※今回から試験的にサブタイトルをつけてみることしました。しばらく続けてもし好評のようなら継続&過去話にも追加していこうと思います。
第百十五問
「よう秀隆。何やら楽しそうなペアを組んでるじゃないか? ン?」
「しまった。
二人三脚の待機列。秀隆とリリアが誘導係から指定された待機場所は、なんとトレイズ&優子ペアの隣だった。
優子、リリアを挟みトレイズが爽やかな笑顔でコチラにガンを飛ばしてくる。
「もう、トレイズ。仕方ないでしょ。クラス競技なんだから」
「だったら姫路とか島田とか秀吉とかがいただろ」
「マクスウェル君。普通に秀吉をそっちの枠にいれるのは遠慮してもらえるかしら」
優子も秀吉が女子の誰かとペアを組むのが無難と頭では理解してるが、やはり姉として思うところがあるようだ。
「仕方ねぇだろ。姫路と島田が男女混合を希望したんだから」
「だからってなぁ」
「まったくあの2人は……。素直に誘えばいいのに」
「まぁ、難しいですよね」
瑞希か美波。どちらかが明久と組めば、もう片方がリリアと組めばトレイズとすれば万事解決だったのだが、2人が奥手なのもあってそう上手くはいかなかった。
「神崎君がそのまま吉井君とペアだったら、また違ったかもしれませんね」
「ん?」
「え?」
「あ」
リリアの失言に、トレイズと優子がバッと秀隆を見やる。
「おいリリア! 余計なことを」
「ほ〜ん……。秀隆ちょっといいか?」
「その話、詳しく聞かせてもらおうかしら?」
嫉妬と疑念と欲望と好奇に満ちたドス黒オーラがAクラスの2人を包む。
「あ、あの〜2人とも、別にそんな大したことじゃ」
「何で秀隆は最初は吉井とペアだったのに、今はリリアとなんだ?」
「どうして吉井君じゃだめだったの? くじを入れ替えでもしたの?」
おおよそ高校生らしからぬ表情と剣幕で迫る2人に、周りで待機してた他のクラスの参加者は少し距離を取ろうと身を捩る。
「違ぇよ。明久とペアになった体で偽のくじを作って見せて、その後で本当のくじを引いただけだ。リリアとペアになったのは偶然だよ」
「なんでそんなことを?」
「須川たちから逃げるため」
「保身に走って友だちを売ったわけね」
「結果的にはそうなるな」
「結果論じゃなくて、そう仕向けたんでしょうが」
優子が意味深な深いため息を吐く。
「くそっ。だからってなんでよりにもよって秀隆なんだ」
「なんだトレイズ? 喧嘩なら買うぞ?」
秀隆がにこやかに青筋を立てて返す。理不尽に言い寄られて挙句に最悪のパターンとみなされたのだから、秀隆が苛立つ気持ちも分からなくはない。周りからしたらトレイズの気持ちの方がよく理解できるが。
「あら? だったら勝負する?」
優子が少し挑発的な視線を秀隆とリリアに送る。
「勝負、ですか?」
「ええ。奇遇にも同じ組になったことだし、ね」
「そうですね……。それは、その、罰ゲーム、なんかは?」
リリアが少し警戒心を強める。先ほど明久と美波の賭けを聞いていたので、少し敏感になっていた。
「あら? リリアは罰ゲームがしたいの?」
「いいえ! そんなつもりは」
「もちろん、罰ゲームありで」
「トレイズ!?」
リリアの不安と心配なぞいざ知らず、トレイズは罰ゲームありを所望した。
「んなもんするわけねぇだろ」
「神崎君……」
秀隆が否定したのでリリアはホッと胸をなで下ろす。
「あら珍しいわね。アンタが乗ってこないなんて」
「あのなぁ。たかだが体育祭のクラス競技だぞ? そんなもんに余計な労力割く気はねぇよ」
「なに言ってんだよ。たかだがクラス競技だから、ちょっとしたスリルが楽しいんだろ」
いつになくトレイズが食ってかかる。どうにも、どうしても秀隆を打ち負かしたいようだ。
「だからって罰ゲームありの賭けまでするか? そんなヤツら普通はいな――」
『クラスのために真剣なのもいいけど、もう少しリラックスしないと勝てるものも勝てないよ?』
――いない、と言いかけた時、秀隆たちから一列挟んだ二列前で待機している明久たちの声が耳に入る。
『……………………でも、絶対に――勝ちたいから……』
美波の小さな呟きも聞こえてきた。人越しに見える背中から、美波がいつになく緊張しているのが感じ取れる。
「いるみたいだけど?」
「……アイツらが特殊なだけだ」
美波の一歩踏み出した行動を尊重はしたが、同時に「余計なことしやがって」と悪態もついた。
「まぁ美波みたいにあそこまで真剣になるような罰ゲームはしないわよ」
「本当か? そこの全方向彼氏面なんかは『勝ったら婚約』とか言いそうだが?」
「そ、そんなこと! ――しねぇし……」
「トレイズ?」
尻すぼみなトレイズの台詞に本心が伺えるようだ。
「そうねぇ……『負けた方は勝った方に奢る』くらいが丁度いいわね」
「Fクラスでは定番らしいな」
「それはそうなだけどよ。奢るって簡単に言うが、まさか高級レストランのフルコースなんて言わないだろうな?」
いくらアルバイトをしているからといって、そんな潤沢な資金はない。
「そんなわけないでしょ。だいいち、そういったお店は未成年のみでの入店拒否よ」
「けど霧島なら」
「そこで極論出してどうするのよ」
優子が「ふむ……」の顎に指を添える。
「でも学食ってのも味気ないし……。『フランドール』も新鮮味がないわね……。そうね……『ラ・ペディス』の『スペシャルパフェ』でどう?」
「『ラ・ペディス』の『スペシャルパフェ』〜?」
優子が提案した景品に、秀隆が呆れて肩をすくめる。
「おいおい。『ラ・ペディス』の『スペシャルパフェ』ってたら、 ほぼ大食いチャレンジのアレだろ? そんなもん誰が食い切れる」
「分かりました。その挑戦受けて立ちましょう」
「リリア?」
優子が景品を提示した瞬間、掌を返したかのようにリリアの瞳に闘志が宿る。
「神崎君。絶対に勝ちましょう」
「待てリリア。話が読めん。おいトレイズ、どうなってやがる?」
「そういえば、前にリリアが『ラ・ペディス』の店の前でそのポスターを食い入るように見ていたような……」
文月学園の学生の多くが足繁く通う喫茶店のひとつ『ラ・ペデイス』。その『ラ・ペディス』が最近出した新商品が『スペシャルパフェ』だ。
巨大な金魚鉢のようなグラスに、コーンフレーク、スポンジ、果物のジュレやコーヒーゼリーが層をなし、生クリーム、カスタードクリーム、チョコレートソースがふんだんに使用され、トップにはプリンを中心にアイスやフルーツがてんこ盛り。とどめにチョコケーキ、ショートケーキ、チーズケーキが突き刺さる。パフェというスイーツの枠を超えた、まさに狂気と言える代物だ。
秀隆の言う通り、『ラ・ペディス』のような店には似つかわしくない、喫茶店のメニューというよりは『1日◯食限定! 90分以内に食べきったらタダ!』というキャッチコピーが似合いそうなそれは、噂によると娘と喧嘩した店主が狂気のあまりに開発したものだとかなんとか。
「しかもアレって結構な値段してただろ」
当然、その分お値段の方も目を見張るものがある。おおよそ高校生のお小遣いでおいそれと挑戦できるような物ではなかった。
そんな物を食べ切れるのか、と疑問を呈する秀隆に、リリアが熱弁を振るう。
「だってパフェですよ! しかもスペシャルですよ! 一度は食べてみたいに決まってるじゃないですか!」
「いや気持ちは分からんでもないが、それよりも食い切れるかどうかの方が心配で」
「大丈夫です!
「「「ん?」」」
頑張りましょう! と意気込むリリアに、一瞬3人の目が点になる。
「待てリリア。皆でってどういう意味だ?」
「え? だって『負けた方が奢る』ってことは、一緒にお店に行くんですよね?」
「まぁ、そうなるわね」
「だったら一緒に食べればいいじゃないですか。その方が絶対に楽しいですし」
「リリア……」
屈託のない笑顔で3人に微笑みかけるリリア。
スペシャルパフェは大食いメニューのようなだけでそうではない。1人で挑戦することもできるし。皆でシェアすることもできる。リリアは最初から皆でシェアすることを考えていたようだ。その純粋無垢な笑顔を目の当たりにして、3人は毒気の抜かれたような気分だ。
「クク……っ。そうだな。あんなバカでかいもん、1人2人じゃ食べ切れねぇわな」
「はい!」
「ホントねぇ……。――マクスウェル君が惚れるのも分かるわ」
「ちょっ!? 木下!? このタイミングでそれはないだろ!!」
トレイズは顔を真っ赤に抗議するが、説得力はない。
「じゃ、罰ゲームはソレってことで」
「罰ゲームになってるか分からないけどね」
「まぁ相手の分を支払うんだから一応罰ゲームだろ」
「頑張ります!」
一応賭けは成立、と言ったところで
『次の組、位置について――』
秀隆たちの出番――ではなく、その前の明久たちの番となった。
明久たちは各々屈伸したり腕を伸ばしたりして軽くストレッチした後、肩を組んでスタートの体勢を取る。
『やろうムッツリーニ。僕らがトップでゴールするんだ』
『…………(コクリ)』
『お願い木下』
『うむ。全力を尽くそうぞ』
『分かりました。美春も頑張ります』
「ん?」
「え?」
「あ!」
「おい待」
『位置について! 用意――』
パァンという乾いた音と共に明久たちが走り出す。
最初はリズムを合わせるために少しゆっくりと。徐々にペースを上げていき、やがてトップスピードに乗る。
二人三脚であることを忘れてしまうほどの疾走感と一体感。両組は何の問題も障害もなく、ゴールへと向かって一目散に走っていく。
それ故に明久たちは気づかなかった。美波の横に、秀吉とは反対側にもう一人いることに。
『あのチーム……。なんで三人四脚になってんだ……?』
美波が清水美春とも脚を縛られているということに。
『え!? あ、あれ!? 美春!? ちょっとアンタなにしてんのよ!』
「清水の野郎! やりやがったな!」
「まったく気づかなかったわ……」
「スタートの瞬間まではいなかったはずです」
「どっから湧いて出たんだ?」
当人たちどころか、話し込んでいたとはいえ後ろで見ていた秀隆たちにすら気取られることなく、清水は己の欲望を成就させていた。おそらくは邪魔してくるであろう秀隆に気づかれないために最後まで潜伏していた、といったところだろう。その努力をもっと別の方向にいかせないものか。
『ああ……。お姉様……。密着しても決して存在を感じさせない、その奥ゆかしいお胸がたまりません……』
『ドサクサに紛れてドコ触ってんのよ! この勝負は、ウチにとっては凄く大事なものなんだから!』
『何を言っているのですか! 美春はお姉様のためを思ってこそ、こんな行動に出ているのです!』
『これのドコがウチのためよ!』
「まぁ、邪魔するためだろうな」
「そうですね。美波ちゃんが勝っちゃうと、ですもんね」
美波と明久の賭けをしっている2人がため息を吐く。
『――ってちょっとぉぉぉっ!? アンタ今背中に手を回してホック外さなかった!?』
「と、トレイズ! ダメ! 見ちゃだめだから!」
「見てない! 俺は何も見てないです!」
リリアが全身ごと腕を伸ばしてトレイズの視界を遮ろうとする一方で。
『大丈夫です! お姉様なら固定しなくても何の邪魔にもなりませんから!』
「たしかに島田なら着けんでも変わらないと思うんだが、そこんとこどうなんだ?」
「秀隆〜? なーんでそれを私に聞くのかしら〜?」
「だってお前ら同じレベルだろ」
「いいわ。その喧嘩言い値で買い取ってあげるから覚悟しなさい!」
いつものように痴話喧嘩を始める2人もいた。
『ワシは、こんな時はどうすればいいのじゃ……?』
秀吉の呟きは、哀愁と共にかき消えていった。
結局、明久と美波の対決は明久たちがトップで美波たちが2着という結果で終わった。三人四脚(ただし邪魔者追加)で2位というのは、ある意味1位を取るよりも難しいので、美波は大健闘したと言えるだろう。生き生きと走り去る美春の笑顔だけがやけに印象に残りはしたが。
『では、次の組位置について――』
「んじゃ、やるだけやりますか」
「はい!」
「マクスウェル君。絶対に勝つわよ」
「分かってるさ」
そして秀隆たちの出番。4人とも軽くストレッチの後、肩をがっしりと組む。
「神崎君。頑張りましょう」
「おい秀隆。くっつきすぎだぞ!」
「いや二人三脚なんだからしたないだろ」
「マクスウェル君。肩が痛いから少し力を緩めてもらえる?」
『位置ついて! 用意――』
――パァン――
スタートピストルの乾いた音で各クラスの選手が一斉にスタートを切る。
まずスタートダッシュを決めたのはEクラスの男子2人組。次いで秀隆&リリア、トレイズ&優子と続く。
「くそっ! 出遅れた!」
「マクスウェル君落ち着いて! まだ挽回できるから!」
焦りからからトレイズと優子の呼吸が乱れる。リズムとペースが乱れて、秀隆たちとの差が徐々に離れていく。
「……とりあえず、勝負には勝ったな」
「はい……」
トレイズの空回りっぷりは、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。
「けど、どうせなら1位も取りてぇよなぁ」
目の前のEクラスコンビとの差も徐々に開き始めた。まだ間に合う。が、このままだと――。
「リリア。できる限り歩幅を長くして走ってくれ」
「え? でも」
「俺が合わせる」
「分かりました」
「よし。せーの、でいくぞ」
「はい!」
「「せーの!」」
リリアが縛られてる方の脚を可能な限り大きく踏み出す。秀隆はその歩幅に合わせると、着地させた脚を軸に大きく踏み込んだ。2人の身体が跳ねるように地面から浮く。
「わわっ!」
「悪ぃ。ちょっと我慢してくれ!」
「わ、分かりました!」
『おおーと! Fクラス! ここでペースを上げてきた! これは1位争いに食い込むかー?』
リリアが大きく踏み出した脚を、秀隆が蹴り上げる。少し強引なスライド走法だが、二歩三歩と進む度にリリアも慣れてきたのか少しずつスピードも上がっていく。
作戦が功を奏して、Eクラスとはほぼ横ばい。このままゴールまでもつれ込むと思ったが――
『あーっと! Aクラスも凄い追い上げだ! 一気にトップに並びんだー!』
「なっ!」
「えっ!?」
トレイズと優子の猛烈な追い上げ。2人は秀隆たちとは逆に、脚の回転数を上げて無理矢理に加速したのだ。
ゴール前の直線は、3組がもつれ込む混戦となった。
『さぁ! 1位でゴールするのはEクラスかAクラスか! はたまたFクラスが意地を見せるのか!』
「あああっ!」
「だぁああっ!」
「うぉおおっ!」
3組のペアが、ほぼ同時にゴールテープを切る。見た目の着順はほぼ同じ。少し審議に入るかと思われたが、
「ただいまの順位。1位Fクラス。2位Aクラス。3位Eクラスとする!」
主審役の西村教諭が順位を発表。秀隆たちは見事1位となったが、トレイズたちは残念ながら2位。最初のグダグダを考えれば、あそこから2位にまで登り詰めたのだから、十分に健闘したと言えるだろう。
「よっしゃ!」
「やりました!」
明久たちに続いてのFクラス1位。しかも今回は3クラスがもつれた接戦での勝利。EクラスのリードからFクラスが追いつき、Aクラスの意地の追い上げ。タイムも1〜3位まで3秒とはなれていない。応援している側も大興奮の白熱したレースだった。
「「ちょっと待ってください!」」
が、優子たちは異議を唱えた。ほぼ同着だったのだから、同率1位だと主張した。事情を知らなくても、その気持は分からないでもない。
「残念だが木下、マクスウェル。判定は覆らん」
「何でですか?」
「同時にゴールしたはずです」
「たしかにタイムはほぼ同じだ。しかし、先にゴールテープに
しかし、西村教諭は冷静に判定を変えることなく、後がつかえているからと優子たちを追い返そう手を振る。
「納得できません!」
「ちゃんと説明してください!」
「…………俺の口からはできん」
おや、と秀隆は違和感を覚えた。西村教諭の性格を考えれば、どんな理由であれ正当なものであればきちんと答えてくれるはずだ。
「鉄人のヤツ。なーんか隠してやがるな」
「そうですね。なんだから如何わしいお店の名刺が見つかったお父さんみたいです」
「どんな例えだよ……」
ツッコミを入れつつ、秀隆もそれには納得のいくものがあった。
歯切れの悪い言い方。気まずい雰囲気。視線どころか顔を少しそらしている。他の先生たちを見てみても、忙しく動いてはいるが、どこかぎこちなく浮足立っているようにも見える。
「ゴールテープに……触れた……?」
ゴールテープに触れたと言っていた。切ったではなく。混戦の中であったから表現としては間違っていない。
「そういや、陸上競技のゴール条件って……」
実は陸上競技には『ゴール判定』における明確なルールがある。勘違いしがちだが、ゴールラインを踏んでもゴール扱いにはならない。もっと言えば、頭、手、脚がゴールラインを越えてもゴールにならないのだ。身体の『ある部分』がフィニッシュライン(ゴール)のスタートライン側(手前)の縁に触れて初めてゴールと認められる。
加えて西村教諭はリリアの名を上げた。単純に考えれば秀隆の名前を言えばいいだけ。変なところで馬鹿正直な西村教諭の性格を考えるとーー
「――胸、か」
――パァン――
スタートピストルの乾いた音で次の組がスタートを切る。
「頬が! 頬が腫れ上がるどころか頬骨に響くくらい痛え!」
「だれが有るか無いかすら分からない絶壁ですってーっ!?」
「優子ちゃん言ってません! 流石に神崎君もそこまでは言ってません!」
「本当にそう思う?」
「…………」
「リリア! 頼むからそこで黙らないでくれ!」
とは言うものの、いつものように秀隆がセクハラをかましただけかと思ったが、西村教諭たちも微妙な表情だ。
「木下。残念なことだが、神崎の言ってるのは事実だ」
「先生まで!?」
「西村先生! それはセクハラですよ!?」
「違う違う! 勘違いするな! 陸上競技には『ゴール判定にはトルソーの通過』というルールがあってだな」
「トルソー、ということは――胸部、ですか?」
「そうだ。お前たちもトラック競技の選手たちがゴールで胸を張っているのを見たことがあるだろう?」
「「そういえば……」」
西村教諭はルールに則って公正に判定を出したと言う。それならば、優子たちはそれに従うしかないのだが、
「でもリリア。アナタそんな胸を突き出すようなことしてた?」
「いいえ?」
優子たちは陸上の選手ではないので、そんな事は意識してないとできやしない。どちらかと言えば、ゴールに頭から突っ込もうと前のめりになる。
「そう言えば……ゴール直前で誰かに背中を押されたような……」
「ゴール直前で? 誰に?」
「さぁ?」
と言いつつ視線はとある人物へ。徒競走ならともかく、二人三脚でリリアの背中を押すことができる人物など、1人しかいない。
「さて、秀隆」
「少し、お話しましょうか?」
Aクラスの2人組から向けられる、満面の笑みと殺意の
波動。周りが一歩も二歩も後ずさる2人を前にして、
「優子が絶壁で助かったぜ」
――パァン――
次の組は、全員が少しフライングした。
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