今回は体育祭編の召喚野球準決勝その1です。
そして――例の先輩が再登場します。
第百二十問
長引いていた3-E対3-Fの試合は結局勝負がつかず引き分け。これで2-Fの不戦勝が決まり、次はいよいよ準決勝となるのだが――
「秀隆、どうしたその顔」
「聞くな」
「いやでもな」
「聞くな」
両頬に立派な紅葉を拵えた秀隆に、雄二は原因を察しつつもツッコまずにはいられなかった。
「はぁ……。お前、また木下姉にちょっかい出したのか?」
「人聞きの悪いことを言うな。今回は濡れ衣だ」
「どうなんだリリア?」
「100%神崎君が悪いです」
雄二の問に、リリアも躊躇いなく即答する。何なら若干怒りも混じっている。
「だそうだが?」
「何でだよ! ちゃんと勝負に勝っただろ!」
「だからって、あんなこと言わなくてもいいじゃいですか!」
何なら、ではなく、リリアはかなりご立腹のようだ。
「お主、また何をやらかしたのじゃ?」
「だから別に」
「どうせまた絶壁弄りでもしたんだろ?」
「…………」
雄二の鋭い指摘に、秀隆はサッと顔を背けた。
「やっぱりな」
「まったくお主ときたら……」
「…………自業自得」
「サイッテーね」
「神崎君。それは酷いですよ」
全員が秀隆に非難の目を向ける。
「別に俺は弄ったわけじゃねぇ! ちゃんと陸上のルールに則って有利な状況を作っただけだ!」
「陸上のルール?」
「ゴールの判定です」
「ゴール判定? 二人三脚の?」
「それのドコに胸が関係しているんですか?」
「それは――」
秀隆はトラック競技におけるゴールの判定基準『トルソー』の説明をした。
「お前なぁ……」
「お主は
「…………因果応報」
「ホントにサイッテーね」
「神崎君。ありえないです」
「だから何でだよ!」
秀隆は理不尽だと訴えるが、雄二たちからしたら当然の仕打ちだ。
「だめだよ秀隆。そんな木下さんや美波に失礼な作戦をとぐべらぁっ!」
余計な口を滑らせた明久が宙を舞う。
「ウチが、なんですって?」
「な、なんでもないです……」
Fクラスの観察処分者コンビには、デリカシーというものが存在しないらしい。
「まぁ、いい。秀隆のバカは放っておくとして」
「おい」
「いよいよ次は準決勝なわけだが」
雄二は秀隆の抗議を完全無視して話を進める。
「相手は3-Aだ」
「3年生、ですか」
「たしか、常夏コンビがいるクラスよね?」
「それと、大友先輩ですね」
何の因果か、次の相手は3-A。ついこの間肝試しで対決したばかりだというのに、よほどFクラスと因縁があるとみえる。
「んむ? とすると、2-Aは負けたということじゃな?」
「負けたって、あの霧島さんがいるのに?」
2-A代表は瑞希を凌駕する成績を誇る霧島翔子。翔子なら、常夏コンビ程度なら3年生だろうが引けを取らないが、
「まぁ、大友もいるしな」
「そうだな。それに、姫路ほどではないにしろ、アイツも野球にはそれほど詳しくないからな」
「大友先輩の他に霧島レベルの生徒がいてもおかしくないからの」
「う〜ん。そう言われるとそんな気もする」
明久はまだ翔子たちが負けたという事実が信じられないようだ。
「ともかく、霧島たちが負けたんなら、こっちもちぃと気合い入れねぇとな」
「そうだね。得点できるチャンスも1、2回くらいしかないかもしれないだろうし」
「ま、ここでゴチャゴチャ考えても仕方ないだろ。さっさとグラウンドに行こうぜ」
「そうじゃな」
「…………会えば分かる」
考えようによっては、Fクラスの指揮は雄二が執るのだから、雄二の手の内を知り尽くした翔子率いる2-A相手の方が骨が折れるかもしれない。しかも2-Aには対秀隆特化の優子もいるのだ。そういった意味では、3-Aの方がまだやりようはある。
「ちなみに雄二」
「ん? なんだ明久?」
「2-Aが勝っていたらどうするつもりだったの?」
雄二のことだから2-Aが相手の場合の作戦も考えていたに違いない。
「久保と、できればトレイズも懐柔して実質11人対7人で勝負する予定だった」
実に雄二らしい外道戦法である。
「11人対7人、ねぇ…。そりゃ、それだけできりゃぁ楽に勝てるだろうな」
「というか、トレイズはともかく、久保君を懐柔は無理じゃない? あの久保君がそんな汚い行為に手を染めるわけがないじゃないか」
明久がそう言った瞬間、雄二たちが気まずそうに明久から顔を背ける。
「……そうか。そう思っていられるのなら、お前はそのままの方が幸せなのかもしれないな……」
「真実の久保はヨゴレた好意に身が染まりきっておるからの……」
「というか、久保が清水と同じ迷い神の時点で気づけよ……」
「…………知らぬが仏」
「え? なに? どうして久保君の話をすると皆慈愛に満ちた目で僕を見るの?」
まるで遠くに行ってしまう友人を見送るような目に、明久は怪訝そうな顔をする。
「して、雄二よ。この試合はどのような作戦で行くのじゃ?」
「ああ。正直、3-Aが相手とはいっても、久保や翔子がいる2-Aが負けるとは思っていなかったからな。殆ど作戦なんてないんだが――」
いくら3-Aと言えど要注意人物は大友ぐらいと思っていた雄二は対3-A用の作戦を思いついていなかったようだ。これでは流石の雄二といえど――
「――奴らの召喚獣を殺そうと思う」
正真正銘のクソ外道野郎である。
「既にスポーツマンシップという概念は消え失せておるようじゃな……」
「最低の作戦ね……」
「殺す……? アウトにするということですな?」
「たしかに、毎回三者凡退に抑えられたら勝てると思いますが……」
瑞希とリリアは雄二の作戦の意味が分かっていないようだ。
「分かった。乱闘で相手を再起不能にすればいいんだね?」
「…………誰を狙えばいい?」
「大友だけは押し付けんなよ」
「
秀吉と美波が信じられないものを見たかのような顔で明久たちを見やる。
「いや、別に乱闘じゃなくてもいい。奴らを殺す手段は直接攻撃以外にも色々とあるからな」
「そっか。タックルしたり、デッドボールを狙ったりもできるよね」
「…………振り切ったバットを相手に投げつけてもいい」
「ライナーを顔面に狙うのもありだな」
「ああ。理解が早くて何よりだ」
「お主らは真の外道じゃな!」
ちなみに、技術的にほぼ不可能な秀隆案以外は普通に反則なので良い子の皆は真似しないように。明久に至っては、1回戦で自分がされたことをもう忘れている始末だ。
「アンタらねぇ……。そんなことをして、相手から『卑怯だ!』って文句を言われても知らないわよ?」
美波が呆れながら明久たちにそう言ってきた。だが明久たちは、逆に美波に不敵に笑ってみせた。
「ふふっ。分かってないなぁ美波は」
「まったくだ。島田には俺たちのスポーツマンシップが全然伝わってないらしい」
「…………理解不足」
「仕方ねぇよ。女子には男子の矜持なんて理解できないだろうしな」
明久たち4人が方をすくめてみせる。
「な、なによアンタら? 何が言いたいのよ?」
戸惑う美波に、4人は諭すように一斉に告げる。
「「「「卑怯汚いは敗者の戯言」」」」
「アンタら最低過ぎるわっ!」
勝負の鉄則は、こちらのやりたい事を通すこと、相手のやりたい事をさせないことだ。なので今回の作戦は、かなり(斜め下方向に)理にかなっている。
「んむ? じゃが、向こうの召喚獣を行動不能にしたところで、こちらの勝ちになるわけではなかろう。そのあたりはどうするのじゃ?」
「そもそも、こっちの点数じゃ向こうにまともなダメージを与えられるかって問題だよな」
「相手は3年生だからな。持ち物検査が俺たち2年生にしか行われなかった以上、向こうの優勝に対するモチベーションはこっちほど高くはない」
「ま、そりゃそうだよね」
2年生は没収品の奪還という大義名分があるのでモチベーションは高いが、ただの学校行事として参加している3年生のモチベーションはそれほど高くない。むしろ低いといってもいいだろう。
「そのモチベーションの差を利用する」
「モチベーションの差を利用すると言われても……」
「ま、いいから見てろ。どうせ他に方法はないんだからな」
「んー。一応了解」
「…………了解」
「了ー解」
作戦についての具体的な説明はなかったが、これ以上ここに留まっていても仕方ないので、明久たちはグラウンドに移動した。
『……たまに、あんなヤツのどこが良いのか分からなくなるわ……』
『外道な手段を駆使して、求める物がエロ本じゃからな……』
『こ、今回がたまたま特別なだけ……だと思います』
『あ、あはは……』
――第二グラウンド――
「よう。来たかFクラスのバカども」
「今日こそは、先輩の恐ろしさを思い知らせてやるよ」
準決勝が行われる第二グラウンドで明久たちを待ち受けていたのは、3-Aの牛頭馬頭こと、坊主頭の夏川とソフトモヒカンの常村の常夏コンビ。2人は肝試しの時と変わらず、品のない笑みを明久たちに向けている。そして――
「ようやく来たか神崎。さぁ死合おうか」
「雄二。俺用事を思い出したから後は任せ」
「行かせるかバカ野郎」
同じくグラウンドで秀隆を待ち受けていたのは、西村教諭にも負けず劣らずの筋骨隆々の大男、大友だった。
大友の姿を見た瞬間に踵を返した秀隆の首根っこを雄二が掴む。
「離せ雄二! 俺はアイツの相手だけは嫌なんだ!」
「往生際の悪いことを言うな。お前が居る時点で大友が出てくるのは分かっていただろうが」
「そうだぞ神崎。諦めて受け入れろ」
「気色悪い言い方してんじゃねぇ!」
豪快に笑う大友。肝試しで秀隆と優子に敗北したというのに、相変わらずのご執心っぷりだった。
「だいたい、テメェみたいなヤツは来賓の相手してるのが相場だろうが!」
「何を言っている? 俺のような男が来賓の前に出せるわけないだろう」
「何でそこは客観視できるんだよテメェはっ!」
珍しく地団駄を踏みながら喚く秀隆。肝試し以来、秀隆は大友に苦手意識を持っていた。
「大友。時間がないから神崎弄りもその辺にしとけ」
「何を言う島津よ。俺たちにとっては挨拶みたいなものだ」
「テメェとそんな関係になった覚えはねぇ! つうかアンタもちゃんと大友の手綱握っとけよ!」
「っざけんな! そんな役目俺だってお断りだっての!」
秀隆と島津が大友を押し付けあっていると、
『君たち。言い争ってないで、早く試合の準備を進めなさい』
「「……サーセン」」
主審に怒られて、渋々2人がベンチに戻る。
「ガハハ。今回も面白くなりそうだな!」
大友だけが暢気に笑っていた。
『――ットライッ! バッターアウッ!』
主審のコールが響き渡り、一番打者の美波が戻ってくる。流石は3年生のAクラス。球速もコントロールも申し分ない。
「ごめん。あれはちょっと打てそうにないわ……」
「気にするな島田。点数差が点数差だ」
雄二が監督の様に美波に声をかける。
準決勝の1回の教科は化学。美波の得意科目でないというのもあるが、なにしろ相手は腐ってもAクラス。雄二の言う通り、点数差が天と地ほどもあるのだからそんなに簡単に打てるとは最初から思っていない。それに、雄二の作戦によると、大切なのは打撃ではなく、ラフプレーだ。
『
二番打者の須川が召喚獣を喚び出す。
ちなみに、今回の打順と守備位置は次のようになっている。
一番 サード 島田美波
二番 ショート 須川亮
三番 ピッチャー 吉井明久
四番 キャッチャー 坂本雄二
五番 ライト 近藤吉宗
六番 セカンド 土屋康太(ムッツリーニ)
七番 センター 神崎秀隆
八番 ファースト 福村幸平
九番 指名打者 リリアーヌ・シュトラウスキー
(レフト 横溝浩二)
ベンチ 木下秀吉
姫路瑞希
初回からラフプレーを続出させていたら、審判に警戒されてしまう。なので美波とリリアには普通に野球をするように、次の須川から福村までは様子を見つつやれそうならやるように、と雄二から指示が出ている。美波のプレイ態度でFクラスは大人しくしている、と向こうが油断してくていれば良いのだが――
Aクラス 夏川俊平 化学 224点
VS
Fクラス 須川亮 化学 59点
例によって3-Aのバッテリーは常夏コンビ。話によると、2-Aの時は別の生徒がバッテリーを組んていたそうなので、明らかに明久たちを意識したポジショニングだ。
ちなみに、大友はこれまで全試合4番指名打者、島津は3番センターらしい。こちらはある意味想像通りだ。
『59点か。こいつぁまた、随分と貧相な点数だな』
マウンド傍に立つ夏川がこちらの点数を見て愉しげに嗤う。相変わらず、人を見下す事に楽しみを覚える残念な性格のようだ。
一方の須川は、点数を揶揄されたことを特に気にした風もなく、召喚獣にゆっくりとバットを構えさせる。バカにされることに耐性があるのは、流石はFクラスのメンバー、といったことろか。
『けっ。言い返す勇気もねぇのか。腰抜め』
須川が無反応だったのが気に食わなかったのか、夏川は小馬鹿にしたように言い捨てると、召喚獣に投球フォームを取らせる。
振り被った腕に力を溜めて、一拍置いてからその力をボールに込めて投げ放つ。
『ットライッ』
瞬きする間に、ボールはキャッチャーである常村の召喚獣が構えたミットに吸い込まれていた。
「やっぱ速ぇな」
「流石は腐ってもAクラス、じゃな」
『どうした? ど真ん中だぜ?』
夏川がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらキャッチャーからの返球を受け取る。須川はそれにも反応することなく、静かにバットを構えていた。
『けっ。気構えだけはいっちょ前ってか?』
そんな須川の様子を見て、夏川はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、2球目を投げる。
『ストライク、ツー!』
2球目も見逃してストライクカウントが一つ進む。それでも焦らず、須川は相手の球を分析するようにジッと様子を見ている。
『お前で三振は2人目だな』
夏川が立て続けに3球目を振りかぶる。そして、さっきまでとまったく同じモーションで――さっきよりも数段遅い球が放たれた。
「っ!」
間を崩されたのか、須川はバットに一瞬力を込めるだけで棒立ちになってしまった。ボールはそのままストライクゾーンを通りキャッチャーミットの中へ。
『ットライ! バッターアウトッ!』
夏川の宣言通りの2者連続三振。これでFクラスはランナーなしの2アウト。Aクラス相手の初回とはいえ幸先が悪い。
「してやられたな」
「ああ。常夏コンビも、腐ってもAクラスってことだな」
速い球に目を慣れさせておいて遅い球で仕留める。野球経験者ならよくある投球だと思うだろうが、これは召喚獣。投球一つにしても、慣れない動きだと多少なりとも変化が表れる。
それを感じさせることなく緩急とコントロールだけで三振を勝ち取った夏川の実力は、悔しいが認めざるを得ない。
『おいおい。せっかく緩い球投げてやったんだから、ちゃんと打てよな?』
わざとFクラスを挑発するように言い放つ夏川。どうやらそうとうFクラスを見下したいらしい。
「あの野郎。さては肝試しに負けて体育祭の準備押し付けられたことを根に持っていやがるな」
「そのようじゃな」
「賭け自体は向こうから持ちかけて来たんだけどな」
「…………身勝手な」
常夏コンビからしたら、その賭けに負けた事自体に納得がいってのだろう。清涼祭で明久に変態のレッテルを貼られたり、秀隆に瞬殺された恨みも積み重なって、叩き潰したい虫けら認定されているようだ。
「須川君、どうだった?」
2-Fのベンチ戻る須川とすれ違う時に明久が小声で尋ねる。ラフプレーが主体とは言え、攻略の糸口があるに越したことはない。
「ダメだ。全然見つからない」
「そっか」
だが、須川は残念そうに
「どこを探しても、この前のエロい着物の先輩が見当つからない……」
見当違いだっようだ。
「なるほど。それはありがたい情報だよ」
しかし、明久にとってはそれは僥倖。肝試しの時に着物姿で現れた3-Aの女子生徒、小暮葵はその魅力で男女生徒の殆どを(鼻)血の海に沈めた実力者。もし小暮が体育着姿で野球に参加していたら、今頃明久も彼らの二の舞になっていただろう。
『テメェで3つ目の三振だな、吉井明久』
明久がこれで試(死)合に集中できるとホッとしたのも束の間。夏川が底意地の悪い顔を隠そうともせずに明久に告げる。
Aクラス 夏川俊平 化学 224点
VS
Fクラス 吉井明久 化学 57点
点数は先ほどの須川と大差無し。だが、明久たちの作戦は、ここからが本番だ。
ご感想などお待ちしております。
バカ凶を読んでくだりありがとうございます。
なんやかんやで通算150話までこれました。これからもまだまだ頑張って書いていくのでお付き合いのほどよろしくお願いします。
サブタイトルは?
-
欲しい
-
あったら嬉しい
-
なくてもいい
-
いらない