はてさてペアは無事に決まるのでしょうか……
今回は展開的に少し長めになってます。
第百十四問
秀隆がため息吐いていたその頃、明久はというと――
「さぁ吉井。運命のくじを引くんだ」
「? う、うん」
やけに神妙な面持ちの須川に促されくじ箱に手を入れる。手に伝わる感触から、残りのくじはそう多くない。ここから6番か7番か8番を引けば天国、それ以外は地獄。須川の言う通り運命のくじというわけだ。明久も気合を入れて当たりくじを探る。
「――よし、これだ!」
ガサガサとくじを取り出して開けてみる。そこに書かれていた番号は――
「あ。6ば」
「
「「「イエス。ハイエロファント」」」
「バカな!? もう囲まれた!?」
番号を言い終わらぬ内に、明久は覆面集団に取り囲まれてまった。迂闊にもその場で番号を読み上げてしまったのが運の尽きだったのだ。
『ろ、6番ね……。そっか。アキはウチとペアなんだ……』
『うぅ……。美波ちゃん、とっても嬉しそうです』
『そ、そう? そんなに嬉しくなんて』
『嘘ですっ。だって顔が輝いてますっ』
『う……』
『きっと、美波ちゃんはこのチャンスに明久くんの胸とかお尻とかに触るつもりです……。狡いです……』
『な、何を言ってるのよ瑞希っ。ウチがそんなことをするわけ――ってはい? 触る? 触るって……何を言ってるの瑞希……?』
『姫路。お主ドサクサに紛れて明久に何をするつもりじゃったのじゃ?』
『あ……っ!ち、違いますっ! 今のは言葉の綾で! えっと、その……仲良くなるつもりの間違いです!』
『本音は?』
『明久君にこれ見よがしに密着して鎖骨とか
『お前本当にナニをするつもりだったんだ……?』
『瑞希……アンタいつの間にそんか
『違いますっ!? 誤解です! 信じてください!』
瑞希の株が急落しかけている最中、明久は一瞬で関節を極められ、くじを奪われる。FFF団はこういう時の体術が尋常ではない。
「さて。この6番のくじだが、オークションを」
「分かりました。美春が言い値で買い取りましょう」
「「「なんで清水がここにいるっ!?」」」
おおかたFクラス(美波)のくじを盗み聞きしていたのだろうが、行動力が異常すぎる。
「残念ながらこれはクラス内のもので――ん?」
「どうしましたか、会長?」
「いや……これ6じゃなくて、9だな。9番の見間違いだ」
須川が明久が引いたくじを皆に見えるように広げてみせと、たしかに9という数字の下に上下を見分けるアンダーバーが引かれていた。
「なんだ、9番か。驚かせやがって」
「人騒がせな」
「くだらないことで体力を使っちまったぜ」
「所詮は吉井だな。数字もまともに読めないなんてな」
「まったくです。美春も貴重な時間を損しました」
明久の番号が6でないと分かったとたんに、異端審問会のメンバー(+清水)が次々と愚痴りながら去っていく。6と9なんてアンダーバーが引かれていてもパッと見は間違いそうなのだが、明久はそんな理不尽よりも命が助かったことに安堵した。あのままだと本当に殺されるところだった。
「あの、アキっ」
明久が痛む関節を擦りながら戻ると、美波が駆け寄ってきた。心なしか、頬が紅潮しているようだ。
「ん? なに美波?」
「なんて言うか、その……本番の前に、ちょっとそこら辺で脚を縛って練習でもどう? ほら、二人三脚ってチームワークが大事だから、息を合わせるために先に少し練習しとかないと……」
身振り手振りを交えて提案する美波。そのあたふたした様子がなくとも、傍から見ている瑞希たちには美波の魂胆などお見通しなのだが、残念なことに、美波は肝心な所を聞きそびれていたようだ。
「あ。けど、それならちゃんと自分のパートナーと練習した方がいいよ。その方がきっと役に立つし」
「別にウチはドサクサに紛れてアンタにくっつこうとかそういうわけじゃなくて――って、はい?」
「ほら。僕の番号は9番だからさ。美波は6番でしょ?」
そんな美波の女心に1ミリも気づいていない明久は、無慈悲にも自分の引いたくじを美波に見せる。
正直明久としても、運動神経の良い美波がパートナーだったらやりやすいし、色々と嬉しい思いもできたたろうしと一瞬期待したのだが、残念ながらそれは叶わなかった。それを素直に美波に告げるのはなんだが気恥ずかしいし、また方々から命を狙われかねないので黙っておく。
「そ、そう。そうなの……。それなら、別にいいわ……」
明久がそう言うと、美波は見るからに落胆して肩を落として去っていった。
『ごめんなさい美波ちゃん。私、今ちょっとホッとしちゃいました』
『いいのよ瑞希……。ウチも同じ立場なら、きっとホッとしただろうから……』
『美波ちゃん……』
『そうですか……。ところで、明久君と練習してナニをするつもりだったんですか?』
『瑞希ちゃん?』
『べ、別にウチは……ちょっと匂いでも嗅いでみたいな、とか思ってないからっ』
『美波ちゃん?』
戻った美波が瑞希と何やらボソボソと囁き合っている。間に挟まれたリリアがかなり困惑しているのが気になったが、女の子同士の会話なのであまり聞き耳を立てないように明久も雄二たちのところに戻る。
明久が戻ると、ようやく雄二たちも野球の作戦話を終えたようで、オーダー表をしまって明久の方を向いた。
「なんだ明久。その様子だと当たりくじは引けなかったみたいだな」
「いや、ある意味当たりだったよ」
からかうように言う雄二に明久は苦笑いと共に返す。あのままだと今頃のはどこかに埋められていただろうから、ある意味当たりというのは言い得て妙である。
「そう言えば、雄二たちは何番なの?」
「ん? そういや、まだ引いてなかったな。アイツらが落ち着くのを待っていたらすっかり忘れてた」
「ワシもじゃな」
「…………同じく」
雄二たちはまだ引けていないようだが、
「俺はもう引いた。9番だったぞ」
と秀隆がひらひらと9と書かれた紙を見せる。
「あれ? そうなんだ」
「お前いつの間に引いてたんだ?」
「…………気づかなかった」
「須川たちが騒いでいる間にこっそりとな」
秀隆は自分のくじをクシャッと握り潰してハーフパンツのポケットに入れる。騒ぎに乗じてというのがいかにも秀隆らしい。
「それじゃ、よろしくね秀隆」
「おう」
「それじゃ、俺たちもちょっくら引きに行くとするか。名目上は野球大会よりも体育祭のクラス種目が優先されるからな」
「…………表面上は参加しないと拙い」
「そうじゃの」
雄二たちもくじを引きに須川たちのところに行こうとしたところで、
「良かったなお前ら」
3人の背中に秀隆が声をかける。
「? 何がだ?」
「俺と明久がペアになったから、残りは
「「あ」」
雄二と康太がそこでようやく気づく。くじを引いてないのは雄二、康太、秀吉の3人。そして残っているのも瑞希、美波、リリアの3人。つまり――
「「サラバだっ!!」」
『逃がすな! 坂本と土屋を捉えて血祭りに上げろ!』
『『『おおおーっ!!』』』
FFF団VS雄二&康太の鬼ごっこが開催された。その隙に、秀隆に近づく2つの影。
「あの〜……。神崎君」
「そのくじ譲ってくれたりなんかは」
「俺から奪えるんならくれてやるが?」
「「…………はい」」
秀隆に断られた女子2人がトボトボとまた戻っていく。
「まったく騒がしい奴らじゃの」
「いつもの事だろ。それより、秀吉もくじを引けよ」
「そうするかの」
取り残された秀吉は、グラウンドに放り出されたくじ箱から1枚引く。
「む? 9ば――」
「「「え!?」」」
「――ではなく6番じゃの」
「なんだ秀吉。驚かせないでよ」
「すまぬすまぬ」
「まぁ6と9はパッと見だと分かりにくいからな。――それじゃ、俺もくじを引くとするかな」
「「「ええっ!?」」」
驚く皆を無視して、秀隆は地面に転がるくじ箱から1枚くじを取り出す。
「――8番か。たしか、リリアだったな。よろしくな」
「あ、はい」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 秀隆は9番じゃないの!?」
「9番? 何のことだ? 打順か?」
「とぼけないでください!」
「さっき9番のくじ見せたじゃない!」
はて、とわざとらしくとぼける秀隆に瑞希と美波が迫る。
「ああ。あれな。あれは俺が作った偽のくじだよ」
「「「偽のくじ!?」」」
「何のためにわざわざその様なものを作ったんじゃ?」
「んなもん
悪びれる様子もなく平然と答える秀隆。相変わらずの危機回避能力の高さ、と言えば聞こえは良いが、
「だからって、なんでよりにもよってアキと同じ番号にしたのよ!」
「そうですよ! 少し期待しちゃったじゃないですか!」
「あの、怒るところはそこじゃないと思うんですけど……」
「んなもん消去法、ってかペアが決まってなくて逃げ道があるのが明久だけだったしな」
「あ、それもそうか」
「それよりも、そこまでする捻くれっぷりはどうかと思うぞい」
ようは身の安全のために友人2人を生贄に捧げたと言っているのだから、性格の悪さが滲み出ている。
「そっか、じゃぁ僕の本当のパートナーは雄二かムッツリーニのどっちかなのか」
「なんじゃ明久。お主本当は秀隆と組みたかったのかの?」
「まぁ、3人の中で誰と組みたいかって言われたら秀隆かムッツリーニだよね」
雄二みたいなむさい男とくっつなんて真っ平ごめんだと明久は言う。
「秀隆テメェ! よくもやってくれたな!」
「…………この恨み末代まで忘れない!」
「おう。意外と速かったな」
と、そこに須川たちを撒いた雄二と康太が帰ってきた。2人とも烈火の如く怒りを秀隆に振りまいている。
「テメェのせいで俺は翔子にまで命を狙われたんだぞ!」
「それはいつもの事だろ」
仮に秀隆がくじを引いていなくても、残りの面子から雄二が翔子の制裁を受けることは確定していた。
「それにしても、よく須川たちを捲けたの」
「…………運良く途中で船越先生に会えた」
数学教師の船越教諭(45)独身は、婚期を逃し隙あらば男子生徒との間に既成事実を作ろうとしている文月学園では有名な(?)先生だ。
「ああ。船越先生に全員押しつけたのか」
「たしかに、『コイツら恋人候補です』って言ったら、そっちに行きそうだね」
実際に、須川たちは船越教諭から逃げる方向にシフトし、雄二たちは難を逃れることができた。
「まぁまぁ、いいじゃないか。どの道襲われることには変わりなかったんだし」
「…………俺は違う!」
「そもそもテメェが言える立場じゃねぇ!」
2人の怒りはごもっともである。
「んで、本当はお前は何番なんだ?」
「8」
「…………死ね!」
「っとぉ!」
間髪入れず繰り出されたスタンガンの一撃を、秀隆はギリギリで躱す。
「おい康太。俺に構っている暇はあるのか?」
「…………黙れゲス野郎! キサマは」
「早くしないと、雄二のパートナーが姫路になるぞ」
「「これだーっ!」」
秀隆の一言で康太と雄二が同時にくじ箱に手を突っ込む。だが、康太の方が一歩早かった。康太が引いたくじを開く。
「…………9ば――」
「サラバだっ!」
くじの番号が確定した瞬間、脱兎の如く雄二がその場を離脱。もちろん来たるべき厄災から逃れるためだが、
『……雄二。浮気は許さない』
『ぐぁあああっ! 翔子!? お前いつの間に!?』
雄二が厄から逃れる術もなし。翔子の白魚のような細い指が、見る見る内に雄二の厳つい顔に食い込んでいく。
『……ところで雄二』
『おい待て翔子。この状態で何事もないように話を始めるな。普通は手を緩めるだろ』
『……お義母さんから、何か預かってない?』
『ん? お袋から? ああ。アレなら』
顔面を鷲掴みにされつつ会話を続ける雄二。
待てと言いながら結局そのまま話ができる雄二も大概である。
『……アレなら?』
『持ち物検査の日に、お前の持っていた袋に入れておいた』
『……袋って』
『あの、催眠術の本とかが入っていたやつだ』
何やら雄二の口から不穏な言葉が聞こえたが、それよりも翔子の顔がこれまで見たことのないくらいカッと見開かれたことに皆が驚く。
『……………………本当に?』
『本当だ』
『……嘘じゃ、ない……?』
『嘘じゃない』
『………………』
『? どうした翔子。それがどうかしたのか?』
『……んて……とを……』
『だから、どうしたと――』
『……なんてことを、してくれたの……っ!』
『ぎゃぁあああっ! 死ぬほど痛ぇええっ!』
『……あの袋、中身ごと全部没収されたのに……!』
『ぐぎゃぁああーーぁぁ……』
パキュッという乾いた音がしたかと思うと、雄二は力なくその場に横たわった。
『……雄二の……バカ……っ』
そんな雄二を捨て置いて、翔子は足早に走り去って行った。
「翔子ちゃん。いったいどうしたのでしょうか?」
「なんだが凄く怒っているようにも見えたけど」
「坂本君なら何か知っているのでしょうか」
「預かっただの、袋がどうとか言ってたから事情は知ってそうだな」
「そうだね。とりあえず、軽く介抱して起こそうか。あそこに寝ていられても邪魔だろうし」
雄二の所に歩み寄り、腕を引いて上体を起こしてから軽く事情を聞いてみる。すると、雄二は頭を振りながらポツポツと答えた。余談だが、臨死体験するほどの攻撃を受けてすぐに復活できる雄二の身体構造は普通の人と比べて異常と言ってもおかしくないだろう。
「ああ……。どうも俺のせいで、お袋に預けていた物を雑誌類と一緒に没収されたらしい……」
「預けたていた物、ねぇ」
あの様子からすると、ただの本や写真といった類のものではなさそうだ。
「あんだけ怒るってことは、相当大事な物だったんだろうな」
「みたいだね。雄二が浮気していた時以上に怒ってたし」
「俺を浮気の常習犯みたいに言うんじゃねぇ! 第一、俺と翔子はまだ付き合ってすらねぇよ!」
「はは。ぬかしおる」
「テメェにだけは言われたくねぇ!」
「いちいち雄二をおちょくるでない秀隆。話が前に進まんではないか」
「…………心当たりは?」
「坂本君のお母さんに預けていた、となると――」
「――まさか、婚姻届の同意書かっ!」
「同意書?」
「日本では未成年同士のの婚姻には親の同意が必要なんだよ」
「なるほど。ドイツやオーストリアとおんなじなんですね」
雄二との婚姻届は既に用意できているが、結婚するには親の同意書が必須。折角手に入れた大切な書類を没収されたらわけだから、翔子が怒るのも頷ける。
「危なかった……。そういうことならあの持ち物検査に感謝してもぐふぅっ!」
再びその場に倒れる雄二。後ろを振り返ると、スタンガンを持ったクラスメイトたちが立っていた。
『連れていけ』
『『『ハッ』』』
ぐったりとした雄二が担ぎ上げられ、体育館裏へと運ばれていく。きっと来年の桜は近年稀に見る美しいさを放つだろう。
「う〜ん……。同意書、ねぇ……」
「どうしたのじゃ?」
「いや、霧島が同意書1枚であんな怒るか、って思ってな」
「怒るんじゃない? 霧島さんは雄二と結婚するのが夢らししいし」
「その同意書を坂本君のせいで取られちゃったわけですし」
「ウチなら凄くショックだわ」
「私もちょっと怒っちゃうかもしれないです」
本当に同意書か、と疑問に思う秀隆に対し、他のメンバーは同意書で間違いないと納得しているようだ。
「そんなことより、今は二人三脚の心配をしようよ。一応クラス競技だし」
「……それもそうか。余計なこと考えて負けるのもなんだか癪だしな」
二人三脚ももうすぐ始まるようだし、今はそちらに集中した方が良さそうだ。
「とりあえず、僕のパートナーな結局ムッツリーニなんだよね?」
「ああ。俺の番号は8番だからな」
「よろしくお願いします。神崎君」
「おう。ま、気楽に行こうぜ」
微笑むリリアと軽く笑う秀隆。ここだけでも明久はFFF団に通報する義務があると感じたが、
「それじゃ、改めてよろしくねムッツリーニ」
「…………よろしく」
康太とグッと握手を交わす明久。こと速さに関して言えば、康太は雄二や秀隆を凌駕する。体格も近いし、同性なのでくっつくのに遠慮しなくてもいい。勝負の上では、最高のパートナーが来てくれたと言っても過言ではない。
「はぁ。ウチは木下とペアよね。よろしく頼むわ」
「何やら言い方が少し腑に落ちんが……。まぁ良い。よろしく頼むぞい」
美波も秀吉と軽くハイタッチを交わす。その横では、瑞希は不安そうに表情を曇られせていた。
「私は坂本君とペアですか……。脚を引っ張っちゃわないか心配です……」
「ああいや、その心配はいらないんじゃないかな」
今の雄二は、復活したとしてもまともに走れる状態じゃないだろう。
結局組み合わせは【明久&康太】【美波&秀隆】【リリア&秀隆】【瑞希&雄二(死体)】に決まった。ある意味一番平和な組み合わせと言える。
「? なによアキ。パートナーが木下じゃなくて土屋だったのに、ちょっと嬉しそうじゃない」
「え? そ、そう?」
明久とて康太よりも秀吉や美波がパートナーの方が喜ばしかったが、女子勢が他のFクラスの誰かとペアにならなくてホッとした……なんて恥ずかしい事を明久が素直に言えるわけもなく。
「まぁ、ムッツリーニなら雄二よりは良いよね」
「ふ〜ん。どうして?」
「だってほら。可愛かったから」
「「…………は?」」
美波と康太が真顔で聞き返す。他のメンバーも、驚いて少し目を見開いている。
「前に海で、っていうかお祭りでムッツリーニが女装したじゃない? あれが結構可愛かったと――あ痛っ」
明久が説明していると、後ろから頭を叩かれた。いったい誰だと振り返ると、
「……。すまぬ、明久」
秀吉が少し不機嫌そうな顔をして手を振り切った状態で立っていた。
「え? 今の秀吉がやったの? どうしたのさ」
「むぅ……。何やら分からぬが、つい手が出てしまっての……」
「? そうなの? まぁ、別にそんなに痛くなかったからいいけど……」
明久は文字通り『手が滑った』のだろうと結論付けた。秀吉が誰かに手を挙げるとは考えにくい。秀隆にすらあまり手を挙げないのだから、きっと偶然だろうと。――前に関節技をかけられたらような気がするが、アレも記憶違いだろう。
『……秀吉。そんなんだからお前は明久たちから男して見られないんだろうが』
『むぅ……。分かってはおるが、なんだかこう……釈然とせんのじゃ……』
『はぁ……。また優子のネタ帳が膨らむな』
『それだけは嫌なのじゃ!』
秀隆と秀吉が小声で囁き合っているがよく聞こえなかった。
「最近、明久君の好みの幅がが広すぎて困ります……」
「吉井君はもう少し女の子にも興味を持った方が……」
「…………変態」
「ご、誤解だよ3人ともっ! 僕は本気でムッツリーニの女装に興味があるわけじゃなくて、純粋に勝ちやすいパートナーだから嬉しいだけで!」
「だったら最初からそう言や良いじゃねぇか……」
遠巻きにこちらを見ている瑞希、リリア、康太に弁明する明久。本人としては小粋なジョークで誤魔化したつもりだっただろうが、日頃の行いからか本気にされているのが明久らしい。不本意にも康太から変態扱いされるくらいには。
「……へぇ〜。アキ、アンタ凄い自信じゃない」
明久の『勝ちやすい』という発言に思うところがあったのか、美波が挑発するように言ってきた。
「凄い自信って、別にそこまでは……。まぁ、ムッツリーニは知っての通りだし、僕も運動が苦手じゃないからね」
100メートル走のタイムも康太に軍配が上がるが、明久もタイムが悪いというわけではない。息さえ合えば、大抵の相手とは良い勝負ができるだろう。
「ふ〜ん、そうなんだ。……………………それじゃ、さ」
「うん?」
「ウチらと――勝負して、みない?」
「え? 勝負?」
「そ。ウチと木下と。たしか、1回で各クラス二組ずつ出場だったでしょ?」
二人三脚は各クラスで二組ずつ、計十二組で横一列での競争だ。美波はそこで自分たちと勝負しないかと持ちかけた。
「うん。オッケー。それなら勝負しよう」
明久も男の子らしく勝負ごとでは嫌いではない。それに秀吉には申し訳ないが、康太と組んでいるのでいくら美波相手でも負けることはないとも思っている。そう考えて返事をすると、
「それで、負けた方は罰ゲームね」
「え?」
美波が更に条件を追加。明久たちはよく罰ゲーム付きでゲームをしているから慣れているが、美波からはどんな罰ゲームが飛んでくるか想像できない。どんな恐ろし体罰が待っていることやら。
「なによアキ。まさかアンタ、女子のペアが相手なのに勝つ自信がないの?」
「いや島田。ワシは女子ではないのじゃが」
「今の秀吉が言えた台詞じゃねぇなぁ(ボソッ)」
「お主は何を言っておるのじゃ!?」
秀隆と秀吉が言い争う声が聞こえるが、美波が更に挑発を重ねてきたので明久の勝負心に火がついた。勉強では勝てないかもしれないが、運動ならそう簡単に負けやしない。
「そ、そんなことはないさっ! オッケー、その勝負受けた!」
よく考えたら明久はしょっいゅう雄二や秀隆と勝負をしている。あの2人の卑劣なやり口に比べたら、美波との単純な勝負なんてビビる必要のないくらいには余裕のはずだ。
「じゃぁ、ウチから提案する罰ゲームなんだけど」
「うん。何でも言いなよ。勝ってみせるから」
「ウチが勝ったら――」
「うんうん」
「――ちょっと、付き合って」
「え? ちょっと付き合うって……週末とか? 買い物にでも行くの?」
明久は買い物の荷物持ちにでもされるのだろうと予測した。
「う、うん。まぁそんなところ。買い物とか、ご飯とか、映画とか、色々」
「そ、そんなに一杯……。一日で回りきれるかな……?」
「……別に、一日だけって言うつもりはないから」
明久が美波のハードスケジュールに戦慄していると、美波は聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「ん〜……。ま、それくらいならいっか。乗ったよ。その代わり僕が勝ったら――そうだな。ご飯でも奢ってもらおうかな」
「分かったわ。約束する」
「これで賭けは成立だね」
「そうね。……ウチが勝ったら――本当に付き合ってもらうから」
いつになく真面目な眼差しと口調の美波。明久はその真剣さから、どんな罰ゲームが待ち受けているのかと少し兜の緒を引き締めた。
「島田のヤツ、文字通りの勝負に出たな」
「美波ちゃん。大丈夫でしょうか。あんな賭けなんかに出て」
「ま、どうするかは島田が決めるだろ」
リリアの心配をよそに、秀隆は未だ康太の弁解に苦戦している明久を、少し遠い目をして眺めていた。
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない