

 

「――っぶねぇっ!?」

 

秀隆の点数が表示された瞬間、中林はなんの躊躇もなく全力で秀隆の顔面向けて速球を投げた。間一髪で躱せたとはいえ、当たっていたら相当のフィードバックだ。

 

「ったく。悪い予感がしたと思えば」

『ちっ。運の良い奴』

「寺井先生! アイツわざとデッドボール狙ってます! 危険球で退場させるべきです!」

 

秀隆は寺井教諭に中林の退場を願い出るが、

 

『ボール』

 

寺井教諭は首を振らなかった。

 

「なんでだよっ!」

『神崎。早く構えなさいよ』

「お前もちっとは詫びる()()くらいしろよ!」

 

詫びるどころか開き直るとこすらしない中林に秀隆は抗議するが、

 

『神崎君、早く構えなさい。遅延行為とみなしますよ』

「俺が遅延ならアイツは危険だろ!?」

 

どうやら秀隆の味方はいないようだ。

 

「あんにゃろう。そっちがその気なら……」

 

秀隆は何か思いついたのか、渋々ながらバットを構える。

 

『たぁっ!』

 

中林の第2球目は、またしても秀隆の顔面に――

 

「展開」

 

――ガッ

 

『えっ!?』

 

中林が驚きの叫びを上げる。秀隆に投げたデッドボールは、当たる直前に突如現れた『盾』によって防がれ、転々とファールグラウンドを転がっていた。

 

「悪いな。一応()()()勝負なんでな」

『召喚獣の……腕輪能力……っ!』

 

テストの点数が400点を超えた者に与えられる召喚獣の特殊能力。秀隆の能力は浮遊する盾を展開させる『サテライト・シールド』。1枚で20点消費するが、中林相手なら1枚でも十分。仮に全球デッドボールでも余裕で凌ぎ切ることができる。

そして、肝心のカウントは――

 

『ボール』

 

寺井教諭はボールを宣告した。

 

『ちょっと待ってください! その盾が召喚獣の能力で出た物なら、バットと同じだからファールになると思います!』

 

主審の判定に中林が抗議する。

 

「俺はそれでもいいが、オススメはしないな」

『なんですって?』

 

秀隆は中林の意見に反対はしないが、推奨はしないという。

 

「お前の言うことも一理あるが、それだと俺はバットを2本持つことになる」

『それが何よ?』

「単純計算でヒッティングのチャンスが倍になるけどいいのか?」

『あ』

 

盾がバットである事を認めてしまうと、秀隆は盾でボール打ち返しても良いということになる。加えてボールが顔に来ることがほぼ確定していて、中林と秀隆の点数差。結果は火を見るよりも明らかだ。

 

「寺井先生もその辺見越してのボール宣告ですよね?」

『その通りです』

 

寺井教諭も秀隆の予想に頷く。そもそも当たればホームランの状況で、バッターに有利な判断を主審が下すはずもない。そこまで冷静に判断できるのなら、中林に警告くらいしてくれよという話ではあるが。

 

「つうわけだ。お前ができることは大人しく俺と正々堂々と勝負するか、潔く尻尾巻いて敬遠するかだ」

『ぐぬぬぬ……っ』

「さぁ、どうする? Eクラス代表?」

 

秀隆が挑発するようにニヤリと嗤う。

先の回で雄二にホームランを打たれたせいで点差は1点。打たれれば同点だがノーアウトでランナーなし。プライドとリスクを天秤にかけた中林の判断は、

 

『ボール。フォアボール。一塁へ』

 

敬遠。どの道次は下位打線なのだ。わざわざリスクを負って勝負すべきではない。中林の判断は、代表として正しいものだった。

 

「賢明な判断だ。賢い女は嫌いじゃないぜ?」

『私はアンタが大っきらいよ……っ!』

 

余裕綽々で進塁する秀隆に、中林が恨み節のように唸る。

 

「しかし、雄二も中々嫌らしい打順を組んだものじゃな」

 

一塁に進む秀隆を眺めながら、秀吉がしみじみと呟いた。

 

「あ、やっぱり秀吉もそう思う?」

「当たり前じゃ」

「…………右に同じ」

 

明久たちは雄二の性格の悪さにヤレヤレとため息を吐いた。

 

「失礼なヤツらだな。これも歴とした戦略だ。というか、お前らだってこうしただろうが」

「まあね」

「否定はせん」

「…………これが一番効果的」

「どういうことですか?」

 

野球知識のあるFクラスメンバーは、明久や雄二に限らず、皆秀隆を7番に置くという。

 

「分かりやすく言うと、7番は下位打線の起点なんだよ」

「連続三者凡退でも3回では先頭バッターだし、1人でも塁に出ていれば得点のチャンスに繋がる可能性が高い」

「加えて秀隆の成績じゃ。雄二や姫路を凌いだとしても、後ろに秀隆がおるというだけで下位打線すら気が抜けん」

「…………相当なプレッシャー」

 

野球の下位打線は打率の低いバッターが置かれると思われがちだが、雄二はあえてそこに秀隆を置くとで、戦略的にも精神的にも優位に立とういう作戦なのだという。

 

「たしかにね。向こうからしたら、一番や四番が続くようなものだもの」

「それは、私でもちょっとイヤかもです」

「神崎君ってだけで、少し身構えちゃいますね」

 

実際、一塁で大きくリードを取ってピッチャーを挑発している秀隆は、中林も鬱陶しく思っているだろう。精神的負担はかなりのものだ。

 

「けど、それも次のバッターが続けば、の話だがな」

 

雄二の悪い予感は当たり、次の須川はゲッツー、リリアは三振と結果的に3人で攻撃が終了。2回は両者無得点という結果となった。

 

「待て明久。この回のピッチャーはお前じゃない」

 

3回のマウンドに上がろうとした明久を、雄二が呼び止める。

 

「え? そうなの?」

「この回は数学だからな。ここは島田に抑えてもらう」

「数学……。あ、そっか。なるほどね」

 

美波の得意科目は数学。それに雄二も数学はそれなりに点数を取っているから美波の球を受けることができるだろう。この回だけで言えば、Bクラス並みのバッテリーが組めるはずだ。

 

「そういうことよアキ。この回はウチに任せて。ちゃんとと抑えてみせるから」

 

美波が明久の肩をポンと叩く。Eクラスの打順も一巡して明久の球に慣れてきたかもしれない。ここで美波を投入すれば、その落差で、この回はかなり優位に進められるだろう。

 

「うん。頼んだよ美波」

「ええ。頼まれたわ」

 

パシン、と美波とハイタッチして明久はマウンドを降りる。試召戦争や召喚大会も経験し、運動神経もバッチリな美波なら、明久も安心してマウンドを預けられる。明久はそれなら自分は美波の代わりに美波の守備位置だったセカンドをきっちり守ろう。と、マウンドから移動していたとろこ、

 

「明久君」

 

ライトに移動していた瑞希が明久に話しかけてきた。

 

「ん? どうしたの姫路さん?」

「あ、はい。えっと……。明久君、手を――こうやってもらえます?」

 

瑞希はタクシーを止める時のように手を上げた。真似しろということだろう。

 

「こ、こう?」

 

言われた通りに手を上げてみる。すると瑞希は楽しそうに笑みを浮かべて、

 

「はいっ」

 

ペチン、とその手を叩いた。

 

「一応一歩前進、だな」

 

その横を秀隆が通り過ぎている。まだ1点負けているのに、何が前進なのだろうと明久は疑問に思った。

 

「頑張りましょうね、明久君」

「あ、うん。頑張ろうね、姫路さん」

「はいっ」

 

 

ニッコリと笑って外野へ駆けていく瑞希。今のハイタッチが何を意味するものなのか、明久にはいまいち分からなかったが、瑞希がこの野球大会で明久と心を一つにしたいことがあるということだろうが。

 

「そっか。姫路さん、そんなにも僕らのエロ本を見てみたいのか……」

 

そうだったら困ったものだと明久は要らぬ心配をし始めた。

 

『……なんだか、凄い誤解を受けているような気がするし……』

『……ドンマイ』

 

外野で秀隆が瑞希に同情していたが、明久はそんなことに露と気づかず、気合を入れて守備についた。Eクラス相手に美波の点数なら、よほど上手く打たれない限りはボールが外野に飛ぶことはない。だとすると、内野を守る明久たちの仕事が増えるということ。トンネルなんかして恥をかくわけにわはいかない。

 

   Eクラス  岡崎京介  数学 52点

             VS

   Fクラス  島田美波  数学 193点

 

予想通りの点数差。向こうは2番からの打順だが、『下位クラスは理系が苦手』というジンクスに相応しくない数学は苦手なようだ。美波なら問題なく相手にできるだろう。

1球目、2球目と心配なくバッテリーのやり取りを見守る。すると、3球目を雄二が捕り損ねて、ボールが召喚獣の胸に当たる。あの高得点で投げられるボールはかなりのスピードだ。捕り損ねるのも無理はない。

 

   Fクラス  島田美波   数学 193点

               &

   Fクラス  坂本雄二   数学 175点

 

表示されていた雄二の点数が大きく削れている。さっきまで雄二の点数は200点程だったから、今の捕り損ねで25点程度のダメージを受けたことになる。点数で上回っていた雄二の召喚でもこのダメージだ。明久の召喚獣が受けていたら、フィードバックも相まってひとたまりもなかっただろう。雄二が秀隆や瑞希の球を頑なに受けたくないと言っていたのも頷ける。

 

『やるじゃない島田。さぁ――勝負よ!』

 

そんな事を考えていたら、いつの間にか2アウトとなりこの回ラストバッターの中林がバッターボックスに立つ。

 

『ええ……。アンタにだけは負けないっ!』

 

闘志を燃やす中林に負けないくらい、美波も燃えていた。

 

「流石美波。凄い気迫だ。2人とも同じタイプみたいだし、やっぱり負けたないんだね」

 

負けず嫌いな美波のことだ。同じ女子で運動神経の高い中林にライバル意識を持っているのだろうと明久は感じた。

 

『……たぶん。それだけではなかろう』

 

一塁の秀吉のぼやきは、明久の耳には届かなかった。

 

   Eクラス  中林宏美   数学  84点

               &

   Fクラス  島田美波   数学 193点

 

――キンッ

 

『しまっ!』

『アキっ!』

「任せて! ――秀吉っ」

『よしきた!』

 

だが点数差はどうしようもなく、中林はセカンドにゴロを転がしてあえなくスリーアウト。3回表は美波の活躍により3人で終了。流石は美波の数学と言ったところだ。

 

「お疲れ、美波。ナイスピッチ」

「ありがと、アキ」

「凄い球だったね。流石だよ」

「ふふっ。さっき打つ方では活躍できなかった分、せめて守備で返さないとね」

 

美波が片目を瞑ってそう言った。その姿は凛々しくて格好いいのだが、

 

『お姉様! 最高です! 格好良すぎます! そんなお姉様を見ているだけで、美春は、美春はもう……っっ!!』

 

見物席の方から、Dクラス女子生徒の興奮した声が聞こえてくる。これだから、男子よりも女子からの人気が高いのだろう。

 

「それじゃ、そのまま攻撃もよろしくね」

「任せて! 絶対に逆転してみせるわ!」

 

勢いに乗るFクラス。しかし美波の意気込みに反して3回裏の攻撃も無得点。4回も両者無得点に終わり、決着は最終回の保健体育に託された。

 




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